【Caution!】

こちらの小説は全て作家様の大切な作品です。
無断転載・複写は絶対に禁止ですので、よろしくお願いします。
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最果て倉庫さんの
木造注文住宅ヤマト部屋(ヤマト風味漂う木造軸組工法特殊住居・基礎はカカイル)
この部屋を増やしたい!!!!
ということで頂いたカカ→イル←ヤマトです!
不憫じゃないヤマトさん素敵~!
絶妙なバランスで描かれる三人をぜひご覧になって!(*˙︶˙*)ノ"
元のヤマイル風味カカイル未満なお話はこちら!

最果て倉庫 宣戦布告 ー僕の誕生日ー

はやおさんいつでも最高にリクに応えてくれてありがとうございます~!



  続・宣戦布告


里の負の遺産として誕生したヤマトは、初代火影の遺伝子を植え付けられた実験体であり、ロストチャイルドの一人だった。
里の深淵で育ち、人としての平凡な生き方をヤマトは知らない。
忍びとしての能力の高さこそが全てで、ヤマトにとって価値のある人間とは、真に数えるほどしかいない。
そんな一人である敬愛する暗部の先輩カカシの心を掴み、彼を変えてしまった平凡な中忍は、生粋の暗部で、表の世界とは隔たりのあるヤマトの心まで、簡単に捕らえてしまった。
観察対象でしかなく、忍びとしての能力も決して秀でてはいないうみのイルカと言う中忍は、ヤマトにとってはイレギュラーな存在で、ちっぽけな物だったはずなのに。
安らぎと笑顔をもたらす不思議な中忍先生は、気がつけばヤマトの中でとても大きな存在になっていたのだ。

思い人の心を掴み、振り向かせるのは、暗部の請け負うS級任務よりも難しい。

新七班の部下達を連れ、任務受付所へと足を踏み入れたヤマトは、周囲を軽く見渡した。
今では単独任務を請け負っているカカシの姿が見えない事から、今日の受付けにイルカはいないのだと悟る。
イルカ恋しさに足繁く受付に通うカカシと違って、部下を率いるヤマトには、自分の都合だけでは動けないもどかしさがあった。
イルカがまだ誰の物でもないうちに。
一歩でも二歩でも近づこうと、ヤマトは足掻いているつもりなのだが。
ままならないのは、世の常か。
任務報告書を提出し、解散を告げた途端、動き出した部下達の姿を見て、ヤマトは一人納得する。
「なぁなぁ、サクラちゃん。一緒に一楽に行こうってばよっ」
「やーよ。アンタってばラーメンしか言わないんだもん」
「ええ~ラーメン美味いってばよっ」
サクラに振られたナルトに、サイがにっこりと笑う。
「玉なしはやっぱりちんカスだね。こういう時は誘う相手の好みに合わせるってこの本にも書いてあるよ」
「うるせー、ちんこ付いてるってばよっ」
「アンタ達って、サイテー!」
ぷりぷり怒り出したサクラの後を、慌ててナルトが追いかけていく。
「サクラちゃーん、待ってってばよ」
「おかしいな。確かにこの本には、そう書いてあるのにな」
ブツブツ独り言を言いながら、サイが熱心に自己啓発本に目を通していた。
他人とすぐに仲良くなる方法と言うタイトルの本に、ヤマトは思わず苦笑する。
「隊長も興味あるんですか?良かったら読んでみますか?」
ヤマトの視線に気がついたサイが、本を差し出してきたが、ヤマトは丁重に断りその場を後にした。

人の心の裏の裏を読み取り、意のままに操るようにして、急所を突く。
そんなやり方は暗部でなくとも諜報任務を請け負う者ならば、誰もが知っていて当然な理で、ヤマトでなくとも実践している者は多かった。
しかし――
純粋な好意を抱く相手に、思いを告げ、振り向かせる方法を、ヤマトは知らなかった。
詳細な戦略マニュアルがあるわけではない。
その点カカシは上手で、イルカとの間の距離を徐々に詰めて行っている。
ヤマトが頭の中でどれだけシミュレーションを繰り返したところで、イルカの心を掴むのは一筋縄ではいかなかった。

形勢逆転の一手はあるのか?
受付を出たヤマトが向かったのは、本部棟の中にある小さな休憩スペースだった。
通路の片隅に飲料の自動販売機とベンチが置いてあるだけの場所なのだが、任務受付所の側と言う事もあって、利用者は多い。
ヤマトは自販機で缶コーヒーを買うと、ベンチに腰を下ろした。
一口飲みホッと息を継いだ時だった。
「ヤマトさん」
大きく快活な声で、にっこりと笑いながら、イルカがひょっこりと現れた。
「任務お疲れ様です」
薄汚れ草臥れたヤマトの支給服を見て、任務後だと直ぐに分かったのだろう。
イルカが労いの言葉と共に、黒髪のしっぽを揺らしながら、頭を下げた。
「イルカさんは、これから受付ですか?」
「はい。午前中はアカデミーだったので」
ならばと、この機会に昼食に誘おうと口を開きかけた時、イルカが素っ頓狂な声をあげた。
その途端イルカの財布が床に落ち、小銭がジャラジャラとこぼれ落ちる。
「やべぇ」
慌てて拾い始めたイルカの姿に、ヤマトも床に屈み散らばった小銭を拾ってやった。
「はい、どうぞ」
「すみません」
少し恥ずかしそうにペコペコと頭を下げるイルカは、自販機を前にして再び財布を漁り出す。
ちょうど良い額の小銭がないのか、再び財布の中身をばらまきそうな勢いに、ヤマトは思わず頬が緩んでしまう。
おもむろに自分の財布の中から硬貨を摘まむと、ヤマトはイルカに手渡そうとした。
「どうぞ、使って下さい」
「あ、いや駄目ですよ」
困ったように目を見開くイルカが断る前に、ヤマトは自販機の中に硬貨を入れてしまう。
「どれにします?」
有無を言わさず問いかけるヤマトに、イルカは恐縮しながらも口を開いた。
「ヤマトさんと同じコーヒーでお願いします」

二人並んでベンチに腰を下ろし、缶コーヒーを飲みながら、背もたれに寄りかかると、全身の力が抜けた。
イルカの隣にいると、不思議と肩の力が抜けて、ヤマトは安堵するのだ。
戦場から帰還し、安全な場所へ辿り着いたと言う事を、イルカは実感させてくれる存在だった。
そんなヤマトの姿を見て、イルカもまたホッとした表情を浮かべた。
怪訝に思っていると、イルカが思わぬ事を口にした。
「ヤマトさん、あいつらの事で、何か困っている事でもあるんですか?差し出がましいようですが、俺で良ければ話しを聞きますよ?」
「困っている事?僕が?」
「はい」
何故イルカがそんな事を言うのか?理由が分からず、ヤマトは首を傾げるしかなかった。
困惑するヤマトの気持ちが伝わったのか、イルカが口を開く。
「最近いつも何か思い詰めているように見えたので」
無表情と言われる事はあっても、身の内の感情が表情として表れた事などなかったのに。
誰も気がつかない僕の表情の変化を、この人は読み取れるのか?
思わずじっとイルカを見つめると、イルカは照れくさそうに笑った。
「俺の気のせいですかね?」
あはははと笑うイルカに、「僕が困っているのは、貴方のせいです」とは言えなかった。
昼休憩の時間が終わった事を告げるチャイムが鳴り、イルカは慌てて腰を上げる。
「イルカさん」
思わず名を呼び引き留めてしまったのは、何故だろう?
ただ離れがたくて。もう少し側にいたい。
そんな溢れ出しそうな気持ちにそっと蓋をして、ヤマトは微笑んだ。
「受付、頑張ってきて下さい」


深夜ヤマトの姿は里から遠く離れた場所にあった。
獣面を身につけ、久々に裏の任務に就いていた。
隣を走るのは、ヤマトの敬愛するカカシだ。
普段は暗部としての実戦から身を引いているとは言え、相変わらず惚れ惚れするような技の切れ味で、忍びというのはこの人の為にある言葉なのではないかと思うほどだ。
久しぶりのツーマンセルで、手加減のいらないコンビネーションを組めるのはやはりカカシしかいない。
それだけ傾倒する相手だからこそ、そんな人が忍びとしての力の無いただの中忍教師にのめり込んでいる事が許せなかった筈なのに。
イルカを知ってしまった今では、そんなカカシにすら嫉妬にも似た気持ちを抱いてしまう。
カカシを変え、ヤマト自身の気持ちすらに浸透してしまったイルカは、誰にでも優しくて、彼が笑顔を向ける相手全てに食って掛かりたいような衝動すら憶えて、こんなに心を振り回すイルカは憎らしいくらいなのに。
彼をどうすれば振り向かせる事が出来るのか?
頭の中で繰り返し繰り返し、戦略を練る事を止められなかった。

下弦の月が南の空に上り、もう間もなく夜が明ける気配が漂っていた。
紺碧の空が東から薄明かりに包まれ始めた頃、ヤマトはカカシと共に高い針葉樹の枝にそれぞれ腰を下ろし、太い幹に背を凭れて、仮眠を取る事にした。
「忍犬達に見張りを頼んだから、お前もちゃんと寝なさいね」
忍犬を口寄せしたカカシが、ほんの少し草臥れた顔で微笑む。
先輩はこんなに穏やかな顔で笑う人ではなかったのに。
研ぎ澄まされた刃のようだったカカシを変えた、イルカの姿がカカシと重なって見えて、ヤマトは小さく嘆息した。
ヤマトのため息に気がついたカカシが、怪訝な様子で首を傾げた。
「なんか今日のお前、変だよ?」
「そうですか?」
「具合でも悪いの?そんな風には見えなかったけど」
「いえ、そんな事はありません」
先輩にも悟られるほど、今日の僕はおかしいらしい。
「最近どうしたの?お前もしかして、恋しちゃったんじゃないの?」
カカシはほんの軽い冗談のつもりだったのだろう。
ヤマトに鋭い一撃を食らわせたとは、気がつくはずもなかったが。
恋?これが恋か?
今まで気がつく事もなかった言葉に、呆気にとられてしまう。
イルカを自分の物にしたいという独占欲と恋が、いまいち結びついていなかった
「恋か……」
いつの間にかこぼれ落ちた言葉に、我に返った。
これが恋ならば――
カカシがイルカを捕まえる前に、なんとしてでもイルカを捕まえなくてはならない。
カカシはまだイルカの友人の域を超えてはいない。
それは断言できた。
なぜなら、ヤマトは知っていたからだ。
カカシは本当に大事な者程、迂闊には手を出さないと言う事を。
大切な者を数多く失ってきた男は、再び失う事を恐れてあと一歩が踏み出せずにいる。
それは誰よりも間近でカカシを見てきたヤマトだからこそ、知り得た事だ。
シミュレーションマニュアルに従うなら、相手の弱みを突き、その隙に奪うのが正攻法だ。
カカシはまだヤマトの気持ちを知らない。
このままカカシの弱さにつけ込んで、イルカを物にする、今が絶好のチャンスだと思われた。
だが――
そんな事出来るはずなかった。
だってそんなの、フェアじゃないだろう?
敬愛するカカシの目を盗んで、イルカを掠め取るなんて、らしくない。
戦略なんて通用するはずもないのだから。
「イルカさんは……まだ先輩の物と決まったわけではありませんよね?」
突然ヤマトの口から飛び出したイルカの名に、目を閉じていたカカシが身を起こした。
「何が言いたいの?」
事と次第によっては、ただでは済まない。そんなピリピリした空気が流れる。
「これは、宣戦布告です」
イルカを手に入れると決めたヤマトの宣告に、カカシが剣呑な目をした。
「お前、殺されたいの?」
「僕はただでは死にません。殺されるわけにはいかない理由が出来ましたから」
一歩も引く気はないのだと、暗に宣言すると、ヤマトの本気を感じ取ったカカシが、張り詰めた空気を自ら打ち破り、やれやれと肩をすくめた。
「全く、いつからこんなに生意気になったのか」
朝日が差し込んで、ヤマトとカカシの身体を照らし出す。
眠りに就いていた森の生き物たちが、目覚める気配が聞こえて来た。


久方ぶりに里へ戻ったヤマトは、その足で任務受付所へと向かった。
運が良い事に、受付にイルカの姿があった。
ヤマトは迷わずイルカの元へ進むと、彼に任務報告書を手渡した。
「お疲れ様でした」
明るく快活な声が響く。
とても人好きのする笑顔に目を細めながら、ヤマトは里へ帰還したら真っ先に言おうと思っていた事を口にした。
「イルカさん、今夜空いていますか?」
少しずつ、少しずつ。イルカとの距離を縮める為に。
「良かったら僕と飲みに行きませんか?」
彼の中に、自分の存在が浸透するように。努力は怠らないつもりだ。
にっこりと笑ったイルカの言葉は――
「喜んでお付き合いします!あ、その前に一楽に行きませんか?」
「分かりました」
了承の言葉に、ヤマトの顔にも笑みが浮かぶ。
そして夕刻、本部棟の入り口の前で落ち合って、ヤマトはイルカと共に一楽へ向かった。

一楽の暖簾を潜った先には、先客がいて。
「遅いってばよ!」
「ナルト!サクラ、サイもっ」
「ご苦労さん、俺もお邪魔しているよ」
まさかのカカシの姿もそこにあって、ヤマトは目を見開いて驚く。
その耳元に、イルカがこっそりと耳打ちした。
「俺が声かけたんです。ヤマトさんが七班の面々と上手くいっていないのかと思って」
イルカが満面の笑みで笑う。
「皆で食べた方が美味しいですよ」
邪気のない笑顔に拍子を抜かれて、唖然としていると、その背をカカシが軽く叩いた。
「そういうわけで、今日は俺も付き合うから」
クスクスと可笑しそうにカカシも笑う。
「イルカさんは、手強いなぁ……」
苦笑交じりに呟けば、同じ事を思っていたのかカカシも頷いた。



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