【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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÷÷÷÷÷ 3.mogoさん ÷÷÷÷÷
競技開始3秒後。
ズデーーーーーン!!
『おーっと、カカシ、イルカ両選手、開始早々まさかの大転倒です! これはどうしたことでしょう!』
実況中継担当のコテツの声が辺りに響きわたり、広場はどよめきに包まれた。
「いたたたっ! イルカ先生っ、アンタ怪我はっ!?」
「クッ! 大丈夫ですっ。カカシ先生は?」
「大丈夫に決まっているじゃありませんか。ったく何やってんです。(アンタが)怪我でもしたらっ! どうするつもりだったんですか」
「申し訳ありません。里の誉れの身体に傷をつけるところでした」
「何それ嫌味!? (俺じゃなくて自分の心配をしろってんです!)」
里が誇る上忍と、アカデミー最強教師のまさかの転倒。からの~ 口喧嘩に、実行委員もギャラリーも皆、顔面蒼白である。
イルカも何故か顔面蒼白である。
空気を求めて水面にあがってきた金魚のように口をパクパクさせながら、必死に言葉を紡いでいる。
「お、俺はっ。こんなことっ、もう出来ません」
「それはこっちのセリフです。俺だって、アンタ相手にこんなことやってられませんよッ」
一枚の手拭であの人に繋がれた足。
布越しに触れる愛し人の肌の感覚に、伝わるその温みに、どうしようもなく心がざわめいて。
間近に感じる吐息さえ、全て我がものにと望んでしまう。
―――― って、やベッ! 浸ってる場合じゃねェ! 俺、昨夜、一楽でニンニクラーメン食っちまった!!――
――っとぉっ、やばいッ! このままじゃぁ、俺はイルカ先生の唇を奪ってしまうっ!!
ふと、我に返り、互いに明後日の方向に全力で駆けるカカシとイルカ。
これが大転倒の真相である。
『さーぁ大変です。優勝第一候補のカカシ、イルカペア、まさかの転倒。そしてまさかの最下位です。先頭はガイ猫面ペア、次にアスマ紅ペアと続きます!』
コテツの実況でイルカが我に返り、素早く立ち上がって浴衣の裾を帯に挟み込んだ。
「カカシさん、とにかく行きますよ!! 一楽の回数券がかかっているんです!!」
「ちょっ!? イルカ先生ぇ?」
浴衣を絡げたことによって、筋肉に覆われた形の良いイルカの脚が、未だ地に伏せったままのカカシの目前に迫っていた。
視線を上にあげれば、普段太陽の下に晒されることがないためか、ほの白くなめらかな質感のイルカの両腿が視界に飛び込んでくる。
その魅惑的な両腿の間に垂れ下がる、真白(ましろ)の布。
―――― あっ……あぁっ……! こ、これはパ、パンツじゃない!? まさかの、フンドシ!! 男のロマン、男性下着の王様、フンドシじゃないかっ…… 夢にまで見た……い、イルカ先生のッ――――
「イルフンっ!!」
ブふぉオオオオオー!!!
その瞬間、カカシの鼻から大量の血液が吹き出し、あたりを真紅に染め上げた。
「ぎぃやぁああああ!!! か、カカシさんっ、どうしたんですかっ!! 大丈夫ですかっ!? イルフンってなんですっ!? ちょっと救護班来てくださいッ」
「い、いや、やめて。救護班いらない。イルカ先生、どうかこのまま俺を引き摺って走っていって。怪我しないよう、チャクラで背中を防御しますから」
「そんなっ、だってこんなに出血して!」
「大丈夫ですっ。こんなチャンスめったに、いえ、今を逃せば一生ありません!」
「カカシさん、そんなに……この競技、優勝したいんですね。立ちあがる暇も惜しむなんて」
「いえ、も、もうスゴク俺は勃ち上がってますッ!!!(小声)」
「は? 声が小さくて聞こえません!」
「いえ! 何でもないです。イルカ先生、全力でお願いしますっ(大声)」
「分かりました。この、うみのイルカ、全力で走ります!」
力強く地を蹴り、イルカが駆け出す。
生じる風が、イルカの髪を、浴衣の袖を、裾を、純白のフンドシをはためかせて。
「あ……あぁあ……っ。生きててよかった、イルフン~」
カカシは今、幸福の只中にあった。
『おぉーっとぉ、イルカ選手カカシ選手をひきずったまま、走り出しました。これは予想外の展開です。早いッ! 早いッ!
さすがアカデミー最強を誇る、うみのイルカ選手。素晴らしいスピードです。ゲンマペアを早くも追い越し、イビキアンコペアに迫る勢いです。
抜いたぁーっ。
引きずられるカカシ選手は、イルカ選手から目を離しません。そして何故かとても幸せそうだーっ。
さぁ、ついにカカイルペア、第一の関門、借り物競争スペースに堂々の2位で到着しましたっ。1位はアスマ紅ペアです』
「カカシさん、立てますか?」
「もちろんです! 眼福でした」
「はぁ~? 何言っているんです。それより、俺たちのお題はこれですよ」
「何々? 【惚れた相手が喜びそうなもの?】 お題としては中途半端じゃないですか?」
中途半端。
実はそれこそが、実行委員達が知恵を出し合い仕掛けた、ラブラブ大作戦の胆なのである!
彼らの予想はこうだ。
*******************************************************************
イ「惚れた相手って言っても、俺とカカシさんの惚れた相手は違いますよね。ってことは2個いるってことですかね?」
カ「いや、どっちか手に入れやすいほうでいいんじゃないですか? で、イルカ先生は何を貰ったら喜ぶんです?」
イ「そりゃぁ米ですかね。給料日前ですし。ってぇえ!? どうして俺に聞くんです!?」
カ「だって、ねぇ? 俺が惚れた相手、今のでもぅ分かったでしょ?」
イ「えっ!?えぇええ? お、俺ですか? 嬉しいです。じ、じ、じゃぁ、お、俺もカカシさんの喜ぶもの知りたいです!」
カ「えっ」
イカ「「ひょっとして……俺たちって、両想いだったんですか!?」
全員『しゃーなろっ、やっとわかったかーっ、メルヘンゲットー!!』
********************************************************************
そんなこんなで、全員が期待に固唾を飲み二人の様子を見守っていた。
起ち上がってイルカを正面から見据えたカカシは、面食らった。
下からのアングルで見なくても、膝頭を露わにしたイルカは色香に満ちていて。
腿の間から流れ落ちる汗に、如何わしい体液を連想し、どうしようもなく欲情してしまう。
「イルカ先生、何て恰好をしてるんです! あまりに破廉恥ですッ!」
「すみません。確かに流石の俺もちょっと恥ずかしいです。浴衣で来るんじゃなかったなぁ」
「チッ」
カカシの舌打ちにイルカは傷ついたが、しかし、カカシの本心はこうである。
―― 先生の艶姿に鼻を伸ばしてる奴ら、全員雷切ってやりたいね。それから、イルカ先生が喜びそうなものがわかりました。俺はソレをゲットしてみせるっ!――-
カカシは素早くあたりを見回した。そして目的のものを発見する。
身のこなしは素早く、おそらくは火影以外はカカシの動きを追えたものはいなかっただろう。
「きゃぁあああっ」
何の前触れもなく、絹を裂くような女の悲鳴が広場に響き渡った。
「あっ、いやっ、何するのっ」
イヤイヤと首を振るその動きにつられて、長く艶やかな黒髪が空に舞う。
羞恥に頬を赤らめ、潤んだ眼で助けを求めるのは、夕日紅、その人であった。
紅の前に膝立ちをした男が、紅の腰に手をかけている。既にズボンのボタンは外されチャックが降ろされていた。
「いやぁ……アスマッ」
掠れたその声は、聞く者に閨での声と錯覚させるほどに艶やかで。
「アスマっ、助けてっ」
その言葉に、ようやくアスマが我に返った。
「テメェっ! このバカカシっ。俺の女に何しやがる!!」
「アホ熊、黙ってみてなさいよ! 紅(のズボン)は俺のものなんだからっ」
この言葉はイルカの心を深く抉った。そして……。
――そうか。カカシ先生が好きなのは紅さんだったのか。俺はついに失恋したんだな。でも落ち込む必要はないぞ、イルカ!! 一生カカシ先生に影から尽くすって、ずっと前から決めてるだろっ! でも……正直、カカシ先生が紅さんを求める声を聴くのはキツイな――
と、まぁ、盛大に誤解しているのであった。
「いやぁあ……っ」
今にも引き摺り降ろされようとするズボンを、紅は必死で掴んでいた。
しかし、力でカカシに敵うわけもなく、ジリジリと下げられていく。
形のよい臍が露わになり、その下の黒の豪奢なレースが衆目に晒されたとき、強大なチャクラの爆発と共に、カカシの躰が吹き飛ばされた。
「ってぇ……。何すんだアスマ! ことと次第によっちゃぁただでは済まさないよ?」
「そりゃぁこっちのセリフってもんよ。いいか、カカシ。紅には指一本触れさせネェ」
「うっさいよ。あれ(=ズボン)は俺のもんだ」
アスマのこめかみには幾筋もの血管が浮いている。
「上等だ。紅がどっちのモンかハッキリさせようじゃネェか」
ぶわり。
とアスマの全身から殺気が立ち上がる。
「いいねぇ。手加減なんてしてやらないから、死なないように気をつけなさいよ」
カカシも身の内の怒りを殺気に変えて放出する。
二人の殺気に当てられて、一般人が次々と気を失っていくのを見て、実行委員の下忍たちが一般人の避難に向け動き始めた。
『おっと、これは大変なことが起きてしまいました。猿飛アスマと写輪眼のカカシ。里の誇る上忍二人が夕日紅をめぐって死闘を繰り広げようとしています。どうしてこんなことになってしまったのでしょうかっ!?
あぁ、二人が強大なチャクラを練り上げていく! 何かの術を発動しようとしているのかッ』
高まるばかりの緊張に、ついに火影付きの暗部達がカカシとアスマの間に降り立った。
「火影様の御前である。お二方共、引かれよ!」
「るっせぇ!」
「死にたくなけりゃ、黙ってな~」
カカシとアスマが手を一閃させた。
「ぐっ」
「な、なに!? か、からだが、動か……ない!?」
「こ、これはっ」
「!?」
暗部達の躰がまるで風に流される風船のように、空に浮き、ゆったりと戦場を離れていく。
彼らは二人によってチャクラの糸で縛り上げられ、戦線を離脱させられたのだ。
邪魔者を排除した二人のチャクラが更に膨れ上がってゆく。
それは下忍ですら恐れをなして地に蹲るものが出てくるほどに強烈で。
カカシが、ついでアスマが印を結び始めた。
そのとき......
タンッ!
乾いた音が周囲に響き渡った。
ヒルゼンが、キセルを煙草盆に叩きつけたのだ。
「バカ息子め! 紅のことになると、すぐに頭に血を上らせよってっ!」
そう吐き捨て、起ち上がったヒルゼンは、笠を無造作に投げ、火影服に手をかけ勢いよく脱ぎ捨てる。
バサリ。
白と赤が空の青を背景に舞い、地に落つるとき。
現れ出ずるは、漆黒の忍服に身を包んだ猿飛ヒルゼン。
この男、最強にして、最恐。
歴代最強の火影と謳われた、忍の神。
火影から立ちのぼる桁違いの殺気とチャクラに、会場の緊張が否応なく高まる。
カカシとアスマですら、その殺気を無視することは出来ず、意識を火影へと集中させた。
「二人とも、引けぃ!」
決して大きくはない声。
しかし、その場にいる全員の耳に届く声。
荘厳なその声音に平伏す者が続出する中で。
「嫌です」
「これだけは譲れネェ」
カカシとアスマは愛する人の為に、火影に逆らった。
「ならばワシと戦え!」
目にもとまらぬ速さでヒルゼンが印を結び、里民すべてを守護結界の中に閉じ込めた。
そして節の浮き出た指の腹を、喰い破る。
其処から流れ出る一筋の血を掬いとり、術式を記しはじめた。
つながれゆく異世界から、圧倒的な ”何か” の気配が近づいてくる。
ビリビリと大気を震わせて、恐ろしい ”何か” が来る。
ビュゥ! と空間を切り裂いて虚空から長毛に覆われた巨大な腕が現れた。
「キャシァアアアアアア!!!」
次いで肩が。
人ならぬものの鬨の声が響き渡る。
その魔物、猿猴王、閻魔。
忍びの神と血の契約を交わした最強の口寄せ獣。
守護結界の中にいてさえ、その存在の迫力に当てられた里民は恐慌に陥る寸前であった。
しかし、術式の完成まであと一文字を残すところで、ヒルゼンの指が止まった。
その手を掴んだ男がいたのだ。
暗部装束を身にまとい猫の面で顔を隠すその男は、低く落ち着いた声で火影を諭した。
「火影様こそ、落ち着いてください。貴方様が動けばただではすみませぬ。この猫面がアスマさんと先輩を鎮めます」
「……ふむ」
ヒルゼンは術を解き、閻魔は元の世界へと帰った。
恐怖に凍りついた空気が溶け、人々は安堵に息を吐く。
しばらくして、誰かが手を叩きはじめた。
火影を収めた猫面への感謝と尊敬を込めて。
拍手を贈る人は瞬く間に増え耳が痛むほどの拍手につつまれる。
カカシとアスマといえば、火影との対戦を逃れた安堵や、猫面を湛える場の雰囲気に呑まれ、一時的に戦意を喪失していた。
「猫面さん、ありがとう!」
「素敵よー猫面さん! こっち向いて~」
「惚れました! 俺と結婚してください!!!」(←?)
どうでもいい情報だが、猫面、人生初のモテ期到来である。
猫面は控え目に片手をあげ、黄色い声援を遮ると、カカシとアスマの間に降り立った。
この二人を猫面がどう抑えるのかを、人々が固唾を飲んで見守っている。
「えっ//////」
「ちょっ、マジかよっ」
「何してんだ!?」
「うあっうげぇえええええええええ!!!」
「やだっ、ドン引きーっ」
常識的な人々の悲鳴。
人々の視線の中心には、ズボンを脱ぎ、鍛え上げた美しい下半身を晒した猫面の姿があった。
大事なコトなので、もう一度言う。
猫面は
ズボンを脱ぎ
下半身、パンツ一丁に
なったのである。
こんがりと焼けた小麦色の肌に純白のブリーフが眩しい。
ピッチリと肌に添うブリーフは臀部の形から玉袋や竿のカタチまでをも見せつけて。
「きゃぁあああああ!!!! なんて素敵なのっ!」
恥じらいをとうの昔に捨てたBBAがカメラのシャッターを切る。
「うぉおおおおお!!! 挿れさせろぉおおお!!!」
欲望丸出しの男どもが、猫面(の股間)に釘づけになる。
猫面がコアなファンを獲得した瞬間であった。
呆れる観衆にも動じない猫面が、カカシに向けて脱ぎたてのズボンを差し出したとき。
「ごめーんね、俺はお前のズボンにはヒトカケラの興味もないのよ」
ピーッ
鋭い笛の音と共に、暗部が現れた。
「猫面! 公然猥褻の現行犯で逮捕する!」
「承知している。その前に少し時間をくれないか」
暗部は猫面の願いを聞き入れた。
「これ、イルカ先生に着せてあげてください」
「あっ////// なるほど。そゆこと! 猫面、ありがとね?」
照れくさそうに頭をガリガリとかくカカシをテンゾウは睨みつけた。
「ほんっとに、先輩はイルカ先生のことになると理性が飛ぶんですから。
先生の着物が肌蹴て足が見えるのが嫌だから下履きを履かせたかったんでしょう?
何も言わずに女性のズボンを奪おうとするからこんなことになるんです」
「アハハ。ごめーんね?」
「別に、いいですけど。ボク今から牢獄に入ってきますから、胡桃もって面会にきてくださいよッ」
そんな言葉を遺し、猫面は暗部にひったてられ退場したのである。
純白のブリーフ姿のままで。
イルカに無事ズボンを贈れたカカシはご機嫌である。
一方アスマの機嫌は最悪だ。
「そんなバカな理由だったのかよ! カカシっ」
「るっさいよ! 熊! 惚れた相手の艶姿、他人に見せたくないって気持ち、お前ならわかるでしょうよ?」
「あぁ、わかるさ! だったらなんで俺の女に手ぇだした!」
「イルカ先生の一番近くにいたからに決まってるでしょうよ!」
「何ィ!? お前、そんな理由で紅をっ!」
カカシに殴りかかったアスマの拳を、紅が掌で受け止めた。
「もういいのよ。アスマ。貴方がそんなに怒ってくれて、私嬉しいわ」
「く、紅……」
アスマは紅を抱きしめようとし、周りの好奇の目に気付いて降参とばかりに両手を上げる。
「やめだやめだ!! 俺は降りるぞ。今ので鈍いイルカも流石にカカシの気持ちが分かっただろうしな! カカシ、イルカを大事にしてやれよ!」
そう言い残すと、アスマは紅をその胸に抱き込み、瞬身で消えたのだった。
『アスマ紅チーム棄権です!』
「え? さっきのアスマのセリフ、どゆこと? ひょっとして、イルカ先生も俺のことを……?」
「カカシさん……」
イルカの声にカカシの期待が高まる。
無論、観客の期待も。
「イ、イルカ先生」
カカシも覚悟を決めたようで、イルカの返事を神妙な面持ちで待っている。
その場の全員が、<安心してください、両想いですよ>と心の中で叫んでいた。
「返事を……聞かせてくれませんか?」
「返事? や、そんなことよりカカシさん、はやく借り物競争のブツ探しにいきましょうよ」
「いえ、それはもう見つかってます。貴方が今はいてるズボンです」
「はぁ。よくわかりませんが、じゃぁ次行きましょうよ」
「えっ!? はいッ! って、あの……」
まさかの展開に混乱しているのは観客だけではない。
カカシもまた、それはもう大変に混乱していた。
「イルカ先生、さっき俺が言ったこと聞こえてました?」
「いいえ。何も。あんまり騒がしいので、さっきまでチャクラで聴力を封じていたんです」
どえぇえええええ!?
絶望に会場がざわめく。
うみのイルカ、やはり一筋縄ではいかない男であった。
滝のような涙を流すカカシ。
そんなカカシをイルカは急かして、再び手拭で二人の足を結び直し、ゴールを目指す。
パン食い競争、三輪車、キャタピラ えとせとら、えとせとら。
二人をなんとかくっつけようと、実行委員が張り巡らした相思相愛へのフラグをイルカがものの見事にへし折ってゆく。
『カカシイルカペア、順調に難関を突破し、現在首位! あとはゴールまでの直線を走り抜けるだけです!!』
ここまでくると、応援する側の心も折れてしまうのはいたしかたないだろう。
「もー。やってらんないわよ。イビキ、私あの髪紐欲しいから1位狙うわ!」
「お、おいアンコ!」
「アンコよ、ゆるさぁーん! カカシと1位を競うのは、この俺、マイト=ガイしかいないのだぁーーーっ」
「ほら! カカシさんっ。追っ手が次々とっ! 全力で走りますよ」
ゴールを間近にして、イルカは必死だった。
カカシは、競技中に起こった数々のアクシデントに完全に戦意を喪失している。
「イルカ先生っ、いいんですか? このままでは一位になってしまいます」
「何言ってるんです!? アンタが一位を望んだんでしょう?」
「でも、先生はナルトに【一楽ラーメン回数券三十枚綴り】をあげたいってッ」
「それくらい、俺がアイツに買ってやりますよ」
「そんなっ……アンタ薄給のクセにっ。 いっつも半額になった食パンか、パンの耳を買ってるくせにっ……!!!」
「……っるせえっ! 確かに薄給ですがね、何でアンタがそれを知ってるんだっ。じゃなくってっ。ナルトの為なら、それと……ア、アンタの望みを叶えるためならっ、俺は何だって苦にならないんですよっ!! この俺がアンタを1位にしてやる!」
「えっ」
「アンタ、自分の望みなんてめったに言わないでしょうが! 自分の幸せは全部諦めて、いつだって他人のことばかりだ。
俺はそんなアンタが大嫌いなんだ! ちょっとは自分が幸せになることを考えてみやがれってんだ!!」
ぐんっ!
「いだっ いだだだだだだだ!! ったく、なにするんすかっ!? このクサレ上忍っ!!」
カカシがイルカの髪を掴み、自分のほうへ引き寄せた。
「イルカ先生っ! 俺も、自分の幸せを考えてみます。お、俺はっ、あなたがいれば幸せです!」
不器用は告白は、それゆえに真摯で。
イルカの髪を握る手は震え、
振り返ったイルカの目を真摯な眼が迎え撃つ。
何のごまかしも嘘も見逃すまいと、瞬きさえせずイルカを見つめ、己の心全てを曝け出したカカシがそこにいた。
「カカシ……さん」
「好きです。イルカ先生。ナルトに、いや生徒たちに、いや俺たち忍にもいつも温かく接してくれる貴方が好きです。
俺相手にも、本気で怒ってくれる貴方が好きです。真面目に仕事にとりくむ貴方が好きです。誰よりも心の強い、貴方が好きです。
俺の望みをかなえようなんて、そんなことを思ってくれる貴方が、たまらなく好きです」
「えっ……」
イルカの目が驚きに見開かれた。
そして。
「だぁああああああああっ!? カ、カカシさん! アンタこんなときに何言ってんですか! アンタがバカなこと言いだすからっ ああホラっ!!」
パァーン
と空砲が鳴り、紙吹雪が舞う。
『なんと1位は、ガイ選手! ゴールまであと数メートルといったところでの大逆転です!!』
コテツの声が朗々と響き、手にした優勝に清々しい笑顔を見せるガイ。
「1位、逃しちゃったじゃないですかっ!!!! って、どぁああああああ!!」
叫ぶイルカの側をイビキとアンコが駆け抜けて。
『あぁーっと。カカシイルカ ペア、また追い抜かれてしまいました!! 2位はイビキアンコペアですっ!』
「また抜かされたッ!? アンタの名誉を守りたかったのにっ。って、うっへえぇええ?」
なんと、カカシはイルカを横抱きにして走り出したのだ。
『三位、 カカシイルカペア!!』
カカシは腕の中のイルカの瞳を覗き込んだ。
「イルカ先生、俺たち3位になりました。賞品の【一楽ラーメン回数券三十枚綴り】 これが俺の貴方への最初の贈り物です。俺だって、貴方の望むものは何だって叶えてやりたいんです」
「……バカですね。 おかげで俺は1位になるっていうアンタの望みをかなえられなくなりました」
「じゃぁ、俺の本当の望みをかなえてください。イルカ先生、俺は貴方が好きです。どうかこの気持ちを受け止めて、俺と一緒に生きてください」
イルカの瞳が潤み始めた。
そして溢れ出た涙を乱暴にぬぐい、イルカは天に向かって叫んだのだ。
「はいッ。俺もアナタが好きです。よろしくおねがいしますッ」
うぉおおおおおお!!!! おめでとうっ!!
広場に満ちる祝福の声、割れんばかりの拍手。
皆の笑顔。笑顔。笑顔。
総菜屋のおばちゃんと魚屋のおっちゃんは、感動と安堵のあまり手を取り合い泣き崩れている。
ナルトやサクラ、サスケ達の様々な案をとりまとめたシカマル、シカマルと共に作戦を練り上げた教師スズメもまた、目頭を押さえていた。
電光掲示板には ”はたけ上忍、うみの先生、おめでとう! 末永くお幸せに!” の 文字が躍り、あちらこちらで二人の幸せを願う横断幕が掲げられて。
カカシとイルカは面食らって辺りを見回している。
鳴り止まぬ祝福の拍手の中、コテツは弾む声で二人の交際を宣言した。
『ようやく、ようやくこの二人が結ばれましたっ! カカシ、イルカ両選手は目ん玉が飛び出すほどびっくりしています。
カカシ先生、イルカ先生、この競技会は両片想いの貴方たちをくっつけるために、ここにいる全員が知恵を出し合って開催したものなんですっ!
ではみなさん、いいですかっ、せーのっ』
会場を埋め尽くす皆が声を合わせた「おめでとう」の言葉は圧巻だった。
二人はしっかりと抱き合って、この光景を心に刻み付ける。
そして、割れんばかりの大声で「ありがとう!」と返すのであった。
『では、火影様にお言葉を頂戴したいと思います』
コホン、と咳払いをして、やや厳しい貌でヒルゼンが立ち上がった。
「はたけカカシ、うみのイルカよ。おぬしらは互いに深く想いあっているが故に素直になれず、長い間、片恋に甘んじておった。
里民はそんなお前たちの不器用な恋愛に振り回され、実害をこうむったものも多くおる。それでも、じゃ。
お前たちの幸せを願うあまり、今日このような競技会を催した。
カカシ、イルカよ。この意味が分かるな? お前たちの幸せは、この木の葉の里の総意といってよいだろう。
ゆめゆめ、下らん嫉妬や喧嘩でお互いを手放すでないぞ」
「はい。このはたけカカシ、一生涯うみのイルカを愛すことを誓います」
「お、俺も。はたけカカシに添い遂げることを誓います!」
「その言葉、しかと受け取った。カカシ、イルカよ。お前たちに褒美として2か月の休暇をやろう。存分に楽しんで来るのじゃ!」
渦巻く拍手と歓声の中で、骨の髄まで幸せに浸る恋人達が皆に感謝の意を伝える。
火影は、二人の輝くばかりの笑顔を、里民の歓喜の顔を見渡して満足げに微笑み、競技会の終わりを声高々に宣言したのであった。
「これにて一件落着!」
さて、その後の二人の様子をのぞいてみよう。
「1位の景品の髪紐、カカシさんが俺にって買ってくれたものだったんですね」
「ええ。貴方の美しい黒髪に相応しいものを、と思って買ったんですが、渡せなくて」
「お気持ちはしかと受け取りました。ところで、髪紐はガイさんが?」
「いえ、ガイは辞退したそうですよ。宙に浮いた髪紐の使い道を、恐れ多くもご意見番のホムラ様とコハル様が考えてくださいました。
なんでも縁結びの神社を建立し、そのご神体として髪紐を使うそうです」
「髪紐をご神体に?」
「組み紐の材料として使い、愛の象徴を編み出すといってました」
「はぁ……なんだかとても大袈裟な話になっているんですね」
「ええ。でもこれで絶対に俺たち別れられませんね」
「別れるつもりなんて、端からありませんよ。ずっと一緒にいてくださいね。カカシさん」
神社の建立は速やかになされ、髪紐はご神体としてその最奥に安置された。
後に『案山子ノ落雷 海豚ノ海上竜巻と呼ばれたその神社は、火の国のみならず他国からも多く参拝者の訪れる大社とあい成った。
カカシとイルカがその後末永く幸せに暮らしたことは言うまでもない。
「ところで、カカシさん。ずっと聞きたかったことがあるんですが」
「なんでしょう」
「イルフンって何ですか?」
「え”っ!?」
完
競技開始3秒後。
ズデーーーーーン!!
『おーっと、カカシ、イルカ両選手、開始早々まさかの大転倒です! これはどうしたことでしょう!』
実況中継担当のコテツの声が辺りに響きわたり、広場はどよめきに包まれた。
「いたたたっ! イルカ先生っ、アンタ怪我はっ!?」
「クッ! 大丈夫ですっ。カカシ先生は?」
「大丈夫に決まっているじゃありませんか。ったく何やってんです。(アンタが)怪我でもしたらっ! どうするつもりだったんですか」
「申し訳ありません。里の誉れの身体に傷をつけるところでした」
「何それ嫌味!? (俺じゃなくて自分の心配をしろってんです!)」
里が誇る上忍と、アカデミー最強教師のまさかの転倒。からの~ 口喧嘩に、実行委員もギャラリーも皆、顔面蒼白である。
イルカも何故か顔面蒼白である。
空気を求めて水面にあがってきた金魚のように口をパクパクさせながら、必死に言葉を紡いでいる。
「お、俺はっ。こんなことっ、もう出来ません」
「それはこっちのセリフです。俺だって、アンタ相手にこんなことやってられませんよッ」
一枚の手拭であの人に繋がれた足。
布越しに触れる愛し人の肌の感覚に、伝わるその温みに、どうしようもなく心がざわめいて。
間近に感じる吐息さえ、全て我がものにと望んでしまう。
―――― って、やベッ! 浸ってる場合じゃねェ! 俺、昨夜、一楽でニンニクラーメン食っちまった!!――
――っとぉっ、やばいッ! このままじゃぁ、俺はイルカ先生の唇を奪ってしまうっ!!
ふと、我に返り、互いに明後日の方向に全力で駆けるカカシとイルカ。
これが大転倒の真相である。
『さーぁ大変です。優勝第一候補のカカシ、イルカペア、まさかの転倒。そしてまさかの最下位です。先頭はガイ猫面ペア、次にアスマ紅ペアと続きます!』
コテツの実況でイルカが我に返り、素早く立ち上がって浴衣の裾を帯に挟み込んだ。
「カカシさん、とにかく行きますよ!! 一楽の回数券がかかっているんです!!」
「ちょっ!? イルカ先生ぇ?」
浴衣を絡げたことによって、筋肉に覆われた形の良いイルカの脚が、未だ地に伏せったままのカカシの目前に迫っていた。
視線を上にあげれば、普段太陽の下に晒されることがないためか、ほの白くなめらかな質感のイルカの両腿が視界に飛び込んでくる。
その魅惑的な両腿の間に垂れ下がる、真白(ましろ)の布。
―――― あっ……あぁっ……! こ、これはパ、パンツじゃない!? まさかの、フンドシ!! 男のロマン、男性下着の王様、フンドシじゃないかっ…… 夢にまで見た……い、イルカ先生のッ――――
「イルフンっ!!」
ブふぉオオオオオー!!!
その瞬間、カカシの鼻から大量の血液が吹き出し、あたりを真紅に染め上げた。
「ぎぃやぁああああ!!! か、カカシさんっ、どうしたんですかっ!! 大丈夫ですかっ!? イルフンってなんですっ!? ちょっと救護班来てくださいッ」
「い、いや、やめて。救護班いらない。イルカ先生、どうかこのまま俺を引き摺って走っていって。怪我しないよう、チャクラで背中を防御しますから」
「そんなっ、だってこんなに出血して!」
「大丈夫ですっ。こんなチャンスめったに、いえ、今を逃せば一生ありません!」
「カカシさん、そんなに……この競技、優勝したいんですね。立ちあがる暇も惜しむなんて」
「いえ、も、もうスゴク俺は勃ち上がってますッ!!!(小声)」
「は? 声が小さくて聞こえません!」
「いえ! 何でもないです。イルカ先生、全力でお願いしますっ(大声)」
「分かりました。この、うみのイルカ、全力で走ります!」
力強く地を蹴り、イルカが駆け出す。
生じる風が、イルカの髪を、浴衣の袖を、裾を、純白のフンドシをはためかせて。
「あ……あぁあ……っ。生きててよかった、イルフン~」
カカシは今、幸福の只中にあった。
『おぉーっとぉ、イルカ選手カカシ選手をひきずったまま、走り出しました。これは予想外の展開です。早いッ! 早いッ!
さすがアカデミー最強を誇る、うみのイルカ選手。素晴らしいスピードです。ゲンマペアを早くも追い越し、イビキアンコペアに迫る勢いです。
抜いたぁーっ。
引きずられるカカシ選手は、イルカ選手から目を離しません。そして何故かとても幸せそうだーっ。
さぁ、ついにカカイルペア、第一の関門、借り物競争スペースに堂々の2位で到着しましたっ。1位はアスマ紅ペアです』
「カカシさん、立てますか?」
「もちろんです! 眼福でした」
「はぁ~? 何言っているんです。それより、俺たちのお題はこれですよ」
「何々? 【惚れた相手が喜びそうなもの?】 お題としては中途半端じゃないですか?」
中途半端。
実はそれこそが、実行委員達が知恵を出し合い仕掛けた、ラブラブ大作戦の胆なのである!
彼らの予想はこうだ。
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イ「惚れた相手って言っても、俺とカカシさんの惚れた相手は違いますよね。ってことは2個いるってことですかね?」
カ「いや、どっちか手に入れやすいほうでいいんじゃないですか? で、イルカ先生は何を貰ったら喜ぶんです?」
イ「そりゃぁ米ですかね。給料日前ですし。ってぇえ!? どうして俺に聞くんです!?」
カ「だって、ねぇ? 俺が惚れた相手、今のでもぅ分かったでしょ?」
イ「えっ!?えぇええ? お、俺ですか? 嬉しいです。じ、じ、じゃぁ、お、俺もカカシさんの喜ぶもの知りたいです!」
カ「えっ」
イカ「「ひょっとして……俺たちって、両想いだったんですか!?」
全員『しゃーなろっ、やっとわかったかーっ、メルヘンゲットー!!』
********************************************************************
そんなこんなで、全員が期待に固唾を飲み二人の様子を見守っていた。
起ち上がってイルカを正面から見据えたカカシは、面食らった。
下からのアングルで見なくても、膝頭を露わにしたイルカは色香に満ちていて。
腿の間から流れ落ちる汗に、如何わしい体液を連想し、どうしようもなく欲情してしまう。
「イルカ先生、何て恰好をしてるんです! あまりに破廉恥ですッ!」
「すみません。確かに流石の俺もちょっと恥ずかしいです。浴衣で来るんじゃなかったなぁ」
「チッ」
カカシの舌打ちにイルカは傷ついたが、しかし、カカシの本心はこうである。
―― 先生の艶姿に鼻を伸ばしてる奴ら、全員雷切ってやりたいね。それから、イルカ先生が喜びそうなものがわかりました。俺はソレをゲットしてみせるっ!――-
カカシは素早くあたりを見回した。そして目的のものを発見する。
身のこなしは素早く、おそらくは火影以外はカカシの動きを追えたものはいなかっただろう。
「きゃぁあああっ」
何の前触れもなく、絹を裂くような女の悲鳴が広場に響き渡った。
「あっ、いやっ、何するのっ」
イヤイヤと首を振るその動きにつられて、長く艶やかな黒髪が空に舞う。
羞恥に頬を赤らめ、潤んだ眼で助けを求めるのは、夕日紅、その人であった。
紅の前に膝立ちをした男が、紅の腰に手をかけている。既にズボンのボタンは外されチャックが降ろされていた。
「いやぁ……アスマッ」
掠れたその声は、聞く者に閨での声と錯覚させるほどに艶やかで。
「アスマっ、助けてっ」
その言葉に、ようやくアスマが我に返った。
「テメェっ! このバカカシっ。俺の女に何しやがる!!」
「アホ熊、黙ってみてなさいよ! 紅(のズボン)は俺のものなんだからっ」
この言葉はイルカの心を深く抉った。そして……。
――そうか。カカシ先生が好きなのは紅さんだったのか。俺はついに失恋したんだな。でも落ち込む必要はないぞ、イルカ!! 一生カカシ先生に影から尽くすって、ずっと前から決めてるだろっ! でも……正直、カカシ先生が紅さんを求める声を聴くのはキツイな――
と、まぁ、盛大に誤解しているのであった。
「いやぁあ……っ」
今にも引き摺り降ろされようとするズボンを、紅は必死で掴んでいた。
しかし、力でカカシに敵うわけもなく、ジリジリと下げられていく。
形のよい臍が露わになり、その下の黒の豪奢なレースが衆目に晒されたとき、強大なチャクラの爆発と共に、カカシの躰が吹き飛ばされた。
「ってぇ……。何すんだアスマ! ことと次第によっちゃぁただでは済まさないよ?」
「そりゃぁこっちのセリフってもんよ。いいか、カカシ。紅には指一本触れさせネェ」
「うっさいよ。あれ(=ズボン)は俺のもんだ」
アスマのこめかみには幾筋もの血管が浮いている。
「上等だ。紅がどっちのモンかハッキリさせようじゃネェか」
ぶわり。
とアスマの全身から殺気が立ち上がる。
「いいねぇ。手加減なんてしてやらないから、死なないように気をつけなさいよ」
カカシも身の内の怒りを殺気に変えて放出する。
二人の殺気に当てられて、一般人が次々と気を失っていくのを見て、実行委員の下忍たちが一般人の避難に向け動き始めた。
『おっと、これは大変なことが起きてしまいました。猿飛アスマと写輪眼のカカシ。里の誇る上忍二人が夕日紅をめぐって死闘を繰り広げようとしています。どうしてこんなことになってしまったのでしょうかっ!?
あぁ、二人が強大なチャクラを練り上げていく! 何かの術を発動しようとしているのかッ』
高まるばかりの緊張に、ついに火影付きの暗部達がカカシとアスマの間に降り立った。
「火影様の御前である。お二方共、引かれよ!」
「るっせぇ!」
「死にたくなけりゃ、黙ってな~」
カカシとアスマが手を一閃させた。
「ぐっ」
「な、なに!? か、からだが、動か……ない!?」
「こ、これはっ」
「!?」
暗部達の躰がまるで風に流される風船のように、空に浮き、ゆったりと戦場を離れていく。
彼らは二人によってチャクラの糸で縛り上げられ、戦線を離脱させられたのだ。
邪魔者を排除した二人のチャクラが更に膨れ上がってゆく。
それは下忍ですら恐れをなして地に蹲るものが出てくるほどに強烈で。
カカシが、ついでアスマが印を結び始めた。
そのとき......
タンッ!
乾いた音が周囲に響き渡った。
ヒルゼンが、キセルを煙草盆に叩きつけたのだ。
「バカ息子め! 紅のことになると、すぐに頭に血を上らせよってっ!」
そう吐き捨て、起ち上がったヒルゼンは、笠を無造作に投げ、火影服に手をかけ勢いよく脱ぎ捨てる。
バサリ。
白と赤が空の青を背景に舞い、地に落つるとき。
現れ出ずるは、漆黒の忍服に身を包んだ猿飛ヒルゼン。
この男、最強にして、最恐。
歴代最強の火影と謳われた、忍の神。
火影から立ちのぼる桁違いの殺気とチャクラに、会場の緊張が否応なく高まる。
カカシとアスマですら、その殺気を無視することは出来ず、意識を火影へと集中させた。
「二人とも、引けぃ!」
決して大きくはない声。
しかし、その場にいる全員の耳に届く声。
荘厳なその声音に平伏す者が続出する中で。
「嫌です」
「これだけは譲れネェ」
カカシとアスマは愛する人の為に、火影に逆らった。
「ならばワシと戦え!」
目にもとまらぬ速さでヒルゼンが印を結び、里民すべてを守護結界の中に閉じ込めた。
そして節の浮き出た指の腹を、喰い破る。
其処から流れ出る一筋の血を掬いとり、術式を記しはじめた。
つながれゆく異世界から、圧倒的な ”何か” の気配が近づいてくる。
ビリビリと大気を震わせて、恐ろしい ”何か” が来る。
ビュゥ! と空間を切り裂いて虚空から長毛に覆われた巨大な腕が現れた。
「キャシァアアアアアア!!!」
次いで肩が。
人ならぬものの鬨の声が響き渡る。
その魔物、猿猴王、閻魔。
忍びの神と血の契約を交わした最強の口寄せ獣。
守護結界の中にいてさえ、その存在の迫力に当てられた里民は恐慌に陥る寸前であった。
しかし、術式の完成まであと一文字を残すところで、ヒルゼンの指が止まった。
その手を掴んだ男がいたのだ。
暗部装束を身にまとい猫の面で顔を隠すその男は、低く落ち着いた声で火影を諭した。
「火影様こそ、落ち着いてください。貴方様が動けばただではすみませぬ。この猫面がアスマさんと先輩を鎮めます」
「……ふむ」
ヒルゼンは術を解き、閻魔は元の世界へと帰った。
恐怖に凍りついた空気が溶け、人々は安堵に息を吐く。
しばらくして、誰かが手を叩きはじめた。
火影を収めた猫面への感謝と尊敬を込めて。
拍手を贈る人は瞬く間に増え耳が痛むほどの拍手につつまれる。
カカシとアスマといえば、火影との対戦を逃れた安堵や、猫面を湛える場の雰囲気に呑まれ、一時的に戦意を喪失していた。
「猫面さん、ありがとう!」
「素敵よー猫面さん! こっち向いて~」
「惚れました! 俺と結婚してください!!!」(←?)
どうでもいい情報だが、猫面、人生初のモテ期到来である。
猫面は控え目に片手をあげ、黄色い声援を遮ると、カカシとアスマの間に降り立った。
この二人を猫面がどう抑えるのかを、人々が固唾を飲んで見守っている。
「えっ//////」
「ちょっ、マジかよっ」
「何してんだ!?」
「うあっうげぇえええええええええ!!!」
「やだっ、ドン引きーっ」
常識的な人々の悲鳴。
人々の視線の中心には、ズボンを脱ぎ、鍛え上げた美しい下半身を晒した猫面の姿があった。
大事なコトなので、もう一度言う。
猫面は
ズボンを脱ぎ
下半身、パンツ一丁に
なったのである。
こんがりと焼けた小麦色の肌に純白のブリーフが眩しい。
ピッチリと肌に添うブリーフは臀部の形から玉袋や竿のカタチまでをも見せつけて。
「きゃぁあああああ!!!! なんて素敵なのっ!」
恥じらいをとうの昔に捨てたBBAがカメラのシャッターを切る。
「うぉおおおおお!!! 挿れさせろぉおおお!!!」
欲望丸出しの男どもが、猫面(の股間)に釘づけになる。
猫面がコアなファンを獲得した瞬間であった。
呆れる観衆にも動じない猫面が、カカシに向けて脱ぎたてのズボンを差し出したとき。
「ごめーんね、俺はお前のズボンにはヒトカケラの興味もないのよ」
ピーッ
鋭い笛の音と共に、暗部が現れた。
「猫面! 公然猥褻の現行犯で逮捕する!」
「承知している。その前に少し時間をくれないか」
暗部は猫面の願いを聞き入れた。
「これ、イルカ先生に着せてあげてください」
「あっ////// なるほど。そゆこと! 猫面、ありがとね?」
照れくさそうに頭をガリガリとかくカカシをテンゾウは睨みつけた。
「ほんっとに、先輩はイルカ先生のことになると理性が飛ぶんですから。
先生の着物が肌蹴て足が見えるのが嫌だから下履きを履かせたかったんでしょう?
何も言わずに女性のズボンを奪おうとするからこんなことになるんです」
「アハハ。ごめーんね?」
「別に、いいですけど。ボク今から牢獄に入ってきますから、胡桃もって面会にきてくださいよッ」
そんな言葉を遺し、猫面は暗部にひったてられ退場したのである。
純白のブリーフ姿のままで。
イルカに無事ズボンを贈れたカカシはご機嫌である。
一方アスマの機嫌は最悪だ。
「そんなバカな理由だったのかよ! カカシっ」
「るっさいよ! 熊! 惚れた相手の艶姿、他人に見せたくないって気持ち、お前ならわかるでしょうよ?」
「あぁ、わかるさ! だったらなんで俺の女に手ぇだした!」
「イルカ先生の一番近くにいたからに決まってるでしょうよ!」
「何ィ!? お前、そんな理由で紅をっ!」
カカシに殴りかかったアスマの拳を、紅が掌で受け止めた。
「もういいのよ。アスマ。貴方がそんなに怒ってくれて、私嬉しいわ」
「く、紅……」
アスマは紅を抱きしめようとし、周りの好奇の目に気付いて降参とばかりに両手を上げる。
「やめだやめだ!! 俺は降りるぞ。今ので鈍いイルカも流石にカカシの気持ちが分かっただろうしな! カカシ、イルカを大事にしてやれよ!」
そう言い残すと、アスマは紅をその胸に抱き込み、瞬身で消えたのだった。
『アスマ紅チーム棄権です!』
「え? さっきのアスマのセリフ、どゆこと? ひょっとして、イルカ先生も俺のことを……?」
「カカシさん……」
イルカの声にカカシの期待が高まる。
無論、観客の期待も。
「イ、イルカ先生」
カカシも覚悟を決めたようで、イルカの返事を神妙な面持ちで待っている。
その場の全員が、<安心してください、両想いですよ>と心の中で叫んでいた。
「返事を……聞かせてくれませんか?」
「返事? や、そんなことよりカカシさん、はやく借り物競争のブツ探しにいきましょうよ」
「いえ、それはもう見つかってます。貴方が今はいてるズボンです」
「はぁ。よくわかりませんが、じゃぁ次行きましょうよ」
「えっ!? はいッ! って、あの……」
まさかの展開に混乱しているのは観客だけではない。
カカシもまた、それはもう大変に混乱していた。
「イルカ先生、さっき俺が言ったこと聞こえてました?」
「いいえ。何も。あんまり騒がしいので、さっきまでチャクラで聴力を封じていたんです」
どえぇえええええ!?
絶望に会場がざわめく。
うみのイルカ、やはり一筋縄ではいかない男であった。
滝のような涙を流すカカシ。
そんなカカシをイルカは急かして、再び手拭で二人の足を結び直し、ゴールを目指す。
パン食い競争、三輪車、キャタピラ えとせとら、えとせとら。
二人をなんとかくっつけようと、実行委員が張り巡らした相思相愛へのフラグをイルカがものの見事にへし折ってゆく。
『カカシイルカペア、順調に難関を突破し、現在首位! あとはゴールまでの直線を走り抜けるだけです!!』
ここまでくると、応援する側の心も折れてしまうのはいたしかたないだろう。
「もー。やってらんないわよ。イビキ、私あの髪紐欲しいから1位狙うわ!」
「お、おいアンコ!」
「アンコよ、ゆるさぁーん! カカシと1位を競うのは、この俺、マイト=ガイしかいないのだぁーーーっ」
「ほら! カカシさんっ。追っ手が次々とっ! 全力で走りますよ」
ゴールを間近にして、イルカは必死だった。
カカシは、競技中に起こった数々のアクシデントに完全に戦意を喪失している。
「イルカ先生っ、いいんですか? このままでは一位になってしまいます」
「何言ってるんです!? アンタが一位を望んだんでしょう?」
「でも、先生はナルトに【一楽ラーメン回数券三十枚綴り】をあげたいってッ」
「それくらい、俺がアイツに買ってやりますよ」
「そんなっ……アンタ薄給のクセにっ。 いっつも半額になった食パンか、パンの耳を買ってるくせにっ……!!!」
「……っるせえっ! 確かに薄給ですがね、何でアンタがそれを知ってるんだっ。じゃなくってっ。ナルトの為なら、それと……ア、アンタの望みを叶えるためならっ、俺は何だって苦にならないんですよっ!! この俺がアンタを1位にしてやる!」
「えっ」
「アンタ、自分の望みなんてめったに言わないでしょうが! 自分の幸せは全部諦めて、いつだって他人のことばかりだ。
俺はそんなアンタが大嫌いなんだ! ちょっとは自分が幸せになることを考えてみやがれってんだ!!」
ぐんっ!
「いだっ いだだだだだだだ!! ったく、なにするんすかっ!? このクサレ上忍っ!!」
カカシがイルカの髪を掴み、自分のほうへ引き寄せた。
「イルカ先生っ! 俺も、自分の幸せを考えてみます。お、俺はっ、あなたがいれば幸せです!」
不器用は告白は、それゆえに真摯で。
イルカの髪を握る手は震え、
振り返ったイルカの目を真摯な眼が迎え撃つ。
何のごまかしも嘘も見逃すまいと、瞬きさえせずイルカを見つめ、己の心全てを曝け出したカカシがそこにいた。
「カカシ……さん」
「好きです。イルカ先生。ナルトに、いや生徒たちに、いや俺たち忍にもいつも温かく接してくれる貴方が好きです。
俺相手にも、本気で怒ってくれる貴方が好きです。真面目に仕事にとりくむ貴方が好きです。誰よりも心の強い、貴方が好きです。
俺の望みをかなえようなんて、そんなことを思ってくれる貴方が、たまらなく好きです」
「えっ……」
イルカの目が驚きに見開かれた。
そして。
「だぁああああああああっ!? カ、カカシさん! アンタこんなときに何言ってんですか! アンタがバカなこと言いだすからっ ああホラっ!!」
パァーン
と空砲が鳴り、紙吹雪が舞う。
『なんと1位は、ガイ選手! ゴールまであと数メートルといったところでの大逆転です!!』
コテツの声が朗々と響き、手にした優勝に清々しい笑顔を見せるガイ。
「1位、逃しちゃったじゃないですかっ!!!! って、どぁああああああ!!」
叫ぶイルカの側をイビキとアンコが駆け抜けて。
『あぁーっと。カカシイルカ ペア、また追い抜かれてしまいました!! 2位はイビキアンコペアですっ!』
「また抜かされたッ!? アンタの名誉を守りたかったのにっ。って、うっへえぇええ?」
なんと、カカシはイルカを横抱きにして走り出したのだ。
『三位、 カカシイルカペア!!』
カカシは腕の中のイルカの瞳を覗き込んだ。
「イルカ先生、俺たち3位になりました。賞品の【一楽ラーメン回数券三十枚綴り】 これが俺の貴方への最初の贈り物です。俺だって、貴方の望むものは何だって叶えてやりたいんです」
「……バカですね。 おかげで俺は1位になるっていうアンタの望みをかなえられなくなりました」
「じゃぁ、俺の本当の望みをかなえてください。イルカ先生、俺は貴方が好きです。どうかこの気持ちを受け止めて、俺と一緒に生きてください」
イルカの瞳が潤み始めた。
そして溢れ出た涙を乱暴にぬぐい、イルカは天に向かって叫んだのだ。
「はいッ。俺もアナタが好きです。よろしくおねがいしますッ」
うぉおおおおおお!!!! おめでとうっ!!
広場に満ちる祝福の声、割れんばかりの拍手。
皆の笑顔。笑顔。笑顔。
総菜屋のおばちゃんと魚屋のおっちゃんは、感動と安堵のあまり手を取り合い泣き崩れている。
ナルトやサクラ、サスケ達の様々な案をとりまとめたシカマル、シカマルと共に作戦を練り上げた教師スズメもまた、目頭を押さえていた。
電光掲示板には ”はたけ上忍、うみの先生、おめでとう! 末永くお幸せに!” の 文字が躍り、あちらこちらで二人の幸せを願う横断幕が掲げられて。
カカシとイルカは面食らって辺りを見回している。
鳴り止まぬ祝福の拍手の中、コテツは弾む声で二人の交際を宣言した。
『ようやく、ようやくこの二人が結ばれましたっ! カカシ、イルカ両選手は目ん玉が飛び出すほどびっくりしています。
カカシ先生、イルカ先生、この競技会は両片想いの貴方たちをくっつけるために、ここにいる全員が知恵を出し合って開催したものなんですっ!
ではみなさん、いいですかっ、せーのっ』
会場を埋め尽くす皆が声を合わせた「おめでとう」の言葉は圧巻だった。
二人はしっかりと抱き合って、この光景を心に刻み付ける。
そして、割れんばかりの大声で「ありがとう!」と返すのであった。
『では、火影様にお言葉を頂戴したいと思います』
コホン、と咳払いをして、やや厳しい貌でヒルゼンが立ち上がった。
「はたけカカシ、うみのイルカよ。おぬしらは互いに深く想いあっているが故に素直になれず、長い間、片恋に甘んじておった。
里民はそんなお前たちの不器用な恋愛に振り回され、実害をこうむったものも多くおる。それでも、じゃ。
お前たちの幸せを願うあまり、今日このような競技会を催した。
カカシ、イルカよ。この意味が分かるな? お前たちの幸せは、この木の葉の里の総意といってよいだろう。
ゆめゆめ、下らん嫉妬や喧嘩でお互いを手放すでないぞ」
「はい。このはたけカカシ、一生涯うみのイルカを愛すことを誓います」
「お、俺も。はたけカカシに添い遂げることを誓います!」
「その言葉、しかと受け取った。カカシ、イルカよ。お前たちに褒美として2か月の休暇をやろう。存分に楽しんで来るのじゃ!」
渦巻く拍手と歓声の中で、骨の髄まで幸せに浸る恋人達が皆に感謝の意を伝える。
火影は、二人の輝くばかりの笑顔を、里民の歓喜の顔を見渡して満足げに微笑み、競技会の終わりを声高々に宣言したのであった。
「これにて一件落着!」
さて、その後の二人の様子をのぞいてみよう。
「1位の景品の髪紐、カカシさんが俺にって買ってくれたものだったんですね」
「ええ。貴方の美しい黒髪に相応しいものを、と思って買ったんですが、渡せなくて」
「お気持ちはしかと受け取りました。ところで、髪紐はガイさんが?」
「いえ、ガイは辞退したそうですよ。宙に浮いた髪紐の使い道を、恐れ多くもご意見番のホムラ様とコハル様が考えてくださいました。
なんでも縁結びの神社を建立し、そのご神体として髪紐を使うそうです」
「髪紐をご神体に?」
「組み紐の材料として使い、愛の象徴を編み出すといってました」
「はぁ……なんだかとても大袈裟な話になっているんですね」
「ええ。でもこれで絶対に俺たち別れられませんね」
「別れるつもりなんて、端からありませんよ。ずっと一緒にいてくださいね。カカシさん」
神社の建立は速やかになされ、髪紐はご神体としてその最奥に安置された。
後に『案山子ノ落雷 海豚ノ海上竜巻と呼ばれたその神社は、火の国のみならず他国からも多く参拝者の訪れる大社とあい成った。
カカシとイルカがその後末永く幸せに暮らしたことは言うまでもない。
「ところで、カカシさん。ずっと聞きたかったことがあるんですが」
「なんでしょう」
「イルフンって何ですか?」
「え”っ!?」
完
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