ハッと目が覚めると、部屋の中がほの明るくなっている。
朝だ。
ちゃぶ台の上のプリントを探そうとして、ここがベッドだと気付く。

ーーープリント！

慌ててベッドから飛び出すと、一瞬カクンと膝が崩れた。
くそっ、あの万年発情上忍め！
俺の意識がとんだ後も好き放題やったんだろう。
そのわりに身体中さっぱりしてるところをみると、ちゃんと後始末も全部やってくれたらしい。
申し訳ない気持ちがよぎるが、下手すると風呂場でも何かされてた可能性が捨てきれない。
まったく、任務の前はちゃんと寝とけっていつも言ってるのに…！
空っぽのベッドを振り返って顔をしかめる。

早朝出立の任務だったカカシさんの姿はもうない。
今回はすぐ終わるとは言っていたが、次一緒にメシを食えるのはいつになるんだろうか。

沈みそうになる気持ちに活を入れ、パンパンと両手で頬を叩く。
まずはプリント。
そう、プリント作りの続きをしねぇと。
とりあえずパンツをはき、よたよたとちゃぶ台の方に向かった。



ちゃぶ台の上はきれいに整頓されていた。
散らばってたペンはケースにしまわれて、プリントが真ん中に置かれている。
そしてイラストは完成していた。

男の全身はきれいに塗りわけられ、急所の部分には赤く○が付けられている。
正面図も、背面図も。
○印からは→が引っ張られ、各名称も記入してあり、読み仮名もふってあった。
それらはもちろん全て正しく書かれている。
さっすが上忍。非の打ち所もねぇでございます。
そりゃあ、あんだけひとの身体中に正確なキスできるんだもんな。
唐突に夕べの恥態を思い出し、ぶわわっと顔が赤らむ。

ちくしょう、プリントの手伝いで睡眠時間を削るくらいなら、もうちょっと待っててくれりゃ終わったのに。
なんであのケモノは待てができないんだろうなぁ。
今度犬塚さんに相談してみようか。いっそのこと、犬塚さんの所に放り込んでもいいかもしれない。

上忍様作成のプリントをカバンにしまおうとすると、裏にも何か書かれているのに気が付いた。
右下の隅に。ちっちゃく。

へのへのもへじ、と、イルカのイラスト。



うがーーーー！！！



なんであの人はさぁ、こういうさぁ、可愛い事するのかな！
俺は頭に両手を突っ込んでかきむしると、ゴンっとちゃぶ台に打ち付けた。


そういえば、あんまりアカデミーにちゃんと通えなかったって言ってたもんな。まぁ、そういう時代ってのもあったし、カカシさんが天才だったからってのもあるだろうけど。
だからなのか、アカデミーの授業をよく覗いてたし、俺のアカデミーの話も聞くのが好きみたいだ。
初めは子供をあんまり知らないから、上忍師の参考にしたいのかと思ってたけど。
もしかしたら俺を通してアカデミーに関わる事で、本当はあったはずの子供時代を追体験してるのかもしれない。
あの人の中にいる子供のカカシくんが少しでも喜ぶなら、プリントなんていくらでも一緒に作るのに。
共同作業の印だろう、へのへのもへじとイルカを、そっと指でなぞる。

よし、今年のこどもの日は二人で子供に変化して、正しい子供の遊び方を教えてやろう。こないだは結局、昔の俺の秘密基地を案内したところで、カカシさんが呼び出されちまったし。
そうだ、テンゾウさんを誘ってもいいかもしれない。
あの人もなんだか複雑そうな子供時代を送ってる感じだからなぁ。
みんなで川遊びをして、魚を捕まえて、河原で子供流バーベキューってやつを伝授してやろう。そばの林の中で上忍ごっこもしよう。いや二人とも上忍だけど、上忍と上忍ごっこは別もんだしな。
ホントは火影屋敷の探検コースも入れたいけど、何かと支障があるから諦めよう。特にあの二人はマズいだろうなぁ。立場的にいろいろと。


…しまった。
ウキウキとプランを考えてたら、けっこうな時間をくっちまった。
プリントをクリアホルダーに入れ、朝メシの支度をする。

今日の授業はそうとう集中しないと、すぐ夕べを思い出して挙動不審になりそうだ。
メシを食いながら、プリントをチラリと見る。


だいたい、急所なんてとっくに掴まれてるのに。


あんたの可愛さも、カッコよさも、こどもっぽさも、ケモノっぽさも、全部俺のツボだよちくしょう。
悔しいから絶対、ぜ～ったい教えてやんないけどな！




【完】