【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old
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客用布団を俺のベッドの隣に延べていると、風呂上がりのカカシ先生が部屋に飛び込んできた。
「ちょっと、なんで別々の布団なの?!」
「はぁ? むしろなんで一緒に寝なきゃならんのですか。狭いでしょうが」
「今朝だって一緒にぐうぐう寝てたじゃないの」
「それは……! と、とにかく頭をちゃんと拭いて下さい!」
カカシ先生の髪からポタポタと水滴が落ちてるので、大人げなく反撃に出た。
するとカカシ先生はぷいと横を向いてのたまった。
「イヤですぅ。一緒に寝るって約束するまでは絶対に拭かない」
はあぁぁああああ?!!
どこの駄々っ子だよアンタは! そっちがそういう態度なら、こっちだって相応の態度で返してやる。
俺はカカシ先生の首にヘッドロックをかますと畳に引き倒して、タオルでわしゃわしゃと拭いてやった。
「ちょおぉっ、わわゎっ、何すんのよ!」
「ワガママ言う人にはお仕置きです!」
思いっきり拭いてやったので頭がぐらんぐらん揺れ、カカシ先生の声まで揺れていた。
というか中忍にここまでされるがままって、油断しすぎだろ。
今だってすぐにでも逃げるか、何なら俺を戦闘不能にだって簡単にできたはずだ。だが不思議とそんなことにはならないという確信があった。カカシ先生が望んでるのはたぶん、こういう触れ合いじゃないのかという教師本能で、体が勝手に判断して動いているのだ。でなきゃこんな事なんてできない。
その判断が合ってる証拠に、カカシ先生はおとなしく俺の膝に頭を乗せて拭かれている。
「ねぇイルカ先生、今日も一緒に寝てよ。一生のお願い」
「……いいですよ」
「ホントに?!」
「ホントにです。だからちゃんと頭を乾かして。じゃないと風邪を引きますよ」
「はぁい」
俺はちゃんと約束は守る。
だからそんな簡単に一生のお願いなんか使うなよ。たかが俺と一緒に寝るくらいの事で。
そうして俺とカカシ先生は、狭っくるしいシングルベッドでぎゅうぎゅうと寝た。
昨日と同じような朝を迎えたが、今朝もまじまじとカカシ先生の寝顔を見つめてしまったのは仕方ないだろう。何回見ても、この人が無防備に寝顔を晒してるのが信じられん。しかもやっぱり綺麗だし。まつ毛も銀色なんだなぁ……当たり前だけど。
鼻まで布団に埋もれて寝るのはクセなのか。いつも覆面をしてるから、こうしてると落ち着くのかな。そう考えると、子供みたいで可愛い気もする。
だがこの人は、本来ならこんな所で寝顔を晒すような人じゃないのだ。ほんの一日一緒に過ごしただけで、うっかり身近に感じてしまってたが。
今日解術して本体に統合されたら、俺と過ごした時間を恥と捉えるだろうか。もしかして俺の記憶を消されるかもしれない。
そう思うとカカシ先生を見つめることをやめられなかった。
俺の視線を感じてかカカシ先生が目覚め、おはようと挨拶を交わす。お互いなんとなく沈みがちで、最低限の言葉しか発さなかった。しかもふと気づくと、俺の後をくっついて回っていない。ただ視線で追うだけで。もう気が済んだのか、何かしらの目的が達成されたのか、それとも。
……もう距離を置いて消える準備をし始めているんだろうか。
もしそうなら、その割り切りというか諦めの良さが、なんだか無性に寂しかった。
手も繋がずに三代目の執務室に行くと、本体カカシ先生が待ち構えていた。挨拶もそこそこに「イルカ先生はもう行っていいですよ」と言われてしまう。
確かに俺の出る幕はないだろう。でもなんとなく影分身カカシ先生を見送るつもりでいたので、「え、でも、あの」とかゴニョゴニョ言ってると、三代目からも「ご苦労じゃったな」と言われてしまった。
目の前で扉を閉められる瞬間、隙間から見えたのは、同じような無表情で俺を見る二人の顔だった。
だが今の俺にはハッキリと区別が付くと思ってたのに。
どちらも同じように、強い視線で俺を見るのはなぜなんだろうか……。
その足で職員室に向かうと、俺が一人なのを見定めてからみんながわらわらと寄ってきた。
「おいおい昨日のはいったい何だったんだよ」
「あんなぴったりマークされてさぁ。イルカが監視対象なのかと思ってビビったわ」
「しかもはたけ上忍でしょ?」
みんなの矢継ぎ早な質問には「さあ、よく分からん」で通した。実際、なぜなのかは結局聞けなかったしな。
するとみんなも、下々のもんに上のやることは分からんよなぁ、と納得しながらも、口々に推測を並べ立てて盛り上がっている。
「でも監視してるっていうよりは、なんていうのかな……小さい子供みたいだったわ」
「あー、そうそれ! 子供の後追いみたいだったな」
子供がいる教師陣から賛同の声が上がり、一斉に頷き合っている。
「子供の後追い、って何ですか?」
アカデミーの幼年組の子たちがよく「イルカ先生!」「聞いて先生、あのねあのね」とまとわりついてくる、あれのことか?
「子供っつっても幼児だけどな。文字通り、子供が何時でも何処でも後を追っかけてくるんだよ。ちっこいストーカーだな」
「そうよ~、子供って親の後をべったりとくっついて回る、後追い行動をする時期があるのよ」
「俺がトイレ行っても庭に出ても、ずーっと後を追っかけてきてさ。邪魔だし大変だけど可愛いんだよなぁ」
「うちの子は妹が産まれた時に赤ちゃん返りして……こっちは忙しいからつい怒鳴っちゃったりしてね。あの時は可哀想なことしたわ」
「甘えたいから、構ってほしいから、ああいう風に後追いするって分かってはいるんだけどねぇ」
――甘えたいから。構ってほしいから。
そんな子供じみた理由だったのか?
あのカカシ先生が、というかはたけ上忍が?
とてもじゃないが信じられん。俺が監視対象だったと言われた方が、まだ頷ける。
でも昨日のカカシ先生の行動は、まるっきり子供の後追い行動と同じに思える。それならやっぱり理由も同じではないだろうか。
それにカカシ先生に対しての俺の行動や思ったことも、言われてみれば肩まで風呂に浸かれと叱ったり、頭を拭いてやったりと子供に対するものになっていた。例えば、ナルトみたいな。
そういえば、そもそも影分身カカシ先生が、俺だけに触れたいと思ってたのはなぜだ?
頭の中で様々な思いがぐるぐると渦を巻いたが。
カカシ先生の思惑など俺が考えても分かるはずもなく、チャイムと音に慌てて授業に向かった。
だいたい、理由を知ったからといって、どうするつもりなのか。
いや、それよりも。
――俺はどうしたいんだ?
そのままいつも通りに授業をこなし、午後は受付に座る。
すると交替時間間近になって、カカシ先生が入ってきた。子供たちを先に帰したのか、一人みたいだ。いつもは俺の列に並ぶのに、今日は同僚の列の最後尾に立っている。
本体のカカシ先生と顔を合わせるのは、あれから初めてだった。
――合わせるといっても、頑なにこちらの方を見ないが。
いっそ露骨なくらいに俺を無視するカカシ先生に、腹の底がもやもやとする。突然現れて散々人を振り回しといて、その態度はないんじゃねぇか?
そりゃ平身低頭謝られても困るが、無表情でも一言でも軽く言ってくれれば、俺だって「たいしたことじゃないですよ」と答えられたのに。
だがそんな不器用さに、ふと思い当たる。
あの態度は、そうだ、友だちとケンカした後の子供じゃないか。
どう謝ったらいいか分からなくて、きっかけを見つけられない子供。相手を盛大に無視することで、一番気にかかってると逆にアピールしてしまっている子供。
いつも無表情なカカシ先生の中に、こんな子供みたいなカカシ君が潜んでいたなんて。昨日の影分身カカシ先生と過ごしていなかったら、きっと一生気づかなかっただろう。
今も隣の同僚の前に立つ横顔をじいっと見つめているのに、カカシ先生は相変わらず絶対に俺を見ない。いつもと違って挨拶すらしないカカシ先生に、同僚も不思議がってチラチラと俺を見ている。
とうとう俺の存在をまるっと無視したまま、カカシ先生は受付を済ませて出ていった。
猫背にちょっとだけ、力の入ったまま。
「すまん、あとは頼むぞ」
俺はそう同僚に声をかけると鞄を引っつかみ、カカシ先生の後を追った。
外に出たところで、カカシ先生の丸まった背を発見した。
「カカシ先生、ちょっとカカシ先生」と呼びかけるが、絶対に聞こえてるはずなのに振り向こうとしない。それどころか、歩く足を早めだした。
俺も合わせてスピードを上げるが、五メートルほどの距離は縮まらない。さらに上げても上げても、間はかっきり五メートルのままだ。
だんだん俺もむきになってきて、意地でも歩いて追いついてやる!と必死に足を動かした。
だってカカシ先生が本気で逃げてない。
その気になればすぐにでも姿を消せるのに、俺に背を見せつけたまま逃げている。この五メートルは、捕まえてほしいけど捕まえてほしくない、迷いの距離だ。
それなら俺から手を伸ばしてやるよ。
このまま土煙を上げて競歩レースを続けていても埒が明かないので、俺は足を止めて大きく息を吸い込んだ。
そして口の両脇を手でメガホンのように囲うと、アカデミー教師の誇る自慢の大声で叫んだ。
「カカシ先生のパンツの柄は! いちごふぐっ」
カカシ先生のパンツの柄が『いちごふぐ』だった訳ではない。
一瞬で俺の後ろを取ったカカシ先生に、口を手で塞がれ狭い路地に連れ込まれたのだ。
「……いい加減なこと言わないでよね」
平坦な中に苛立ちの混じる低い声。
見えなくても分かる。顔はまだ無表情なままだろう。
だが俺はその奥にいる、やんちゃで我儘で、寂しがりやのカカシ先生に会いたかった。
影分身は本体の性格が丸ごとコピーされる訳ではない。
十人出せば、各々微妙に違う部分が抽出されたカカシ先生が現れるのだ。
これは俺の想像だが――絡まった術のおかげで、子供っぽさに特化したカカシ先生の性格が、影分身に反映されてしまったのではないだろうか。三代目もこの影分身はカカシ先生に間違いないと言ってたから、変な影響や混ざり物もなかったはず。
つまりはあの影分身カカシ先生も、カカシ先生の立派な一部分なのだ。恐らくは遠い昔に封印してしまった、というか封印せざるを得なかった、カカシ先生の子供の部分。
そしてナルトが徐々にではあるが仲間として受け入れられている今、俺の手はぽっかりと空いていた。
その手に握りたくなってしまったのだ。
俺の口を塞いでいる白くて綺麗で繊細な、木の葉で最も優秀だと言われている男の大きな手を。
俺の手をずっと離そうとしなかった、この手を。
たいして本気でもない抑え方だったカカシ先生の手を、口からそっと外す。そして至近距離でふり返った。
やっぱりカカシ先生は無表情のままだ。
俺はにかっと笑いかけると、無遠慮に問いかけた。
「このあとお暇ですか? お時間があるなら買い物に付き合って頂きたいんです」
「……なんで俺が?」
「お忘れですか? 約束したからです」
カカシ先生の無表情に凪いだ眼が、初めて揺らいだ。
「覚えがない」
「そうですか。貴方ほどの優秀な頭脳をお持ちの方が仰るなら、そうなんでしょうね。では、ナルトとでも一緒に行くことに……」
「それはダメ! イルカ柄の茶碗は俺が選ぶ!」
……やっぱり覚えてるんじゃないか。
気まずい沈黙が、カカシ先生の方からじわじわと押し寄せてくる。
「…………た」
「え? なんですか」
「一生のお願いなんて言葉、初めて使った」
ああ、一緒に寝たいと駄々をこねてた時のことか。
俺よりほんの少し高い位置から見つめている右目を、しっかりと見返して答えた。
「一生のお願いは、実は一生に何度も使えるんですよ」
「えっ、そうなの?」
「ええ。子供のうちだけですが」
「そう……」
「でも特別に、カカシ先生にはこれから何度か使える権利を与えましょう」
「……なんでイルカ先生にそんな権限が?」
「アカデミー教師だからです」
ふはっとカカシ先生が軽く吹いた。
眉尻が下がり、顔つきが影分身カカシ先生に近くなる。
「さあ行きましょう。ついでに今日は水曜なので、スーパー木の葉でジャガイモの詰め放題もお願いしますよ。上忍の華麗な技を見せて頂きましょう」
「それ上忍は関係なくない?」
「何を言ってるんですか。日常生活に活かしてこその忍術ですよ」
「それ忍術は関係なくない?」
「忍たる者、いつ如何なる時でも忍たれ、です」
「……屁理屈」
「じゃあ生活の知恵と言って下さい」
俺はカカシ先生の手をとって、ぐいぐいと引っ張って歩いた。
カカシ先生が小さく「敵わないなぁ」と呟いた。
最初に俺の手を掴んで離さなかったのはそっちじゃないか。お望み通り手を握ってやってるんだから文句を言うな。
とりあえず今日の夕飯はジャガイモの何かで決まりだ。
「ジャガイモ、ジャガイモ。う~ん……よし、今日はカレーにしましょう」
「しましょうって、俺も?」
「当然です。戦利品を積み上げて満足感に浸ったら、皮むきもお願いしますよ」
任務ではやらないんだが、日常ではわりと詰めが甘い自分のことを、思惑通りにいって浮かれてた俺は忘れていた。
カレーでは選んでもらったイルカ柄の茶碗を使えないことに、この時の俺はまだ気づいていなかった。
――カカシ先生のは子供の後追い行動なんかではなく、恋愛感情からくるものだったってことにも。
それに気づくのは、もっと後。
カカシ先生がうちに入り浸るようになって、影分身カカシ先生とは全然違う素顔を晒した時だった。
子供っぽいどころか、フェロモン駄々漏れの破壊的攻撃力を持った素顔に、俺が全面降伏しちまったのは不可抗力だろう?
まあ、小難しいこと言ってるが要するにその……あれだ。
そういうことだ!
そんな訳で、今日も俺はカカシ先生と一緒にいる。
明日も、あさっても、その先も。
ずっと手を繋いで、一緒にいるんだ。
【完】
「ちょっと、なんで別々の布団なの?!」
「はぁ? むしろなんで一緒に寝なきゃならんのですか。狭いでしょうが」
「今朝だって一緒にぐうぐう寝てたじゃないの」
「それは……! と、とにかく頭をちゃんと拭いて下さい!」
カカシ先生の髪からポタポタと水滴が落ちてるので、大人げなく反撃に出た。
するとカカシ先生はぷいと横を向いてのたまった。
「イヤですぅ。一緒に寝るって約束するまでは絶対に拭かない」
はあぁぁああああ?!!
どこの駄々っ子だよアンタは! そっちがそういう態度なら、こっちだって相応の態度で返してやる。
俺はカカシ先生の首にヘッドロックをかますと畳に引き倒して、タオルでわしゃわしゃと拭いてやった。
「ちょおぉっ、わわゎっ、何すんのよ!」
「ワガママ言う人にはお仕置きです!」
思いっきり拭いてやったので頭がぐらんぐらん揺れ、カカシ先生の声まで揺れていた。
というか中忍にここまでされるがままって、油断しすぎだろ。
今だってすぐにでも逃げるか、何なら俺を戦闘不能にだって簡単にできたはずだ。だが不思議とそんなことにはならないという確信があった。カカシ先生が望んでるのはたぶん、こういう触れ合いじゃないのかという教師本能で、体が勝手に判断して動いているのだ。でなきゃこんな事なんてできない。
その判断が合ってる証拠に、カカシ先生はおとなしく俺の膝に頭を乗せて拭かれている。
「ねぇイルカ先生、今日も一緒に寝てよ。一生のお願い」
「……いいですよ」
「ホントに?!」
「ホントにです。だからちゃんと頭を乾かして。じゃないと風邪を引きますよ」
「はぁい」
俺はちゃんと約束は守る。
だからそんな簡単に一生のお願いなんか使うなよ。たかが俺と一緒に寝るくらいの事で。
そうして俺とカカシ先生は、狭っくるしいシングルベッドでぎゅうぎゅうと寝た。
昨日と同じような朝を迎えたが、今朝もまじまじとカカシ先生の寝顔を見つめてしまったのは仕方ないだろう。何回見ても、この人が無防備に寝顔を晒してるのが信じられん。しかもやっぱり綺麗だし。まつ毛も銀色なんだなぁ……当たり前だけど。
鼻まで布団に埋もれて寝るのはクセなのか。いつも覆面をしてるから、こうしてると落ち着くのかな。そう考えると、子供みたいで可愛い気もする。
だがこの人は、本来ならこんな所で寝顔を晒すような人じゃないのだ。ほんの一日一緒に過ごしただけで、うっかり身近に感じてしまってたが。
今日解術して本体に統合されたら、俺と過ごした時間を恥と捉えるだろうか。もしかして俺の記憶を消されるかもしれない。
そう思うとカカシ先生を見つめることをやめられなかった。
俺の視線を感じてかカカシ先生が目覚め、おはようと挨拶を交わす。お互いなんとなく沈みがちで、最低限の言葉しか発さなかった。しかもふと気づくと、俺の後をくっついて回っていない。ただ視線で追うだけで。もう気が済んだのか、何かしらの目的が達成されたのか、それとも。
……もう距離を置いて消える準備をし始めているんだろうか。
もしそうなら、その割り切りというか諦めの良さが、なんだか無性に寂しかった。
手も繋がずに三代目の執務室に行くと、本体カカシ先生が待ち構えていた。挨拶もそこそこに「イルカ先生はもう行っていいですよ」と言われてしまう。
確かに俺の出る幕はないだろう。でもなんとなく影分身カカシ先生を見送るつもりでいたので、「え、でも、あの」とかゴニョゴニョ言ってると、三代目からも「ご苦労じゃったな」と言われてしまった。
目の前で扉を閉められる瞬間、隙間から見えたのは、同じような無表情で俺を見る二人の顔だった。
だが今の俺にはハッキリと区別が付くと思ってたのに。
どちらも同じように、強い視線で俺を見るのはなぜなんだろうか……。
その足で職員室に向かうと、俺が一人なのを見定めてからみんながわらわらと寄ってきた。
「おいおい昨日のはいったい何だったんだよ」
「あんなぴったりマークされてさぁ。イルカが監視対象なのかと思ってビビったわ」
「しかもはたけ上忍でしょ?」
みんなの矢継ぎ早な質問には「さあ、よく分からん」で通した。実際、なぜなのかは結局聞けなかったしな。
するとみんなも、下々のもんに上のやることは分からんよなぁ、と納得しながらも、口々に推測を並べ立てて盛り上がっている。
「でも監視してるっていうよりは、なんていうのかな……小さい子供みたいだったわ」
「あー、そうそれ! 子供の後追いみたいだったな」
子供がいる教師陣から賛同の声が上がり、一斉に頷き合っている。
「子供の後追い、って何ですか?」
アカデミーの幼年組の子たちがよく「イルカ先生!」「聞いて先生、あのねあのね」とまとわりついてくる、あれのことか?
「子供っつっても幼児だけどな。文字通り、子供が何時でも何処でも後を追っかけてくるんだよ。ちっこいストーカーだな」
「そうよ~、子供って親の後をべったりとくっついて回る、後追い行動をする時期があるのよ」
「俺がトイレ行っても庭に出ても、ずーっと後を追っかけてきてさ。邪魔だし大変だけど可愛いんだよなぁ」
「うちの子は妹が産まれた時に赤ちゃん返りして……こっちは忙しいからつい怒鳴っちゃったりしてね。あの時は可哀想なことしたわ」
「甘えたいから、構ってほしいから、ああいう風に後追いするって分かってはいるんだけどねぇ」
――甘えたいから。構ってほしいから。
そんな子供じみた理由だったのか?
あのカカシ先生が、というかはたけ上忍が?
とてもじゃないが信じられん。俺が監視対象だったと言われた方が、まだ頷ける。
でも昨日のカカシ先生の行動は、まるっきり子供の後追い行動と同じに思える。それならやっぱり理由も同じではないだろうか。
それにカカシ先生に対しての俺の行動や思ったことも、言われてみれば肩まで風呂に浸かれと叱ったり、頭を拭いてやったりと子供に対するものになっていた。例えば、ナルトみたいな。
そういえば、そもそも影分身カカシ先生が、俺だけに触れたいと思ってたのはなぜだ?
頭の中で様々な思いがぐるぐると渦を巻いたが。
カカシ先生の思惑など俺が考えても分かるはずもなく、チャイムと音に慌てて授業に向かった。
だいたい、理由を知ったからといって、どうするつもりなのか。
いや、それよりも。
――俺はどうしたいんだ?
そのままいつも通りに授業をこなし、午後は受付に座る。
すると交替時間間近になって、カカシ先生が入ってきた。子供たちを先に帰したのか、一人みたいだ。いつもは俺の列に並ぶのに、今日は同僚の列の最後尾に立っている。
本体のカカシ先生と顔を合わせるのは、あれから初めてだった。
――合わせるといっても、頑なにこちらの方を見ないが。
いっそ露骨なくらいに俺を無視するカカシ先生に、腹の底がもやもやとする。突然現れて散々人を振り回しといて、その態度はないんじゃねぇか?
そりゃ平身低頭謝られても困るが、無表情でも一言でも軽く言ってくれれば、俺だって「たいしたことじゃないですよ」と答えられたのに。
だがそんな不器用さに、ふと思い当たる。
あの態度は、そうだ、友だちとケンカした後の子供じゃないか。
どう謝ったらいいか分からなくて、きっかけを見つけられない子供。相手を盛大に無視することで、一番気にかかってると逆にアピールしてしまっている子供。
いつも無表情なカカシ先生の中に、こんな子供みたいなカカシ君が潜んでいたなんて。昨日の影分身カカシ先生と過ごしていなかったら、きっと一生気づかなかっただろう。
今も隣の同僚の前に立つ横顔をじいっと見つめているのに、カカシ先生は相変わらず絶対に俺を見ない。いつもと違って挨拶すらしないカカシ先生に、同僚も不思議がってチラチラと俺を見ている。
とうとう俺の存在をまるっと無視したまま、カカシ先生は受付を済ませて出ていった。
猫背にちょっとだけ、力の入ったまま。
「すまん、あとは頼むぞ」
俺はそう同僚に声をかけると鞄を引っつかみ、カカシ先生の後を追った。
外に出たところで、カカシ先生の丸まった背を発見した。
「カカシ先生、ちょっとカカシ先生」と呼びかけるが、絶対に聞こえてるはずなのに振り向こうとしない。それどころか、歩く足を早めだした。
俺も合わせてスピードを上げるが、五メートルほどの距離は縮まらない。さらに上げても上げても、間はかっきり五メートルのままだ。
だんだん俺もむきになってきて、意地でも歩いて追いついてやる!と必死に足を動かした。
だってカカシ先生が本気で逃げてない。
その気になればすぐにでも姿を消せるのに、俺に背を見せつけたまま逃げている。この五メートルは、捕まえてほしいけど捕まえてほしくない、迷いの距離だ。
それなら俺から手を伸ばしてやるよ。
このまま土煙を上げて競歩レースを続けていても埒が明かないので、俺は足を止めて大きく息を吸い込んだ。
そして口の両脇を手でメガホンのように囲うと、アカデミー教師の誇る自慢の大声で叫んだ。
「カカシ先生のパンツの柄は! いちごふぐっ」
カカシ先生のパンツの柄が『いちごふぐ』だった訳ではない。
一瞬で俺の後ろを取ったカカシ先生に、口を手で塞がれ狭い路地に連れ込まれたのだ。
「……いい加減なこと言わないでよね」
平坦な中に苛立ちの混じる低い声。
見えなくても分かる。顔はまだ無表情なままだろう。
だが俺はその奥にいる、やんちゃで我儘で、寂しがりやのカカシ先生に会いたかった。
影分身は本体の性格が丸ごとコピーされる訳ではない。
十人出せば、各々微妙に違う部分が抽出されたカカシ先生が現れるのだ。
これは俺の想像だが――絡まった術のおかげで、子供っぽさに特化したカカシ先生の性格が、影分身に反映されてしまったのではないだろうか。三代目もこの影分身はカカシ先生に間違いないと言ってたから、変な影響や混ざり物もなかったはず。
つまりはあの影分身カカシ先生も、カカシ先生の立派な一部分なのだ。恐らくは遠い昔に封印してしまった、というか封印せざるを得なかった、カカシ先生の子供の部分。
そしてナルトが徐々にではあるが仲間として受け入れられている今、俺の手はぽっかりと空いていた。
その手に握りたくなってしまったのだ。
俺の口を塞いでいる白くて綺麗で繊細な、木の葉で最も優秀だと言われている男の大きな手を。
俺の手をずっと離そうとしなかった、この手を。
たいして本気でもない抑え方だったカカシ先生の手を、口からそっと外す。そして至近距離でふり返った。
やっぱりカカシ先生は無表情のままだ。
俺はにかっと笑いかけると、無遠慮に問いかけた。
「このあとお暇ですか? お時間があるなら買い物に付き合って頂きたいんです」
「……なんで俺が?」
「お忘れですか? 約束したからです」
カカシ先生の無表情に凪いだ眼が、初めて揺らいだ。
「覚えがない」
「そうですか。貴方ほどの優秀な頭脳をお持ちの方が仰るなら、そうなんでしょうね。では、ナルトとでも一緒に行くことに……」
「それはダメ! イルカ柄の茶碗は俺が選ぶ!」
……やっぱり覚えてるんじゃないか。
気まずい沈黙が、カカシ先生の方からじわじわと押し寄せてくる。
「…………た」
「え? なんですか」
「一生のお願いなんて言葉、初めて使った」
ああ、一緒に寝たいと駄々をこねてた時のことか。
俺よりほんの少し高い位置から見つめている右目を、しっかりと見返して答えた。
「一生のお願いは、実は一生に何度も使えるんですよ」
「えっ、そうなの?」
「ええ。子供のうちだけですが」
「そう……」
「でも特別に、カカシ先生にはこれから何度か使える権利を与えましょう」
「……なんでイルカ先生にそんな権限が?」
「アカデミー教師だからです」
ふはっとカカシ先生が軽く吹いた。
眉尻が下がり、顔つきが影分身カカシ先生に近くなる。
「さあ行きましょう。ついでに今日は水曜なので、スーパー木の葉でジャガイモの詰め放題もお願いしますよ。上忍の華麗な技を見せて頂きましょう」
「それ上忍は関係なくない?」
「何を言ってるんですか。日常生活に活かしてこその忍術ですよ」
「それ忍術は関係なくない?」
「忍たる者、いつ如何なる時でも忍たれ、です」
「……屁理屈」
「じゃあ生活の知恵と言って下さい」
俺はカカシ先生の手をとって、ぐいぐいと引っ張って歩いた。
カカシ先生が小さく「敵わないなぁ」と呟いた。
最初に俺の手を掴んで離さなかったのはそっちじゃないか。お望み通り手を握ってやってるんだから文句を言うな。
とりあえず今日の夕飯はジャガイモの何かで決まりだ。
「ジャガイモ、ジャガイモ。う~ん……よし、今日はカレーにしましょう」
「しましょうって、俺も?」
「当然です。戦利品を積み上げて満足感に浸ったら、皮むきもお願いしますよ」
任務ではやらないんだが、日常ではわりと詰めが甘い自分のことを、思惑通りにいって浮かれてた俺は忘れていた。
カレーでは選んでもらったイルカ柄の茶碗を使えないことに、この時の俺はまだ気づいていなかった。
――カカシ先生のは子供の後追い行動なんかではなく、恋愛感情からくるものだったってことにも。
それに気づくのは、もっと後。
カカシ先生がうちに入り浸るようになって、影分身カカシ先生とは全然違う素顔を晒した時だった。
子供っぽいどころか、フェロモン駄々漏れの破壊的攻撃力を持った素顔に、俺が全面降伏しちまったのは不可抗力だろう?
まあ、小難しいこと言ってるが要するにその……あれだ。
そういうことだ!
そんな訳で、今日も俺はカカシ先生と一緒にいる。
明日も、あさっても、その先も。
ずっと手を繋いで、一緒にいるんだ。
【完】
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