【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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放課後、アカデミーの屋内修練場準備室。
こっそり忍び込んだ二人の子供がキョロキョロと見回しながらその扉をノックすると、中から「海のイルカは」と女の子の小さな声がした。
ノックした方の子供、イブキとサンタは声を潜めて「ほにゅうるい」と答える。
すると扉がちょうど子供一人が入れるくらいに開いて、二人がするりと滑り込むと中から扉が閉められる。

「だれにも見られなかったな?」
「バッチリだよ」

準備室の中には同年代くらいの子供が五人、男女まぜこぜで車座になっていた。
全員アカデミーの三年生だ。
その中でも一際体格のいい子供、アルトが立ち上がる。

「よし、そろったな。それじゃ作戦会議をはじめる」
「みんな上忍げきたいのアイディアは考えてきた? 一人五個ずつだからね」
「オレなんて五十個も考えてきたぞ!」
「「「シィーーーーッ」」」

アルトを除く五人が飛びかかって口を塞いだので、大声を出したサンタはグエエエと蛙のような声を上げた。

「先生たちにバレたら怒られるでしょ! またれきだい火影様のおことば百回書き取りやりたいの?!」

茶色の髪をイルカと同じポニーテールに結い上げたクラゲが、抑えた声音に険しい顔で詰め寄る。
それをまぁまぁとなだめたアルトがみんなにも座るように手で促すと、さっきよりも二人増えた車座の円が大きく広がった。

「オレたちはイルカ先生が大好きだ」

小さな頭がいっせいに大きく縦に振られる。

「先生の恋人がシャリンガンのカカシだなんて……イルカ先生は優しいからおどされてるんだよ。大好きなイルカ先生が上忍にいじめられるなんて、ぜったいダメだ」

またしても同意の大きな頷き。
リーダー格のアルトに続き、いつもはクールなスズがらしくもなく深緑色の目を伏せながら口を開いた。

「パパはじょうにんなんてみんなえらそうにして、ムリなことばっかり言うって言ってた。イルカ先生もきっとムリやり付き合わされてるんだよ」
「他の先生に言ってもムダだった。もうオレたちがたすけるしかないんだ」

双子の片割れのツバサが大人びた顔でみんなを見渡す。
妹のタマゴがぽつりと呟くように続けた。

「あたしたちのママはじょうにんだったけど、にんむで死んじゃった。パパは忍の子がいつまでもメソメソ泣くなって言うけど、イルカ先生は悲しい時は泣いていいんだよって……」

ツバサとクラゲがその震える肩にそっと手を置く。
クスンと鼻を啜ったタマゴが顔を上げた。

「あんな白髪のおじいちゃんみたいな人を、先生がホントに好きなんて信じられない。だってイルカ先生はおよめさんがほしいって言ってたし」

みんなが一斉に頷く。

「だからイルカ先生をわるいじょうにんから守るんだ。オレたちで」
「でも……そんなことしたら、うちのママまでいじめられるかも」

クラゲの不安そうな声に、アルトがにやりと笑った

「オレたちは子供だ。だから子供のイタズラでやるんだよ」

子供たちは頭を突き合わせると、ノートを開いて作戦会議を始めた。





カカシは本部棟に向かう渡り廊下を歩いていた。
受付に座る恋人をこれから迎えに行って、一緒に飲みに行くのだ。
自分で思い付いた言葉なのに恋人という響きが嬉しくて、どうしても浮き立つ足を抑えられず口布の下に苦笑を浮かべる。
イルカの交替時間まで三十分はあるので、その間に働くイルカをゆっくり眺めようと、愛しい男の凛々しい顔を思い浮かべてはまたにやつく顔を引き締めていた。
ふと、自分に向けられる複数の意思を感じ取って、目線はそのままに感覚だけで辺りを探る。
この先の植え込みに子供たちの気配。
そわそわと落ち着かない。
それと緊迫感。
子供を使って誰かが自分に仕掛けようとしているのだろうかと、反撃体勢をとろうとしてやめた。
以前ナルトにやられた黒板消しの罠と同じ、悪戯の気配を感じたのだ。
なぜ自分にとは思ったが、こんな緊迫感を出してしまうような程度の相手なら何かあっても適当な対処をできるだろうと、足取りを緩めず真っ直ぐ歩いていくと。
はたして小さな男の子が二人、バケツを持って飛び出してきた。

「イルカ先生のかたたたきだっ!」
「バカ! かたきよ!」

植え込みの中から女のコの叱る声がする。
思わず噴き出しそうになるのを堪えて立ち止まったまま待つと、ヨイショとバケツを持ち上げた二人がカカシに向かって中身をぶちまけた。
バッシャーンと景気よくかけられたのは、ただの水。
そしてどこからあつめてきたのか、大量のカエルだった。
アマガエルからウシガエル、ヒキガエルまで大小様々なカエルがカカシの肩から頭からぴょんぴょん跳ねて落ちる。

「ザマァみやがれ!」

子供たちはわぁわぁと歓声を上げながら駆け去っていった。

「何なのよ、これ……」

びしょ濡れになって、呆然と立ち尽くすカカシを残したまま。



イルカを眺めるための三十分は、濡れた支給服を着替えるのに費やしてしまった。
ちょっと濡れたくらいなら軽く風遁でも使って乾かしたのだが、まともに浴びたせいで頭からズボンまでぐっしょりで、これではイルカに不審がられてしまう。
経緯を話したら間違いなくイルカは子供たちを探してお説教するだろうし、そうすると飲みに行くのもその後イルカを自宅に連れ込むのも無くなってしまうのは確実だった。
それだけは避けたいとわざわざ着替えに戻ったところで、子供たちの捨て台詞を思い出す。
「イルカ先生の仇だ」
正確には肩叩きと言っていたが、女の子が訂正していたので仇で合ってるだろう。

「仇……?」

何か恨まれるようなことをしたんだろうかと、しばし考え込む。
まさかイルカ先生が生徒たちに俺とのことを愚痴ってるはずもないし……と首をひねるが、仇以外の情報は洩らしてもらえなかったため、これ以上考えてもしょうがないと頭から振り捨てた。
それより急がないと遅れてしまう。
ルール違反ではあるが緊急事態だからと言い訳して、素早く瞬身の印を組んだ。
またあの子供たちの襲撃があるかもしれないな、という予感めいたものがカカシの頭にちらりと過ぎった。




歴戦の忍であるカカシの勘は侮れない。
たとえそれが、子供の悪戯という些細なことであっても。
里常駐になったとはいえ、よくもまぁフラフラしているカカシを見付けるものだと感心するくらい、子供たちは何度も襲撃してきた。
水とカエル爆弾の次の日には泥ダンゴ攻撃だった。
男女合わせて七人の子供たちが一斉に両手に持った泥ダンゴをぶつけてくる。これがなかなか凝ったダンゴで、外側は砂利で覆ってあり素肌に当たるとまぁまぁ痛い。そして内側は粘土質の土で、べっとりと貼り付いた泥が落ちにくい仕様だったのには感心してしまった。
痛かったのはまたしても避けなかったためだが、なぜかカカシは避ける気が起きなかった。
なんとなくだが悪戯の影に子供たちの真剣さ、必死さを感じたのだ。
今回は「イルカ先生を返せ」の台詞付きだったこともある。

「何なんだろうね、いったい」

上忍師ではない方の任務に出る直前だったので、慌てて汚れた支給服を着替えながらカカシは首をひねった。
その次の日は帰還が真夜中になったせいか、襲撃には遭わなかったが。
またその次の日に七班の子供たちを引率した帰りに、今度は毛虫を山ほど投げ付けられた。

「イルカ先生のかたきだっ!」
「キャアッ毛虫! カカシ先生こっち来ないで! いやぁーーーーー!」

サクラが馬鹿でかい悲鳴を上げてシッシッとカカシを追い払う。
仮にもくノ一の卵が仮にも上官に向かってそれはどうなのと、突っ込みどころはたくさんあったが。
とりあえず全身に軽く静電気を流して毛虫を落としていると、ナルトが怪訝な表情で寄ってきた。

「なぁなぁカカシ先生、イルカ先生のかたたたきってどういうことだってばよ? 毛虫が肩こりを治せるのか?」
「かたたたきじゃなくて叩き、いや仇だ。ナルト……お前もか」
「何がだ。それよりカカシ、まさかお前イルカ先生に酷いことしてるんじゃないだろうな」

サスケが低い声で詰め寄ってくるが、カカシの「うーん、さぁねぇ?」という気の抜けた態度に、毒気を抜かれたようにナルトと顔を見合わせている。

「それよりお前たち、さっきの子供たちを探し出して、毛虫の毒にやられてないかこっそり見てこい。特に顔と手だ」

案の定男子二人からはぶうぶう文句が出るが、しゃがんでバラバラと落ちた毛虫を検分したサクラが真剣な顔で立ち上がった。

「……コノハチャドクガもいる」
「そ。こいつはちょっと厄介だからねぇ。サクラ、コノハチャドクガの毒の特徴は?」
「コノハチャドクガの毒は毒物レベルCで毒針毛は目に見えないほど細く、ヒスタミン系の毒で酷いかゆみや痛み、炎症を起こします。二〜三週間続いて、掻いたところからも炎症が広がるので注意が必要です。重篤なアレルギーの引き金にもなる……あの子たち、大丈夫かしら」

さっきまでキャアキャア騒いでたサクラが、くノ一の顔になってすらすらと答えた。
サスケとナルトが慌てて毛虫の山から飛び退く。

「ん、よく出来ました。そういう訳だからよろしくね。これも修業だと思って。全員の顔はちゃんと見て覚えてる?」

もちろんだってばよ! と即答したナルトは怪しいが、サスケとサクラがいるから大丈夫だろうとカカシは手をひらりと振って「じゃ、受付は俺が行ってくるから。解散」と背を向けた。




サクラが飛ばしてきた式によると、子供たちは全員無事だったらしい。
まともな式を作れるのはサクラだけなのも何とかしないとなぁとため息をつくと、卓袱台の向かいに座っていた目ざといイルカに気付かれてしまった。

「あいつらに手を焼いてるんですか?」

上忍師の適性を疑うような言い方は場合によっては不敬に当たる言葉だが、なんといってもイルカはアカデミー教師で元担任だ。
それに何より恋人なのだ。
カカシはチャンスとばかりに卓袱台を回って抱きつき、甘えた声を出した。

「そうね。毎日新鮮で楽しいけど、やっぱり大変。だから癒やして?」

年上の男、しかも上忍にこうもストレートに甘えられるとは思っていなかったのか、イルカは一瞬驚いたように体を強張らせたが。
すぐに力を抜き、カカシの頭をおそるおそる撫でた。
これで合っているのかとでもいうように、ゆっくりと。
まるで子供扱いなのがなぜか嬉しくて、カカシはそっとイルカの腰に伸ばしていた不埒な手を止め、肉厚で温かい掌の感触をしばし楽しんだ。
そういえば手を焼いているのは七班だけじゃなかったなと、頭の片隅にちらりと七人の子供たちが浮かんだが。
イルカの首筋の匂いを嗅いでいるうちに、それはすぐに消え去った。



たっぷりと恋人の甘い夜を過ごした次の日の朝、カカシの癒やして発言はまだ有効だったらしく、珍しくイルカから「今日は一緒に帰りましょう」と誘ってきた。
その時のぶっきらぼうな口調と尖った唇のぷっくり加減を思い出し、目の前の受付に座る凛々しいイルカと頭の中で並べていると、入口の方がざわつき始める。
ナルトが背伸びして人混みの向こうを見ようとしていると、サクラが「あっ、あの子たち」と声を上げた。
とたんに七班の子供たちよりさらに小さい子供たちが、カカシに向かって勢いよく飛び付いてくる。

「パパーーー!」
「さがしたんだよパパ!」
「おうちにかえってきてよ!」
「ママが待ってるよっ」
「うわきなんてひどいよパパ!」
「「「「「「「だからイルカ先生と別れて!」」」」」」」

総勢七人の子供たちが口々にパパ、パパと繰り返す。

「えっ、ちょっとキミたち……」
「「「「「「「パパ!」」」」」」」

カカシの戸惑った声は、子供たちの雛鳥のようなパパコールにかき消された。
周囲の忍たちはヒソヒソと、あるいは堂々とニヤニヤしながら成り行きを見守っている。
サクラなど先日の毛虫を見た時よりも嫌悪感丸出しで、この世で最も汚らわしいものを見たと言わんばかりに「……サイッテー」と呟きながらカカシから離れた。

「だから違うって……キミたちは」
「こぉらお前らーーーーーー!!!!!!!」

立ち上がったイルカの怒号にその場にいた全員、当の子供たちも含めて皆が耳をふさいだ。

「受付で騒ぐんじゃない! お前たちは……アルト、クラゲ、タマゴにツバサ、」
「逃げろーーーー!」

イルカに名指しで呼ばれた子供たちは、脱兎のように駆け出した。
それを条件反射で追いかけようとしたイルカは、今は受付の任務中なことを思い出したらしく足を止め、その勢いのままカカシに頭を下げた。

「申し訳ございません!」
「違うのイルカ先生! ほんとに俺は……!」
「よぉカカシ、そんなに慌てるとよけいに嘘臭いぞ~」
「カカシ先生、パパだったのかよ。それなのにイルカ先生と付き合うなんてサイッテーだってばよ!」
「パパ頑張れよ〜」

謝罪とからかいと言い訳と詰問とでしっちゃかめっちゃかの中、怒りと動揺で真っ赤になりながら真っ青になったイルカが、皆に向かってさらに頭を下げて回る。

「本当に申し訳ございません! あいつらは後でしっかりと叱っておきますのでっ」
「あ、待って。あの子たちは叱らないでやって」

カカシの制止に、やはりパパなのかとその場が静まり返った。
その空気に頓着することもなく、カカシはきまり悪そうに頭をガシガシとかくとイルカに向き合う。

「カカシさんダメですよ、子供の悪戯だからって甘い顔したら!」
「うーん、あのね。あの子たちの気持ちもね、なんとなく分かるから」
「それはやっぱりパパだからですか?!」
「だから違うって! あの子たちはあなたの生徒でしょ? 家族構成はイルカ先生が一番よく知ってるでしょうが」

やはりイルカも動揺していたのか、カカシに指摘されて冷静になったらしく「……あ」と呟いた。
それをため息混じりに見たカカシが、イルカの肩をぽんと叩く。

「あの子たち、大好きなイルカ先生を俺に取られた気がして寂しいんですよ、きっと。俺だって先生が他の同僚とかと仲良く喋ってたり、飲みに行くのは寂しいし」

しょんぼりとした風を装ってさり気なく牽制され、受付に座っていたイルカの同僚がビクッと体を揺らす。
カカシはそちらに目だけでにっこりと笑って見せ、イルカに身を寄せた。

「だからね、しばらくはあの子たちの好きなようにやらせてやってよ。ね?」
「カカシさん……」

とっておきの甘え声で囁かれ、半分腰砕けになりつつイルカが頷く。

「なぁなぁ、結局カカシセンセーはパパじゃないのかよ」

口を尖らせたナルトがイルカの腰に抱き付いて問いかけ、サスケに「ウスラトンカチ」と頭を叩かれた。
だがサスケまでも絶対零度の眼差しを向けてくる。

「やっぱりお前はイルカ先生に相応しくない」

そのあまりの冷たさと殺気に、サスケの写輪眼が開眼するかと一瞬カカシの腰が引けた。



イルカは納得しないながらも、カカシの願いにより子供たちの度を越した悪戯は不問にされた。
大騒ぎになったはたけ上忍パパ事件も一種のエンターテイメントとして受け止められたらしく、上忍待機所であちこちから「よう、カカシパパ」「あらカカシパパ、今日は子守りはしないの?」とからかわれる。
それらを適当にいなしていたカカシは、これじゃゆっくりできないなと諦めて待機所を後にした。
寒くても中庭の方がましだろうと外に向かう廊下を歩いていると、目の前に黄色い物が落ちている。

――バナナの皮だ。

ライトグレーのリノリウムの床に不似合いな、黄色いバナナの皮だけがぽつんとど真ん中に落ちていた。
いや、これは落ちているのではなく、置いてあるのだろう。
カカシのために。
こんな露骨に怪しいトラップなんて、長い忍人生でも初めて見るなとカカシは右手の階段の上の気配を探る。
すると案の定いつもの子供たちの気配がした。
気配どころか、手すりからいくつも頭が覗いている。
これは素直にバナナの皮で滑って転べばいいんだろうかと、あまりの露骨さに悩みながらも一応歩幅を調整しつつ歩いていった。こういうトラップはまず丸見えの時点でアウトだし、ピンポイントで踏まないと意味がないんだよなぁと思いながら、左足で思いきりよく踏む。
階段の上の気配が、期待のあまりはっきりと露わになる。
ハッと息を呑む音まで聴こえた。
カカシはポケットに手を突っ込んで滑った姿勢のままくるりと宙でひっくり返り、一回転してから床にべちゃりと落ちる。
すると階段の方から「わぁっ」「やった落ちた!」「じょーにんダセェ!」という歓声が上がった。
カカシはそれを聞きながら、我ながら見事に滑って転んだなと自画自賛していると、急に歓声が悲鳴に変わった。
興奮して手すりから乗り出した子供が、他の子まで巻き込んでずるりと落ちたのだ。
団子状にひと塊で階段を転げ落ちていくと思われた三人の子供たちは、次の瞬間ふわりと階段下に着地していた。
全員カカシに抱きかかえられて。

「……まったく。いくら忍の卵だからって、落ちたら痛いでしょ」

カカシがぼやきながら順番に子供たちを床に降ろしていく。
最後に肩から降ろされた一番体格のいいアルトが、真っ先にショックから立ち直った。

「なんで助けるんだよ! オレたちは敵だろ?!」

大人相手に臆せず食ってかかるアルトに、カカシは眠たげな片目を少し見開くと困ったように頭をかいた。

「だって、キミたちイルカ先生の大事な生徒でしょ? 怪我なんてしたら先生が心配するじゃないの」
「ぅ……うるせぇ! お前に助けられなくてもケガなんかしないっ」
「はいはい、助けちゃってごめんね。ま、次はちゃんと自分たちの安全も確保してかかってきなさいね」

子供たち三人はぽかんとカカシを見上げた。
階段から降りてきた四人も、お互い顔を見合わせている。
てっきり叱られるか馬鹿にされるかと思っていたのに、なんと次の襲撃の許可までされたのだから。

「……お前、変わった大人だな」
「え、俺って変わってるの?」

真顔で返すカカシに子供たちは我に返ると、アルトの「オレたちはお前なんかみとめてないからな!」という捨て台詞を残して駆け去っていった。



それから数日間、子供たちの襲撃はなかった。
もう飽きたんだろうかと少し寂しく思っていた、上忍師の任務前の朝。
カカシはサクラから手渡された紙を手に困惑していた。

『はたしじょう』

これはいわゆる果たし状というやつかと、明らかな子供の筆跡に例の子供たちの顔を思い浮かべる。

「……で、なんでサクラがこれを?」
「知りませんよ。今朝集合場所に来る途中、あの子供たちが待ち伏せしてて、これを白髪の上忍に渡せって」
「白髪って、あいつらカカシ先生のことジイちゃんだと思ってるのか」

腹を抱えて笑うナルトの頭を果たし状で叩く。
それから三つ折りになった書状を開いてみると、『夕方5時、アカデミーのうら山にこい』と大きな字でのびのびと書かれていた。

「ま、これに間に合うように、今日の任務を頑張ってちょうだい」
「遅刻するなよ」

サスケがすかさず突っ込む。
こんな事にサスケが口を出すのも珍しいなと思いながら、駆け出す七班の後をのんびりついていった。



なぜか張り切っている七班のおかげで任務は速やかに終わり、余裕を持って裏山に着く。
何か仕掛けてあるだろうが、事前に調べるようなことはしなかった。
裏山のどことは書いてなかったが、気配も断たずにぼーっと突っ立っているから大丈夫だろうと楢の木に寄りかかっていると、七人の子供たちが走ってきた。

「はっ、はっ、早かったな! 一人か?!」
「助っ人なんか、ハァハァ、呼んでないだろうな?!」

よほど急いで来たのか、全員肩で息をしている。

「一人だよ。で、今日は何の用?」

先頭に立ったアルトが大きく息をつくと、他の六人を見渡してからカカシに向き直った。

「はたけカカシ。お前は上忍だけど、そんな悪いやつじゃない」

子供たちが自分の名前を知っていたことに、カカシは少し驚いた。
今まで全く躊躇なく悪戯を仕掛けてくるくらいだから、てっきり知らないと思っていたのだ。
良くも悪くも名が売れている自分のことを。

「だからムカつくけど、お前のことをみとめてやる」

アルトに続いて双子の片割れのツバサが進み出た。

「お前ならイルカ先生をまかせてやる。でも泣かせたらオレたちがぶったおしてやるからな!」
「イルカ先生をちゃんと幸せにして」
「じゃないとぜったいゆるさないから」

――ああ、さすがはイルカ先生の教え子だなぁ。

口々に言い募る子供たちを、カカシは感慨深く見渡した。
悪戯とはいえ『写輪眼のカカシ』を遠巻きにすることも媚びることもなく、真っ向勝負を仕掛けてきたこの子たちとの時間を、自分はけっこう気に入っていたのだと今さらながらに気付く。
カカシは寄りかかっていた木から背を離し、しゃんと立って子供たちと向かい合った。

「約束するよ。イルカ先生を泣かせない。幸せにする。この額当てに誓うよ」

ま、夜は泣かせちゃうけどね~などとチラリと思ったが、もちろん口に出すような不粋なことはしない。
顔つきをきりりと引き締めた子供たちが、大きく頷いて返した。
すると遠くから急いで駆けてくる気配が近付いてくる。

「イルカ先生、こっちよ! 早く!」

サクラの声だ。
なぜ、今。
それと。

「コラァーーーーーッ! お前ら、いい加減にしろ!」

イルカが飛ぶように駆け寄り、七人の子供たちの頭に順繰りにゲンコツを落としていく。
あまりの素早い連打に、唖然としたカカシは止めることもできなかった。

「この馬鹿者ッ! お前らカカシさんが優しいからってつけあがるんじゃない! 日頃から里のために命削って働いてくださる上忍に対して失礼だろうが!」

喧々と説教を続けるアカデミー教師のイルカに、新米上忍師のカカシでは分が悪い。
今日は何もされてませんよ、とか俺たち和解したんです、と間に入ろうにも隙がないのだ。
止めようとする両手を所在なく宙に彷徨わせていると、隣になぜかサスケとナルトが立った。

「イルカ先生〜、この後は教室で歴代火影様のお言葉書き取り百回の罰だろ?」
「俺も監督を手伝おう。なにしろアカデミーの後輩がやった事だ」
「ナルト? サスケ、お前まで何を……」

カカシが振り返る間もなく、二人もイルカのそばに駆け寄った。

「その後はみんなで一楽だってばよ!」
「その前にカカシさんに謝罪だ!」

イルカは子供たちをカカシの前に並ばせると、真っ先に頭を下げた。

「ご迷惑をおかけして本当に申し訳ございませんっ!」
「「「「「「「すみませんでした!」」」」」」」

七人の子供たちが驚くほど素直に頭を下げる。
イルカは顔を上げると、申し訳なさでいっぱいなのか眉をへにょりと下げて声を潜めた。

「これからこいつらを叱って書き取りやらせるので、今日の晩飯はご一緒できません。ほんっとすみません!」

早口でそう伝えると、もう一度頭を下げてから子供たちに向き直った。

「よーし、お前ら全員教室まで駆け足! 先生についてこい!」

駆け出すイルカに慌てて子供たちが走り出す。
叱られるとはいえイルカに構ってもらえるのが嬉しいのだろう、とても嬉しそうに。
だが、なぜか七班の子供たちも一緒についていった。
目まぐるしい展開にぽかんとしていたら、七人の子供たちが一斉にくるりと振り返ると。
指で目の下を引き下げ、舌をべぇーっと出した。
あっかんべぇーと。
そしてナルト、サクラ、サスケまでが振り返ってニヤリと笑いかけ、走り去っていった。
小さな子供のような甘えた声で「イルカ先生、待ってくれってば〜」と言いながら。

……やられた。

カカシは呆然と立っていた。
あの子供たちと七班の面々の、してやったりという顔は……。
なんと、アカデミーの子供たちと七班は共犯だったのだ。
あの子供たちの最終目的は、カカシとイルカを別れさせることではなかった。
カカシに悪戯を仕掛けて本音を叫んでスッキリしつつ、イルカに叱られるという名目で説教・罰・一楽のフルコースでイルカとの時間をたっぷりと味わおうという魂胆だったのだ。
カカシと付き合い出してからは、イルカの時間はほぼカカシに独占されていて、普通にイルカを誘っても必ずカカシの邪魔が入るから。
そういえば、とカカシは思い出していた。
数々の違和感を。
なぜ子供たちが、カカシの居所を正確に掴んで悪戯を仕掛けられたのか。
それはいつも上忍師の任務の後が多かった。七班の。
仕掛けるタイミングはきっとサクラが連絡していたに違いない。七班で唯一、式を作れるサクラが。

それにコノハチャドクガの時、全員の顔を覚えてるかと聞いた時に、ナルトは何と言っていたか。
「もちろんだってばよ!」
あれはいつもの空威張りかと聞き流していたが、事実覚えていたのだ。なにしろもともと顔見知りであり、計画を一緒に立てたに違いないのだから。
恐らくはアカデミーの子供たちが、ナルトの後輩である木ノ葉丸経由で手伝いを頼んだのだろう。そしてナルトはサクラとサスケに頼んだ。
まさかサスケもと思うが、あれでイルカ至上主義なところがあるので、二つ返事で請けたのかもしれない。サスケが唯一「先生」と呼ぶイルカのことだから。
それに最初のカエルの時はナルトまで「肩叩き」と言っていた。
あれはナルトまで同じ間違いをしたのではなく、ナルトが肩叩きと言ってしまったのを子供たちがそのまま言ったのだろう。

そしてサクラ。
毛虫を嫌がっていたのは演技だ。
毒を持つ毛虫はコノハチャドクガ以外にもたくさんいる。いくらアカデミー生とはいえ、無傷であんな多くの毛虫を集められるとは思えない。自分基準でつい考えてしまったが、十かそこらの子供はもっと考え無しで無謀なはずだ。
子供たちが全員無事だったのも当然だ。
それらの扱いを教えたのは、間違いなくサクラだっただろうから。

なぜそこまでしてカカシに悪戯を仕掛けたのかなど、疑問に思うまでもない。
結局は七班の子供たちも気に食わなかったのだ。
後からぽっと出のカカシにイルカを取られたことが。
二人の付き合いを報告した時は、大騒ぎしたわりにすんなり受け入れてくれたと思っていたが、それは表面上のことだったのだろう。
三人とも下忍とはいえ、アカデミーの生徒たちよりほんの少し年上なだけだから。
受付でのパパ騒動の時のサスケの「お前はイルカ先生に相応しくない」の言葉。
あれこそサスケの、三人の子供の部分の本音だったのだ。



カカシは遠く小さくなっていくイルカと大小十人の子供たちの背を見送りながら、やれやれと肩をすくめた。

「まったく、人気者を恋人にすると苦労するねぇ」

まんまと目の前でイルカをかっさらわれてしまった。かつてカカシがしたように。
ま、今日のところは譲ってやりましょと、苦笑しながら一跳びで裏山を後にする。
ナルトをはじめとする卒業生だけではなく、アカデミーにも面白い子が育っているのは、さすがイルカ先生だと素直に嬉しかった。
だが七班のメンバーにまでしてやられたのは、上忍師として頂けない。

「今度ちゃんとお返ししとかないとねぇ」

自分の素顔をちらつかせれば、あの三人のことだ。
きっと簡単に釣れるだろうと、スケアの登場を画策しながら口布の下で頬を緩めた。



【完】