【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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それから三日後――
イルカはバイト先の寮の部屋で片付けをしていた。
魔界ではたった一週間ほどだったのに、人間界では半月以上過ぎていたことには驚いたが。
それよりもっと驚いたのは、オビラプトゥールが既に復活していたことだった。
イルカの人間界に戻るという願いを静かに聞き入れたカカシは、次元を超えるのにアイツの手を借りることになるから、ちゃんと復活するまでちょっと待ってねと言っていたが。そのちょっとは、次元を開く準備も含めて僅か二日だったのだ。
ただ人間界と往き来するだけならカカシでもできるのだが、イルカが魔界に来た後、そしてできるだけ日数が経過してない日と繋げるには、時間軸の調整ができるオビラプトゥールの力が必要とのことだった。
人間界へのイルカと馴染みやすい道は忘却の泉だろうということで、カカシと共に待っていたイルカの前に「よぉ、カカシ。こないだはやってくれたな」と挨拶をしながら現れた彼は、何事もなかったかのように見えた。
人間界に通じる坑を開けるのに必要だと携えていた身の丈ほどの杖がRPGのゲームの装備のようで、思わず「うわ、カッコいいなぁ」と呟いたイルカにオビラプトゥールは満面の笑みを返した。

「だろ? 俺もこの杖は気に入ってるんだ。今度貸してやってもいいぞ」
「えっ、いいんですか!」
「二人きりなんて絶対ダメだよ! ちゃんと俺がいる時にしてよね。いいからさっさと道を開いてよ」

はしゃぐイルカを引き寄せ不機嫌になったカカシに、イルカはかつてのスケアを重ねて苦笑した。
そうやってバタバタと忙しなくやってきた人間界だったが。
こうして荷物を片付けていると、もうここには戻らないんだなと胸が詰まって手が止まりがちになった。
だが次元の道の刻限は、人間界の時間では八時間しかない。
こちらでの次元の坑は、ミズキと最後に会ったマンションの駐車場の片隅に開いていた。恐らく逃げ回ったイルカが落ちた場所だろう。
バイト先の社長に行方不明になっていた説明と辞める挨拶を済ませたり、諸々の手続きもせっかくだからきちんとしたいと色々回ってきていたので、そこに戻るまで残すところ数時間もなかった。
イルカが両親とのアルバムや父親の形見の腕時計、両親の結婚指輪など最低限の物を集めると、それはバッグ一つに収まってしまった。

「終わった?」

荷物の少なさを問うこともなく、カカシが訊ねる。
イルカの生活していた世界を見てみたいと人間に扮して付き添ってくれていたが、恐らくは何かの覚悟を持って人間界に向かうイルカのことを心配し、その行く末を見届けたいのだろう。
双眸の色をブルーグレーに変えて頭の角も消し、スケアが着ていた人間の服に身を包んだカカシは、どこか外国の貴族のように見える。

「うん、でも魔界に帰るまであと一ヶ所寄りたい所っていうか……会いたい奴がいるんだ」



きちんとミズキと向かい合う覚悟を決め、イルカは久しぶりにミズキの家の前に立ったが。
居てほしいと思っていた家にはミズキも誰も居なかった。
仕方なく置き手紙だけしてイルカはカカシと例のマンションへ並んで向かっていたが、メインの目的が果たされないままになり無言になったイルカに、カカシは何も言わずにただ寄り添っていた。
駐車場には夕闇の中、ぼんやりと光る坑が開いているのが遠目に見える。

「あんなに光ってて大丈夫なのか?」
「うん、あれは魔界の者にしか見えないからね。イルカにはちゃんと見えないだろうけど、俺にははっきり見えるよ」

二人が光を指して会話していると、不意に後ろが騒がしくなった。

「おい見ろよミズキ、こないだのお前のツレじゃねぇか」
「なんだよ黒い子犬ちゃん、やっぱ寂しくて来ちゃったんじゃね?」
「俺らがたっぷり可愛がってやるよぉ!」

下卑た笑い声に振り返ると、四人の男がこちらに向かって歩いてくるところだった。
その中には探していたミズキの姿もあった。

「……イルカ」

驚いて立ちすくむミズキに構わず、三人が口々に囃し立てながらイルカに手を伸ばそうとする。

「ほら来いよ。そっちの綺麗な兄ちゃんもまとめて可愛がってやるぜ」

だが伸ばした手はイルカに届くことなく、男は突然地面に倒れ伏した。
そんな異常事態にも他の二人は怯まず、虚ろな目でへらへらと笑ってイルカの腕を掴もうとする。カカシはその二人にも指先を向け、チリッと小さな火花を散らせたかと思うと、残りの男たちも無言で崩れ落ちた。
それを見下ろしたカカシはミズキの更に後方に目を向け、低く声をかけた。

「いるんだろう。出てこい」

するとミズキの後ろから、じわりと滲み出るように一人の男が現れた。

「……流石に貴方様の緋眼からは逃れられないですね。完全体に復活されてたのには驚きましたよ」
「こいつらをクスリ漬けにして魂集めか。おおかたベルゼブブの配下でしょ」

カカシは不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
男はイルカの鼻筋を横切る傷痕をチラリと見ると、肩をすくめた。

「久しぶりに清廉な魂だったのに、貴方様の所有物になったとは……残念ですよ」
「その汚い口でイルカを語るな。失せろ」

カカシの言葉が終わる前に、男の姿はかき消えていた。
そのやり取りの間もミズキは逃げることなくその場に立ち、カカシを睨み付けていた。そこにイルカが駆け寄ろうとすると、ミズキは歪んだ笑みを浮かべて吐き捨てた。

「もう次のヤツを咥えこんだのかよ。顔に傷まで作って文字通りキズもんじゃねぇか。とんだ淫売だな」
「ミズキ……」

むき出しの憎悪をぶつけるミズキの言葉に、イルカの足が止まる。
その隣にカカシが寄り添って立つと、ミズキを頭から爪先まで眺めて口を開いた。

「ふぅん、こいつがわざわざイルカがこっちに戻ってまで会いたかった奴?」
「……両親を亡くしてからずっと、ミズキの家にお世話になってて。ミズキは……ミズキは俺の親友で」
「黙れッ!!」

立ちすくんでいたミズキが一歩踏み出した。

「親友? ハッ! 可哀想なお前の面倒をみてやっただけだよ! お前だって誰でも良かったんだろ? そんなご立派な奴を見付けて良かったよなぁ。金で買われたのか?」
「違う!」

ミズキの罵倒にカカシが口を開く前に、イルカも一歩踏み出した。

「カカシさんはそんな人じゃない!」
「どうせ優しくしてもらったからだろ! お前は独りぼっちで寂しいだけなんだよ!」

イルカがぐっと詰まった。
すると握りしめた拳に冷たい手が触れ、拳をするりと撫でてほどくと優しく包みこんだ。
イルカはその手に目をやり、カカシの冷えた手が与えてくれたぬくもりを思い出す。この手が付けた傷を――顔に傷を付けることで与えてくれた、イルカの居場所を。

「ミズキ……俺はこの人がいいんだ。これから先、遠く離れた知らない世界でどうなるかも分からないけど、俺はカカシさんといたいんだ。そうするって決めたんだ」

それを聞いたとたんミズキの顔から憎悪が拭い去られ、泣く寸前の子供のように歪められた。

「遠く離れた世界って……。それにそいつは……そいつだって男じゃないか……」
「そうだよ。誰よりもイルカを愛する、ただの一人の男だよ。アンタは誰? イルカを傷付けるだけの男?」

カカシがイルカの手を持ち上げ、その甲に口づけを落とした。
ミズキは泣きそうな顔でその光景を目で追っていたが、不意にポケットから何かを取り出してイルカに飛びかかってきた。
その何かがイルカに届くよりも早く、カカシが前に出てミズキの手から光る物を奪い去った。

「馬鹿は死ななきゃ治らない、ってこっちでは言うんだっけ? 治るかどうか試してみようか」

カカシは飛び出しナイフをくるくると弄ぶと、ミズキの前で一閃させた。
ヒッと声が上がり、一房の金に染められた髪が落ちる。
ぺたりとその場に座り込んでしまったミズキを、カカシは無慈悲な目で見下ろした。

「イルカを傷付けて心に居座ろうなんて、甘ったれんなよ。そんな奴に大切なイルカは指一本も触れさせない」

すると呆然と座り込むミズキの前に、イルカがしゃがんで目線を合わせた。

「……ミズキ。俺は本当に親友だと思ってたんだ。その事実は誰にも、お前にも変えさせない。あと……ありがとう。ごめんな……ミズキの気持ちに応えられなくて」

ミズキが俯いて動かなくなってしまったのを見て、カカシが「イルカ、そろそろ時間だよ」と声をかける。
イルカは振り切るように立ち上がり、「……それじゃ、な」と一声落としてカカシの方に向き直った。

「……そのニットキャップ、持ってくのかよ」

地面に向かって零れたミズキの呟きに、バッグを持ち直しカカシと駐車場に行こうとしたイルカは振り返った。

「当たり前だろ」

イルカが手にしたバッグからは、頭頂部に房の代わりにイルカのぬいぐるみが付いた、くたびれたネイビーのニットキャップが覗いていた。
それは両親と懇意にしていたミズキの家の世話になると決まった時に、これからもバカやろうぜとくれた物だった。「こんなのいつ被るんだよ」と二人で馬鹿笑いをしたが、それで不安に固まっていた肩の力が抜け、イルカはミズキに感謝したものだった。
ミズキは顔を上げると、眉間に皺を寄せながらも唇の端を歪めて笑みらしきものを作り、親指を立てる。
その目に光るものが見えたことには気付かないふりで、イルカも口を引き結び親指をぐっと立てると、カカシと共にぼんやりとした光の中に入っていった。

ミズキの目には、二人の姿が薄闇に溶けてふっと消えたように見えた。
地面に倒れていた仲間たちが起き上がってきても、ミズキはまだ駐車場の片隅を見つめたまま、ぼんやりと座り込んでいた。





次元の坑をふわふわと漂うように歩いて魔界に戻る出口の光が見えた頃、カカシはふと立ち止まった。

「……イルカ、本当にいいの?」
「いいのって何が?」

目元を袖でぐいと拭って答えるイルカの手を押さえ、カカシは赤くなった目尻をそっと舐めた。

「今ならまだ人間界に戻れるよ。オビトにはけっこう無理させたからね。次はいつあっちに行けるか分からない。それにサイも言ってたでしょ、魔界と人間界とは時間の流れが違うんだ。次行った時にアイツがいないことだってあるんだよ」

イルカは足元に目を落とした。
異なる次元を繋ぐ坑の中は、頼りない足場でふわふわとしているが。
夢だと思っていた最初に魔界に落ちてきた時の、あの暗い絶望感に身を任せた墜落とは大違いだった。この足場はきっとオビラプトゥールの能力によるものなのだろう。
この不安定な浮遊感は、まるで今の自分みたいだとイルカは思った。
たった一週間ほど過ごした未知の世界に行こうとしている、不安と恐れと。またオビラプトゥールに拐われた時のように、何かが起きないとも限らない。
――それでも。

「昔さ、父ちゃんが言ってたんだ」

イルカは顔を上げると、真っ直ぐカカシを見た。

「何かに迷った時は、頭じゃなく胸に聞けって。自分がどうしたいかさえはっきり分かれば、そこから道は見えてくるもんだって。それで俺は聞いたんだ。ここに」

広げた掌を胸に当て、イルカは黒い瞳に強く光を宿らせた。

「俺はカカシのそばにいたい。だから他のことは、それを基準に考える。これからどうするかも、全部。……それじゃカカシは迷惑か?」

カカシは胸が詰まって言葉を発することができなかった。
代わりにイルカを引き寄せ、胸の中にかき抱く。

「……イルカ、………」

やっと名前を呼ぶことはできたがそれ以上続けられず、自分の想いが伝わればとさらに強く抱きしめた。
イルカの「痛いよ、カカシ」というくぐもった声にようやく腕を緩めると、イルカが緋色の目を覗きこんで問いかける。

「カカシだってこれから魔界の王様のこととか、色々大変なんだろ? そんな時に俺を抱えて大丈夫なのか?」
「イルカがいてくれたら平気」

それは頭で考えたものではなく、反射的に飛び出した答だった。胸の中にあったカカシの答はそれだった。
だからこそ自分にとって真実なのだと思う。

「イルカのお父さんはすごいね」

するとイルカは照れ臭そうに「へへ、まぁな」と笑った。

「俺が何の力になれるか分かんないけど、カカシのそばにいるよ。それで色んなものを見て、色んなことを感じて、……カカシのことももっと知りたいし、その……もっと好きになりたい」

目尻をほの赤く染め、ぶっきらぼうに放たれた言葉は、カカシの胸を撃ち抜いた。
今まで絶望に塗り潰され魂の弱りきったイルカをひたすら慈しみ、愛を降り注いでいたと思っていたが。身体を繋いでない時に返されるふとした愛が、こんなにも容易く自分を満たすことだとは思わなかったのだ。
そしてイルカの真っ直ぐな強さは、カカシにも強さを与えてくれるようだった。
孤独と絶望に覆われ隠されていた、イルカ本来の魂の強さ。
その前にいると、自分が抱えている問題すらイルカと共に在ればきっと大丈夫だという確信が、内側からふつふつと湧いてくる。


 ――ほら、ね

 ――イルカはやっぱり俺たちの光だったでしょ?


どこかからスケアの言葉が響く。
それはカカシの中からかもしれないし、かつての記憶だったかもしれない。
だがそれはどちらでもいいことだと、もう一度イルカを抱きしめようと囲いこんだ腕は空になってしまった。
イルカはするりとカカシの腕の檻から抜け、出口の方へ駆け出す。

「ほらカカシ、坑が閉じちゃうから早く帰ろうぜ!」

魔界からの光で逆光になったイルカのシルエットが、おいでおいでと手を振る。
カカシはその光に向かって足を踏み出した。
招く手を取ってしっかりと繋ぎ、自分の在るべき場所に帰るために。

イルカと、二人で。





【完】

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