【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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大変な事を聞いてしまった。
まさかイルカ先生が……いやでもこれは先輩に聞いた話だから、正確にはナルトが言ってたと先輩からの又聞きだけど、だからこそちゃんと本人に確認しなくては。先生も何度も言ってた。人間関係、特に恋愛については先輩の教えは忘れてくださいと。
ならば本人の口から聞くのが一番いい。
何しろ僕に恋という感情を教えてくれた張本人なのだから。
――そして、僕の恋人なのだから。





僕にしては珍しく、少し緊張しながら受付の入り口に立った。
イルカ先生に事の真偽を確かめる為、入念な準備をしてからの万全な態勢だ。
変化ではない変装なんて久しぶりだけど、客観的に見ても上出来の部類に入ると思う。なぜなら僕が足を踏み入れたとたん、周囲がざわついたから。
本当は今すぐ先生の前に立ちたいけど、そこそこ混雑してるのできちんと順番は守る。じゃないとまたイルカ先生に叱られてしまう。
前に受付に座ってる先生を、シフト終わりの時間だからと連れていこうとしたらすごく叱られた。
物事にはルールがあって、それには建前と本音と暗黙の了解まで存在するそうだ。裏と呼ばれる僕たちのいる所では、敵だろうが味方だろうが殺るか殺られるか、ヤるかヤられるかだ。表の世界は何ともややこしい。
表の世界の複雑さに思いを馳せていると、「なぁ、あんたいい女だな」と横からぐいと腕を掴まれた。
正確には、掴まれそうになったから反射的に背後を取って相手の首元にクナイを突き付けた、だけど。

「おいおい、ちょっと声かけただけじゃねぇか!」

相手は降参の印に両手を挙げてるが、表の世界ではこれはスルーすべきだったのだろうか。腕なんて掴まれたら体の自由と支配権を明け渡したようなものだから、絶対に避けるべき事案なのに。
行列してた周囲の忍たちも大きく円を描いて僕たちから距離を取ってるので、これは過剰反応だったかとクナイを引いて男から一歩下がった。

「大袈裟な女だな、自意識過剰なんじゃねぇか?」
「私はそうは思いませんね、茂負特別上忍。忍の、ましてや女性の体に断りなく触れるなんて、マナーが悪いと思いますよ」

イルカ先生だ。
僕とモブとやらの間に体を割り込ませて、穏やかに注意をしている。

「うるせぇな! 受付の中忍如きが口を挟んでくる……のは当然ですよね失礼しますっ」

僕がピンポイントで殺気をぶつけたので、力量の差を明確に感じ取ったのか彼はサッサと退散した。

「何だったんだ、あれ……まぁいいか。ところで大丈夫ですか?」

くるりと振り返ったイルカ先生が、安心させるような『先生』の笑みを向けてくれたけど。
――近い。
僕は今女性の格好をしてるけど、変化じゃないから目線が並んでしまうんだ。イルカ先生とは多分、ほぼ同じくらいの身長なんだと思う。キスをするのにちょうどいいと思ったけど、今優先すべきは事の真偽だ。

「イルカ先生、あなた女性に免疫がないって本当ですか?」
「はぁ⁉ いきなり何を……っ」

いつもより高めの裏声で尋ねると、先生は目を剥いてあからさまに動揺を見せた。
これだけ露骨ってことは、やっぱり本当だったんだ。

「ナルトが言ってたそうです。先生はおいろけの術で鼻血ブーするんだと。いい年して彼女もいないから可哀相に、とも」
「ちょっ、こんな所で言うことじゃないでしょう! だいたいアンタ、」
「鼻血は出してないようですが、この姿はいかがですか? 大きな胸は無いけど胸筋なら多少はあるし、揉んでもいいですよ。それで少しずつでいいから女性に慣れて」

いきましょう、までは言えなかった。
言わせてもらえないまま、受付所から連れ去られたからだ。瞬身も使わずここまで素早く僕を連れて移動できるなんて、イルカ先生は本当に優秀な中忍だ。
ここはどこだろうと見回してると、大きなため息をつきながら先生が「裏階段ですよ。受付から秘密裏に移動するための」と疲れたような声で教えてくれた。
どこへ移動するとまでは教えてくれないところをみると、本来は僕に言ってはいけないんだろうと、仕掛け扉や位置などの記憶を浚わないようにする。
先生も業務中だし、速やかに目的を果たして戻ってもらわなきゃ迷惑をかけてしまう。

「イルカ先生、ところで先ほどの続きですが、どうでしょうか。鼻血は出てないようですが、あんまり魅力的じゃありませんか?」
「その姿でも素敵ですよ。とても。ただ、公衆の面前でプライベートな事を言ったり聞いたりするのは感心しませんね。むっ、胸とか! そういうのはその、二人きりの時にお願いします」

二人きりの時って、これはもしかして口説かれているのだろうか。
僕としてはやぶさかでないけど、今は女性の姿だ。
この状態の僕と二人きりで過ごしたいなんて、と思うと胃の辺りがむかむかする。今朝は胡桃とカフェオレだけだったから、消化不良でも起こしてるのかな。いやこれは先輩たちがよく盛り上がっていた、いわゆる浮気ってやつじゃないだろうか。それとも寝取り? 寝取られ? とにかく不純な行為のはずだ。
その可能性に思い至り、思わず裏声を忘れた上に詰るように口調が尖ってしまった。

「イルカ先生、僕というものがありながら二人きりになろうなんて、そういう提案こそ感心しないんじゃないですか?」
「なぜですか? あぁ、もしかして俺を抱きたいとか何とか言ってたの、気の迷いだったってやっと気付いたんですかね!」

あれ、なんだか急に不機嫌になったし、怒りの方向が違う気がする。
というより、えっと……

「僕が誰か分かってたんですね」

するとイルカ先生はまたもや目を真ん丸にしてから、やれやれと首を振った。

「当たり前じゃないですか。あのですね、俺はよく知りもしない女性に『アンタ』なんて呼びかけるような男じゃないですよ。最初は何かの任務で女装してるのかと思ったら、いきなり俺の事を言い出すし」
「……あの、少し背は大きいけど我ながら上手く女装できたと思ってたんですけど、どうして分かったんですか? 後学の為に教えてください」

イルカ先生は僕の爪先から頭の天辺までじっくり眺めると、ふと目元を和らげた。

「変化じゃない変装ですからね。顔立ちは化粧で完璧だし立ち居振る舞いも女性そのものだけど、俺を見る目付きがね。あとはその長くて綺麗な髪。地毛でしょう? 前に見せてもらったから。それにしてもアンタ俺と身長は変わんないくせに、なんでそんな細身なんだよちくしょう。……で? 結局何がしたかったんですか?」

先生を見る目付きと、髪。
それだけで分かってしまうなんて、やっぱりイルカ先生はすごい。それとも恋人の変装だから分かったのかな。恋人になるって物凄いスキルアップが必要みたいだ。僕も精進しなきゃ。
そこまで考えて、先生の質問に答えてなかったことに気付いた。そうだ、元々この為に女装したんだっけ。

「だって僕たちは恋人でしょう? 僕と付き合うってことは、あなたはこれからも女性にご縁はないし、女性の体に慣れるなんて無理な話じゃないですか。だからもし本当に女性に免疫がないなら、せめてものお詫びに僕の体で女性に慣れてもらおうと思ったんです。でもあなたは僕を見て鼻血を出さないし、変化じゃないと駄目なんでしょうか。それはちょっと僕も嫌なんですけど……」

なんとなく形勢の不利というか、先生の不機嫌度が増したのを感じ取って一息に説明を済ませた。余計なことまで言ってしまった気はするけど。
さっきの勢いでてっきりまた叱られるかと思ったら、イルカ先生はなぜか呆れたように僕を見ている。しげしげと。
しかも少し笑いまで含んでるみたいだ。
片方の眉をひょいと上げて、なんだか楽しそうに問い掛けてくる。

「なぜそこまで頑なに、変化ではなく女装を?」
「それは……」

なんでだろう。
言われてみれば、変化なら胸もいくらでも大きくできたし、イルカ先生の対女性耐久訓練に向いてたはずだ。
でも、嫌だったんだ。
僕の変化でも、僕じゃない女性を見て鼻血を出されるのは。
僕は男で、しかもイルカ先生を抱きたいと思ってる。
でも先生はそうは思ってくれてない。
少なくとも僕が思うように、思うくらいに僕に抱かれたいとは。
その先生の視線が、性欲の対象が女性に向いてるのを目の当たりにするのは、最適な手段といえどもやりたくなかったんだ。
忍としては不適格ともいえる内容をぐるぐる考えていると、イルカ先生がふはっと吹き出した。

「アンタ、言ってることとやってることがちぐはぐなんだよ」

確かに。
業務を中断させてまで、僕はいったい何をしに来たんだろう。

「帰ります。お邪魔してすみませんでした」
「逃げようったって、そうはいかねぇよ。アンタ、本当に面白い人だなぁ」

先生はこみ上げる笑いで肩を揺らしながら、僕の正面に立った。
近い。
なぜだか追い詰められてる気がするのは、文字通り壁に追い詰められてるからだろうか。
更なる追い討ちに、先生は人差し指で僕の胸をトンッと突いた。

「ヤマトさん、分かってます? アンタ、自分に嫉妬してるんですよ」
「嫉妬、ですか? 僕が僕に?」

言ってる意味がよく分からなくておうむ返しをすると、イルカ先生はニンマリと笑った。

「俺に女性の体に慣れてほしいのに、変化して鼻血を出すようなセクシーな体にはなりたくなかったんですよね? 変化じゃアンタの個性が消えてしまうから。だからといって元のままの女装でも、俺にどう思うかと聞きながらも、浮気を疑って不愉快になってるし。目茶苦茶なことしてたけど、要するに自分だけを見てほしいんでしょう? 男のアンタ、つまりヤマトさんだけを」

……あ、なるほど。
そういうことだったのか。
僕が理解してなかったことをここまで明快に説明できるなんて、イルカ先生は本当にアカデミー教師なんだなぁ。

「ヤマトさんのこと、いまいちよく分からねぇって思ってたけど、認識を改めます。アンタ、ヤりたいだけじゃなくて、本当に俺のこと好きだったんですねぇ」

僕の胸を突いたままだった指を引っ込め、後半の方は独り言のようにしみじみと呟きを落としている。
でも僕はちょっとショックだ。
恋って、好きって、こんな非論理的で支離滅裂な思考と行動も伴うものだったんだ。
今日一日の行動を思い返してみると、よくまぁ途中で我に返らなかったと感心するくらい、一から十まで目茶苦茶だった。
これが任務だったら、少なくとも女装の時点で作戦として不可の判定をしたはずだ。なんなら僕以外の奴が立てた作戦だとしたら、あまりのひどさに笑い転げるくらいしそうだ。
なんだか急にこの女装でイルカ先生の前にいることが途徹もなく恥ずかしく思えてきて、扉の方に逃げようとすると。

「逃がさねぇって言いましたよね」

顔のすぐ横の壁に、ダンッと勢いよく手を突かれた。
怖い。
仮にも上忍で暗殺戦術特殊部隊通称暗部に在籍してるはずなのに、中忍のイルカ先生が怖い。
一寸先は闇みたいな任務だって数え切れないほどこなしてきたのに、今どうしたらいいか分からなくて怖い。
イルカ先生がずいっと顔を近付けてきた。
このまま尋問部や情報部に送り込まれたみたいに、頭の中を全部覗かれてしまうんだろうか。いや、もしかしたら今までもずっと覗かれてたのかも。だからあんなに僕のことが分かってたのかもしれない。
目は口ほどに物を言うので、無駄な抵抗と思いつつもきつく目を閉じる。
なぜかもう逃げようという気は起きなかった。
すると、頭に両手が伸びてくる気配がして。

「ヤマトさんって可愛いところあるんですねぇ」

くしゃくしゃと頭を撫でられた。
驚いて目を開けると、イルカ先生が満面の笑みで僕を見ている。
視界がぐらんぐらん揺れるのは術の影響などではなく、髪の中に両手を突っ込んでかき回してるからだ。そりゃもう、犬を撫で回すように。

「おっと失礼。女性にこんな撫で方したらダメですね。サクラにもいつも怒られるんですよ、せっかくきれいにスタイリングしたのにって」

そう言うと手を引っ込め、今度は優しく頭を撫でてくれた。

「あの、僕……おかしくないですか?」
「おかしい? いや、本当に綺麗ですよ。ちょっと髪が乱れちまったけど」
「そうじゃなくて、何て言うか、女装とか目茶苦茶で支離滅裂で……」

するとイルカ先生は、僕の髪に指を通して撫で付けながらニカリと笑った。
――あぁ、またあの太陽だ。
僕を焼き尽くすような、それでいてどこまでも柔らかく優しい陽射し。

「恋愛なんてそんなもんでしょ。どっかおかしくなっちまうもんだし、それが普通なんじゃないですか」
「普通。これが」
「まぁ、俺もそんな詳しくはないですけど、異常なのが正常というか」

恋ってそういうものなんだ。
思えばイルカ先生に初めて会ってから、僕はおかしくなりっぱなしだ。
いきなり逃げられたところを追いかけ回したり、突然家にお邪魔して夕飯をねだったり。
自分では至って正常な思考と行動だと思ってたけど、思い返したらけっこうおかしくなってたんじゃないか。イルカ先生もよく僕の恋人になってくれたものだ。

でも、この異常は至って正常だと彼は言う。
それならこのまま、おかしいままでいてもいいのだろうか。
まだ嬉しそうににこにことしてる先生の、厚くて熱くて柔らかい唇に唇を合わせる。
すると唇に何か熱い液体が流れてきた。
唾液にしては位置が変だと少し顔を離してみると、イルカ先生はパッと両手で鼻を覆った。

「ふぁの、ひれいな女性の方と、ふぉういうふぉとはちょっと」

指の間からは、真っ赤な液体が隠し切れずに流れている。今さらながら鼻血を出してくれたらしい。
さっきまでなら苛立ちを覚えただろうけど、今のおかしくなったことを正常だと認定してもらった僕は違う。
イルカ先生の無骨で分厚く、優しく僕の頭を撫でてくれた手を、ぺろりと舐めた。
金属のような味がぴりりと舌に染み込む。
これがイルカ先生の体の中を流れているのだと思うと、血液なのに危険とも不衛生とも思えなかった。
やっぱり僕はおかしくて異常で、それでいて正常だ。

「アンタ、ひゃっぱり変な人らな」

鼻を覆ったまま、くぐもった声で呆れたように言われる。
僕はチャクラを左手に集めて冷やすと、イルカ先生の額当てを上にずらして、おでこから鼻の付け根に掌底の構えのように当てた。そして手拭いをポーチから取り出して右手だけで印を組み、水遁で濡らして顔を拭き取ってやる。
何とも気持ち良さそうな顔でされるがままになっているのがあまりに無防備で、顔を傾けてもう一度唇を合わせた。
僕の掌の両端から、少し驚いた黒い瞳が覗く。

「僕はおかしくなってるんです。あなたに恋をしてるから」

どこか得意げな気持ちで高らかに宣言する。
イルカ先生の眉が呆れたように下がると、小さく呟いた。
俺もですよ、と。



【完】

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