【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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目覚めたイルカの視界に真っ先に飛び込んできたのは、見知らぬ部屋の見知らぬ天井だった。
訳が分からないまま起き上がって見回そうとすると、腹に回ったがっしりとした腕に阻まれる。その白く肌目の整った腕の持ち主を思い出すと同時に昨夜の乱行が甦って、飛び起きようとしたがやはり力強い拘束に阻まれた。
昨日は訳が分からないままに流されてしまった。
イルカは固く目を閉じて呻く。
二日酔いの頭痛と、股関節やらあらぬところの痛みやら、どこがどう痛むのか分からないほど辛い。
何よりも、先生と呼ばれる自分が雰囲気に流されてヤってしまうなんて、いや最後までは結局しなかったというか、きつすぎて出来なかったというか……と言い訳にもならない事を自分の中で並べ立てる。
相手が会ったばかりのよく分からない作家、しかも同性の男というのが信じられなかった。
――カカシさんもまた、先生と呼ばれる職業なんだな。
イルカは不意に思い出した。
途端にカカシの甘く低い声が甦る。
そしてあの白い指。
その顔もだが、何よりも。
綺麗な手をした人だな、と思っていた。
思い浮かべるだけで腰にぞくりと痺れが走るほどに。
「……ぅはよ。まだ早いよ……もうちょっと寝よう?」
イルカの身動ぎに、目覚めきらないカカシの寝惚けた声が上がる。
びくりと体を揺らしたイルカはなんとかそっと腕の中から抜け出すと、慌てながらも散らばった衣類を集めて静かに身支度を調え部屋を出た。
そこはどうやら寝室だったらしい。忍び足で囲炉裏のある所に戻ると荷物を手にして玄関を出る。
そこからはだんだん早足になり、緩やかな坂を下って行く手を遮る鎖を跨いでからは走り出していた。
六月はもう初夏とはいえ、朝はまだ肌寒い。
だがあの家から、昨夜の過ちから逃げ出そうとしているイルカには、それすらも全く感じられなかった。
しばらく夢中で走り続けていたが、あちこちの痛みを思い出したせいで足が徐々に緩む。
その時になって初めて髪を結い上げていたゴムを忘れてきたことに気付き、舌打ちをした。顔にかかる髪をかき上げて息を整えながら歩いていると、背後から車のエンジン音が近付いてくる。道端に避けながら振り返ると、そこには運転席で手を振るカカシがいた。
「なんで黙って帰っちゃうの? 送るから乗って」
「……けっこうです」
「でも歩き方も変だよ? どうしたの?」
助手席側の窓を開けて更に話しかけてくるのを無視して歩き始めると、カカシは車をゆるゆると並走させた。
「塾まで歩くと三時間以上かかるよ? 乗った方がいいよ?」
「けっこうです」
「ねぇ、何か用事でもあるの? 朝食くらい食べていきなよ」
「だから! けっこうですっっ!」
言い合いをしてる内に一台の車が追い付いてきた。
我関せずという態度でノロノロ運転を続けるカカシに、後ろからクラクションが響く。
この辺りは緩やかなカーブが多く、不用意に追い越しは出来ないせいだろう。間をおかずに再度クラクションが鳴る。
「ほら迷惑だから乗って?」
「迷惑なのはあんただけだろうが!」
怒鳴りながらもこのままでは埒が明かないと、結局カカシと常識にイルカは負けた。
渋々車に乗り込むが、助手席ではなく後部座席に座ったのはイルカの意地だ。
カカシはミラー越しにチラリと後部座席に目をやると、つれないなぁと口を尖らせながら発進させる。
イルカは気まずさと、カカシに対する八つ当たりじみた行動へのほんの少しの罪悪感と、何より羞恥心で顔を背けて窓の外を一心に見続けた。
昨夜の過ちがカカシだけの責任でないことは、朧気な記憶に残っていた。抵抗らしい抵抗はほとんどしてなかったことも、きっかけは自分の劣情だったことも。
だがそれを認めてしまったら、本当に流されてしまう。
カカシはなぜか自分に執着を見せ始めたが、それもきっと一時のことだ。いずれ消え去るだろうと、昨夜の過ちはなかったことにしてしまうのが一番だと、イルカは窓に写る自分の顔に言い聞かせていた。
そこで窓の外に見覚えのある景色を捉えた。
地面に蛇のように垂れ下がる鎖。
「畠さん! 約束が違うじゃないですか!」
「約束? 朝食はこれから作るよ? あと畠じゃなくてカカシね」
その言葉に、先ほどカカシが最後に言ったのは、確かに朝食のことだったと思い当たる。
だが普通は相手がこれだけ拒絶してるのだから、塾まで送り届けるものだろうがと、あまりの話の通じなさにイルカはガックリと上体を前に倒し、両手で顔を覆った。
恐らく家の前の空地に着いたのだろう、停車した反動がイルカの体を揺らす。
「……朝食はけっこうです。本当に。お願いだから塾まで俺を送って下さい」
「俺はもうちょっとイルカ先生と一緒にいたいんだけど」
「それでどうするんですか⁉ 俺はもうあんなことは二度としません!」
「俺はまたしてみたいよ? 先生のいろんな可愛い顔をもっと見たい」
「やめろ! 俺はああいう軽薄な行為を楽しめる人間じゃないんだよ……お願いだから、もう……忘れて下さい」
イルカの絞り出すような懇願に、車内に沈黙が降りる。
カカシがどんな顔をしているのか、顔を覆ったままのイルカには窺うことは出来なかった。
これでも伝わらないなら今度こそ歩いて帰ろうとドアハンドルに手をかけると、先に運転席からバタンとドアを開ける音がした。そして腰を屈めたカカシが「分かった。でもちょっと待ってて、渡したい物があるから」と言って、車を降りると家の中に入ってしまった。
渡したい物とは髪ゴムだろうかと、イルカはしばらく待ってみた。
するとカカシが何か光る物を手にして玄関を出てくる。
その何かは、ヒルゼンが盆栽の剪定をする時に使うハサミとそっくりだった。驚いたイルカは思わず車から飛び出したが、カカシは家の脇を回って裏手の方に向かっていく。
カカシの意図が読めなくて、イルカはそっと後を着いていった。
家屋の横手を壁に沿って歩くと、昨夜は暗くて囲炉裏の部屋のピクチャーウインドから見えなかった裏庭に出る。
そこには辺り一面に紫陽花が咲き誇っていた。
水色や薄紫、薄紅色や薄黄色と、淡い色合いの洪水が視界に溢れる。
だがその紫陽花はイルカの知るものより遥かに背が高かった。
カカシが躊躇なくその中に足を踏み入れると、たちまちその姿が紫陽花の波間に埋もれてしまう。その淡い色合いは色素の薄いカカシを呑み込み、同化して消えてしまうのではないかという不安に、イルカは不意に襲われた。
「はた……け、さん」
カカシを追って紫陽花の中に飛び込もうとすると、突然カカシが姿を現した。
――両手いっぱい、色とりどりの紫陽花を抱えて。
「あれ、来てくれたの? はいイルカ先生、これ。あげる」
「あの……? えっ、と……ありがとうございます……?」
急に花束を押し付けられたイルカがへどもどと返すと、カカシが「うん、やっぱり似合うね」とひどく優しげな笑みを浮かべた。
仮にも男に対して花束が似合うはないだろうと、ちょっとムッとして見返すと、カカシが紫陽花を指した。
「それ。丸くて大きくて、子供の頭みたいに見えない?」
ぎょっとしたイルカは思わず紫陽花を取り落とし、地面にばらまいてしまった。
紫陽花を子供の頭に例えるなんて聞いたことがない。
そういえばと、紫陽花の根元に死体を埋めると花の色が変わるという、子供の頃に聞いた恐ろしい話を思い出した。そのイメージを連想してしまうと、やっぱりこの男はどこかヤバいのではとイルカはジリジリと後ずさる。
するとカカシはしゃがみこんで、花を拾い集めながら話し始めた。
「昨日の授業の様子を見て、子供たちの頭が紫陽花みたいだなって思ったの。ほら、このピンクとか黄色とか」
思いがけない言葉に、イルカは足を止めて紫陽花を見下ろした。
言われてみれば、紫陽花の色はナルトやサクラの髪色に似ている。グレーっぽいのは中学生クラスのスイだろうか。薄紫はリン。サスケの黒はないが、さすがに紫陽花の色では見付けられなかったのだろう。
子供たちそれぞれの顔を思い浮かべると、イルカの表情が自然と和らぐ。その胸に、ひとまとめにした紫陽花をカカシが再び押し付けた。
「だからね、きっと紫陽花の花束がイルカ先生に似合うと思って。先生は子供たちに囲まれてるのが一番似合うし、いい顔をしてたから」
……そうか。
俺は紫陽花が似合うのか。
紫陽花みたいな子供たちに囲まれてるのが一番似合うのか。
イルカは不意に泣きたくてたまらなくなった。
単に子供好きだねと言われた時より、カカシの言葉は心の奥底の柔らかい処にすとんと収まった。
学校の教師になる道を選ばなかったのは、もちろん両親のような塾を開きたいという思いもあったが、何より。
子供たちを丁寧に一人ずつ見られる、木の葉塾のような少人数体制が好きだからだ。
この花束のように、自分の両手で抱えきれるだけの。
イルカはそっと紫陽花を抱きしめた。
なんでこの男は会ったばかりなのに、教育理念や理想など一言も話してないのに、ここまで的確に捉えられるのか。そんな思いは上手く言葉にならず、ただ「ありがとうございます」と小さく答えることしか出来なかった。
「あとね、これは俺のきゅうあいだから」
「……きゅうあい?」
突然出てきた耳慣れない単語にイルカがきょとんとしてると、カカシは紫陽花ごとイルカを抱きしめてキスをした。
「そ、求愛。さっきイルカ先生が言ってたでしょ、軽薄な行為って。その反論がこれ。この花束」
「……! だってあれは酔っ払った上での」
言い返そうとしたイルカの口を、再びカカシの唇が塞ぐ。
さっきよりほんの少し長く、深く。
「俺とこうするのは嫌? 気持ち悪い?」
気持ち悪くないから困っているのだ。
それでも認めたくない、意固地なイルカとカカシの間で紫陽花がさわさわと微かな音を立てる。
返事を躊躇ってイルカが俯き、紫陽花を見るふりをしていると、カカシが言葉を続けた。
「昨日は悪戯がエスカレートしてごめんなさい。でもあなたを可愛いって言ったのはホント。あんな顔を誰にも見せたくないと思ったの。それって独占欲じゃないの? 俺はイルカ先生のことが好きだよ」
はっきりと口に出された好きという言葉に、イルカは思わず顔を上げた。
すると間近でカカシが頬を染めながら真摯に言い募る。
「これが恋じゃないなんて、誰にも、あなたにも言わせない。俺はイルカ先生が、あなたが、好き」
真っ直ぐな告白がイルカの胸を真っ直ぐに撃ち抜く。
と同時に、今までのカカシのおかしな言動にもようやく合点がいった。
初対面で失礼なことを言い放ったり会話が噛み合わなかったりと、大和も言っていたがカカシは本当に不器用なのだろう。
一見自由気ままに話し行動しているようにも見えるが、よくよく思い返してみればカカシはきちんと相手を見て、そして相手のことを考えて言葉を発している。ただその言葉の選び方や、そうするに到った過程の説明をすっ飛ばした行動が頓狂に見えるだけで。
それは天才と言われる頭の構造の違いからくるんだろうが、きっと勘違いされやすい人だったろうと、イルカはため息をついた。今のようにたまたまカカシの思考と言動のタイミングが合って、相手にその言葉が真っ直ぐに届かない限りは。
しかもカカシは言葉を扱う作家という職業なのに、と思わず苦笑が浮かんでしまう。
その顔に何を思ったのか、カカシが慌てて口を開いた。
「あのね、悪戯って言っても嫌がらせじゃなくて、可愛い子をちょっと虐めたいみたいな、そんな感情……違うな、自分だけに見せてくれる顔を見たかったっていうか……えっと、とにかくこれは好きってことでしょ?」
初めてカカシの灰蒼色の眼に不安が宿る。
それはまるで、自分の解答が間違っているんじゃないかとイルカを見上げる子供のようで。
その時、一際強い風が吹き抜けた。
季節外れな野分を思わせる突風は裏手の林から紫陽花を一斉に揺らし、そしてイルカの胸をもざわめかせた。
――この風は今までの自分の有り様を、がらりと変えてしまうのだろう。
それに身を任せるのも悪くないと思っていることに、イルカはふと気が付いた。
行き場に迷うカカシの手が宙に浮いている。
白く繊細で美しい指。
自分はきっとその手を取って、指を絡めて繋いでしまうのだろう。
そんな確信がイルカにはあった。
この感情が同じ温度の恋とはまだ到底感じられないが、思えば最初からあの指に魅入られ、翻弄され捉えられていたのだから。
「はた…………カカシ、さん」
初めて催促されることなく呼んだ名に、カカシの眼が大きく見開かれた。
不安に揺らいでいたその眼が喜びに細められるのも。
たぶんもう、すぐ。
【完】
訳が分からないまま起き上がって見回そうとすると、腹に回ったがっしりとした腕に阻まれる。その白く肌目の整った腕の持ち主を思い出すと同時に昨夜の乱行が甦って、飛び起きようとしたがやはり力強い拘束に阻まれた。
昨日は訳が分からないままに流されてしまった。
イルカは固く目を閉じて呻く。
二日酔いの頭痛と、股関節やらあらぬところの痛みやら、どこがどう痛むのか分からないほど辛い。
何よりも、先生と呼ばれる自分が雰囲気に流されてヤってしまうなんて、いや最後までは結局しなかったというか、きつすぎて出来なかったというか……と言い訳にもならない事を自分の中で並べ立てる。
相手が会ったばかりのよく分からない作家、しかも同性の男というのが信じられなかった。
――カカシさんもまた、先生と呼ばれる職業なんだな。
イルカは不意に思い出した。
途端にカカシの甘く低い声が甦る。
そしてあの白い指。
その顔もだが、何よりも。
綺麗な手をした人だな、と思っていた。
思い浮かべるだけで腰にぞくりと痺れが走るほどに。
「……ぅはよ。まだ早いよ……もうちょっと寝よう?」
イルカの身動ぎに、目覚めきらないカカシの寝惚けた声が上がる。
びくりと体を揺らしたイルカはなんとかそっと腕の中から抜け出すと、慌てながらも散らばった衣類を集めて静かに身支度を調え部屋を出た。
そこはどうやら寝室だったらしい。忍び足で囲炉裏のある所に戻ると荷物を手にして玄関を出る。
そこからはだんだん早足になり、緩やかな坂を下って行く手を遮る鎖を跨いでからは走り出していた。
六月はもう初夏とはいえ、朝はまだ肌寒い。
だがあの家から、昨夜の過ちから逃げ出そうとしているイルカには、それすらも全く感じられなかった。
しばらく夢中で走り続けていたが、あちこちの痛みを思い出したせいで足が徐々に緩む。
その時になって初めて髪を結い上げていたゴムを忘れてきたことに気付き、舌打ちをした。顔にかかる髪をかき上げて息を整えながら歩いていると、背後から車のエンジン音が近付いてくる。道端に避けながら振り返ると、そこには運転席で手を振るカカシがいた。
「なんで黙って帰っちゃうの? 送るから乗って」
「……けっこうです」
「でも歩き方も変だよ? どうしたの?」
助手席側の窓を開けて更に話しかけてくるのを無視して歩き始めると、カカシは車をゆるゆると並走させた。
「塾まで歩くと三時間以上かかるよ? 乗った方がいいよ?」
「けっこうです」
「ねぇ、何か用事でもあるの? 朝食くらい食べていきなよ」
「だから! けっこうですっっ!」
言い合いをしてる内に一台の車が追い付いてきた。
我関せずという態度でノロノロ運転を続けるカカシに、後ろからクラクションが響く。
この辺りは緩やかなカーブが多く、不用意に追い越しは出来ないせいだろう。間をおかずに再度クラクションが鳴る。
「ほら迷惑だから乗って?」
「迷惑なのはあんただけだろうが!」
怒鳴りながらもこのままでは埒が明かないと、結局カカシと常識にイルカは負けた。
渋々車に乗り込むが、助手席ではなく後部座席に座ったのはイルカの意地だ。
カカシはミラー越しにチラリと後部座席に目をやると、つれないなぁと口を尖らせながら発進させる。
イルカは気まずさと、カカシに対する八つ当たりじみた行動へのほんの少しの罪悪感と、何より羞恥心で顔を背けて窓の外を一心に見続けた。
昨夜の過ちがカカシだけの責任でないことは、朧気な記憶に残っていた。抵抗らしい抵抗はほとんどしてなかったことも、きっかけは自分の劣情だったことも。
だがそれを認めてしまったら、本当に流されてしまう。
カカシはなぜか自分に執着を見せ始めたが、それもきっと一時のことだ。いずれ消え去るだろうと、昨夜の過ちはなかったことにしてしまうのが一番だと、イルカは窓に写る自分の顔に言い聞かせていた。
そこで窓の外に見覚えのある景色を捉えた。
地面に蛇のように垂れ下がる鎖。
「畠さん! 約束が違うじゃないですか!」
「約束? 朝食はこれから作るよ? あと畠じゃなくてカカシね」
その言葉に、先ほどカカシが最後に言ったのは、確かに朝食のことだったと思い当たる。
だが普通は相手がこれだけ拒絶してるのだから、塾まで送り届けるものだろうがと、あまりの話の通じなさにイルカはガックリと上体を前に倒し、両手で顔を覆った。
恐らく家の前の空地に着いたのだろう、停車した反動がイルカの体を揺らす。
「……朝食はけっこうです。本当に。お願いだから塾まで俺を送って下さい」
「俺はもうちょっとイルカ先生と一緒にいたいんだけど」
「それでどうするんですか⁉ 俺はもうあんなことは二度としません!」
「俺はまたしてみたいよ? 先生のいろんな可愛い顔をもっと見たい」
「やめろ! 俺はああいう軽薄な行為を楽しめる人間じゃないんだよ……お願いだから、もう……忘れて下さい」
イルカの絞り出すような懇願に、車内に沈黙が降りる。
カカシがどんな顔をしているのか、顔を覆ったままのイルカには窺うことは出来なかった。
これでも伝わらないなら今度こそ歩いて帰ろうとドアハンドルに手をかけると、先に運転席からバタンとドアを開ける音がした。そして腰を屈めたカカシが「分かった。でもちょっと待ってて、渡したい物があるから」と言って、車を降りると家の中に入ってしまった。
渡したい物とは髪ゴムだろうかと、イルカはしばらく待ってみた。
するとカカシが何か光る物を手にして玄関を出てくる。
その何かは、ヒルゼンが盆栽の剪定をする時に使うハサミとそっくりだった。驚いたイルカは思わず車から飛び出したが、カカシは家の脇を回って裏手の方に向かっていく。
カカシの意図が読めなくて、イルカはそっと後を着いていった。
家屋の横手を壁に沿って歩くと、昨夜は暗くて囲炉裏の部屋のピクチャーウインドから見えなかった裏庭に出る。
そこには辺り一面に紫陽花が咲き誇っていた。
水色や薄紫、薄紅色や薄黄色と、淡い色合いの洪水が視界に溢れる。
だがその紫陽花はイルカの知るものより遥かに背が高かった。
カカシが躊躇なくその中に足を踏み入れると、たちまちその姿が紫陽花の波間に埋もれてしまう。その淡い色合いは色素の薄いカカシを呑み込み、同化して消えてしまうのではないかという不安に、イルカは不意に襲われた。
「はた……け、さん」
カカシを追って紫陽花の中に飛び込もうとすると、突然カカシが姿を現した。
――両手いっぱい、色とりどりの紫陽花を抱えて。
「あれ、来てくれたの? はいイルカ先生、これ。あげる」
「あの……? えっ、と……ありがとうございます……?」
急に花束を押し付けられたイルカがへどもどと返すと、カカシが「うん、やっぱり似合うね」とひどく優しげな笑みを浮かべた。
仮にも男に対して花束が似合うはないだろうと、ちょっとムッとして見返すと、カカシが紫陽花を指した。
「それ。丸くて大きくて、子供の頭みたいに見えない?」
ぎょっとしたイルカは思わず紫陽花を取り落とし、地面にばらまいてしまった。
紫陽花を子供の頭に例えるなんて聞いたことがない。
そういえばと、紫陽花の根元に死体を埋めると花の色が変わるという、子供の頃に聞いた恐ろしい話を思い出した。そのイメージを連想してしまうと、やっぱりこの男はどこかヤバいのではとイルカはジリジリと後ずさる。
するとカカシはしゃがみこんで、花を拾い集めながら話し始めた。
「昨日の授業の様子を見て、子供たちの頭が紫陽花みたいだなって思ったの。ほら、このピンクとか黄色とか」
思いがけない言葉に、イルカは足を止めて紫陽花を見下ろした。
言われてみれば、紫陽花の色はナルトやサクラの髪色に似ている。グレーっぽいのは中学生クラスのスイだろうか。薄紫はリン。サスケの黒はないが、さすがに紫陽花の色では見付けられなかったのだろう。
子供たちそれぞれの顔を思い浮かべると、イルカの表情が自然と和らぐ。その胸に、ひとまとめにした紫陽花をカカシが再び押し付けた。
「だからね、きっと紫陽花の花束がイルカ先生に似合うと思って。先生は子供たちに囲まれてるのが一番似合うし、いい顔をしてたから」
……そうか。
俺は紫陽花が似合うのか。
紫陽花みたいな子供たちに囲まれてるのが一番似合うのか。
イルカは不意に泣きたくてたまらなくなった。
単に子供好きだねと言われた時より、カカシの言葉は心の奥底の柔らかい処にすとんと収まった。
学校の教師になる道を選ばなかったのは、もちろん両親のような塾を開きたいという思いもあったが、何より。
子供たちを丁寧に一人ずつ見られる、木の葉塾のような少人数体制が好きだからだ。
この花束のように、自分の両手で抱えきれるだけの。
イルカはそっと紫陽花を抱きしめた。
なんでこの男は会ったばかりなのに、教育理念や理想など一言も話してないのに、ここまで的確に捉えられるのか。そんな思いは上手く言葉にならず、ただ「ありがとうございます」と小さく答えることしか出来なかった。
「あとね、これは俺のきゅうあいだから」
「……きゅうあい?」
突然出てきた耳慣れない単語にイルカがきょとんとしてると、カカシは紫陽花ごとイルカを抱きしめてキスをした。
「そ、求愛。さっきイルカ先生が言ってたでしょ、軽薄な行為って。その反論がこれ。この花束」
「……! だってあれは酔っ払った上での」
言い返そうとしたイルカの口を、再びカカシの唇が塞ぐ。
さっきよりほんの少し長く、深く。
「俺とこうするのは嫌? 気持ち悪い?」
気持ち悪くないから困っているのだ。
それでも認めたくない、意固地なイルカとカカシの間で紫陽花がさわさわと微かな音を立てる。
返事を躊躇ってイルカが俯き、紫陽花を見るふりをしていると、カカシが言葉を続けた。
「昨日は悪戯がエスカレートしてごめんなさい。でもあなたを可愛いって言ったのはホント。あんな顔を誰にも見せたくないと思ったの。それって独占欲じゃないの? 俺はイルカ先生のことが好きだよ」
はっきりと口に出された好きという言葉に、イルカは思わず顔を上げた。
すると間近でカカシが頬を染めながら真摯に言い募る。
「これが恋じゃないなんて、誰にも、あなたにも言わせない。俺はイルカ先生が、あなたが、好き」
真っ直ぐな告白がイルカの胸を真っ直ぐに撃ち抜く。
と同時に、今までのカカシのおかしな言動にもようやく合点がいった。
初対面で失礼なことを言い放ったり会話が噛み合わなかったりと、大和も言っていたがカカシは本当に不器用なのだろう。
一見自由気ままに話し行動しているようにも見えるが、よくよく思い返してみればカカシはきちんと相手を見て、そして相手のことを考えて言葉を発している。ただその言葉の選び方や、そうするに到った過程の説明をすっ飛ばした行動が頓狂に見えるだけで。
それは天才と言われる頭の構造の違いからくるんだろうが、きっと勘違いされやすい人だったろうと、イルカはため息をついた。今のようにたまたまカカシの思考と言動のタイミングが合って、相手にその言葉が真っ直ぐに届かない限りは。
しかもカカシは言葉を扱う作家という職業なのに、と思わず苦笑が浮かんでしまう。
その顔に何を思ったのか、カカシが慌てて口を開いた。
「あのね、悪戯って言っても嫌がらせじゃなくて、可愛い子をちょっと虐めたいみたいな、そんな感情……違うな、自分だけに見せてくれる顔を見たかったっていうか……えっと、とにかくこれは好きってことでしょ?」
初めてカカシの灰蒼色の眼に不安が宿る。
それはまるで、自分の解答が間違っているんじゃないかとイルカを見上げる子供のようで。
その時、一際強い風が吹き抜けた。
季節外れな野分を思わせる突風は裏手の林から紫陽花を一斉に揺らし、そしてイルカの胸をもざわめかせた。
――この風は今までの自分の有り様を、がらりと変えてしまうのだろう。
それに身を任せるのも悪くないと思っていることに、イルカはふと気が付いた。
行き場に迷うカカシの手が宙に浮いている。
白く繊細で美しい指。
自分はきっとその手を取って、指を絡めて繋いでしまうのだろう。
そんな確信がイルカにはあった。
この感情が同じ温度の恋とはまだ到底感じられないが、思えば最初からあの指に魅入られ、翻弄され捉えられていたのだから。
「はた…………カカシ、さん」
初めて催促されることなく呼んだ名に、カカシの眼が大きく見開かれた。
不安に揺らいでいたその眼が喜びに細められるのも。
たぶんもう、すぐ。
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