新居のお知らせ葉書&SS



  『お近くにお越しの際は
   遠慮しつつ程々に
   ぜひお立ち寄りください』




 まだ吐く息こそ白くならないけど、もう冬が近付いてきたんだなってこんな朝はしみじみと思う。急いでポストから新聞を引っ張り出すと、そこから零れた一枚の葉書が、地面の落ち葉の上に重なった。

「おー、来た来たってばよ」

 うずまきナルト・ヒナタの連名宛ての葉書を裏返すと、カカシ先生とイルカ先生の笑顔が目に飛び込んできた。そういえばこないだ執務室でイルカ先生に偶然会った時、新居のお知らせ葉書をお前たちにも送っとくからなって言われたんだったよな。
 二人仲良く笑顔で並んで……いや、カカシ先生は明らかに目が笑ってねぇ。こんな独占欲丸出しの顔のを、イルカ先生もよくお知らせ葉書に使ったな。もう見慣れちゃって分かんねぇのかもなぁ。しかもカカシ先生の顔んとこ、すっげー変なチャクラ感じるってば。こりゃ幻術か? 相変わらず顔隠してるけど、もしかしたらこの写真は素顔で写ってんのか⁉ くそ、ムダにジョーニンパワー使いやがって。
 イルカ先生は「カカシさんはすっごいイケメンだぞ」なんてこっそり教えてくれたけど、惚れた欲目ってのがあるかんな。自分で見てみなきゃ信じられねぇってばよ。
 お揃いのエプロンにお揃いのミトン、これは確か昔バレンタインに、イルカ先生ん家で一緒にカップケーキを作った時に見たやつだ。
 でも両手に持ってるのはカップケーキじゃなく、鍋。

「あー、……」

 はは、って乾いた笑いが出ちまったけど、しょうがねぇよな。なんでよりによってこの写真にしたんだろ。いくら親しい友人向けっていってもさぁ……カカシ先生も止めてやれよ。
 大きな土鍋から飛び出してるのは、二尾のサンマ。しかも切り身とかじゃなく、尾頭付きの立派なサンマだ。それと茄子。これも丸ごとドーンと浮いている。
 これはイルカ先生の得意料理の一つで、その名もなんと
『サンマ茄子ラーメン鍋』
 まんまだ。
 カカシ先生もだけど、イルカ先生もネーミングセンスねぇからな……それにラーメンばっか食ってる俺が言うのも何だけど、相当シュールなビジュアルだ。
 何より一番怖いのが、こんなんでもうまいんだよなぁ。マジで木の葉の七不思議に入れてもいいんじゃねぇかと思う。
 俺がガキの頃は、普通のラーメン鍋だったんだけどな。いつの間にかサンマが投入され、茄子が浮くようになってた。今思うと、あの頃から付き合い出したんだろうな……。
 それにしても、ホンっトに露骨だってばよ。これじゃ新居のお知らせっつーか、ヤバいもん食わせるぞって犯行予告じゃんか。
 この鍋はおおかたケンセーってやつだろ。こんなゲテモノっぽい鍋が出てくる家に、わざわざ遊びに行こうなんて思う物好きもいねぇもんな。どうせカカシ先生が「親しい友人向けのお知らせ葉書はアットホームな感じがいいよね。あ、じゃあ、あのお鍋の写真を使おっか! 先生の得意料理の」とか何とか、さりげなく誘導して言いくるめたんだろ。
 ……ハァー、目に見えるようだってば。
 カカシティーチャーはイルカ先生に関してはすっげー心狭ぇからなぁ。
 よっしゃ、カカシ先生がそのつもりなら、俺にも考えがあるってばよ。ヒナタ連れて一番乗りしてやるからな、サンマと茄子洗って待ってろよ!



 先生たちの新居に突撃……遊びに行ってから数日後、ヒナタがあのサンマ茄子ラーメン鍋の作り方を教わりに行ったって聞いて、めちゃめちゃビックリした。
 なんでそんな事をって聞いたら、「だってあのお鍋はナルト君のおふくろの味でしょう?」って。
 いやそうだけど、違うんだってばよ!
 あれはおふくろの味っていうか、むしろイルカ先生のダンナのための味だよな。カカシ先生のために、二人の好きなもんをミックスした夫婦鍋だ。
 ――そう、夫婦鍋だ。
 あれは先生たち夫婦の味なんだから、ヒナタは覚える必要はねぇんだよな。うちはうちで、俺たちの夫婦鍋をこれから作ってけばいいんだから。
 こないだ遊びに行った時の四人の写真は、新居のお知らせ葉書の隣に貼っとこう。ここに俺とヒナタの子供も増えるといいよな。家族が増えて、それぞれの好きな食いもんも増えて。うずまき家の鍋がバッチリ決まったら、今度は二人に食ってもらおう。
 それにしても、センセーたちが夫婦かぁ。
 昔は見上げてばっかで大人って感じだったけど、今じゃ俺の方がデカいもんな。まさか二人が付き合って結婚まですると思ってなかったけどさ、こうして見るとピッタリお似合いだよな。
 だけど俺とヒナタの方が夫婦としては先輩だってばよ! 夫婦ゲンカした時はうちに来ればいいんじゃねぇかな。ほら、「実家に帰らせていただきます!」ってやつ。
 ……待てよ、俺が帰る実家って、もしかしなくてもここか? センセーたちの家か⁉ 
 うわぁ、カカシ先生に「新婚家庭の邪魔するなんて、いい度胸だぁね」ってソッコー追い返されそうだってばよ。泊まるのはダメって葉書にもしっかり書いてるもんな。
 でもでもイルカ先生ってば俺の父親代わりだもんね! いつでも来いよって、ちゃんと葉書にも書いてあるし、だから先生たちの家が俺の実家だ! センセーたちの方が付き合い歴は長そうだから、今度ケンカした時の仲直りの方法も聞いとこう。ヒナタと夫婦ゲンカなんかしねぇけど一応な!
 へへっ、何かいいなぁ、こういうの。いつかイルカ先生も、カカシ先生の事グチったりしてくれんのかな。たぶん、何が原因でも結局はノロケを聞かされそうだけどさ。二人ともすっげーラブラブだもんな!


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