【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old
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僕は今、イルカ先生を追いかけている。
追尾、と言った方がいいかもしれない。いつでも捕まえられるけど、彼の気配をもっと感じていたいから、それはしない。必死に逃げてる今なら、イルカ先生の頭の中は僕のことでいっぱいだろう。
それって……なんだか素敵だ。
イルカ先生は意外にもクレバーな逃走をするから面白い。意外と言ったら失礼かな。中忍だからとどこかで侮っていたのかも。
でも里でのナルトの見張りと守護を拝命してたらしいから、これくらいの実力はあって当然なんだろうな。アカデミー教師はオールラウンダーで人格的にも認められた者しかなれないって、そういう全方位にバランスのいい忍なんて稀だよねと、先輩も尊敬を滲ませて言ってたし。
あの先輩にそこまで言わせるイルカ先生に興味があったのは本当だ。
ナルトも、何かにつけ「……ってイルカ先生が~」「イルカ先生の~」とイルカ先生を絡めないと話ができないみたいだし。
――おっと、クナイが飛んできたな。
でもこれは目眩ましを兼ねた誤導だ。飛んできた方向にイルカ先生は居ない。これくらいで逃げ切れると本気で思ってるなら、ずいぶん舐められたものだ。
この逃走の仕方はまるで兎みたいだ。足跡を追わせて自分は脇に跳んで隠れ、やり過ごして別方向に逃げる。
すると僕は猟犬か狐か。
それを連想させるのは、ナルトや先輩なんだけどな。僕は至っておとなしい栗鼠みたいなものなのに。
愉しくて忘れてたけど、そもそもなんで逃走劇が始まったんだっけ?
――ああ、イルカ先生が僕を見て、怯えた顔をして逃げるように去っていったからだ。ナルトの修行の休憩の時に……
大量の影分身を維持させ、なおかつ各々が新しい技を修得しようとチャクラを使うのは、想像を遥かに超えた負担がかかる。
こんな無茶苦茶な修行法は、ナルトにしかさせられない。
さすがのナルトもバテて倒れてる時に、噂のイルカ先生が来たんだった。
風呂敷に包んだ大きな弁当箱を抱えて。
「こんにちは! 差し出がましいですが、弁当を作ってきました……って、ナルト?!」
イルカ先生が弁当箱を放り出してナルトに駆け寄ったので、僕はそれをキャッチして地面に置いた。
「大丈夫ですよ、ちょっとバテただけですから。アカデミーのイルカ先生ですよね?」
「あっ、はい、うみのイルカと申します。あの、ナルトはホントに……」
ナルトの傍らにしゃがみこみ、頬に手を当てたりチャクラを確かめたりと忙しそうだったイルカ先生が僕を見上げた。
黒い瞳がすがり付くように、ひたりと僕を見つめる。
――気圧されるような、吸い込まれるような。
そのあまりの圧に、引力と斥力を同時に感じて戸惑う。
「……あの?」
「ああ失礼、ナルトは寝てれば治りますよ。単なるチャクラ切れですから」
「そうですか! なんだよもう、心配かけやがって!」
ぶわ、と太陽が咲く。
花が咲く、なんて表現では足りなかった。
まさしく太陽が咲いたのだ。僕に向かって。
ナルトはいつもこの笑顔を向けられているのだろうか。
こんな笑顔に灼かれてしまわないのだろうか。
そういえば先輩のイルカ先生評に含まれていたのは、敬意だけではなかった気がする。憧憬か、畏怖か。いずれにしろ僕たちのような者とは相容れない、異質のものを先輩も感じていたんだろう。
……でも僕は。
そんなことをつらつらと考えていた僕を全く気にも留めず、イルカ先生はこちらに来て弁当の包みを持ち上げた。
「弁当を作ってきたんで、よかったらお昼をご一緒しませんか? え~と……」
「ヤマトです。お邪魔じゃなければ喜んで」
「ヤマトさんですね。お邪魔なんてとんでもない! いつもナルトがお世話になってるんだから、これくらいさせて下さい!」
大の字に寝ているナルトの横で、二人で弁当を広げる。
本来なら面識のない人間の手作りなど、決して口にしない。たとえ三代目直々にナルトの護衛を任されるような人間の物でも。
だけど僕は、毒見すらせずに厚焼き玉子を頬張った。
イルカ先生の弁当は……なんて言ったらいいんだろう。
「おいしいです」
「そうですか! お口に合ったなら良かったです。どんどん食べて下さいね! こっちの野菜の肉巻きも自信作なんですよ」
またあの笑顔だ。
太陽が僕に、僕だけに向かって咲いている。
この笑顔を自分に向けてもらえるなら、毒を仕込まれるくらいは大したことじゃないと思ってしまう。
もし彼が草だとしたら、相当優秀だ。或いはハニートラップだとしたら、僕は完全に骨抜きにされると断言できる。
そこまで考えて、はたと思考が止まった。
なぜハニートラップなどと。
彼は男だ。しかもそういう任務には全く向かなそうな、僕と同じ武骨な男。
大きな口を開けて、うまそうにおにぎりを頬張るイルカ先生の顔を見る。片方の頬が膨らんで栗鼠みたいだ。
もぐもぐと咀嚼してごくりと飲み込むと、指についた米粒を一本一本しゃぶって、丁寧に真剣に舐めとっている。
その一連の動きを眺めていたら、不意に。
本当に不意に、イルカ先生の不埒な姿を重ねてしまった。
あの指に舌を這わせ、口に含んでしゃぶって歯を立てたら、彼はどんな顔をするんだろう。
あの赤くて柔らかそうな舌は、僕の口の中でどんな風に動くんだろう。
あの大きな口に僕のを突っ込んだら、あの笑顔は苦しそうに歪むんだろうか。
それとも、あの黒い瞳をとろりと蕩けさせて――
「ヤマトさんはおにぎりもう一ついかが……です、か……」
イルカ先生が、半分くらいに減ったおにぎりのお重を差し出してくれたけど、その手が宙で止まった。
僕にかけた声が尻すぼみになって、急に焦り出すとバタバタと弁当を片付け始めた。
「あの、残った分はナルトが目覚めたら食わせてやって下さいね。それじゃ俺は、その、戻りますので。え~と、し、失礼します!」
そう言うが早いか、走り去ってしまった。
急にどうしたんだろう、あんな引き攣った顔をして。呆気にとられて見送ってしまったけど、気になる。
僕は木分身を出すとナルトの側に残して、イルカ先生を追いかけた。
本当に、なぜ急に怯えてしまったんだろう。
しかも顔は青褪めてるのに頬が真っ赤で、見たこともない不思議な顔色をしてた。
その直前までは、この世の幸せを全部口に詰め込んでますという顔をしてたのに。
追いかけっこは楽しかったけど、そろそろ捕まえて聞いてみなくては。
イルカ先生は追われる動物の本能か、森の中に逃げ込んでいる。森なんてまさに僕の独壇場なのに。まぁ、今日初めて会ったから、そんなことも知らないのは当然だ。それがなぜか不満に感じる。
その微かな苛立ちをぶつけるように、僕は右側に伸ばした腕から太い蔓を何本も飛び出させた。
黒い兎のいる方向――奇しくも卯の方角に。
「……っ!!」
ガサッと音がして、手応えがあった。
そちらに向かうと、蔓に巻き取られたイルカ先生が地面に転がっている。
「なんだよこの蔓は?! なんでこんなことするんですか!」
「なんでって、急に逃げるからですよ。どうしたんですか?」
「どうしたって! ヤマトさんが凄い怖い顔で俺を見るからでしょう! しかもこんな狩りの真似事までして……なんなんですか、もう!」
イルカ先生が半泣きになって喚いている。
顔を真っ赤にして叫んでるけど、そんなに怖かったんだろうか?
「すみません、怖がらせて。でもそれならそう言ってくれれば良かったのに。黙って逃げられたら気になりますよ」
「それは……! その、すみません。だって……」
朗らかな彼らしくもなく、口を尖らせてもごもごと口ごもる。
「だってヤマトさん、俺のこと……あー、生肉を前にした腹ペコの狼みたいに見てたから……とっさに逃げちまいました。すみません」
腹ペコの狼……?
僕が?
「いや弁当はおいしかったけど、そんな餓えてた訳ではなかったですよ?」
「そうじゃなくて! そうじゃなくて、ですね。その……俺を、今にも喰らいそうな、そんな感じだったんです」
「僕にカニバリズムの気はないと思いますけど」
すると、ブチッと音がしたような気がした。
まさかイルカ先生が素手で僕の蔓を引きちぎったのかなと見ると、先生が血管の切れそうな憤怒の顔で僕を睨み付けた。
「違うわ! 喰らうって、そっちじゃなくてだな! 俺をあからさまに性的な目で見てたっつってんだよ! なんでそんな鈍いんですかっ」
――ああ、そういうことか!
思わず手のひらに拳をポンと打ち付ける。
「ははっ、伝わってたんですか。それは失礼しましたね」
「伝わってましたよ! あんなギラギラされたら、犬でも分かりますよ!」
「いえね、貴方の食べる顔を見てたら、急に閨での姿を想像してしまって。その大きな口で僕のを頬張ったらどんな顔になるのかなぁとか、貴方の指や舌をしゃぶってみたら、貴方はどんな……」
「ストップ、ストップ、ストーーーップ!!!」
イルカ先生が足をバタバタとさせながら叫んだ。
「もういい止めろ! そんなこと聞きたくない! 自覚がなかったならもういいです! ……とにかくこの蔓をほどいて下さい」
「ほどいても僕から逃げませんか?」
「えっ、それは……逃げるというか、戻りますよ。夕方から受付があるんです」
僕は空を見上げた。夕方まではまだ間がある。
それなら、イルカ先生ともう少し一緒にいたい。
「すみません、それはできません。僕はもっと貴方と話したい」
「話ならほどいても出来るでしょうが。ヤマトさん、アンタいったい何がしたいんですか?」
「何がって……できれば貴方を抱いてみたいですね」
するとイルカ先生の空気が変わった。
冷たく、硬質なものに。
「それが上官命令だと仰るなら拒否します。その上で権力を行使したいなら、お好きにどうぞ。ですが私は最後まで抵抗しますので、その事をお忘れなく」
「う~ん、じゃあ止めときます」
「……へっ、止めるんですか? そんな簡単に? あっ、油断させてガバッとか術とか」
「しません。僕は貴方と……何て言ったらいいんでしょう、ナルトの言ってるような……仲良く? そうなりたいんです」
イルカ先生が地面に仰向けに転がったまま、あんぐりと口を開けて僕を見た。
まるで僕が、地球上では見たこともない生き物だとでもいうように。
そして「何言ってんだコイツ、大丈夫か?」と呟いた。
「何って、思ったままを述べただけですけど」
僕が答えると、ぱちりと口を閉じる。
会ってから何度もくるくると表情が変わって、本当にイルカ先生は見ているだけでも面白い。こんな大人の忍は、僕の方こそ初めて見た。
「ああ、でも先輩方に、『気に入ったコができたら術でも薬でも使ってとにかく自分の物にしろ、監禁さえしなきゃセーフだ』って教えられましたが」
「その先輩方の教えは、一般的には犯罪というんですよ……」
イルカ先生が深々とため息をついた。
「とにかくヤマトさんに情操と常識の面で、著しく問題があるのは分かりました。おおかた暗部辺りのご出身なんでしょうが……」
すごい。なんで暗部って分かるんだろう。
やっぱりアカデミーの先生は、人を見る術に長けているんだろうか。常識については、座学で一通り学んできたから反論したいところだけど、知識と実践は別物だしな。
でも僕の知ってほしいのは、知りたいのはそういう事だけじゃなくて、もっと……
するとイルカ先生の顔つきがまた変わった。
今度は僕の知らない顔だ。
強いて言うなら――遠い昔の三代目、だろうか。
「とにかくヤマトさんは俺と仲良くなりたいんですよね? それなら先輩方の教えでは無理です。忘れて下さい。それから仲良くなりたい相手に力を行使するなんて、以ての外です。まず相手を思いやること、相手を尊重すること、好意をきちんと伝えること、これができて初めて対等な関係が築ける。それを仲良くなる、というんですよ」
僕はいつの間にか、イルカ先生の傍らに正座していた。
そして、うんうんと頷きながら頭にメモをしていく。
イルカ先生の説明は簡潔でとても分かりやすい。
何よりその声とリズム。
適切な声量と適切な強弱で、流れるように頭に入ってくる。これがアカデミー教師のテクニックというものなのかな。思わず聞き入ってしまった。
「以上を踏まえて、ヤマトさんはこの状況をどう思いますか?」
僕は自分を見て、それからイルカ先生を見た。
僕の右手から伸びた蔓が、地面に転がったイルカ先生をガッチリと拘束している。
「一方的な力の行使に見えますね」
僕は蔓の拘束をほどいた。
ばらりと蔓が先生の身体から落ちて、イルカ先生がやれやれと身体を起こす。
「……それから? 他にも言うべきことがあるでしょう。ああ、相手に悪いことをしたら、ごめんなさいですよ。あと嬉しいことをしてもらったら、ありがとうです。自分の気持ちを伝えるのは、人間関係において最も重要なことです」
イルカ先生の教えに基づき、自分の気持ちを確かめる。
僕はイルカ先生の嫌がることをしてしまった。それは僕が反省して改善すべき点だ。
そしてナルトとイルカ先生の為だけにしては、弁当の量が多かった。あれはきっと、最初から僕の分も作ってあったのだろう。まだ会ったこともない、ナルトの修行相手の分も。それはヤマトという人間の為ではなかったにしろ、素直に嬉しかった。
なので、この状況に最も相応しいと思われる言葉を選んだ。
「嫌な思いをさせてごめんなさい。あと、弁当をありがとうございます」
するとイルカ先生がちょっと目を見開いて。
ニカッ、と笑いかけてくれた。
ああ……まただ。
ぶわ、と太陽が咲く。僕に向かって。
しかも今度は弁当の味の感想などじゃなく、僕の感情を伝える言葉を聞いて、笑いかけてくれたんだ。
この一瞬だけ、この輝ける太陽は僕だけのものだ。
その歓びは身体の内側を駆け巡り、突き破って飛び出しそうなほどに強かった。
「あれ……? ヤマトさん、それは……」
イルカ先生が下を向き、彼を取り囲むようにとぐろを巻いて地面に落ちた蔓を見ている。
子供の腕くらいの太さの蔓には、さっきまではなかったはずの細い枝が何本も突き出ていて。
そこには紫の小さな花が塊になった物が、ぽん、ぽんと幾つもできていた。
「花、……が咲いてる?」
二人で眺めている間にも、蔓から細い枝が伸びてくると。
次から次へと溢れるように、紫の花がふわりふわりと咲き始めた。
「これは……藤の花ですね」
「フジ?」
「蝶のような紫の花が塊になって咲いてるでしょう? これは花房が垂れ下がってないから山藤ですよ。蔓も右巻きだし」
知らなかった。
というより、自分の身体から出す木遁の木にどんな花が咲くのかなど、気に留めたこともなかった。
僕はいつも、単にその時の状況に応じた質や形状の木を作り出し、使うだけだ。今回もイルカ先生を傷付けないよう、そして逃げ出せないように、丈夫でしなやかな蔓を出しただけだったのに。
「うわぁ、綺麗ですねぇ」
その単なる道具だった蔓に、花が咲いてしまった。
けぶるような紫の花に囲まれ、イルカ先生は無邪気に喜んでいるが。
そのイルカ先生が、花を咲かせてしまった。
そして、その花の名前を教えてくれた。
僕に咲く花。
今、確かに僕の中には、一つの花芽が生まれた。いずれ大きく花開くであろう、一つの蕾が。
いつかイルカ先生は、その花の名前も教えてくれるのかな。
その名前もきっと、とても……とても綺麗な名前なんだろう。
【完】
追尾、と言った方がいいかもしれない。いつでも捕まえられるけど、彼の気配をもっと感じていたいから、それはしない。必死に逃げてる今なら、イルカ先生の頭の中は僕のことでいっぱいだろう。
それって……なんだか素敵だ。
イルカ先生は意外にもクレバーな逃走をするから面白い。意外と言ったら失礼かな。中忍だからとどこかで侮っていたのかも。
でも里でのナルトの見張りと守護を拝命してたらしいから、これくらいの実力はあって当然なんだろうな。アカデミー教師はオールラウンダーで人格的にも認められた者しかなれないって、そういう全方位にバランスのいい忍なんて稀だよねと、先輩も尊敬を滲ませて言ってたし。
あの先輩にそこまで言わせるイルカ先生に興味があったのは本当だ。
ナルトも、何かにつけ「……ってイルカ先生が~」「イルカ先生の~」とイルカ先生を絡めないと話ができないみたいだし。
――おっと、クナイが飛んできたな。
でもこれは目眩ましを兼ねた誤導だ。飛んできた方向にイルカ先生は居ない。これくらいで逃げ切れると本気で思ってるなら、ずいぶん舐められたものだ。
この逃走の仕方はまるで兎みたいだ。足跡を追わせて自分は脇に跳んで隠れ、やり過ごして別方向に逃げる。
すると僕は猟犬か狐か。
それを連想させるのは、ナルトや先輩なんだけどな。僕は至っておとなしい栗鼠みたいなものなのに。
愉しくて忘れてたけど、そもそもなんで逃走劇が始まったんだっけ?
――ああ、イルカ先生が僕を見て、怯えた顔をして逃げるように去っていったからだ。ナルトの修行の休憩の時に……
大量の影分身を維持させ、なおかつ各々が新しい技を修得しようとチャクラを使うのは、想像を遥かに超えた負担がかかる。
こんな無茶苦茶な修行法は、ナルトにしかさせられない。
さすがのナルトもバテて倒れてる時に、噂のイルカ先生が来たんだった。
風呂敷に包んだ大きな弁当箱を抱えて。
「こんにちは! 差し出がましいですが、弁当を作ってきました……って、ナルト?!」
イルカ先生が弁当箱を放り出してナルトに駆け寄ったので、僕はそれをキャッチして地面に置いた。
「大丈夫ですよ、ちょっとバテただけですから。アカデミーのイルカ先生ですよね?」
「あっ、はい、うみのイルカと申します。あの、ナルトはホントに……」
ナルトの傍らにしゃがみこみ、頬に手を当てたりチャクラを確かめたりと忙しそうだったイルカ先生が僕を見上げた。
黒い瞳がすがり付くように、ひたりと僕を見つめる。
――気圧されるような、吸い込まれるような。
そのあまりの圧に、引力と斥力を同時に感じて戸惑う。
「……あの?」
「ああ失礼、ナルトは寝てれば治りますよ。単なるチャクラ切れですから」
「そうですか! なんだよもう、心配かけやがって!」
ぶわ、と太陽が咲く。
花が咲く、なんて表現では足りなかった。
まさしく太陽が咲いたのだ。僕に向かって。
ナルトはいつもこの笑顔を向けられているのだろうか。
こんな笑顔に灼かれてしまわないのだろうか。
そういえば先輩のイルカ先生評に含まれていたのは、敬意だけではなかった気がする。憧憬か、畏怖か。いずれにしろ僕たちのような者とは相容れない、異質のものを先輩も感じていたんだろう。
……でも僕は。
そんなことをつらつらと考えていた僕を全く気にも留めず、イルカ先生はこちらに来て弁当の包みを持ち上げた。
「弁当を作ってきたんで、よかったらお昼をご一緒しませんか? え~と……」
「ヤマトです。お邪魔じゃなければ喜んで」
「ヤマトさんですね。お邪魔なんてとんでもない! いつもナルトがお世話になってるんだから、これくらいさせて下さい!」
大の字に寝ているナルトの横で、二人で弁当を広げる。
本来なら面識のない人間の手作りなど、決して口にしない。たとえ三代目直々にナルトの護衛を任されるような人間の物でも。
だけど僕は、毒見すらせずに厚焼き玉子を頬張った。
イルカ先生の弁当は……なんて言ったらいいんだろう。
「おいしいです」
「そうですか! お口に合ったなら良かったです。どんどん食べて下さいね! こっちの野菜の肉巻きも自信作なんですよ」
またあの笑顔だ。
太陽が僕に、僕だけに向かって咲いている。
この笑顔を自分に向けてもらえるなら、毒を仕込まれるくらいは大したことじゃないと思ってしまう。
もし彼が草だとしたら、相当優秀だ。或いはハニートラップだとしたら、僕は完全に骨抜きにされると断言できる。
そこまで考えて、はたと思考が止まった。
なぜハニートラップなどと。
彼は男だ。しかもそういう任務には全く向かなそうな、僕と同じ武骨な男。
大きな口を開けて、うまそうにおにぎりを頬張るイルカ先生の顔を見る。片方の頬が膨らんで栗鼠みたいだ。
もぐもぐと咀嚼してごくりと飲み込むと、指についた米粒を一本一本しゃぶって、丁寧に真剣に舐めとっている。
その一連の動きを眺めていたら、不意に。
本当に不意に、イルカ先生の不埒な姿を重ねてしまった。
あの指に舌を這わせ、口に含んでしゃぶって歯を立てたら、彼はどんな顔をするんだろう。
あの赤くて柔らかそうな舌は、僕の口の中でどんな風に動くんだろう。
あの大きな口に僕のを突っ込んだら、あの笑顔は苦しそうに歪むんだろうか。
それとも、あの黒い瞳をとろりと蕩けさせて――
「ヤマトさんはおにぎりもう一ついかが……です、か……」
イルカ先生が、半分くらいに減ったおにぎりのお重を差し出してくれたけど、その手が宙で止まった。
僕にかけた声が尻すぼみになって、急に焦り出すとバタバタと弁当を片付け始めた。
「あの、残った分はナルトが目覚めたら食わせてやって下さいね。それじゃ俺は、その、戻りますので。え~と、し、失礼します!」
そう言うが早いか、走り去ってしまった。
急にどうしたんだろう、あんな引き攣った顔をして。呆気にとられて見送ってしまったけど、気になる。
僕は木分身を出すとナルトの側に残して、イルカ先生を追いかけた。
本当に、なぜ急に怯えてしまったんだろう。
しかも顔は青褪めてるのに頬が真っ赤で、見たこともない不思議な顔色をしてた。
その直前までは、この世の幸せを全部口に詰め込んでますという顔をしてたのに。
追いかけっこは楽しかったけど、そろそろ捕まえて聞いてみなくては。
イルカ先生は追われる動物の本能か、森の中に逃げ込んでいる。森なんてまさに僕の独壇場なのに。まぁ、今日初めて会ったから、そんなことも知らないのは当然だ。それがなぜか不満に感じる。
その微かな苛立ちをぶつけるように、僕は右側に伸ばした腕から太い蔓を何本も飛び出させた。
黒い兎のいる方向――奇しくも卯の方角に。
「……っ!!」
ガサッと音がして、手応えがあった。
そちらに向かうと、蔓に巻き取られたイルカ先生が地面に転がっている。
「なんだよこの蔓は?! なんでこんなことするんですか!」
「なんでって、急に逃げるからですよ。どうしたんですか?」
「どうしたって! ヤマトさんが凄い怖い顔で俺を見るからでしょう! しかもこんな狩りの真似事までして……なんなんですか、もう!」
イルカ先生が半泣きになって喚いている。
顔を真っ赤にして叫んでるけど、そんなに怖かったんだろうか?
「すみません、怖がらせて。でもそれならそう言ってくれれば良かったのに。黙って逃げられたら気になりますよ」
「それは……! その、すみません。だって……」
朗らかな彼らしくもなく、口を尖らせてもごもごと口ごもる。
「だってヤマトさん、俺のこと……あー、生肉を前にした腹ペコの狼みたいに見てたから……とっさに逃げちまいました。すみません」
腹ペコの狼……?
僕が?
「いや弁当はおいしかったけど、そんな餓えてた訳ではなかったですよ?」
「そうじゃなくて! そうじゃなくて、ですね。その……俺を、今にも喰らいそうな、そんな感じだったんです」
「僕にカニバリズムの気はないと思いますけど」
すると、ブチッと音がしたような気がした。
まさかイルカ先生が素手で僕の蔓を引きちぎったのかなと見ると、先生が血管の切れそうな憤怒の顔で僕を睨み付けた。
「違うわ! 喰らうって、そっちじゃなくてだな! 俺をあからさまに性的な目で見てたっつってんだよ! なんでそんな鈍いんですかっ」
――ああ、そういうことか!
思わず手のひらに拳をポンと打ち付ける。
「ははっ、伝わってたんですか。それは失礼しましたね」
「伝わってましたよ! あんなギラギラされたら、犬でも分かりますよ!」
「いえね、貴方の食べる顔を見てたら、急に閨での姿を想像してしまって。その大きな口で僕のを頬張ったらどんな顔になるのかなぁとか、貴方の指や舌をしゃぶってみたら、貴方はどんな……」
「ストップ、ストップ、ストーーーップ!!!」
イルカ先生が足をバタバタとさせながら叫んだ。
「もういい止めろ! そんなこと聞きたくない! 自覚がなかったならもういいです! ……とにかくこの蔓をほどいて下さい」
「ほどいても僕から逃げませんか?」
「えっ、それは……逃げるというか、戻りますよ。夕方から受付があるんです」
僕は空を見上げた。夕方まではまだ間がある。
それなら、イルカ先生ともう少し一緒にいたい。
「すみません、それはできません。僕はもっと貴方と話したい」
「話ならほどいても出来るでしょうが。ヤマトさん、アンタいったい何がしたいんですか?」
「何がって……できれば貴方を抱いてみたいですね」
するとイルカ先生の空気が変わった。
冷たく、硬質なものに。
「それが上官命令だと仰るなら拒否します。その上で権力を行使したいなら、お好きにどうぞ。ですが私は最後まで抵抗しますので、その事をお忘れなく」
「う~ん、じゃあ止めときます」
「……へっ、止めるんですか? そんな簡単に? あっ、油断させてガバッとか術とか」
「しません。僕は貴方と……何て言ったらいいんでしょう、ナルトの言ってるような……仲良く? そうなりたいんです」
イルカ先生が地面に仰向けに転がったまま、あんぐりと口を開けて僕を見た。
まるで僕が、地球上では見たこともない生き物だとでもいうように。
そして「何言ってんだコイツ、大丈夫か?」と呟いた。
「何って、思ったままを述べただけですけど」
僕が答えると、ぱちりと口を閉じる。
会ってから何度もくるくると表情が変わって、本当にイルカ先生は見ているだけでも面白い。こんな大人の忍は、僕の方こそ初めて見た。
「ああ、でも先輩方に、『気に入ったコができたら術でも薬でも使ってとにかく自分の物にしろ、監禁さえしなきゃセーフだ』って教えられましたが」
「その先輩方の教えは、一般的には犯罪というんですよ……」
イルカ先生が深々とため息をついた。
「とにかくヤマトさんに情操と常識の面で、著しく問題があるのは分かりました。おおかた暗部辺りのご出身なんでしょうが……」
すごい。なんで暗部って分かるんだろう。
やっぱりアカデミーの先生は、人を見る術に長けているんだろうか。常識については、座学で一通り学んできたから反論したいところだけど、知識と実践は別物だしな。
でも僕の知ってほしいのは、知りたいのはそういう事だけじゃなくて、もっと……
するとイルカ先生の顔つきがまた変わった。
今度は僕の知らない顔だ。
強いて言うなら――遠い昔の三代目、だろうか。
「とにかくヤマトさんは俺と仲良くなりたいんですよね? それなら先輩方の教えでは無理です。忘れて下さい。それから仲良くなりたい相手に力を行使するなんて、以ての外です。まず相手を思いやること、相手を尊重すること、好意をきちんと伝えること、これができて初めて対等な関係が築ける。それを仲良くなる、というんですよ」
僕はいつの間にか、イルカ先生の傍らに正座していた。
そして、うんうんと頷きながら頭にメモをしていく。
イルカ先生の説明は簡潔でとても分かりやすい。
何よりその声とリズム。
適切な声量と適切な強弱で、流れるように頭に入ってくる。これがアカデミー教師のテクニックというものなのかな。思わず聞き入ってしまった。
「以上を踏まえて、ヤマトさんはこの状況をどう思いますか?」
僕は自分を見て、それからイルカ先生を見た。
僕の右手から伸びた蔓が、地面に転がったイルカ先生をガッチリと拘束している。
「一方的な力の行使に見えますね」
僕は蔓の拘束をほどいた。
ばらりと蔓が先生の身体から落ちて、イルカ先生がやれやれと身体を起こす。
「……それから? 他にも言うべきことがあるでしょう。ああ、相手に悪いことをしたら、ごめんなさいですよ。あと嬉しいことをしてもらったら、ありがとうです。自分の気持ちを伝えるのは、人間関係において最も重要なことです」
イルカ先生の教えに基づき、自分の気持ちを確かめる。
僕はイルカ先生の嫌がることをしてしまった。それは僕が反省して改善すべき点だ。
そしてナルトとイルカ先生の為だけにしては、弁当の量が多かった。あれはきっと、最初から僕の分も作ってあったのだろう。まだ会ったこともない、ナルトの修行相手の分も。それはヤマトという人間の為ではなかったにしろ、素直に嬉しかった。
なので、この状況に最も相応しいと思われる言葉を選んだ。
「嫌な思いをさせてごめんなさい。あと、弁当をありがとうございます」
するとイルカ先生がちょっと目を見開いて。
ニカッ、と笑いかけてくれた。
ああ……まただ。
ぶわ、と太陽が咲く。僕に向かって。
しかも今度は弁当の味の感想などじゃなく、僕の感情を伝える言葉を聞いて、笑いかけてくれたんだ。
この一瞬だけ、この輝ける太陽は僕だけのものだ。
その歓びは身体の内側を駆け巡り、突き破って飛び出しそうなほどに強かった。
「あれ……? ヤマトさん、それは……」
イルカ先生が下を向き、彼を取り囲むようにとぐろを巻いて地面に落ちた蔓を見ている。
子供の腕くらいの太さの蔓には、さっきまではなかったはずの細い枝が何本も突き出ていて。
そこには紫の小さな花が塊になった物が、ぽん、ぽんと幾つもできていた。
「花、……が咲いてる?」
二人で眺めている間にも、蔓から細い枝が伸びてくると。
次から次へと溢れるように、紫の花がふわりふわりと咲き始めた。
「これは……藤の花ですね」
「フジ?」
「蝶のような紫の花が塊になって咲いてるでしょう? これは花房が垂れ下がってないから山藤ですよ。蔓も右巻きだし」
知らなかった。
というより、自分の身体から出す木遁の木にどんな花が咲くのかなど、気に留めたこともなかった。
僕はいつも、単にその時の状況に応じた質や形状の木を作り出し、使うだけだ。今回もイルカ先生を傷付けないよう、そして逃げ出せないように、丈夫でしなやかな蔓を出しただけだったのに。
「うわぁ、綺麗ですねぇ」
その単なる道具だった蔓に、花が咲いてしまった。
けぶるような紫の花に囲まれ、イルカ先生は無邪気に喜んでいるが。
そのイルカ先生が、花を咲かせてしまった。
そして、その花の名前を教えてくれた。
僕に咲く花。
今、確かに僕の中には、一つの花芽が生まれた。いずれ大きく花開くであろう、一つの蕾が。
いつかイルカ先生は、その花の名前も教えてくれるのかな。
その名前もきっと、とても……とても綺麗な名前なんだろう。
【完】
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