【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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 早く見つけて、俺を
 俺を見つけられるのは、貴方だけ
 貴方の目印は左の目蓋の上下に走る傷
 俺の目印は――





村外れの寂れた寺の離れに、いつの間にか一人の男が住み着いた。
ひょろりとした白髪の短い総髪の男で、顔を隠したい理由でもあるのか、いつも手拭いで目から下を覆って頭の後ろで結んでいる。最初は村の衆も食い詰めた年寄りの浪人が流れてきたのかと思っていたが、そばで見ると存外若く、色白ではあるが立派な体格をしている。
話しかければぽつぽつと答えるし、何をしてるのかと問えば自分は仏師で、修行の為にあちこちの仏像を見て回っているのだと言う。
だが、詮索好きな女衆が訊ねても、閉じた左目を縦に走る刀傷のようなものに関しては、曖昧に言葉を濁すだけでするりと去ってしまうのだった。

数日も経つと村人たちの興味も薄れ、寺の離れを覗く者もいなくなった。
だが、みなしごのナルトだけは、農作業の合間に仏師の元へ通うのをやめなかった。

「なぁなぁ、兄ちゃんそれ何してるんだ?」
「だから兄ちゃんじゃない、カカシだよ。これは仏様を絵に描かせて頂いてるんだ」
「そうだ、カカシだったってばよ! カカシ兄ちゃんは絵師なのか?」
「いや、仏像を彫る仏師だ。木に彫る前に、こうして絵に描いて仏様の御心を感じ取るんだよ」

そう話す間もすいすいと止まらぬ筆の動きを、ナルトは飽きもせず眺めていた。

「じゃあさ、じゃあさ、仏像はいつになったら彫るんだ?」
「なんだ、ナルトは仏像を彫るところが見たいのか? 途中のならあるぞ」

カカシは筆を止めると、部屋の隅の小さな行李の中から、ナルトの腕くらいの太さの木材を手渡した。
それはところどころ削られ、細長く丸みを帯びた形をしている。

「……これ何だってば?」
「それがこれから仏像になる物だ」
「えっ? だってこんなん、ただの木切れじゃねぇか」
「その木の中には、もう仏様がいらっしゃるんだよ。それを鑿と小刀で掘り出してあげるのが、仏師の仕事なんだ……お師匠の受け売りだけどね」
「へぇ~! 仏師ってばすっげえんだな!」

するとカカシは手拭いの下で薄く笑ったように見えた。

「そうだな、本物の仏師はすっげえんだよな。俺もいつかそうなりたいねぇ。……ここの寺でなら何か掴める、なぜかそんな気がするんだ」

最後の方は呟くように言うと、カカシは開け放した部屋の外を見やった。
その視線の先の本堂には、穏やかな顔をしてうつむき加減に座る阿弥陀如来 半跏思惟像があった。




夜も更けた頃――
離れの中では一心に小刀を動かすカカシの姿があった。
魚油の匂いが漂う中、行灯の仄かな灯りにカカシの丸い背が影となって揺らぐ。

「あ……っ、しまった」

一定の間隔で刻まれていた音が、不意に乱れた。
道具を変えようとして手が滑り、彫っていた木像に傷を付けてしまったのだ。
ようやく輪郭を見せてきた顔の中心、鼻の上を横切るように一直線に傷が走っている。これでは寺に奉納することはできない。
カカシは肩を落として深々とため息をつくと、無意識に左目の傷痕に手を触れた。

「おまえも俺とおんなじになっちゃったね……」

カカシはもともと、高名な仏師のところで学んでいた。
その人目を引く容姿と、何よりもその優れた技術で師の覚えもめでたく、特に目をかけられていた。
だが醜い人間の感情というものは、仏の御心を学ぶ者の中にも等しくあるもので。
カカシを妬んだ門弟たちがよってたかって暴力をふるい、興奮した一人が取り出した小刀でカカシの目に切り付けたのだ。
当然その弟子は破門にされると思ったが、大金を積んで入門した男を師は追い払うことができなかった。そういった諸々の事情やらにうんざりしたカカシは、自ら破門を願い出て放浪の旅に出たのだった。


カカシは傷の付いた木像をしばらく眺めていたが、ふと思い立ったように呟いた。

「おまえ、こうして見ると入鹿魚みたいだね。古事記に出てくる、何だっけ……ほむだわけのみこと、だったかなぁ。あの話の鼻に傷の付いた、あの入鹿魚」

木像のくっきりとした傷を、カカシは指先でそっとなぞっていく。

「今日からおまえは仏ではなく入鹿魚……イルカだ。同じ顔に傷のある者同士、仲良くしよっか」

そして内側から滲み出るような優しい笑みを浮かべると、先ほどとはうってかわって穏やかな顔で彫りを再開した。




次の日、離れに面した中庭でカカシが本堂の仏像を模した物を彫っていると、またしてもナルトが飛び込んできた。

「なぁなぁカカシ兄ちゃん、もう仏像さまは出来たか?」

カカシはつい吹き出して手を休めた。

「そんな一朝一夕で出来るもんじゃないよ。それに仏像さまじゃなくて仏様だ。仏像はあくまで仏様のお姿をうつした物なんだよ」
「へえ~、よく分かんねぇけど、その仏様はこないだのと違うよな。ずいぶんとでっかいし」
「よく見てるねぇ。これはこのお寺の仏像の真似をして彫ってるんだ」

するとナルトは離れに上がり込み、きょろきょろと部屋の中を見回して、道具箱の傍らに置いてあった小さな木像――イルカを手にとった。

「なぁ、こっちがこないだの仏像だろ? あれ、顔に傷付いちまったじゃねぇか」
「あぁそれね、ちょっと手が滑って……」
「じゃあさ、これもういらねぇの? そんなら俺にくれってばよ!」

構わないよ、という言葉は喉の奥に詰まったまま、カカシの口から出ることはなかった。
それどころか、木像がナルトの手の中にあることさえ、なんとなく嫌だった。
単なる傷物の仏像の成り損ないなのに。
カカシは立ち上がって庭の片隅に積んであった柿の枝を一本持ってくると、小刀と共にナルトに渡した。

「おまえにはまだ仏像は早いよ。ほら、これで刀でも作ってみるといい」
「うおっ、やった! よぉし、村一番の刀、ナルト丸を作るぞ!」

カカシはさっそく枝を削り出したナルトを見て微笑むと、放り出された小さな木像を拾い上げ、そっと懐にしまい込んだ。




その夜、部屋の隅に畳んでおいた薄い蒲団を敷こうとして、カカシは懐の木像を思い出した。
取り出してみると、長い時間カカシの体温に触れていたせいか、木像は人肌ほどにも温まっていた。カカシの肌の脂が移ったか、湿度で湿り気が出たのか。心なしか木目も艶を帯びているように見える。

「……それにしてもイルカ、おまえはずいぶんと別嬪さんなんだねぇ」

カカシは木肌を確かめるように、ようやく仏像らしき体裁を取り始めた輪郭を指先で辿っていった。
円みのある頬を撫で、なだらかな肩の線を辿り、粗さの残る腰布を通って未だ木材のままの足元で止まる。

「こうしてると、なんだか指先からイルカが見えるようだ……」

カカシの荒れた中指と薬指の腹が、木像の顔に触れた。
唯一開いたその右目も閉じられ、指先から何かを読み取るかのように、木像の傷を横一線にゆるりと辿っていく。
昼は手拭いに覆われていた顔も、今は全てを行灯のほの灯りに晒していた。その口元が弛んで恍惚の笑みを浮かべたように見えたのは、ゆらめく灯りのせいか。

「……あぁ、イルカ……そこにいたのか」

そう独りごつとカカシは、唐突に傍らの道具箱をガシャガシャと探って小刀を取り出し、木像を彫り始めた。




それからというもの、離れからは木を削る音に混じって、夜な夜なカカシの低い小声が聞こえるようになった。
何かを呟くような――誰かに囁きかけるような。
昼間は本堂で阿弥陀如来像と向かい合って座っていたり、中庭でそれを模した物を彫っているのだが、夜になると……。
寺の小僧などは、恐くて夜は厠に行けないと和尚に泣き付く始末だ。もしや物の怪にでも取り憑かれたかと、和尚は夜半頃に離れの様子を見に行った。
障子越しに「もうし、カカシ殿」と声をかけると、中から聞こえていた囁き声はぴたりと止み、しばらくしてカカシがのそりと出てきた。

「こんな夜更けに……どうなすったんですか和尚殿」

いつも通り茫洋とした喋り方ではあるが、取り憑かれた者特有の陰などは見当たらない。室内にも目を走らせたが、煎餅蒲団が延べられて枕元に小さな木像が置かれているだけで、特に変わったところもなかった。

「いや、遅くまで精が出ますのう。じゃが、あんまり根を詰めすぎると眼も曇り、御仏も宿り難くなりますぞ。程々になされよ」
「お心遣い有り難く……ですが、もう御仏は見つかったのでね。それでは、おやすみなさいまし」
「それは重畳でしたな。邪魔をしてすまなんだ、おやすみなされ」

カカシが軽く頭を下げたその時。衿元に髪が張り付いてるのが、和尚の目に留まった。
長めの、艶やかな黒い髪の毛が、一本。
おなごを連れ込んでるでもなし、きっと寺に出入りする女衆の髪でも紛れたのだろう。
そう判ずると、和尚は自室へと戻った。




それから季節も変わろうかという頃、ようやく農作業の繁忙期を終えたナルトが離れへとやってきた。

「カカシ兄ちゃん、おいらのナルト丸は最強だぜ! って、すっげえ……!」

離れの中には、ナルトの腰ほどの高さの仏像が鎮座していた。
穏やかな、どこか満たされたような表情の仏像に、ナルトは言葉を忘れてぐるぐると仏像の周りを回り見た。
すると濡れた道具類を手拭いで包みながら、カカシが部屋に戻ってきた。

「なぁ、これ出来たんだな! カカシ兄ちゃんすげえってば!」
「まだ入魂してないけど、だいたい出来たよ」

にゅうこんって何だ、というナルトの言葉は飲み込まれてしまった。
振り向いて仰ぎ見たカカシが、どこか違うような気がしたのだ。

「……カカシ兄ちゃん? どうしたんだってばよ」
「どうしたって何が」
「なんか変だ……カカシ兄ちゃんがカカシ兄ちゃんじゃないみたいな、こう、えーと……そうだ! こないだ嫁にいったおこうちゃんみてぇな顔してる!」
「なんだ、女みたいな顔だって言いたいのか? だいたい手拭いで隠れてるのに、女みたいなんて分からないだろ」
「そうじゃないってばよ! そうじゃなくて……」
「畑仕事で疲れてるんじゃないか? 今日は遅いから、もうお帰り、な?」

そう言うとカカシはナルトの背を優しく押した。
障子を閉めながら「ナルト、ありがとな」と右目をなだらかに細めて。



「……カカシ兄ちゃんは、見つけちまったんだな」

閉じられた障子の前で、ナルトは本堂の阿弥陀如来を見ながら小さな小さな声で呟いた。

「木の中にいる仏様じゃない、誰かを」

おこうちゃんは嫁にいくことが決まってから、あんな風に一人でいても二人でいるような顔をしてた。いつも誰かと一緒にいるような、日だまりで丸まる猫みたいな感じの顔。
さっき感じた違和感は、きっとそれだ。
独りぼっちだったナルトと、独りぼっちを選んだカカシ。
だが、もう独りぼっちだったカカシはいない。
ナルトは見たことがないけど、カカシの傍には誰かがいつも一緒にいるんだろう。きっと、これからはずっと。
ナルトはのろのろと中庭に降り立った。

「カカシ兄ちゃん……」

ナルトの呟きが、中庭に忍び寄ってきた夕闇に紛れて溶けていった。




その次の日。
寺からカカシの姿が消えた。
綺麗に掃き清められ、煎餅蒲団が畳まれて片隅に寄せられた部屋の中央には、カカシが彫り上げたと覚しき阿弥陀如来像が置かれていた。
見る者の心に凪と充足をもたらすその仏像は、和尚によって入魂の儀を済ませ、本堂に置かれることとなった。




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(注)作中の古事記の話は中つ巻の「気比大神(けひのおおかみ)と品陀和気命(ほむだわけのみこと)」で、名前を交換する代わりに神様が食糧として(!)目印に鼻に傷の付いた入鹿魚(イルカ)をくれるお話です。
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