【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old
稲妻のような凄まじい音を立て、膨れ上がった白光が室内に満ちた。
オビラプトゥールもイルカも目を覆って顔を背けていたが、突然雷鳴が止み、光が急速に収束していく気配を感じる。
イルカが恐る恐る目を開けてみると、ようやく目視できるくらいになってきた光の中に人影があった。
――人影は、一つ。
「スケア………カカ、シ?」
全ての光が消え、その中心に立っていた銀髪の男がイルカの方に顔を向けた。
カカシは……カカシだった男の頭には、緩く曲線を描きながら天を差す角が二本あった。
少年と青年の狭間にあった容貌は背丈も伸びて体躯も細身ながら逞しく、今や成熟した大人のものになっている。
そしてその声も。
「イルカ……」
カカシともスケアとも違う、落ち着いた低い声で。
「イルカ」
真っ直ぐ射抜く眼は、左右どちらも揃って深紅の眸。
「カカシ……?」
だがイルカの呼びかけに応えて細められた、あの優しい目は――
「スケア……っ!!」
「俺の相手もしてくれよ、カカシ!」
焔を纏わせた拳を固く握ったオビラプトゥールが、カカシの視野の外から飛びかかってきた。
「せっかちだなぁ、イルカとの時間を邪魔するなんて。だからオビトはモテないんだよ」
カカシの横面を狙ったはずの拳は、平手でぴたりと止められていた。
拳の焔もなぜかじゅっと音を立てて消えている。
「……っ、うるせぇ! 俺はせっかちじゃなくて敏捷なんだよ!」
「ハイハイ、じゃあその敏捷なところを見せて、早く終わらせてね」
そう言い捨てると、カカシはイルカとソファーを覆った結界膜に歩み寄り、そっと両手で触れた。
膜は一瞬ばちりと火花を散らすが、次元を隔たれたそれに干渉することはカカシにも不可能なようだった。
「苦しい思いをさせてごめんね。すぐ助けるから待ってて」
「カカシ……っ」
怠さと息苦しさで重い身体を起こし、イルカが手を伸ばす。
その手は膜越しに重なり、すぐに離れた。
次元結界膜はオビラプトゥールが解除するか、彼を倒さないとならないと言っていた。倒すというのがどこまでを指すのか分からないが、オビラプトゥールのぎらついた目を見る限り、ただの勝ち負けだけでは済まない気がする。
そしてカカシは腐敗紋の出始めたイルカを助けるためには、きっと容赦をしないだろう。彼もまた、そういう目をしていた。
「待ってカカシ、こんなのダメだ」
イルカの声に振り返らないままカカシは「オビト、外に出るよ」とバルコニーへと向かうが、歩き去るその足が獣脚ではないことにイルカは気付いた。
魔力の高い者ほど人型をとると教えてくれたスケアの声が甦る。
完全な姿を取り戻したカカシは知らない者のようで、どこか遠くに感じる支配者然としたオーラが今は恐ろしかった。何か、取り返しのつかないことになりそうで。
その後ろ姿を不安な思いで見送っていると、不意に地面が揺らいでソファーとイルカごと結界膜が浮かび上がる。
「お前も来るんだよ、人間。ハヤセ! コイツを見張ってろ!」
カカシに続いてバルコニーに出たオビラプトゥールが指をくいと曲げると、結界膜が糸を引っ張られた風船のように外へ引きずり出された。
不安定に揺れる結界膜から下を見下ろすと、カカシは竜のオブジェの立ち並ぶ石畳の広場に立っている。その背には降りる時に使ったのか、いつか見た漆黒の翼が両翼揃って畳まれていた。
オビラプトゥールもビルなら四階の高さはあろうかというバルコニーから飛び降り、その降下中に翼のある赤黒い竜へと姿を変えた。そしてグワと開けた口から焔を吐き、カカシへと滑空していく。
カカシの姿が豪炎に消えたかと思うと、おびただしい水蒸気が上がった。
水霧が晴れた後には、火傷どころか焦げ痕一つないカカシの静かな立ち姿があって、イルカはほっと息を吐く。
「最初から小細工無しできてくれて有り難いよ。手間が省ける」
「そのままの姿でいいのか? 負けても言い訳は聞かないぞ」
カカシの背後から、羽ばたきながら宙に留まるオビラプトゥールが牙を剥き出して不敵に笑う。
するとカカシはいっそ神々しいとさえ言える冷徹な微笑を浮かべ、オビラプトゥールの方へ振り返った。
「言い訳の必要はないよ。もう終わるから」
その言葉と同時に右手を突き出し、竜に向ける。
開いた掌にまた白光が宿ったかと思うと、突如として渦を巻いた水流が噴き出した。水流は一直線にオビラプトゥールをめがけ、矢のように突き刺さらんばかりだったが。
竜は再度豪炎を吐き出しそれを散らした。
カカシは「へぇ、腕を上げたね」と片眉を上げると、翼を広げて空高く、イルカのいるバルコニーよりも更に高く舞い上がる。そして右手を竜に突き出しながら真っ直ぐに急降下していった。
掌から放たれた水流に今度は青白く輝く稲光を纏わせ、恐ろしいスピードで竜に向かっていく。
オビラプトゥールは一声咆哮を上げると、先ほどとは違うおぞましい色合いの黒炎をカカシに吐きつけた。
「カカシっ!」
イルカの叫びと同時に黒と白は正面からぶつかり――
光が弾け、黒い煙が膨らんだ。
広場に立ちこめる黒煙が徐々に晴れていくと、そこには胸から腹にかけて大穴の開いた竜が横たわっていた。
「オビさん! あぁ、そんな……」
「ご安心下さい、お客人殿。オビラプトゥール様は六つの心臓をお持ちですので、しばらくすれば蘇って参ります」
いつの間に結界膜の傍にいたのか、ハヤセと呼ばれた男がイルカに話しかけてきた。
だが金属の仮面に半分隠されて無表情だったその顔には僅かに痛みが浮かんでいるようにも思え、イルカは息苦しさに抗いながらそっと言葉をかけた。
「すみません、俺が捕まったばっかりに、こんな酷いことに……」
ハヤセは驚いたようにイルカを見つめ、それからおもむろに結界膜に両手を叩き付けた。
ガラスのような音がすると思われた膜は、予想に反して音も無くあっさりと消える。そして支える物が無くなって床に横たわってしまったイルカに手を差し伸べ、ソファーへと寄りかからせてやった。
「無体な蛮行をしでかしたのは我が主の方ですので、どうぞお気になさらぬよう」
「でも……」
「そうだよ、迷惑をかけられたのはイルカなんだから」
「カカシ!」
翼を折り畳みながらカカシがバルコニーに降り立った。
見上げたイルカの前に屈むと、腐敗紋の広がってきた顔を両手で挟んで口づけ、イルカの咥内に自分の唾液をたっぷりと含ませた。
「……どう、少しは楽になった?」
気遣わしげなカカシを見つめたイルカの黒い瞳に涙の膜が張る。
「カカシ、ごめん……俺のせいで友達を……ごめん」
カカシは一瞬目を見開いたが、すぐに和らげてイルカの溢れた涙を舐めとった。
「イルカのせいじゃないよ。だいたいアイツが馬鹿なことをするから自業自得なんだ」
「そうじゃなくて!」
カカシはイルカの身体に両腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。
「うん、分かってる。ありがとうイルカ。俺と……オビトのために泣いてくれて」
ぽん、ぽんと背を優しく叩くと、しゃくり上げるイルカの髪を撫でる。
それからそっと腕を解いて、「さぁ、急いで帰らないとね。イルカのいつかの望みを叶えてあげるよ」と立ち上がってイルカから離れた。
「望み……って?」
カカシはにこりと笑顔を見せると、さらに距離を取った。
そして顔を下に向け、倒れこむように四つん這いになったかに見えたが――
「カカシ? えっ、うわぁ……!」
カカシの姿は、巨大な白銀の獅子へと変化した。
だが獅子の背には漆黒の翼が生え、頭部には角がそのまま残っており、細いはずの尾は鱗のびっしりと生えた鰐のような長く太いものになっている。
それは昔イルカが読んだ神話の絵本に登場した生き物に、限りなく近かった。
「……キメラ?」
「そう、そんな風にも呼ばれるね」
象牙色に光る牙を覗かせ、獅子と鳥と水竜のキメラ――カカシが答えた。
そしてイルカの前にカチカチと爪音を立てて来ると、「俺の背に乗って」と跪く。ハヤセがイルカを抱えながら乗せてやると、カカシが「クロ!」と呼びかけた。すると城の上の方から鋭い鳴き声が響き、白い烏が舞い降りてくる。
イルカは獅子の滑らかな体毛に埋もれながら、クロと並んでも遜色のないカカシの大きさに改めて驚いた。たてがみの柔かな感触を味わっていると、カカシがクロに声をかける。
「飛ばすからイルカをしっかり支えてて。できる?」
クロは一声鳴き、獅子の背にふわりと舞い降りるとイルカの服を嘴で掴み、上からその体をそっと押さえるように乗った。
「カカシ、重くないのか?」
「これくらいなら大丈夫だよ。それじゃハヤセ、後はお願いね。オビトのことは……すまなかった」
ハヤセは今度こそ驚きに目を大きく見開いて、何かを言いたげに口を開いたが言葉を発することはなく、代わりに深々と頭を下げた。
カカシは少し照れ臭そうに「イルカの影響かな」と小さく呟くと、黒い翼を広げ空へ飛び立った。
イルカとクロを乗せた獅子はオビラプトゥールよりも速く空を駆け抜け、第十五階層のテンゾウの城へと辿り着いた。
途中で何度かバリバリと雷鳴のような音が響いたが、カカシが最短距離で各階層の境界の坑を無理やり抉じ開けたことにはイルカは気が付かなかった。
城のバルコニーにはカカシの帰還の気配を察したのか、テンゾウが不安そうな顔で出迎えていた。
「おかえりなさいませ、カカシ様」
カカシの姿を見て全てを呑み込んだテンゾウが、喜びと哀しみの入り混じった複雑な表情で駆け寄ってきた。
カカシは着地と同時に人型になるとイルカを抱き上げ、「ただいま、心配かけたね。悪いけど話は後だ。クロの面倒を見てやって」と寝室へ向かった。テンゾウは腐敗紋の浮き出たイルカを一目見て頷き、クロの方へ歩いていった。
寝室に飛び込んだカカシは、イルカをベッドにそっと横たえた。
オビラプトゥールの所では結界膜に入っていたおかげで第十五階層より遥かに濃い瘴気を浴びずに済んでいたが、帰る途中でだいぶ腐敗紋が濃く浮き出てきてしまったようだ。
カカシは急いでイルカの服を剥ぎ取り、自分のも脱ぎ捨てるとベッドに乗り上げた。
「イルカ、これから魔染めをするから、もう少し頑張ってね」
イルカはうっすらと目を開けると微笑みらしきものを浮かべ、カカシへ腕を差し伸べようとした。だがその腕はカカシには届かず、シーツに落ちてしまった。
カカシはまず再度深く口づける。
自分の唾液をたっぷりと含ませた長い舌をイルカの咥内に押し込み、こくりと喉が動いたのを確認すると一旦体を起こした。サイドチェストの引き出しからクリスタルの香油の瓶を取り出し、手早く後孔と自分の陰茎に塗りこめる。そして舌とぬるつく指を襞の奥へと差し入れて内側を解しながら、同時に粘膜からも唾液を吸収させた。
イルカはぼんやりしながらも意識を失うまで瘴気に汚染されてはおらず、時折「ん……ふ、ぁ……」と鼻にかかった声を上げる。
早く、だがイルカの身体に負担なく助けたいと気持ちは焦るが、イルカの甘い吐息混じりの声にカカシの雄は切迫した欲望に膨れ上がっていた。
「ちょっときついだろうけど、ごめんね」
「んぅ……ぁ、あ!」
横向きになったイルカの顔が、押し入ってきた熱の圧迫感に歪んだ。
その辛さを散らそうとイルカの萎えた陰茎をやわやわと揉み、撫で擦りながら少しずつ腰を揺らし進めていく。
「っく、ぅうん……あ、カカ……」
声に徐々に甘さが戻ってくると、カカシは自分を包むイルカに翻弄され解放されるべく、腰を動かすペースを早めた。
完全体のカカシの体液はイルカの身体を一度で回復させた。
その身体を抱きしめ、腐敗紋の消えた滑らかな肌に名残惜しそうに唇を滑らせるカカシをイルカは抱き返した。
「また助けてくれてありがとう、カカシ」
首筋を辿っていた唇が止まり、小さな声が返ってくる。
「……あの、ね。もう一回してもいい? ……今度は魔染めじゃないんだけど」
「魔染めじゃないって?」
「うん。好きだよってセックスを、イルカとしたい。……ダメ?」
そう言われて、初めて気付いた。
今までは救命処置としてカカシが抱いていたことに。
忘却の泉の畔でスケアはイルカを抱きたいとはっきり言っていたが、今ではそれすら弱っていた自分を慰めるためだったように思える。
それなのにあんな声まで上げてみっともなくよがっていた自分が急に恥ずかしくなり、イルカは思わずカカシを押し返していた。
するとカカシはゆっくり身体を起こし、「……ごめん」と呟いた。
自分の考えなしの行動がカカシを傷付けたと知り、イルカは咄嗟にその腕を引いていた。
「違うんだ! そうじゃなくて……」
「……そうじゃなくて?」
イルカは必死に頭を巡らせ――いやそうじゃないと、自分の心に問いかけ直した。
魔界で行き倒れていた自分を助けてくれたスケアとカカシ。
ミズキに裏切られ、弱りきっていた自分の気持ちを暴くことなく、優しく寄り添っていてくれたスケア。
すると優しく細められ、熱っぽく自分を見つめるスケアの目がイルカの脳裏に甦った。
「……スケア」
ぽろりと零れ落ちた名前に、カカシは何のてらいもなく答えた。
「ん、なぁに?」と。
――あの目で。
とたんにイルカの双眸から涙がぼろぼろと溢れた。
「スケア、……スケアっ」
「ここにいるよ」
むしゃぶりついたイルカを、カカシは柔らかく抱き止めた。
「スケアが、消えちゃって、俺のせいで……俺なんかのために!」
「俺の大事なイルカを、俺なんかなんて言わないで。イルカが自分を嫌いでも俺はイルカが好きって言ったでしょ?」
『僕』が『俺』に変わってはいたが、それはまさにスケアの言葉で。
イルカは改めてカカシを見つめた。
「愛してるよ、イルカ」
同じ言葉を告げ、光の中に消えたスケア。
カカシの両目は緋色になり、角も揃って髪色もスケアとは違う銀色だが。
スケアはカカシの魂の一部だということを、初めてイルカは実感した。
スケアは消えていなかった。
ここに、カカシの中にいた。
「スケア………カカシ」
イルカはカカシの美しい顔に、唇に、そっと指で触れた。
「カカシ」
そして自分から顔を寄せ、震える唇で口づけた。
言葉は無くともその気持ちはカカシにも伝わり――
カカシは存分に『好きだよ』という気持ちを伝えた。
緩やかに、染み込ませるように、時には激しい情熱を以てイルカの身体の隅々まで、中にも、心にも。
イルカの全てに。
そしてイルカもまた、カカシの気持ちに必死になって応えた。
カカシの頬に頬を合わせ、柔らかい銀糸のような髪をかき混ぜて頭を引き寄せ、堅く尖った角に口づけを送り、拙い仕草で溢れる感情のままにそれを伝えた。
互いに何度も名前を呼び合い、吐く息を奪い合って重ねた身体を揺らし揺らされ。
どちらのものとも分からない汗に濡れた胸をぴたりと合わせ、カカシとイルカは間近で互いの目を覗きこみ、満ち足りた想いに微笑みとキスを交わした。
二人が交わしたのは情欲でもあったが、それはまた、確かに別の名でも呼ばれるものだった。
ありふれてはいるが――
愛、と。
翌朝、イルカは温かな腕に包まれて目が覚めた。
色白だが逞しい胸元が真っ先に目に入り、夕べはこの胸に顔を押し付けて声を殺したことを思い出す。しかもその首から肩にかけて、自分が付けたであろう歯型らしきものが残っているのまで見付けてしまった。
するとカカシに何度も囁かれ、つられて自分も言ってしまった甘い言葉や恥ずかしい声の数々がどんどん甦り、一人いたたまれない思いに身をよじらせる。
そこでふと視線を感じて見上げると。
蕩けるような甘い目で見つめるカカシとばちりと目が合った。
「イルカ、おはよ。身体は平気?」
「うわ、えっ、おはよ……ってか、わあああ勝手に見るなよっ」
イルカが恥ずかしさのあまり押しのけようとするが、逆に足まで絡めて引き寄せられ、ぴたりと抱き込まれてしまった。
「なんで見ちゃダメなの? こんなに可愛い百面相してるのに。あ、何かやらしいこと考えてたから?」
そうストレートに伝える美しい顔は、イルカへの愛おしさに満ち溢れて内側から輝くようだった。
しかも「昨日のイルカは本当に可愛かった……」などとうっとり呟くものだから堪らない。
「やらしいことなんて考えてない!」
「でも俺のことは考えてくれてたでしょ?」
そうやって捨てられた仔犬のように哀しげな目で見つめられると、イルカに逆らう術はなかった。
「う……ちょっ、とは、な」
「良かった!」
カカシは幸せそうに微笑み、イルカをぎゅうぎゅうと抱きしめた。
こんな一欠片の好意を与えるだけで何倍にも返ってくる。初めはそれがどこか信じられず、不安を覚えてきちんと受け入れられなかったが。
昨夜初めて魔染めではないセックスをしたことでカカシと正面から向かい合い、その想いに応えたいという気持ちがあることにも、更には自分もカカシの心を欲していたことにもイルカはようやく気付いた。
イルカは自分という器がカカシからの、そしてカカシへの愛でひたひたと満たされていく幸せを噛みしめていた。
両親を亡くしてからずっとどこに立つべきか分からなかった足が、初めてしっかりと地面に着いたような。
――その大地は魔界だったが。
そして自分が立ちたい場所を見付けたことで、今まで棚上げにしていたことにきちんと向かい合う覚悟が生まれた。
イルカは一つ息を吸い込み、緋色の目をひたりと見つめた。
「……カカシ、話があるんだ」
カカシは無言で黒い瞳を見つめ返す。
「俺、……人間界に戻るよ」
オビラプトゥールもイルカも目を覆って顔を背けていたが、突然雷鳴が止み、光が急速に収束していく気配を感じる。
イルカが恐る恐る目を開けてみると、ようやく目視できるくらいになってきた光の中に人影があった。
――人影は、一つ。
「スケア………カカ、シ?」
全ての光が消え、その中心に立っていた銀髪の男がイルカの方に顔を向けた。
カカシは……カカシだった男の頭には、緩く曲線を描きながら天を差す角が二本あった。
少年と青年の狭間にあった容貌は背丈も伸びて体躯も細身ながら逞しく、今や成熟した大人のものになっている。
そしてその声も。
「イルカ……」
カカシともスケアとも違う、落ち着いた低い声で。
「イルカ」
真っ直ぐ射抜く眼は、左右どちらも揃って深紅の眸。
「カカシ……?」
だがイルカの呼びかけに応えて細められた、あの優しい目は――
「スケア……っ!!」
「俺の相手もしてくれよ、カカシ!」
焔を纏わせた拳を固く握ったオビラプトゥールが、カカシの視野の外から飛びかかってきた。
「せっかちだなぁ、イルカとの時間を邪魔するなんて。だからオビトはモテないんだよ」
カカシの横面を狙ったはずの拳は、平手でぴたりと止められていた。
拳の焔もなぜかじゅっと音を立てて消えている。
「……っ、うるせぇ! 俺はせっかちじゃなくて敏捷なんだよ!」
「ハイハイ、じゃあその敏捷なところを見せて、早く終わらせてね」
そう言い捨てると、カカシはイルカとソファーを覆った結界膜に歩み寄り、そっと両手で触れた。
膜は一瞬ばちりと火花を散らすが、次元を隔たれたそれに干渉することはカカシにも不可能なようだった。
「苦しい思いをさせてごめんね。すぐ助けるから待ってて」
「カカシ……っ」
怠さと息苦しさで重い身体を起こし、イルカが手を伸ばす。
その手は膜越しに重なり、すぐに離れた。
次元結界膜はオビラプトゥールが解除するか、彼を倒さないとならないと言っていた。倒すというのがどこまでを指すのか分からないが、オビラプトゥールのぎらついた目を見る限り、ただの勝ち負けだけでは済まない気がする。
そしてカカシは腐敗紋の出始めたイルカを助けるためには、きっと容赦をしないだろう。彼もまた、そういう目をしていた。
「待ってカカシ、こんなのダメだ」
イルカの声に振り返らないままカカシは「オビト、外に出るよ」とバルコニーへと向かうが、歩き去るその足が獣脚ではないことにイルカは気付いた。
魔力の高い者ほど人型をとると教えてくれたスケアの声が甦る。
完全な姿を取り戻したカカシは知らない者のようで、どこか遠くに感じる支配者然としたオーラが今は恐ろしかった。何か、取り返しのつかないことになりそうで。
その後ろ姿を不安な思いで見送っていると、不意に地面が揺らいでソファーとイルカごと結界膜が浮かび上がる。
「お前も来るんだよ、人間。ハヤセ! コイツを見張ってろ!」
カカシに続いてバルコニーに出たオビラプトゥールが指をくいと曲げると、結界膜が糸を引っ張られた風船のように外へ引きずり出された。
不安定に揺れる結界膜から下を見下ろすと、カカシは竜のオブジェの立ち並ぶ石畳の広場に立っている。その背には降りる時に使ったのか、いつか見た漆黒の翼が両翼揃って畳まれていた。
オビラプトゥールもビルなら四階の高さはあろうかというバルコニーから飛び降り、その降下中に翼のある赤黒い竜へと姿を変えた。そしてグワと開けた口から焔を吐き、カカシへと滑空していく。
カカシの姿が豪炎に消えたかと思うと、おびただしい水蒸気が上がった。
水霧が晴れた後には、火傷どころか焦げ痕一つないカカシの静かな立ち姿があって、イルカはほっと息を吐く。
「最初から小細工無しできてくれて有り難いよ。手間が省ける」
「そのままの姿でいいのか? 負けても言い訳は聞かないぞ」
カカシの背後から、羽ばたきながら宙に留まるオビラプトゥールが牙を剥き出して不敵に笑う。
するとカカシはいっそ神々しいとさえ言える冷徹な微笑を浮かべ、オビラプトゥールの方へ振り返った。
「言い訳の必要はないよ。もう終わるから」
その言葉と同時に右手を突き出し、竜に向ける。
開いた掌にまた白光が宿ったかと思うと、突如として渦を巻いた水流が噴き出した。水流は一直線にオビラプトゥールをめがけ、矢のように突き刺さらんばかりだったが。
竜は再度豪炎を吐き出しそれを散らした。
カカシは「へぇ、腕を上げたね」と片眉を上げると、翼を広げて空高く、イルカのいるバルコニーよりも更に高く舞い上がる。そして右手を竜に突き出しながら真っ直ぐに急降下していった。
掌から放たれた水流に今度は青白く輝く稲光を纏わせ、恐ろしいスピードで竜に向かっていく。
オビラプトゥールは一声咆哮を上げると、先ほどとは違うおぞましい色合いの黒炎をカカシに吐きつけた。
「カカシっ!」
イルカの叫びと同時に黒と白は正面からぶつかり――
光が弾け、黒い煙が膨らんだ。
広場に立ちこめる黒煙が徐々に晴れていくと、そこには胸から腹にかけて大穴の開いた竜が横たわっていた。
「オビさん! あぁ、そんな……」
「ご安心下さい、お客人殿。オビラプトゥール様は六つの心臓をお持ちですので、しばらくすれば蘇って参ります」
いつの間に結界膜の傍にいたのか、ハヤセと呼ばれた男がイルカに話しかけてきた。
だが金属の仮面に半分隠されて無表情だったその顔には僅かに痛みが浮かんでいるようにも思え、イルカは息苦しさに抗いながらそっと言葉をかけた。
「すみません、俺が捕まったばっかりに、こんな酷いことに……」
ハヤセは驚いたようにイルカを見つめ、それからおもむろに結界膜に両手を叩き付けた。
ガラスのような音がすると思われた膜は、予想に反して音も無くあっさりと消える。そして支える物が無くなって床に横たわってしまったイルカに手を差し伸べ、ソファーへと寄りかからせてやった。
「無体な蛮行をしでかしたのは我が主の方ですので、どうぞお気になさらぬよう」
「でも……」
「そうだよ、迷惑をかけられたのはイルカなんだから」
「カカシ!」
翼を折り畳みながらカカシがバルコニーに降り立った。
見上げたイルカの前に屈むと、腐敗紋の広がってきた顔を両手で挟んで口づけ、イルカの咥内に自分の唾液をたっぷりと含ませた。
「……どう、少しは楽になった?」
気遣わしげなカカシを見つめたイルカの黒い瞳に涙の膜が張る。
「カカシ、ごめん……俺のせいで友達を……ごめん」
カカシは一瞬目を見開いたが、すぐに和らげてイルカの溢れた涙を舐めとった。
「イルカのせいじゃないよ。だいたいアイツが馬鹿なことをするから自業自得なんだ」
「そうじゃなくて!」
カカシはイルカの身体に両腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。
「うん、分かってる。ありがとうイルカ。俺と……オビトのために泣いてくれて」
ぽん、ぽんと背を優しく叩くと、しゃくり上げるイルカの髪を撫でる。
それからそっと腕を解いて、「さぁ、急いで帰らないとね。イルカのいつかの望みを叶えてあげるよ」と立ち上がってイルカから離れた。
「望み……って?」
カカシはにこりと笑顔を見せると、さらに距離を取った。
そして顔を下に向け、倒れこむように四つん這いになったかに見えたが――
「カカシ? えっ、うわぁ……!」
カカシの姿は、巨大な白銀の獅子へと変化した。
だが獅子の背には漆黒の翼が生え、頭部には角がそのまま残っており、細いはずの尾は鱗のびっしりと生えた鰐のような長く太いものになっている。
それは昔イルカが読んだ神話の絵本に登場した生き物に、限りなく近かった。
「……キメラ?」
「そう、そんな風にも呼ばれるね」
象牙色に光る牙を覗かせ、獅子と鳥と水竜のキメラ――カカシが答えた。
そしてイルカの前にカチカチと爪音を立てて来ると、「俺の背に乗って」と跪く。ハヤセがイルカを抱えながら乗せてやると、カカシが「クロ!」と呼びかけた。すると城の上の方から鋭い鳴き声が響き、白い烏が舞い降りてくる。
イルカは獅子の滑らかな体毛に埋もれながら、クロと並んでも遜色のないカカシの大きさに改めて驚いた。たてがみの柔かな感触を味わっていると、カカシがクロに声をかける。
「飛ばすからイルカをしっかり支えてて。できる?」
クロは一声鳴き、獅子の背にふわりと舞い降りるとイルカの服を嘴で掴み、上からその体をそっと押さえるように乗った。
「カカシ、重くないのか?」
「これくらいなら大丈夫だよ。それじゃハヤセ、後はお願いね。オビトのことは……すまなかった」
ハヤセは今度こそ驚きに目を大きく見開いて、何かを言いたげに口を開いたが言葉を発することはなく、代わりに深々と頭を下げた。
カカシは少し照れ臭そうに「イルカの影響かな」と小さく呟くと、黒い翼を広げ空へ飛び立った。
イルカとクロを乗せた獅子はオビラプトゥールよりも速く空を駆け抜け、第十五階層のテンゾウの城へと辿り着いた。
途中で何度かバリバリと雷鳴のような音が響いたが、カカシが最短距離で各階層の境界の坑を無理やり抉じ開けたことにはイルカは気が付かなかった。
城のバルコニーにはカカシの帰還の気配を察したのか、テンゾウが不安そうな顔で出迎えていた。
「おかえりなさいませ、カカシ様」
カカシの姿を見て全てを呑み込んだテンゾウが、喜びと哀しみの入り混じった複雑な表情で駆け寄ってきた。
カカシは着地と同時に人型になるとイルカを抱き上げ、「ただいま、心配かけたね。悪いけど話は後だ。クロの面倒を見てやって」と寝室へ向かった。テンゾウは腐敗紋の浮き出たイルカを一目見て頷き、クロの方へ歩いていった。
寝室に飛び込んだカカシは、イルカをベッドにそっと横たえた。
オビラプトゥールの所では結界膜に入っていたおかげで第十五階層より遥かに濃い瘴気を浴びずに済んでいたが、帰る途中でだいぶ腐敗紋が濃く浮き出てきてしまったようだ。
カカシは急いでイルカの服を剥ぎ取り、自分のも脱ぎ捨てるとベッドに乗り上げた。
「イルカ、これから魔染めをするから、もう少し頑張ってね」
イルカはうっすらと目を開けると微笑みらしきものを浮かべ、カカシへ腕を差し伸べようとした。だがその腕はカカシには届かず、シーツに落ちてしまった。
カカシはまず再度深く口づける。
自分の唾液をたっぷりと含ませた長い舌をイルカの咥内に押し込み、こくりと喉が動いたのを確認すると一旦体を起こした。サイドチェストの引き出しからクリスタルの香油の瓶を取り出し、手早く後孔と自分の陰茎に塗りこめる。そして舌とぬるつく指を襞の奥へと差し入れて内側を解しながら、同時に粘膜からも唾液を吸収させた。
イルカはぼんやりしながらも意識を失うまで瘴気に汚染されてはおらず、時折「ん……ふ、ぁ……」と鼻にかかった声を上げる。
早く、だがイルカの身体に負担なく助けたいと気持ちは焦るが、イルカの甘い吐息混じりの声にカカシの雄は切迫した欲望に膨れ上がっていた。
「ちょっときついだろうけど、ごめんね」
「んぅ……ぁ、あ!」
横向きになったイルカの顔が、押し入ってきた熱の圧迫感に歪んだ。
その辛さを散らそうとイルカの萎えた陰茎をやわやわと揉み、撫で擦りながら少しずつ腰を揺らし進めていく。
「っく、ぅうん……あ、カカ……」
声に徐々に甘さが戻ってくると、カカシは自分を包むイルカに翻弄され解放されるべく、腰を動かすペースを早めた。
完全体のカカシの体液はイルカの身体を一度で回復させた。
その身体を抱きしめ、腐敗紋の消えた滑らかな肌に名残惜しそうに唇を滑らせるカカシをイルカは抱き返した。
「また助けてくれてありがとう、カカシ」
首筋を辿っていた唇が止まり、小さな声が返ってくる。
「……あの、ね。もう一回してもいい? ……今度は魔染めじゃないんだけど」
「魔染めじゃないって?」
「うん。好きだよってセックスを、イルカとしたい。……ダメ?」
そう言われて、初めて気付いた。
今までは救命処置としてカカシが抱いていたことに。
忘却の泉の畔でスケアはイルカを抱きたいとはっきり言っていたが、今ではそれすら弱っていた自分を慰めるためだったように思える。
それなのにあんな声まで上げてみっともなくよがっていた自分が急に恥ずかしくなり、イルカは思わずカカシを押し返していた。
するとカカシはゆっくり身体を起こし、「……ごめん」と呟いた。
自分の考えなしの行動がカカシを傷付けたと知り、イルカは咄嗟にその腕を引いていた。
「違うんだ! そうじゃなくて……」
「……そうじゃなくて?」
イルカは必死に頭を巡らせ――いやそうじゃないと、自分の心に問いかけ直した。
魔界で行き倒れていた自分を助けてくれたスケアとカカシ。
ミズキに裏切られ、弱りきっていた自分の気持ちを暴くことなく、優しく寄り添っていてくれたスケア。
すると優しく細められ、熱っぽく自分を見つめるスケアの目がイルカの脳裏に甦った。
「……スケア」
ぽろりと零れ落ちた名前に、カカシは何のてらいもなく答えた。
「ん、なぁに?」と。
――あの目で。
とたんにイルカの双眸から涙がぼろぼろと溢れた。
「スケア、……スケアっ」
「ここにいるよ」
むしゃぶりついたイルカを、カカシは柔らかく抱き止めた。
「スケアが、消えちゃって、俺のせいで……俺なんかのために!」
「俺の大事なイルカを、俺なんかなんて言わないで。イルカが自分を嫌いでも俺はイルカが好きって言ったでしょ?」
『僕』が『俺』に変わってはいたが、それはまさにスケアの言葉で。
イルカは改めてカカシを見つめた。
「愛してるよ、イルカ」
同じ言葉を告げ、光の中に消えたスケア。
カカシの両目は緋色になり、角も揃って髪色もスケアとは違う銀色だが。
スケアはカカシの魂の一部だということを、初めてイルカは実感した。
スケアは消えていなかった。
ここに、カカシの中にいた。
「スケア………カカシ」
イルカはカカシの美しい顔に、唇に、そっと指で触れた。
「カカシ」
そして自分から顔を寄せ、震える唇で口づけた。
言葉は無くともその気持ちはカカシにも伝わり――
カカシは存分に『好きだよ』という気持ちを伝えた。
緩やかに、染み込ませるように、時には激しい情熱を以てイルカの身体の隅々まで、中にも、心にも。
イルカの全てに。
そしてイルカもまた、カカシの気持ちに必死になって応えた。
カカシの頬に頬を合わせ、柔らかい銀糸のような髪をかき混ぜて頭を引き寄せ、堅く尖った角に口づけを送り、拙い仕草で溢れる感情のままにそれを伝えた。
互いに何度も名前を呼び合い、吐く息を奪い合って重ねた身体を揺らし揺らされ。
どちらのものとも分からない汗に濡れた胸をぴたりと合わせ、カカシとイルカは間近で互いの目を覗きこみ、満ち足りた想いに微笑みとキスを交わした。
二人が交わしたのは情欲でもあったが、それはまた、確かに別の名でも呼ばれるものだった。
ありふれてはいるが――
愛、と。
翌朝、イルカは温かな腕に包まれて目が覚めた。
色白だが逞しい胸元が真っ先に目に入り、夕べはこの胸に顔を押し付けて声を殺したことを思い出す。しかもその首から肩にかけて、自分が付けたであろう歯型らしきものが残っているのまで見付けてしまった。
するとカカシに何度も囁かれ、つられて自分も言ってしまった甘い言葉や恥ずかしい声の数々がどんどん甦り、一人いたたまれない思いに身をよじらせる。
そこでふと視線を感じて見上げると。
蕩けるような甘い目で見つめるカカシとばちりと目が合った。
「イルカ、おはよ。身体は平気?」
「うわ、えっ、おはよ……ってか、わあああ勝手に見るなよっ」
イルカが恥ずかしさのあまり押しのけようとするが、逆に足まで絡めて引き寄せられ、ぴたりと抱き込まれてしまった。
「なんで見ちゃダメなの? こんなに可愛い百面相してるのに。あ、何かやらしいこと考えてたから?」
そうストレートに伝える美しい顔は、イルカへの愛おしさに満ち溢れて内側から輝くようだった。
しかも「昨日のイルカは本当に可愛かった……」などとうっとり呟くものだから堪らない。
「やらしいことなんて考えてない!」
「でも俺のことは考えてくれてたでしょ?」
そうやって捨てられた仔犬のように哀しげな目で見つめられると、イルカに逆らう術はなかった。
「う……ちょっ、とは、な」
「良かった!」
カカシは幸せそうに微笑み、イルカをぎゅうぎゅうと抱きしめた。
こんな一欠片の好意を与えるだけで何倍にも返ってくる。初めはそれがどこか信じられず、不安を覚えてきちんと受け入れられなかったが。
昨夜初めて魔染めではないセックスをしたことでカカシと正面から向かい合い、その想いに応えたいという気持ちがあることにも、更には自分もカカシの心を欲していたことにもイルカはようやく気付いた。
イルカは自分という器がカカシからの、そしてカカシへの愛でひたひたと満たされていく幸せを噛みしめていた。
両親を亡くしてからずっとどこに立つべきか分からなかった足が、初めてしっかりと地面に着いたような。
――その大地は魔界だったが。
そして自分が立ちたい場所を見付けたことで、今まで棚上げにしていたことにきちんと向かい合う覚悟が生まれた。
イルカは一つ息を吸い込み、緋色の目をひたりと見つめた。
「……カカシ、話があるんだ」
カカシは無言で黒い瞳を見つめ返す。
「俺、……人間界に戻るよ」
スポンサードリンク