【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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イルカの朝は遅い。
別に怠惰な生活をしてる訳ではなく、塾講師という職業柄どうしても夜が遅くなってしまうので、必然的に朝も遅くなるのだ。
すっかり明るくなった寝室の窓をガラガラと開けると、隣の猿飛屋敷の庭が見下ろせる。
屋敷の周囲には目隠しを兼ねた松や石榴や柿の木、その合間を埋めるようにツツジなど多種多様な樹木が植えられていた。だがイルカの住まう二階の部屋からは、庭の様子は丸見えだ。
その庭の紫陽花の向こうには和服姿の老人が佇んでいる。彼は紫陽花を愛でていたようだったが、窓を開ける派手な音に気づいたのか、顔を上げると目尻の皺を深めて人好きのする笑みを浮かべた。
「イルカよ、今起きたのか?」
「おはようじっちゃん! え~と、だいぶ前だよ」
「嘘じゃな。ほれ、また鼻傷を掻いておるぞ」
イルカは無意識に鼻梁を横切る傷痕を掻いていた手を、ぱっと下ろしてニヘヘと笑った。
そんな様子を見て、老人は呆れたように片眉を上げる。
「ほんにお主は幾つになっても……まあよい。そうじゃイルカ、お主に頼みがあるんじゃが」
「頼み? いいけど何?」
子供の頃から両親を交えて親しくしていた老人――猿飛屋敷の三代目当主ヒルゼンに、イルカは遠慮のない口調で訊ねる。
ヒルゼンはイルカの勤める「木の葉塾」の塾長でもある。その頼み事も恐らく塾関連のことだろうと、イルカは気軽に頷いた。
すると日ごろ闊達なヒルゼンは珍しく口籠り、俯いてううむと唸ってから顔を上げる。
「今日も塾に行くのじゃろ。詳しいことはアンコが知っとるからの、儂から頼まれたと言ってあっちで聞いておくれ。それじゃ頼んだぞ」
そう言うとヒルゼンは、「まったくアイツは突然……師匠に似て……たぶんイルカなら……」などとブツブツ言いながら屋敷の方へと戻ってしまった。
ヒルゼンの不審な様子に、イルカは首をひねりながら窓を閉めた。
それから窓際にあるリサイクルショップで買った箪笥の上の両親の位牌に、手を合わせながら心の中で話しかける。
個人塾を経営していた両親は、イルカが子供の頃事故で他界していた。
まだ十歳だったイルカは、高校を卒業するまでじっちゃんの家――猿飛屋敷で世話になっていたのだ。位牌の両親との会話は、その頃からの習慣だった。
(おはよう、父ちゃん母ちゃん。頼みって何だと思う? ……じっちゃんがあんなにしかめっ面をするんだから、きっとめんどくさい事だろうな。でもまぁ、じっちゃんに頼まれちゃしょうがないよな。だろ? 手のかかる子供かなぁ。それなら将来父ちゃんたちみたいな塾を開く時に、いい経験値になるもんな……よし、じゃあ今日も行ってきます!)
頼み事があるなら今日は早めに出ようと、イルカは手早く支度を済ませた。
イルカの住むアパートは、名前からして古めかしい『木の葉荘』だ。
がたつく玄関の扉を閉めて鍵をかけ、錆び付いた外階段を駆け下りるとイルカはドルフィン号に跨がる。ドルフィン号は前にカゴの付いた水色の車体のいわゆるママチャリで、高校に通学していた時からの愛車だ。
斜め掛けの帆布鞄を後ろに回してペダルを踏み込むと、猿飛屋敷の前を走り抜ける。道に張り出した枇杷の枝の、鈴なりに生った実はもう食べ頃だろう。
ヒルゼンは近隣の子供が自由に取って(盗って)食べるのを、楽しみつつ黙認していた。「こうすれば果物の旬を体感として覚えるじゃろ」と笑いながら。
季節毎の果物を、敷地の中からも外からももいで食べていた子供の頃を思い出し、イルカは微笑んだ。
住宅街を抜けて駅前の一角にある木の葉塾に到着すると、イルカはドルフィン号を駐輪場に停めて建物に入った。
夏期講習のお知らせや各学年の教科ごとの時間割がベタベタと貼られたロビー兼受付を通りすぎ、開けっぱなしの扉からチュータールームに足を踏み入れる。
「おはようございます!」
「おふぁお~、ひょうはふぁやいね」
既に出勤していた事務員のアンコが、ソファーで大福を頬張りながら挨拶を返してきた。
昼前のこの時間帯は、生徒はもちろん講師もまだ出勤していない。イルカは自分の机に鞄からテキストを出しながら、アンコに訊ねた。
「今朝ヒルゼン塾長から言われたんですけど、何か俺に頼み事があるんですよね?」
アンコは大福をお茶で流し込むと、イルカをまじまじと見た。
「ああ、あれね。イルカがやることになったの?」
「お前がやってくれって頼まれたんですけど、やけに言い辛そうだったなぁ。何か面倒なことなんですか?」
「あ、そっか、イルカはアイツを知らないのね。あたしの二個下だもんな……う~ん、まぁ、面倒っちゃ面倒だわ」
それからニンマリと笑うと、「甘栗甘の鯛焼き五個」と右手を突き出してきた。その『アイツ』の情報料ということだろう。もうすぐ昼だというのに、アンコは昼食も甘味で済ませるのかとイルカは苦笑しながら頷く。
「俺も甘栗甘で天むすにしようかなぁ。あとで買いに行きますから、先に情報をお願いしますよ」
「イルカなら信用できるからいいよ。とりあえず塾長からの頼み事から説明するけどね……」
アンコが二つ目の(もしかしたら三つ目かもしれない)大福を手にしながら教えてくれたのは、昨日突然ヒルゼンに直接連絡がきたという、木の葉塾を取材させてほしいという小説家からの依頼のことだった。
甘栗甘でイルカは結局天むすを買えなかった。
思ったよりアンコの話が長引いたのと、その小説家の著作本を本屋で流し読みしてたので、人気の天むすは売り切れてしまったのだ。
慌てて買った鯛焼きをアンコに渡し、自分用の五目いなり弁当を食べながら午後の授業のノートを確認する。
だが心はどうしてもその小説家――畠カカシのことへと流れてしまう。
畠のカカシなんてふざけたペンネームだが、歴としたミステリ作家だった。
重厚な本格派ではなく、いういわゆるコージーミステリになるのだろうか。ちょっとした隙間時間に気軽に読める、推理も恋愛も少々のお色気もという娯楽小説は、イルカには縁のない物だった。
文庫本のカバーのそでには著者略歴があったが、ごく簡単にしか記されてないし、著者近影など遠くからの後ろ姿だ。しかも逆光。
アンコから聞いたところによると、地元蒜山町の出身で学年が四つ上だが、なんとイルカとも同じ中学の先輩だったという。
ベストセラー作家ではないが知る人ぞ知る地元の有名人で、現在は隣町のタワーマンションに住んで執筆に専念しているはずだが、最近はあまり見かけないらしい。
ヒルゼンの息子で同じ塾講師のアスマとも交流が深かったから、その伝手で今回の取材の話がきたのだが。
「あんなエロ小説紛いのミステリ書いてるくせに、うちを取材させてくれなんて……いったい何考えてるんだか。どうせ女教師ものでも書くのに木の葉小学校辺りで断られて、うちにお鉢が回ってきたんじゃないの。とにかく生徒が浮わつかないよう、目立たないように適当にやっといて」
とアンコは話を締め括ったが。
アスマ兄ちゃんの友達だからって、そんな怪しい人物を子供たちに近付けていいものだろうか。
アンコがエロ小説紛いと言い放ったミステリは、本屋では危なくてきちんと読めなかった。主に鼻血的な方面が心配で。
その畠カカシとやらは、午後の授業時間の前に簡単な打ち合わせをしてから、塾内の見学をすることになっているという。
(手のかかる子供の方がましだったなぁ……)
イルカは壁の時計を見上げてため息をついた。
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