【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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ナルトの祝言から半年ほど経った今日、里は急な冷え込みをみせた。
天気予報でお姉さんが言ってた通り、朝の気温が一番高くて後は下がる一方、陽が落ちるといきなり冬が来たかと思うような寒さだ。
引き継ぎのための書類をまとめていると、夜番の同僚が駆け込むようにやってくる。

「今日は本当に寒いな。昨日まで半袖でもいいくらいだったのになぁ」
「こういう日はおでんでも食って一杯引っかけて寝ちまうに限るな」
「そうしたいけど、まだ角っこの屋台は出てないだろ」

本部棟を出て右手に曲がった所に、毎年秋から冬になるとおでんの屋台が出るのだ。それは夜番の受付の夜食にもなるので、冬はとても重宝されていた。
だがこんな急に寒くなるなんて、屋台の親父もまだ準備ができていないだろう。

「じゃあ後はよろしくな」
「おうイルカ、お疲れ」

受付の引き継ぎを済ませて鞄を肩にかけると、同僚の労いに片手を挙げて応えて外に出る。
吐く息は白くないが、深まる秋を十分に感じさせる冷え込みだ。自分で言ったことだが、むしょうにおでんが食いたい。コンビニのおでんはもう始まってるだろうか。
今日はスーパーに寄って夕飯を買うつもりだったが、こうなると口の中はおでんだ。本当は熱燗といきたいが、手っ取り早くビールで妥協してやろう。
角を曲がるとそこに何もないのを確認して、無意識に詰めていた息を吐く。おでんの屋台が出てたとしても、俺が暖簾を分けて座ることはないんだから関係ないのに。
理由は分かっていた。
あの屋台はあの人と……カカシさんと通っていた所だったから。



結局コンビニにおでんはなく、面倒になって適当に弁当をカゴに突っ込んだ。それと缶ビールを三本。
いつもは一本だが、おでんの口を慰めるために今日は特別だ。
ビニール袋をがさがさといわせながらアパートの階段を上がる。
大戦の後に中忍寮は新しくなったんだが、それももう数年前だ。以前とたいして変わらない間取りだから、中身を全部買い替えたものの、さして代わり映えもしない。
テレビをつけてよく分からないお笑い番組をぼんやり眺めながら、機械的に唐揚げを口に運ぶ。
あ、今手を叩いて笑ってたアイドル、何ていう子だったか。

「ナルトが可愛いって言ってた子だな」

そういえばヒナタにどことなく似ている。
ヒナタが白眼じゃなかったらこんな雰囲気じゃないかな。
ナルトも今頃はヒナタの手料理を食べてることだろう。もしかしたらナルトが振る舞っているかもしれない。料理は教えてやれなかったが、あいつは意外と器用だからすぐにできるようになっていた。

「良かったなぁ、ナルト」

頬が緩むと同時に気付く。
また独り言を言ってしまった。
一人暮らしが長くなるとどうしても多くなるが、テレビに話しかけるよりはましだろう。それも無意識にやってる気もするが。
弁当を完食して三本目のビールを開ける。
一気に飲んでからげっぷをすると、ぶるりと身を震わせた。
こんな冷え込む夜にビール三本はやっぱり失敗だったかもしれない。
おでんがなかったせいで、よけいに冷えちまった。
どうも今日は一日あんまりぱっとしない。
でもナルトはきっと、あったかい家でヒナタとあったかい夕飯を二人で食べている。
それだけが救いな気がする。
体を起こしているのも億劫になって、畳に大の字に寝そべった。
その拍子に足が卓袱台にぶつかり、カラン、と空のビール缶が台の上を転がって落ちる。

「…………寒いな」

口に出した言葉が自分の耳に音となって返ってきた。
寒いんだ。
ここには炬燵がない。
まだまだ先だと思ってたから炬燵布団なんて干してないし、おでんもなかったし冷えたビールを三本も飲んでしまった。
だから寒いんだ。
今日は絶対に炬燵が必要だ。
あの人がぬくぬくと埋もれていた炬燵が。
……くそ、うっかり思い出しちまった。五年かけてやっと意識しなくても思い出さずにいられるようになってたのに。
これは今日がすごく冷え込むからだ。
だからあったかいあの人を思い出しちまったんだ。
「せんせ、手が冷たくなってるよ」なんて手を握ってくれて。
「ほら、耳たぶまで冷えてる」って、そっと口に含んだらすぐに熱くなって……。

ダンッと拳で畳を叩く。

余計なことを思い出すな。
もう終わったことだ。
なんだって今日に限ってこんなに思い出すんだ。
ナルトの祝言の時はあれだけ近くにいたのに、普通に振る舞えたじゃないか。
二人で話しても、何もなかった者同士みたいにナルトをちゃんと祝えたじゃないか。
くそっ、泣くな。
寂しくなんかない。会いたくなんかない。
ちょっと寒いだけだ。
ひっ、ひっと嗚咽が止まらない。
これは酔ってるからだ。だから泣いてもいいんだ。寒すぎるから泣いてもしょうがないんだ。
そうだ、半纏があった。あれを羽織ればきっとあったかいはず。
半纏は裏切らない。
半纏は「別れましょう」なんて言って、勝手に俺から離れてったりしない。
よし、ちょっともうひと頑張りして押し入れを開けて、半纏を取り出して――



昨日は結局あのまま朝まで寝てしまった。
あんな寒かったのに風邪を引かないなんて、俺もまだまだ若いな。
だが顔色はそれなりに悪かったらしく、アカデミーの朝礼では先輩に指摘されてしまった。ビールを飲んで畳でそのまま寝てしまったと言うと笑われたが、これから生徒にも風邪が増えるから気を付けろとしっかり釘を刺された。
午後の演習も終わって受付に向かうにはちょっと早いなと思っていると、目敏くそれに気付いた同僚から資料をどんと渡される。

「まだ時間あるんだろ? これ六代目に頼まれてた学園祭のスケジュールと警備体制の変更箇所。ちょっとお渡しして説明してきてくれ」
「自分で行けよ。お前もこの後暇だろうが」

同僚は演習場の片付けがあるからとサッサと消えてしまった。
そういえばあいつが当番だったなと、仕方なく資料を抱え直して執務室に向かう。
せめて昨日の今日じゃなければ快く行けたのに。
夕べの自分の『会いたくない』という思いが生々しく襲ってきて唇を噛み締める。
火影様はお忙しい方だ。
どうか不在でありますように。



重厚なドアをノックすると、期待も虚しく「どうぞ」と返される。
涼やかで柔らかい、火影様の声。
中に入るとカカシさ……カカシ様は、床に山積みになった書類の前で何かを探しているようだった。一人で。

「失礼いたします。来月の学園祭の資料をお持ちしました」
「あー、もうそんな時期なのね」

探し物の手を止めたカカシ様が隣に立って資料を覗き込んでくるので、ファイルを開くと必要な補足説明をする。
うんうんと相槌を打ちながら聞いていたカカシ様は、いくつか質問をしてから目を上げた。

「じゃあ後は判子だけ押しとけばいいかな。……ところでイルカ先生、何かありました?」
「何か、とは」

学園祭のことで他に何かあっただろうか。
思わずまともに見返してしまうと、予想以上に顔が近い。
カカシ様は頭をがしがしとかき回すと、目を伏せてちょっと口ごもる。

「あー、その……例えば教え子に何かあったとか、そういう……」
「え、アカデミーで何かあったんですか⁉」

そんな事があったなんて聞いてない。
もしかしてついさっきの出来事なのか。
つい詰め寄るようにしてしまうと、カカシ様がのけ反った。

「や、ごめんごめん。違ったみたいね」
「違ったって……いったいどういうことです?」

するとカカシ様が俺の顔をじっと覗き込んだ。
今はふたいろ揃った、深灰色の目で。
その目に懸念が浮かぶ。
いや違う。
そんな遠い感情じゃない。
これは見覚えがある。
そうだ、何度もこういう目で俺を見ていた。
受付で。すれ違った廊下で。俺の部屋で。

「だって目元が赤く腫れてるし、ちょっとむくんでるし……そういう顔になるのってあなた、だいたい泣きながら深酒かやけ酒した時じゃないの」

ひゅ、と息を呑む。

呑んだ息が吐けない。
どうしよう。
なんでバレたんだ。
どこかで見てたのか?
いや違う。
ちょっと観察すればすぐに分かることだ。忍なんだから。
これは誰にでも言う、世間話みたいなもんだ。

「……まぁ、いろいろありまして」

良かった。
なんとか声は震えなかった。
まさかアンタを想って泣いてましたなんて、絶対に言えない。言いたくない。
アンタだって今頃そんなこと言われても困るだろ。
もう遠い昔のことだ。
――そう。
五年も昔の。

世間話を振るくらいだから、もう下がってもいいだろう。
それでは、と逃げるようにドアに向かうと、ノブにかけた手に手が重なった。
昔と変わらない、黒い革の手甲を嵌めた手が。

「なんで逃げるの」
「……もうお話は終わったのかと」

思っていたよりも声が近い。
ほとんど耳元じゃないか。
と、カカシ様がドアに左手を突く――俺を囲うように。
どうしてこの部屋には誰もいないんだ。
シカマルはどこだ。
こういう時こそめんどくさそうに「イルカ先生を困らせないでやってくれませんかね」とか言ってくれるシカマルは。
暗部の護衛だっているはずだろう。
不用意に六代目に近付きすぎだと、安全のためご遠慮くださいと割り込むべきじゃないか。

「もう、逃げないで」

俺を囲い込んでいた両腕がためらいながら、だがきつく抱きしめてくる。

「ねぇ、なんで泣いてたの。俺には言えない?」

抜け出そうにも抜け出せない。
焦るばかりで返事を忘れていると、抱きしめていた手に力が込められベストの生地がぎちりと軋んだ。

「あなたを泣かせるような奴がいるの。男? 女?」

カッと頭に血が上る。
両肘を跳ね上げて拘束を解くと、勢いよく体ごと振り返った。

「そんなのアンタには関係ないでしょうっ!」
「ないよ。でも知りたい」

間近で見返してくる目には焔が宿っていた。
ああ、この目も知ってる。
何度も何度も見た。
俺を――独占したいという執着の目。

「あれから一瞬だってあなたのことを忘れてないよ。今この瞬間も、あなたの心の中には誰がいるんだろうって、そればかり考えてる」

それはあまりにも剥き出しの感情で。
この五年間、俺たちのかぶっていた他人の顔の仮面がずるりと脱げた。

「別れようって言ったのはアンタだ」
「うん」
「何も遺していきたくないって」
「うん」
「アンタが……アンタが忍の顔で言うから俺は」
「うん」
「俺だってついて行きたかった……っ」
「うん」
「離れてても俺と一緒に戦って死んでくれって言えよ! 言えないなら俺と生きてくれって言えっ!」

ドンッと殴った胸に抱き寄せられた。

「俺と一緒に生きて、イルカ」

新しい支給服はベストの胸に巻物ホルダーがない。
二人分の巻物ホルダーがないと、驚くほどぴったりと抱き合えてしまう。

「…………言うのが遅ぇよ」





今年の冬はもう、寒くない。



【完】

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