ちょっと前まで単なる思いつきだった『子供の日に子供に変化して、三人で河原でピクニックをして上忍ごっこをしよう』というプランを、イルカは本気で実行することに決めていた。
受付の権限とじっちゃん…三代目への賄賂（松葉庵の天麩羅そばの昼食）を含む働きかけで、なんとかカカシとテンゾウ揃っての休みも実現できそうだ。

ただ、うっかり。
本当についポロリとこぼした言葉で、事態はとんでもない方向に転がってしまった。

イルカがプランをカカシに伝えた後、
「ホントは火影屋敷探険コースも楽しいんですけどね。さすがにこの三人では大問題になりますよね～アハハ！」
と冗談のつもりでカカシに言ったら、
「ん～、それくらいなら何とかなるでしょ。ちょっと聞いてみるよ」
と軽く答えられたのだが。
いや誰に、とかどういう名目で、とかいろいろ気にはなったが、話はそこで終わったとばかり思っていた。



それから数日後。
二人で夕食を食べてる時に
「そういえばあれ、許可出ましたよ。火影屋敷の探険ごっこ」
とカカシが事も無げに言い出した。

「ただ探険ごっこじゃ申請が難しいから、火影屋敷の護衛演習って事にしときましたよ～」
「…………は？」
「いや、だから俺たちが侵入者で～、暗部がそれを迎え討つ役」
「いや、だから………はい？」
「一緒に頑張って侵入しましょうね～。二人の絆をみんなに見せ付けてやりましょう！ふふふ、侵入だって、俺ったらや～らし～♪ あ、テンゾウは囮に使い捨てていいから」
最後の部分だけぞんざいな口調になるカカシに、日頃のテンゾウの扱いがうかがえる。

だがそんな事よりも。
イルカの
『子供の日に子供に変化して、三人で河原でピクニックをして上忍ごっこをしよう』
という計画は、
『子供の日に子供に変化して火影屋敷の探険ごっこしようぜ！』
にいつの間にか変化して、カカシを経由した結果
『子供の日に子供に変化して火影屋敷を襲撃しちゃおうぜ！』
という物騒なものになり果てていた。

「い……」
「い？イク時は一緒？」
「いいわけないだろ！アホか何やらかしてんだ！」

ゴンッ　とイルカがカカシの頭にゲンコツを落とす。
「いった～！せっかくイルカ先生の為に頑張ったのに！ひどいですぅ～」
箸を握ったまま頭を押さえるカカシを放置して、イルカは各方面への言い訳を必死に考えた。
こんなくだらない事で教師生命を断たれるなんて真っ平御免だ。

……だが。

もう許可は下りたとカカシは言っていた。
それに護衛演習という大義名分もある。
しかも今回は上忍二人も手駒にあるのだ。

長年イルカの中に居眠りしていた悪戯小僧が、むくりと起き上がった。

「そう、ですねぇ…分かりました。やってみましょうか。申請した内容の詳細を教えて下さい。さぁ、いつまでも転がってないで。さっさとメシ食って打ち合わせしますよ」




「え～とですね、日にちは決めたけど、時間・目的・メンバー等は一切不明という条件下での演習にしておきました。じゃないと火影屋敷襲撃を想定した演習にならないので。それから屋敷の敷地を一歩でも出たところで襲撃は成功と見なします。敷地外は警備部の管轄になってしまうんでね。…ま、俺が参加する可能性があるってことで暗部のヤツらも張り切ってましたよ～。テンゾウもこっち側だって言ってないから、しらばっくれて暗部側の打ち合わせに参加させてもいいですよ～」

それを聞かされたイルカは
「…なるほど。今回は現役と元暗部二人もこっちの手札にあるし、ずいぶんと有利な条件をもらったんで、けっこういい線いけそうですね」
と、悪い顔でニヤ～っと笑った。
「テンゾウさんに直接的な諜報活動はして貰わなくてもいいでしょう。ただ、いくつか調べてきて頂く事になると思います。俺もだいぶブランクがあるので」




その後、火影屋敷詰めの暗部の都合や上忍二人のスケジュールをすり合わせた結果、子供の日からはだいぶ過ぎた決行日になってしまった。
そこは大人の都合上、仕方のないところだろう。

イルカは数日前からせっせと札やトラップを作ったり、泥まみれになって帰ってきたりと、ずいぶん精力的に動き回っている。
カカシが何か手伝おうか？と申し出たが、多忙な上忍にそれはさせられない。
「テンゾウさんが持ってきてくれた情報だけで十分ですよ。さすがに仕込み無しで侵入するなんて無謀なことはできませんし、そっちは俺一人で大丈夫です。昔アスマさんとやってた時も作戦と仕込み担当は俺だったので。お二方にも当日の作戦会議でちゃんと伝えますから」