【Caution!】

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★エロし ★★いとエロし!
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木ノ葉の里の大門をくぐり抜けた郊外には、広大な田園地帯が広がっていて、ここで作られる農作物が里の食を支えていた。
農業従事者のほとんどは一般人で、忍びの里の住人であっても忍術の覚えがない者ばかりだ。
普段なら農作業の手伝いは忍びになりたての下忍の子供達の仕事なのだが、今日は珍しく上忍の姿があった。
「はたけ上忍!放水作業完了しました!」
「ん。りょーかい。それじゃあ次の畑ね」
「はい!」
キラキラした目を輝かせて、三人の子供達が駆けて行く。
「こうしているとあいつら思い出すねぇ」
まだまだ覚束ない忍術で、畑に水を撒く子供達の姿を、カカシは微笑ましそうに見守っていた。
上忍師でもないカカシが下忍の子供達を預かっているのは、たまたま非番で里に居たからなのだが、この場所を訪れたのはたまたまではなかった。
空を見上げると、カンカン照りの日差しが目に眩しい。
まだ梅雨も明けていないのに、木ノ葉の里は雨が全く降らなかった。
下忍の子供達が連日放水作業をしているが、カラカラに乾いた田畑を潤すには全く足りない。
田畑に引かれた農業用水が完全に干上がっている以上、焼け石に水のようなものだった。
「ちょっと上の方見て来るから」
カカシは子供達にそう声をかけると、農業用水の上流にある農業用のため池へと足を向ける。
本来ならば雨水をためている池は、底の方に申し訳程度の水が残っている位で、とても周辺の田畑に放流出来るような水量はなかった。
幾つかあるため池をカカシは全部確認して来たのだが、結果は同じだった。
「これは深刻だね」


夕刻、下忍の子供達を引き連れてカカシが任務受付所に向かうと、受付に座り黒髪のしっぽを揺らしながら、笑顔で帰還してきた忍び達の対応しているイルカの姿を見付けた。
思わずカカシの顔にも笑みが浮かぶ。
元部下である七班の子供達の、アカデミー時代の担任の先生だったイルカとは、今では良い飲み友達だった。
カカシの姿に気がついたイルカが破顔する。
「カカシさん!お疲れ様でした!」
「イルカ先生もお疲れ様」
カカシが下忍の子供達を促すと、子供達は任務報告書を緊張した面持ちでイルカに提出した。
「お願いします!」
「頑張って書いたな!」
イルカは嬉しそうに微笑みながら、子供達が書いた任務報告書を受け取った。
任務報告書を隅々までチェックして、受領印を押しながらイルカが口を開く。
「珍しいですね。カカシさんが下忍の子供達を連れているなんて」
「たまたま非番だったから頼まれたんですよ。あいつらと畑仕事した頃思い出しました」
あいつらと言っただけで、イルカは元教え子達の顔が浮かんだのだろう。
「また上忍師をしてみたくなったんじゃありませんか?」
「いやいや俺には先生役はもう無理です」
残念だな〜と笑うイルカは、少し寂しそうに見えた。
その寂しさの穴埋めをしたいとカカシは思い付く。
「先生今日はもうすぐ上がりですか?良かったらこの後一緒に一杯行きませんか?」
「お、良いですね。もちろん喜んでご一緒させて下さい」
イルカからOKが出て、カカシが内心ヨシッとガッツポーズを取った時だった。
「その前にカカシ。私に報告があるんじゃないのか?」
背後から声をかけられ思わず振り向くと、腕組をした状態で仁王立ちしている五代目火影と目が合う。
ニヤリと意地悪そうに笑う綱手に、さすがのカカシも綱手への報告を忘れていたとは言えず萎れるしかなかった。
「先生、ごめん。飲みに行くのは次回で良い?」
「良いですよ」
「本当にごめんね!また今度誘うから!」
「はい」
名残惜しいがイルカとの酒席を諦めたカカシは、先をズンズン歩く綱手の後に続き火影執務室に向かった。
執務室に入ると、綱手は執務机に着く。
「で、どうだった?」
徐に切り出した綱手は、緩慢な動きでシズネが持って来た茶を啜った。
カカシは下忍の子供達の監督の傍ら、調査してきた事を報告する。
「水不足は相当深刻ですね。農業用のため池が干上がってました。今日も田畑に下忍達と水撒きをして来ましたが、雨が降らない事には根本的な解決には至らないでしょうね」
「やはりな」
フムフムと綱手は頷く。
「当面の間打てる手は下忍達を動員して放水作業を続け、上忍クラスの水遁の達者な者にため池から水を流して貰う事位でしょうか」
「下忍の動員は続けるが、外勤の上忍を放水作業に回す余裕はない。カカシ、お前も分かってるだろう?」
綱手が火影として立ってから、木ノ葉崩しで失った人材の穴は埋まりつつある。
だが木ノ葉の里の周辺は常に不安定で、上忍という戦力を内政に割ける余力はなかった。
「最後の手段は雨乞いですかね。神頼みするしかないな」
諦め半分。冗談のつもりでカカシが呟いた時だった。
「それだよ、カカシ。よく言った!」
突然綱手は威勢良く叫ぶ。
「農民からお前宛の嘆願書が来ている」
綱手は勢いよく執務机の引き出しを開くと、一枚の紙を取り出す。
ご丁寧に血判の押された書類には、『はたけ家の当主は早急に龍神の子を娶え』と書かれていた。
「何なんですか?これは」
意味不明な内容にカカシは首を傾げるしかなかった。
「はたけ家の当主はお前だろう?親から何も聞かされていないのかい?」
「何も……聞いていませんね」
心当たりが無いカカシは困惑するしかなかった。
「この文面だけだと、俺に早く嫁を貰えって書いてあるように読めるんですが」
「察しが良いね。その通りだ」
「はぁ?何で見ず知らずの農民が、俺にそんな事要求するんですか!意味が分からないですよ!」
憤りを感じて声を荒げたカカシに、綱手はやれやれと大仰なため息をつく。
「はたけ家は、田畑の守り神である豊穣の神の末裔であり、代々水の神である龍神の子と契りを結ぶ事で、大地に稔りをもたらせてきた。龍神の子の末裔は水属性のチャクラを有していて、豊穣の神が見付けられるように、その名に水と龍を冠している。と、言うのが昔から伝わっている話だそうだ」
「……初耳です」
「そうだろうな。私もこの嘆願書で初めて知った」
初代火影の孫である綱手ですら知らない昔話だ。カカシが知るわけもない。
「はたけ家はもう何代も龍神の子を娶っておらず、そのため怒った龍神が雨を降らせないのだと、そう農民達は訴えている。カカシ、とりあえず龍神の子とやらを嫁にしときな」
サラッと、当然のようにとんでもない事を命じられて、さすがのカカシも固まるしかなかった。
「いや……いくら火影様の御命令でも、丁重にお断りしますよ。だいたい雨乞いで神頼みだなんて、非現実的過ぎます」
不快感を顕にしたカカシを見て、綱手が呆れた声をあげる。
「私が本当に嫁を貰えなんて、言うわけないだろう?とりあえずだ。とりあえず!形だけでも婚約したって事にしておけば、農民達も納得するだろう?そういう理由だからな」
綱手が目配せすると、シズネが一冊のファイルをカカシに差し出してきた。
「何ですか?これは」
「水と龍に関係がある氏族のリストです」
シズネがファイルのページをめくって見せる。
「龍神の子役が務まりそうな、年齢的に釣り合う方を予めリストアップしておきました」
「この中から好きな奴を選びな」
ニコニコと悪どい笑みを浮かべる綱手と、同情的な目をしたシズネ。
女性陣の圧に根負けして、カカシはファイルを渋々受け取ると火影執務室を後にした。



トボトボとカカシがファイル片手に本部棟の外へ出ると、いつの間にか周囲はすっかり暗くなっていた。
普段なら真っ直ぐ自宅へと歩を向ける所だが、今夜のカカシは家へと戻らず、無意識のうちにアカデミーの方へと歩いて行く。
イルカがよく昼休憩をしている前庭のベンチを見つけて、思わず腰を下ろす。
ポツンとベンチを照らす外灯の下で、カカシは一人夜の闇を見詰めていた。
「とりあえず形だけって言ったってね……それで済むわけないじゃない?絶対に確信犯だよね」
一度婚約なんてさせられたら、お芝居だと分かっていても、強引に結婚させられるのが目に見えている。
常日頃くのいち達から、カカシは秋波を送られ続けているのだ。
肉食系の彼女達が一度捕まえた獲物を逃すわけがない。
そう考えただけで憂鬱だった。
綱手にさえ捕まらなければ、今頃イルカと楽しく飲んでいた筈なのに。
そう思うと腹立たしくなり、手に持っていたファイルを火遁で燃やしてしまいたくなる。
さすがにそれは大人げないなと思い直したが、中身を見る気もおきずカカシはベンチの端に放り投げた。
ファイルは落ちた拍子に勢いよく中身が飛び出し、地面に書類が散らばってしまった。
「あー、もうっ!」
自分でやった事なのに苛立って、カカシは頭を掻いた。
「はー、しょうがない」
苛立ちは収まらなかったが、書類を撒き散らしたまま放置するわけにもいかず、諦めたカカシは渋々拾い始める。
見る気もおきなかった筈のファイルの中身だったのだが、結局嫌でも中身を見る事になってしまったのだ。
何枚か拾った書類には、シズネの言う通り水や龍といった姓を持つカカシと同世代の者の名と経歴が、ご丁寧に顔写真付きで載っていた。
その中の何枚かを見比べて、カカシは首を傾げる。
「てっきりくのいちの釣り書だと思っていたけど、男もいるのか……」
龍神の子ならば性別は問わないという意味か?
大事なのは龍神の末裔という血筋なのかもしれない。
そう結論付けた時だった。
「カカシさん?」
突然声をかけられて、カカシは思わず声の主の方を見る。
そこには怪訝な顔をしたイルカがいた。
イルカはゆっくりと歩いて来ると、カカシの足元に散らばった書類を見付け驚いた。
「大丈夫ですか?」
カカシの足元に屈み込み、イルカが書類を拾い始める。
「イルカ先生、すみませんっ」
「はい。どうぞ」
全て拾い集めたイルカに書類を手渡されてカカシは恐縮した。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
照れ臭そうに笑うイルカにつられて、カカシもようやく苛立った気持ちが落ち着いてきた。
そのままベンチに座りこんだカカシの隣にイルカも腰を下ろす。
「先生はもう家に帰ったと思ってました」
「受付が終わった後、アカデミーに戻って事務処理して来たんです。思ってたより時間がかかってしまって、この時間になってしまいました」
そう話すイルカは、先程からカカシが受け取った書類の束が気になるようで、時折視線が書類へと向けられる。
「あの……それは?」
「これですか?」
イルカに問われてカカシは一瞬返答に迷った。
何も後ろめたい事など無いのだが、正直に「婚約者候補のリストです」とは言えなかったのだ。
「あ……いや、いいです!無理に教えてくれなくても。守秘義務ありますもんね!ただ……俺の経歴書もあったんで。それで……何かやらかしたかな?って気になって」
その言葉にカカシは大慌てで書類の束を確認する。
その中にうみのイルカと書かれた経歴書を見つけ、手が震えた。
まさかのイルカ先生が婚約者候補!!
「せっ、先生!!俺と婚約して下さい!!」
思わずイルカの両肩をガシッと掴み、カカシは叫んだ。
「お願いします!!俺を助けると思って!!お願いっ!!」
「えっ?えええっ?」
驚いたイルカの腰が引ける。
カカシは逃すまいと鼻息荒く、必死に掴んだ手に力をこめた。
「ちょっと、落ち着いて下さい」
余程カカシが焦っているように見えたのか、イルカはタジタジになりながら、なんとかカカシの手から逃れようともがいていた。
「本当に落ち着いて!カカシさん、落ち着いて話しましょう!」
フハー、フハーと息を荒げるカカシも、イルカの言葉にようやく落ち着きを取り戻した。
「すみません。突然。俺も必死だったもので、つい」
カカシはらしくない事をしてしまったと、頭をかいた。
イルカは苦笑いしていたが、言いにくそうに口を開く。
「あの……婚約って。実はもうしてるんですよね。俺」
「えっ」
「婚約者がいるようで……」
思わぬ言葉にカカシは凍りつく。
カカシの表情が見る見る変わり、剣呑な空気を纏う。
「誰よ、それ。俺の知ってる奴?」
「あー、その……俺もよく知らないんですが。何でも子供の頃、三代目のじいちゃんから持ち掛けられた話だそうで。俺の家は水の神様の眷属だったとかで、田畑の神様と夫婦になるって決まりがあって。だけどもう何代も夫婦になってないから、そろそろ水の神様の堪忍袋の緒が切れるだろうって。それで俺を嫁にってじいちゃんが言ったみたいで、父ちゃんが怒ってイルカは男だしうちの跡取りだから嫁になんかやらないって」
どこかで聞いたことのある話に、カカシの纏う空気も和らぐ。
「俺に妹が出来たら嫁にするって、父ちゃんとじいちゃんとの間で話は決まったのですが、結局妹は出来なかったんです。だから暫定的に俺が婚約者って事になってて……」
困ったように微笑むイルカの話に、カカシは思わず頭を抱える。
「えーと、カカシさん?」
「それ、俺」
どうしよう?先生が婚約者だったなんて。
ホッとしたやら、嬉しいやらで、カカシの顔はニヤけてしまう。
「畑の神様の末裔って俺なのよ」
「ふぇっ?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、イルカは驚いている。
カカシがこの好機を逃す筈はなかった。
驚き戸惑うイルカが思考停止している内に、畳み掛ける。
「イルカ先生。先生も知ってると思いますが、木ノ葉の里は現在空梅雨で、このままだと農作物への被害は免れません。深刻な水不足は里のインフラも破壊してしまいます!せっかくここまで復興させた木ノ葉の里が、龍神の怒りで壊滅してしまうかも……俺達が婚約さえすれば、里の水不足が解消される筈なんです!農家の皆さんを助ける為にも、いえ里を救うためにも!俺と婚約してください!」
ガシッとイルカの両手を握りしめ、カカシはじっとイルカの両目を覗き込む。
ここぞとばかりにいつもは眠そうな目を見開いて、里の未来を憂いでいると、カカシは悲壮な面持ちで訴える。
イルカは「あぁ〜」だの「うーっ」だの呻いていたが、顔を真っ赤に染めると「分かりました」と頷いたのだ。



数日後。相変わらず雲一つない空の下、綱手に嘆願書を出してきた農民達に会う為、カカシはイルカを連れてのどかな田舎道を歩いていた。
「本当にひどい水不足なんですね。ここまで深刻だとは思いませんでした」
周囲の田畑を眺めながら、イルカが呟く。
「この草なんて、除草剤でも枯れないって言うくらい手強い雑草なんですよ。それが焼けちゃってる」
人の背丈はありそうな雑草の葉は茶色く変色しており、イルカが触れただけでチリチリと崩れてしまった。
「農家の方が嘆願書出すのも頷けますね」
イルカはフムフムと興味深そうに農地を眺めていた。アカデミーで薬草や毒草等の授業も担当しているせいか、イルカの中ではフィールドワークに出ている感覚なのだろう。
婚約発表に出向いているという緊張感は無いようで、カカシは内心ホッとしていた。
婚約なんてやっぱり嫌ですって言われても、今更逃がすわけにはいかないしね。
しばらくそうして歩いていくと、農家達が住む集落が見えて来た。
集落の中心には広場が見え、大きな樓が建てられている。
青空の下高くそびえる樓の周囲には、人だかりが出来ていた。
「何やってるんだろう?」
イルカの手を引き、カカシは人だかりの側まで近付いて行く。
突如として獅子舞のように蛙を模倣した面を頭からスッポリと被った人物が現れ、人々が見守る中櫓を登りはじめた。
忍びではなさそうなのに、ひょいひょいと器用に一番高い所まで蛙男は登っていく。
その姿を見て人々は歓声を上げ、一気に賑やかになった。
櫓のてっぺんで蛙男は弓を引き、遠くへと矢を飛ばす。
そして道化師のように奇妙な舞を踊り始めた。
「あちゃー、危なっかしいな。大丈夫なの?あれ」
忍びでもない蛙男が舞う姿に、冷や汗をかくカカシの隣で、イルカが神妙な顔を浮かべた。
「雨乞いの舞ですね。初めて見ました」
「雨乞いって……本当に神頼みしちゃってるわけね」
思わずカカシは頭を抱えたくなる。
青空に向けて軽快な舞を披露する蛙男の努力虚しく、空は依然としてかんかん照りのままだった。
しばらくしてようやく蛙男の舞が終わった頃だった。
「そこの忍の兄さん達。火影様のお使いで来たのか?」
中年の農民の男が一人、声をかけてきた。
「ああ、そうだが」
「銀色の髪に片目出しって事はあんたがはたけ家の当主。はたけカカシか?」
「まぁ、そうなるね」
「そうかそうか。皆はたけの神様の子孫が来たぞ!」
男の声に周囲の視線が一気に集まる。
ジロジロと不躾な視線に囲まれて、カカシは居心地の悪さを感じた。
チラリと隣を見ると、イルカも同じく居心地が悪いのか苦笑いしている。
「それで龍神様の子を娶ったのか?」
「ああ、もちろん。まだ清い関係だけどね」
カカシの言葉にイルカが突然ゲフゲフと咳き込んだ。
「龍神様の子はどこにいる?」
「今日は連れて来ていないのか?」
「せっかく雨乞いしているのだから。この場で龍神様に見せなければ」
やいのやいの言う農民達の勢いに、カカシも困惑していた時だった。
「はたけ家の当主って言うのはあんたか」
一際貫禄のある声が響き、農民達が一斉に口をつぐむ。
どうやらこの初老の男が農民達の長らしい。
「俺がはたけカカシだ。この人はうみのイルカ。あんた達の言う龍神様の子で俺の婚約者だ」
初老の男はイルカを見ると表情を変える。
「確認するが……わしの目には男に見えるが?」
不躾に上から下まで見られて、イルカは気まずそうに身を竦めた。
「ああ、そんなにジロジロ見ないでよ!先生が減るでしょ!」
シッシッと手を払い、男の視線を追い払うように、カカシはイルカを背後に隠した。
初老の男は腕を組み、険しい表情を浮かべる。
「龍神様の子が男とはな。他に女はいないのか?」
「残念ですが、俺には姉も妹もいないんです。どうしても女性がよければ、他を当たってもらうしかありません」
「何言ってるの。俺は先生だから良いんだよ」
「でも……」
シュンとして俯いてしまったイルカを抱き寄せながら、カカシは初老の男に書類を突き付ける。
「ほら、これ見て!五代目公認の婚約証明書。ちゃんと火影の印が押されてるデショ」
初老の男は書類を受け取ると、眉間にしわを寄せながら文面を確認する。
「確かに火影様の印が押されてる。だが実際問題、男を娶う事が出来るのか?確かに龍神様の子の性別は古文書に伝わってないが、夫婦になるのが条件である以上男では駄目ではないのか?」
渋る男にイルカも「ですよね〜」と逃げ腰だ。
「頭が固いねぇ……先生の事、抱けるか抱けないかで言ったら、抱けるって言ってるの!」
カカシは問答無用でイルカの頬を掴むとその唇に口付ける。
前触れも無く突然の事に、イルカは固まってしまった。
イルカが抵抗しないのを良いことに、カカシは濃厚なキスを堪能した。
息切れを起こしたイルカの力が抜けた事に気付いたカカシは、ようやくイルカを解放する。
その途端目に涙を浮かべていたイルカが、キッとカカシを睨みつけてきた。
「い、いきなりなんて!酷すぎます!心の準備って物があるでしょう!」
「ごめんね」
「だいたいこんなっ!こんな場所でするなんて!」
プルプルと怒りで震えながら、イルカの右拳に力が入る。
カカシのみぞおちに向けて拳が振り下ろされようとした時だった。
ポツポツと空から雨粒が降ってきたのだ。
「雨だ!!」
「龍神様のお恵みだ!!」
農民達が一気に歓声をあげる。
久方ぶりに降ってきた雨に喜ぶ農民達は、カカシとイルカへの興味も無くなったようで、周囲はお祭り騒ぎとなった。
「帰りますか」
「そうですね」
この隙にと、カカシはイルカを連れてその場から抜け出した。


小雨が降り続く中、カカシはイルカと元来た道をのんびりと戻りながら、干上がった大地に水が染み込んで行く様子を眺めて歩いた。
空を見上げれば雨雲が周囲を覆い、これは本格的に降って来るなとイルカと顔を見合わせる。
「急ぎますか」
「急ぎましょう」
二人同時に駆け出したが、雨はいくらも経たないうちに土砂降りになってしまった。
「あそこ!取り合えず雨宿りして行きましょう!」
カカシが見付けたのは農地に作られた農機具小屋だった。
二人で小屋の中に逃げ込んで、ホッと息をつく。
「これはしばらく降りそうですね」
稲光まで鳴りはじめた空を見詰めながら、イルカが呟いた。
「雨が降ってくれたのは良いけど、いきなり過ぎだよねぇ」
激しい雨が農機具小屋のトタン屋根を叩く音が響く。
「皆さんが待ち望んでいた雨ですから。雨乞いの舞のお陰ですね」
にっこり微笑むイルカにカカシは思わずツッコミを入れる。
「いやいや、俺達のチューのお陰でしょう!龍神が婚約を喜んだ証拠ですよ!」
「ううっ……そうでしょうか?」
「そうです!!」
カカシは逃げ腰のイルカの体をがっちりとホールドする。
「神様の思し召しですからね!」
そう言って、カカシはどさくさ紛れにイルカの頬にキスを落とす。
「ヒャー!」
カカシの腕の中で、イルカは真っ赤になってジタバタと身じろいだ。
そんな姿も可愛いなと思った時だった。
「カカシさん、見てください!」
突然イルカが叫ぶ。
「虹が出てます!!」
「あらら、本当」
いつの間にか止んだ雨の向こう側には、綺麗な虹が表れていた。
「これは本格的に期待されちゃってるって事だねぇ」
「期待って何をですか?」
「決まってるでしょ?」
水の神である龍神が、豊穣の神である畑の神に願う事と言ったら一つだけ。
雨水が田畑を潤し、豊かな実りをもたらすように。
畑の神に龍神の子が嫁ぐ日を待ち望んでいるのだ。
【完】
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