【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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花葬祭の帰り道、カカシと並んで歩いていたイルカが、ふと足を止めた。
「カカシさん、すみませんが先に帰っててもらえますか」
イルカの目線を辿ると、その先には子供が一人、河原にしゃがみこんでいた。
「りょーかい」
あえて軽く言うと、カカシはそのまま歩き去った。イルカはその背中を見送ると、子供の方に向き直る。

その顔はすでに「先生」のそれだった。


イルカはわざと大きな音を立てて近づくと、子供の斜め後ろに立つ。
「よぉ、ニシン」
ニシンは慌てて顔をぬぐうと、ゆっくり振り返った。
まだアカデミー生なのに、あまりにもむき出しな痛みの浮かんだ顔を見て、イルカの胸がギュッと絞られる。
が、顔には一切出さない。

イルカは川の方に目をやると「まだ流れてるんだなぁ」と独り言のように呟いた。
川の水面には、花が入れられた竹籠がいくつか浮かんでいる。ニシンもイルカの言葉につられ、川の方を見た。

花葬祭は木の葉崩しの時に亡くなった人を悼む、木の葉の新たな行事だった。
九尾の慰霊祭と違い小規模だが、五代目を筆頭に全員で黙祷を捧げた後、竹籠に花を入れて川流しをする。
ニシンもまた、亡くした兄と父親への想いを乗せて川流しをしたのだろう。

「ねぇイルカ先生。俺の父ちゃんを覚えてる?」
ニシンの父は中忍で、里内の戦闘で亡くなっていた。
「あぁ、もちろんだ。みんなを守って戦った、立派な英雄だからな」
「じゃあメダカ兄ちゃんは?」
「メダカも優秀な下忍だ。あいつはすごい足が早かったからな。伝令役で活躍してただろ?」
ニシンはうつむいて爪先を見る。

「じゃあ、何で?」


何で立派な英雄の父ちゃんと兄ちゃんが死んじゃって、へなちょこの俺が生きてるの?


イルカは、ぐぅと詰まった。
歯を食いしばり、せり上がってきた塊を飲み込み、鼻で大きく息を吸う。
そして一言一言、言葉を紡ぐようにゆっくりと話した。

「いいか、ニシン。父ちゃんも兄ちゃんも、大事なものを守ろうと戦って、ちゃんと守りぬいたんだ。その結果が、お前やお前の母ちゃんだ。それなのにお前がそんな事言ってるのを聞いたら、二人とも悲しくなると思うぞ」
「…だって!」
ニシンが勢いよく立ち上がる。

「だって!昨日も母ちゃんのハンバーグがうまかった!今日だってヒバリとふざけて、もう少しで笑うとこだった!花葬祭なのに笑っちゃうとこだった!こんなのおかしいよ!俺が、」

涙がぼとぼとと地面に落ちる。

「こんなへなちょこの俺が、うまいとか、笑ったり…っ、父ちゃんも、…兄ちゃんも、も、ぅできな……っのにっ」

うひーんと泣き出したニシンの前に、イルカは黙ってしゃがみこむと、ぎゅうっと抱きしめた。





しゃくりあげる声が、徐々に小さくなっていく。
イルカも抱きしめる腕の力をゆっくりと抜き、ぽん、ぽんとあやすように背中を叩いた。

「…なぁニシン。もしも、もしもだぞ?ニシンが死んじゃって、兄ちゃんが生きてるとしたらさ。兄ちゃんが笑うこともなくって、何か食っても味が分かんなくて、毎日毎日お前の事を考えて泣きながら寝てたとしたら、お前は嬉しい!兄ちゃんありがとうって思うか?」

イルカの肩に押し付けられていた頭が、左右に振られる。

「だよな。兄ちゃんも父ちゃんもお前とおんなじ気持ちだと思うぞ」

「…でも俺、笑ったりしてる時、兄ちゃんと父ちゃんのこと忘れちゃってるんだ。このままどんどん忘れちゃいそうで…こわいんだ」

ニシンは肩に顔を押し付けながら話す。最後の方はほとんど囁き声だった。
イルカはまた腕にぐっと力をこめる。

「あのな、ニシン。お前は絶対に忘れたりしない。そりゃあ楽しかったり、メシがうまいって思う事もあるさ。それが生きてるって事なんだから。兄ちゃんと父ちゃんはな、お前にそういう風に生きて欲しいから守ったんだぞ。だからそれでいいんだ。そんで、時々みんなで楽しかった事とか思い出してくれれば、それが一番嬉しいと思うぞ。楽しかった事、あっただろ?」

抱きしめた小さな体が小刻みに震える。
そして首を何度も縦に動かした。
イルカはまた背中をぽん、ぽんと叩いた。



しばらくするとニシンは体を離し、下を向いたままゴシゴシと顔を擦る。
「こすると赤くなって明日腫れるぞ」
イルカは手ぬぐいを取り出すと、そっとニシンの手をよけて顔を拭いた。
ニシンはしばらくうつむいてされるがままだったが、パッと顔を上げると口を尖らせた。
「もういいよ、そんなガキじゃないし」
「あぁ、すまんすまん。ニシンは立派な木の葉の忍だ。まだタマゴだけどな」
「次の卒業試験はぜってー受かってやる」
「そうだな、頑張れよ。父ちゃんと兄ちゃんもきっと応援してるぞ」
そう言ってイルカはクシャリとニシンの頭をかき混ぜた。
「あったりまえだ!」
ニシンはにかっと笑うと、先生じゃあな!と走っていった。






イルカはアパートの階段をカンカンと昇り、自分の部屋のドアの前に立つと、ガチャリと開ける。

そこにはカカシが立っていた。

イルカは無表情なまま真っ直ぐにカカシに向かって進む。
そしてカカシにぶつかると、カカシは広げた腕の中にイルカを閉じ込めた。
イルカの体が震え、カカシの肩口がじわりと濡れる。


「……ニシンがね。自分は生き残るべきじゃなかったって言うんです」

「うん」

「あんな小さい子供なのに、生き残った事に罪悪感を感じてるんです」

「うん」

「笑ったりメシがうまいって思ったら悪いって思ってるんです。兄ちゃんと父ちゃんを忘れちゃいそうで怖いなんて言うんです」

「うん」

「あいつの生活を、笑顔を守れなかったのは、俺たち大人なのに…!」

「うん。そうだーね」


カカシはイルカの背中を優しくさする。

イルカが今欲しいのは、慰めや励ましではないのはよく分かっていた。
子供の痛みをありのまま受け入れ、その心に寄りそう事で、イルカもまた傷付いている。
だからカカシも、そのイルカの心に寄りそう事で、痛みを共有しようとしているのだ。



嗚咽が響く。
そして背中をさするシュッ、シュッという小さな音。



それは静かで、とても優しい鎮魂歌。


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