【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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それからというもの、俺はひたすらにイルカ先生を想い、焦がれ、目で追い続けた。
アカデミーのイルカ先生も、受付のイルカ先生も、職員室で残業するイルカ先生も、ナルトと一楽に通うイルカ先生も、居酒屋で同僚と呑み語らうイルカ先生も、カップラーメンを啜りながらテレビを見て笑うイルカ先生も、全て。
生徒を教え導く朗らかで頼り甲斐ある先生の、受付の凛々しい先生の。
あの男らしい姿の裏には、あんなに可愛らしく艶のある貌を隠しているのだ。
俺は全てのイルカ先生を知ってこの目に焼き付けたいと、無我夢中で追い続けた。
任務先の怪しげな土産物屋で、軒先に並んだ壺がイルカ先生に似てると思えば買い求めたりもした。
ころんとした青い壺には上部に太く黒い横線が入っていて、まるで額宛をきっちり締めた彼のようだ。蓋になったギザギザの黒い硝子も、彼の結い上げた黒髪のようでたまらなく愛しい。
それを大事に抱えて帰路に着いてる途中、テンゾウが胡散臭そうな声をかけてきても気にも留めなかった。
「…………先輩。それどうするんですか」
「どうするって、大切に飾るに決まってるじゃないの」
「飾るぅうう?! 先輩が? そんな変な壺を?!!?!」
今の一言はいただけない。
俺のイルカ先生壺に不遜な態度を示す後輩には、しっかりと反省を促すお仕置きをして里へと帰り着いた。
今回は三代目からの直接の依頼だったので、受付でイルカ先生に「お疲れさまでした」と労ってもらえないのが残念だ。
二人で火影室の机の前に並ぶと、報告を受けた三代目が「ご苦労じゃったな」と労ってくれたが、俺が欲しいのはそんな渋枯れた声じゃないのだ。
「……ところでカカシよ。テンゾウがそんな状態になっておるのに思い当たる節はあるかの」
「いえ、まったく」
「テンゾウは何か言いたいことはあるかの」
「………ありませんにゃ」
「…………………そうか。ならば今夜はゆっくり休むがよい」
天井から護衛の暗部たちの含み笑いが漏れてきたが、三代目は咎めようともしなかった。
火影室を退出するとテンゾウが泣きそうな声で訴えてくる。
「先輩、これ洗えば落ちますにゃね?!」
「さあ? あとその可愛コぶった口調が心底気持ち悪い」
「先輩のせいでしょうにゃ! 早く治して下さいにゃっ!」
そんなことより早くイルカ先生の自宅へ行って、料理する姿を目に焼き付けなければ。今日は給料日前で、先生は手料理を作る日のはずだ。
俺は廊下の窓から外へ飛んだ。
暗部面の代わりに外套のフードを目深に被った、素顔のままのテンゾウを廊下に残して。
そのフードには俺が適当に筆を走らせた猫の顔が、歪んだテンゾウの口元には猫のヒゲが描かれている。
戯れにテンゾウを猫っぽくしてみたが、気持ち悪いだけだった。やっぱり猫プレイはイルカ先生に取っておくべきだった。この点は次に生かそうと反省しながら、イルカ先生の自宅へと急いだ。
中忍アパートの二階の端、その通路に面した窓がイルカ先生の部屋の台所だ。
今の季節はきっと窓を全開にして料理してるだろうと、その前に立つポプラの葉陰に身を潜める。案の定先生は網戸の向こう側に、包丁を片手に動き回っていた。
イルカ先生は、武器はお手本のように正しく癖のない扱い方をするのに、なぜか包丁捌きは恐ろしく下手だ。包丁捌きに限らず料理全般が苦手なのかもしれない。
今日もキャベツを相手に格闘する先生を、ハラハラしながら見守った。「イテッ」と声が上がり、イルカ先生が人差し指をくわえるのを見て、思わず力が入って小枝を揺らしてしまった。
幸いたいした怪我ではないようだが。
こんなシーンも聖典にあったと気付いたのは、ずっと後だった。
男が慣れない包丁で指を切り、女がそれを舐めるのを見て男が「もっと太くて熱いモノを舐めたくないか」と誘うシーン。
だがイルカ先生が指をくわえて痛そうにしてるのを見ても、恋愛的要素は全く感じなかった。
彼が痛くないようにと、ただそれだけを願っていた。
七班の任務の時は、かなりの高確率でイルカ先生に会える。
今日も今日とて騒がしい子供たちを引き連れ、受付へと報告書を提出しに来た。
イルカ先生はまず俺に挨拶をする。必ず。
「せんせー、せんせー!」とはしゃぐナルトには見向きもせず、真っ直ぐに俺の目を見て「おかえりなさい、お疲れさまでした」と声をかけてくれる。それから報告書を素早くチェックして、問題がないと分かると「はい、結構です。お疲れさまでした」と笑顔を向けてくれるのだ。
それが済んでから、ようやく子供たちに顔を向ける。
順番に様子を聞いたり、頭を撫でたり、時には場所も弁えず喧嘩を始めたサスケとナルトを叱ったり。
そこで気付いた。
イルカ先生はいつも同じ笑顔を俺に見せることに。
今まではイルカ先生の方を見もしなかったが、きっとこれまでもずっと同じ顔を見せ続けていたのだろう。
途端に子供たちより俺を優先してくれるという優越感は霧散してしまった。
解散と言うのも忘れ、まだイルカ先生と話している子供たちを置いて、とぼとぼと受付を出る。
本部棟を出たところで後ろから彼の気配を感じ、振り返った。
「……あの、カカシ先生」
イルカ先生が意を決したような顔で、声をかけてきた。
俺を追いかけてきてくれたという初めての事態に、しかも恐らくは個人的な用件でという感触に、全身に電流が走ったような高揚感を覚える。
内心の動揺をひた隠し、僅かに首を傾けて先を促すと、先生は一歩踏み出して「大変差し出がましいのですが……」と切り出した。
「いつも手にしてるその本を、できれば人前で読まないで頂きたいのです」
イルカ先生の真摯な黒い瞳が、真っ直ぐ俺を射抜く。
……本。
俺に愛とはどんなものかを教えてくれる、本。
「上忍師は子供たちの模範となる人物です。その御本を読むなとは申しませんが、せめて子供たちの前で読むのはやめて頂けないでしょうか。あとはカバーを付けるとか……」
まさか。
理想の恋人像であるイルカ先生が。
よりによって、その原典である本を否定するなんて!
これはぜひともイルカ先生に、この本の素晴らしさを理解してもらわなければならない。
「あの……?」
「イルカ先生。貴方はこの本が、人前で読むのに相応しくない悪書だと言うんですね?」
「いえ、そこまでは! ただ人目を憚るべき本だとは思うので……」
上官に上申するという緊張のせいか、イルカ先生の頬は僅かに紅潮している。そして俺に逆らったような形になってしまったからか、慌てて両手を顔の前で振って焦る姿は、またしても聖典の理想の恋人像を彷彿とさせた。
それが俺の取るべき行動を決定付けてくれた。
俺はイルカ先生に向かって足を踏み出す。
そして次の瞬間には背後を取り、片手で彼を抱きすくめるようにして拘束していた。
何が起きたのか、どう動いたらいいのか判断がつかずに固まったイルカ先生の耳元で、教え諭すように話しかける。
「イルカ先生。この本には、人として大切な愛の全てが記されているんです」
「はあ……、はい?」
「先生は恋を知ってますか? 愛を知ってますか?」
「へっ? や、あの……どうでしょう」
「それなら俺が読んであげましょう。これが恋愛の真の姿です」
俺は腰のポーチから本を取り出した。
何度も何度も読み返して開き癖の付いたページは、簡単に開くことができる。
片手で先生を押さえ付けたまま、もう片方の手で本を広げて二人の前に掲げた。そして目的の一節を、心を込めて読み上げる。
イルカ先生にも、この真実の愛がどんなに素晴らしいのか、過たず伝わるように。
「言って、どうして欲しいの?」
「あ……舐めて」
「ん……どこ舐めて欲しいのかな?ここかな?」
「あっ、そこ……やっ」
「嘘つき。大好きなくせに」
「意地悪……しないで……もう」
「もう?我慢できないの?」
「んっ……んぅ。欲しっカカシさんの。俺の中に……入れて!早く!」
「ん、ごーかく。おねだり上手になったね」
「早く!俺のなかっ滅茶苦茶にしてっカカシさんので!酷くして……いいっ」
「あ……凄い。キュウキュウ食いついてくる。はは……食い千切られそう。凶暴だねぇ……イルカは……んっ気持ちいぃ」
「いいっ!俺も!もっとっ!グチャグチャにして!カカシさん!!」
最後の『カカシさん!!』の余韻が、二人の間に漂った。
イルカ先生の部分は先生の声色を使って演じたので、つい熱が入ってしまったきらいはあるが。
これできっと先生にもこの本の素晴らしい所が伝わったに違いない。現にイルカ先生は感動のあまりか、身体を震わせているではないか。
だが先生にはちょっと刺激が強すぎたかもしれない。
真っ赤に染まった耳朶を見てイルカ先生の新たな魅力を発見しながら、様子を見ようと顔を覗きこんだ。
「いかがでしたか? これで……がふっっっっっ!!?!?」
股間が爆発したかと思った。
目の前に星がちかちか瞬き、本を取り落として股間を押さえながらうずくまる。
遅まきながら何が起きたのか理解した。イルカ先生が身を沈めつつ肘打ちを食らわせたのだ。
当のイルカ先生の爪先が見える。
と、恐る恐るといった感じの声が降ってきた。
「すみません、反射的についアスマさんに教わったセクハラの対処法をしてしまって……大丈夫ですか?」
「………クハラ……じゃ、な……」
顔を上げて何とか反論を絞り出すと、眼前に呆れと心配の入り交じったイルカ先生の顔があった。
「セクハラでしょう。登場人物をわざわざ『イルカ』と『カカシさん』に変えて読んで……違うなら何だったんですか?」
「……れん、あいの、りそうの……」
「理想のって、カカシ先生のですか? これが?」
イルカ先生が地面に落ちた本を拾い上げ、汚れを払ってからパラパラとめくる。
が、すぐにパタンと閉じてしまった。
「さっきの内容といい、その……卑猥で生々しくて、とても理想の恋愛の姿とは思えないんですけど」
「卑猥で生々しいからこそ、理想なんですよ」
ようやく痛みの引いてきた俺は、呻きながら身体を起こした。
「ここまで生々しく欲望を伝え合えるなんて、絶対的な信頼関係がないとできないことでしょ。それに相手への思いやりと献身。一方的な快楽の享受は、セックスじゃなくて性欲処理だ。そんなものが一切ないこの本には、愛あるセックスの全てが記されてるんです。だから俺は……」
俺は口布を下げ、額宛も外して顔だけでも裸になった。この聖典では、裸の付き合いこそが本当の付き合いだと語っているからだ。
そして未だぽかんと俺を見てるイルカ先生の手を取った。
「あなたとこんな風にセックスをして、愛し合いたい」
「お断りします」
「……え?」
「え、じゃないですよ。カカシ先生が腹を割って下さったから俺も本音で言いますけどね。はっきり言って、それはカカシ先生だけの理想でしょう? どんなに素晴らしくても、そこに俺の理想はないじゃないですか」
……………あ。ほんとだ。
「……カカシ先生のお気持ちは嬉しいです。でもカカシ先生が俺にこういうことを言ったりやったりしてほしいなら、俺は恥ずかしくて絶対無理です。それだとカカシ先生の理想の恋愛を実行できない俺は要らないですよね?」
そう言いながらも俺の手の中には、まだイルカ先生の手が残っている。
顔を上げると、まだイルカ先生の黒い瞳が俺を映している。
まだ。
まだ間に合うんじゃないだろうか。
イルカ先生は、まだ何かチャンスを残してくれてるんじゃないだろうか。
そう思って引き寄せようとした手が、するりと抜けていった。
そして立ち上がって踵を返す。
――これはフラれたということ、だよ……ね。
歩み去ってくきっちりと脚絆の巻かれた足を見送っていると、不意にその足が止まった。
「……でも、カカシ先生の理想はとても素敵だと思いました。絶対的な信頼関係と思いやり。そんな恋愛ができたら……」
再び、ざっざっと足音が遠ざかっていく。
違う、俺は……
俺は、イルカ先生の笑顔が好きだ。
いやらしい顔ももちろん見たいけど、それ以上に。
子供たちに向けるあけっぴろげで飾り気のない笑顔が、声が大好きなんだ。
失礼な後輩が言う通り、変な壺があなたに見えてしまうほどイルカ先生に夢中なんだ。
あなたが上手に料理できないなら、俺が作ってあげたいんだ。
あなたが怪我をしないか、いつも心配なんだ。
イルカ先生。
理想の恋人があなたではなく、あなたが俺の理想なんだ。
あなたと俺で絶対的な信頼関係を作って、恋人同士になりたいんだ。
俺は立ち上がって追いかけた。
たった今見えた本当の気持ちを、イルカ先生に伝えるために。
そして――それを聞いたイルカ先生の、本当の気持ちを教えてもらうために。
カカシには、とても素敵な恋人がありました。
それは美しくて離れられないほど。
カカシは、出かける時はいつも、理想の恋人を伴って出かけました。
雷雨のような時もありましたが、本気の恋をしているのでした。
カカシは本気の、真実の恋愛をしているのでした。
――彼の素敵な恋人と。
【完】
アカデミーのイルカ先生も、受付のイルカ先生も、職員室で残業するイルカ先生も、ナルトと一楽に通うイルカ先生も、居酒屋で同僚と呑み語らうイルカ先生も、カップラーメンを啜りながらテレビを見て笑うイルカ先生も、全て。
生徒を教え導く朗らかで頼り甲斐ある先生の、受付の凛々しい先生の。
あの男らしい姿の裏には、あんなに可愛らしく艶のある貌を隠しているのだ。
俺は全てのイルカ先生を知ってこの目に焼き付けたいと、無我夢中で追い続けた。
任務先の怪しげな土産物屋で、軒先に並んだ壺がイルカ先生に似てると思えば買い求めたりもした。
ころんとした青い壺には上部に太く黒い横線が入っていて、まるで額宛をきっちり締めた彼のようだ。蓋になったギザギザの黒い硝子も、彼の結い上げた黒髪のようでたまらなく愛しい。
それを大事に抱えて帰路に着いてる途中、テンゾウが胡散臭そうな声をかけてきても気にも留めなかった。
「…………先輩。それどうするんですか」
「どうするって、大切に飾るに決まってるじゃないの」
「飾るぅうう?! 先輩が? そんな変な壺を?!!?!」
今の一言はいただけない。
俺のイルカ先生壺に不遜な態度を示す後輩には、しっかりと反省を促すお仕置きをして里へと帰り着いた。
今回は三代目からの直接の依頼だったので、受付でイルカ先生に「お疲れさまでした」と労ってもらえないのが残念だ。
二人で火影室の机の前に並ぶと、報告を受けた三代目が「ご苦労じゃったな」と労ってくれたが、俺が欲しいのはそんな渋枯れた声じゃないのだ。
「……ところでカカシよ。テンゾウがそんな状態になっておるのに思い当たる節はあるかの」
「いえ、まったく」
「テンゾウは何か言いたいことはあるかの」
「………ありませんにゃ」
「…………………そうか。ならば今夜はゆっくり休むがよい」
天井から護衛の暗部たちの含み笑いが漏れてきたが、三代目は咎めようともしなかった。
火影室を退出するとテンゾウが泣きそうな声で訴えてくる。
「先輩、これ洗えば落ちますにゃね?!」
「さあ? あとその可愛コぶった口調が心底気持ち悪い」
「先輩のせいでしょうにゃ! 早く治して下さいにゃっ!」
そんなことより早くイルカ先生の自宅へ行って、料理する姿を目に焼き付けなければ。今日は給料日前で、先生は手料理を作る日のはずだ。
俺は廊下の窓から外へ飛んだ。
暗部面の代わりに外套のフードを目深に被った、素顔のままのテンゾウを廊下に残して。
そのフードには俺が適当に筆を走らせた猫の顔が、歪んだテンゾウの口元には猫のヒゲが描かれている。
戯れにテンゾウを猫っぽくしてみたが、気持ち悪いだけだった。やっぱり猫プレイはイルカ先生に取っておくべきだった。この点は次に生かそうと反省しながら、イルカ先生の自宅へと急いだ。
中忍アパートの二階の端、その通路に面した窓がイルカ先生の部屋の台所だ。
今の季節はきっと窓を全開にして料理してるだろうと、その前に立つポプラの葉陰に身を潜める。案の定先生は網戸の向こう側に、包丁を片手に動き回っていた。
イルカ先生は、武器はお手本のように正しく癖のない扱い方をするのに、なぜか包丁捌きは恐ろしく下手だ。包丁捌きに限らず料理全般が苦手なのかもしれない。
今日もキャベツを相手に格闘する先生を、ハラハラしながら見守った。「イテッ」と声が上がり、イルカ先生が人差し指をくわえるのを見て、思わず力が入って小枝を揺らしてしまった。
幸いたいした怪我ではないようだが。
こんなシーンも聖典にあったと気付いたのは、ずっと後だった。
男が慣れない包丁で指を切り、女がそれを舐めるのを見て男が「もっと太くて熱いモノを舐めたくないか」と誘うシーン。
だがイルカ先生が指をくわえて痛そうにしてるのを見ても、恋愛的要素は全く感じなかった。
彼が痛くないようにと、ただそれだけを願っていた。
七班の任務の時は、かなりの高確率でイルカ先生に会える。
今日も今日とて騒がしい子供たちを引き連れ、受付へと報告書を提出しに来た。
イルカ先生はまず俺に挨拶をする。必ず。
「せんせー、せんせー!」とはしゃぐナルトには見向きもせず、真っ直ぐに俺の目を見て「おかえりなさい、お疲れさまでした」と声をかけてくれる。それから報告書を素早くチェックして、問題がないと分かると「はい、結構です。お疲れさまでした」と笑顔を向けてくれるのだ。
それが済んでから、ようやく子供たちに顔を向ける。
順番に様子を聞いたり、頭を撫でたり、時には場所も弁えず喧嘩を始めたサスケとナルトを叱ったり。
そこで気付いた。
イルカ先生はいつも同じ笑顔を俺に見せることに。
今まではイルカ先生の方を見もしなかったが、きっとこれまでもずっと同じ顔を見せ続けていたのだろう。
途端に子供たちより俺を優先してくれるという優越感は霧散してしまった。
解散と言うのも忘れ、まだイルカ先生と話している子供たちを置いて、とぼとぼと受付を出る。
本部棟を出たところで後ろから彼の気配を感じ、振り返った。
「……あの、カカシ先生」
イルカ先生が意を決したような顔で、声をかけてきた。
俺を追いかけてきてくれたという初めての事態に、しかも恐らくは個人的な用件でという感触に、全身に電流が走ったような高揚感を覚える。
内心の動揺をひた隠し、僅かに首を傾けて先を促すと、先生は一歩踏み出して「大変差し出がましいのですが……」と切り出した。
「いつも手にしてるその本を、できれば人前で読まないで頂きたいのです」
イルカ先生の真摯な黒い瞳が、真っ直ぐ俺を射抜く。
……本。
俺に愛とはどんなものかを教えてくれる、本。
「上忍師は子供たちの模範となる人物です。その御本を読むなとは申しませんが、せめて子供たちの前で読むのはやめて頂けないでしょうか。あとはカバーを付けるとか……」
まさか。
理想の恋人像であるイルカ先生が。
よりによって、その原典である本を否定するなんて!
これはぜひともイルカ先生に、この本の素晴らしさを理解してもらわなければならない。
「あの……?」
「イルカ先生。貴方はこの本が、人前で読むのに相応しくない悪書だと言うんですね?」
「いえ、そこまでは! ただ人目を憚るべき本だとは思うので……」
上官に上申するという緊張のせいか、イルカ先生の頬は僅かに紅潮している。そして俺に逆らったような形になってしまったからか、慌てて両手を顔の前で振って焦る姿は、またしても聖典の理想の恋人像を彷彿とさせた。
それが俺の取るべき行動を決定付けてくれた。
俺はイルカ先生に向かって足を踏み出す。
そして次の瞬間には背後を取り、片手で彼を抱きすくめるようにして拘束していた。
何が起きたのか、どう動いたらいいのか判断がつかずに固まったイルカ先生の耳元で、教え諭すように話しかける。
「イルカ先生。この本には、人として大切な愛の全てが記されているんです」
「はあ……、はい?」
「先生は恋を知ってますか? 愛を知ってますか?」
「へっ? や、あの……どうでしょう」
「それなら俺が読んであげましょう。これが恋愛の真の姿です」
俺は腰のポーチから本を取り出した。
何度も何度も読み返して開き癖の付いたページは、簡単に開くことができる。
片手で先生を押さえ付けたまま、もう片方の手で本を広げて二人の前に掲げた。そして目的の一節を、心を込めて読み上げる。
イルカ先生にも、この真実の愛がどんなに素晴らしいのか、過たず伝わるように。
「言って、どうして欲しいの?」
「あ……舐めて」
「ん……どこ舐めて欲しいのかな?ここかな?」
「あっ、そこ……やっ」
「嘘つき。大好きなくせに」
「意地悪……しないで……もう」
「もう?我慢できないの?」
「んっ……んぅ。欲しっカカシさんの。俺の中に……入れて!早く!」
「ん、ごーかく。おねだり上手になったね」
「早く!俺のなかっ滅茶苦茶にしてっカカシさんので!酷くして……いいっ」
「あ……凄い。キュウキュウ食いついてくる。はは……食い千切られそう。凶暴だねぇ……イルカは……んっ気持ちいぃ」
「いいっ!俺も!もっとっ!グチャグチャにして!カカシさん!!」
最後の『カカシさん!!』の余韻が、二人の間に漂った。
イルカ先生の部分は先生の声色を使って演じたので、つい熱が入ってしまったきらいはあるが。
これできっと先生にもこの本の素晴らしい所が伝わったに違いない。現にイルカ先生は感動のあまりか、身体を震わせているではないか。
だが先生にはちょっと刺激が強すぎたかもしれない。
真っ赤に染まった耳朶を見てイルカ先生の新たな魅力を発見しながら、様子を見ようと顔を覗きこんだ。
「いかがでしたか? これで……がふっっっっっ!!?!?」
股間が爆発したかと思った。
目の前に星がちかちか瞬き、本を取り落として股間を押さえながらうずくまる。
遅まきながら何が起きたのか理解した。イルカ先生が身を沈めつつ肘打ちを食らわせたのだ。
当のイルカ先生の爪先が見える。
と、恐る恐るといった感じの声が降ってきた。
「すみません、反射的についアスマさんに教わったセクハラの対処法をしてしまって……大丈夫ですか?」
「………クハラ……じゃ、な……」
顔を上げて何とか反論を絞り出すと、眼前に呆れと心配の入り交じったイルカ先生の顔があった。
「セクハラでしょう。登場人物をわざわざ『イルカ』と『カカシさん』に変えて読んで……違うなら何だったんですか?」
「……れん、あいの、りそうの……」
「理想のって、カカシ先生のですか? これが?」
イルカ先生が地面に落ちた本を拾い上げ、汚れを払ってからパラパラとめくる。
が、すぐにパタンと閉じてしまった。
「さっきの内容といい、その……卑猥で生々しくて、とても理想の恋愛の姿とは思えないんですけど」
「卑猥で生々しいからこそ、理想なんですよ」
ようやく痛みの引いてきた俺は、呻きながら身体を起こした。
「ここまで生々しく欲望を伝え合えるなんて、絶対的な信頼関係がないとできないことでしょ。それに相手への思いやりと献身。一方的な快楽の享受は、セックスじゃなくて性欲処理だ。そんなものが一切ないこの本には、愛あるセックスの全てが記されてるんです。だから俺は……」
俺は口布を下げ、額宛も外して顔だけでも裸になった。この聖典では、裸の付き合いこそが本当の付き合いだと語っているからだ。
そして未だぽかんと俺を見てるイルカ先生の手を取った。
「あなたとこんな風にセックスをして、愛し合いたい」
「お断りします」
「……え?」
「え、じゃないですよ。カカシ先生が腹を割って下さったから俺も本音で言いますけどね。はっきり言って、それはカカシ先生だけの理想でしょう? どんなに素晴らしくても、そこに俺の理想はないじゃないですか」
……………あ。ほんとだ。
「……カカシ先生のお気持ちは嬉しいです。でもカカシ先生が俺にこういうことを言ったりやったりしてほしいなら、俺は恥ずかしくて絶対無理です。それだとカカシ先生の理想の恋愛を実行できない俺は要らないですよね?」
そう言いながらも俺の手の中には、まだイルカ先生の手が残っている。
顔を上げると、まだイルカ先生の黒い瞳が俺を映している。
まだ。
まだ間に合うんじゃないだろうか。
イルカ先生は、まだ何かチャンスを残してくれてるんじゃないだろうか。
そう思って引き寄せようとした手が、するりと抜けていった。
そして立ち上がって踵を返す。
――これはフラれたということ、だよ……ね。
歩み去ってくきっちりと脚絆の巻かれた足を見送っていると、不意にその足が止まった。
「……でも、カカシ先生の理想はとても素敵だと思いました。絶対的な信頼関係と思いやり。そんな恋愛ができたら……」
再び、ざっざっと足音が遠ざかっていく。
違う、俺は……
俺は、イルカ先生の笑顔が好きだ。
いやらしい顔ももちろん見たいけど、それ以上に。
子供たちに向けるあけっぴろげで飾り気のない笑顔が、声が大好きなんだ。
失礼な後輩が言う通り、変な壺があなたに見えてしまうほどイルカ先生に夢中なんだ。
あなたが上手に料理できないなら、俺が作ってあげたいんだ。
あなたが怪我をしないか、いつも心配なんだ。
イルカ先生。
理想の恋人があなたではなく、あなたが俺の理想なんだ。
あなたと俺で絶対的な信頼関係を作って、恋人同士になりたいんだ。
俺は立ち上がって追いかけた。
たった今見えた本当の気持ちを、イルカ先生に伝えるために。
そして――それを聞いたイルカ先生の、本当の気持ちを教えてもらうために。
カカシには、とても素敵な恋人がありました。
それは美しくて離れられないほど。
カカシは、出かける時はいつも、理想の恋人を伴って出かけました。
雷雨のような時もありましたが、本気の恋をしているのでした。
カカシは本気の、真実の恋愛をしているのでした。
――彼の素敵な恋人と。
【完】
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