【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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コツン、という音で目が覚める。
毎度お馴染みの式鳥が窓をつつく音だ。
窓を開けようとして伸ばした手が壁にぶつかる。いつもの位置に窓枠がないことで、昨夜はイルカ先生の部屋で呑んだ後に泊まらせてもらったのを思い出した。
というか背中があったかいの、これ先生の素肌だ。イルカ先生は酔っ払って寝るといつも全裸だからなぁ。普段は裸族じゃないのに。
起こさないよう静かに起き上がって窓を開け、式鳥を呼び込むと手の中で白い紙片に変わる。帰還中に襲われた隊の救援要請で、相手方に珍しい術を使う忍がいるから、救援ついでに写輪眼で術をコピーしてこいとのお達しだ。詳細は大門で待つ同行者に聞けとあるから、直ぐの出立になる。
やれやれ、五代目も人使いが荒いと、明け切らぬ窓の外を眺めた。とはいうものの、救援要請なら急がなくては。文面にはなくとも最優先すべきは同胞の救援、次いでコピーだろう。
シャワー等の諸々をすっ飛ばして床に散った衣類を身に着け、装備の確認をしながらこのまま現場に向かう旨を式で返した。イルカ先生にメモを残そうと思ったけど、任務だと察してくれるだろうと残さないことにする。
酒は抜けているけど念の為酒抜きの丸薬を含み、手甲を嵌め最後に額当てを締めると、先生の健やかな寝息を後に部屋を出た。
襲われた隊は帰還中にも関わらずよく健闘していて、俺たちが到着するまで負傷者を守りながらしっかり隠れていた。
忍犬を口寄せてそちらの守護を頼み、同行者の中忍と協力してトラップを仕掛け、珍しい術の奴を含めた五人を順に倒していく。もちろんその術とやらもコピーさせてもらった。
無事全員揃って里まで帰り着いたことを喜び合い、こういう任務だと後味もいいねと思いながら、五代目に報告を済ませる。
「珍しいとは聞いていたが、本当に珍しい術だな。物が持ち主の元に自ら戻る術、とはねぇ。忍術というより、失せ物探しとか生活便利術としての方が有効活用できそうだな」
口頭での報告に、五代目が呆れ半分に感心して頷く。
「巻物や極秘の書類、国宝級の美術品等の奪還には使えそうですね」
「まぁそうだが、持ち主の認定がどういう法則かにもよるな」
確かにと納得しながら、術の詳細は後ほど巻物に記して届けることを約束して任務完了となった。
今は一刻も早く執務室を退出したくて仕方がなかったから、特に追加で何か命ぜられることもなく「ご苦労だった」の一言に、内心ホッとして頭を下げると速やかに扉の外に出る。
回り廊下を進み、人目のない所で窓の外に飛び出すと建物を幾つか跳び越えて、とある庇の上に膝を突いた。
周囲を確認すると、ズボンの左のポケットの中身をそっと取り出す。
ギュッと丸められた濃紺の布に、ちらりと覗く黒い幅広のゴムベルト地。
――やっぱり。
俺は、
俺はイルカ先生の着用済みパンツを持ってきてしまっていた。
任務先に向かう時から、ずっと気にはなっていた。やけにかさばる物が左のポケットに入っているのだ。
こんな物持ってたっけ? と駆けながら取り出し、一目見てひゅっと息を呑んですぐに戻した。同行者は案内の為に先行してたから、気付かれなかったはずだ。
ものすごく既視感のあるそれは、間違いなくイルカ先生が寝る直前まで穿いていたパンツだった。
なぜ断言できるかというと、酔っ払った先生が寝る前に脱いで豪快に放り出すところを、視界の隅で凝視するという技を使ってたからだ。
なぜ普通に見ないでそんな技を使ってたかというと、うしろめたいからだ。
イルカ先生のことが好きだから。
人間的にだけじゃなく、性的なものも含めて。
さて、俺は今、人間性を試されている。
ポケットの中身を取り急ぎ確認した後は真っ直ぐ自宅に帰り、厳重に戸締まりをするとベッドの頭の方のカーテンも閉めて、大きく深呼吸をしてからポケットの中身を取り出した。
パンツだ。
やっぱりパンツだ。イルカ先生の。
先生はてっきりトランクス派だと思ったら、意外にもボクサーショーツ派なんだよね。「昔はトランクスだったけど、こいつのフィット感を知ったらやめられませんよ!」なんて前にパンツ談義で力説してた。ま、もちろん俺がパンツの話に誘導したんですけども。
これはかなり愛用してるスタメンらしく、生地は何十回の洗濯と苛酷な使用を経て程よく柔らかくなり、ウエストのゴムの部分もだるんとなりつつある、肌馴染みの良さそうな綿100%のパンツだった。
丸一日着用したせいであろう、両尻の部分は丸みを帯びた生地の伸びが顕著に表れている。露骨なフォルムについ動揺して表側にひっくり返してしまったけど、前の生地の膨らみがどこの何を覆ってたなどと考えてはいけないし、想像してもいけない。
でもこれは本当にイルカ先生のパンツだろうか?
万が一何かのアクシデントでポケットに紛れ込んだ、同じデザインの別人の物という可能性も捨てきれないのでは?
本当に先生の物か匂いで確認しようとして、慌てて手の中のパンツを顔から遠ざけた。
いや違うから!
これは鼻の利く俺ならではの確実な確認方法であって、決して変態的な行為じゃなく! ほら、間違って他人の使用済みパンツなんか返却されたら、先生だって気分悪いでしょ⁉ 名前なんて書いてないし、他に確認方法なんてないでしょ⁉
誰にしてるのかよく分からない言い訳を必死にしながらパンツ片手に室内をうろうろ歩き回って、ふと我に返った。
ここには俺しかいない。
ならば別にやってもいいんじゃない?
何一つやましい事なんてないし?
ただ匂いで持ち主を確認するだけ、任務でもしょっちゅうやってるし。
できるだけプロフェッショナルに、事務的にパンツに顔を寄せて鼻から一瞬息を吸い込むと目を閉じる。
……うん、間違いない。
太陽をいっぱいに浴びた干し草の中に、仄かに香るみずみずしい果物のような甘酸っぱさ、そして何より饒舌に語りかけてくるアルコールの残り香。
この匂いはイルカ先生だ。
確定したとたんに手の中にあるのがまずいような気がして、ベッドの上にそっと広げて置いた。
手裏剣柄の中に濃紺のパンツ。
俺のベッドに、イルカ先生が横たわってるみたいに……
ストップ!
これ以上はダメだ。
血迷って何か変態的な行動を起こしてしまう前に、さっさと返してしまおう。今頃ならイルカ先生は受付にいるはずだ。
取り上げたパンツを丁寧に畳むとポケットにしまい込み、先生に会うべく受付に向かった。
ちょうどラッシュ時が過ぎたのか、昼休み後の受付は閑散としていた。
室内も人がまばらになっていたので、普段は行列してるイルカ先生の前に遠慮なく立つ。
「せーんせ、昨日はありがとね。挨拶も無しにごめんね」
「お疲れ様です、カカシさん! いえ、急用かなと思ってたので大丈夫です」
任務と言わない辺り、いつもながら先生の配慮は細やかだ。
黙って消えたことで、表に出せない任務かと判断したのだろう。実際は緊急だっただけで、事後依頼書と報告書がこれから受付に上がってくるはずだ。
「今日はこれからですか?」
「ううん、待機だから、その前にこれを返し……」
ポケットからパンツを取り出しかけて気付く。
受付という公衆の面前で、着用済みパンツを渡すのはまずいのでは?
しかも何の説明も無しに渡したら、下着泥棒と勘違いされてしまうかもしれない。
思慮深く配慮の行き届いたイルカ先生にそんな無神経な事をしたら、間違いなく嫌われてしまう。そうだ、せめて洗濯くらいしておくべきだった。
こめかみにたらりと流れた冷や汗が、口布に吸い込まれる。
覆面忍者で良かった。本当に良かったと噛み締めながら、ごく自然な動きでポケットの中のパンツのさらに奥底に何か他の物がないかと探った。
すると金属質の小さな平たい物が触れたので、パンツが飛び出さないよう押さえながらそれを引っ張り出す。
「……じゃなくて、えーっと、これ。鍵……? えっと、預かっといてもらえる?」
その金属質の物は、自宅の鍵だった。
そういえば家を出てくる時、慌ててポケットに突っ込んだ気がする。
返すを預かるに言い替えたしちょっと疑問形になったけど、不自然ではなかったと信じたい。鍵なら合い鍵もあるし、次回会った時にでも返してもらえばいいだろう。預けた理由は今のところ何も思い付かないけど、少なくとも着用済みパンツをそのまま渡すよりは百倍ましだ。
いきなり鍵を渡されて目をぱちくりさせてるイルカ先生にニコッと笑みを向けて誤魔化すと、パンツを洗濯するために急いで帰宅しようとした。
そこに先生から声がかかる。
「そうだ、カカシさん! 明日の夜はお時間あります?」
明日? 今のところ任務は入ってないけど、また突発で来るかもしれない。それまでにはパンツを返してしまいたい。これ以上いろんな誘惑に気持ちを乱される前に。
「あー、うん、たぶん」
振り返って曖昧な返事をしたら、立ち上がってたイルカ先生が「良かった」とホッとしたように笑った。
思わぬタイミングで先生の笑顔を貰えたことで、ちょっとふわふわとした気分になれる。
軽く手を振ると、今度こそ自宅に取って返す為に受付を後にした。
さて、俺は今、再び人間性を試されている。
急いで洗濯しようと勇んで帰宅したものの、いざとなると惜しい。
何がって、ほら、ね?
好きな人の着用済みパンツなんて、なかなか合法的に手に入る物じゃないじゃない。
これをこのまま返してもいいのか? 本当に後悔しないか?
でも新品を買ってすり替えるにも、本物はあまりにも着用感があって新品に擬態をさせるには荷が重い。
さっきのイルカ先生の様子を見る限り、紛失に頭を悩ませてるようでもなかったし、このまましらばっくれて有り難く頂いても良いのでは?
悪魔の囁きが耳元でしたけど…………いや、ダメだ。次会った時に、正々堂々と友人面をできる自信がない。
これ以上パンツの事で悩まなくていいよう、急いで洗濯機に放り込むと、ついでに自分が着てた物も全部脱いで一緒に洗濯することにした。
洗剤と忍御用達の無臭柔軟剤を入れて蓋を閉め、スイッチを入れる。ジャーッという水の溜まる音を聞きながら、小さな覗き窓から俺と先生のパンツが絡み合うところを眺めていた。
お前らはいいよな。そんな簡単に絡み合えて。
よく分からない羨望と哀愁を胸に、風呂で自分のことも綺麗に洗濯した。
待機所に行く前に、今後こそパンツを返してしまおうと再度受付に向かう。
途中で剥き出しで渡すのはまずいと気付き、コンビニでラッピング用の紙袋を買った。金色地にピンクのハートが乱舞してるのしか無かったけど、パンツ丸出しよりはいいだろうと袋に入れる。
受付のある本部棟の廊下を通りかかると、イルカ先生の声と女の人の弾けるような笑い声が聞こえた。
思わず気配を消してそっと覗き込むと、第二資料室の前で先生と小柄なくノ一が笑い合ってる。元生徒とかアカデミーの同僚かと、屈託のない先生の笑顔をぼんやりと見つめてると、くノ一が内緒話をするようにイルカ先生に顔を寄せた。
ぐつりと腹が煮える。
そこは、その距離は俺のものだ。
何の根拠も権利もない独占欲が噴き出し、慌てて整息して背を向けた。
これ以上ここにいたらダメだ。
うっかりあの女を引きはがして、イルカ先生を連れ去ってしまう。
せっかく理性を働かせたのに、忍の無駄に優秀な耳が内緒話の内容を拾ってしまった。
「ねぇ、じゃあ明日の夜にしない?」
「明日かぁ……うーん、そうだな」
「ダメよ、ちゃんと約束して」
「分かったよ、約束な」
明日の夜。
背中で聞いた先生の答に足が乱れる。
……明日の夜は俺と会ってくれるんじゃなかったの?
その女と会う為に俺を切り捨てるの?
俺はただの友人だから。
俺の隣で全裸で眠るほど心を許してくれても、それでもその他大勢の友人の一人にすぎないから。
早足で歩いてたはずなのに瞬身でも使っていたのか、気付いたら自宅に戻っていた。
下足のまま部屋に上がり、ポケットからハート柄の袋を取り出す。こんな愛らしい物は女性が使うべきだ。
例えば、あの小柄なくノ一とか。
袋の口の両端を掴むと、力任せに引き破る。
びりびりに破れたハートが床に散り、その上に濃紺のパンツが落ちた。
イルカ先生の円みを帯びた尻を、股間の膨らみを覆う布切れ。
――そう、単なる布切れだ。
俺が本当に欲しいのは、布切れの中身だ。
この布切れに覆われた先生の肌を撫で回したいと、唇でなぞり舌を這わせたいと思ってるのだ。
あの女に突っ込もうとしてる先生のちんこを、心ゆくまでしゃぶってしごいて吸い上げて、その奥の本来なら排泄器官であるそれを性器に作り替えて。そこに俺自身を突っ込んで揺さぶって、ぐちゃぐちゃにしてやりたいのだ。
もう女なんて要らないと泣くまで、いつまでも。ずっと。
崩れるように膝を突いた。
腹に溜まる熱が性欲なのか怒りなのか分からないままに下衣のファスナーを下げると、怒張したモノがぶるんと飛び出す。
それを手甲も外さず握ると、歯を食いしばりながら扱き上げた。親指で先端を抉り、革の往復する感触からほとんど罰のように無理やり快感を拾う。
イルカ先生。
あんたに突っ込みたい。
イきながら俺の名を呼んでほしい。
それできつくしがみついて。
腕で、脚で、あんたの中の熱い肉で。
濃紺の布切れめがけて白濁液がぱたたっと飛ぶ。
はっ、はっと乱れる息と心音が収まるまで、先端から床に垂れ落ちる精液もほったらかしにしてぼんやり呆けていた。
もういい。
あのくノ一と逢い引きでも何でもすればいいよ。
このパンツは返すから明日穿いて行けばいい。
俺の欲望で汚れ、俺の匂いが染み付いたパンツを脱いで、あの女とセックスすればいい。
込み上げてくる澱んだ笑いに肩を揺らしながら、滲む視界で濃紺に白く点々と散った欲望の残滓を眺めていた。
今度こそパンツを返そう。可及的速やかに。
いくら薄暗い欲望を実行するとはいえ、さすがにこのまま返す訳にもいかないのでまた洗濯をする。
終了のブザーが鳴るまで、気持ちを鎮める為に例の珍しい術を巻物に記しておくことにした。
そこでふと思い付く。
この術を使えば先生と顔を合わせることもなく、秘かに返却できるんじゃないだろうか。
イルカ先生が部屋にいる時間帯に発動させれば確実に持ち主の元に戻るし、先生の部屋は雑然としてるから、着用済みパンツの一枚くらい増えても疑問に思わないだろう。そうすれば最初からパンツ消失事件もなかったことになる。
救援任務の時、敵にこの術を発動させる為にわざと木ノ葉の額当てを落として、隠れている者たちの所へと誘導するトラップを仕掛けた。実際は同行者の中忍の額当てだったから彼の所に誘導されてきたけど、額当てはけっこうなスピードで飛び、まるで意思でも持っているように真っ直ぐ向かっていったから驚いた覚えがある。
あれくらいのスピードと確実性なら里でも使えるし、夜の闇に濃紺のパンツも紛れてくれるはずだ。
もう一度巻物を読み返して手順を確認するとちょうど洗濯終了のブザーが鳴ったので、戦場でたまに使う風遁と火遁の合わせ技で一気に乾かす。
パンツを巻物の隣に置き、いざ術をかけようとしてふと気になった。
もしこれが血継限界の者しか使えない術だったら。
持ち主の元に物が自ら戻る術の使い手の一族なんて聞いたことはないが、絶対とも言い切れない。それで不完全に発動してしまったら、先生のパンツが木ノ葉の里を彷徨うことになってしまう。
何か他の物で実験したいところだけど、あいにくいきなり物が飛んできても困らない人の私物なんて持ってない。残念ながらテンゾウはちょうど暗部の方の任務中だし。
追跡して見失わない自信はあるけど、念の為手綱を握っておいた方がいいかもと辺りを見回したら、普段は使ってない忍犬の散歩用のリードが目に入った。パンツを散歩させるのもどうかと思うけど、見失うよりはましだろう。
パンツの内側のタグの輪になった部分に紐を通すと、本来は首輪にはめるフックを引き綱にカチリと付ける。これでよし。あとは直前でリードを外せばいい。
手元の輪になった部分に手首を通して、覚えた通りに印を組み上げていく。
するとパンツがふわりと浮き上がり、いきなり窓の方へと一直線に飛び出した。ぐんと手首を引かれながら慌てて窓を開け、すっかり暗くなった外へ足を踏み出して跳ぶ。
イルカ先生の家へと。
パンツはうちの子で一番早いウーヘイと同じくらいじゃないかというスピードで、夜の里の宙を飛んでいた。
さすがに空を飛ぶことはできないので、家々の屋根を駆けながら、人間では通り抜けられない細い隙間を行こうとする時だけ手綱を引いて道を変えさせた。
パンツは意外にも従順さを発揮して、引かれるとおとなしく方向を変えてくれたから良かった。
「よーしよし、いいこだ」
つい習慣でパンツに声をかけてしまうと、それに返事があった。
「なんだ、散歩かカカシ! ん? ずいぶん珍しい物を散歩させてるな……あれはパンツか?」
ガイ!!!
よりによってガイ……!
いつの間に隣にいたのか、並走しながら手綱の先を覗き込んでいる。野性の忍とはいえ、さすが上忍。俺たちのスピードに悠々と並んで、しかも夜に紛れる濃紺の布切れの素性をぴたりと当てた。
やめて今はやめて!
これからイルカ先生の家に行くんだから、お願いだから付き添わないで!
「そ、物を使役する術の実験中なの。今まだ飼い馴らしてる最中だから邪魔しないでよ」
「そうか、お前は本当に研究熱心だな! じゃあ勝負はお預けか。頑張れよ!」
他の奴なら到底通じないであろう言い訳をガイはあっさり受け入れ、親指をビシッと立てて去っていった。
あいつのおおらかさは本当に有り難いというか、何というか。
肩の力を抜いたとたん、パンツがぐんとスピードを上げた。
もうすぐイルカ先生の家だからだろう。アパートの二階の端の窓には、カーテンの向こうの明かりが漏れている。
そろそろ手綱を放さなくてはとフックを外すと、自由になったパンツが一直線に先生の部屋の窓に向かって。
びたんっ!
と張り付いた。
パンツはあと一息で持ち主の元に戻れないことに苛立っているのか、さらにびたん! びたん! と何度も窓にぶつかっていく。
待ってお願い!
そんなんじゃ先生に気付かれちゃうでしょ⁉
果敢にも体当たりを繰り返すパンツを、取り急ぎ回収しなくてはと慌ててベランダの手すりに飛び付くと、カラリと窓が開いた。
「あれ、カカシさ、うぶわっ⁉」
「……こんばんは」
パンツを顔に張り付かせたイルカ先生に、とりあえず挨拶をする。
ようやく持ち主の元に戻ったパンツは、術が解けたのかパサリと床に落ちて動かなくなった。
二人で無言のままパンツを見下ろしていたが、いつまでもそうしている訳にもいかない。
するとイルカ先生がパンツを拾い上げた。
「これ、俺のパンツ……? カカシさん、どうしたんですか?」
どうしたんですかって。
いつの間にかパンツがポケットに入ってて、返そうとしたらイルカ先生が明日くノ一と逢い引きの約束をしてて、パンツの散歩をしてたらガイに会って、イルカ先生は明日俺を捨ててあの女を選ぶんでしょ。
俺はこんなにもあんたのことが好きなのに。
「……捨てないで」
自分でもびっくりするほど弱々しい声が、ぽろりと零れた。
「捨てませんよ? これけっこうお気に入りですからね!」
そう。パンツはそんなに大事にしてるのに、俺のことは簡単に捨てるんだね。
じゃあ俺も大事にしなくていい?
イルカ先生のこと、今すぐ抱いて抱いて抱き潰して、明日どこにも出かけられないようにしてもいい?
「あ、でもこれ失くしたと思って、今日新しいの買っちゃったんですよ」
捕らえようと伸ばした手は、空を切った。
俺の薄暗い欲望を知らないイルカ先生は、たははっと笑うとふと何か思い付いたように顔を輝かせて、椅子の背にかけていた鞄を取りに行ってしまった。
そして鞄の中からビニール袋に入った濃紺の物を取り出して、得意げに俺に見せてくれる。
「じゃーん! ほらね、コノクロでおんなじパンツがちょうど売ってたんですよ。そうだ、じゃあこれ、カカシさんにあげます! 一日早いけど誕生日プレゼントです!」
たんじょうびプレゼント。
誕生日プレゼント?
「あっ、でもパンツがプレゼントなんて失礼ですよね、ちゃんとしたお祝いは明日で!」
「…………俺の?」
「え、明日はカカシさんの誕生日ですよね?」
すっかり忘れてた。そういえば明日だ。
「そうだけど、明日はあのくノ一と約束があるんじゃないの?」
せっかくイルカ先生がパンツをくれると言ってるのに、しかも誕生日プレゼントを。
それだけで満足できず、刺々しく詰問する俺はいったい何様なんだろう。
先生が急に真っ赤な顔になって、おろおろとし始めた。
俺との約束なんてどうでもいいんじゃなかったの? あの女との約束は忘れてた? でもやっぱり俺よりあの女を選ぶんでしょ。だからそんなにうろたえてるんでしょ。
「え、あっ、なんでそれを」
「ごめんね、たまたま通りかかって聞いちゃったの。明日は忙しいんだから、俺と会ってる場合じゃないんじゃないの?」
嫌みまで言うなんて、本当に女々しい奴だな俺は。
もうパンツを渡したし、プレゼントを貰って帰ろう。そう思うのに足が動かない。
ダメだ。
この手を伸ばして先生を捕まえてしまったら。
もう。
「いや、そうじゃなくてその、夜はカカシさんと」
「……何それ。二股かけるつもり?」
「あーもう、違います、あいつはただの同士です! 『我ら同性に片想いだけどガンバ連盟』の! だからあいつとは明日は会いません! 明日、お互い好きな人に告白するっていう約束をしただけですっ」
「だからあのくノ一に告白……え?」
イルカ先生がしまったという顔をしたけど、どういうこと?
『明日』『お互い』好きな人に告白するって。
イルカ先生が明日会うのは俺で。
それって、つまりは。
「えーっと、…………俺、に?」
「ううう、今は言いません!」
イルカ先生はものすごく辛いものを我慢して飲み込むような顔で、ぷいと横を向いてしまった。
でも、『今は』って。
「明日になったら言ってくれるの?」
「明日になったら言います。……あの、もう丸わかりかと思いますけど、……嫌じゃないんですか?」
「何が?」
恐る恐るといった風に、先生が顔をこちらに向ける。
「俺が明日カカシさんに告白すること、です」
「嫌じゃない! 全然嫌じゃないよ! すっごく嬉しいよ! ほんとに? 明日告白してくれるの? 俺に?」
「あの、告白って何を言うか分かってますか? 隠し財産の在り処とかじゃないですよ?」
「分かってるよ! え、どうしよう」
俺が興奮すればするほど、イルカ先生がうろんな目付きになるのはなぜだろう。
「実は女でしたとかでもないですよ? そういうドッキリや懺悔の告白じゃないですよ?」
「先生が男でも女でも何でも構わないけど、嬉しいに決まってるじゃない! 俺だってイルカ先生のこと好きだもん!」
イルカ先生の口がぽかんと開いた。
ふっくらとして、柔らかそうな唇だなぁ。
舌も健康的な赤みを帯びた桃色で、あぁ、その口に舌を突っ込んでぐちゃぐちゃにかき回したい。
――あれ?
「先生、そんなに固まっちゃって、どうしたの?」
「どうしたのって、…………ほんとに?」
「イルカ先生の唇は本当に可愛くて美味しそうだよ?」
「そ……っ、んなこと聞いてるんじゃありません! カカシさんが俺のこと、す、……き、って」
「うん、大好き。先生のパンツをうっかり無意識にポケットに突っ込んで、一緒に任務に行っちゃうくらい、大好き」
イルカ先生の口が、ぱくぱくと音のない声を発した。
それからごくりと唾を飲み込んで、ためらいがちにもう一度口を開く。
「あの、ですね。俺もカカシさんのことが、す……」
「待って、ダメ!」
思わず手すりから飛び降りて抱き寄せると、口をふさいでしまった。
手ではなく、自分の口で。
あぁ、イルカ先生の唇は、やっぱりふっくらと柔らかくて。
まだ何か言いたげに動くから、そこに機を見出だして舌を突っ込んだ。柔らかいだけじゃなくて熱い。熱のことまでは想像してなかったなぁ。
肉厚で張りのある舌に舌を重ねて誘ってみる。軽く歯を立てて甘噛み、じゅうっと吸い上げた。
今は絶対にこれ以上何も言わせない。
だって明日告白してくれるって言った。
俺の誕生日に、イルカ先生が。
俺のこと、す……って。
押しのけようとしてたイルカ先生の両手が縋り付くようになった頃、ようやく顔を離すと耳朶に唇を寄せて囁いた。
「明日まで言わないで。お願い」
「……言わないでって、もうキスまでしちゃったじゃないですか」
ちょっぴり呆れてるような声だけど、黒い目にとろりと熱が溶けていて、このまま押し倒してもという不埒な考えが浮かぶ。
でも我慢、我慢。
ふうーっと息をつくと、頬に軽くちゅっとキスをした。
くすぐったそうな笑みを浮かべた先生が、何か思い付いたのか小さく声を上げて俺を見た。イルカ先生ったら、まだこんな可愛い表情を隠し持ってたなんて。
「そうだ、鍵。どうします? まだ預かっておきますか?」
鍵……?
あ、パンツの身代わりの術にした家の鍵か。
「あげる。誕生日プレゼントのお返し」
「お返しって、まだちゃんとプレゼントあげてないじゃないですか」
ううん、貰ったよ。
お揃いのパンツと、キスと、サプライズでイルカ先生を。
あと、明日の告白も。
これ以上ないってくらいのプレゼントを貰ったよ。
「明日が楽しみだなぁ」
こんなにも明日という日を楽しみにしたことなんて、生まれて初めてかもしれない。
この感情があると、今なら何でもできるという無敵感が湧いてくる。
――しまった。
イルカ先生のパンツ、洗ってはあるけど俺のあれで汚しちゃったんだった。
どうしよう、貰った方の新品と交換してって頼むべきか。でも理由もなくお願いしたら、先生の穿いたパンツを欲しがる変態と思われてしまう。いや間違ってはないけど。
するとイルカ先生が、ふふっと含み笑いをした。
「カカシさんって、顔を隠してないと本当に感情が丸見えですよね」
「え、やらしいこと考えてたのも⁉」
「やらしいこと考えてたんですか⁉」
びくっとして一歩下がったので、俺も一歩進む。
そうだ、あのパンツに上書きすればいいんだ。一人じゃなく、二人で。
イルカ先生と俺のでぐちゃぐちゃに混ぜ合わせてしまえば、何の問題もない。
「明日ね。全部、明日」
「明日…………はい、明日ですね」
にこりと微笑みかけると一瞬怯んだように見えたけど、何らかの覚悟を決めてくれたのか、俺の手を取ってぎゅっと握ってくれた。
明日ってすごい。
誕生日ってすごい。
こんな風に思わせてくれたイルカ先生がすごい。
ちょっとフライングだけど、おめでとう俺。
明日の俺は、世界一幸せだ。
【完】
毎度お馴染みの式鳥が窓をつつく音だ。
窓を開けようとして伸ばした手が壁にぶつかる。いつもの位置に窓枠がないことで、昨夜はイルカ先生の部屋で呑んだ後に泊まらせてもらったのを思い出した。
というか背中があったかいの、これ先生の素肌だ。イルカ先生は酔っ払って寝るといつも全裸だからなぁ。普段は裸族じゃないのに。
起こさないよう静かに起き上がって窓を開け、式鳥を呼び込むと手の中で白い紙片に変わる。帰還中に襲われた隊の救援要請で、相手方に珍しい術を使う忍がいるから、救援ついでに写輪眼で術をコピーしてこいとのお達しだ。詳細は大門で待つ同行者に聞けとあるから、直ぐの出立になる。
やれやれ、五代目も人使いが荒いと、明け切らぬ窓の外を眺めた。とはいうものの、救援要請なら急がなくては。文面にはなくとも最優先すべきは同胞の救援、次いでコピーだろう。
シャワー等の諸々をすっ飛ばして床に散った衣類を身に着け、装備の確認をしながらこのまま現場に向かう旨を式で返した。イルカ先生にメモを残そうと思ったけど、任務だと察してくれるだろうと残さないことにする。
酒は抜けているけど念の為酒抜きの丸薬を含み、手甲を嵌め最後に額当てを締めると、先生の健やかな寝息を後に部屋を出た。
襲われた隊は帰還中にも関わらずよく健闘していて、俺たちが到着するまで負傷者を守りながらしっかり隠れていた。
忍犬を口寄せてそちらの守護を頼み、同行者の中忍と協力してトラップを仕掛け、珍しい術の奴を含めた五人を順に倒していく。もちろんその術とやらもコピーさせてもらった。
無事全員揃って里まで帰り着いたことを喜び合い、こういう任務だと後味もいいねと思いながら、五代目に報告を済ませる。
「珍しいとは聞いていたが、本当に珍しい術だな。物が持ち主の元に自ら戻る術、とはねぇ。忍術というより、失せ物探しとか生活便利術としての方が有効活用できそうだな」
口頭での報告に、五代目が呆れ半分に感心して頷く。
「巻物や極秘の書類、国宝級の美術品等の奪還には使えそうですね」
「まぁそうだが、持ち主の認定がどういう法則かにもよるな」
確かにと納得しながら、術の詳細は後ほど巻物に記して届けることを約束して任務完了となった。
今は一刻も早く執務室を退出したくて仕方がなかったから、特に追加で何か命ぜられることもなく「ご苦労だった」の一言に、内心ホッとして頭を下げると速やかに扉の外に出る。
回り廊下を進み、人目のない所で窓の外に飛び出すと建物を幾つか跳び越えて、とある庇の上に膝を突いた。
周囲を確認すると、ズボンの左のポケットの中身をそっと取り出す。
ギュッと丸められた濃紺の布に、ちらりと覗く黒い幅広のゴムベルト地。
――やっぱり。
俺は、
俺はイルカ先生の着用済みパンツを持ってきてしまっていた。
任務先に向かう時から、ずっと気にはなっていた。やけにかさばる物が左のポケットに入っているのだ。
こんな物持ってたっけ? と駆けながら取り出し、一目見てひゅっと息を呑んですぐに戻した。同行者は案内の為に先行してたから、気付かれなかったはずだ。
ものすごく既視感のあるそれは、間違いなくイルカ先生が寝る直前まで穿いていたパンツだった。
なぜ断言できるかというと、酔っ払った先生が寝る前に脱いで豪快に放り出すところを、視界の隅で凝視するという技を使ってたからだ。
なぜ普通に見ないでそんな技を使ってたかというと、うしろめたいからだ。
イルカ先生のことが好きだから。
人間的にだけじゃなく、性的なものも含めて。
さて、俺は今、人間性を試されている。
ポケットの中身を取り急ぎ確認した後は真っ直ぐ自宅に帰り、厳重に戸締まりをするとベッドの頭の方のカーテンも閉めて、大きく深呼吸をしてからポケットの中身を取り出した。
パンツだ。
やっぱりパンツだ。イルカ先生の。
先生はてっきりトランクス派だと思ったら、意外にもボクサーショーツ派なんだよね。「昔はトランクスだったけど、こいつのフィット感を知ったらやめられませんよ!」なんて前にパンツ談義で力説してた。ま、もちろん俺がパンツの話に誘導したんですけども。
これはかなり愛用してるスタメンらしく、生地は何十回の洗濯と苛酷な使用を経て程よく柔らかくなり、ウエストのゴムの部分もだるんとなりつつある、肌馴染みの良さそうな綿100%のパンツだった。
丸一日着用したせいであろう、両尻の部分は丸みを帯びた生地の伸びが顕著に表れている。露骨なフォルムについ動揺して表側にひっくり返してしまったけど、前の生地の膨らみがどこの何を覆ってたなどと考えてはいけないし、想像してもいけない。
でもこれは本当にイルカ先生のパンツだろうか?
万が一何かのアクシデントでポケットに紛れ込んだ、同じデザインの別人の物という可能性も捨てきれないのでは?
本当に先生の物か匂いで確認しようとして、慌てて手の中のパンツを顔から遠ざけた。
いや違うから!
これは鼻の利く俺ならではの確実な確認方法であって、決して変態的な行為じゃなく! ほら、間違って他人の使用済みパンツなんか返却されたら、先生だって気分悪いでしょ⁉ 名前なんて書いてないし、他に確認方法なんてないでしょ⁉
誰にしてるのかよく分からない言い訳を必死にしながらパンツ片手に室内をうろうろ歩き回って、ふと我に返った。
ここには俺しかいない。
ならば別にやってもいいんじゃない?
何一つやましい事なんてないし?
ただ匂いで持ち主を確認するだけ、任務でもしょっちゅうやってるし。
できるだけプロフェッショナルに、事務的にパンツに顔を寄せて鼻から一瞬息を吸い込むと目を閉じる。
……うん、間違いない。
太陽をいっぱいに浴びた干し草の中に、仄かに香るみずみずしい果物のような甘酸っぱさ、そして何より饒舌に語りかけてくるアルコールの残り香。
この匂いはイルカ先生だ。
確定したとたんに手の中にあるのがまずいような気がして、ベッドの上にそっと広げて置いた。
手裏剣柄の中に濃紺のパンツ。
俺のベッドに、イルカ先生が横たわってるみたいに……
ストップ!
これ以上はダメだ。
血迷って何か変態的な行動を起こしてしまう前に、さっさと返してしまおう。今頃ならイルカ先生は受付にいるはずだ。
取り上げたパンツを丁寧に畳むとポケットにしまい込み、先生に会うべく受付に向かった。
ちょうどラッシュ時が過ぎたのか、昼休み後の受付は閑散としていた。
室内も人がまばらになっていたので、普段は行列してるイルカ先生の前に遠慮なく立つ。
「せーんせ、昨日はありがとね。挨拶も無しにごめんね」
「お疲れ様です、カカシさん! いえ、急用かなと思ってたので大丈夫です」
任務と言わない辺り、いつもながら先生の配慮は細やかだ。
黙って消えたことで、表に出せない任務かと判断したのだろう。実際は緊急だっただけで、事後依頼書と報告書がこれから受付に上がってくるはずだ。
「今日はこれからですか?」
「ううん、待機だから、その前にこれを返し……」
ポケットからパンツを取り出しかけて気付く。
受付という公衆の面前で、着用済みパンツを渡すのはまずいのでは?
しかも何の説明も無しに渡したら、下着泥棒と勘違いされてしまうかもしれない。
思慮深く配慮の行き届いたイルカ先生にそんな無神経な事をしたら、間違いなく嫌われてしまう。そうだ、せめて洗濯くらいしておくべきだった。
こめかみにたらりと流れた冷や汗が、口布に吸い込まれる。
覆面忍者で良かった。本当に良かったと噛み締めながら、ごく自然な動きでポケットの中のパンツのさらに奥底に何か他の物がないかと探った。
すると金属質の小さな平たい物が触れたので、パンツが飛び出さないよう押さえながらそれを引っ張り出す。
「……じゃなくて、えーっと、これ。鍵……? えっと、預かっといてもらえる?」
その金属質の物は、自宅の鍵だった。
そういえば家を出てくる時、慌ててポケットに突っ込んだ気がする。
返すを預かるに言い替えたしちょっと疑問形になったけど、不自然ではなかったと信じたい。鍵なら合い鍵もあるし、次回会った時にでも返してもらえばいいだろう。預けた理由は今のところ何も思い付かないけど、少なくとも着用済みパンツをそのまま渡すよりは百倍ましだ。
いきなり鍵を渡されて目をぱちくりさせてるイルカ先生にニコッと笑みを向けて誤魔化すと、パンツを洗濯するために急いで帰宅しようとした。
そこに先生から声がかかる。
「そうだ、カカシさん! 明日の夜はお時間あります?」
明日? 今のところ任務は入ってないけど、また突発で来るかもしれない。それまでにはパンツを返してしまいたい。これ以上いろんな誘惑に気持ちを乱される前に。
「あー、うん、たぶん」
振り返って曖昧な返事をしたら、立ち上がってたイルカ先生が「良かった」とホッとしたように笑った。
思わぬタイミングで先生の笑顔を貰えたことで、ちょっとふわふわとした気分になれる。
軽く手を振ると、今度こそ自宅に取って返す為に受付を後にした。
さて、俺は今、再び人間性を試されている。
急いで洗濯しようと勇んで帰宅したものの、いざとなると惜しい。
何がって、ほら、ね?
好きな人の着用済みパンツなんて、なかなか合法的に手に入る物じゃないじゃない。
これをこのまま返してもいいのか? 本当に後悔しないか?
でも新品を買ってすり替えるにも、本物はあまりにも着用感があって新品に擬態をさせるには荷が重い。
さっきのイルカ先生の様子を見る限り、紛失に頭を悩ませてるようでもなかったし、このまましらばっくれて有り難く頂いても良いのでは?
悪魔の囁きが耳元でしたけど…………いや、ダメだ。次会った時に、正々堂々と友人面をできる自信がない。
これ以上パンツの事で悩まなくていいよう、急いで洗濯機に放り込むと、ついでに自分が着てた物も全部脱いで一緒に洗濯することにした。
洗剤と忍御用達の無臭柔軟剤を入れて蓋を閉め、スイッチを入れる。ジャーッという水の溜まる音を聞きながら、小さな覗き窓から俺と先生のパンツが絡み合うところを眺めていた。
お前らはいいよな。そんな簡単に絡み合えて。
よく分からない羨望と哀愁を胸に、風呂で自分のことも綺麗に洗濯した。
待機所に行く前に、今後こそパンツを返してしまおうと再度受付に向かう。
途中で剥き出しで渡すのはまずいと気付き、コンビニでラッピング用の紙袋を買った。金色地にピンクのハートが乱舞してるのしか無かったけど、パンツ丸出しよりはいいだろうと袋に入れる。
受付のある本部棟の廊下を通りかかると、イルカ先生の声と女の人の弾けるような笑い声が聞こえた。
思わず気配を消してそっと覗き込むと、第二資料室の前で先生と小柄なくノ一が笑い合ってる。元生徒とかアカデミーの同僚かと、屈託のない先生の笑顔をぼんやりと見つめてると、くノ一が内緒話をするようにイルカ先生に顔を寄せた。
ぐつりと腹が煮える。
そこは、その距離は俺のものだ。
何の根拠も権利もない独占欲が噴き出し、慌てて整息して背を向けた。
これ以上ここにいたらダメだ。
うっかりあの女を引きはがして、イルカ先生を連れ去ってしまう。
せっかく理性を働かせたのに、忍の無駄に優秀な耳が内緒話の内容を拾ってしまった。
「ねぇ、じゃあ明日の夜にしない?」
「明日かぁ……うーん、そうだな」
「ダメよ、ちゃんと約束して」
「分かったよ、約束な」
明日の夜。
背中で聞いた先生の答に足が乱れる。
……明日の夜は俺と会ってくれるんじゃなかったの?
その女と会う為に俺を切り捨てるの?
俺はただの友人だから。
俺の隣で全裸で眠るほど心を許してくれても、それでもその他大勢の友人の一人にすぎないから。
早足で歩いてたはずなのに瞬身でも使っていたのか、気付いたら自宅に戻っていた。
下足のまま部屋に上がり、ポケットからハート柄の袋を取り出す。こんな愛らしい物は女性が使うべきだ。
例えば、あの小柄なくノ一とか。
袋の口の両端を掴むと、力任せに引き破る。
びりびりに破れたハートが床に散り、その上に濃紺のパンツが落ちた。
イルカ先生の円みを帯びた尻を、股間の膨らみを覆う布切れ。
――そう、単なる布切れだ。
俺が本当に欲しいのは、布切れの中身だ。
この布切れに覆われた先生の肌を撫で回したいと、唇でなぞり舌を這わせたいと思ってるのだ。
あの女に突っ込もうとしてる先生のちんこを、心ゆくまでしゃぶってしごいて吸い上げて、その奥の本来なら排泄器官であるそれを性器に作り替えて。そこに俺自身を突っ込んで揺さぶって、ぐちゃぐちゃにしてやりたいのだ。
もう女なんて要らないと泣くまで、いつまでも。ずっと。
崩れるように膝を突いた。
腹に溜まる熱が性欲なのか怒りなのか分からないままに下衣のファスナーを下げると、怒張したモノがぶるんと飛び出す。
それを手甲も外さず握ると、歯を食いしばりながら扱き上げた。親指で先端を抉り、革の往復する感触からほとんど罰のように無理やり快感を拾う。
イルカ先生。
あんたに突っ込みたい。
イきながら俺の名を呼んでほしい。
それできつくしがみついて。
腕で、脚で、あんたの中の熱い肉で。
濃紺の布切れめがけて白濁液がぱたたっと飛ぶ。
はっ、はっと乱れる息と心音が収まるまで、先端から床に垂れ落ちる精液もほったらかしにしてぼんやり呆けていた。
もういい。
あのくノ一と逢い引きでも何でもすればいいよ。
このパンツは返すから明日穿いて行けばいい。
俺の欲望で汚れ、俺の匂いが染み付いたパンツを脱いで、あの女とセックスすればいい。
込み上げてくる澱んだ笑いに肩を揺らしながら、滲む視界で濃紺に白く点々と散った欲望の残滓を眺めていた。
今度こそパンツを返そう。可及的速やかに。
いくら薄暗い欲望を実行するとはいえ、さすがにこのまま返す訳にもいかないのでまた洗濯をする。
終了のブザーが鳴るまで、気持ちを鎮める為に例の珍しい術を巻物に記しておくことにした。
そこでふと思い付く。
この術を使えば先生と顔を合わせることもなく、秘かに返却できるんじゃないだろうか。
イルカ先生が部屋にいる時間帯に発動させれば確実に持ち主の元に戻るし、先生の部屋は雑然としてるから、着用済みパンツの一枚くらい増えても疑問に思わないだろう。そうすれば最初からパンツ消失事件もなかったことになる。
救援任務の時、敵にこの術を発動させる為にわざと木ノ葉の額当てを落として、隠れている者たちの所へと誘導するトラップを仕掛けた。実際は同行者の中忍の額当てだったから彼の所に誘導されてきたけど、額当てはけっこうなスピードで飛び、まるで意思でも持っているように真っ直ぐ向かっていったから驚いた覚えがある。
あれくらいのスピードと確実性なら里でも使えるし、夜の闇に濃紺のパンツも紛れてくれるはずだ。
もう一度巻物を読み返して手順を確認するとちょうど洗濯終了のブザーが鳴ったので、戦場でたまに使う風遁と火遁の合わせ技で一気に乾かす。
パンツを巻物の隣に置き、いざ術をかけようとしてふと気になった。
もしこれが血継限界の者しか使えない術だったら。
持ち主の元に物が自ら戻る術の使い手の一族なんて聞いたことはないが、絶対とも言い切れない。それで不完全に発動してしまったら、先生のパンツが木ノ葉の里を彷徨うことになってしまう。
何か他の物で実験したいところだけど、あいにくいきなり物が飛んできても困らない人の私物なんて持ってない。残念ながらテンゾウはちょうど暗部の方の任務中だし。
追跡して見失わない自信はあるけど、念の為手綱を握っておいた方がいいかもと辺りを見回したら、普段は使ってない忍犬の散歩用のリードが目に入った。パンツを散歩させるのもどうかと思うけど、見失うよりはましだろう。
パンツの内側のタグの輪になった部分に紐を通すと、本来は首輪にはめるフックを引き綱にカチリと付ける。これでよし。あとは直前でリードを外せばいい。
手元の輪になった部分に手首を通して、覚えた通りに印を組み上げていく。
するとパンツがふわりと浮き上がり、いきなり窓の方へと一直線に飛び出した。ぐんと手首を引かれながら慌てて窓を開け、すっかり暗くなった外へ足を踏み出して跳ぶ。
イルカ先生の家へと。
パンツはうちの子で一番早いウーヘイと同じくらいじゃないかというスピードで、夜の里の宙を飛んでいた。
さすがに空を飛ぶことはできないので、家々の屋根を駆けながら、人間では通り抜けられない細い隙間を行こうとする時だけ手綱を引いて道を変えさせた。
パンツは意外にも従順さを発揮して、引かれるとおとなしく方向を変えてくれたから良かった。
「よーしよし、いいこだ」
つい習慣でパンツに声をかけてしまうと、それに返事があった。
「なんだ、散歩かカカシ! ん? ずいぶん珍しい物を散歩させてるな……あれはパンツか?」
ガイ!!!
よりによってガイ……!
いつの間に隣にいたのか、並走しながら手綱の先を覗き込んでいる。野性の忍とはいえ、さすが上忍。俺たちのスピードに悠々と並んで、しかも夜に紛れる濃紺の布切れの素性をぴたりと当てた。
やめて今はやめて!
これからイルカ先生の家に行くんだから、お願いだから付き添わないで!
「そ、物を使役する術の実験中なの。今まだ飼い馴らしてる最中だから邪魔しないでよ」
「そうか、お前は本当に研究熱心だな! じゃあ勝負はお預けか。頑張れよ!」
他の奴なら到底通じないであろう言い訳をガイはあっさり受け入れ、親指をビシッと立てて去っていった。
あいつのおおらかさは本当に有り難いというか、何というか。
肩の力を抜いたとたん、パンツがぐんとスピードを上げた。
もうすぐイルカ先生の家だからだろう。アパートの二階の端の窓には、カーテンの向こうの明かりが漏れている。
そろそろ手綱を放さなくてはとフックを外すと、自由になったパンツが一直線に先生の部屋の窓に向かって。
びたんっ!
と張り付いた。
パンツはあと一息で持ち主の元に戻れないことに苛立っているのか、さらにびたん! びたん! と何度も窓にぶつかっていく。
待ってお願い!
そんなんじゃ先生に気付かれちゃうでしょ⁉
果敢にも体当たりを繰り返すパンツを、取り急ぎ回収しなくてはと慌ててベランダの手すりに飛び付くと、カラリと窓が開いた。
「あれ、カカシさ、うぶわっ⁉」
「……こんばんは」
パンツを顔に張り付かせたイルカ先生に、とりあえず挨拶をする。
ようやく持ち主の元に戻ったパンツは、術が解けたのかパサリと床に落ちて動かなくなった。
二人で無言のままパンツを見下ろしていたが、いつまでもそうしている訳にもいかない。
するとイルカ先生がパンツを拾い上げた。
「これ、俺のパンツ……? カカシさん、どうしたんですか?」
どうしたんですかって。
いつの間にかパンツがポケットに入ってて、返そうとしたらイルカ先生が明日くノ一と逢い引きの約束をしてて、パンツの散歩をしてたらガイに会って、イルカ先生は明日俺を捨ててあの女を選ぶんでしょ。
俺はこんなにもあんたのことが好きなのに。
「……捨てないで」
自分でもびっくりするほど弱々しい声が、ぽろりと零れた。
「捨てませんよ? これけっこうお気に入りですからね!」
そう。パンツはそんなに大事にしてるのに、俺のことは簡単に捨てるんだね。
じゃあ俺も大事にしなくていい?
イルカ先生のこと、今すぐ抱いて抱いて抱き潰して、明日どこにも出かけられないようにしてもいい?
「あ、でもこれ失くしたと思って、今日新しいの買っちゃったんですよ」
捕らえようと伸ばした手は、空を切った。
俺の薄暗い欲望を知らないイルカ先生は、たははっと笑うとふと何か思い付いたように顔を輝かせて、椅子の背にかけていた鞄を取りに行ってしまった。
そして鞄の中からビニール袋に入った濃紺の物を取り出して、得意げに俺に見せてくれる。
「じゃーん! ほらね、コノクロでおんなじパンツがちょうど売ってたんですよ。そうだ、じゃあこれ、カカシさんにあげます! 一日早いけど誕生日プレゼントです!」
たんじょうびプレゼント。
誕生日プレゼント?
「あっ、でもパンツがプレゼントなんて失礼ですよね、ちゃんとしたお祝いは明日で!」
「…………俺の?」
「え、明日はカカシさんの誕生日ですよね?」
すっかり忘れてた。そういえば明日だ。
「そうだけど、明日はあのくノ一と約束があるんじゃないの?」
せっかくイルカ先生がパンツをくれると言ってるのに、しかも誕生日プレゼントを。
それだけで満足できず、刺々しく詰問する俺はいったい何様なんだろう。
先生が急に真っ赤な顔になって、おろおろとし始めた。
俺との約束なんてどうでもいいんじゃなかったの? あの女との約束は忘れてた? でもやっぱり俺よりあの女を選ぶんでしょ。だからそんなにうろたえてるんでしょ。
「え、あっ、なんでそれを」
「ごめんね、たまたま通りかかって聞いちゃったの。明日は忙しいんだから、俺と会ってる場合じゃないんじゃないの?」
嫌みまで言うなんて、本当に女々しい奴だな俺は。
もうパンツを渡したし、プレゼントを貰って帰ろう。そう思うのに足が動かない。
ダメだ。
この手を伸ばして先生を捕まえてしまったら。
もう。
「いや、そうじゃなくてその、夜はカカシさんと」
「……何それ。二股かけるつもり?」
「あーもう、違います、あいつはただの同士です! 『我ら同性に片想いだけどガンバ連盟』の! だからあいつとは明日は会いません! 明日、お互い好きな人に告白するっていう約束をしただけですっ」
「だからあのくノ一に告白……え?」
イルカ先生がしまったという顔をしたけど、どういうこと?
『明日』『お互い』好きな人に告白するって。
イルカ先生が明日会うのは俺で。
それって、つまりは。
「えーっと、…………俺、に?」
「ううう、今は言いません!」
イルカ先生はものすごく辛いものを我慢して飲み込むような顔で、ぷいと横を向いてしまった。
でも、『今は』って。
「明日になったら言ってくれるの?」
「明日になったら言います。……あの、もう丸わかりかと思いますけど、……嫌じゃないんですか?」
「何が?」
恐る恐るといった風に、先生が顔をこちらに向ける。
「俺が明日カカシさんに告白すること、です」
「嫌じゃない! 全然嫌じゃないよ! すっごく嬉しいよ! ほんとに? 明日告白してくれるの? 俺に?」
「あの、告白って何を言うか分かってますか? 隠し財産の在り処とかじゃないですよ?」
「分かってるよ! え、どうしよう」
俺が興奮すればするほど、イルカ先生がうろんな目付きになるのはなぜだろう。
「実は女でしたとかでもないですよ? そういうドッキリや懺悔の告白じゃないですよ?」
「先生が男でも女でも何でも構わないけど、嬉しいに決まってるじゃない! 俺だってイルカ先生のこと好きだもん!」
イルカ先生の口がぽかんと開いた。
ふっくらとして、柔らかそうな唇だなぁ。
舌も健康的な赤みを帯びた桃色で、あぁ、その口に舌を突っ込んでぐちゃぐちゃにかき回したい。
――あれ?
「先生、そんなに固まっちゃって、どうしたの?」
「どうしたのって、…………ほんとに?」
「イルカ先生の唇は本当に可愛くて美味しそうだよ?」
「そ……っ、んなこと聞いてるんじゃありません! カカシさんが俺のこと、す、……き、って」
「うん、大好き。先生のパンツをうっかり無意識にポケットに突っ込んで、一緒に任務に行っちゃうくらい、大好き」
イルカ先生の口が、ぱくぱくと音のない声を発した。
それからごくりと唾を飲み込んで、ためらいがちにもう一度口を開く。
「あの、ですね。俺もカカシさんのことが、す……」
「待って、ダメ!」
思わず手すりから飛び降りて抱き寄せると、口をふさいでしまった。
手ではなく、自分の口で。
あぁ、イルカ先生の唇は、やっぱりふっくらと柔らかくて。
まだ何か言いたげに動くから、そこに機を見出だして舌を突っ込んだ。柔らかいだけじゃなくて熱い。熱のことまでは想像してなかったなぁ。
肉厚で張りのある舌に舌を重ねて誘ってみる。軽く歯を立てて甘噛み、じゅうっと吸い上げた。
今は絶対にこれ以上何も言わせない。
だって明日告白してくれるって言った。
俺の誕生日に、イルカ先生が。
俺のこと、す……って。
押しのけようとしてたイルカ先生の両手が縋り付くようになった頃、ようやく顔を離すと耳朶に唇を寄せて囁いた。
「明日まで言わないで。お願い」
「……言わないでって、もうキスまでしちゃったじゃないですか」
ちょっぴり呆れてるような声だけど、黒い目にとろりと熱が溶けていて、このまま押し倒してもという不埒な考えが浮かぶ。
でも我慢、我慢。
ふうーっと息をつくと、頬に軽くちゅっとキスをした。
くすぐったそうな笑みを浮かべた先生が、何か思い付いたのか小さく声を上げて俺を見た。イルカ先生ったら、まだこんな可愛い表情を隠し持ってたなんて。
「そうだ、鍵。どうします? まだ預かっておきますか?」
鍵……?
あ、パンツの身代わりの術にした家の鍵か。
「あげる。誕生日プレゼントのお返し」
「お返しって、まだちゃんとプレゼントあげてないじゃないですか」
ううん、貰ったよ。
お揃いのパンツと、キスと、サプライズでイルカ先生を。
あと、明日の告白も。
これ以上ないってくらいのプレゼントを貰ったよ。
「明日が楽しみだなぁ」
こんなにも明日という日を楽しみにしたことなんて、生まれて初めてかもしれない。
この感情があると、今なら何でもできるという無敵感が湧いてくる。
――しまった。
イルカ先生のパンツ、洗ってはあるけど俺のあれで汚しちゃったんだった。
どうしよう、貰った方の新品と交換してって頼むべきか。でも理由もなくお願いしたら、先生の穿いたパンツを欲しがる変態と思われてしまう。いや間違ってはないけど。
するとイルカ先生が、ふふっと含み笑いをした。
「カカシさんって、顔を隠してないと本当に感情が丸見えですよね」
「え、やらしいこと考えてたのも⁉」
「やらしいこと考えてたんですか⁉」
びくっとして一歩下がったので、俺も一歩進む。
そうだ、あのパンツに上書きすればいいんだ。一人じゃなく、二人で。
イルカ先生と俺のでぐちゃぐちゃに混ぜ合わせてしまえば、何の問題もない。
「明日ね。全部、明日」
「明日…………はい、明日ですね」
にこりと微笑みかけると一瞬怯んだように見えたけど、何らかの覚悟を決めてくれたのか、俺の手を取ってぎゅっと握ってくれた。
明日ってすごい。
誕生日ってすごい。
こんな風に思わせてくれたイルカ先生がすごい。
ちょっとフライングだけど、おめでとう俺。
明日の俺は、世界一幸せだ。
【完】