【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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見てくださいこのカオス!!
リクを下さった方々に感謝です(・∀・)ノ
【お題】
・イオンモール (ことさん)
・1億円 (増田さん)
・タガメか虫取網 (みつはさん)
・あこや貝 (白玉さん)
・二階の男子トイレ (麗かさん)
・回転寿司 (ミリさん)
・ぬりかべ (つむぐさん)
・お茶漬け (ミミックさん)
・木魚 (つーせろさん)
・あさま山荘(山荘) (ありこさん)
・借用書 (かいさん)
・焼きそば (手羽さん)
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木の葉のヴィーナス奪還作戦
長閑な昼下がり。
いつものように上忍待機所を抜け出し、受付の見える樹上に陣取って午後から勤務に就くはずの恋人の姿を待ちつつ昼寝を決め込んでいたカカシの傍の枝に、猫面を着けた暗部が一人降り立った。
彼がカカシにそっと耳打ちすると、慌てて跳ね起きたカカシがすぐさま煙を上げてその姿を消す。
「あ、でもイルカ先生はまだ……って、もう聞いてないか」
自分の告げた事がこれからどんな騒ぎを巻き起こすのか。
猫面の暗部――ヤマトはため息をつきながら、カカシの後を追って火影の執務室にむかった。
「五代目! イルカ先生が売り飛ばされるってどういうことですかっ⁉」
執務室の扉を叩き割る勢いで飛び込んできたカカシを、綱手がさも嫌そうに横目で見た。
「めんどくさいのが来たな。誰だこいつにご注進したのは……ヤマト!」
扉の陰にひっそりと隠れていたヤマトが、観念したように姿を表す。
その様子には見向きもせず、カカシが机をダンッと叩いた。
普段なら不敬罪に問われそうなものだが、今はカカシの恋人の危機だ。何よりおおかた賭博でこさえた借金だろうというほぼ百パーセントの確信が、カカシの行動を大胆にしていた。
「誰から聞いたかなんてどうでもいいんですよ! それよりイルカ先生が借金のカタに売り飛ばされるって!」
「ああもう煩い! これはもう決まった事なんだから、お前の出る幕はないんだよっ」
「そもそもなんでイルカ先生なんですか⁉ 忍ならこいつでもいいじゃないですか!」
カカシがヤマトの首根っこを掴んで突き出すと、綱手はじろりと睨み上げて机の上から一枚の紙切れを掲げて見せた。
「あちらさんのご指名なんだよ。借金が払えないならうみのイルカを、ってね」
借用書と毛筆で仰々しく書かれたそこには、確かに『万が一支払いが不可能な場合には、木ノ葉所属の忍 うみのイルカ を差し出します』との一文が載っていた。末尾には『大人の娯楽 あさま山荘 タガメ組』の名と共に千手綱手の直筆の署名も入っている。
ご丁寧にイルカの名の部分だけが朱筆という、あからさまな要求ぶりだ。
「これは複写ですね。原本はあちらさんが?」
「当たり前だろう、借用書だぞ? 原本はイルカと引き換えだ」
憮然とした綱手の機嫌がどんどん下降していくが、カカシにはまだ聞きたいことがあった。
タガメ組というのは、近頃火の国に拠点を置いて勢力を伸ばしてきた和の国の新興ヤクザだ。そのタガメという名の通り、自分より大きな勢力にも食らい付き呑み込み、力業で強引に貪欲にのしあがってきたヤクザだ。
そもそもそんな異国の新興ヤクザと木ノ葉の内勤のイルカに、どんな接点があったというのか。
「それなんだがね……」
あさま山荘のオーナーは表向きは一般投資家となっているが、背後にいるのは当然カタギではないタガメ組。
そのタガメ組が火の国に拠点を築いた早々に、若頭が亡くなったのだという。若頭というのは事実上組織の二番手なので、盛大な葬儀の護衛を木ノ葉に依頼してきたのだ。
その際に僧侶の数が足りないと組側がごね出して騒ぎになりかけたところ、たまたま代理で頭数に入れられていたイルカが「よろしければ私が。得度も得て度牒も頂いておりますので、代理を勤めさせて頂きます」と名乗り出たのだそうだ。
イルカは僧侶に変化して見事にその役を果たし、タガメ組の組長にいたく気に入られて「お前ならいつでも我がタガメ組に迎え入れよう」とまで言われて帰ってきたらしい。
そのエピソードを聞いたカカシは、またかと頭を抱えた。
イルカは外の任務に出る度、似たようなことを言われているのだ。
いつかうっかりどこかの馬の骨に拐われそうで気が気でないカカシは、外の任務に就かないでほしいと切に願っているし、直接イルカにもそう言っている。その時は危うく別れ話にまで発展しそうだったので二度と口には出してないが、気持ちは変わっていなかった。
ただ手段を変えてイルカに護衛など外の、特に一般人と関わるような任務がいかないよう受付に根回しをしていたのだが、急な代理までは手が回らない。
そのたった一回がこの結果か……と肩を落とす。
「ところで五代目。さっきから額面の部分をさりげなく隠してますけど、借金って幾らなんですか?」
黙って成り行きを見守っていたヤマトが、もっともな問いを投げかけた。
すると綱手はふいと窓の外に目を向ける。
そして左手を二人の方に突き出すと、綺麗に赤く塗られた爪の人差し指をぴんと立てて見せた。
「一万……いや、十万両?」
ヤマトの声に綱手の首が横に振られた。
「百万両? それでもイルカ先生の対価としては安すぎますけど」
カカシが重ねて問いかけても綱手は頷かない。
「まさか、一千万……」
「そのまさかだ。正確には和の国の貨幣単位で一億円だ」
「いちおくううううううう⁉」
「なんだってそんな身の程知らずな大金を!」
カカシとヤマトが口々に責め立てるが、さすがにきまりが悪いのか、綱手は咎めもせず窓の方を向いたままぼそぼそと説明を始めた。
いわく、火の国の別荘地に新しく和の国の賭博場がオープンして、その無料招待券が護衛の時の縁で綱手に送られてきたらしい。
大人の娯楽 あさま山荘というその賭博場はカジノや古式ゆかしき賭場に加え、今までにない『ぎゃんぶる♥回転寿司』というものが大変な前評判だったというのだ。
ぎゃんぶる♥回転寿司は、その名の通り回転寿司で次に流れてくるネタを当てる賭博だ。
それは賽子賭博と競馬と回転寿司を組み合わせたような仕組みで、レーンの回りに客が座り、幾つものネタが流れていく間に挟まれるお椀を被された三つの中身を、客が配られたネタ札を出して賭ける。
賭け方は三種類あり、どれか一つだけ当てる単勝、二つ当てる連番、三つを流れてきた順で当てる特連番で、特連番だけは異常に賭け率が跳ね上がるハイリスク・ハイリターン方式だ。
綱手は最初単勝で様子見をするというらしくない慎重さを発揮したのだが、立て続けに当たることに気を良くし、特連番に賭けた。
「……で、そのまま熱が入りすぎて莫大な借金を背負うことになったと」
ヤマトが冷静に分析すると、綱手が振り返って子供のように反論する。
「そこに座ってる間は寿司と酒はいくら飲み食いしてもタダだぞ⁉ 和の国の寿司と酒が極上なのはお前たちも知ってるだろうが!」
「べろべろに酔わせて判断力を奪い搾り取る。ネタ当ては典型的なイカサマだろうし、間違いなく五代目はイルカ先生を背負ったカモじゃないですか」
呆れたカカシが現実を突き付けると、綱手は「ぐう」と唸って黙りこんでしまった。
「だいたいあさま山荘なんて、和の国の例の事件で有名な名前じゃないですか! その時点で怪しいことは十分に予測できたことでしょう⁉」
カカシの正論に綱手はぐっと詰まったが、すぐに捲し立てた。
「まさかあそこで焼きそばが来るとは思わなかったんだよっ! ネギトロ軍艦、えんがわ、白子と定番がきたらせいぜい狙ってもお茶漬けだろうが! 回転寿司だぞ⁉」
「そこでお茶漬けを推す五代目の基準が分かりません! 普通は胡桃大福か胡桃パフェでしょう!」
「そんなもん回転寿司にあるかい! お前の胡桃へのこだわりの方が分からないよっ」
「それを言ったら焼きそばだってお茶漬けだって邪道ですよね⁉ これは運営にクレームを出すべきです!」
回転寿司のネタで言い争い始めた綱手とヤマトに、うんざりした顔も隠さずカカシが割って入った。
「……で、具体的な取引はどうなってるんですか。イルカ先生はまだ受付にいますよね?」
口論の勢いのままカカシを睨み付けた綱手は、こほんと咳払いをしてから真面目くさった顔で一通の書類を取り出した。
「詳しい事は全部ここに書いてある。ご丁寧に地図付きだ」
カカシとヤマトが覗き込むと、そこには取引の手順と注意事項、取引場所の地図までが添付されている。
「引き渡しは明日の十二時。場所は火の国のイオンモールで、うみのイルカは装備を一切禁止とし、平服で来ること。付き添いは忍ではない一般人が一人のみ。うみのイルカと引き換えに付き添い人に借用書を渡して取引は完了とする。尚、うみのイルカ以外に忍のチャクラ探知機に反応があった場合は取引は不成立となり、契約違反の代償としてうみのイルカを貰い受けた上に一億円の借金はそのまま……か」
「イオンモール……休日の人混みで取引なんて考えましたね。危なくて現場でこちらからは何も仕掛けられない」
ヤクザらしい周到さに、カカシとヤマトは同時にため息をついた。
かといっておとなしくイルカを渡す訳にはいかない。
カカシはしばらく書類をじっと睨んでから、綱手に「この件は俺に任せてもらえませんかね」と願い出た。
「構わんがくれぐれも騒ぎにはするなよ。表向きには正当な取引だし、木ノ葉の忍が関わってるとバレるのは今後を考えるとまずい」
「分かってます。あ、サポートにはテンゾウを借りますね」
昼前にイオンモールに到着するためには、イルカの足だと明け方には里を出なければならない。
カカシはヤマトと打ち合わせをした後、準備を任せて自分は受付にイルカを連れ出しに行った。
取引当日の昼前。
三人はイオンモールの前に立っていた。
付き添いは変化ができないため、何かと名も売れて目立つ容貌のカカシは不向きなのでヤマトが担当する。ヤマトは一般男性の格好をした上で、腹の丹田の部分に綱手が直々に作製した肌に一体化するチャクラ封じの札を貼っていた。
万が一自白剤を使われた場合を想定し、イルカは詳しい事を聞かされていない。計画を自白することではなく、イルカの強靭な精神力を考えると自白を堪えて出る脳や精神面への悪影響をカカシが慮ったのだ。
二人の上忍、しかも暗部の立案ということで、イルカに不安はなかったが緊張は隠せなかった。
「イルカ先生はとにかく相手に逆らわないで、言われた通りにしててね。……あと、さっきけっこう本気で走ってたけど腰は大丈夫?」
「分かりました。腰も大丈夫ですのでお気遣いなく」
「ほんとに? だって出る前にも腰が怠いって言っ」
「うるせぇ! 大丈夫って言ってんだろ黙れっ」
イルカが真っ赤になって怒鳴り付けた後、ヤマトに向かって「失礼しました」と頭を下げた。
カカシがやたらと気遣うのは、出発直前まで散々抱いていたからだ。
当人には明かしていなかったが、現場でイルカの気配を辿れなくなることも想定して、秘かにイルカの体内に自分のチャクラを混ぜ込んでおいたのである。
それに気付けないほど乱れたイルカが、最後は悦楽の表情で朦朧となりながらカカシの腰に両足を巻き付け、「やだ、やめないで、もっと奥ぅ」とねだってたくせに、ということは言わないだけの分別がカカシにはあった。
それを指摘する代わりに、カカシは二人を促した。
「それじゃ、そろそろ指定の場所に向かってもらおうかな」
「はい。ヤマトさん、よろしくお願いします」
任務用に意識が切り替わったイルカが凛々しく頷く。
その後ろ姿が見えなくなったところで、カカシは物陰に隠れて素早くスケアへと変化した。その上で影分身を一体出し、さらに五歳くらいの子供に変化させる。
休日のショッピングモールに男性一人だと目立つが、子供がいれば別だ。
忍でも親子連れでモールに遊びに来るのは珍しくなく、現に木ノ葉の正規の忍服を着た母親が赤ん坊を抱き、もう一人の子供の手を引いてスケアの隣をすり抜けていった。
「じゃあ行こっか、『パパ』」
スケアと子供のカカシは手を繋いで先ほどの親子連れに続き、入口の自動ドアを通り抜けた。
スケアと子供カカシがさりげなく周囲を見回すと、ちょうどイルカとヤマトにタガメ組の使いの男が接触してきたところだった。
二人はその男についてエスカレーターで二階に上がると、そのまま男子トイレに連れ立って入ってしまった。
「パパ、トイレに行きたい」
「トイレ、トイレ……二階の方が空いてるかな? 我慢できる?」
「うん、でも早く」
スケアは子供カカシを抱き上げて、小芝居をしながら足早に男子トイレに駆け込む。
するとちょうど出てきたヤマトと鉢合わせたので、わざとぶつかった。お互い謝りながら唇の動きだけで素早く情報交換をすると、スケアはカカシを抱いたまま一番奥の個室に入る。
そして中に入ると鍵をかけ、カカシを床に下ろした。
(ここに入ったまま、イルカ先生たちが消えたって訳ね)
(てことは、どこかに隠し扉があるか、何かの仕掛けがあるか)
読唇術で会話をしながら狭い中を探すと、隣との仕切りと反対側の、壁であるはずの隅に僅かな術の痕跡を発見した。
その時個室の扉がココン、コッ、ココンと叩かれて、カカシが鍵だけ外すとヤマトがするりと滑り込んでくる。
「外に清掃中の札を立ててきましたから、しばらくは無人です。念のため木分身も置いてあります」
「これ、ぬりかべの術だね。テンゾウ、札を」
ヤマトは手短に報告しながら自分の腹から剥がしたチャクラ封じの札を再利用し、今度は壁の隅に貼り付けた。
そこに向かってスケアが素早く印を組む。
するとぼわっと壁の表面が歪み、灰色の扉が現れた。
「ぬりかべの術ってことは、洋灰の里が関わってますね」
「でもあの里は技術的支援しかしないからね。葬儀の護衛に木ノ葉を指名したくらいだし、この先に待ち構えてるのはどっかの抜け忍とか忍崩れの雇われでしょ」
子供のカカシが、その愛らしい容貌に似つかわしくない言葉を連ねる。
その間にもスケアが眼だけ変化を解いて隠し扉を抜け、写輪眼で確認作業をしてから影分身を消した。
「さて、イルカ先生奪還作戦の開始といきますか」
イルカは戸惑っていた。
イオンモールの二階の男子トイレから隠し通路を抜け、連れてこられたのはどこかの立派なお屋敷で。
てっきりタガメ組の構成員として、忍のスキルを使って悪事に荷担させられると思っていたのに、今はなぜか全裸にさせられて煌めく薄布を羽織っている。結っていた黒髪はほどかれ、花や真珠、メレダイヤ等が散りばめられていた。
身の置き所なくもじもじと立っているのは、ぱかりと口を開けた状態の人より遥かに大きなあこや貝の中だった。
金にあかせて作らせたのだろう螺鈿細工のあこや貝は、シャンデリアの光を受けて内側がキラキラと輝き、反射光で中に立つイルカを明るく照らしている。
そして目の前で先ほどからイルカ手放しで称賛しているのは、タガメ組の組長だった。
「素晴らしい……似合うぞイルカちゃん♥ 後でその格好のままワシの木魚を握ってポクポクしてくれんかのう」
「あの、これはいったい? それにあなたの木魚って……そんなに仏道に進みたいなら、火の国の寺をいくらでもご紹介しますよ?」
すると組長は肥えた巨体をくねらせてイルカを見つめた。
「イルカちゃんは焦らすのもお上手じゃのう。じゃがまずは今日のメインイベントとしてカジノでお披露目が先じゃ」
焦らすって、仏道に帰依するのはまだ先にしたいということなのかとイルカは首を捻ったが、カジノで自分をお披露目ということは――
「このすっぽんぽんに近い姿で⁉ そんなの困りますよ! 恥ずかしいです!」
慌ててあこや貝から飛び出そうとすると、いかつい男たちに取り押さえられた。
「イルカちゃんは謙虚じゃな。じゃじゃ馬なところも可愛いが、後で調教するのもまた楽しみというもの。じゃが今はおとなしく眠っててもらわんとな。……おい」
下卑た笑みを浮かべて組長が手下の者に合図すると、イルカの顔に何かスプレーがかけられた。
ぐらりと視界が揺れ、目の前が暗くなっていく。
――カカシさん
心の中で信頼を寄せる上官の、そして誰より愛しい男の名を呼ぶとイルカの意識はぶつりと途切れた。
「…………ルカ、起きて、イルカ」
頬を軽く叩かれる感覚に、深い眠りに沈んでいたイルカの意識が急速に覚醒する。
「か、かしさ……?」
「良かった、ずいぶん強い睡眠薬を使われてたから。まだ動けないよね?」
「ん……抱っこ」
イルカの甘えた声にスケアは苦笑すると、イルカの羽織っていた薄布を剥いで自分のコートを着せ、あこや貝の中からひょいと抱き上げた。
いつもの勢いはどこへやら、イルカはおとなしくスケアの首に腕を回して胸元に顔を埋めた。
目覚めて一番にカカシの声しか聞いてないせいか、家で二人きりと勘違いしてるのかもしれない。姿はスケアでも、声もチャクラも僅かな体臭すら変えていなかったので、ぼんやりしたイルカはスケアをカカシと認識したらしい。
二人の濃密なやり取りになんとなく目のやり場に困ったヤマトは、あこや貝の方に目を向けた。
「ずいぶんと立派な細工物ですね」
「それだけイルカにご執心なんでしょ」
いかにも胸糞悪いという顔でスケアがあこや貝を見下ろす。
そして腕の中でまた眠るイルカのしどけない姿を見て、悔しそうに呟いた。
「あのジジィ、ムカつくけど趣味はいいな。今度俺もヴィーナスイルカの誕生をやってもらおっと♪」
とたんにデレッと表情を崩したスケアを見ないようにして、ヤマトが注意を促す。
「先輩、そろそろ出ないと」
その声にスケアは、一本の巻物を取り出して口寄せの印を片手で組んだ。
ぼふんと煙を上げた所に現れたのはパックンとシバである。
「あとはよろしくね」
「うむ」
「任せろ!」
阿吽の呼吸で短いやり取りを交わすと、スケアは大事そうにイルカを抱え直し、ヤマトを殿に屋敷からイオンモールの男子トイレへと駆け出した。
その日の夜更け。
火影室の執務机の前に、カカシとヤマトは再び立っていた。
「……で、イルカは無事取り戻せたんだな?」
「睡眠薬の影響が残っているので、俺の部屋で寝かせています」
今はスケアからその姿を戻したカカシを見て綱手は頷き、手の中の借用書を眺めながらしみじみと呟いた。
「まさか、あさま山荘がイオンモールの男子トイレに繋がっていたとはねぇ」
「あれは山荘への隠し通路というより、手入れがあった時等の非常時の脱出口でしょうね。お陰で監視も少なくて楽でした」
「それはいいが、イルカが消えた始末はどうしたんだい? こうして借用書が戻ってきても、イルカがいないから契約不履行だって言われても困る」
「あぁ、それなんですけどね」
ヤマトがたまらずといったように、笑いを噛み殺しながら答える。
それを引き取って、カカシが肩をすくめた。
「今頃はそれどころじゃないと思いますよ。鳴り物入りでイルカ先生を組長の愛玩物としてお披露目しようとしてたみたいだし、しばらくは信用回復で忙しいんじゃないですかね」
どういうことだ? と首を傾げる綱手に、ヤマトが種明かしをする。
夜更けの執務室に、綱手のさも可笑しげな高笑いが響いた。
あさま山荘では、カジノのイベントショーがまさに開かれるところだった。
招待客の火の国の大名や富豪たちがきれいどころを侍らせ、シャンパングラスを片手にステージに注目している。
そのステージにはスポットライトを浴びたあこや貝が中央に据えられ、眩しい光を乱反射していた。
「それでは本日のメインイベント、『ヴィーナスの誕生』です!」
招かれた客たちは誰もがその『ヴィーナス』が組長の新しい愛玩ペットだと知っていたので、興味深く見守っていた。
オーケストラの生演奏が最高潮の盛り上がりを見せたところで、あこや貝の上部がゆっくりと上がっていく。
タガメ組の組長は誇らしげにそれを見つめていた。
あこや貝の上部が完全に開かれると、会場が異様なざわつきに満たされる。
「おいおい、あれが?」
「今度はずいぶんとまぁ……斬新な趣味だな」
あこや貝の中に佇んでいたのは、いや、ちょこんと座っていたのは、煌めく薄布を羽織った一匹の犬だった。
しわくちゃに埋もれた顔の、目だけはくりっとして可愛い……と言えないこともない、かもしれない。
皆の注目を一身に浴びる中で、その不細工な犬は口をぱかりと開けると。
「ワン!」
と一声、高らかに鳴いた。
とたんに爆笑の渦が会場に広がる。
中にはシャンパングラスを取り落として笑い転げる者までいて、組長だけが顔を真っ赤にしてぶるぶると震えていた。
そんな組長に一人の酔客が不躾にも直接声をかける。
「もう別嬪さんには飽きたのかね? まさかワンコロとはねぇ、ぶはははは!」
「違うぞ! あれは……あれは何なんじゃ!」
組長が酔客に食って掛かろうとしたその時、会場の両開きのドアの方から鋭い男の声が響いた。
「逃げろ、警察の手入れだワン!」
一瞬の静寂の後、我先に逃げ出そうとする者たちと、非常口に誘導するスタッフとで会場が大混乱を極めた。
その大混乱の中で男の言葉の語尾に小さくワンが付いていたことに気付いた者はなく、不細工な犬もいつの間にか消えていた。
誰もが逃げ去った後には、膝を突いて放心状態の組長と。
そして静かに煌めくあこや貝だけが取り残されていたのだった。
【完】
リクを下さった方々に感謝です(・∀・)ノ
【お題】
・イオンモール (ことさん)
・1億円 (増田さん)
・タガメか虫取網 (みつはさん)
・あこや貝 (白玉さん)
・二階の男子トイレ (麗かさん)
・回転寿司 (ミリさん)
・ぬりかべ (つむぐさん)
・お茶漬け (ミミックさん)
・木魚 (つーせろさん)
・あさま山荘(山荘) (ありこさん)
・借用書 (かいさん)
・焼きそば (手羽さん)
÷÷÷÷÷・÷÷÷÷÷・÷÷÷÷÷
木の葉のヴィーナス奪還作戦
長閑な昼下がり。
いつものように上忍待機所を抜け出し、受付の見える樹上に陣取って午後から勤務に就くはずの恋人の姿を待ちつつ昼寝を決め込んでいたカカシの傍の枝に、猫面を着けた暗部が一人降り立った。
彼がカカシにそっと耳打ちすると、慌てて跳ね起きたカカシがすぐさま煙を上げてその姿を消す。
「あ、でもイルカ先生はまだ……って、もう聞いてないか」
自分の告げた事がこれからどんな騒ぎを巻き起こすのか。
猫面の暗部――ヤマトはため息をつきながら、カカシの後を追って火影の執務室にむかった。
「五代目! イルカ先生が売り飛ばされるってどういうことですかっ⁉」
執務室の扉を叩き割る勢いで飛び込んできたカカシを、綱手がさも嫌そうに横目で見た。
「めんどくさいのが来たな。誰だこいつにご注進したのは……ヤマト!」
扉の陰にひっそりと隠れていたヤマトが、観念したように姿を表す。
その様子には見向きもせず、カカシが机をダンッと叩いた。
普段なら不敬罪に問われそうなものだが、今はカカシの恋人の危機だ。何よりおおかた賭博でこさえた借金だろうというほぼ百パーセントの確信が、カカシの行動を大胆にしていた。
「誰から聞いたかなんてどうでもいいんですよ! それよりイルカ先生が借金のカタに売り飛ばされるって!」
「ああもう煩い! これはもう決まった事なんだから、お前の出る幕はないんだよっ」
「そもそもなんでイルカ先生なんですか⁉ 忍ならこいつでもいいじゃないですか!」
カカシがヤマトの首根っこを掴んで突き出すと、綱手はじろりと睨み上げて机の上から一枚の紙切れを掲げて見せた。
「あちらさんのご指名なんだよ。借金が払えないならうみのイルカを、ってね」
借用書と毛筆で仰々しく書かれたそこには、確かに『万が一支払いが不可能な場合には、木ノ葉所属の忍 うみのイルカ を差し出します』との一文が載っていた。末尾には『大人の娯楽 あさま山荘 タガメ組』の名と共に千手綱手の直筆の署名も入っている。
ご丁寧にイルカの名の部分だけが朱筆という、あからさまな要求ぶりだ。
「これは複写ですね。原本はあちらさんが?」
「当たり前だろう、借用書だぞ? 原本はイルカと引き換えだ」
憮然とした綱手の機嫌がどんどん下降していくが、カカシにはまだ聞きたいことがあった。
タガメ組というのは、近頃火の国に拠点を置いて勢力を伸ばしてきた和の国の新興ヤクザだ。そのタガメという名の通り、自分より大きな勢力にも食らい付き呑み込み、力業で強引に貪欲にのしあがってきたヤクザだ。
そもそもそんな異国の新興ヤクザと木ノ葉の内勤のイルカに、どんな接点があったというのか。
「それなんだがね……」
あさま山荘のオーナーは表向きは一般投資家となっているが、背後にいるのは当然カタギではないタガメ組。
そのタガメ組が火の国に拠点を築いた早々に、若頭が亡くなったのだという。若頭というのは事実上組織の二番手なので、盛大な葬儀の護衛を木ノ葉に依頼してきたのだ。
その際に僧侶の数が足りないと組側がごね出して騒ぎになりかけたところ、たまたま代理で頭数に入れられていたイルカが「よろしければ私が。得度も得て度牒も頂いておりますので、代理を勤めさせて頂きます」と名乗り出たのだそうだ。
イルカは僧侶に変化して見事にその役を果たし、タガメ組の組長にいたく気に入られて「お前ならいつでも我がタガメ組に迎え入れよう」とまで言われて帰ってきたらしい。
そのエピソードを聞いたカカシは、またかと頭を抱えた。
イルカは外の任務に出る度、似たようなことを言われているのだ。
いつかうっかりどこかの馬の骨に拐われそうで気が気でないカカシは、外の任務に就かないでほしいと切に願っているし、直接イルカにもそう言っている。その時は危うく別れ話にまで発展しそうだったので二度と口には出してないが、気持ちは変わっていなかった。
ただ手段を変えてイルカに護衛など外の、特に一般人と関わるような任務がいかないよう受付に根回しをしていたのだが、急な代理までは手が回らない。
そのたった一回がこの結果か……と肩を落とす。
「ところで五代目。さっきから額面の部分をさりげなく隠してますけど、借金って幾らなんですか?」
黙って成り行きを見守っていたヤマトが、もっともな問いを投げかけた。
すると綱手はふいと窓の外に目を向ける。
そして左手を二人の方に突き出すと、綺麗に赤く塗られた爪の人差し指をぴんと立てて見せた。
「一万……いや、十万両?」
ヤマトの声に綱手の首が横に振られた。
「百万両? それでもイルカ先生の対価としては安すぎますけど」
カカシが重ねて問いかけても綱手は頷かない。
「まさか、一千万……」
「そのまさかだ。正確には和の国の貨幣単位で一億円だ」
「いちおくううううううう⁉」
「なんだってそんな身の程知らずな大金を!」
カカシとヤマトが口々に責め立てるが、さすがにきまりが悪いのか、綱手は咎めもせず窓の方を向いたままぼそぼそと説明を始めた。
いわく、火の国の別荘地に新しく和の国の賭博場がオープンして、その無料招待券が護衛の時の縁で綱手に送られてきたらしい。
大人の娯楽 あさま山荘というその賭博場はカジノや古式ゆかしき賭場に加え、今までにない『ぎゃんぶる♥回転寿司』というものが大変な前評判だったというのだ。
ぎゃんぶる♥回転寿司は、その名の通り回転寿司で次に流れてくるネタを当てる賭博だ。
それは賽子賭博と競馬と回転寿司を組み合わせたような仕組みで、レーンの回りに客が座り、幾つものネタが流れていく間に挟まれるお椀を被された三つの中身を、客が配られたネタ札を出して賭ける。
賭け方は三種類あり、どれか一つだけ当てる単勝、二つ当てる連番、三つを流れてきた順で当てる特連番で、特連番だけは異常に賭け率が跳ね上がるハイリスク・ハイリターン方式だ。
綱手は最初単勝で様子見をするというらしくない慎重さを発揮したのだが、立て続けに当たることに気を良くし、特連番に賭けた。
「……で、そのまま熱が入りすぎて莫大な借金を背負うことになったと」
ヤマトが冷静に分析すると、綱手が振り返って子供のように反論する。
「そこに座ってる間は寿司と酒はいくら飲み食いしてもタダだぞ⁉ 和の国の寿司と酒が極上なのはお前たちも知ってるだろうが!」
「べろべろに酔わせて判断力を奪い搾り取る。ネタ当ては典型的なイカサマだろうし、間違いなく五代目はイルカ先生を背負ったカモじゃないですか」
呆れたカカシが現実を突き付けると、綱手は「ぐう」と唸って黙りこんでしまった。
「だいたいあさま山荘なんて、和の国の例の事件で有名な名前じゃないですか! その時点で怪しいことは十分に予測できたことでしょう⁉」
カカシの正論に綱手はぐっと詰まったが、すぐに捲し立てた。
「まさかあそこで焼きそばが来るとは思わなかったんだよっ! ネギトロ軍艦、えんがわ、白子と定番がきたらせいぜい狙ってもお茶漬けだろうが! 回転寿司だぞ⁉」
「そこでお茶漬けを推す五代目の基準が分かりません! 普通は胡桃大福か胡桃パフェでしょう!」
「そんなもん回転寿司にあるかい! お前の胡桃へのこだわりの方が分からないよっ」
「それを言ったら焼きそばだってお茶漬けだって邪道ですよね⁉ これは運営にクレームを出すべきです!」
回転寿司のネタで言い争い始めた綱手とヤマトに、うんざりした顔も隠さずカカシが割って入った。
「……で、具体的な取引はどうなってるんですか。イルカ先生はまだ受付にいますよね?」
口論の勢いのままカカシを睨み付けた綱手は、こほんと咳払いをしてから真面目くさった顔で一通の書類を取り出した。
「詳しい事は全部ここに書いてある。ご丁寧に地図付きだ」
カカシとヤマトが覗き込むと、そこには取引の手順と注意事項、取引場所の地図までが添付されている。
「引き渡しは明日の十二時。場所は火の国のイオンモールで、うみのイルカは装備を一切禁止とし、平服で来ること。付き添いは忍ではない一般人が一人のみ。うみのイルカと引き換えに付き添い人に借用書を渡して取引は完了とする。尚、うみのイルカ以外に忍のチャクラ探知機に反応があった場合は取引は不成立となり、契約違反の代償としてうみのイルカを貰い受けた上に一億円の借金はそのまま……か」
「イオンモール……休日の人混みで取引なんて考えましたね。危なくて現場でこちらからは何も仕掛けられない」
ヤクザらしい周到さに、カカシとヤマトは同時にため息をついた。
かといっておとなしくイルカを渡す訳にはいかない。
カカシはしばらく書類をじっと睨んでから、綱手に「この件は俺に任せてもらえませんかね」と願い出た。
「構わんがくれぐれも騒ぎにはするなよ。表向きには正当な取引だし、木ノ葉の忍が関わってるとバレるのは今後を考えるとまずい」
「分かってます。あ、サポートにはテンゾウを借りますね」
昼前にイオンモールに到着するためには、イルカの足だと明け方には里を出なければならない。
カカシはヤマトと打ち合わせをした後、準備を任せて自分は受付にイルカを連れ出しに行った。
取引当日の昼前。
三人はイオンモールの前に立っていた。
付き添いは変化ができないため、何かと名も売れて目立つ容貌のカカシは不向きなのでヤマトが担当する。ヤマトは一般男性の格好をした上で、腹の丹田の部分に綱手が直々に作製した肌に一体化するチャクラ封じの札を貼っていた。
万が一自白剤を使われた場合を想定し、イルカは詳しい事を聞かされていない。計画を自白することではなく、イルカの強靭な精神力を考えると自白を堪えて出る脳や精神面への悪影響をカカシが慮ったのだ。
二人の上忍、しかも暗部の立案ということで、イルカに不安はなかったが緊張は隠せなかった。
「イルカ先生はとにかく相手に逆らわないで、言われた通りにしててね。……あと、さっきけっこう本気で走ってたけど腰は大丈夫?」
「分かりました。腰も大丈夫ですのでお気遣いなく」
「ほんとに? だって出る前にも腰が怠いって言っ」
「うるせぇ! 大丈夫って言ってんだろ黙れっ」
イルカが真っ赤になって怒鳴り付けた後、ヤマトに向かって「失礼しました」と頭を下げた。
カカシがやたらと気遣うのは、出発直前まで散々抱いていたからだ。
当人には明かしていなかったが、現場でイルカの気配を辿れなくなることも想定して、秘かにイルカの体内に自分のチャクラを混ぜ込んでおいたのである。
それに気付けないほど乱れたイルカが、最後は悦楽の表情で朦朧となりながらカカシの腰に両足を巻き付け、「やだ、やめないで、もっと奥ぅ」とねだってたくせに、ということは言わないだけの分別がカカシにはあった。
それを指摘する代わりに、カカシは二人を促した。
「それじゃ、そろそろ指定の場所に向かってもらおうかな」
「はい。ヤマトさん、よろしくお願いします」
任務用に意識が切り替わったイルカが凛々しく頷く。
その後ろ姿が見えなくなったところで、カカシは物陰に隠れて素早くスケアへと変化した。その上で影分身を一体出し、さらに五歳くらいの子供に変化させる。
休日のショッピングモールに男性一人だと目立つが、子供がいれば別だ。
忍でも親子連れでモールに遊びに来るのは珍しくなく、現に木ノ葉の正規の忍服を着た母親が赤ん坊を抱き、もう一人の子供の手を引いてスケアの隣をすり抜けていった。
「じゃあ行こっか、『パパ』」
スケアと子供のカカシは手を繋いで先ほどの親子連れに続き、入口の自動ドアを通り抜けた。
スケアと子供カカシがさりげなく周囲を見回すと、ちょうどイルカとヤマトにタガメ組の使いの男が接触してきたところだった。
二人はその男についてエスカレーターで二階に上がると、そのまま男子トイレに連れ立って入ってしまった。
「パパ、トイレに行きたい」
「トイレ、トイレ……二階の方が空いてるかな? 我慢できる?」
「うん、でも早く」
スケアは子供カカシを抱き上げて、小芝居をしながら足早に男子トイレに駆け込む。
するとちょうど出てきたヤマトと鉢合わせたので、わざとぶつかった。お互い謝りながら唇の動きだけで素早く情報交換をすると、スケアはカカシを抱いたまま一番奥の個室に入る。
そして中に入ると鍵をかけ、カカシを床に下ろした。
(ここに入ったまま、イルカ先生たちが消えたって訳ね)
(てことは、どこかに隠し扉があるか、何かの仕掛けがあるか)
読唇術で会話をしながら狭い中を探すと、隣との仕切りと反対側の、壁であるはずの隅に僅かな術の痕跡を発見した。
その時個室の扉がココン、コッ、ココンと叩かれて、カカシが鍵だけ外すとヤマトがするりと滑り込んでくる。
「外に清掃中の札を立ててきましたから、しばらくは無人です。念のため木分身も置いてあります」
「これ、ぬりかべの術だね。テンゾウ、札を」
ヤマトは手短に報告しながら自分の腹から剥がしたチャクラ封じの札を再利用し、今度は壁の隅に貼り付けた。
そこに向かってスケアが素早く印を組む。
するとぼわっと壁の表面が歪み、灰色の扉が現れた。
「ぬりかべの術ってことは、洋灰の里が関わってますね」
「でもあの里は技術的支援しかしないからね。葬儀の護衛に木ノ葉を指名したくらいだし、この先に待ち構えてるのはどっかの抜け忍とか忍崩れの雇われでしょ」
子供のカカシが、その愛らしい容貌に似つかわしくない言葉を連ねる。
その間にもスケアが眼だけ変化を解いて隠し扉を抜け、写輪眼で確認作業をしてから影分身を消した。
「さて、イルカ先生奪還作戦の開始といきますか」
イルカは戸惑っていた。
イオンモールの二階の男子トイレから隠し通路を抜け、連れてこられたのはどこかの立派なお屋敷で。
てっきりタガメ組の構成員として、忍のスキルを使って悪事に荷担させられると思っていたのに、今はなぜか全裸にさせられて煌めく薄布を羽織っている。結っていた黒髪はほどかれ、花や真珠、メレダイヤ等が散りばめられていた。
身の置き所なくもじもじと立っているのは、ぱかりと口を開けた状態の人より遥かに大きなあこや貝の中だった。
金にあかせて作らせたのだろう螺鈿細工のあこや貝は、シャンデリアの光を受けて内側がキラキラと輝き、反射光で中に立つイルカを明るく照らしている。
そして目の前で先ほどからイルカ手放しで称賛しているのは、タガメ組の組長だった。
「素晴らしい……似合うぞイルカちゃん♥ 後でその格好のままワシの木魚を握ってポクポクしてくれんかのう」
「あの、これはいったい? それにあなたの木魚って……そんなに仏道に進みたいなら、火の国の寺をいくらでもご紹介しますよ?」
すると組長は肥えた巨体をくねらせてイルカを見つめた。
「イルカちゃんは焦らすのもお上手じゃのう。じゃがまずは今日のメインイベントとしてカジノでお披露目が先じゃ」
焦らすって、仏道に帰依するのはまだ先にしたいということなのかとイルカは首を捻ったが、カジノで自分をお披露目ということは――
「このすっぽんぽんに近い姿で⁉ そんなの困りますよ! 恥ずかしいです!」
慌ててあこや貝から飛び出そうとすると、いかつい男たちに取り押さえられた。
「イルカちゃんは謙虚じゃな。じゃじゃ馬なところも可愛いが、後で調教するのもまた楽しみというもの。じゃが今はおとなしく眠っててもらわんとな。……おい」
下卑た笑みを浮かべて組長が手下の者に合図すると、イルカの顔に何かスプレーがかけられた。
ぐらりと視界が揺れ、目の前が暗くなっていく。
――カカシさん
心の中で信頼を寄せる上官の、そして誰より愛しい男の名を呼ぶとイルカの意識はぶつりと途切れた。
「…………ルカ、起きて、イルカ」
頬を軽く叩かれる感覚に、深い眠りに沈んでいたイルカの意識が急速に覚醒する。
「か、かしさ……?」
「良かった、ずいぶん強い睡眠薬を使われてたから。まだ動けないよね?」
「ん……抱っこ」
イルカの甘えた声にスケアは苦笑すると、イルカの羽織っていた薄布を剥いで自分のコートを着せ、あこや貝の中からひょいと抱き上げた。
いつもの勢いはどこへやら、イルカはおとなしくスケアの首に腕を回して胸元に顔を埋めた。
目覚めて一番にカカシの声しか聞いてないせいか、家で二人きりと勘違いしてるのかもしれない。姿はスケアでも、声もチャクラも僅かな体臭すら変えていなかったので、ぼんやりしたイルカはスケアをカカシと認識したらしい。
二人の濃密なやり取りになんとなく目のやり場に困ったヤマトは、あこや貝の方に目を向けた。
「ずいぶんと立派な細工物ですね」
「それだけイルカにご執心なんでしょ」
いかにも胸糞悪いという顔でスケアがあこや貝を見下ろす。
そして腕の中でまた眠るイルカのしどけない姿を見て、悔しそうに呟いた。
「あのジジィ、ムカつくけど趣味はいいな。今度俺もヴィーナスイルカの誕生をやってもらおっと♪」
とたんにデレッと表情を崩したスケアを見ないようにして、ヤマトが注意を促す。
「先輩、そろそろ出ないと」
その声にスケアは、一本の巻物を取り出して口寄せの印を片手で組んだ。
ぼふんと煙を上げた所に現れたのはパックンとシバである。
「あとはよろしくね」
「うむ」
「任せろ!」
阿吽の呼吸で短いやり取りを交わすと、スケアは大事そうにイルカを抱え直し、ヤマトを殿に屋敷からイオンモールの男子トイレへと駆け出した。
その日の夜更け。
火影室の執務机の前に、カカシとヤマトは再び立っていた。
「……で、イルカは無事取り戻せたんだな?」
「睡眠薬の影響が残っているので、俺の部屋で寝かせています」
今はスケアからその姿を戻したカカシを見て綱手は頷き、手の中の借用書を眺めながらしみじみと呟いた。
「まさか、あさま山荘がイオンモールの男子トイレに繋がっていたとはねぇ」
「あれは山荘への隠し通路というより、手入れがあった時等の非常時の脱出口でしょうね。お陰で監視も少なくて楽でした」
「それはいいが、イルカが消えた始末はどうしたんだい? こうして借用書が戻ってきても、イルカがいないから契約不履行だって言われても困る」
「あぁ、それなんですけどね」
ヤマトがたまらずといったように、笑いを噛み殺しながら答える。
それを引き取って、カカシが肩をすくめた。
「今頃はそれどころじゃないと思いますよ。鳴り物入りでイルカ先生を組長の愛玩物としてお披露目しようとしてたみたいだし、しばらくは信用回復で忙しいんじゃないですかね」
どういうことだ? と首を傾げる綱手に、ヤマトが種明かしをする。
夜更けの執務室に、綱手のさも可笑しげな高笑いが響いた。
あさま山荘では、カジノのイベントショーがまさに開かれるところだった。
招待客の火の国の大名や富豪たちがきれいどころを侍らせ、シャンパングラスを片手にステージに注目している。
そのステージにはスポットライトを浴びたあこや貝が中央に据えられ、眩しい光を乱反射していた。
「それでは本日のメインイベント、『ヴィーナスの誕生』です!」
招かれた客たちは誰もがその『ヴィーナス』が組長の新しい愛玩ペットだと知っていたので、興味深く見守っていた。
オーケストラの生演奏が最高潮の盛り上がりを見せたところで、あこや貝の上部がゆっくりと上がっていく。
タガメ組の組長は誇らしげにそれを見つめていた。
あこや貝の上部が完全に開かれると、会場が異様なざわつきに満たされる。
「おいおい、あれが?」
「今度はずいぶんとまぁ……斬新な趣味だな」
あこや貝の中に佇んでいたのは、いや、ちょこんと座っていたのは、煌めく薄布を羽織った一匹の犬だった。
しわくちゃに埋もれた顔の、目だけはくりっとして可愛い……と言えないこともない、かもしれない。
皆の注目を一身に浴びる中で、その不細工な犬は口をぱかりと開けると。
「ワン!」
と一声、高らかに鳴いた。
とたんに爆笑の渦が会場に広がる。
中にはシャンパングラスを取り落として笑い転げる者までいて、組長だけが顔を真っ赤にしてぶるぶると震えていた。
そんな組長に一人の酔客が不躾にも直接声をかける。
「もう別嬪さんには飽きたのかね? まさかワンコロとはねぇ、ぶはははは!」
「違うぞ! あれは……あれは何なんじゃ!」
組長が酔客に食って掛かろうとしたその時、会場の両開きのドアの方から鋭い男の声が響いた。
「逃げろ、警察の手入れだワン!」
一瞬の静寂の後、我先に逃げ出そうとする者たちと、非常口に誘導するスタッフとで会場が大混乱を極めた。
その大混乱の中で男の言葉の語尾に小さくワンが付いていたことに気付いた者はなく、不細工な犬もいつの間にか消えていた。
誰もが逃げ去った後には、膝を突いて放心状態の組長と。
そして静かに煌めくあこや貝だけが取り残されていたのだった。
【完】
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