【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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「クリスマスは夜から雪になり、
 トナカイがサンタクロースに愛を囁くでしょう」




 シャンシャンシャンシャンシャン……
 軽やかな鈴の音が響く中、大きなプレゼントボックスを抱えたカカシが微笑む。

「人生で最良の日を、あなたの大切な方に」

 優しげに語りかけると、下から伸ばされた小さな両手にプレゼントを渡してにこりと微笑み、火影のマントを翻した。
 それは通常の白地ではなく真っ赤なビロードで、裾にはふわふわの白い縁取りがされていた。本来は火と書かれた笠を被るべき頭には、同じく真っ赤なビロードに白い縁取りのサンタ帽が斜めに乗っている。
 いつも口布で隠されている顔は、今は髪色に合わせた白銀の豊かな髭で覆われていた。
 そして傍らに控えるのは、立派な体格の雄トナカイ。
 温暖な気候の火の国ではまず見ることのない生き物で、灰褐色の見事な毛並みの背を、赤と緑のクリスマスカラーで彩られた木ノ葉マークの掛け布が覆っている。
 首には大きな金の鈴を下げ、本革のハーネスで繋いだソリには、色とりどりのプレゼントが山積みにされていた。

「私たち木ノ葉の里は、あなたの幸せなクリスマスを心から応援しています」

 サンタクロースを模した火影衣装のカカシが、いつもの手甲を外した素の手でトナカイの頬をつと撫でた。
 それに応えるようにトナカイは正面に向けていた顔を上げ、きらきらと光を放つ黒いつぶらな双眸でカカシをじっと見つめる。

「はい、カット!」

 室内だというのにサングラスをかけた男が叫んだ。
 その一声でシャンシャンシャンというジングル以外は静まり返っていた場に、とたんにざわめきが戻ってくる。数人の男女がカカシの元に駆け寄り、口々に労いの言葉をかけた。

「撮影はこれで最後です! お疲れ様でした!」
「いやぁ、素晴らしかったですよ。何をしても絵になる。さすが六代目!」
「これは絶対に依頼殺到ですね」

 スタッフに囲まれるカカシの隣にいたトナカイは、ハーネスを外してもらうとじりじりと静かに下がり、ぺこりと頭を下げて輪から外れた。

「あ、ちょっと待って!」

 カカシの制止は聞こえただろうに、自分に向けたものとは思わなかったのか、トナカイは早足で出口に向かう。

「イルカ先生!」

 名指しされたトナカイはびくりと角を揺らすと、今度こそ駆け出しスタジオを飛び出していった。
 それを呆然と見送ったカカシは、急いで人垣をするりと抜け出すとサンタクロース姿のまま後を追った。



 そもそもカカシがこの姿で撮影をすることになったのは、広報からの要請もあったが、イルカたち受付の提案だった。
 大戦が終結してから数年。
 戦争の後処理を諸々済ませてみると、忍はその在り方を変えざるを得なくなっていた。今まで連綿と続いてきた戦争、諜報、暗殺等の任務がガタッと減ったのだ。
 もちろんそれを目指してきたのだから文句などあろうはずもないが、カカシが六代目に就任して真っ先に取り組んだのは今後の依頼獲得だった。つまりは新規開拓。
 シカマルをはじめ、日頃から任務に深く携わる受付を交えての会議の席で不殺の任務の方向性を模索していたところに、受付から「シチュエーションデリバリーはどうか」という案が投げ込まれたのだ。
 郵便物は郵便が、宅配物は宅配業者がいるが、機密性の高く危険な運搬は今までも引き受けてきた。その運搬スキルと様々な忍術を生かして、誕生日プレゼントやパーティーのちょっとしたサプライズデリバリーの企画ごと依頼として引き受けてはどうかと言うのだ。

「ちょうど世間はもうすぐクリスマスですし、手始めにサンタクロース任務からはいかがでしょうか。サンタクロースがトナカイの引くソリで空から登場なんて、子供たちも大人でも喜ぶかと」

 プレゼン資料を片手に熱く語るのは、受付の中堅忍だった。その隣でいちいち頷いているのは、イルカ。
 これだけ長い時間、同じ空間にいるのはいつ以来だろう。
 恐らく受付連中に泣き付かれたに違いない。アイディアを出したのは若手だろうが、発表できるレベルまで引き上げたのはイルカの力が大きいことと予想される。

 ――あなたはいつもそうだ。いや、そう『だった』。
 いつでも誰かに必要とされて、誰より俺が必要としてる時に、あなたは俺から離れて……

 内心の乱れる気持ちを小さなため息で蓋をして、カカシは意識を会議に戻した。
 すると全員がカカシを注視している。
 そういえば広報部長が何か言ってたような、とぼんやり聞いていた部分を浚うと、イルカがさりげなく助け舟を出した。

「火影様のサンタクロースのCMは、きっと各国の人々に大きなインパクトを与えると思いますよ」
「え、俺?」

 かつて『写輪眼のカカシ』のネームバリューを効果的に利用してはいたが、本来カカシは目立つことは好まない。忍だから当たり前だ。
 だが火影として立つ現在、忍里の過渡期となる時代の新たな一歩に貢献するのは、ナルトをはじめとする次世代のためにも耐え忍ぶべき点なのかもしれない。
 了承に傾きかけた気配を察知したのか、中堅忍がここぞとばかりに畳みかけてきた。

「六代目様は先の大戦で、各国でも更に勇名を馳せましたから。その六代目様が御自らサンタクロース姿で登場すれば、平和の象徴として木ノ葉のイメージアップは間違いないかと」
「空を飛ぶのは何とかなるとしても、トナカイは? 木ノ葉どころか火の国にもいないし、さすがに俺もトナカイまで使役してないよ」

 最後の悪あがきをしてみるも、それはイルカのにこやかな笑顔で封じられた。

「ご安心くださいカカシ様。我等には忍術があるではありませんか。撮影では変化の得意な者が、火影サンタクロース様にお供いたします」

 イルカの一声にシカマルまで頷いたところをみると、既に根回しは完璧だったらしい。
 四面楚歌をまさか戦場でもないここで味わうとはと、カカシはガクリとうなだれた。
 それを了承と捉えた面々がワッと沸く。
 カカシのせめてもの抵抗の「もう……、だから様はやめてよ、様は」という呟きは、歓声に消えて誰も聞いていなかった。
 それからの展開は恐ろしく早く、気付いたら撮影現場にいたという感覚だった。
 街中で空から登場するシーンから始まり、スタジオで撮影スタッフに言われるがままに様々なポーズを取らされ、決まった台詞をこれまた様々な表情で言わされ。
 どうやらCMと同時にポスターの撮影も兼ねているようで、あまりの指示の多さにカカシは傀儡にでもなった気分だった。
 そしてイルカが確約した通り、その全てにトナカイは共にいた。
 最初からトナカイの姿で現れたのだが、本当に変化が得意な者らしく、さすがのカカシでも事前に知らされてなければ変化と見抜けないほどだった。
 ここまで見事な変化は専門の特別上忍か暗部かと、木ノ葉の人材の豊かさに内心嬉しく思っていたのだが――。



「後生だから待って!」

 木ノ葉の写真館に急きょ作られた撮影スタジオから飛び出すと、トナカイはちょうど人混みを避けて路地に脚を踏み入れたところだった。
 切羽詰まったカカシの声のせいか、トナカイの足取りが緩み、力強い蹄の音が止む。
 そこをチャンスとばかりに、がっしりとした首に両腕を回して横から押さえ込んだ。トナカイは拘束から抜け出そうと頭を振ろうとしたが、枝分かれした角がカカシを傷付けると気付いたのか、おとなしく抱きつかれるがままに立っている。
 トナカイは鹿の中でも、ヘラジカほどではないが大型な方だ。カカシと並ぶと頭こそ胸の辺りだが、角まで含むとほぼ同じ体高だった。

「…………なんで俺だと……?」

 今まで一度も開かなかったトナカイの口から、人の言葉が零れ落ちる。
 その呟きは小さくとも、カカシにはあまりに馴染みがある声だった。今は弱々しいがハキハキと張りのある、それでいて甘やかな響きをも含む、イルカの声。
 立派な体躯に反して、可愛らしい房状の尻尾がぴこぴこと振られる。トナカイのボディーランゲージは知らないが、どうか怒りや嫌悪感ではありませんようにと祈るような気持ちでカカシは答えた。

「だってこのパンツ、俺があげたのでしょ?」
「パンツ⁉」

 驚きのあまりかトナカイの真っ黒な目がぎょろりと剥き、白目の部分まで見える。

「え、俺パンツなんて穿いてませんよね⁉ 穿いてんのか⁉」

 トナカイ――イルカが首を回して下半身を確認しようとするので、カカシは角を避けながら首に回していた腕を離した。

「穿いてないよ」
「じゃあなんで……!」

 鎌をかけられたのかと抗議の目を向けるイルカに、カカシはにこりと微笑んでトナカイの腰から腹にかけて手を滑らせた。

「やっぱり気付いてなかったんだね。ここ。微妙に褐色が濃いのよ。……俺が前にあげたOバックの形に、ね」

 確かに下半身の毛色は微妙に濃くなっている。ふさりとした尻尾と臀部を除いて腹をぐるりと回り、両脚の付け根にハーネスを渡したかのように。
 だがそれは言われてみればという程度のもので、誰もがはっきり視認できるような明瞭さはなかった。本物のトナカイを知らないなら、そういう模様なのかと納得してしまう程度の。
 だが以前北方の任務で本物の群れを見ていたカカシは、それで確信を持ったのだ。
 このトナカイは、イルカの変化だと。
 アカデミー教師は忍術・体術・座学の全てにおいてバランス良く優秀だ。だがイルカがここまで完璧な変化の術ができることを、カカシは付き合っていた時には知らなかった。
 イルカについて、まだまだ知らない事はたくさんあるのだろうと、自分の気持ちだけで精一杯になってしまっていた過去をほんの少し苦く思う。
 だが、それ以上に嬉しかったのだ。
 僅かでも期待してしまったのだ。
 たとえトナカイの姿でも、こんなにも傍にいようと思ってくれたことが。
 しかも、自分の贈った下着を身に着けて。

「俺は……! 今穿いてるパンツを再現しようなんて思ってません!」
「うん、分かってる。でも変化する時にちらっとでも思ってくれたんでしょ? 俺がプレゼントしたパンツ、あの黒のOバックのこと。だから反映されちゃったんだよね? それに……」

 腹に回されたままのカカシの手が、ゆるりと動き始める。
 極寒の地でも耐えられる分厚い毛に指を潜らせ、その下の柔毛を梳いて肌の感触を確かめるように。

「この姿じゃ分からないけど、やっぱり本当に穿いてくれてるんだね。それって今でも俺のことを」
「違うっ!」

 トナカイはガッと蹄を鳴らして飛び退いた。

「俺はあんたのことなんてもう好きじゃない!」

 イルカの言葉が二人、いや一人と一頭の間を切り裂く。

「……ほんとに?」

 カカシの問いかけからは甘い響きが消えていた。
 ここを間違えると、カカシにとっては僥倖とも言える絶好のチャンスをみすみす逃してしまう。
 慎重に、薄氷を踏む思いで言葉を選び、真剣な想いが伝わるようにと拳を握った。

「俺はずっと好きだったよ。昔も、今も。変わらず好きなままだ。イルカ先生は? もう俺のこと何とも思ってくれてないの?」

 それを聞いたトナカイの顔が苦しげに歪む。

「…………その追い詰めるような聞き方……ずるいです」

 ――ああ、また同じ事を繰り返すところだった。
 カカシは白銀の髭の中で、秘かに唇を噛み締めた。
 若さ故の性急な気持ちの押し付けと、言葉の足りなさと。
 それが原因でこの人は離れていってしまったというのに、火影になってさえ何一つ学んでないみたいだと俯く。
 欲しくて欲しくてたまらなかった人が、この手の中に落ちてきてくれて。
 許されるに任せて甘え、同じものを同じように返せとねだってしまった。
 この人にはこの人なりの愛し方があったと、そしてそれをちゃんと伝えてくれていたというのに。

「…………嘘、です。さっき言ったのは」

 トナカイの吐息にも似た小さな声に、はっと顔を上げると。

「俺も、言葉が足りなかったって自覚はあります。それに天邪鬼なところも。でもカカシさんと同じやり方で伝えるのは……俺には無理なんです」

 この一歩を詰めていいのか、カカシは迷った。
 イルカからの歩み寄りに、物理的に距離を詰めてまた間違えてしまうのではと、たった一歩を迷った。
 トナカイの顔の中にイルカの気持ちが表れてないかと探るように見つめると、不意に黒い蜻蛉玉のような瞳が揺らいだ。

「トナカイに変化する役は自分から志願したんです。トナカイは鹿科だから、シカマルにいろいろ教わりました。バレないだろうって自信はあったんですけど、まさかパンツでバレるなんて……確かに変化する時思ったんです。カカシさんに会えるからってつい穿いてきちまったけど、いや尻尾があるから後ろが空いててちょうどいいって思ったからですけど! でも……俺もたいがい未練がましいなって」

 あれほど迷っていた一歩は、驚くほど速く近かった。
 トナカイの両前脚は持ち上げられ、カカシの肩に回されている。そしてカカシの両腕はトナカイの脇から背に回され、深い毛並みに埋もれるほどしっかと抱きかかえていた。
 もう二度と離さないと、全身で伝えるかのように。

「今ね、人生で一番幸せ。今まで思ったことなかった……こぼれ落ちた大事なものを、もう一度抱きしめられることがあるなんて」

 二本脚で立ったトナカイは、カカシの頭に躊躇いがちに顔をすりと寄せた。

「俺、も……ずっと、こうしたかったです。あの、俺も、す、あいし……その、カカシさんのこと、す、あ、あい、あいすす……っ」
「いいの、無理しないで。逃げないでくれたのが答えでしょ?」
「でも! カカシさんが歩み寄ってくれたから、俺だって……!」

 カカシはトナカイの喉元の一段と深い毛並みに、ふかりと顔を埋めた。

「じゃあね、クリスマスは俺と過ごして? それで、その時に聞かせてくれたら嬉しいな」
「……はい。約束します。クリスマスには俺の気持ちを、きっと」
「今はもっとイルカを確かめさせて。まずは元の姿と、あとね、本当にあのパンツを穿いてるのか」
「……っ」

 トナカイが何と返したのかは分からない。
 ぼふんと煙が上がった後には、一人と一頭の姿は消え失せていたからだ。





 後日、木ノ葉の里におかしな噂が流れた。
 サンタクロースとトナカイが路地裏で喧嘩した後、抱き合っていたかと思うと突然消えたというのだ。
 消え失せる寸前、トナカイが人の姿に変わったように見えたと主張する者もいたのだが。
 舞い散る木の葉が、里の忍が使うものと違って刺々した柊の葉だったことといい、何かの撮影ではないかという意見が大半だった。
 突如現れて消えたサンタクロースとトナカイに、今年のクリスマスは何か変なことが起きるんじゃないかと心配する者もいたが、例のCMが流れ始めて街中を六代目サンタクロースのポスターが埋め尽くすようになると、プロモーションの一環かと納得したのか噂は自然と消えていった。

 その木ノ葉クリスマス忍キャンペーンと書かれたポスターには、火影サンタクロースと寄り添うトナカイの姿が並んで写っている。
 そして『遠く離れた家族に、想いを告げたい相手に、大切な人に』というキャッチフレーズの下に、一際大きく煌めく一文があった。



『この日に勇気を、そして愛を』と。



【完】





※ 蛇足ながら、更に後日、ごく一部のくノ一の間で『カカトナ』という薄い本が秘かに発行されたことも記しておく。
 『カカトナ』が何を指すのか、その本に何が書かれているのか、部外者には一切謎だが。
 その本に登場するトナカイの鼻筋には、なぜか横一文字の傷痕があるらしい。


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