【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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「こんなときに」
カカシは式を握りつぶした。
――あの男はいったい誰なのか、イルカ先生とはどういう関係なのか。そういったことをすべて投げ出して逃げ帰ってしまった。
あの男とイルカ先生との間に己が入り込む余地はあるのか、いや、それ以前にあの男は何者だ。本当に危険はないのか!?
やはりどんな手を使ってでもイルカ先生とあの男を引き離すべきで、あの男の身元が分かるまで俺の手元において守るべきだったのだ。
だって、どう考えたってあの二人の行動は人の理を外れている。
こんなときに里を離れなければいけないって? どれくらいの日数?
その間に先生はまたあの男に肌を晒すの?
綱手より直々に吸血事件を任されたカカシの元に、綱手本人から緊急の式が届く。
その意味をカカシはよく分かっている。
どんな理由があれ無視するわけにはいかない。
『人たる前に忍びであれ』
幼い頃より刷り込まれた価値観と、それに相反するカカシの真実の思いが、彼の心を激しく乱している。
――任務にはいかねばならない。でも、イルカ先生が……。じゃぁ、どうする? どうすればいい!?
ベッドに身を横たえた羅刹丸は、眠るイルカの身体を抱きしめていた。
黒く艶やかな髪を何度も何度も愛おしげに梳き、頬に残る涙の痕を指先で辿り、健やかなイルカの寝顔を慈しみと苦しみの入り混じった表情で見つめている。
「いつもいつも血を分け与えるたびにあのように泣いて自分を責めよってからに。イルカは優しいのぅ、ちぃと優しすぎるくらいじゃ。その優しさにつけこもうとする輩も出てきたようじゃし。……ふむ。ここはひとつイルカが誰のものかハッキリさせてやろうかの」
羅刹丸はイルカの首筋に顔を寄せると形のよい唇をひらき肌に勢いよく噛みついた。
「アァッ……うっ!? な、なに?」
「イルカよ寝ておるところすまんの。すぐ終わるから耐えておれ。ちぃと痛むぞ?」
羅刹丸は再びイルカの首筋に強く噛みつくと、ザリザリとした舌先でイルカの肌に梵字を記しはじめた。
「あっ……はぁっ……あぁああ、なっ、なんだっ!?……なにかが流れ込んでく……るっ!」
陸に打ち上げられた魚のように、のたうつイルカの身体を力ずくで抑え込み、羅刹丸は舌先を動かし続ける。
「らせ……つまるっ!! いっ……いやだっ、いやぁッッ!」
肌にたてられた歯や舌先からとてつもない妖力と、身を焼き尽くすような熱がイルカに流れ込んでくる。
――なに、これ? こわい、こわい、こわい。いやだ、いやだ、いやだ!! たすけて!!
「やめっ……!」
――いつだって羅刹丸は俺のことを一番に考えてくれて、俺の嫌がることはなにひとつしなかったのに! こんなの、羅刹丸じゃないっ。
「らせっ……! やだぁ」
羅刹丸は困り果てた顔でイルカから唇を外した。
「これ、イルカよ。そのように騒ぎ立てるでない。前々から言うておったが夜明けまでに儂は己の里にもどらねばならん。その前に儂の妖力をお主に分けておるのじゃ。最近なにかとお主のまわりは物騒じゃからのぅ」
「でもっ、だって躰が。おかしいッ」
「安心せい。その違和感は一時的なものじゃ」
羅刹丸が再びイルカの肌に歯をたてると、イルカは全身を震わせ羅刹丸の身体に縋りついてくる。
羅刹丸はその背をトントンと優しく叩きながらも、梵字を記していく舌の動きに一切の容赦も見せなかった。
やがて文字をすべて記し終えた羅刹丸は、イルカから身を離し、荒い息をつく愛し子を見て満足げに微笑む。
「よく耐えたの。これでお主には巷を騒がしておる吸血女も、あの忌々しい犬使いも容易に手を出せぬはずじゃ」
イルカは朦朧とした意識で、それでも懸命に首を縦に振り、羅刹丸に己の理解を伝えると深い眠りへと落ちていった。
その半刻ほど後。
イルカのアパートの前にカカシの姿があった。
結局カカシはイルカの問題を棚上げにして任務に出ることは出来なかったのだ。
「せんせ、イルカせんせ」
玄関のドアを控え目にノックし、カカシは想い人を呼んだ。
小さくはあるが忍びなら充分に聞き取れるその声に答えはなく、カカシの胸にジワリと不安が広がる。
忍服のポケットから取り出した針金を鍵穴に差し込み細やかに動かすこと数秒。
カチリという音をさせ、鍵はその機能を手放した。
カカシは手甲をはめた手でドアノブを掴み、押し開ける。
「カカシです! 入ります!」
嫌な予感に乱れる心音を整えようともせず、カカシはドアの中へと足を踏み入れた。
小さな玄関にはイルカの靴とつっかけが一足づつ並べられており、置物の類などは一切ない。
玄関から奥へと一直線に続く廊下は綺麗に掃き清められていて、その左側には3つのドアが並んでいる。
その最奥のドアは開け放たれており、そこにイルカの気配があった。
白い男と猫の気配がないことに小さな違和感を覚えながら、カカシはイルカの眠る部屋をめざし廊下を歩く。
中ほどまできたところで、イルカの安らかな寝息に気付き、カカシはホッと胸をなで下ろした。
――よかった、無事だった。本当に……よかった。
先生を起こして、夜半に勝手に家にあがりこんだ非礼をまずは詫びよう。それから、あの白い男のことを臆せず聞こう。あの男と離れて暮らすように、なんだったら俺の家で暮らすように説得しなければ。
そう己に言い聞かせながら寝室に入ると、ベットの真ん中にこんもりとしたブランケットの山を見つける。
すぴーすぴーと何とも平和な音にあわせて僅かに上下するその山を、カカシは驚きと感嘆をもって愛しく眺めた。
毛布の下で、忍びであるイルカがカカシの気配を警戒することなく熟睡している。
この事実がカカシを幸せにしたのだ。
気持ちが大きくなったカカシはベッドの端に腰をかけ、こんもりした毛布をとーんとーん、と優しく叩いた。
もぞり、と毛布の山がうごき、中からにゅぅっと手が伸びてくる。
――かわいい……
カカシがその手を握りしめた途端、胸に恋慕が湧き上がり、すざまじい勢いでカカシの全身を駆け巡った。
愛しい、愛しい。大事、大好き。先生が、大好き。
勇気をだしてゆっくりと上掛けを剥いでみると、「ん」と声を漏らしながらイルカの手がカカシの腰に巻きついてくる。
「イルカ先生」
幸せの絶頂でカカシはイルカを呼び、その髪に触れた。
「……へっ!? え!? あっ!? カ、カカシさんっ!?」
がばりと飛び起きるイルカも可愛くて。
だけど、カカシは見つけてしまったのだ。
イルカの左の首筋、ちょうど耳の少し下に残る激しい口付けの痕を。
「誰です……!」
自分でも聞いたことのないくらい冷えた声で、カカシは問うた。
その鋭さにイルカは身を正す。
「え……? な、なんのことですか?」
状況についていけないイルカは、カカシの激しい口調に追い詰められベッドの奥へと身体を逃がしながら、射るような視線が己の首筋に当てられていることに気付いた。
――ここは、羅刹丸が噛みついたところだ。きっと痕が残っているんだ。
イルカは慌てて掌でソコを覆った。
「羅刹丸ですか!? あの男はいったい何者だ! あなたとはどういう関係なんです」
「ら、羅刹丸は、俺の同居人で、お、弟みたいなもので」
カカシの顔に怒りから朱が走った。
目にもとまらぬ速さで繰り出された拳がイルカの喉元でピタリと止まり、開かれる。
その手はイルカの手首をつかみ首筋から引き離そうと動いた。
「いっ、いやだ」
「見せてください」
「いやです」
「見せるんだ!!」
声を荒げたカカシが、力ずくでイルカの手を引きはがす。
筋の浮き出た首の、男にしてはなめらかな肌に残る歯型。そのひとつひとつをカカシは指先で辿っていく。
青黒く鬱血した肌は痛々しくもあり、卑猥でもあった。
カカシは口布の下の唇を歪めた。ずいと顔を近づけ間近で見る。
「これはまるで情交の痕だ。あなたは、弟みたいな男と何をしていたんです?」
殺気さえ孕む声でカカシはイルカを問い詰めるが、驚くべきことにイルカはこの短いやりとりのなかで冷静さを取り戻していた。
「カカシさん、その問いに答える義務は俺にありません」
「!!」
ブワリと剣呑なチャクラがカカシの全身から吹き出し、イルカはカカシの怒りが更に増したことを知る。しかし、怯むことなくカカシを引き離し、その片方の目を真っ直ぐに睨み付ける。
カカシはひどく意地の悪い気持ちで、唇を開いた。
「先生、義務ならありますよ。これは今回の事件にかかわる問題だと俺は思っています」
イルカの手首から手を離し、すぃと窓の外にそびえる銀杏の太い枝を指さす。
「あそこから、見ていました。あの男が自分の胸に傷をつけ、血を流し、その血をアナタに与える一部始終を」
イルカの顔からみるみる血の気が引いていく。
目に絶望とも怒りともとれる剣呑な光を湛えながらも、恐怖にうち震えるイルカを、カカシは言葉と眼光で更に追い詰めていく。
「あの男はあまりにも危険で得体が知れない。あなたは奴から離れるべきだ。 奴は犯人と何らかの関係があると考えています、いや犯人である可能性だって十分にあり得る!」
「やめてください!」
手負いの獣のような激しさでイルカが叫ぶ。
「羅刹丸は、ずっと俺を支えてきてくれた大事な人です! 犯人なんかじゃありません!」
涙の膜のはった大きな瞳に真っ向から見据えられて、カカシは言葉を失った。
「あの行為だって、完全に俺の都合で……。カカシさん、俺の身体には秘密があるんです。カカシさんが見て異様と感じた行為はすべてその秘密にまつわることで事件とは関わりありません。今言えることはこれだけです。不審に思うのは最もです。だけど、俺を信じてはくれないでしょうか」
はりつめた表情を見たカカシの心にある考えが浮かぶ。
イルカ先生は相当な覚悟でひた隠しに隠してきた秘密を告げたのだ。
羅刹丸を守る、ただそれだけの為に。
なぜ?
そんなの決まってる。イルカ先生が羅刹丸を愛しているから。
弟みたいな、なんて言葉に騙されたりしない。先生の心も身体もずっと前から羅刹丸のものなんだ。
この思いは確信へと育ち、カカシの心をひどく痛めつけた。
「俺は……あなたを……」
愛しているから
「信じますよ。イルカ先生」
ふうっ、と安堵の溜息を漏らしたイルカの顔をみて、カカシは泣きそうになった。
「ゴメン……そんなふうにアナタを追い詰めるつもりじゃなかったんです」
「いえ。アレを見たというのであれば、俺たちが犯人じゃないかと疑うのも当然です」
「俺が先生を疑うわけがありません。俺はただ、あなたに危険が及んでいるんじゃないかと心配でたまらなくて」
「だから影分身で様子を見に来てくださったんですか?」
「それ……いつから気付いていたの?」
「カカシさんに手を掴まれたときですよ。チャクラが不自然に乱れていたので探っていたんです。そうしたらやっぱり。でも、カカシさん影分身に半分もチャクラを裂くなんて正気ですか!?」
「先生は怒るかもしれないけど、俺はそれだけ羅刹丸を危険だと感じていたんです」
「カカシさん、俺は大丈夫です。はやく影分身を解いてください。本体は今任務中なんでしょう?」
「ええ」
「ランクは?」
イルカの強い瞳にカカシが逆らえるわけもない。
「Sの単独です」
はっ、とイルカが息を飲んだ。
「な……にやってんですかっ! 俺の心配より、自分の心配をしろっ!」
「でもっ、俺はあなたがっ!」
「でもじゃねぇ!! さっさと本体に戻れよ!」
イルカは拳を固く握りこみ、影分身の腹に打ち込んだ。
「無事に帰ってこいよ!」
「くっ……なるべく……早く戻り」
ボフン!!
イルカの元に置いていた影分身が本体へと戻り、記憶が統合される。
すざまじい勢いで流れてくる事実のあまりの衝撃に、夜明け前の森を全力で駆けていたカカシはその足を止めざるを得なかった。
「ハハ……なんてことだ、イルカ先生と奴がそんな……」
絶望からか嫌悪感からか、カカシの胃が激しく痙攣しだした。
酷い嘔吐感に襲われたカカシは口布を下げ、身をかがめ胃の中のものを数回に分けて地面へとぶちまけた。
イルカ先生、それでも俺はあなたを。
あなたが。あなただけが……
「カカシさん……」
ショックでイルカの頭の中はぐちゃぐちゃだった。
――重要な任務なのに影分身まで出して、俺を心配してくれたカカシさん。俺を信じると言ってくれたカカシさん。
カカシの真摯で誠実な言動は、イルカにとって貴いものだった。
そして、その感情が自分に向けられているという誇らしさと喜び。
――だけど、本当のことを知ったら、カカシさんは俺をどんな目で見るのだろう。憐みの目? それとも蔑みの目? 父さん、母さん、俺は……俺の身体はどうなってるんだ……。
何故、定期的に血を欲するのか。
これは、物心ついた頃からイルカが持ち続けた疑問だった。
幼い頃に、イルカは「血なんて飲まない!」とはげしく抵抗し、泣き叫んだことがある。
母はそんなイルカを抱きしめ、涙ながらにこう諭したのだ。
「大人になったら身体の秘密を全て教えるから、それまでは何も考えないでいて。血が欲しいときは我慢しないで私たちか羅刹丸のものを飲みなさい。そうしないと、お前は生きていけないのよ。大丈夫、大丈夫だから。大人になって番が見つかれば、何もかも上手くいくから」
そのときの母親があまりに悲しそうで、イルカはもうこの疑問を口にすることが出来なくなってしまった。ただひたすらに大人になる日を待ち続け、耐え忍んでいたのだが、そのときが訪れる前に九尾の災厄が里を襲い、両親は他界してしまった。
「はぁ」
1人で負うにはあまりにも大きな秘密だった。この秘密のせいで、人と深くかかわることを避けてきた。恋人なんてもってのほかで、羅刹丸だけが友であり家族だった。それで満足だった。
――でもカカシさんは……。カカシさんとは固い友情を築きたい。カカシさんは、俺のすべてを知っても変わらず側にいてくれるだろうか?
心をよぎった疑問に、イルカは少なからず動揺していた。
他人にこんなふうに興味をもつのは初めてで。
「今はこんなことを考えている場合じゃない。カカシさんの分まで任務に集中しないと!!」
パシンと両頬を叩いて気合いを込め、イルカはベットから勢いよく立ち上がった。
手早く支給服に着替え、自宅を後にする。
――今日は、事件現場になった里外れの竹林を調査しよう。
里外れの塗装もされていない道に、傷だらけの女が転がっていた。
――いた……い でも、このままでは、ダメ……
女は、荒い呼吸を整えはじめた。
このまま不自然な体勢をとりつづけては、痛みに凝り固まった筋肉が骨を締めあげ、更なる苦痛をもたらすことに気付いたからだ。
痛みを受け入れるようにゆっくりと息を吸い、また慎重に息を吐きながら、丸まった背中を少しずつ、緩めていく。
それは大変な苦痛と鉄の意志を必要とする作業だった。
珍しい。という理由だけで、女は躰の秘密を暴かれ、蹂躙され、実験動物として飼い殺されるところだった。研究という名のもとに、どれだけ残酷な仕打ちを受けたことか。
首謀者の男、大蛇丸が里を出た隙をついて女は逃げ出したのだ。
――いやだ、いやだ。 このまま死んでなるものか……!
やっとの思いで背中を伸ばし終えた女は、目を閉じてしばしの休息をとる。
すると睡魔が襲ってくる。とうに限界を超えていた躰は睡眠を要求していた。
けれど、ここで眠ってしまえば、また掴まってしまうかもしれない。
でも、とても、ねむ……く……て……。逃げ……なきゃ。
意識はそこで途切れた。
目が覚めたのは、明るい部屋の中だった。
肌に触れる空気が妙に生温かく、湿り気を帯びているのが不思議だった。
そう遠くない距離から、シュンシュンと絶え間ない音が聞こえてくる。
なるほど、と女は思った。
あれはきっと、薬缶が湯気をたてている音。
実験室に連れ戻されたわけではなさそうだ。
だけど警戒を解いてはいけない。
目線だけを動かし、あたりを見回していると「目が覚めたかい?」と、柔らかで落ち着いた声と共に男が視界に入ってくる。
「ひどく弱っていたから連れ帰って手当したんだ。死んじゃったらどうしようかって随分心配したぞ?」
ゆっくりとした動作で男の手が顔の前にかざされる。
不思議と恐怖も不快感も感じなかったので、そのままその手をみあげていると、くしゃりと頭を撫でられた。
「よく頑張ったな。怖くて痛かっただろう? もう大丈夫だからな」
労わりに満ちた優しい声に、張りつめていたものが一気にほぐれて、女は男の腕にすがりつく。
「よしよし。随分と酷いことをされたな。胸の傷はクナイでやられたか。もう少し深ければ命が危なかったな。痕が残るだろうけど、ちゃんと手当は済ませているからもう大丈夫だぞ。元気になるまでここにいていいから。いや、お前さえよければ、ずっとここにいてもいいんだぞ」
そう言いながら男はむずがる幼子をあやすように、女の肩をゆっくりと叩いた。
「腹へったろ? ねこまんま、用意したんだけど食べられるか?」
平たい皿に盛られた飯は、ひと肌に冷まされていた。
立ち上る味噌の香りにぐぅ、と腹がなる。
だけど本当に欲しいのはこれじゃない。
空腹を意識したとたん、本能が首をもたげた。
――血だ。 血が、欲しい
男の首筋に喰らいつき、牙をたて、渇きが癒えるまで血を啜りたい。
殺したってかまうものか……
――ダメだ。彼は命の恩人だ。ダメだっ!
「立ち上がるのを手伝ってやるから、ちょっと我慢しろよ」
男の腕が腹にまわり、そうっと身体を抱き込んでくる。
肌の下から僅かに立ち上る血の匂いが女の鼻腔をくすぐり、理性が焼き切れそうになる。
――ダメだ! このままではっ
女は男から逃れようと力いっぱいもがいた。
「痛ッ」
男の肌の表面を女の爪が切り裂き、うっすらと血が滲み始める。
「ごめんな。ビックリしたんだろ? 悪かったな」
周囲に立ち込める濃厚な血液の香り、そして視界が捉えた鮮烈な赤に、女は狂った。
男に襲いかかり、傷口に舌を這わせ、びちゃびちゃと音をたてながら血をなめとる。
「おいおい、そんなに必死になって舐めてくれなくても、そんなに深い傷じゃないぞ」
――足りない。足りない。こんなんじゃ、足りない……!
女は更に男の肌に爪をたて、深く抉り、流れ出す血に口を寄せた。
「……オマエ、ひょっとして血が欲しいのか?」
ひょい、と首をつままれた女は、そのまま男の胸に抱き込まれた。
「にゃぁ!?」
「お前、猫のくせに人間の血が欲しいんだな。生きてくの、大変だろう? 俺も血が欲しくして仕方なくなるときがあるから、お前の気持ちは分かる気がするよ。俺たち案外仲間だったりしてな。両親はふざけて俺のことを『お前はネコだ。ネコはネコでも三毛猫だぞ!』って言ってたしな」
男は自らの左胸に爪で一筋、傷を引いた。
「ほら、経験上こっちの血のほうがうまいから、好きなだけ飲めよ。腹いっぱい飲んだらきっと元気になるさ」
「にゃ~」
安堵の声を出した女に、男は太陽のように温かに笑って。
「俺、うみのイルカっていうんだ。よろしくな」
――イルカ、イルカ、私の命を救ってくれた人。
温かで優しい、私の、イルカ
イルカ、イルカ
あぁ、やっと貴方に……!
「イルカ!!!」
里外れの竹林で、背後から名を呼ばれた。
咄嗟に振り向くと、そこには絣の着物の美しい女が立っており、誰何の声をかける間もなくイルカに抱きついてきた。
「イルカ! 会いたかった!! 貴方を迎えにきたのよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりなんですか!?」
イルカは女の身体を引き離し、全身を検分する。
こんな女は知らない。里内で見かけたこともない。
―――いったい、何者だ?
女の身体から立ち上る僅かな血臭に、イルカはハッと息をのむ。
―― 犯人は、女だったって証言が……
イルカは素早い動きで女の首筋にクナイを突き付けた。
「いくつか質問をします。偽りなく答えるように。でなければ命の保証はありません」
女は大きな目を見開き、悲しげな顔をしてイルカを見つめている。
「あなたは里の者ではありませんね。何故ここに来たのです」
「貴方と番うためよ。イルカ、私が分からない? ここで、傷を受けて気を失っていた私を助けてくれたでしょう?」
――たしかにこの路上で助けた命がある。だけど、それは猫であって人間ではなかった。
相手の思惑がわからない以上、こちらから不用意に話をするものではないと、イルカは心に浮かんだ言葉を飲み込む。
「あのときは、猫の姿をしていたから私だと気付かないのね。イルカ、貴方はここで倒れている私を家に連れ帰って、介抱して血まで飲ませてくれた私の命の恩人よ。
私のことを仲間だって、ずっといてもいいって言ってくれた。ねぇ、これなら私を信じてくれる?」
女は襦袢と着物の襟を重ねて持ち、勢いよく左右に開いた。
豊満な両の乳房が露わになる。
白く瑞々しい胸の谷間には、赤黒く変色した痛々しい傷があった。
クナイによる、傷痕。
女は俯き、うっとりとした目でその傷を眺めながら、指先で傷跡をゆっくりと辿っていく。まるで愛撫するような愛しさを込めて。
「あなたが、手当して、助けてくれた」
イルカはゴクリと唾を呑みこんだ。
「まさか、君は本当にあのときの猫? 信じられない……猫が人間になるなんて」
「信じられないですって? あなた、本当に自分ことを何もしらないのね」
ぐい、と女が身体をイルカに押し付けてくる。
乳房はイルカの逞しい胸に当たり、その形を変えた。
女はイルカの首元に顔を埋め、また話し出した。
「いいわ。私が教えてあげる。
私たちは人ではないの。人猫族といって、猫と人の特性を併せ持つ希少で優れた種族よ。でも、私たちの種族には致命的な欠点があって、成人して番を見つけるまでの間、血を吸わなければ生きていけないの」
女はそう言うと物憂げに俯いた。
「仲間が沢山いた頃は仲間内で血を分けあって、生きていけた。
でも、仲間が少なくなると血が足りなくなった。人間から血をもらわなくては生きていけない個体も出てきたの。
人間は私たちを怖れ、私たちを狩ったわ。当然、人猫族はどんどんその数を減らして、私の暮らす里にも、もう若い雄猫はいなくなってしまったの。だから、私は番を探す旅に出た。それで木の葉に辿りついたところで、大蛇丸に捕まって……」
そのときの恐怖を思い起こしたのか、女の身体が小刻みに震えはじめた。
可哀想になってイルカはクナイを下ろし、女の身体を抱きしめ、あのときの猫にそうしてやったように、トントンと優しく肩を叩いてやる。
けれど、イルカの心は告げられた話に千々に乱れていた。
――人猫族なんて荒唐無稽な作り話だ!
そう否定したかったけれど、それが真実であるとイルカはどこかで知っていたのだ。
「ありがとう、イルカ。恐ろしい目にあったけれど、おかげで貴方に出会えたわ」
「だけど、お前は傷が癒えるまでに出て行ったじゃないか」
「そうよ。だって貴方の側にあんな恐ろしい男がいるなんて知らなかったんですもの」
――恐ろしい男?
「ひょっとして羅刹丸のことを言っているのか?」
「ええ。彼、私を嫌って威嚇してきたのよ。儂のイルカに近づくなって」
「まさか。羅刹丸が傷だらけの猫を追い払うなんて」
「本当よ。イルカの番は儂が決めるって怒っていたわ。だから私はいったん里に戻った。でもどうしてもアナタを諦めきれなかった。私も発情期を迎えてしまったから、早く番を探さなくちゃいけなくなって、こうして貴方を迎えにきたのよ。ねぇ、イルカ。私と一緒に人猫の里に帰りましょう?」
人猫の里――そんな里があるなんて、知らなかった。
イルカは女の語る話を受け入れるのに精一杯で、心は混乱の只中にあった。
しかし、今は自分のことよりも、里のために確かめなければいけないことがある。
「ひとつ、聞いていいか? お前があの事件を起こしたのか?」
「……ごめんなさい。貴方が一人になるときを待っていたのだけれど、貴方の側にはいつだってあの羅刹丸や写輪眼がいて簡単には近づけなかった。発情期を迎えた人猫族の女は、番の精を受けるまで大量の血を欲するの。だから……生きるために血を。でもね、殺さないように気をつけたわ! だから怒らないで。お願い、私を番にしてよ!」
番って……
――大人になって番が見つかれば、何もかも上手くいくから――
イルカの脳裏に浮かんだのは、あの日の母の言葉で。
「番にするって、いったいどういうことだよ」
「お互いの血を吸いながら、性交すればいいのよ。そうすれば男も女も、もう生きるために血を吸わなくてすむようになる。アナタにとってもいい条件でしょう?」
女は片手をイルカの首に回し、帯を片手で解いた。
女からは匂い立つようなフェロモンが放たれて、イルカの本能を刺激する。
「お願い、抱いて?」
女の声はまるで媚薬のようにイルカの身体に作用した。
熱が、集まる。
自らの意思とは関係なく、身体の一部分に。
「いや……だ」
「でも。貴方はもう抗えないわ。発情した人猫女を前にして、平気でいれる人猫男はいないのよ。ほら」
女はイルカの股間に触れた。
「嬉しい。もうこんなになってる。イルカ、あなたも発情期を迎えたのよ。すごい色香が漂ってきたもの。私たち、はやくひとつになりましょう?」
「いや……だ。お前があのときの猫だったとしても、大蛇丸の被害者だったとしてもっ、里に仇成すものと番になるわけにはいかな……いっ。羅刹丸がいても、カカシさんがいてもっ、お前は正々堂々と俺に会いにくるべきだったんだ! 死ななかったといっても、被害者のことを考えると俺は心が痛いよ。お前のやり方は間違っている! それに俺は木の葉を離れるつもりはない!」
「そうだとしても、貴方は私の魅力に抗えないでしょう?」
女は全てを脱ぎ去り、見事な肢体をイルカの身体に絡ませてくる。
その手はイルカの性器をゆるゆると扱きあげて。
「うっ……ぐぅっ」
「愛してるわ。イルカ。貴方は人猫族の中でも特に優秀な三毛猫なんでしょう? 三毛猫と番えるなんて夢のよう!」
「お、お前は俺が三毛猫だから番いたいのか!? 俺の気持ちは何も考えずに!? そんなのは愛じゃない! お前は俺を好きなわけじゃない!」
――だって、だって好きって気持ちは、もっと温かで優しくて……
きっと、カカシさんが俺にくれるような、気持ち。
あぁ、でも耐えられない。すぐにでもこの欲を吐き出したい!
誰でもいい。この、女でも!
だめだ。だめだっ、この欲に流されちゃ、ダメだっ!!
「ふふっ。イルカ、もう何も考えなくていいの。番えばきっと私を好きになるわ。吸血しながらの性交ってとっても素敵なんですって」
女は大きく口をあけた。
左右の白い犬歯がのぞく。
「いっ、いやだ! やめてくれっ」
抵抗したいのに、あまりに激しい発情のため、身体が思うように動かせない。
いや、身体はまぎれもなくこの女を求めているのだ。
「ダメだ! 俺はお前とは番えないっ」
女がイルカの喉元に齧りつこうとした瞬間、羅刹丸の残した噛痕からすざまじい妖気がほとばしり、女の全身を打った。
「ギャッ」
女は鋭い悲鳴をあげ、その場に蹲る。
吐く息は荒く、辛そうだ。
「アァ……ウグッ!」
荒れ狂う欲情は容赦なくイルカを襲う。
熱を増すばかりの身体に畏れをなしながら、イルカは叫んでいた。
「ウァアア―――――ッ!!」
「イルカ先生……!?」
任務を終え、里へ向けて全力で駆けていたカカシがその足を止めた。
躊躇いなく親指を噛み、流れ出た血と共に印を結ぶ。
次の瞬間、カカシはしゃがみ込み、大地に片手をついた。
「口寄せの術……!!」
現れたのは、写輪眼のカカシが最も信頼を寄せる忍犬である。
「パックン。これは奪還命令が出ていた巻物だ。綱手様に届けてくれ」
「よかろう。して、お主はどうするのじゃ」
「イルカ先生の元に飛ぶ。何か大変なことが先生の身に起こっている気がするんだ」
「あいわかった」
カカシは式を握りつぶした。
――あの男はいったい誰なのか、イルカ先生とはどういう関係なのか。そういったことをすべて投げ出して逃げ帰ってしまった。
あの男とイルカ先生との間に己が入り込む余地はあるのか、いや、それ以前にあの男は何者だ。本当に危険はないのか!?
やはりどんな手を使ってでもイルカ先生とあの男を引き離すべきで、あの男の身元が分かるまで俺の手元において守るべきだったのだ。
だって、どう考えたってあの二人の行動は人の理を外れている。
こんなときに里を離れなければいけないって? どれくらいの日数?
その間に先生はまたあの男に肌を晒すの?
綱手より直々に吸血事件を任されたカカシの元に、綱手本人から緊急の式が届く。
その意味をカカシはよく分かっている。
どんな理由があれ無視するわけにはいかない。
『人たる前に忍びであれ』
幼い頃より刷り込まれた価値観と、それに相反するカカシの真実の思いが、彼の心を激しく乱している。
――任務にはいかねばならない。でも、イルカ先生が……。じゃぁ、どうする? どうすればいい!?
ベッドに身を横たえた羅刹丸は、眠るイルカの身体を抱きしめていた。
黒く艶やかな髪を何度も何度も愛おしげに梳き、頬に残る涙の痕を指先で辿り、健やかなイルカの寝顔を慈しみと苦しみの入り混じった表情で見つめている。
「いつもいつも血を分け与えるたびにあのように泣いて自分を責めよってからに。イルカは優しいのぅ、ちぃと優しすぎるくらいじゃ。その優しさにつけこもうとする輩も出てきたようじゃし。……ふむ。ここはひとつイルカが誰のものかハッキリさせてやろうかの」
羅刹丸はイルカの首筋に顔を寄せると形のよい唇をひらき肌に勢いよく噛みついた。
「アァッ……うっ!? な、なに?」
「イルカよ寝ておるところすまんの。すぐ終わるから耐えておれ。ちぃと痛むぞ?」
羅刹丸は再びイルカの首筋に強く噛みつくと、ザリザリとした舌先でイルカの肌に梵字を記しはじめた。
「あっ……はぁっ……あぁああ、なっ、なんだっ!?……なにかが流れ込んでく……るっ!」
陸に打ち上げられた魚のように、のたうつイルカの身体を力ずくで抑え込み、羅刹丸は舌先を動かし続ける。
「らせ……つまるっ!! いっ……いやだっ、いやぁッッ!」
肌にたてられた歯や舌先からとてつもない妖力と、身を焼き尽くすような熱がイルカに流れ込んでくる。
――なに、これ? こわい、こわい、こわい。いやだ、いやだ、いやだ!! たすけて!!
「やめっ……!」
――いつだって羅刹丸は俺のことを一番に考えてくれて、俺の嫌がることはなにひとつしなかったのに! こんなの、羅刹丸じゃないっ。
「らせっ……! やだぁ」
羅刹丸は困り果てた顔でイルカから唇を外した。
「これ、イルカよ。そのように騒ぎ立てるでない。前々から言うておったが夜明けまでに儂は己の里にもどらねばならん。その前に儂の妖力をお主に分けておるのじゃ。最近なにかとお主のまわりは物騒じゃからのぅ」
「でもっ、だって躰が。おかしいッ」
「安心せい。その違和感は一時的なものじゃ」
羅刹丸が再びイルカの肌に歯をたてると、イルカは全身を震わせ羅刹丸の身体に縋りついてくる。
羅刹丸はその背をトントンと優しく叩きながらも、梵字を記していく舌の動きに一切の容赦も見せなかった。
やがて文字をすべて記し終えた羅刹丸は、イルカから身を離し、荒い息をつく愛し子を見て満足げに微笑む。
「よく耐えたの。これでお主には巷を騒がしておる吸血女も、あの忌々しい犬使いも容易に手を出せぬはずじゃ」
イルカは朦朧とした意識で、それでも懸命に首を縦に振り、羅刹丸に己の理解を伝えると深い眠りへと落ちていった。
その半刻ほど後。
イルカのアパートの前にカカシの姿があった。
結局カカシはイルカの問題を棚上げにして任務に出ることは出来なかったのだ。
「せんせ、イルカせんせ」
玄関のドアを控え目にノックし、カカシは想い人を呼んだ。
小さくはあるが忍びなら充分に聞き取れるその声に答えはなく、カカシの胸にジワリと不安が広がる。
忍服のポケットから取り出した針金を鍵穴に差し込み細やかに動かすこと数秒。
カチリという音をさせ、鍵はその機能を手放した。
カカシは手甲をはめた手でドアノブを掴み、押し開ける。
「カカシです! 入ります!」
嫌な予感に乱れる心音を整えようともせず、カカシはドアの中へと足を踏み入れた。
小さな玄関にはイルカの靴とつっかけが一足づつ並べられており、置物の類などは一切ない。
玄関から奥へと一直線に続く廊下は綺麗に掃き清められていて、その左側には3つのドアが並んでいる。
その最奥のドアは開け放たれており、そこにイルカの気配があった。
白い男と猫の気配がないことに小さな違和感を覚えながら、カカシはイルカの眠る部屋をめざし廊下を歩く。
中ほどまできたところで、イルカの安らかな寝息に気付き、カカシはホッと胸をなで下ろした。
――よかった、無事だった。本当に……よかった。
先生を起こして、夜半に勝手に家にあがりこんだ非礼をまずは詫びよう。それから、あの白い男のことを臆せず聞こう。あの男と離れて暮らすように、なんだったら俺の家で暮らすように説得しなければ。
そう己に言い聞かせながら寝室に入ると、ベットの真ん中にこんもりとしたブランケットの山を見つける。
すぴーすぴーと何とも平和な音にあわせて僅かに上下するその山を、カカシは驚きと感嘆をもって愛しく眺めた。
毛布の下で、忍びであるイルカがカカシの気配を警戒することなく熟睡している。
この事実がカカシを幸せにしたのだ。
気持ちが大きくなったカカシはベッドの端に腰をかけ、こんもりした毛布をとーんとーん、と優しく叩いた。
もぞり、と毛布の山がうごき、中からにゅぅっと手が伸びてくる。
――かわいい……
カカシがその手を握りしめた途端、胸に恋慕が湧き上がり、すざまじい勢いでカカシの全身を駆け巡った。
愛しい、愛しい。大事、大好き。先生が、大好き。
勇気をだしてゆっくりと上掛けを剥いでみると、「ん」と声を漏らしながらイルカの手がカカシの腰に巻きついてくる。
「イルカ先生」
幸せの絶頂でカカシはイルカを呼び、その髪に触れた。
「……へっ!? え!? あっ!? カ、カカシさんっ!?」
がばりと飛び起きるイルカも可愛くて。
だけど、カカシは見つけてしまったのだ。
イルカの左の首筋、ちょうど耳の少し下に残る激しい口付けの痕を。
「誰です……!」
自分でも聞いたことのないくらい冷えた声で、カカシは問うた。
その鋭さにイルカは身を正す。
「え……? な、なんのことですか?」
状況についていけないイルカは、カカシの激しい口調に追い詰められベッドの奥へと身体を逃がしながら、射るような視線が己の首筋に当てられていることに気付いた。
――ここは、羅刹丸が噛みついたところだ。きっと痕が残っているんだ。
イルカは慌てて掌でソコを覆った。
「羅刹丸ですか!? あの男はいったい何者だ! あなたとはどういう関係なんです」
「ら、羅刹丸は、俺の同居人で、お、弟みたいなもので」
カカシの顔に怒りから朱が走った。
目にもとまらぬ速さで繰り出された拳がイルカの喉元でピタリと止まり、開かれる。
その手はイルカの手首をつかみ首筋から引き離そうと動いた。
「いっ、いやだ」
「見せてください」
「いやです」
「見せるんだ!!」
声を荒げたカカシが、力ずくでイルカの手を引きはがす。
筋の浮き出た首の、男にしてはなめらかな肌に残る歯型。そのひとつひとつをカカシは指先で辿っていく。
青黒く鬱血した肌は痛々しくもあり、卑猥でもあった。
カカシは口布の下の唇を歪めた。ずいと顔を近づけ間近で見る。
「これはまるで情交の痕だ。あなたは、弟みたいな男と何をしていたんです?」
殺気さえ孕む声でカカシはイルカを問い詰めるが、驚くべきことにイルカはこの短いやりとりのなかで冷静さを取り戻していた。
「カカシさん、その問いに答える義務は俺にありません」
「!!」
ブワリと剣呑なチャクラがカカシの全身から吹き出し、イルカはカカシの怒りが更に増したことを知る。しかし、怯むことなくカカシを引き離し、その片方の目を真っ直ぐに睨み付ける。
カカシはひどく意地の悪い気持ちで、唇を開いた。
「先生、義務ならありますよ。これは今回の事件にかかわる問題だと俺は思っています」
イルカの手首から手を離し、すぃと窓の外にそびえる銀杏の太い枝を指さす。
「あそこから、見ていました。あの男が自分の胸に傷をつけ、血を流し、その血をアナタに与える一部始終を」
イルカの顔からみるみる血の気が引いていく。
目に絶望とも怒りともとれる剣呑な光を湛えながらも、恐怖にうち震えるイルカを、カカシは言葉と眼光で更に追い詰めていく。
「あの男はあまりにも危険で得体が知れない。あなたは奴から離れるべきだ。 奴は犯人と何らかの関係があると考えています、いや犯人である可能性だって十分にあり得る!」
「やめてください!」
手負いの獣のような激しさでイルカが叫ぶ。
「羅刹丸は、ずっと俺を支えてきてくれた大事な人です! 犯人なんかじゃありません!」
涙の膜のはった大きな瞳に真っ向から見据えられて、カカシは言葉を失った。
「あの行為だって、完全に俺の都合で……。カカシさん、俺の身体には秘密があるんです。カカシさんが見て異様と感じた行為はすべてその秘密にまつわることで事件とは関わりありません。今言えることはこれだけです。不審に思うのは最もです。だけど、俺を信じてはくれないでしょうか」
はりつめた表情を見たカカシの心にある考えが浮かぶ。
イルカ先生は相当な覚悟でひた隠しに隠してきた秘密を告げたのだ。
羅刹丸を守る、ただそれだけの為に。
なぜ?
そんなの決まってる。イルカ先生が羅刹丸を愛しているから。
弟みたいな、なんて言葉に騙されたりしない。先生の心も身体もずっと前から羅刹丸のものなんだ。
この思いは確信へと育ち、カカシの心をひどく痛めつけた。
「俺は……あなたを……」
愛しているから
「信じますよ。イルカ先生」
ふうっ、と安堵の溜息を漏らしたイルカの顔をみて、カカシは泣きそうになった。
「ゴメン……そんなふうにアナタを追い詰めるつもりじゃなかったんです」
「いえ。アレを見たというのであれば、俺たちが犯人じゃないかと疑うのも当然です」
「俺が先生を疑うわけがありません。俺はただ、あなたに危険が及んでいるんじゃないかと心配でたまらなくて」
「だから影分身で様子を見に来てくださったんですか?」
「それ……いつから気付いていたの?」
「カカシさんに手を掴まれたときですよ。チャクラが不自然に乱れていたので探っていたんです。そうしたらやっぱり。でも、カカシさん影分身に半分もチャクラを裂くなんて正気ですか!?」
「先生は怒るかもしれないけど、俺はそれだけ羅刹丸を危険だと感じていたんです」
「カカシさん、俺は大丈夫です。はやく影分身を解いてください。本体は今任務中なんでしょう?」
「ええ」
「ランクは?」
イルカの強い瞳にカカシが逆らえるわけもない。
「Sの単独です」
はっ、とイルカが息を飲んだ。
「な……にやってんですかっ! 俺の心配より、自分の心配をしろっ!」
「でもっ、俺はあなたがっ!」
「でもじゃねぇ!! さっさと本体に戻れよ!」
イルカは拳を固く握りこみ、影分身の腹に打ち込んだ。
「無事に帰ってこいよ!」
「くっ……なるべく……早く戻り」
ボフン!!
イルカの元に置いていた影分身が本体へと戻り、記憶が統合される。
すざまじい勢いで流れてくる事実のあまりの衝撃に、夜明け前の森を全力で駆けていたカカシはその足を止めざるを得なかった。
「ハハ……なんてことだ、イルカ先生と奴がそんな……」
絶望からか嫌悪感からか、カカシの胃が激しく痙攣しだした。
酷い嘔吐感に襲われたカカシは口布を下げ、身をかがめ胃の中のものを数回に分けて地面へとぶちまけた。
イルカ先生、それでも俺はあなたを。
あなたが。あなただけが……
「カカシさん……」
ショックでイルカの頭の中はぐちゃぐちゃだった。
――重要な任務なのに影分身まで出して、俺を心配してくれたカカシさん。俺を信じると言ってくれたカカシさん。
カカシの真摯で誠実な言動は、イルカにとって貴いものだった。
そして、その感情が自分に向けられているという誇らしさと喜び。
――だけど、本当のことを知ったら、カカシさんは俺をどんな目で見るのだろう。憐みの目? それとも蔑みの目? 父さん、母さん、俺は……俺の身体はどうなってるんだ……。
何故、定期的に血を欲するのか。
これは、物心ついた頃からイルカが持ち続けた疑問だった。
幼い頃に、イルカは「血なんて飲まない!」とはげしく抵抗し、泣き叫んだことがある。
母はそんなイルカを抱きしめ、涙ながらにこう諭したのだ。
「大人になったら身体の秘密を全て教えるから、それまでは何も考えないでいて。血が欲しいときは我慢しないで私たちか羅刹丸のものを飲みなさい。そうしないと、お前は生きていけないのよ。大丈夫、大丈夫だから。大人になって番が見つかれば、何もかも上手くいくから」
そのときの母親があまりに悲しそうで、イルカはもうこの疑問を口にすることが出来なくなってしまった。ただひたすらに大人になる日を待ち続け、耐え忍んでいたのだが、そのときが訪れる前に九尾の災厄が里を襲い、両親は他界してしまった。
「はぁ」
1人で負うにはあまりにも大きな秘密だった。この秘密のせいで、人と深くかかわることを避けてきた。恋人なんてもってのほかで、羅刹丸だけが友であり家族だった。それで満足だった。
――でもカカシさんは……。カカシさんとは固い友情を築きたい。カカシさんは、俺のすべてを知っても変わらず側にいてくれるだろうか?
心をよぎった疑問に、イルカは少なからず動揺していた。
他人にこんなふうに興味をもつのは初めてで。
「今はこんなことを考えている場合じゃない。カカシさんの分まで任務に集中しないと!!」
パシンと両頬を叩いて気合いを込め、イルカはベットから勢いよく立ち上がった。
手早く支給服に着替え、自宅を後にする。
――今日は、事件現場になった里外れの竹林を調査しよう。
里外れの塗装もされていない道に、傷だらけの女が転がっていた。
――いた……い でも、このままでは、ダメ……
女は、荒い呼吸を整えはじめた。
このまま不自然な体勢をとりつづけては、痛みに凝り固まった筋肉が骨を締めあげ、更なる苦痛をもたらすことに気付いたからだ。
痛みを受け入れるようにゆっくりと息を吸い、また慎重に息を吐きながら、丸まった背中を少しずつ、緩めていく。
それは大変な苦痛と鉄の意志を必要とする作業だった。
珍しい。という理由だけで、女は躰の秘密を暴かれ、蹂躙され、実験動物として飼い殺されるところだった。研究という名のもとに、どれだけ残酷な仕打ちを受けたことか。
首謀者の男、大蛇丸が里を出た隙をついて女は逃げ出したのだ。
――いやだ、いやだ。 このまま死んでなるものか……!
やっとの思いで背中を伸ばし終えた女は、目を閉じてしばしの休息をとる。
すると睡魔が襲ってくる。とうに限界を超えていた躰は睡眠を要求していた。
けれど、ここで眠ってしまえば、また掴まってしまうかもしれない。
でも、とても、ねむ……く……て……。逃げ……なきゃ。
意識はそこで途切れた。
目が覚めたのは、明るい部屋の中だった。
肌に触れる空気が妙に生温かく、湿り気を帯びているのが不思議だった。
そう遠くない距離から、シュンシュンと絶え間ない音が聞こえてくる。
なるほど、と女は思った。
あれはきっと、薬缶が湯気をたてている音。
実験室に連れ戻されたわけではなさそうだ。
だけど警戒を解いてはいけない。
目線だけを動かし、あたりを見回していると「目が覚めたかい?」と、柔らかで落ち着いた声と共に男が視界に入ってくる。
「ひどく弱っていたから連れ帰って手当したんだ。死んじゃったらどうしようかって随分心配したぞ?」
ゆっくりとした動作で男の手が顔の前にかざされる。
不思議と恐怖も不快感も感じなかったので、そのままその手をみあげていると、くしゃりと頭を撫でられた。
「よく頑張ったな。怖くて痛かっただろう? もう大丈夫だからな」
労わりに満ちた優しい声に、張りつめていたものが一気にほぐれて、女は男の腕にすがりつく。
「よしよし。随分と酷いことをされたな。胸の傷はクナイでやられたか。もう少し深ければ命が危なかったな。痕が残るだろうけど、ちゃんと手当は済ませているからもう大丈夫だぞ。元気になるまでここにいていいから。いや、お前さえよければ、ずっとここにいてもいいんだぞ」
そう言いながら男はむずがる幼子をあやすように、女の肩をゆっくりと叩いた。
「腹へったろ? ねこまんま、用意したんだけど食べられるか?」
平たい皿に盛られた飯は、ひと肌に冷まされていた。
立ち上る味噌の香りにぐぅ、と腹がなる。
だけど本当に欲しいのはこれじゃない。
空腹を意識したとたん、本能が首をもたげた。
――血だ。 血が、欲しい
男の首筋に喰らいつき、牙をたて、渇きが癒えるまで血を啜りたい。
殺したってかまうものか……
――ダメだ。彼は命の恩人だ。ダメだっ!
「立ち上がるのを手伝ってやるから、ちょっと我慢しろよ」
男の腕が腹にまわり、そうっと身体を抱き込んでくる。
肌の下から僅かに立ち上る血の匂いが女の鼻腔をくすぐり、理性が焼き切れそうになる。
――ダメだ! このままではっ
女は男から逃れようと力いっぱいもがいた。
「痛ッ」
男の肌の表面を女の爪が切り裂き、うっすらと血が滲み始める。
「ごめんな。ビックリしたんだろ? 悪かったな」
周囲に立ち込める濃厚な血液の香り、そして視界が捉えた鮮烈な赤に、女は狂った。
男に襲いかかり、傷口に舌を這わせ、びちゃびちゃと音をたてながら血をなめとる。
「おいおい、そんなに必死になって舐めてくれなくても、そんなに深い傷じゃないぞ」
――足りない。足りない。こんなんじゃ、足りない……!
女は更に男の肌に爪をたて、深く抉り、流れ出す血に口を寄せた。
「……オマエ、ひょっとして血が欲しいのか?」
ひょい、と首をつままれた女は、そのまま男の胸に抱き込まれた。
「にゃぁ!?」
「お前、猫のくせに人間の血が欲しいんだな。生きてくの、大変だろう? 俺も血が欲しくして仕方なくなるときがあるから、お前の気持ちは分かる気がするよ。俺たち案外仲間だったりしてな。両親はふざけて俺のことを『お前はネコだ。ネコはネコでも三毛猫だぞ!』って言ってたしな」
男は自らの左胸に爪で一筋、傷を引いた。
「ほら、経験上こっちの血のほうがうまいから、好きなだけ飲めよ。腹いっぱい飲んだらきっと元気になるさ」
「にゃ~」
安堵の声を出した女に、男は太陽のように温かに笑って。
「俺、うみのイルカっていうんだ。よろしくな」
――イルカ、イルカ、私の命を救ってくれた人。
温かで優しい、私の、イルカ
イルカ、イルカ
あぁ、やっと貴方に……!
「イルカ!!!」
里外れの竹林で、背後から名を呼ばれた。
咄嗟に振り向くと、そこには絣の着物の美しい女が立っており、誰何の声をかける間もなくイルカに抱きついてきた。
「イルカ! 会いたかった!! 貴方を迎えにきたのよ」
「ちょ、ちょっと待ってください。いきなりなんですか!?」
イルカは女の身体を引き離し、全身を検分する。
こんな女は知らない。里内で見かけたこともない。
―――いったい、何者だ?
女の身体から立ち上る僅かな血臭に、イルカはハッと息をのむ。
―― 犯人は、女だったって証言が……
イルカは素早い動きで女の首筋にクナイを突き付けた。
「いくつか質問をします。偽りなく答えるように。でなければ命の保証はありません」
女は大きな目を見開き、悲しげな顔をしてイルカを見つめている。
「あなたは里の者ではありませんね。何故ここに来たのです」
「貴方と番うためよ。イルカ、私が分からない? ここで、傷を受けて気を失っていた私を助けてくれたでしょう?」
――たしかにこの路上で助けた命がある。だけど、それは猫であって人間ではなかった。
相手の思惑がわからない以上、こちらから不用意に話をするものではないと、イルカは心に浮かんだ言葉を飲み込む。
「あのときは、猫の姿をしていたから私だと気付かないのね。イルカ、貴方はここで倒れている私を家に連れ帰って、介抱して血まで飲ませてくれた私の命の恩人よ。
私のことを仲間だって、ずっといてもいいって言ってくれた。ねぇ、これなら私を信じてくれる?」
女は襦袢と着物の襟を重ねて持ち、勢いよく左右に開いた。
豊満な両の乳房が露わになる。
白く瑞々しい胸の谷間には、赤黒く変色した痛々しい傷があった。
クナイによる、傷痕。
女は俯き、うっとりとした目でその傷を眺めながら、指先で傷跡をゆっくりと辿っていく。まるで愛撫するような愛しさを込めて。
「あなたが、手当して、助けてくれた」
イルカはゴクリと唾を呑みこんだ。
「まさか、君は本当にあのときの猫? 信じられない……猫が人間になるなんて」
「信じられないですって? あなた、本当に自分ことを何もしらないのね」
ぐい、と女が身体をイルカに押し付けてくる。
乳房はイルカの逞しい胸に当たり、その形を変えた。
女はイルカの首元に顔を埋め、また話し出した。
「いいわ。私が教えてあげる。
私たちは人ではないの。人猫族といって、猫と人の特性を併せ持つ希少で優れた種族よ。でも、私たちの種族には致命的な欠点があって、成人して番を見つけるまでの間、血を吸わなければ生きていけないの」
女はそう言うと物憂げに俯いた。
「仲間が沢山いた頃は仲間内で血を分けあって、生きていけた。
でも、仲間が少なくなると血が足りなくなった。人間から血をもらわなくては生きていけない個体も出てきたの。
人間は私たちを怖れ、私たちを狩ったわ。当然、人猫族はどんどんその数を減らして、私の暮らす里にも、もう若い雄猫はいなくなってしまったの。だから、私は番を探す旅に出た。それで木の葉に辿りついたところで、大蛇丸に捕まって……」
そのときの恐怖を思い起こしたのか、女の身体が小刻みに震えはじめた。
可哀想になってイルカはクナイを下ろし、女の身体を抱きしめ、あのときの猫にそうしてやったように、トントンと優しく肩を叩いてやる。
けれど、イルカの心は告げられた話に千々に乱れていた。
――人猫族なんて荒唐無稽な作り話だ!
そう否定したかったけれど、それが真実であるとイルカはどこかで知っていたのだ。
「ありがとう、イルカ。恐ろしい目にあったけれど、おかげで貴方に出会えたわ」
「だけど、お前は傷が癒えるまでに出て行ったじゃないか」
「そうよ。だって貴方の側にあんな恐ろしい男がいるなんて知らなかったんですもの」
――恐ろしい男?
「ひょっとして羅刹丸のことを言っているのか?」
「ええ。彼、私を嫌って威嚇してきたのよ。儂のイルカに近づくなって」
「まさか。羅刹丸が傷だらけの猫を追い払うなんて」
「本当よ。イルカの番は儂が決めるって怒っていたわ。だから私はいったん里に戻った。でもどうしてもアナタを諦めきれなかった。私も発情期を迎えてしまったから、早く番を探さなくちゃいけなくなって、こうして貴方を迎えにきたのよ。ねぇ、イルカ。私と一緒に人猫の里に帰りましょう?」
人猫の里――そんな里があるなんて、知らなかった。
イルカは女の語る話を受け入れるのに精一杯で、心は混乱の只中にあった。
しかし、今は自分のことよりも、里のために確かめなければいけないことがある。
「ひとつ、聞いていいか? お前があの事件を起こしたのか?」
「……ごめんなさい。貴方が一人になるときを待っていたのだけれど、貴方の側にはいつだってあの羅刹丸や写輪眼がいて簡単には近づけなかった。発情期を迎えた人猫族の女は、番の精を受けるまで大量の血を欲するの。だから……生きるために血を。でもね、殺さないように気をつけたわ! だから怒らないで。お願い、私を番にしてよ!」
番って……
――大人になって番が見つかれば、何もかも上手くいくから――
イルカの脳裏に浮かんだのは、あの日の母の言葉で。
「番にするって、いったいどういうことだよ」
「お互いの血を吸いながら、性交すればいいのよ。そうすれば男も女も、もう生きるために血を吸わなくてすむようになる。アナタにとってもいい条件でしょう?」
女は片手をイルカの首に回し、帯を片手で解いた。
女からは匂い立つようなフェロモンが放たれて、イルカの本能を刺激する。
「お願い、抱いて?」
女の声はまるで媚薬のようにイルカの身体に作用した。
熱が、集まる。
自らの意思とは関係なく、身体の一部分に。
「いや……だ」
「でも。貴方はもう抗えないわ。発情した人猫女を前にして、平気でいれる人猫男はいないのよ。ほら」
女はイルカの股間に触れた。
「嬉しい。もうこんなになってる。イルカ、あなたも発情期を迎えたのよ。すごい色香が漂ってきたもの。私たち、はやくひとつになりましょう?」
「いや……だ。お前があのときの猫だったとしても、大蛇丸の被害者だったとしてもっ、里に仇成すものと番になるわけにはいかな……いっ。羅刹丸がいても、カカシさんがいてもっ、お前は正々堂々と俺に会いにくるべきだったんだ! 死ななかったといっても、被害者のことを考えると俺は心が痛いよ。お前のやり方は間違っている! それに俺は木の葉を離れるつもりはない!」
「そうだとしても、貴方は私の魅力に抗えないでしょう?」
女は全てを脱ぎ去り、見事な肢体をイルカの身体に絡ませてくる。
その手はイルカの性器をゆるゆると扱きあげて。
「うっ……ぐぅっ」
「愛してるわ。イルカ。貴方は人猫族の中でも特に優秀な三毛猫なんでしょう? 三毛猫と番えるなんて夢のよう!」
「お、お前は俺が三毛猫だから番いたいのか!? 俺の気持ちは何も考えずに!? そんなのは愛じゃない! お前は俺を好きなわけじゃない!」
――だって、だって好きって気持ちは、もっと温かで優しくて……
きっと、カカシさんが俺にくれるような、気持ち。
あぁ、でも耐えられない。すぐにでもこの欲を吐き出したい!
誰でもいい。この、女でも!
だめだ。だめだっ、この欲に流されちゃ、ダメだっ!!
「ふふっ。イルカ、もう何も考えなくていいの。番えばきっと私を好きになるわ。吸血しながらの性交ってとっても素敵なんですって」
女は大きく口をあけた。
左右の白い犬歯がのぞく。
「いっ、いやだ! やめてくれっ」
抵抗したいのに、あまりに激しい発情のため、身体が思うように動かせない。
いや、身体はまぎれもなくこの女を求めているのだ。
「ダメだ! 俺はお前とは番えないっ」
女がイルカの喉元に齧りつこうとした瞬間、羅刹丸の残した噛痕からすざまじい妖気がほとばしり、女の全身を打った。
「ギャッ」
女は鋭い悲鳴をあげ、その場に蹲る。
吐く息は荒く、辛そうだ。
「アァ……ウグッ!」
荒れ狂う欲情は容赦なくイルカを襲う。
熱を増すばかりの身体に畏れをなしながら、イルカは叫んでいた。
「ウァアア―――――ッ!!」
「イルカ先生……!?」
任務を終え、里へ向けて全力で駆けていたカカシがその足を止めた。
躊躇いなく親指を噛み、流れ出た血と共に印を結ぶ。
次の瞬間、カカシはしゃがみ込み、大地に片手をついた。
「口寄せの術……!!」
現れたのは、写輪眼のカカシが最も信頼を寄せる忍犬である。
「パックン。これは奪還命令が出ていた巻物だ。綱手様に届けてくれ」
「よかろう。して、お主はどうするのじゃ」
「イルカ先生の元に飛ぶ。何か大変なことが先生の身に起こっている気がするんだ」
「あいわかった」
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