【Caution!】

こちらの小説は全て作家様の大切な作品です。
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★エロし ★★いとエロし!
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「犬臭い匂いがする」
アパートのドアを開けた途端、眉間にシワを寄せた色違いの目が、ジロリとカカシを睨み付けた。
「羅刹丸。いきなりそれは失礼だろ。さ、カカシさんも上がってください」
そう言ってイルカが手招くが、通路を塞ぐように立つ時代がかった衣装を身に纏った美貌の若者は、イヤそうに顔を顰めていた。
う……羅刹丸!今日に限って人型で待ち受けていたな。いつもは猫のままなのに。
イルカに甘いこの小姑の妖は、白い猫の姿をイルカが喜ぶことを熟知していて、普段は甘えるために猫の姿のままなのだが。
「今夜は犬臭くて敵わぬ。なんじゃ犬使い殿?何か言いたいことでもあるのか?」
不敵な笑みを浮かべるオッドアイが、カカシを挑発するように煌めいている。
「羅刹丸!カカシさんに突っかかっていないで、こっち来て」
イルカに呼ばれて、大妖は尻尾をご機嫌な様子で振りながら、部屋の奥へと入っていく。
「カカシさんも、早く上がってきてください」
イルカに呼ばれて、カカシは玄関のドアを閉めると、下足を脱いだ。そのまま部屋の奥まで歩いて行くと、畳敷きに卓袱台というちょっとレトロな部屋で、二人が待ち構えていた。
カカシが部屋の隅にシズネから預かってきた育児用具を下ろす。
イルカは綱手から渡された揺り籠に赤子を乗せると、卓袱台の上に置き、じっと羅刹丸の動きを見守っていた。
白髪の美しい大妖は、色違いの目を見開きながら、赤子を見つめている。
立ち込める妖力が、時々静電気を放つようにパチパチと音を立てて爆ぜ、羅刹丸の髪がゆらりと立ち上った。
「人狼じゃな」
羅刹丸の呟きと共に、静電気を纏った妖力がたち消える。
「この赤子は犬使い殿に預ける事じゃ。イルカ、ワシらは手を引くぞ」
「何言ってるんだよ。俺達が預かってきたんだ!手を引くってどういう意味だよ!」
憤慨するイルカに、羅刹丸は意味ありげな瞳を浮かばせて、カカシに振り向いた。
「犬のことは犬に任せることだ。この赤子からも犬の匂いがするからの。ワシは犬は嫌いじゃ」
「俺だってアンタのことは嫌いだ~よ」
ムッとした顔をするカカシと、不穏な空気を纏った羅刹丸の間に、慌ててイルカが割り込んでくる。
「二人ともケンカしないでくれよ!いつも言ってるだろ!羅刹丸はカカシさんに突っかからない。カカシさんも挑発に乗らないでって」
「だって~」
「だってじゃありません!」
イルカに叱られてしゅんとするカカシを、羅刹丸が面白そうに眺めている。
「羅刹丸。お前も!」
イルカに睨まれて、渋々妖も大人しくなった。
居間の隣にある寝室にイルカが揺り籠で寝ている赤子を運んで行こうとすると、その腕を羅刹丸が掴んで押し止めた。
「イルカや。よう聞け。人狼とはわしら猫とは違って、群れで暮らす生き物よ。その子供が人狼の仔であるならば、奴らは必ず連れ戻しに来るはずじゃ。悪いことは言わん。犬のことは犬同士で片を付けて貰わねばならん。あやつに任せて、赤子を預けてこい」
「羅刹丸。何を言うんだよ」
「この子供はここにはおけぬ!」
羅刹丸の真剣な顔に、イルカが飲まれたように項垂れる。
「分かった~よ。その子はうちで預かるから。それなら良いでしょ?」
そう言ってカカシが羅刹丸を一瞥すると、猫の妖はフンと鼻を鳴らした。


「で……イルカ先生が来るのは構わないけれど、なんでアンタも来るわけ?」
カカシのマンションのドアの前で、赤子を抱いたイルカの脇に当然のように羅刹丸が張り付いていた。
「イルカがどうしても行くと言って聞かぬからな、養い親としてはイルカをみすみす危険な目に合わすわけには行かぬ。ほれ、帰るぞイルカ」
「だから帰らないって言ってるじゃないか。もう羅刹丸一人で帰ってよ」
「それはイヤじゃ」
カカシは「はぁ」と大きくため息をつくと、玄関のドアを開けた。
「あ~もう分かったから。二人とも上がってよ」
渋々と言った体でカカシは羅刹丸のことも招き入れたが、「客用布団は一組しかないから、アンタは猫に戻ってよ」と言うのだけは忘れなかった。

結局客用布団は使われることはなく、カカシのセミダブルベッドの上には、カカシとイルカの間に割りこむ形で、猫の姿に戻った羅刹丸が、猫にしては大きな身体を伸ばしきって、イルカに抱きつき、その隣でカカシは一人寂しく眠りについた。
あの赤子はベッドのすぐ脇の揺りかごの中で、すやすやと大人しく眠っていた。

その日の夜更け。
微かな気配を感じて、カカシが身を起こすと、既に人型に戻った羅刹丸が、ベッドの脇に立っていた。
「フン。感知するのが遅いわ」
「イルカ先生は?」
「イルカは眠りから覚めぬよう暗示をかけておいた。犬の面倒ごとに、イルカを巻き込みたくはないからのう」
そう言うと羅刹丸は満月が煌々と照らす窓を開け、ふわりとふわりと音もなく軽やかに飛び上がる。羅刹丸の後を付いていくように、カカシもまた窓の格子に飛び乗ると、そのままマンションの屋上めがけて飛び上がった。
眼下にはいつの間に集まったのか?闇に蠢く獣が、数十匹。月の光に照らされて、その姿をさらしていた。
「ほれ、ワシが言うた通りであろう」
カカシがマンションの屋上に到達すると、先に来ていた羅刹丸が、忌々しげに眉を潜める。
ウォォォォーン。
響き渡る声は、紛れもなく狼の声だった。
これだけの数の狼に囲まれて、周囲の忍びたちが気が付かないはずがないのに。
特殊な結界術が施されているのか?辺りは静かなままだった。
「来るぞ!」
羅刹丸の声にカカシが身構える。
大きな体躯の狼が建物を飛び越え、屋上まで上がってきて、唸り声と共にカカシに牙を見せた。
その牙をクナイでなぎ倒し、身体を蹴り上げる。
「イルカ先生は、イルカ先生は大丈夫か?」
「ワシを誰だと思うておる。大妖三日月羅刹丸とはワシの事じゃ。犬畜生が破れるような結界ははらんわ!」
また一匹屋上へと駆け上がってきた狼が、カカシの目の前で羅刹丸に飛びかかる。その刹那、羅刹丸から青白い雷の玉が放出されて、飛びかかる狼の身体を突き破った。
「これだから犬は嫌いじゃ。数だけは多くての」
一匹、また一匹と次から次へとマンションの屋上に狼達が集まり出す。
一斉に飛びかかってくる狼達を、カカシはクナイで払いのけ、手に集めたチャクラ刀でその体躯を突き破る。
カカシに蹴り落とされた獣が、マンションの屋上から落下していく。
しかしその姿は地上に落ちるまでもなく、また這い上ってくるのだ。
「チッ犬畜生が!切りがないの!」
忌々しげに呟く羅刹丸の身体にも、狼達の牙は届き始めていた。
次から次へと襲い来る狼に、疲れが見え始めた頃、マンションの屋上に一人の人間が現れた。
忍びの動きにも似た動きを見せる人間。
狼たちの主、人狼だった。

「我が子を返して貰おうか」
銀色の髪に大きな獣の耳を生やし、フサフサと長い尾を持つ青年がその場に悠然と立っていた。
「人間ごときに奪われたなど屈辱に等しいと思っていたが、お前は木の葉の主人犬族だな?隣にいるのは妖か?」
「俺達は捨てられていた子供を保護しただけだ」
カカシの言葉に人狼は赤い目を細めて、何かを見定めるようにじっとカカシを見つめている。
「あの夜、私の子を孕んでいた妻は、人間の放った凶弾に倒れたのだ。救いに向かった時、赤子はもう産み落とされた後だった」
「フン!誰が好んで犬の仔など拾うものか!この男の言うとおり、わしらは赤子を拾い保護しただけじゃ!」
羅刹丸が忌々しげに吐き捨てる。
「大妖の名において嘘はあるまいな?」
問いかける男に、羅刹丸は色違いの瞳を細めると、にぃっと笑った。
「ワシの言葉が信じられぬのなら、己の命はないぞ?」
大妖の放つ気に押されたのか、狼の主はふっと笑うと、手にしていた武器を投げ捨てた。


カカシが部屋に戻ると、イルカが眠そうに目を擦りながら玄関のドアを開けた。
「カカシさんも、羅刹丸も、何処に行ってたんですか?もう、あの子は急にぐずり出すし」
その時初めて銀色の髪に大きな獣の耳の生えた男に気が付いたイルカが、ぎょっとした顔をする。
「イルカ先生。あのね、この人は……」
カカシの言葉に全てを察したのか、イルカが口を開く。
「獣人……俺達と同じ人外……」
「イルカ。あの赤子をここに」
羅刹丸の言葉にイルカが赤子を抱いてくると、男が手を差し出してきた。
戸惑いを浮かべたイルカに、カカシが優しく微笑み頷く。
イルカが赤子を手渡すと、男から張り詰めていた気が和らいだ。
「感謝する。私は人狼族の者。お前達と同じ、人外だ」
「人狼族……」
呆けたように呟くイルカの腕を羅刹丸が握りしめ、部屋の奥へと引いていく。
「さて、ワシらはもう一眠りするかのぅ。イルカや、ほれ、ここに」
羅刹丸に連れられて、イルカはカカシ達を気にしながらも寝室に入って行った。
寝室のドアが閉められた後、男が言葉を放つ。
「人外と人とが共に暮らす里があるとはな……」
「アンタ達は違うのか?」
カカシの問いに、男はフッと小さな笑みを浮かべた。
「私たちは人とはいがみ合って生活をしている」
そう言う男の目はどこか悲しげに細められた。
あの山間の町で見た光景が思い出されて、カカシもまた視線を落とした。
「お前達の里のように、種族を超え、共に過ごせる世界が来ると良いのだが」
儚げに笑う男に、カカシもまた頷いて口を開いた。
「アンタがそう願うなら、いつかきっとその願いも叶うさ。その子が大人になる頃には」
「そうだな……」
人狼は赤子を連れ、カカシの部屋を出ると闇の中を跳躍する。
「感謝する。人犬族の長、はたけカカシ。お前が必要と感じた時は、我らを頼ると良い。いつかきっとこの恩は返そう」
ウォォォォーンという狼の遠吠えが聞こえて、いつの間にか周囲を取り囲んでいた獣の気配は消え去っていた。


「ほ~それで、あの赤子は親の元へ帰ったというわけかい」
翌朝カカシがイルカと共に火影の執務室を訪ねると、亜麻色の髪の女傑は、複雑な顔を浮かべていた。
「綱手様。残念でしたね」
シズネの声にカカシが周囲を見渡すと、執務室にはいつの間にか子供をあやすおもちゃが多数置かれていた。
「あのな、私が言いたいのは!カカシ!外部から侵入者が入ったというのに、私に連絡一つ寄越さないとはどう言うことだ!」
「あ、それはその……」
あのごたごたで、式を飛ばすことも忘れていた。
羅刹丸、あの妖が一緒にいると、調子が狂うんだよね。
冷や汗をかくカカシを見つめる綱手は、「はぁー」と大げさなくらい大きなため息をこぼした。
「お前達が里では小姑の目があって、なかなかゆっくり出来る時間も持てないだろうからと思って、イルカにお使いを頼んでやってるのに」
「あ、それは!綱手様!感謝しています!」
イルカが弾かれたように声を上げた。
「イルカ先生にこれからもお使いをぜひ頼んでください!」
カカシも叫ぶ。
「そうだな、カカシ。Sランク任務3回で手を打とう」
「え?3回もですか!」
「いくら何でも綱手様それは……」
渋るイルカに綱手はにぃっと意地の悪い笑みを浮かべて。
「イヤならもっと増やすが」
「いえ、ぜひ3回やらせてください!お願いします!」
カカシが苦笑しながら口にする。

木の葉の里は今日も平和で。
人と人外が共に生きる場所として、後の世まで語り継がれる里であった。


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