【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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「俺はお前が一番怖いよ。…この世の誰よりも」

まだ下忍の頃、俺はカカシ先生にそう言われたことがある。
俺が目の前にいるのに、俺を通り越してどこか遠く……ずっと先を見てるような眼で。
その時は意味がよく分からなかった。
ただぼんやりと、俺の腹ん中のモノの事を言ってるのかなと。
そう思っただけで聞き流してしまった。

あの時。
もっと深くその意味を考えてたら。
あるいは、カカシ先生にそれを問い質してたら。
そしたら俺は―――






大戦が終わり、里の復興もだいぶ進んだある日。
カカシとイルカ、そしてナルトが五代目の執務室へ揃って呼び出された。

「お前達に、砂へこの書簡を運んでもらいたい」
「私も?…このメンツで、ですか?」

真っ先にイルカが驚きの声を上げた。
ナルトとそのアカデミー時代の恩師と元上忍師。
ナルトとカカシならいざ知らず、元戦忍とはいえ教師でもあり歴代火影にも近しく、木の葉の重要人物や情報の宝庫であるイルカは、他国への流出は絶対に避けるべきとされていた。
そんなイルカを入れるのは、通常ではまず有り得ないスリーマンセルだ。
他の二人の実力と、大戦後まもなくの戦乱と平和の狭間のような今だからこそ、可能になった編成だった。

五代目に言わせると、この任務はカカシの六代目就任前の、砂への内々な顔見せも兼ねているそうだ。
砂との新たな条約締結の巻物をカカシに持たせることで、木の葉が砂との提携を重要視してることもアピールできる。
そしてイルカは、三代目時代からの外交や政治的な人脈を買われての、スムーズな顔見せの繋ぎ役として。
ナルトは砂影への配慮というか、大戦の功労と息抜きも兼ねて、我愛羅と友好を深めてこいとの五代目のお達しだった。

穿った見方をすれば、大戦の最大の功労者を遣わせることで、今後の政治的パワーバランスを保つための枷の役目を秘かに背負わせてるとも言えるだろう。
…ナルトにはそんな意識は全くないだろうが。

「それじゃあ頼んだよ。あちらさんには、くれぐれもよろしくな」
「はっ。うみのイルカ、謹んで拝命致します」

イルカに続いて他の二人も任務拝命の印を組む。
そして異例なスリーマンセルの、重要書簡運搬任務が遂行されることとなった。



カカシを隊長とするセルが大門を出発した日の黄昏時。
砂まではこのメンツでも一日ではとても辿り着けない。
特にイルカが、中忍では伝令になれるほどの俊足だったとしても、足を引っ張っている事には変わりはなかった。
だが急を要する任務なら、そもそもイルカを編成に組み込まない。
この任務は、日頃多忙を極める三人への、五代目の慰労の意もあるのだろう。

「…今日はこの辺にしとくか」

カカシの一声で他の二人も足を止める。
砂への道を外れて森の浅い場所で荷を下ろすと、野営の準備を始めた。
この一帯は比較的安全なので、火を使って簡単な調理をすることもできる。
するとイルカが、自分が三年かけて開発した、ラーメン味の固形調味料を使って雑炊を作りますよとニッカリ笑った。
久しぶりの里外任務で嬉しいのか、声も心なしか弾んでいる。

「そうするともうちょっと薪が要りますね。俺探してきますよ」

イルカがしょんべんついでにと、薪になる枯れ枝の追加を探しに行った。



「カカシ先生はさ、嫁さんをもらう気はないのか?」

イルカの姿が見えなくなった途端、火を熾し終わったナルトが尋ねてきた。
嫁さんという古風な言い方にイルカの影響を感じて、カカシは微笑む。
里の上役や上忍仲間ならかわし方も色々あるが、ナルトにその必要はないだろう。

「そーね、今のところはね」
「でもさ、カカシ先生が六代目になったらさ、嫁さん貰わないとダメなんだろ?」

…まったく、誰が吹き込んだんだか。
カカシはため息をついた。
だが内々とはいえ次期火影の伴侶のことだ。誰もが噂をしてるに違いない。
恩師に似て今は友人・知人の多いナルトのことだ。あちこちでその話も耳にしてるのだろう。

「ん~、ま、いずれはね。里長の義務とか言われることもあるし」

するとじっとカカシを窺うように見ていたナルトが、突然追い立てられるようにカカシに食ってかかった。

「じゃあイルカセンセーの事はどうすんだってばよ!里のためだからって捨てるのか?!」

カカシが眠たげな両目を見開いた。
それから目許を和らげ、ふふと含み笑いをする。

「…だよねぇ。お前は意外と人の機微に敏いから、たぶん気付いてると思ってたよ。それなのにイルカ先生は恥ずかしいから言えないなんて言って…」

そして真剣な面持ちのナルトからふいと目線を逸らすと、焚き火の方を見つめて話し出した。

「お前さ、…自来也先生が亡くなった時のこと、覚えてるか」

忘れるはずがない。
あの時はホントにもうムリだって思ったけど、シカマルが喝を入れてくれたおかげで立ち上がることができた。

「師や仲間を亡くすというのは、想像以上にくるもんなんだ。だからあの時、イルカは全ての時間をお前のために使おうと決めていた。だがお前は一人で…まぁ、仲間の力があってこそだけど、立ち直ったからな。だから結局イルカは必要なかった」

いつの間にか、イルカ先生呼びだったものがイルカ、と呼び捨てになっていた。

「それからネジの時も。……もちろん、サスケの時も」

パチ、パチと焚き火にくべた枯れ枝がはぜる。
イルカの事を聞いたのに、突然自分の話を始められたナルトは面食らったが。
その話が自分とイルカの関係性に、今まで知らなかったイルカの自分への想いにある事を感じ、黙りこくる。


俺は……イルカ先生から向けられた静かな決意に、全然気が付かなかった。
いつも自分の気持ちだけに精一杯で、そんな俺を見守ってくれるイルカ先生の事にまで、気持ちを振り向ける余裕はなかった。

今、俺は強くなった。すっげぇ強く。
でも、忍としての力は付けても、精神的には子供のままだ。
イルカ先生の差しのべてくれる見えない大きな腕に守られて、その中で「なぁなぁセンセー、俺ってば強くなったんだぜ!」と粋がってる子供のままだ。


ナルトは歯を食いしばり、拳をぐっと握りしめた。
カカシはその様子に気付いてるのかいないのか、低く言葉を続ける。

「…あの人はお前に何かある度に激しく動揺する。そしてその度に全身全霊でお前を護ろうとする。だけど俺は…それを止めることも変えることもできない。絶対に」

―――俺にとって、イルカの全てが、俺の全てだから。



ナルトの熾した焚き火の焔が、カカシの眼に映る。
( だからこんなに紅いんだ )
ナルトは思った。
そうじゃないと、カカシの眼が紅く見えるはずがない。
もうその左目に写輪眼はないのだから。



「ま、俺はあの人を幸せにするからね。結婚という形を取れるかはまだ分からないけど、それだけはお前に約束するよ。…だからお前はお前で、幸せになりなさいよ」

カカシの声のトーンが変わる。
大人が子供に優しく教え諭すように。子供がねだる誕生日プレゼントを、必ずあげると指切りするように。
だがナルトは、そこに込められた言外の意も汲み取っていた。

 …もうイルカに心配をかけないように。
 イルカの心をナルトで埋め尽くすことが、
 決してないように。

カカシの言葉は、ナルトには忠告にも祈りにも聞こえた。
誰もが今の関係を壊すことがないよう。
誰もがお互いを、この上なく大切に思っているのだから。

「分かってるってばよ」

ナルトはカカシの言葉を聞き、安堵と共に返事をした。
が。




………ホントに?
ナルトは膝を抱え込み自問した。

もし。
もしも本当に今の関係が崩れたらどうなる?
そんなの今まで考えたこともなかったけども。

イルカ先生が俺のそばにいることを選んだとして、その先は?
カカシ先生は何を思い、どんな道を選ぶんだ?

そんで、俺は。
イルカ先生を。
同じ男のカカシ先生を愛せた、イルカ先生を。
………俺、は……イルカ先生、を……?

俺ってば、ホントにそれを分かってんのか?



不意に、ナルトは全身の血管の中を冷水が巡ったような感覚を味わった。
或いは、沸騰した血液が巡ったかのような感覚を。

これ以上は考えちゃダメだ。
ナルトの奥に潜む、原始的な本能がその先の思考をシャットダウンする。
そしてその部分は同時に、イルカの近付いてくる気配をも嗅ぎ取った。
ナルトはそちらに顔を振り向ける。
カカシよりもほんの一瞬だけ、先に。

「イルカセンセー、遅いってばよ!」
「悪い悪い、コケモモ見付けちまったんだ。お前このジャム好きだったろ?今から雑炊を作るから、これ食って待ってろ」

イルカが手拭いに包まれたコケモモをぽいと投げてくる。
ナルトはそれを膝の上で広げると、つやつやとしたルビーのような小さな実を片手でひとつかみ口に放り込んだ。

「うわッ、すっぺぇ~!なんだこれ、全然甘くねぇじゃんかよ!」
「ははっ!ジャムは大量の砂糖を入れるからなぁ。でも大事なビタミン源だからな。本来は寒冷地に生えるんだが、こういう岩場でもたまに見つかるんだ。ちゃんと覚えとけよ」

コケモモはリンゴンベリーといって、森の中の日陰に生えてるんだ。低い木で群生してるからわりと見つけやすいぞ。ナルト、群生って分かるか―――

雑炊の支度をてきぱきと進めながら、イルカの即席の食糧調達講義は続く。
ナルトはそれを聞き流しながら、今度は数粒のコケモモを口に入れた。

コケモモはまだ少し完熟には早く、かなり強い酸味が口の中に広がる。
その未熟な果実の酸味を味わいながら、ナルトは意識の深い所で蠢く想いを、そっと閉じた。




これ以上は考えちゃダメだ。


――――今は、まだ。



【完】
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