たれさんより『見とれる』
カカシさんのモノローグで甘い。


　見とれる


額に張り付いた髪を一筋、指先でそっと耳の方に流す。
まだしっとりとしてるのは、さっきまでの甘い甘い時間の名残だ。
あんなに切なげな声を上げて、あんなに肌を火照らせて俺だけを求めてくれてたのに、今はもう腹一杯になった仔犬みたいに眠っちゃって。
ほんと可愛い人。

いつもはきりりとしてる眉もぼわぼわとして、眉間に寄ってる皺もなくて。
そんなに怒ってばっかりいたら、おじいちゃんになった時に顔が皺に埋もれちゃうよって言ったら、「笑い皺もいっぱいあるからいいんです！」ってよく分からない反論されたなぁ。
でもそうだね、イルカ先生はきっと、目元と口元の笑い皺の方がいっぱいになりそうだ。

ぽってりとした唇は、忍服を着てる間は愛の言葉なんて一つも知りませんとでも言いそうに、キュッと真一文字に引き締められてるけど。
そこから溢れる言葉はいつも綺麗で愛に満ちている。
今日の天気を語るにも愛をこめるんだ。
「カカシさん、午後から雨が降りそうだから、濡れて冷やさないように気をつけてくださいね」
俺、忍だよ？
豪雨だろうと吹雪だろうと関係なく任務をこなす戦忍だよ？
そんなの先生だって百も承知だろうに、天気一つでも俺を思いやる言葉をくれるんだ。
この唇がくれるのは言葉だけじゃないけど。
啄むキス、熱いキス、蕩けるキス、優しいキス、赦しのキス。
一緒にいる間に、いろんなキスを教えてくれたよね。最初の頃はタコみたいに口を突き出したキスしかできなかったのにね。
あれはあれで可愛かった。もうあの頃みたいなタコちゅうはしてくれないのかな。
唇をつまんだらタコっぽくなるかもしれないけど、今やったら起こしちゃう。

あ、口をもごもご動かした。
またラーメン食べる夢を見てるの？
たまには俺の夢も見てくれればいいのに、ほんとつれない男だよね。
俺はわりとイルカ先生の夢を見てるよ？　だいたい人には言えないような内容だけど。
夢の中の先生はずっと俺のことを見つめてくれるんだ。現実では子供たちや他の奴ばっかり見て、俺の方を向いてくれるのは二人っきりの時だけ。
今だって目を閉じてるから俺を見てはくれない。せっかくの貴重な二人の時間なのに、あのキラキラした黒い目を隠してる。
でもいいんだ。
俺がイルカ先生のことをたっぷり眺められるから。

好きだなぁ。

誰かをここまで好きになるなんて自分でも信じられないよ。
ただの男の寝顔なのに、いつまでも見続けていられる。
こんな贅沢な時間の使い方、イルカ先生に出会うまで知らなかった。







――ああ、そうか。
これを見とれるって言うんだ。