【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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イルカはスケアと二人、泉の畔を歩いていた。
ふと気付くと着替えを済ませた状態でソファーに横たわっていたイルカに、スケアが「泉に散歩に行こう」と誘ったのだ。
道々話してくれたことによると、イルカが倒れていたという泉は『忘却の泉』と呼ばれ、スケアのお気に入りの場所なのだという。
今日のスケアはワインレッドのシャツにピンストライプのダークブラウンのパンツ、黒のブーツという出で立ちで、頭の角と目の上下を彩る紫さえなければモデルのようだった。
同じように人間の服を着た自分と並んで歩いていると、ここが人間界と錯覚してしまいそうだが。
暴れる鳥を抱えて脇を駆け抜けていく尖った耳に尻尾と牙の生えた小悪魔や、「おやスケア様、ご散策ですか。いってらっしゃいませ」と枝を差しかけて恭しく話しかけてくる木々がそれを不可能にしていた。
「ほら、ここにイルカが倒れていたんだよ」
スケアが指差したのは一際緑の深い場所で、細い道が泉の畔に沿って延びている。
この辺りまでくると人通りもなく、木洩れ日が水面に反射してきらきらと音を立てるかのような穏やかな雰囲気は、とても魔界とは思えなかった。泉の水は澄んでいて底まで見通せそうなほどで、イルカは畔に膝を突いて覗きこんでみた。
そこでイルカは初めて、水面に写った自分の新たな顔を見た。
鼻筋を一直線に横切る傷はまだ赤黒く、痛々しい。だが不思議と痛みはなく、そっと触れてもかさぶたが盛り上がってる感触もない。
その理由を問いかけようと振り返ると、スケアはいつの間にか隣にしゃがみこんでいた。
「似合うよ」
優しく微笑まれ、髪をかきあげられると何も言えなくなって、イルカは熱くなる頬を隠すように俯いた。
水面に写る自分の顔の向こう側には、見たこともない魚に混じり小さな人魚のような生き物がすいすいと泳いでいる。思わずイルカが手を伸ばすと、腕を柔らかく掴むスケアの手に止められた。
「ダメだよイルカ、忘却の泉って言ったでしょ? ここは忘れたいことがある者が引き寄せられて、水に触れると記憶ごと泉の魔物に捕らえられ沈められてしまうんだ。たまにイルカみたいに吐き出される者もいるけどね」
「じゃあ俺も人間界からこの泉に引き寄せられたのか?」
「う~ん、イルカが何を望んでたかにもよるけど、たぶんそうだろうね」
忘れたいこと。
イルカはじっと水面を見つめた。
――ミズキ。
子供の頃に両親を亡くしてからずっとミズキの家に引き取られ、家族のように過ごしてきた。
似てない双子みたいだと友達にもからかわれ、それが嬉しかった。
なのに高校の時に突然好きだ、お前もなんだろと言われ無理やり抱かれそうになって拒絶してから、逃げるようにバイト先の引越会社の寮に転がり込み、一人暮らしを始めて。
それきり連絡は一切絶っていたのだが、大学に入って一年近く経った昨日の夜。久しぶりに会いたいと言うからミズキも頭が冷えてまた元通りになれるかもしれないなんて、のこのこ出向いてしまった。
そこはマンションの一室で、知らない男たちが卑しい笑みを一様に浮かべて立っていた。
その奥のベッドに座ったミズキはニヤニヤとひきつった笑顔で、俺に向かって「借りを返してもらうぜ」と言い放った。
俺は、売られたんだ。
ミズキに。
あの男たちの会話を拾ったところによると、たぶん……怪しいクスリの借金のカタに。
ミズキは言っていた。
散々優しくしてやったのに、恩を仇で返しやがってと。
お前が寂しがるから抱いてやろうとしたのにカマトトぶりやがって、どうせ優しくしてくれるなら誰でもいいんだろうと。
それなら俺たちみんなで優しくしてやると。
その後は部屋中を逃げ回って、運良く手にした殺虫スプレーを撒き散らしてなんとか逃げ出せたけど。夢中で逃げ回るどこかで高い所から落ちたような気もする。
そこに背中を斬り割るように追いかけてきたミズキの言葉……。
「お前だって同じだイルカ! 俺と同じで自分を満たしてくれるもんなら何でも、誰でもいいんだよ!」
悲鳴のような高笑い。
泣き叫ぶような、追いつめられた小動物の断末魔のような。
俺は。
俺は違うと言いたかったのに言えなかった。
俺は――
家族同様に思ってたミズキを、クスリなんかに逃げるほど辛い思いをしていたミズキを簡単に見捨てて、
俺は――
「イルカ!」
スケアの鋭い声で我に返ると、イルカはほとんど水面に顔を突っ込まんばかりにして泉を覗いていた。
スケアはぐいと肩を抱き寄せ、髪を撫でながら宥めるように囁く。
「泉に魅入られちゃダメだよイルカ。キミはもう僕のものだからね。イルカのものは全部……忘れたい記憶だって僕のものなんだよ」
優しい囁きは心にするりと入り込み、イルカは滑らかなシャツの胸に頭を預けた。髪を、背を撫でるスケアの手があまりにも気持ちよくて目を閉じる。
こんなに優しくされる価値は自分にはないと思いながらも、柔らかい許容に包まれる誘惑から逃れられなかった。
――自分を満たしてくれるもんなら何でも、誰でもいいんだよ!
不意に甦ったミズキの捨て台詞に、イルカは弾かれたように身を離した。
「どうしたの、イルカ?」
小さい驚きを含んだ優しい目が、イルカを見つめている。
甘ったれな部分さえ赦し、何もかも自分のものと言い切ってイルカを受け入れる魔物が、優しく見つめている。
「スケアはなんで……俺なんかを?」
「なんでって、好きだからに決まってるじゃない」
「こんな……優しくしてくれるなら誰でもいいような奴を?」
イルカの顔が自虐的な笑みに歪む。
するとスケアはにこりと微笑み、イルカの言葉を笑い飛ばした。
「イルカがどんな奴かなんてどうでもいいよ。イルカが自分を嫌いでも、僕はイルカが好き。それにね……」
スケアの笑みが鋭いものへと変わる。
「イルカがどんな奴だろうと、イルカは僕のものだよ。誰に優しくされようとも、それを忘れないで」
イルカの顔の傷がつきりと痛んだ。
スケアの右目の紅が、一段と深く暗くなったように見える。
イルカが思わず鼻に手を伸ばすと、スケアがその手を取って自分の唇に当てた。
「僕の気持ちが信じられないなら構わないよ……今はね。そう思う方が気楽なんだったら、僕はイルカの精が必要だから優しくしてるんだって思えばいい。僕の存在の源なんだから」
ね? と指先に口付けられ、ちらりと舌先で舐められると、イルカはびくりと揺れた。
そういえばスケアはそういう魔物だったのを忘れていたと記憶を探る。
「イン……インク……」
「インキュバス。僕の気持ちが信じられなくても、魔物としての性質なら信じられるでしょ? ねぇ、僕にイルカの精をちょうだい?」
魔物の性質として自分を必要としてるなら、対価として優しさに甘えてもいいのかもしれない……
弱った心は、スケアの差し出した交換条件にすがりついた。
その提示された交換条件すらスケアの優しさだと頭の片隅では分かっていても、今のイルカにはね除ける強さは残っていなかった。
イルカはためらいながらも、操られるようにこくりと頷いた。
スケアの長い舌がイルカの舌を絡めとり、上顎を探索するように動き回る。
そんな所でもじりじりと灼けるような気持ち良さが沸き上がってきて、イルカは無意識に胸を押し返してしまった。だがスケアはその反発にびくともせずに、後頭部を片手で支えて口腔を自由に貪った。溢れる唾液が口の端から首筋に伝うと、舌と唇でそれを辿っていく。
イルカは朦朧とした意識の中で、ミズキに言われたことを思っていた。
誰でも良かったなら、なんでミズキじゃダメだったんだろうと。
救命措置や交換条件とはいえ、こんなにも容易くスケアに身を任せているのに。
あの時ミズキに応えていたなら、あんな結果にはならなかったんじゃないかと。
すると股間に感じたことのないビリッとした感触があって、イルカは身体を跳ねさせた。驚いて見るといつの間にかスケアがイルカのズボンを下げていて、下着の上から性器に沿って爪を立ててなぞっていた。
「他のことを考えるなんて余裕だね、イルカ。もっと集中してもらえるようにしなきゃねぇ?」
にんまりと笑みを形作った唇が開き、下着を下ろして剥き出しになったモノをぱくりと咥える。
まだ柔らかさの残るそれを根元まで含み、舌をぐねぐねと動かして夕べ強制的に目覚めさせられた奥底の快楽を誘い出した。
スケアの長い舌はさらに伸び、根元からその下の膨らみをねぶってその奥へ、固く凝ってきた会陰へと舌先をちろちろと這わせた。
常人では有り得ない愛撫にイルカはすぐに昇りつめ、腿を震わせて情けを乞う。
「ひ、あ! も、イく……ぅんっ」
スケアの答えは強く吸い上げることだった。
イルカは無意識のうちにスケアの名を呼びながら、口内に精を放った。
それを喉を鳴らして飲み込むと、スケアはまだ震える性器を扱いて余すところなく舐めとり、吸い上げた。
そして顔を上げると満足げな、それでいて蠱惑的な笑みを浮かべてイルカを見つめる。
「ねぇ、イルカが僕のものなら、このまま抱いてもいい?」
その声にイルカはぎゅっと閉じていた目を見開いた。
「……え、だって昨日の夜も」
「昨日はイルカの中には入ってないよ? 魔染めをできるのはカカシだけだからね。ホントは僕もイルカが欲しかったんだけど……」
ねぇ、いいでしょ?
と甘く問いかけられ、くたりとした性器を指で弄ばれると、イルカの唇から熱い息が漏れる。
それを承諾と受け取ったスケアは、緩く投げ出されたイルカの脚の間の奥に潜む淑やかな窄まりに手を伸ばした。
スケアが睦言を囁きながら身体を開き、ゆるり ゆるりとイルカを揺らす。
それはセックスというよりは、むずがる子供をあやすようで。
折り畳まれた身体の下の青草がニットに擦れ、まるで夏みたいな匂いがイルカを包む。
それとスケアの匂い。
しがみつく首筋から匂い立つスケアの甘い雄の体臭の方が、自分の内側に受け入れたスケアよりも強く、生々しく彼の欲望を感じさせた。
お互いほとんど脱いでおらず、はだけた腹の間に挟まれたイルカの性器と、ズボンと下着の片足を抜かれた左足だけが外気に触れている。その腿はスケアの腕に大切に抱かれるように持たれていて、不意にイルカは自分の左足に嫉妬した。
――スケアに対する自分の気持ちすら、未だよく分からないのに。
催淫作用は気持ちにも働きかけるんだろうかと、快楽の片隅に残った理性が疑問を投げかける。
身体に引きずられ心までどんどんスケアに連れ去られていくようで、イルカは不安と混乱を誤魔化すために左足でスケアの腰を引き寄せ、自分の腰を擦り付けて快楽に自ら溺れていった。
ピチャン ピチャンという水音にイルカが意識を戻すと、スケアが泉の水にハンカチを浸して持ってくるところだった。
連日の身体への負担を気遣ったのか、スケアとの交わりは緩やかなものだったが、それでもイルカを疲れさせたようだ。怠い身体を起こそうとすると手で制され、濡らしたハンカチを使って優しい手付きで清めてくれた。
「……あれ、スケアは泉の水に触って平気なのか?」
あの泉は忘却の泉ではなかったのか。
効果は人間にしかないのかと訝っていると、スケアが苦笑した。
「ああ、僕は水の属性だからね。泉の魔物程度なら僕には効かないんだ。魔力とは理の異なる呪いの類いじゃないなら、水系統のはだいたい大丈夫」
そう言ってまたハンカチを泉で洗って固く絞ると、イルカが寄り掛かっていた木の枝にかけた。
そしてイルカの傍らにしゃがみこむと、「無理させてごめんね、これじゃ城まで歩けなさそうだよね。またクロを呼ぼうか」と指の背で頬を撫でる。そのひやりとした感触が火照った頬に気持ちよくて、イルカはクロが何かと問うこともなく無意識に頬をすり寄せていた。
甘やかされることにじわじわと浸食されているのに、止められない。
そんなイルカを愛しげに見下ろすと、スケアは反対側の手で指笛を鳴らした。
ピィーッと響いた甲高い音にイルカが驚くと、スケアは「まぁ見てて」と空を指す。
「イルカは意識がなかったけど、昨日もクロに乗せてもらって城に帰ったんだよ」
「クロ?」
「僕の使い魔の烏だよ」
イルカが見上げると、バサリと大きな羽音がして白く巨大な鳥が舞い降りてきた。
「クロって……白い烏?!」
イルカの呼ぶ声に反応したのか、翼を畳んだクロがその赤い眼でチラリと視線を投げ、一声高く鳴いた。
動物好きなのに飼うこともままならなかったイルカは、乗用車よりも大きな烏に驚くより嬉しくなって、近寄ると首の辺りに恐る恐る手を伸ばした。「クロっていうのか? 俺はイルカっていうんだ。よろしくな」としっとりと滑らかな首筋を撫でると、クロが目を細めてグルグルと低く鳴き始めた。
「へぇ、イルカは気に入られたみたいだよ。気難しい子なのに」
「へへ、そっか! 可愛いなぁクロ!」
思わずイルカが抱き付くと、クロが嘴を擦り寄せてきた。
するとスケアがムッとした顔で「はい、そこまで」とイルカを引き剥がし、自分の方に抱え込む。
「僕以外にそんな抱き付いたらダメだよ。さぁ、そろそろ帰ろう」
「僕以外って、クロは烏だろ?」
大人だと思っていたスケアの子供みたいな独占欲を目の当たりにして、イルカは呆れてしまった。
そのギャップに笑いを噛み殺してると、肩を震わせたイルカに気付いたスケアが「……何よ、イヤなんだからしょうがないでしょ」と口を尖らせる。
たまらず吹き出すと、いきなりスケアがイルカを抱きかかえたままクロの背に飛び乗った。
「うひゃあっ!」
「ははは! イルカ変な顔~!」
「なんだよ、びっくりしたんだよ! スケアって意外と変なヤツなんだな。白い烏にクロって名付けるし」
「ええっ、失礼しちゃうなぁ。言っとくけどクロって付けたのはカカシだよ? それにさっきのイルカの方が変だったよ!」
二人で笑いの収まらないままに、スケアはハーネスを掴むとイルカをしっかりと抱き直した。
「ちゃんと掴まっててね。じゃあクロ、お願い」
クロがまた一声鳴くと、翼を羽ばたかせる。
「うおーーースゲェーーー……!」
イルカのはしゃぐ声と共にクロは高く舞い上がり、真っ直ぐ城を目指して飛んでいった。
ふと気付くと着替えを済ませた状態でソファーに横たわっていたイルカに、スケアが「泉に散歩に行こう」と誘ったのだ。
道々話してくれたことによると、イルカが倒れていたという泉は『忘却の泉』と呼ばれ、スケアのお気に入りの場所なのだという。
今日のスケアはワインレッドのシャツにピンストライプのダークブラウンのパンツ、黒のブーツという出で立ちで、頭の角と目の上下を彩る紫さえなければモデルのようだった。
同じように人間の服を着た自分と並んで歩いていると、ここが人間界と錯覚してしまいそうだが。
暴れる鳥を抱えて脇を駆け抜けていく尖った耳に尻尾と牙の生えた小悪魔や、「おやスケア様、ご散策ですか。いってらっしゃいませ」と枝を差しかけて恭しく話しかけてくる木々がそれを不可能にしていた。
「ほら、ここにイルカが倒れていたんだよ」
スケアが指差したのは一際緑の深い場所で、細い道が泉の畔に沿って延びている。
この辺りまでくると人通りもなく、木洩れ日が水面に反射してきらきらと音を立てるかのような穏やかな雰囲気は、とても魔界とは思えなかった。泉の水は澄んでいて底まで見通せそうなほどで、イルカは畔に膝を突いて覗きこんでみた。
そこでイルカは初めて、水面に写った自分の新たな顔を見た。
鼻筋を一直線に横切る傷はまだ赤黒く、痛々しい。だが不思議と痛みはなく、そっと触れてもかさぶたが盛り上がってる感触もない。
その理由を問いかけようと振り返ると、スケアはいつの間にか隣にしゃがみこんでいた。
「似合うよ」
優しく微笑まれ、髪をかきあげられると何も言えなくなって、イルカは熱くなる頬を隠すように俯いた。
水面に写る自分の顔の向こう側には、見たこともない魚に混じり小さな人魚のような生き物がすいすいと泳いでいる。思わずイルカが手を伸ばすと、腕を柔らかく掴むスケアの手に止められた。
「ダメだよイルカ、忘却の泉って言ったでしょ? ここは忘れたいことがある者が引き寄せられて、水に触れると記憶ごと泉の魔物に捕らえられ沈められてしまうんだ。たまにイルカみたいに吐き出される者もいるけどね」
「じゃあ俺も人間界からこの泉に引き寄せられたのか?」
「う~ん、イルカが何を望んでたかにもよるけど、たぶんそうだろうね」
忘れたいこと。
イルカはじっと水面を見つめた。
――ミズキ。
子供の頃に両親を亡くしてからずっとミズキの家に引き取られ、家族のように過ごしてきた。
似てない双子みたいだと友達にもからかわれ、それが嬉しかった。
なのに高校の時に突然好きだ、お前もなんだろと言われ無理やり抱かれそうになって拒絶してから、逃げるようにバイト先の引越会社の寮に転がり込み、一人暮らしを始めて。
それきり連絡は一切絶っていたのだが、大学に入って一年近く経った昨日の夜。久しぶりに会いたいと言うからミズキも頭が冷えてまた元通りになれるかもしれないなんて、のこのこ出向いてしまった。
そこはマンションの一室で、知らない男たちが卑しい笑みを一様に浮かべて立っていた。
その奥のベッドに座ったミズキはニヤニヤとひきつった笑顔で、俺に向かって「借りを返してもらうぜ」と言い放った。
俺は、売られたんだ。
ミズキに。
あの男たちの会話を拾ったところによると、たぶん……怪しいクスリの借金のカタに。
ミズキは言っていた。
散々優しくしてやったのに、恩を仇で返しやがってと。
お前が寂しがるから抱いてやろうとしたのにカマトトぶりやがって、どうせ優しくしてくれるなら誰でもいいんだろうと。
それなら俺たちみんなで優しくしてやると。
その後は部屋中を逃げ回って、運良く手にした殺虫スプレーを撒き散らしてなんとか逃げ出せたけど。夢中で逃げ回るどこかで高い所から落ちたような気もする。
そこに背中を斬り割るように追いかけてきたミズキの言葉……。
「お前だって同じだイルカ! 俺と同じで自分を満たしてくれるもんなら何でも、誰でもいいんだよ!」
悲鳴のような高笑い。
泣き叫ぶような、追いつめられた小動物の断末魔のような。
俺は。
俺は違うと言いたかったのに言えなかった。
俺は――
家族同様に思ってたミズキを、クスリなんかに逃げるほど辛い思いをしていたミズキを簡単に見捨てて、
俺は――
「イルカ!」
スケアの鋭い声で我に返ると、イルカはほとんど水面に顔を突っ込まんばかりにして泉を覗いていた。
スケアはぐいと肩を抱き寄せ、髪を撫でながら宥めるように囁く。
「泉に魅入られちゃダメだよイルカ。キミはもう僕のものだからね。イルカのものは全部……忘れたい記憶だって僕のものなんだよ」
優しい囁きは心にするりと入り込み、イルカは滑らかなシャツの胸に頭を預けた。髪を、背を撫でるスケアの手があまりにも気持ちよくて目を閉じる。
こんなに優しくされる価値は自分にはないと思いながらも、柔らかい許容に包まれる誘惑から逃れられなかった。
――自分を満たしてくれるもんなら何でも、誰でもいいんだよ!
不意に甦ったミズキの捨て台詞に、イルカは弾かれたように身を離した。
「どうしたの、イルカ?」
小さい驚きを含んだ優しい目が、イルカを見つめている。
甘ったれな部分さえ赦し、何もかも自分のものと言い切ってイルカを受け入れる魔物が、優しく見つめている。
「スケアはなんで……俺なんかを?」
「なんでって、好きだからに決まってるじゃない」
「こんな……優しくしてくれるなら誰でもいいような奴を?」
イルカの顔が自虐的な笑みに歪む。
するとスケアはにこりと微笑み、イルカの言葉を笑い飛ばした。
「イルカがどんな奴かなんてどうでもいいよ。イルカが自分を嫌いでも、僕はイルカが好き。それにね……」
スケアの笑みが鋭いものへと変わる。
「イルカがどんな奴だろうと、イルカは僕のものだよ。誰に優しくされようとも、それを忘れないで」
イルカの顔の傷がつきりと痛んだ。
スケアの右目の紅が、一段と深く暗くなったように見える。
イルカが思わず鼻に手を伸ばすと、スケアがその手を取って自分の唇に当てた。
「僕の気持ちが信じられないなら構わないよ……今はね。そう思う方が気楽なんだったら、僕はイルカの精が必要だから優しくしてるんだって思えばいい。僕の存在の源なんだから」
ね? と指先に口付けられ、ちらりと舌先で舐められると、イルカはびくりと揺れた。
そういえばスケアはそういう魔物だったのを忘れていたと記憶を探る。
「イン……インク……」
「インキュバス。僕の気持ちが信じられなくても、魔物としての性質なら信じられるでしょ? ねぇ、僕にイルカの精をちょうだい?」
魔物の性質として自分を必要としてるなら、対価として優しさに甘えてもいいのかもしれない……
弱った心は、スケアの差し出した交換条件にすがりついた。
その提示された交換条件すらスケアの優しさだと頭の片隅では分かっていても、今のイルカにはね除ける強さは残っていなかった。
イルカはためらいながらも、操られるようにこくりと頷いた。
スケアの長い舌がイルカの舌を絡めとり、上顎を探索するように動き回る。
そんな所でもじりじりと灼けるような気持ち良さが沸き上がってきて、イルカは無意識に胸を押し返してしまった。だがスケアはその反発にびくともせずに、後頭部を片手で支えて口腔を自由に貪った。溢れる唾液が口の端から首筋に伝うと、舌と唇でそれを辿っていく。
イルカは朦朧とした意識の中で、ミズキに言われたことを思っていた。
誰でも良かったなら、なんでミズキじゃダメだったんだろうと。
救命措置や交換条件とはいえ、こんなにも容易くスケアに身を任せているのに。
あの時ミズキに応えていたなら、あんな結果にはならなかったんじゃないかと。
すると股間に感じたことのないビリッとした感触があって、イルカは身体を跳ねさせた。驚いて見るといつの間にかスケアがイルカのズボンを下げていて、下着の上から性器に沿って爪を立ててなぞっていた。
「他のことを考えるなんて余裕だね、イルカ。もっと集中してもらえるようにしなきゃねぇ?」
にんまりと笑みを形作った唇が開き、下着を下ろして剥き出しになったモノをぱくりと咥える。
まだ柔らかさの残るそれを根元まで含み、舌をぐねぐねと動かして夕べ強制的に目覚めさせられた奥底の快楽を誘い出した。
スケアの長い舌はさらに伸び、根元からその下の膨らみをねぶってその奥へ、固く凝ってきた会陰へと舌先をちろちろと這わせた。
常人では有り得ない愛撫にイルカはすぐに昇りつめ、腿を震わせて情けを乞う。
「ひ、あ! も、イく……ぅんっ」
スケアの答えは強く吸い上げることだった。
イルカは無意識のうちにスケアの名を呼びながら、口内に精を放った。
それを喉を鳴らして飲み込むと、スケアはまだ震える性器を扱いて余すところなく舐めとり、吸い上げた。
そして顔を上げると満足げな、それでいて蠱惑的な笑みを浮かべてイルカを見つめる。
「ねぇ、イルカが僕のものなら、このまま抱いてもいい?」
その声にイルカはぎゅっと閉じていた目を見開いた。
「……え、だって昨日の夜も」
「昨日はイルカの中には入ってないよ? 魔染めをできるのはカカシだけだからね。ホントは僕もイルカが欲しかったんだけど……」
ねぇ、いいでしょ?
と甘く問いかけられ、くたりとした性器を指で弄ばれると、イルカの唇から熱い息が漏れる。
それを承諾と受け取ったスケアは、緩く投げ出されたイルカの脚の間の奥に潜む淑やかな窄まりに手を伸ばした。
スケアが睦言を囁きながら身体を開き、ゆるり ゆるりとイルカを揺らす。
それはセックスというよりは、むずがる子供をあやすようで。
折り畳まれた身体の下の青草がニットに擦れ、まるで夏みたいな匂いがイルカを包む。
それとスケアの匂い。
しがみつく首筋から匂い立つスケアの甘い雄の体臭の方が、自分の内側に受け入れたスケアよりも強く、生々しく彼の欲望を感じさせた。
お互いほとんど脱いでおらず、はだけた腹の間に挟まれたイルカの性器と、ズボンと下着の片足を抜かれた左足だけが外気に触れている。その腿はスケアの腕に大切に抱かれるように持たれていて、不意にイルカは自分の左足に嫉妬した。
――スケアに対する自分の気持ちすら、未だよく分からないのに。
催淫作用は気持ちにも働きかけるんだろうかと、快楽の片隅に残った理性が疑問を投げかける。
身体に引きずられ心までどんどんスケアに連れ去られていくようで、イルカは不安と混乱を誤魔化すために左足でスケアの腰を引き寄せ、自分の腰を擦り付けて快楽に自ら溺れていった。
ピチャン ピチャンという水音にイルカが意識を戻すと、スケアが泉の水にハンカチを浸して持ってくるところだった。
連日の身体への負担を気遣ったのか、スケアとの交わりは緩やかなものだったが、それでもイルカを疲れさせたようだ。怠い身体を起こそうとすると手で制され、濡らしたハンカチを使って優しい手付きで清めてくれた。
「……あれ、スケアは泉の水に触って平気なのか?」
あの泉は忘却の泉ではなかったのか。
効果は人間にしかないのかと訝っていると、スケアが苦笑した。
「ああ、僕は水の属性だからね。泉の魔物程度なら僕には効かないんだ。魔力とは理の異なる呪いの類いじゃないなら、水系統のはだいたい大丈夫」
そう言ってまたハンカチを泉で洗って固く絞ると、イルカが寄り掛かっていた木の枝にかけた。
そしてイルカの傍らにしゃがみこむと、「無理させてごめんね、これじゃ城まで歩けなさそうだよね。またクロを呼ぼうか」と指の背で頬を撫でる。そのひやりとした感触が火照った頬に気持ちよくて、イルカはクロが何かと問うこともなく無意識に頬をすり寄せていた。
甘やかされることにじわじわと浸食されているのに、止められない。
そんなイルカを愛しげに見下ろすと、スケアは反対側の手で指笛を鳴らした。
ピィーッと響いた甲高い音にイルカが驚くと、スケアは「まぁ見てて」と空を指す。
「イルカは意識がなかったけど、昨日もクロに乗せてもらって城に帰ったんだよ」
「クロ?」
「僕の使い魔の烏だよ」
イルカが見上げると、バサリと大きな羽音がして白く巨大な鳥が舞い降りてきた。
「クロって……白い烏?!」
イルカの呼ぶ声に反応したのか、翼を畳んだクロがその赤い眼でチラリと視線を投げ、一声高く鳴いた。
動物好きなのに飼うこともままならなかったイルカは、乗用車よりも大きな烏に驚くより嬉しくなって、近寄ると首の辺りに恐る恐る手を伸ばした。「クロっていうのか? 俺はイルカっていうんだ。よろしくな」としっとりと滑らかな首筋を撫でると、クロが目を細めてグルグルと低く鳴き始めた。
「へぇ、イルカは気に入られたみたいだよ。気難しい子なのに」
「へへ、そっか! 可愛いなぁクロ!」
思わずイルカが抱き付くと、クロが嘴を擦り寄せてきた。
するとスケアがムッとした顔で「はい、そこまで」とイルカを引き剥がし、自分の方に抱え込む。
「僕以外にそんな抱き付いたらダメだよ。さぁ、そろそろ帰ろう」
「僕以外って、クロは烏だろ?」
大人だと思っていたスケアの子供みたいな独占欲を目の当たりにして、イルカは呆れてしまった。
そのギャップに笑いを噛み殺してると、肩を震わせたイルカに気付いたスケアが「……何よ、イヤなんだからしょうがないでしょ」と口を尖らせる。
たまらず吹き出すと、いきなりスケアがイルカを抱きかかえたままクロの背に飛び乗った。
「うひゃあっ!」
「ははは! イルカ変な顔~!」
「なんだよ、びっくりしたんだよ! スケアって意外と変なヤツなんだな。白い烏にクロって名付けるし」
「ええっ、失礼しちゃうなぁ。言っとくけどクロって付けたのはカカシだよ? それにさっきのイルカの方が変だったよ!」
二人で笑いの収まらないままに、スケアはハーネスを掴むとイルカをしっかりと抱き直した。
「ちゃんと掴まっててね。じゃあクロ、お願い」
クロがまた一声鳴くと、翼を羽ばたかせる。
「うおーーースゲェーーー……!」
イルカのはしゃぐ声と共にクロは高く舞い上がり、真っ直ぐ城を目指して飛んでいった。
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