【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old
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ヤマトさんはちょっと変わった人だなぁ、と思う。
暗部出身みたいだし、一時的にナルトや七班のことを見てくれてるようだが、恐らくはまだ現役だろうから変わってるのも当たり前だ。
だがそれだけではない。
なにしろ俺のような、どこからどう見ても男! という者に対して劣情を催すのだから、相当な変わり者だと思う。
しかもそれを初対面で、本人を前に少しも悪びれず言い放つのだから質が悪い。ある意味では純粋とも言えるのかもしれないが、何かと驚かされるのは確かだと、目の前で静かに箸を使う男を眺める。
その箸だって、なぜか成り行きで俺の自宅で夕食をふるまうことになり、割り箸で申し訳ないのですがと言ったら「箸なら自分で出しますのでお気遣いなく」と指先から小枝を二本伸ばして、卓袱台の上にころりと転がった物を使っているのだ。
箸が転がっても可笑しい年頃という言い回しがあるが、箸が転がって驚いたのは初めてだった。
「この肉野菜炒め、おいしいですね」
変わり者の男が静かに言う。
だがその顔は無表情なままちっとも美味しそうには見えなくて、もしかしてお世辞だろうかと訝しむが一応礼は述べておく。
「ありがとうございます」
「肉が少ないところが宝探しみたいで面白いです」
「悪かったな! あー、いや、給料日前なんだから入ってるだけ有り難く思って下さい」
「そういうものなんですか」
ヤマトさんは感心したように頷きながら、箸で探ったりもせず的確に豚バラの切れっ端をまた一つつまみ上げて口に運ぶ。
そうだ、のんびり感心してる場合じゃない。食卓は戦場だって父ちゃんの教えに則って俺も肉の聖戦に参戦しなくては。じゃないと「イルカ先生の手料理をもっと食べたいです」という半強制的な願望を掲げて、いきなり家に乗り込んできたこの変人に負けてしまう。
そう勇んで箸を握った目の前に、「お代わりお願いします」と空の茶碗が突き出された。
どうもこの子……じゃない、この人を前にすると調子が狂う。
同い年だとさっき言ってたが、なんだか目と手を離せない生徒みたいだ。アカデミーでも時々いる、優秀なんだけどどこか危なっかしい子供。ヤマトさんは特に一般常識や情操的な部分が人とずれてるせいか、鈍感というか配慮に欠けるところが大人なだけにまたムカつくんだが。
いっそのこと感情的な部分では子供だと思った方が、腹は立たないのかもしれない。
今ものんびりと食後のお茶を啜ってるが、恐らくそろそろ来るであろう次の一言に備え、俺は下っ腹にぐっと力を入れた。今度こそ大人げなく叫んだりしないように、と言い聞かせながら。
「イルカ先生、今日は笑わないんですね」
「…………は?」
予想外の方向から普通なことを言われ、肩透かしを食らった気になる。
笑わないって言われても、アンタといても別に面白くもなんともないからなぁ。つーか俺のせいなのか?
それともあれか? 馬鹿正直に楽しくはないのでって言ったら、暗部直伝の一発芸でも見せて笑わせてくれんのか?
「あなたの笑顔は確かに眩しいですが、僕は木属性なので。他の人と違って日光は大事な栄養源だから大丈夫ですよ」
「はぁ…………えっと、はい」
いやスマン、無理!!!
暗部の変人っぷり舐めてた!
何を言ってるのかさっぱり分からんぞ……誰か訳してくれ!
いっそ笑いたくなっていたら、なぜかヤマトさんの方が小さく笑った。
「変な顔をしてますね」
「アンタが変なことばっかり言うからだろうが! っと、すみません……」
「いえ、見てると面白くて飽きないです」
「それは良かったですね。ヤマトさんも何か面白いことをしてくれていいんですよ」
しまった、叫んだ上に嫌味まで言ってしまった。
仮にも上官にと青くなったが、ヤマトさんは平然としてるどころか何か考え込んでいる。
「面白いこと……あぁ、一つ出来ます。見ますか?」
え、本当に暗部の一発芸を見せてもらえるのか?
そんなん見たいに決まってるじゃないか!
卓袱台に前のめりになって頷くと、ヤマトさんは顔回りを覆っていた額宛のような防具だか忍具をおもむろに外した。あれを使った一発芸かと鈍く光る金属をわくわくしながら見つめていると、視界の上方に黒っぽい蔦のような物が蠢いた。
なるほど、木遁と合わせ技なのかと目線を上げると――
「うわあっ! か、髪!」
短髪だったはずのヤマトさんの髪が、生き物のように肩を越えてずるずると胸元まで伸びてきている。
「えっ、カツラ⁉ な訳ないですよね、なんだこれ幻術?」
「カツラでも幻術でもなく僕の地毛です。引っ張ってみて下さい」
言われるがままに胸元の毛先を一束つまんで引っ張ると、ヤマトさんの頭が僅かに傾いだ。
うん、生えてるな。
「これはみんな驚くでしょうねぇ」
「誰も見たことないですよ。僕の秘密なので」
「スゲェ……え?」
「これは誰も、火影様ですら知りません」
――ヤバい殺られる!
こんなトップシークレットを知ってしまって、うっかり酔っ払って「ヤマトさんってぇ、ホントは髪長いんだぜ~!」なんて言った日にゃ俺の命日になる!
父ちゃん母ちゃんじっちゃんごめん……俺は木の葉の忍として慰霊碑に名を遺すことすらできないかもしれん。
ヤマトさんの髪をつまんだまま自分の暗い未来を予想してると、髪がさらに伸びたので慌てて手を離した。
毛先が胸下くらいまで届くと、ようやく止まる。
「子供の頃……別の名前で呼ばれていたところは、こんな風に髪を伸ばしてたんです。何かと不都合なので今は短くしてますが、一人の時はこちらの方が落ち着くし、好きなので」
「へぇ……いやでも髪ってそんな簡単に伸ばせるもんなんですか?」
頭に浮かんだ疑問をそのまま訊ねると、無表情だったヤマトさんの目が僅かにキラッと光を帯びた。
「体から蔓を伸ばせるなら、髪もできるんじゃないかと思ったら出来ました。多少のチャクラコントロールは必要ですが。ところで、面白くなかったですか?」
「へっ?」
面白いって、これが?
凄い一発芸ではあるが、そんなことより火影様すら知らない秘密って重すぎるだろ。
「いやぁ、面白かったです。素晴らしい術をお持ちで!」
とりあえず賞賛を求められてるのかと無難に褒めてみたが、ヤマトさんの顔はまた無表情に戻ってしまった。
それどころか、急に立ち上がると「それでは帰ります」と唐突に暇を告げた。
何か不興を買ってしまったのか?
俺の対応が間違ってたか?
もっと手放しで驚いて褒め称えるべきだったのかとぐるぐる考えながら、玄関に向かうヤマトさんの後にくっついていく。
まぁでも、やっとこの訳の分からん時間から解放される。「お気を付けて」とか「たいしたお構いも出来ませんで」とかもごもご呟いてると、ヤマトさんがくるりと振り返ったのでうっかりぶつかってしまった。
「あ、すみません」
「いえ、僕じゃイルカ先生を笑わせられないことが分かりました。それだけでも大きな収穫です」
最後まで噛み合わない会話だが、……俺を笑わせたかった?
また訳の分からんことを、と思ったところでふと思い出す。
そういえばナルトに弁当を持ってった時、俺が笑いかけた時だけ妙に黒目がでっかく見開かれていた気がする。
もしかして笑うって可笑しいじゃなくて、笑顔のことだったのか?
あー、それで俺のメシを食いたいとか、おいしいと言ってたのか。『面白いこと』に変に執着してたのも、たぶんそういうことだろう。
分かりにくいわ!!!
でもそんな不器用なところが、やっぱり放っておけない子供のようで。
今だって心なしかしょんぼりとして見える……ような気もする。
「ヤマトさん」
「はい」
ぶつかったせいで、お互い至近距離で顔を見合わせてることに気付く。
何を考えてるのかさっぱり分からない黒目がちの瞳が、真っ向から見返してくる。ということは身長が同じくらいなんじゃないか?
俺は一歩下がると問いかけた。
「今さらですが、今日は何をしに来たのか聞いても?」
「イルカ先生の作ったご飯を食べに」
「それは要望ですが、手段でもありましたよね。そうではなくて、目的は?」
ヤマトさんは面食らったように瞬きをぱちぱちと繰り返し、目的……と呟いた。
そして何か思い当たったらしく、あぁと頷く。
「僕がおいしいと言ったら、また笑いかけてくれるんじゃないかと思ったので。イルカ先生と仲良くなりたい場合は一緒にラーメンを食いに行くといいとナルトに教わったんですが、僕は油っぽい物が苦手なのでおいしいと言えません。ですからこちらに」
「ナルトが?」
そういえば俺と仲良くなりたいとか言ってたなぁ。だが、ここでまさかのナルトのアドバイスだったとは。
ナルト、お前のおかげで先生はなかなか厳しい時間を過ごしたぞ……でも、やっぱりな。
ヤマトさんは俺の笑顔をご所望らしい。なぜだか知らんが。
「あとは、あわよくば貴方を抱けるかもとも思いました。今日は誕生日なので」
「そこまでは言わなくていいです」
そうだ、忘れてました! 俺ってばうっかりさん!
こいつはただの変人じゃなく、俺の体を狙ってる変人だった。
あっぶねー、不器用な子供みたいだからって、ちょっと気になるくらいで引き留めてないでさっさとお帰り願おう。あと一歩だがここはまだ密室内だ。早く外に出してしまわなくては。
「ラーメンが苦手なのは残念ですね。それではお気を付け……」
さりげなく玄関のドアに誘導しようと伸ばした手が止まった。
「誕生日?」
「はい」
「誰の」
「僕のです」
「今日?」
「そうです」
「俺の方が年上じゃねーか! じゃなくて、それはおめでとうございます」
「先輩方によると、誕生日は特別な熱い夜を過ごせるそうです」
「……ですから、先輩方の任務以外の教えは忘れて下さい。特に人間関係と恋愛関係は」
俺はドアに伸ばした手を引っ込め、鼻の傷痕をほりほりと掻いた。
そして高くはない天井を見上げ、深く大きなため息をつく。
「……たぶん、アンタの言う『俺の笑顔』は作り笑いじゃない自然なもののことですよね。それは次回どっかで見て下さい。それからアンタとは恋人でも何でもないから、抱かれる訳にはいきませんので……今日はこれで我慢して下さい」
そう宣言すると、両腕を広げてヤマトさんを抱きしめた。
同じくらいの身長の同い年の男同士が、侘しい一人暮らしの玄関先で抱き合っている。なんとまぁ、シュールな絵面だ。
こんなんで誕生日を祝うことになってるのか甚だ疑問だが、ヤマトさんは自分の誕生日に俺なんかを抱けるかもと期待するような変人だ。
暗部でエリートで高給取りだから欲しい物なら何でも買えるだろうに、誕生日だから俺の笑顔が見たいなんて、そんな些細なことを望んでるんだ、こいつは。
「お誕生日おめでとうございます」
「泣いてるんですか?」
「泣いてません。今のどこに泣く要素があったんだよ」
「貴方が泣いてると思ったら勃起してしまいま「下半身のことは忘れろ。今は上半身だけで感じて下さい」
また不埒なことを言い出したので被せるように言うと、ヤマトさんは突っ立ったまま黙って抱きしめられていた。
同い年でしかも数ヶ月だが俺の方が年上と分かったせいか、どうしても扱いが雑になってしまう。でもこれは仲良くなったと言えるんじゃないだろうか。こいつの望み通りに。
「恋人になったら貴方を抱けるんですか?」
そこまでは仲良くなってねぇよ。
「恋人になるには、まずお互いの意思を確認しないと。互いが相手を好きで、もっと深く繋がりたいと思ったら付き合うんです」
「好き……って、こういうことですか?」
ヤマトさんがいきなり俺にキスした。
しかも舌! ベロが入って……
「ンむ……ぅう、ふ、……ぅ」
俺の口の中を味わうようにねっとり掻き回したと思うと、唇に舌を這わせ下唇を食んで甘く歯を立てて吸う。
かと思ったらまた舌が侵入してきて俺の舌を誘い出し、絡ませてはしゃぶり、……
「……ぅ、ぁ」
ヤマトさんの顔が少し離れても、唾液が糸を引いて繋がっている。
それを舌で巻き取って断つと、ヤマトさんは無表情ながらもちょっと潤んだ目で俺を見返した。
「イルカ先生は僕のこと好きですか?」
「ぇ、あ……?」
「嫌いではなさそうなやらしい顔ですので、これで恋人になれましたね」
そう一方的に宣言すると、「それでは夕食をご馳走さまでした。おやすみなさい」と背を向けて去っていった。
――口の周りを涎でべしょべしょにして、不覚にもちょっぴり勃ってしまった俺を放置して。
「んな……、な…………っっ何なんだアンタは!!!」
一人残された俺は、ぴたりと閉じられたドアに向かって叫ぶことしかできなかった。
やっぱりヤマトさんは分からない。
分からないが、どうやら恋人になってしまったらしい。
否定するにもどこに行けば会えるのか分からんし、ナルトの修行の場に怒鳴りこむ訳にもいかず日にちだけが過ぎていく。
『ヤマトさんの恋人』としての日々が。
これって誕生日に俺をプレゼントしてしまったことになるんだろうか。いやあげた覚えはないんだが、でも。
人生初の恋人という存在に、うっかり浮かれそうな自分がいて恐い。
次に会う時が来たらどういう展開になるかは本当に予測が付かないが、それまではアンタも浮かれてるといい。
誕生日にできた恋人に。
ああ、もう!
ハッピーバースデーだよちくしょう!
【完】
暗部出身みたいだし、一時的にナルトや七班のことを見てくれてるようだが、恐らくはまだ現役だろうから変わってるのも当たり前だ。
だがそれだけではない。
なにしろ俺のような、どこからどう見ても男! という者に対して劣情を催すのだから、相当な変わり者だと思う。
しかもそれを初対面で、本人を前に少しも悪びれず言い放つのだから質が悪い。ある意味では純粋とも言えるのかもしれないが、何かと驚かされるのは確かだと、目の前で静かに箸を使う男を眺める。
その箸だって、なぜか成り行きで俺の自宅で夕食をふるまうことになり、割り箸で申し訳ないのですがと言ったら「箸なら自分で出しますのでお気遣いなく」と指先から小枝を二本伸ばして、卓袱台の上にころりと転がった物を使っているのだ。
箸が転がっても可笑しい年頃という言い回しがあるが、箸が転がって驚いたのは初めてだった。
「この肉野菜炒め、おいしいですね」
変わり者の男が静かに言う。
だがその顔は無表情なままちっとも美味しそうには見えなくて、もしかしてお世辞だろうかと訝しむが一応礼は述べておく。
「ありがとうございます」
「肉が少ないところが宝探しみたいで面白いです」
「悪かったな! あー、いや、給料日前なんだから入ってるだけ有り難く思って下さい」
「そういうものなんですか」
ヤマトさんは感心したように頷きながら、箸で探ったりもせず的確に豚バラの切れっ端をまた一つつまみ上げて口に運ぶ。
そうだ、のんびり感心してる場合じゃない。食卓は戦場だって父ちゃんの教えに則って俺も肉の聖戦に参戦しなくては。じゃないと「イルカ先生の手料理をもっと食べたいです」という半強制的な願望を掲げて、いきなり家に乗り込んできたこの変人に負けてしまう。
そう勇んで箸を握った目の前に、「お代わりお願いします」と空の茶碗が突き出された。
どうもこの子……じゃない、この人を前にすると調子が狂う。
同い年だとさっき言ってたが、なんだか目と手を離せない生徒みたいだ。アカデミーでも時々いる、優秀なんだけどどこか危なっかしい子供。ヤマトさんは特に一般常識や情操的な部分が人とずれてるせいか、鈍感というか配慮に欠けるところが大人なだけにまたムカつくんだが。
いっそのこと感情的な部分では子供だと思った方が、腹は立たないのかもしれない。
今ものんびりと食後のお茶を啜ってるが、恐らくそろそろ来るであろう次の一言に備え、俺は下っ腹にぐっと力を入れた。今度こそ大人げなく叫んだりしないように、と言い聞かせながら。
「イルカ先生、今日は笑わないんですね」
「…………は?」
予想外の方向から普通なことを言われ、肩透かしを食らった気になる。
笑わないって言われても、アンタといても別に面白くもなんともないからなぁ。つーか俺のせいなのか?
それともあれか? 馬鹿正直に楽しくはないのでって言ったら、暗部直伝の一発芸でも見せて笑わせてくれんのか?
「あなたの笑顔は確かに眩しいですが、僕は木属性なので。他の人と違って日光は大事な栄養源だから大丈夫ですよ」
「はぁ…………えっと、はい」
いやスマン、無理!!!
暗部の変人っぷり舐めてた!
何を言ってるのかさっぱり分からんぞ……誰か訳してくれ!
いっそ笑いたくなっていたら、なぜかヤマトさんの方が小さく笑った。
「変な顔をしてますね」
「アンタが変なことばっかり言うからだろうが! っと、すみません……」
「いえ、見てると面白くて飽きないです」
「それは良かったですね。ヤマトさんも何か面白いことをしてくれていいんですよ」
しまった、叫んだ上に嫌味まで言ってしまった。
仮にも上官にと青くなったが、ヤマトさんは平然としてるどころか何か考え込んでいる。
「面白いこと……あぁ、一つ出来ます。見ますか?」
え、本当に暗部の一発芸を見せてもらえるのか?
そんなん見たいに決まってるじゃないか!
卓袱台に前のめりになって頷くと、ヤマトさんは顔回りを覆っていた額宛のような防具だか忍具をおもむろに外した。あれを使った一発芸かと鈍く光る金属をわくわくしながら見つめていると、視界の上方に黒っぽい蔦のような物が蠢いた。
なるほど、木遁と合わせ技なのかと目線を上げると――
「うわあっ! か、髪!」
短髪だったはずのヤマトさんの髪が、生き物のように肩を越えてずるずると胸元まで伸びてきている。
「えっ、カツラ⁉ な訳ないですよね、なんだこれ幻術?」
「カツラでも幻術でもなく僕の地毛です。引っ張ってみて下さい」
言われるがままに胸元の毛先を一束つまんで引っ張ると、ヤマトさんの頭が僅かに傾いだ。
うん、生えてるな。
「これはみんな驚くでしょうねぇ」
「誰も見たことないですよ。僕の秘密なので」
「スゲェ……え?」
「これは誰も、火影様ですら知りません」
――ヤバい殺られる!
こんなトップシークレットを知ってしまって、うっかり酔っ払って「ヤマトさんってぇ、ホントは髪長いんだぜ~!」なんて言った日にゃ俺の命日になる!
父ちゃん母ちゃんじっちゃんごめん……俺は木の葉の忍として慰霊碑に名を遺すことすらできないかもしれん。
ヤマトさんの髪をつまんだまま自分の暗い未来を予想してると、髪がさらに伸びたので慌てて手を離した。
毛先が胸下くらいまで届くと、ようやく止まる。
「子供の頃……別の名前で呼ばれていたところは、こんな風に髪を伸ばしてたんです。何かと不都合なので今は短くしてますが、一人の時はこちらの方が落ち着くし、好きなので」
「へぇ……いやでも髪ってそんな簡単に伸ばせるもんなんですか?」
頭に浮かんだ疑問をそのまま訊ねると、無表情だったヤマトさんの目が僅かにキラッと光を帯びた。
「体から蔓を伸ばせるなら、髪もできるんじゃないかと思ったら出来ました。多少のチャクラコントロールは必要ですが。ところで、面白くなかったですか?」
「へっ?」
面白いって、これが?
凄い一発芸ではあるが、そんなことより火影様すら知らない秘密って重すぎるだろ。
「いやぁ、面白かったです。素晴らしい術をお持ちで!」
とりあえず賞賛を求められてるのかと無難に褒めてみたが、ヤマトさんの顔はまた無表情に戻ってしまった。
それどころか、急に立ち上がると「それでは帰ります」と唐突に暇を告げた。
何か不興を買ってしまったのか?
俺の対応が間違ってたか?
もっと手放しで驚いて褒め称えるべきだったのかとぐるぐる考えながら、玄関に向かうヤマトさんの後にくっついていく。
まぁでも、やっとこの訳の分からん時間から解放される。「お気を付けて」とか「たいしたお構いも出来ませんで」とかもごもご呟いてると、ヤマトさんがくるりと振り返ったのでうっかりぶつかってしまった。
「あ、すみません」
「いえ、僕じゃイルカ先生を笑わせられないことが分かりました。それだけでも大きな収穫です」
最後まで噛み合わない会話だが、……俺を笑わせたかった?
また訳の分からんことを、と思ったところでふと思い出す。
そういえばナルトに弁当を持ってった時、俺が笑いかけた時だけ妙に黒目がでっかく見開かれていた気がする。
もしかして笑うって可笑しいじゃなくて、笑顔のことだったのか?
あー、それで俺のメシを食いたいとか、おいしいと言ってたのか。『面白いこと』に変に執着してたのも、たぶんそういうことだろう。
分かりにくいわ!!!
でもそんな不器用なところが、やっぱり放っておけない子供のようで。
今だって心なしかしょんぼりとして見える……ような気もする。
「ヤマトさん」
「はい」
ぶつかったせいで、お互い至近距離で顔を見合わせてることに気付く。
何を考えてるのかさっぱり分からない黒目がちの瞳が、真っ向から見返してくる。ということは身長が同じくらいなんじゃないか?
俺は一歩下がると問いかけた。
「今さらですが、今日は何をしに来たのか聞いても?」
「イルカ先生の作ったご飯を食べに」
「それは要望ですが、手段でもありましたよね。そうではなくて、目的は?」
ヤマトさんは面食らったように瞬きをぱちぱちと繰り返し、目的……と呟いた。
そして何か思い当たったらしく、あぁと頷く。
「僕がおいしいと言ったら、また笑いかけてくれるんじゃないかと思ったので。イルカ先生と仲良くなりたい場合は一緒にラーメンを食いに行くといいとナルトに教わったんですが、僕は油っぽい物が苦手なのでおいしいと言えません。ですからこちらに」
「ナルトが?」
そういえば俺と仲良くなりたいとか言ってたなぁ。だが、ここでまさかのナルトのアドバイスだったとは。
ナルト、お前のおかげで先生はなかなか厳しい時間を過ごしたぞ……でも、やっぱりな。
ヤマトさんは俺の笑顔をご所望らしい。なぜだか知らんが。
「あとは、あわよくば貴方を抱けるかもとも思いました。今日は誕生日なので」
「そこまでは言わなくていいです」
そうだ、忘れてました! 俺ってばうっかりさん!
こいつはただの変人じゃなく、俺の体を狙ってる変人だった。
あっぶねー、不器用な子供みたいだからって、ちょっと気になるくらいで引き留めてないでさっさとお帰り願おう。あと一歩だがここはまだ密室内だ。早く外に出してしまわなくては。
「ラーメンが苦手なのは残念ですね。それではお気を付け……」
さりげなく玄関のドアに誘導しようと伸ばした手が止まった。
「誕生日?」
「はい」
「誰の」
「僕のです」
「今日?」
「そうです」
「俺の方が年上じゃねーか! じゃなくて、それはおめでとうございます」
「先輩方によると、誕生日は特別な熱い夜を過ごせるそうです」
「……ですから、先輩方の任務以外の教えは忘れて下さい。特に人間関係と恋愛関係は」
俺はドアに伸ばした手を引っ込め、鼻の傷痕をほりほりと掻いた。
そして高くはない天井を見上げ、深く大きなため息をつく。
「……たぶん、アンタの言う『俺の笑顔』は作り笑いじゃない自然なもののことですよね。それは次回どっかで見て下さい。それからアンタとは恋人でも何でもないから、抱かれる訳にはいきませんので……今日はこれで我慢して下さい」
そう宣言すると、両腕を広げてヤマトさんを抱きしめた。
同じくらいの身長の同い年の男同士が、侘しい一人暮らしの玄関先で抱き合っている。なんとまぁ、シュールな絵面だ。
こんなんで誕生日を祝うことになってるのか甚だ疑問だが、ヤマトさんは自分の誕生日に俺なんかを抱けるかもと期待するような変人だ。
暗部でエリートで高給取りだから欲しい物なら何でも買えるだろうに、誕生日だから俺の笑顔が見たいなんて、そんな些細なことを望んでるんだ、こいつは。
「お誕生日おめでとうございます」
「泣いてるんですか?」
「泣いてません。今のどこに泣く要素があったんだよ」
「貴方が泣いてると思ったら勃起してしまいま「下半身のことは忘れろ。今は上半身だけで感じて下さい」
また不埒なことを言い出したので被せるように言うと、ヤマトさんは突っ立ったまま黙って抱きしめられていた。
同い年でしかも数ヶ月だが俺の方が年上と分かったせいか、どうしても扱いが雑になってしまう。でもこれは仲良くなったと言えるんじゃないだろうか。こいつの望み通りに。
「恋人になったら貴方を抱けるんですか?」
そこまでは仲良くなってねぇよ。
「恋人になるには、まずお互いの意思を確認しないと。互いが相手を好きで、もっと深く繋がりたいと思ったら付き合うんです」
「好き……って、こういうことですか?」
ヤマトさんがいきなり俺にキスした。
しかも舌! ベロが入って……
「ンむ……ぅう、ふ、……ぅ」
俺の口の中を味わうようにねっとり掻き回したと思うと、唇に舌を這わせ下唇を食んで甘く歯を立てて吸う。
かと思ったらまた舌が侵入してきて俺の舌を誘い出し、絡ませてはしゃぶり、……
「……ぅ、ぁ」
ヤマトさんの顔が少し離れても、唾液が糸を引いて繋がっている。
それを舌で巻き取って断つと、ヤマトさんは無表情ながらもちょっと潤んだ目で俺を見返した。
「イルカ先生は僕のこと好きですか?」
「ぇ、あ……?」
「嫌いではなさそうなやらしい顔ですので、これで恋人になれましたね」
そう一方的に宣言すると、「それでは夕食をご馳走さまでした。おやすみなさい」と背を向けて去っていった。
――口の周りを涎でべしょべしょにして、不覚にもちょっぴり勃ってしまった俺を放置して。
「んな……、な…………っっ何なんだアンタは!!!」
一人残された俺は、ぴたりと閉じられたドアに向かって叫ぶことしかできなかった。
やっぱりヤマトさんは分からない。
分からないが、どうやら恋人になってしまったらしい。
否定するにもどこに行けば会えるのか分からんし、ナルトの修行の場に怒鳴りこむ訳にもいかず日にちだけが過ぎていく。
『ヤマトさんの恋人』としての日々が。
これって誕生日に俺をプレゼントしてしまったことになるんだろうか。いやあげた覚えはないんだが、でも。
人生初の恋人という存在に、うっかり浮かれそうな自分がいて恐い。
次に会う時が来たらどういう展開になるかは本当に予測が付かないが、それまではアンタも浮かれてるといい。
誕生日にできた恋人に。
ああ、もう!
ハッピーバースデーだよちくしょう!
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