【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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アカデミーに鼠が潜伏している。
その情報を得て、僕と先輩が潜入任務に就くことになった。
鼠の候補は二人。
臨時教員の屋形トマリと、今年度から保健医になったという野中ノバラだ。
僕たちの仕事はどちらか確定後に証拠を掴むまで。
アカデミーの子供たちに影響が及ばないよう、確保と尋問部への引き渡しは後日別働隊が行うことになるが、逃走を図るなどの緊急時は僕たちが臨機応変にということになっている。

「俺がバックアップするからテンゾ、お前が子供に変化して潜入ね」

問答無用な先輩の命令に、無言で変化の印を切った。
僕の子供の頃の姿でいいだろうという安易な変化は、すぐに先輩のダメ出しをくらう。

「ん~~~、暗い。陰気。怖い。子供らしさが全然ないんだけど」
「そう言われても……先輩だってこんな感じだったじゃないですか」
「あのね、今のアカデミーの子供はもっと純真で可愛らしいの。無邪気なの」

先輩は上忍師として表に出て子供たちと過ごしてるせいか、ダメ出しも容赦がない。
でもそれって僕をディスってるようで、先輩も子供としてアウトだったってことになるけど。
まぁ事実だからいいかと肩をすくめると、先輩がさらにうーんと唸ってからパッと顔を明るくした。

「そうだ、そのまま女の子になってみてよ。それならだいぶましなんじゃない?」
「……たいして変わらないと思うんですけどね」

一応反対はしましたよというポーズをとってから、改めて変化の印を組む。
十歳くらいの頃は髪も長かったし、華奢でよく暗部の先輩たちにからかわれてたくらいだから、女の子に変化しても意味がない気がするんだよなぁ。
さらりと肩に落ちる髪を懐かしく思いながら、白いひらひらしたスカートの丈をチェックする。膝上くらいでいいのかな。服以外の外見は男の子の僕と何一つ変わらない気がする。
そんなやる気のない変化なのに、意外にも先輩のOKが出た。

「よし、それならいけるね。じゃあ今からお前は……テン子。大和テン子だ」

ものすごくいい笑顔でやっつけ感丸出しの偽名を告げられ、任務に就く前からやる気をごっそり持っていかれる。

「だいじょ~ぶ、アカデミーの子供たちの名前なんて、みんなそんなもんだから。可愛いぞテン子」

先輩の胡散臭い笑顔とサムズアップに背中を押され、というか実際に蹴り出されて僕は真っ昼間のアカデミーに向かった。



フェイスガードはさすがに外してきたし、チャクラはアカデミー生に相応しくほぼ無いに等しいくらいに抑えられ、暗器も一切合切取り上げられたので今の僕は文字通り丸腰だ。
アカデミー教師の眼力を舐めない方がいいぞという先輩の助言に従っての丸腰だけど、札の一枚くらいならバレないと思うんだけどなぁ。
子供の姿でもいざとなったら体術でも引けを取る気はしないけど、こんなに自分を無力に感じるのは久しぶりだ。

「おっ、来たな! 君が転入生の……」
「大和テン子です」

校門で出迎えてくれたのは、顔の真ん中を横切る傷痕が印象的な若い男の教師だった。
その男は僕の前でしゃがむと目を合わせ、「こんにちは。先生はうみのイルカだ。よろしくな!」と至近距離なのに馬鹿でかい声で挨拶した。
僕たちは普段こんな大声で話さないけど、もしかしたらこれが普通の大人の声量なのかもしれない。

「……こんにちは」
「可愛い声してるな! もうちょっと大きい声で話してテン子の声を聞かせてくれると、先生も嬉しいなぁ。今日は一人か?」
「はい」

心持ち声を張って返事をすると、うみの先生はにかりと笑った。

「やっぱり可愛い声だ。ありがとな~! じゃあ今日は一緒に校内を見て回ろうか」
「はい、うみの先生」
「イルカでいいぞ! みんなそう呼んでるからな!」

みんなイルカって呼んでる?
教師のことを?
ずいぶん上下関係が希薄に思えるけど、表では呼び捨てにし合うのが普通なんだろうか。そういえばこの人も僕のことすぐにテン子って呼んでたし……

「よろしくお願いします、イルカ」

するとイルカは鳩が豆鉄砲をくらったような顔で僕を見返し、それからぶはっと吹き出した。

「そっか、俺がイルカでいいって言ったんだもんな。テン子は素直でいい子だなぁ! 俺はこれからテン子の先生になるからな、イルカ先生って呼んでくれ」

イルカ先生は何が楽しいのか、なおも笑いながら僕の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
その勢いで頭をぐらんぐらん揺らしながら、僕はこの変な教師の満面の笑顔を不思議な気持ちで見返していた。



イルカ先生の案内で屋外の校庭や薬草園を見て回り、アカデミーの中に入って廊下を歩きながら、今度は授業中の教室をちらちらと覗いた。
その間イルカ先生はずっと僕の手を握っていてくれて。
利き手を塞がれるなんて本来なら落ち着かないはずなのに、なぜかほどく気にはなれなかった。

「テン子は木ノ葉では学校に通ったことはないんだよな?」
「はい」
「そっかぁ、じゃあアカデミーではクラスメイトと友達になってみようか」

クラスメイト、とは同期みたいなものだろうか。ずいぶん洒落た言い回しをするんだな。
今の僕と同い年くらいの子供たちが教室の中で全員前を向いて授業を受けているのは、何とも不思議な光景だった。

「テン子は四ノ参組だから、後でみんなの前で自己紹介してもらうぞ」
「了解しました」
「そんな堅っ苦しくしないでいいぞ。緊張してるのか?」
「いえ、特には」
「テン子は緊張なんてするほど繊細じゃないですよ。な~、テン子」

この声と喋り方……先輩⁉
いつの間にか僕の肩に手を置いてにこにこしてるのは先輩だった。
僕より年上ではあるけどやっぱり子供の姿で、顔はほとんど昔のままだけど髪は茶色く左目の傷痕は消してある。

「テン子の兄のカシオです。遅くなってすみません」
「カシオ君だね、テン子の担任のうみのイルカです。今日は付き添いで?」
「はい、いろいろ手続きをしてから遅れて行くって、テン子には伝えておいてくれって言ってあったんですけど」

カシオって……。
いくら尊敬する先輩でも、そのネーミングのセンスは本当にどうかと思う。でも話を合わせろと僕をちらりと見下ろす目が笑ってない。怖い。
肩に置いた手にぎゅうっと力が込められる。
痛い痛い痛い分かりましたって!

「あの……すみません先生、忘れてました」
「そっかぁ、忘れてたならしょうがないさ! じゃあみんなで一緒に教員室に行こうか。お兄ちゃんが来てくれて良かったな、テン子!」

僕の笑みがぎこちなくなってしまったのを、誰が責められるだろう。
先輩は何かと先生に話しかけ、僕と繋いでいたイルカ先生の手を巧みに外させた。利き手は自由にしておけってことなのかな。そのわりには先輩がなぜか先生と手を繋いでるんだけど。
ところで先輩がバックアップの話はどうなったんだろう。作戦の急な変更はよくあることだけど、何か動きでもあったんだろうか。イルカ先生の周辺視野から外れた位置で、暗部の指文字で会話する。

(何か新しい情報でも?)
(うん。まさかイルカ先生がお前の担任だったとはな)
(もしかしてイルカ先生も対象者に加わったんですか?)

右足のすねにガシッと衝撃があって、遅れて痛みがやってくる。
先輩が目にも留まらない早さで蹴ったのだ。さすが先輩と言いたいところだけど痛い。

(馬鹿なこと言うんじゃないよ! 先生が鼠のはずないでしょうが!)
「どうしたテン子、腹でも痛いのか?」

ちょっとよろけただけなのに、カシオ先輩の方を向いてたはずのイルカ先生が僕の様子がおかしいことに気付いた。

「あー、また緊張で腹痛か? イルカ先生と先に教員室に行ってるから、ちょっと保健室でも行ってきな」

すかさず先輩が口を挟んできたけどなるほど、そのための蹴りか。
潜入早々に教員室の屋形と保健室の野中に接触を振り分けるなんて、見事としかいいようがない。でもくどいようだけどバックアップはどこいったんだ?
それにさっき僕は繊細じゃない設定をしたばっかりなのに、緊張で腹痛って。
なんだか今日の先輩は変だ。

「テン子は保健室の場所もまだ知らないだろう。先に保健室に行こうか」
「もう子供じゃないんだから、テン子は自分で見付けられますよ。ささ、教員室にご一緒しましょ」

あの……先輩、必死になる方向が違う気がするんだけど。
対象と接触っていうよりも、イルカ先生と二人っきりになることに夢中な気がする。傍から見ても見苦しいほどに。
するとしばらく先輩と押し問答してた先生が、「やっぱりみんなで保健室に行こうな」ときっぱりと言い切った。
あからさまにがっかりとした様子の先輩が、僕をぎらりと睨みつける。
え、今の僕のせいじゃないよね?
これ以上理不尽な攻撃を受けないよう、さりげなくイルカ先生の影に隠れる位置に移動しながら、僕たちはぞろぞろと保健室に向かった。



「あらイルカ先生……とあなた、見かけない顔だけど転入生かしら。どうしたの、具合悪い?」
「すみません野中先生、この子は転入生の大和テン子なんですが、どうも緊張で腹が痛いそうで」

保健室にはちょうど野中が在室していた。
もう緊張の腹痛でいくしかないんだと先輩の雑な設定にため息をつきたくなったが、頷いて返事の代わりにする。
野中は立ち上がって僕の前に立ち、見透かすような目でじっと見下ろした。

「まだあなたの個人調査票が届いてないのよね。とりあえずちょっと見させてね」

真っ黒な瞳が不自然なほど大きく広がり、目の回りに白眼を使った時のような筋がびきびきと走る。
そうか、これは黒眼だ。
白眼とはまた少し違う瞳術だけど、確かに黒眼使いの保健医なら何かと便利だろう。でも先輩の施してくれたチャクラ封じはバレないんだろうか。
事前調査では瞳術使いとはなってたけど、白眼より秘されてる黒眼じゃかなり分が悪い。せっかく表に出てきてくれたんだから、ここは先輩にフォローしてもらった方がいいだろう。

「じゃああとは野中先生にお任せして、俺たちは教員室に行きましょう」

先輩⁉ どんだけイルカ先生と二人っきりになりたいんだ……丸投げしないで、せめてチャクラ封じのフォローくらいしてってくださいよ!
いや先輩は僕を信じてるし、教員室の屋形の方に接触して早く片を付けたいんだ、そうに違いない。多分。

「うーん、でも初めてのアカデミーで保健室にひとりぼっちは、よけいに緊張しちまうだろ? ベッドで休むかいったん帰るか、分かるまでは一緒にいてやろう。な?」

先輩じゃなくイルカ先生がフォローしてくれたけど、僕の焦りは表に出してないはずなのに気付いたのか?
中忍に気取られるなんて、と反省すべきだとは思うけど、正直今の状況では先生の過保護な気遣いが有り難い。
イルカ先生の手がぽんと僕の頭に乗せられる。
大きくて温かい、大人の手。
なぜか急に胸がぎゅうっとなって、僕は胸を押さえた。

「ほら、テン子も辛そうだし……あぁ、そうだな……カシオ君の言う通り……教員室に行こう、か……」

突然イルカ先生の口調が平坦になって、さっきと真逆のことを言い出す。
見上げるとどこかぼんやりとした顔付きの先生が、先輩の腕を掴んでくるりとドアに向かった。
あの焦点の合わない目は――

「大和テン子、ね」

保健室のドアがぴしゃりと音を立てるのを聞きながら、低くなった野中の声にゆっくりと振り向いた。
イルカ先生に暗示をかけて追い払った当人が、にんまりと口を歪める。

「さぁ『テン子ちゃん』、先生とお話しましょうか。あなたの目的とか、わざわざチャクラを封じてまでアカデミーに入り込んだ理由とか」

やっぱりバレたか。
普通の上忍までなら何とかなるが、さすがに黒眼使いには通用しない。
でも今の段階だと、僕がアカデミーに侵入した鼠だと疑われてる可能性もある。とりあえず様子見かなと、しらを切るように首を左右に振った。

「あらあらテン子ちゃんは往生際の悪い子ねぇ。ま、いいわ。ちょうど生徒に一人、手駒が欲しいと思ってたのよ。テン子ちゃんなら今の状態でも、その辺のアカデミー生より使えそうだしね」

野中が僕の髪を掴んで引き寄せ、目を合わせるように顔を固定した。
こういう風に使われるのが嫌で髪を短くしたんだった、と不意に昔を思い出す。

「さぁ、所属と本名と目的を言いなさい」
「わたし……、は……アカデミー……鼠を探し、に……」

瞳術に逆らいつつかかったふりをして、本名と所属は隠したまま欲しい情報を与えてみる。
すると野中の顔が険しくなった。

「もう嗅ぎ付けたのね。子供に変化するなんて小賢しい真似を……そうね、お前はこれから教員室に行ってこれをイルカ先生の机の下に置いてきなさい。私が逃げられるようにしっかり時間を稼ぐのよ、いいわね」

――鼠は野中だ。
こんな短時間で判明したのはラッキーだけど、手渡された物が物騒すぎる。
持たされたのはお道具箱と書かれた弁当箱より一回り大きい箱で、混乱に乗じて逃走を図ると言ってるから中身は盗聴器などじゃなく、恐らく毒ガス発生装置か爆発物。
持ち込んだ僕ごと教員たちを始末して、逃走の発覚を遅らせる。この危険物は用意してあったにしろ、とっさの機転は鼠にしてはいい目の付け所だ。
証拠も手に入ったことだし野中を確保したいところだけど、今の僕はほとんど丸腰で、チャクラが使えないから術返しもろくにできない。
もっと隠密行動を想定してたのに、野中が正面切って仕掛けてきた以上はここで何とかしなければ。
野中がまだ僕の目に集中してるところを狙い、指を二本立てて目潰しを食らわせる。と同時に膝小僧を正面から蹴り、ぐらついた隙に拘束から逃れた。
そのつもりだったのに、暗示の効果が思ったより強かったのか、体が思うように動かない。
目潰しを間一髪で避けた野中に、ドアにたどり着く手前でまた髪を掴まれた。
もう二度と、絶対に髪は伸ばさないぞ、と強く誓ってると、チキッと得物を握る音がする。

「チッ、めんどくさい子ね。もういいわ」

野中がクナイを振り上げたその時、バンとドアの開く音と同時に結い上げた黒い髪の束が僕の真ん前に飛び込んできた。
そして目の前でガキンと刃物の交差する音。

「下がってろテン子!」

イルカ先生だ。
先輩と教員室に行ったんじゃなかったのか。
顔が見えないから分からないけど、今のは暗示にかかってる者の声じゃない。
先輩はどこだ。
イルカ先生と野中がクナイを交わしながら、くるくると位置を変えている。
先生は目を閉じていた。
瞳術を防ぐためだろうけど、そのせいで僅かに後れを取っている。
野中のクナイを握ってない方の手が札を取り出した。
僕はとっさに手近にあったワゴンから体温計を取り、野中の札を持つ手目掛けて投げ付ける。
体温計は命中したけど、イルカ先生がベッドの回りのカーテンに巻き込まれるようによろけた。
とどめを刺すつもりか、野中が先生の腿の動脈に向けてクナイを大きく振り上げる。

「イルカ先生、戌の方向!」

僕の叫び声と同時に、校庭に面した窓がガシャンと割れて突風が吹き込んできた。
これは……風遁。
さらに言うと先輩のチャクラだ。
窓の外に先輩の気配はないけど分かる。
だって絶妙なコントロールで野中だけの体が吹っ飛ばされたから。
野中は勢いよく壁に激突して、ぐったりと床に伸びた。

「イルカ先生、大丈夫ですか⁉」

カシオ先輩が保健室に飛び込んできた。
……そうか、こっちの先輩は影分身だったんだ。
本体の先輩は窓の外でちゃんとバックアップしてくれてたんだな。僕にも気取らせないなんてさすがだけど、指文字でも何でも教えておいてくれればもっと段取りよくできて良かったのに。でもきっと先輩は「お前がそんなに勘が悪いとは思わなくてね」とか悪びれずに言うんだろう。
じろりとカシオ先輩を睨むけど、先輩はイルカ先生が無事かどうかの方が大事らしく、あちこちをさわさわと撫で回している。
先生は先生で、僕が怪我でもしてないかと全身をくまなくチェックしてから、危険物の箱をそっと下に置いて僕をぎゅうっと抱きしめてくれた。

「もう大丈夫だぞ。怖かったろテン子、ごめんな」

イルカ先生は僕を普通の子供だと思ってる。
アカデミーに転入してきた、おとなしくて声の小さい女の子だと。
だからこそこんな風に全身で受け入れてくれるし、僕はイルカ先生のぬくもりにすっぽりと包まれてしまう。
ぽんぽんと背中を優しく叩かれ、無力な僕が無条件で許された気がして戸惑った。
僕は常に守る側の人間で。
今まで誰かにこんな一方的に、全力で守られたことなんてあっただろうか。

「アカデミー内では教員が暗示をかけられると、自動的に術返しが発動するようになってるんだ。先生たちだけ急に追い払うなんておかしいと思ったから、野中先生の狙いが何か分かるまでかかったふりしてたんだよ。本当にごめんな。お前が無事で良かった……」

イルカ先生の説明がぼんやりと耳を通り過ぎていく。
でもこの声はもっと聞いていたい。
僕のことを気にかけて、僕のことを話す声を。
こういう気持ちって何だっけ。
――そうだ。これは多分、きっと、

「イルカ先生が好きです。僕と結婚してください」
「は⁉ お前、何言ってんの! イルカ先生は俺と結婚するんだよふざけんなっ!」

カシオ先輩がキレながら強引に割り込んでくるけど、これだけは先輩にも譲れない。
頭をぐいと押し退けられたので、先輩のサンダルから覗く小指をピンポイントで思いっきり踏み付ける。
するとイルカ先生が子供のケンカを仲裁するように、僕たちの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「二人ともありがとな~、でも怖い思いしてドキドキしたからな。それを勘違いしてるんだよ」
「そんなことない! ずっと大好きです!」
「違います。僕は本気です」
「お~、それは先生も嬉しいなぁ。もしお前たちが大人になっても忘れてなかったら結婚してもいいぞ~」

うっかりわたしじゃなく僕って言ってしまってたけど、それくらい僕は真剣だった。先輩もらしくないほど情熱的な顔でイルカ先生を見つめている。
そんな僕たちに対して、イルカ先生の答はなんとも軽いものだった。
多分、今までもアカデミー生徒に散々言われてるんだろう。これが百回目と言われても納得するような、淀みなく反射的な反応だった。
そして僕たちの告白を気にも留めずベストのホルダーから巻物を取り出すと、拘束セットを口寄せして野中を手際よく縛り上げ、封印札をぺたりと貼る。普通の子供である僕たちは手伝う訳にもいかないので、どこかに式を送る先生を離れて見ていた。

「さてと、ちょっとバタバタしちまったけどテン子、腹の調子はどうだ?」

イルカ先生がまた僕の前にしゃがんで、頭をぽんぽんとしてくれた。
そうだ。僕は今子供だ。
イルカ先生に愛を告げても、相手になんかしてもらえるはずがない。
でも、子供だからこそ使える手もある。

「お腹は大丈夫だけど怖かったです」

そう声を震わせて先生にぎゅうっと抱き着く。
すると先輩も同じ結論にたどり着いたのか、「俺も怖かった」と僕の腕を押し退けるように抱き着いた。

「そうか、二人ともごめんな。もう大丈夫だからな」

イルカ先生が僕たちをまとめて抱きしめてくれた。
先輩の腕が邪魔だし、さっきから何度もくるぶしを蹴ってくるけど、そんなの気にならないくらいこの腕の中は心地いい。

「今日は散々だったなぁ。悪いけどテン子はいったん帰って、また明日ちゃんとクラスで挨拶しような。カシオ君、テン子を頼むな」

いかにもすまなそうな顔をした先生が、僕と先輩を交互に覗き込む。
僕は素直に頷いたけど、もうこの姿で会うことはない。
何らかの理由と共に、大和テン子の転入はなかったことになるだろう。
保健室の外から数人が駆けてくる気配がする。先生の式で駆け付けてきたらしい。

「じゃあ門まで送るよ。二人とももう大丈夫か?」

立ち上がろうとしたイルカ先生のふっくらとした頬に、素早く口づけをした。
先輩が「あっ、テン子ずるい!」という叫び声を上げながら唇を突き出したが、先生はもう立ち上がってしまったから届かない。

「今日はありがとうございました」

そう言うとイルカ先生は助けたお礼のキスと受け止めてくれたらしく、にっこりと笑ってくれた。
でも本当は違う。
僕にこんな気持ちを教えてくれた感謝の言葉だ。
保健室に教員と暗部たちが入ってきたので、邪魔にならないよう先生が僕たちの手を握って連れ出す。
右手に僕、左手に先輩の手を握って。
ふと、イルカ先生は戦闘中に自分の両手がふさがることになっても、子供たちの手を握ることを躊躇わないんだろうと思った。
僕たちが常に利き手を空けておくのが当たり前なように、先生は子供たちの手を握る。
それなら僕はイルカ先生の隣にいて守りたい。
先生がいつでも安心して子供たちの手を握れるように。

(それは俺の役目だよ)

僕の気持ちを読み取ったのか、先輩が空いてる手の方でまた指文字を送ってきた。
先輩もきっと同じようなことを感じたからの牽制だろうな。
でもこれは僕の、テンゾウの気持ちだ。
『大和テン子』はただただ、イルカ先生のそばにいたかった。
イルカ先生と手を繋いで、先生にもっと抱きしめてもらいたかった。
先生を独り占めしたかった。
無条件で許され守られるという体験はそれほど鮮烈だった。
この気持ちに名前をつけるなら、それは『恋』だろう。
初めての恋。
まさか今さら落ちるとは思ってなかったけど。
しかも子供の姿で。
それなら僕は、テン子の恋を愛に成長させよう。
成長させるのは僕の得意分野だからね。
恋敵がよりによって先輩っていうのが怖いけど。
イルカ先生を見上げる合間に、僕に不審げな視線をちらちら送る先輩に宣戦布告の笑みを向けると、先生の横顔に声をかけた。

「イルカ先生、あのね」
「うん? 何だ、テン子」

先生が僕だけを見てくれる。
そう、ずっとこういう風に僕だけを見つめてほしいんだ。
だから今の僕からは、約束だけを。

「わたしが大人になるまで待っててね」

さっきのプロポーズを思い出したのか、イルカ先生がにかりと笑いかけてくれた。

「あぁ、待ってるぞ~うわあっ⁉」

先輩がいきなり駆け出したので、先生が思いっきり引っ張られて走り出した。
僕の手を振り切るつもりだったんだろうけど、そうはいきませんよ先輩。
しっかりと握った先生の手に引っ張られ、僕も駆け出す。

「何だ? カシオ君どうしたんだ⁉」

子供の突発的な行動には慣れてるのか、イルカ先生はびっくりしながらも軽く笑いながら引っ張られている。
これからの僕たち三人を象徴してるような駆けっこに、今はとりあえず遅れないようにと、小さな足を一生懸命動かした。



【完】

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