【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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カカシは家路を急いでいた。
今回は通常ではなく暗い方の任務だった。三代目に直接報告した後、取り急ぎシャワーを浴びてこびりついた脂臭と血臭を落とし、通常の支給服に着替える。
敵と交戦したわけではないので返り血は全くないが、とにかく人数を斬ったので臭いがひどかった。あのままでは明るい街中を歩けないし、何よりもイルカに心配をかけてしまう。

イルカは決して任務内容に口は出さないが、カカシの体調と精神状態はいつも気にかけてくれる。
もちろんカカシも露骨に顔に出すような真似はしないが、それでもどこかしら澱のような物をまとわせているのだろうか。
敏いイルカはそれに気付いてしまう。
気付いて、心を痛めてしまうのだ。そんな必要はないのに。


今回の任務は、とある一族の殲滅。
殲滅とは屋敷に住む全ての命ある者の抹殺を指す。当主・奥方・その子供や血族のみならず、屋敷に住まう使用人をも消さなければならない。
当然その使用人の、まだ物心もつかないような頑是ない兄妹ですらも。

イルカは知らなくていい。
その兄妹が母親に抱き込んで護られ、それでも母親の血を浴びながら逝った事も、妹の黒い瞳が最期に俺を捉えた事も。
そんな事をイルカは知る必要はないし、決して知るべきではない。

だが…
知らなくていいのはカカシもではないだろうか。
今まで何の疑問も持たずに任務を粛々とこなしてきた。それこそ、子供の頃からずっと。
命は一つ二つ、あるいは十、百と数える物であって、一人二人ではなかった。
こんな幼い子一人の命で揺らされるような、そんな脆弱な覚悟じゃなかったはずなのに。
それがイルカと付き合うようになってから、あの真っ直ぐな黒い瞳に射抜かれるのだ。
「お前は本当は知っていたはずだ」と。

人を殺めること自体は否定しない。それを否定するのは里を否定することに等しいからだ。
任務を完璧に遂行してこそ里を、仲間を護ることに繋がる。
だが時には任務より優先すべき物がある。
そもそも里とは象徴ではなく、一人ひとりの仲間が集まって構成されるものだからだ。その仲間を護るためなら、持てる限りの力を使う覚悟がある。
ただ……奪うものから目を逸らしたまま、機械的に遂行するだけの行為までも、本当に「覚悟」と呼んでいいのか。
イルカの目に呼び起こされたこのわだかまりこそが、知らなくていい物だったのではないだろうか。

……こんな風に考えるようになったら、暗い方もそろそろ潮時かもしれない。
揺らぎを抱えたままやっていけるほど、暗部の任務は甘っちょろい物じゃない。刹那の迷いが生死を分けるのだから。
だがそれは、甘っちょろい物の中身と向き合わないからこそ言えた事ではないだろうか。
それと正面から対峙しても、はたして同じ事を言えるのだろうか。


カカシは首をひと振りして思考を払いのけた。
こんな感情を持ち帰ったら、それこそイルカが心配してしまう。
道行く人の注意を引かないよう、できるだけ気配を薄めてイルカの元へと向かうと、角を曲がった所でアパートのベランダが見えた。

(…イルカだ!)

反射的にイルカの所まで跳んで行こうとしたが。
何かがカカシの動きを止めた。

はためく洗濯物。
干された布団。
ぬけるような青空。

あれは…ビールだろうか、缶を片手にフェンスに肘をつき、この上なく満たされた顔の…イルカ。


それはまるで一枚の絵のようで。


その完成された風景に、カカシはふいに強烈な違和感を感じた。
自分は確かにここに居るのに、居ないのだ。
ここは自分が所属し、護るべき里のはずなのに。
足はこの街の地面を踏みしめているのに、目の前にイルカが居るのに、それはあまりにも現実感がなかった。
あんなにも長閑で美しい、恐ろしいほど完璧な景色が現実であるはずがなかった。
世界はもっと暗い墨と血の色をしていて、あんな彩りなどないものだったはずだ。

…もし手を伸ばしたら、平面に触れてしまうのではないだろうか。
ざらりとしたキャンバスの手触りまでが思い浮かべられ、カカシは半ば本気でそう考える。
訳の分からない焦燥感に駆られ、カカシは完全に気配を断つとイルカの部屋の中に瞬身した。
外の日差しの下から急に室内に来たので視界が利かなかったが、一瞬目を閉じて開くとすぐに慣れる。
ベランダにはイルカがまだこちらに背を向けて、ビールをあおっていた。
日差しの下、明るい場所に立つイルカ。
カカシは音をたてずにサッシを開けるとゆっくり手を伸ばし、一瞬のためらいの後、指先でイルカの背に触れる。

………あたたかい。

そのまま手を腰に回し、ぐいと引き寄せる。
明るい日差しの下から、暗い室内へと。

ーーーカカシの現実へと。


「うわわっ!え…何!?」

缶がイルカの手から落ちてベランダに転がったが、カカシの耳には入らない。

やわらかい。跳ねる黒髪。息遣い。アルコールの混じるイルカの匂い。ほんのり塩味を含んだ、汗ばんだうなじ。
しっかりと抱きしめ、五感でイルカを味わう。
生きてた。ちゃんと生きてた。
イルカも………俺も。

「…カカシ、さん?」

いつもと違うカカシに気付き、イルカが戸惑った声をあげる。
何か言わなくては。
何でもないと、何一つ変わりはないのだと、何でもいいから、何か。
焦るほど喉はひりつき、ぎゅっと閉じた目蓋に浮かぶのは、あの幼い子の瞳に映る白い面だった。
ひとつの命を奪うのに、真っ向からその命と向き合いもせずに刃を振るう、卑劣な白い面。
あの子がこの世の最期に見た物は、そんな白い面だった。
母親の血を浴びながらそんな物を見て逝く、あの幼い子がそういう人生であっていいはずがなかった。
そして……そんな命を見たこの眼に、イルカを映していいはずがなかった。
カカシはイルカから体を離すと、顔を背けたまま瞬身の印を結ぼうとした。


と、その手ごとイルカの両手が包み込み、術の発動を遮る。


「おかえりなさい」

カカシの手を包むイルカの手に、ほんの少しだけ力がこもる。

「おかえりなさい、カカシさん」

イルカの親指が、カカシの手をそっと撫でる。
優しく、いとおしげに。
何度も何度も、繰り返し撫でている。
思わず顔を上げると、イルカの黒い睫毛に縁取られた目はカカシの手を見つめていた。
そして印を組んだままの指に口づけを落とすと、ゆっくり目線を上げてカカシのあらわになった右目を捉えた。

「…今日は、布団を干したんです。天気がいいから、きっとふかふかになってます。…腹は減ってませんか?ナスを山盛り買ってきてあるんで、味噌炒めと煮浸しと味噌汁にしましょう。ちょっとだけビールも呑んじゃいましょう。…ホントはさっき、一本開けちまったんです。ビールじゃなくて発泡酒ですけどね」

ふいにアルコールの匂いがよみがえってきた。
ナスの濃紫。
味噌の味。
ピチピチュと鳴き交わす鳥たちの声。
日差しをいっぱい浴びた、ふかふかの布団。

触れられた手の、あたたかさ。

イルカ相手だけにしか感じられなかった五感が範囲を広げ、カカシの世界に彩が戻り始める。

「…それから、腹いっぱいになったら、ちょっとだけ昼寝でもしましょう。畳で、ごろんって。それとも膝枕しましょうか。…でも眠くなったら俺も寝ちまいますけどね。そんで、起きたらいっしょに風呂入りましょう。俺が頭を洗ったげますよ。あぁ、今日はヒノキの香の入浴剤を入れましょうか。それから二人でふかふかの布団に、ボフンって飛び込みましょう…」

イルカの声がゆったりとしたリズムで響く。
まるで、むずがる子を寝かしつける子守唄のように。

いつしかカカシはイルカの言葉ひとつひとつに頷いていた。
イルカの謳い上げる日常で、カカシを覆っていた墨がぼろり、またぼろりと剥がれ落ちていく。

きっとこれからも、俺は斬り続けるだろう。

斬って斬って斬って、命を奪い続けるだろう。その数多の命を背負って、斬り拓いた血の途を行くのだろう。
だが、赦されるはずのない俺の手を、赦されないままでも慈しむイルカがいてくれる。
墨絵の世界ごと自分の日常に受け入れ、それをも彩のひとつだと、いとおしんでくれるイルカが。


「……うん。ただいま、イルカ」


世界は今、その彩りを完全に取り戻した。





【完】



作画 pixiv よんさん


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