【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old (カテゴリ内↓new ↑old)
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old (カテゴリ内↓new ↑old)
イルカはアパートの前でカカシと別れ、階段を上った。
ドアの鍵を開けてから振り返ると、カカシがまだこちらを見ている。犯人が野放しになったままなので、念のため警戒してくれているのだろう。
(相変わらず過保護な人だなぁ。まるでシラスみたいだ)
苦手な猫と並べられたことを知ったら、カカシ先生は口を尖らせて不満げな顔をするのだろうか。あの人は時々妙に子供っぽくなる時がある。
胸の内でこっそり苦笑すると、イルカはカカシにペコリと頭を下げ、ドアを閉めた。
「……今日も犬使いと一緒だったのか。一段と犬臭いぞ」
イルカの足元で不機嫌さを隠さず、だがその長くたっぷりとした毛量の尻尾をまとわりつかせ、体を擦り付けながら大きな白い猫が話しかけてきた。
「ただいまシラス。あのなぁ……何度も言ってるけど、犬使いなんてカカシ先生に失礼だろ」
「二人の時はその名で呼ぶな。それに実際あやつは犬使いであろうが。犬臭くて胡散臭い奴じゃ」
「そんなことない、カカシ先生はいい人だよ。今だって吸血事件の犯人が野放しになってるからって、何も言わずに家まで送ってくれたんだぞ」
「ふん、そんなの下心があるからに決まっていよう。あやつには気を付けよ」
「何だよ下心って。俺みたいな中忍に構うメリットなんてないだろ。あの人はホントに優しいんだ。昨日だって……」
そう。昨日は人外の生き物を恐くないと言ってくれた。何も人と変わらないかもしれないと。ナルトの中に居る尾獣のことも。
それは木の葉の者が気軽に言える言葉ではない分、カカシ先生の本心に思えた。それならば……
「ところで吸血事件とは何事じゃ」
「あぁ、こないだ集めてた資料あったろ? あれ、本格的に任務としてカカシ先生と調べることになったんだよ。それで今日その被害現場に、ちょうど二人で行き合ったんだ。犯人の女には逃げられちゃったけど」
「吸血、か。嫌な事件じゃな……イルカ、お主も十分気を付けるのじゃよ」
「そんなの分かってるよ……分かってる」
「ところで今日はどうするのじゃ。そろそろ限界ではないのか?」
「う~ん……まあ、ね。とりあえず風呂に入ってからにする」
「そうか。ならば儂は準備をしていよう」
「う……ん。いつもありがとう、羅刹丸」
人外の生き物と人は何も変わらない、か。
それならば、カカシ先生はどんな人外を見てもそう言ってくれるんだろうか。
不意に羅刹丸がイルカの足にぐりぐりとおでこを擦り付けた。あまりの勢いにイルカが「うおっ」とよろめくと、忍猫が貴石のような目でじっと見上げていた。
「あまり考えすぎるでないぞ。……イルカはイルカじゃよ」
カカシはイルカが室内に入るのを見届けたあと、自宅前まで戻ってきた。
だが、うっかり確認し忘れたが、イルカは明日の午前中もアカデミーではないのか。そこで事件のファイルを預かることを思い立ち、アパートに引き返した。
イルカの部屋のドアをノックして「先生ごめん、俺だけどね」と言いかけると、ガチャリと開けて出てきたのはイルカではなく、全身が白っぽい若者だった。
カカシが見下ろすくらいだがナルトよりはやや背が高く、男か女か迷うほど佳麗な容貌。
だが不愉快さを前面に押し出した低い声は、間違いなく男のものだった。
「イルカなら湯浴みをしておる。何用じゃ」
その若者は臆することなくカカシを睨め付けた。
時代がかった白拍子のような衣装を纏い、白というより銀糸のような長い髪を二つに分けて、裾の方を鈴の付いた髪紐で結んである。
頭の両脇にはひどい寝癖なのか、そこだけ短い髪が角のように束で逆立っていた。
そして、目が。
右が金、左が青。色合いこそ違えど、カカシと同じオッドアイ。
しかもやけに瞳が大きく、白目がほとんどない。
……そのせいだろうか。ナルトと同い年くらいに見えるのに、妙な威圧感を感じるのは。
カカシはざっと捉えた目の前の男の特徴を、頭の中の人物リストと照らし合わせたが、該当する者は無かった。
更にじっと観察していると、男は興味をなくしたようにふいと視線を逸らした。
不審な態度にカカシは警戒心を抱いて僅かに殺気を滲ませてみたが、男は全く堪える様子がなかった。チャクラからして忍びではないようだが、一般人でもない。一般人ならこの段階で逃げるまではいかなくとも、怯えるなど何らかの反応を示すはずだ。
「何をぼさっと突っ立っておる。ほれ、用がないなら帰るがよい」
「お前……いや、失礼だけど、アナタどちら様?」
男の不遜な態度にカカシが警戒態勢に入りながら尋ねると、更に傲岸な答えが返ってきた。
「それに答える義理は全くないと思うが」
「シ……羅刹丸! お前、勝手に何してるんだよ! すみませんカカシさん、どうしたんですか?」
慌てて風呂から上がってきたのだろう、濡れ髪にタオルを首にかけ、ズボンを穿いただけの扇情的な姿でイルカが飛び出してくる。
カカシは思わずカッと目を見開き、しっかりとその姿を脳裡に焼き付けた。
「あー、スイマセン、先生は明日の午前中もアカデミーでしょ? その間に資料をもう一度見て、色々検討したいと思って」
「そういやそうか! すみません気が付かなくて。今持ってきます」
イルカがぱたぱたと奥へ去り、資料の入ったファイルを持って戻ってきた。
カカシはイルカが「これで全部だと思うんだけど……」と資料をめくって確認しているのを見て、ふと気が付いた。
「イルカ先生、眼鏡なくても見えるの?」
「え? ……あぁ、夜はよく見えるんですよね。昼の光はちょっと眩しすぎてダメなんです」
あんな瓶底眼鏡をしてるのに? しかも眩しいだけなら、アオバみたいなサングラスにすればいいんじゃないのか?
その時イルカが資料から顔を上げずにカカシを見たため、自然と上目使いになった。
(う、わ……!)
裸眼のイルカは驚くほど黒目が大きかった。それが一片の曇りもなく磨き上げられた黒曜石のように深い輝きを湛え、カカシを映し出している。
思わず吸い寄せられるようにカカシが身を乗り出すと、
「もう用は済んだのじゃろ。ならばさっさと去ね」
羅刹丸とやらがイルカの手からファイルを奪い取ってカカシに押し付けながら、ついでとばかりにグイグイと外へ押し出す。
「あ、ちょっ……」
目の前でバタンとドアが閉ざされた。
と、すぐにまたドアが開いてイルカが申し訳なさそうな顔を覗かせる。
「すみません、色々と失礼を……」
「や、俺も急に戻ってごめ~んね」
後ろでは羅刹丸の「そんなはしたない格好で」などとブツブツ言う声がする。不審人物でもどうやらイルカ先生とかなり親しいようだし、ここは一先ず退散した方が良さそうだ。
カカシは「それじゃ、また明日ね」と明日を強調してにっこり微笑んだ。
イルカがハイと言ったであろう声は、さっきより強くバタンと閉められたドアの音にかき消された。
カカシは盛大に憤慨しながら家路を辿っていた。
結局あの男のあからさまな邪魔で、イルカ先生をゆっくり眺め……いや、話すことが出来なかった。貴重な上半身裸で裸眼の先生だったのに。
それを思い出すとカカシの頬が自然と緩む。
……だが、そもそもアイツはいったい何者なんだ?
あの羅刹丸とかいう、綺麗な若者。先生は俺と同じ天涯孤独だと言ってたから、親戚などではないはずだ。
それ以前に、どことなく人ではない気がする。匂いが違うのだ。僅かに人とは違う、人に似せた歪な匂い。
イルカ先生はアイツのことをちゃんと知っているのだろうか。
……アイツめ! イルカ先生と異常に親しげで、敵愾心むき出しで突っかかってきて。しかもアイツを部屋に置いたまま、先生は普通に風呂に入っていた。若者といっても十分に男だ。あれじゃまるで――
カカシはぴたりと足を止めた。
……あれではまるで、恋人だ。
肚の底からぶわっと黒炎が噴き上がった。
そんな馬鹿な。
今まで何度も呑みに行ったりメシを食いに行ったりしてたのに、イルカ先生は一言もそんなこと言ってなかった。
言ってはくれなかった。
いやそれ以前に、本当に恋人なのだろうか。もう一度戻って二人で過ごす様子を見れば、ハッキリと分かるだろうか。
例えば、窓の外からこっそりと。
今は事件の調査に集中すべき時だ。それにいつ何時任務にも呼び出しが掛かるかもしれない。
――それでも。
カカシは踵を返した。
一度人の顔を見たら忘れない俺の知らない男が、よりによってイルカ先生の傍に居るなんて。
今、この時期に。
これは確認しておくべきだ。もしかしたら事件に関係する者かもしれない。先生が暗示や幻術にかけられて、騙されて一緒に居るのかもしれない。今回の犯人も幻術を使う奴らしいし、アイツなら女に見間違えてもおかしくない。
イルカに幻術等の気配は微塵も感じられなかったことには気付かないふりをして、もっともらしい理由をあれこれ付けながらカカシは今来た道を戻った。
普通に歩いていたのがだんだん早足になり、しまいには塀から屋根へと跳び移って走り出した。
イルカのアパートに向かいながら、頭の片隅でなんとなく思い出す。
そういえば、気配はあったのにシラスの姿がなかったな、と。あれだけカカシを敵視してるのに珍しい。
それにあの羅刹丸の目。
シラスと同じ金と青の色合いだった。ひょっとするとシラスの調教師かもしれない。そういえば雰囲気も匂いも似ていた。まさかそれが縁で、とかなのか?
焦燥感と嫉妬とで脳内をぐらぐらと煮立たせながら、カカシはイルカの許へと急いだ。
アパートに到着すると、今度は玄関ではなく窓の方へと回る。イルカの寝室の外には手頃な銀杏の大木があるのだ。
冬は丸裸になって忍ぶには適してないが、今の時期なら繁った葉がカカシを覆い隠してくれる。まだイルカに興味を持って観察するに留まってた頃から、何度かこの銀杏にはお世話になっていた。
カカシは予備動作なしに跳び上がると、枝を揺らすことなく定位置に着く。
寝室のカーテンはいつものように引かれていない。
防犯上よくないと自分の事は棚に上げてしつこく言っていたが、イルカは女じゃないんですからと笑って聞き入れてくれなかった。そのおおらかさに感謝しながら、室内を見下ろす。
窓が少し開けてあるので二人の声もはっきりと聞こえるし、諜報には絶好の状況だ。例え忍びでも、本来なら囁き程度だと聞き取れない距離だが、カカシは人犬族だ。これくらいならばイルカの匂いやため息まで拾うことができる。
そこでカカシはぐっと拳を握りしめた。
これから自分が目にすることを知る覚悟は、本当にあるのだろうか。
事件に関係あるかもしれないなどと、言い訳のような大義名分があるとはいえ、もしイルカ先生とあの羅刹丸が……
二人が寝室に入ってきた。
羅刹丸は水干と白袴を外し、単衣一枚になっている。
そして窓の正面の奥に、横向きに置かれたベッドに並んで腰掛けた。
――ふらつくイルカを、優しく抱き抱えるようにしながら。
カカシはひゅっと息を呑み込んだが、まだだ。まだ分からない。イルカ先生が急に具合が悪くなったのかもしれないじゃないか。
だがそんな一縷の望みにかけたカカシの予想は、呆気なく覆された。
イルカが羅刹丸にキスをしたのだ。
子供がふざけて頬に軽くするようなものではなく、濃厚な舌を絡めるキスを。イルカから。
そしてイルカは羅刹丸の胸をまさぐり、衿元に手を入れて脱がせようとしていた。
「らせ……っ、早く……!」
「しばし待てイルカ、儂は逃げぬのだから」
そう宥めながら羅刹丸が素早く片袖を抜き、左胸に爪で一筋、傷を引いた。
瞬く間に血が溢れ、白い胸に幾筋もの紅く細い線が落ちていく。
するとイルカが羅刹丸の脱いでない方の衿を掴んで、カタカタと震え出した。
「何を躊躇っておる。もう限界なのであろう」
「だ……って俺は……やだよ、こんな……あさましい……っ」
イルカがぼろぼろと泣き出した。
涙を溢れさせながらも、その目は流れる血に釘付けになっている。
「本能に従うは命ある者の理。どこに躊躇う必要があるのじゃ。お主は本当に優しい子よ……あさましきはお主の嫌がることをさせる儂じゃ。さあ、いい子だから儂のためと思って、ほれ」
羅刹丸がそっとイルカの頭を引き寄せ、傷口に押し付ける。
イルカは泣きながらそこにむしゃぶりついた。
ほどなく嗚咽は消え、荒い息遣いでびちゃびちゃと音を立てて流れた血を舐めとり、傷口に吸い付いている。
しばらくすると血の流れが止まってしまったのか、イルカが聞いたこともないような甘い声でねだる。
それはカカシがずっとイルカに上げさせたいと思っていた、甘い悲鳴。
「あ……も、っと…らせつ、まるぅ……もっとちょう…だ……!」
「焦らずとも好きなだけ飲むとよい。ほれ、今度はこっちに」
羅刹丸がイルカの髪を撫でながら、優しく頭を自分の顔の方に引き寄せた。
するとイルカが。
羅刹丸の顔を両手で掴み、喰らい付くように口付けをした。
押し倒さんばかりの勢いで羅刹丸の口腔を貪っているので、羅刹丸の顔が仰け反ってカカシにはっきりと見えた。
イルカの顔を汚していたのか、羅刹丸の口から顎の辺りまで己の血でべっとりと濡れ、そしてイルカは――
羅刹丸の血で紅く染まり、恍惚とした表情を浮かべたイルカは、うっすらと微笑っていた。
微笑いながら手の甲で自分の顔を拭って、付いた血をぺろぺろと舐め、それから羅刹丸の顔の血も舌で綺麗に舐めとっていた。
先ほどまでの餓えたような様子は消え失せ、満足げに目を閉じて、じっくりと味わうように。
恐怖ではない何かでカカシの全身の肌が粟立つほどに、それは凄絶で淫猥な光景だった。
イルカのアパートから瞬身で自宅に戻ったカカシは、そのまま倒れ込むように四つん這いの姿勢になった。
視界がぐらぐらと揺れる。握りしめた両手がぶるぶると震える。食いしばっても食いしばっても歯がカチカチと鳴る。
怒りなのか嫉妬なのか性的興奮なのか、沸き上がる感情を制御できない。こんなことは初めてだった。
――太く鋭い犬歯が歯茎を押し広げて伸び、歯の鳴る音が重く変わる。
外耳がひきつれ、上へ引っ張られるように伸びるのを感じる。
喉の奥から漏れるのは、呻き声から唸り声へと変わっている。
激情のあまり、人「犬」族の地を這う獣に相応しい姿になりつつあったが、今のカカシにはそれさえ些細なことだった。
あれは……「アレ」は何なのか。
性的行為には至ってなかったが、十分に閨を思わせる雰囲気だった。
それに、あの血。
イルカ先生は明らかに羅刹丸の血を吸い、舐めていた。羅刹丸も喜んで与えているようだった。
しかもあれは昨日今日始めた事ではなく、恐らくもうずっと前から続いてたような、日常の延長。
アレは闇に隠された二人の性癖なのか?
……だがイルカは泣いていた。
嫌がるイルカに、羅刹丸が宥めながら血を与えているように見えた。
そこには他の者を寄せ付ける隙のないほど、強固な絆があった。文字通り、血の絆で固く結ばれているかのように。
カカシの脳裏に繰り返し甦るのは、涙ながらに羅刹丸の胸にむしゃぶりつくイルカと、口の回りを暗赤色に染めながら舌なめずりをし、恍惚としていたイルカの微笑で。
己の血を与えることでイルカが自分のモノになるのであれば、今すぐにでも羅刹丸を引き裂き、イルカを存分に犯し尽くしてやりたいと。
――ただひたすら、荒れ狂う獣の本能に抗っていた。
コツ、コツと窓ガラスを叩く音がする。
一瞬、カカシは何の音なのか認識できなかった。忍びである自分を完全に失念していたのだ。
が、すぐに我に返り、強張る手を無理矢理動かして窓を開け、小鳥を招き入れる。
飛び込んで来たのは綱手からの式鳥のオナガだった。今回は室内を飛び回ることもなく、すぐにポフンと煙を上げる。後に残った紙面をカカシは手に取って開いた。
そこには赤で一文字、「集」と緊急召集の旨が記されていた。
ドアの鍵を開けてから振り返ると、カカシがまだこちらを見ている。犯人が野放しになったままなので、念のため警戒してくれているのだろう。
(相変わらず過保護な人だなぁ。まるでシラスみたいだ)
苦手な猫と並べられたことを知ったら、カカシ先生は口を尖らせて不満げな顔をするのだろうか。あの人は時々妙に子供っぽくなる時がある。
胸の内でこっそり苦笑すると、イルカはカカシにペコリと頭を下げ、ドアを閉めた。
「……今日も犬使いと一緒だったのか。一段と犬臭いぞ」
イルカの足元で不機嫌さを隠さず、だがその長くたっぷりとした毛量の尻尾をまとわりつかせ、体を擦り付けながら大きな白い猫が話しかけてきた。
「ただいまシラス。あのなぁ……何度も言ってるけど、犬使いなんてカカシ先生に失礼だろ」
「二人の時はその名で呼ぶな。それに実際あやつは犬使いであろうが。犬臭くて胡散臭い奴じゃ」
「そんなことない、カカシ先生はいい人だよ。今だって吸血事件の犯人が野放しになってるからって、何も言わずに家まで送ってくれたんだぞ」
「ふん、そんなの下心があるからに決まっていよう。あやつには気を付けよ」
「何だよ下心って。俺みたいな中忍に構うメリットなんてないだろ。あの人はホントに優しいんだ。昨日だって……」
そう。昨日は人外の生き物を恐くないと言ってくれた。何も人と変わらないかもしれないと。ナルトの中に居る尾獣のことも。
それは木の葉の者が気軽に言える言葉ではない分、カカシ先生の本心に思えた。それならば……
「ところで吸血事件とは何事じゃ」
「あぁ、こないだ集めてた資料あったろ? あれ、本格的に任務としてカカシ先生と調べることになったんだよ。それで今日その被害現場に、ちょうど二人で行き合ったんだ。犯人の女には逃げられちゃったけど」
「吸血、か。嫌な事件じゃな……イルカ、お主も十分気を付けるのじゃよ」
「そんなの分かってるよ……分かってる」
「ところで今日はどうするのじゃ。そろそろ限界ではないのか?」
「う~ん……まあ、ね。とりあえず風呂に入ってからにする」
「そうか。ならば儂は準備をしていよう」
「う……ん。いつもありがとう、羅刹丸」
人外の生き物と人は何も変わらない、か。
それならば、カカシ先生はどんな人外を見てもそう言ってくれるんだろうか。
不意に羅刹丸がイルカの足にぐりぐりとおでこを擦り付けた。あまりの勢いにイルカが「うおっ」とよろめくと、忍猫が貴石のような目でじっと見上げていた。
「あまり考えすぎるでないぞ。……イルカはイルカじゃよ」
カカシはイルカが室内に入るのを見届けたあと、自宅前まで戻ってきた。
だが、うっかり確認し忘れたが、イルカは明日の午前中もアカデミーではないのか。そこで事件のファイルを預かることを思い立ち、アパートに引き返した。
イルカの部屋のドアをノックして「先生ごめん、俺だけどね」と言いかけると、ガチャリと開けて出てきたのはイルカではなく、全身が白っぽい若者だった。
カカシが見下ろすくらいだがナルトよりはやや背が高く、男か女か迷うほど佳麗な容貌。
だが不愉快さを前面に押し出した低い声は、間違いなく男のものだった。
「イルカなら湯浴みをしておる。何用じゃ」
その若者は臆することなくカカシを睨め付けた。
時代がかった白拍子のような衣装を纏い、白というより銀糸のような長い髪を二つに分けて、裾の方を鈴の付いた髪紐で結んである。
頭の両脇にはひどい寝癖なのか、そこだけ短い髪が角のように束で逆立っていた。
そして、目が。
右が金、左が青。色合いこそ違えど、カカシと同じオッドアイ。
しかもやけに瞳が大きく、白目がほとんどない。
……そのせいだろうか。ナルトと同い年くらいに見えるのに、妙な威圧感を感じるのは。
カカシはざっと捉えた目の前の男の特徴を、頭の中の人物リストと照らし合わせたが、該当する者は無かった。
更にじっと観察していると、男は興味をなくしたようにふいと視線を逸らした。
不審な態度にカカシは警戒心を抱いて僅かに殺気を滲ませてみたが、男は全く堪える様子がなかった。チャクラからして忍びではないようだが、一般人でもない。一般人ならこの段階で逃げるまではいかなくとも、怯えるなど何らかの反応を示すはずだ。
「何をぼさっと突っ立っておる。ほれ、用がないなら帰るがよい」
「お前……いや、失礼だけど、アナタどちら様?」
男の不遜な態度にカカシが警戒態勢に入りながら尋ねると、更に傲岸な答えが返ってきた。
「それに答える義理は全くないと思うが」
「シ……羅刹丸! お前、勝手に何してるんだよ! すみませんカカシさん、どうしたんですか?」
慌てて風呂から上がってきたのだろう、濡れ髪にタオルを首にかけ、ズボンを穿いただけの扇情的な姿でイルカが飛び出してくる。
カカシは思わずカッと目を見開き、しっかりとその姿を脳裡に焼き付けた。
「あー、スイマセン、先生は明日の午前中もアカデミーでしょ? その間に資料をもう一度見て、色々検討したいと思って」
「そういやそうか! すみません気が付かなくて。今持ってきます」
イルカがぱたぱたと奥へ去り、資料の入ったファイルを持って戻ってきた。
カカシはイルカが「これで全部だと思うんだけど……」と資料をめくって確認しているのを見て、ふと気が付いた。
「イルカ先生、眼鏡なくても見えるの?」
「え? ……あぁ、夜はよく見えるんですよね。昼の光はちょっと眩しすぎてダメなんです」
あんな瓶底眼鏡をしてるのに? しかも眩しいだけなら、アオバみたいなサングラスにすればいいんじゃないのか?
その時イルカが資料から顔を上げずにカカシを見たため、自然と上目使いになった。
(う、わ……!)
裸眼のイルカは驚くほど黒目が大きかった。それが一片の曇りもなく磨き上げられた黒曜石のように深い輝きを湛え、カカシを映し出している。
思わず吸い寄せられるようにカカシが身を乗り出すと、
「もう用は済んだのじゃろ。ならばさっさと去ね」
羅刹丸とやらがイルカの手からファイルを奪い取ってカカシに押し付けながら、ついでとばかりにグイグイと外へ押し出す。
「あ、ちょっ……」
目の前でバタンとドアが閉ざされた。
と、すぐにまたドアが開いてイルカが申し訳なさそうな顔を覗かせる。
「すみません、色々と失礼を……」
「や、俺も急に戻ってごめ~んね」
後ろでは羅刹丸の「そんなはしたない格好で」などとブツブツ言う声がする。不審人物でもどうやらイルカ先生とかなり親しいようだし、ここは一先ず退散した方が良さそうだ。
カカシは「それじゃ、また明日ね」と明日を強調してにっこり微笑んだ。
イルカがハイと言ったであろう声は、さっきより強くバタンと閉められたドアの音にかき消された。
カカシは盛大に憤慨しながら家路を辿っていた。
結局あの男のあからさまな邪魔で、イルカ先生をゆっくり眺め……いや、話すことが出来なかった。貴重な上半身裸で裸眼の先生だったのに。
それを思い出すとカカシの頬が自然と緩む。
……だが、そもそもアイツはいったい何者なんだ?
あの羅刹丸とかいう、綺麗な若者。先生は俺と同じ天涯孤独だと言ってたから、親戚などではないはずだ。
それ以前に、どことなく人ではない気がする。匂いが違うのだ。僅かに人とは違う、人に似せた歪な匂い。
イルカ先生はアイツのことをちゃんと知っているのだろうか。
……アイツめ! イルカ先生と異常に親しげで、敵愾心むき出しで突っかかってきて。しかもアイツを部屋に置いたまま、先生は普通に風呂に入っていた。若者といっても十分に男だ。あれじゃまるで――
カカシはぴたりと足を止めた。
……あれではまるで、恋人だ。
肚の底からぶわっと黒炎が噴き上がった。
そんな馬鹿な。
今まで何度も呑みに行ったりメシを食いに行ったりしてたのに、イルカ先生は一言もそんなこと言ってなかった。
言ってはくれなかった。
いやそれ以前に、本当に恋人なのだろうか。もう一度戻って二人で過ごす様子を見れば、ハッキリと分かるだろうか。
例えば、窓の外からこっそりと。
今は事件の調査に集中すべき時だ。それにいつ何時任務にも呼び出しが掛かるかもしれない。
――それでも。
カカシは踵を返した。
一度人の顔を見たら忘れない俺の知らない男が、よりによってイルカ先生の傍に居るなんて。
今、この時期に。
これは確認しておくべきだ。もしかしたら事件に関係する者かもしれない。先生が暗示や幻術にかけられて、騙されて一緒に居るのかもしれない。今回の犯人も幻術を使う奴らしいし、アイツなら女に見間違えてもおかしくない。
イルカに幻術等の気配は微塵も感じられなかったことには気付かないふりをして、もっともらしい理由をあれこれ付けながらカカシは今来た道を戻った。
普通に歩いていたのがだんだん早足になり、しまいには塀から屋根へと跳び移って走り出した。
イルカのアパートに向かいながら、頭の片隅でなんとなく思い出す。
そういえば、気配はあったのにシラスの姿がなかったな、と。あれだけカカシを敵視してるのに珍しい。
それにあの羅刹丸の目。
シラスと同じ金と青の色合いだった。ひょっとするとシラスの調教師かもしれない。そういえば雰囲気も匂いも似ていた。まさかそれが縁で、とかなのか?
焦燥感と嫉妬とで脳内をぐらぐらと煮立たせながら、カカシはイルカの許へと急いだ。
アパートに到着すると、今度は玄関ではなく窓の方へと回る。イルカの寝室の外には手頃な銀杏の大木があるのだ。
冬は丸裸になって忍ぶには適してないが、今の時期なら繁った葉がカカシを覆い隠してくれる。まだイルカに興味を持って観察するに留まってた頃から、何度かこの銀杏にはお世話になっていた。
カカシは予備動作なしに跳び上がると、枝を揺らすことなく定位置に着く。
寝室のカーテンはいつものように引かれていない。
防犯上よくないと自分の事は棚に上げてしつこく言っていたが、イルカは女じゃないんですからと笑って聞き入れてくれなかった。そのおおらかさに感謝しながら、室内を見下ろす。
窓が少し開けてあるので二人の声もはっきりと聞こえるし、諜報には絶好の状況だ。例え忍びでも、本来なら囁き程度だと聞き取れない距離だが、カカシは人犬族だ。これくらいならばイルカの匂いやため息まで拾うことができる。
そこでカカシはぐっと拳を握りしめた。
これから自分が目にすることを知る覚悟は、本当にあるのだろうか。
事件に関係あるかもしれないなどと、言い訳のような大義名分があるとはいえ、もしイルカ先生とあの羅刹丸が……
二人が寝室に入ってきた。
羅刹丸は水干と白袴を外し、単衣一枚になっている。
そして窓の正面の奥に、横向きに置かれたベッドに並んで腰掛けた。
――ふらつくイルカを、優しく抱き抱えるようにしながら。
カカシはひゅっと息を呑み込んだが、まだだ。まだ分からない。イルカ先生が急に具合が悪くなったのかもしれないじゃないか。
だがそんな一縷の望みにかけたカカシの予想は、呆気なく覆された。
イルカが羅刹丸にキスをしたのだ。
子供がふざけて頬に軽くするようなものではなく、濃厚な舌を絡めるキスを。イルカから。
そしてイルカは羅刹丸の胸をまさぐり、衿元に手を入れて脱がせようとしていた。
「らせ……っ、早く……!」
「しばし待てイルカ、儂は逃げぬのだから」
そう宥めながら羅刹丸が素早く片袖を抜き、左胸に爪で一筋、傷を引いた。
瞬く間に血が溢れ、白い胸に幾筋もの紅く細い線が落ちていく。
するとイルカが羅刹丸の脱いでない方の衿を掴んで、カタカタと震え出した。
「何を躊躇っておる。もう限界なのであろう」
「だ……って俺は……やだよ、こんな……あさましい……っ」
イルカがぼろぼろと泣き出した。
涙を溢れさせながらも、その目は流れる血に釘付けになっている。
「本能に従うは命ある者の理。どこに躊躇う必要があるのじゃ。お主は本当に優しい子よ……あさましきはお主の嫌がることをさせる儂じゃ。さあ、いい子だから儂のためと思って、ほれ」
羅刹丸がそっとイルカの頭を引き寄せ、傷口に押し付ける。
イルカは泣きながらそこにむしゃぶりついた。
ほどなく嗚咽は消え、荒い息遣いでびちゃびちゃと音を立てて流れた血を舐めとり、傷口に吸い付いている。
しばらくすると血の流れが止まってしまったのか、イルカが聞いたこともないような甘い声でねだる。
それはカカシがずっとイルカに上げさせたいと思っていた、甘い悲鳴。
「あ……も、っと…らせつ、まるぅ……もっとちょう…だ……!」
「焦らずとも好きなだけ飲むとよい。ほれ、今度はこっちに」
羅刹丸がイルカの髪を撫でながら、優しく頭を自分の顔の方に引き寄せた。
するとイルカが。
羅刹丸の顔を両手で掴み、喰らい付くように口付けをした。
押し倒さんばかりの勢いで羅刹丸の口腔を貪っているので、羅刹丸の顔が仰け反ってカカシにはっきりと見えた。
イルカの顔を汚していたのか、羅刹丸の口から顎の辺りまで己の血でべっとりと濡れ、そしてイルカは――
羅刹丸の血で紅く染まり、恍惚とした表情を浮かべたイルカは、うっすらと微笑っていた。
微笑いながら手の甲で自分の顔を拭って、付いた血をぺろぺろと舐め、それから羅刹丸の顔の血も舌で綺麗に舐めとっていた。
先ほどまでの餓えたような様子は消え失せ、満足げに目を閉じて、じっくりと味わうように。
恐怖ではない何かでカカシの全身の肌が粟立つほどに、それは凄絶で淫猥な光景だった。
イルカのアパートから瞬身で自宅に戻ったカカシは、そのまま倒れ込むように四つん這いの姿勢になった。
視界がぐらぐらと揺れる。握りしめた両手がぶるぶると震える。食いしばっても食いしばっても歯がカチカチと鳴る。
怒りなのか嫉妬なのか性的興奮なのか、沸き上がる感情を制御できない。こんなことは初めてだった。
――太く鋭い犬歯が歯茎を押し広げて伸び、歯の鳴る音が重く変わる。
外耳がひきつれ、上へ引っ張られるように伸びるのを感じる。
喉の奥から漏れるのは、呻き声から唸り声へと変わっている。
激情のあまり、人「犬」族の地を這う獣に相応しい姿になりつつあったが、今のカカシにはそれさえ些細なことだった。
あれは……「アレ」は何なのか。
性的行為には至ってなかったが、十分に閨を思わせる雰囲気だった。
それに、あの血。
イルカ先生は明らかに羅刹丸の血を吸い、舐めていた。羅刹丸も喜んで与えているようだった。
しかもあれは昨日今日始めた事ではなく、恐らくもうずっと前から続いてたような、日常の延長。
アレは闇に隠された二人の性癖なのか?
……だがイルカは泣いていた。
嫌がるイルカに、羅刹丸が宥めながら血を与えているように見えた。
そこには他の者を寄せ付ける隙のないほど、強固な絆があった。文字通り、血の絆で固く結ばれているかのように。
カカシの脳裏に繰り返し甦るのは、涙ながらに羅刹丸の胸にむしゃぶりつくイルカと、口の回りを暗赤色に染めながら舌なめずりをし、恍惚としていたイルカの微笑で。
己の血を与えることでイルカが自分のモノになるのであれば、今すぐにでも羅刹丸を引き裂き、イルカを存分に犯し尽くしてやりたいと。
――ただひたすら、荒れ狂う獣の本能に抗っていた。
コツ、コツと窓ガラスを叩く音がする。
一瞬、カカシは何の音なのか認識できなかった。忍びである自分を完全に失念していたのだ。
が、すぐに我に返り、強張る手を無理矢理動かして窓を開け、小鳥を招き入れる。
飛び込んで来たのは綱手からの式鳥のオナガだった。今回は室内を飛び回ることもなく、すぐにポフンと煙を上げる。後に残った紙面をカカシは手に取って開いた。
そこには赤で一文字、「集」と緊急召集の旨が記されていた。
スポンサードリンク