【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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「きのたんのかみ、ながくてサラサラできれいだなぁ」
「いるたんの髪も真っ直ぐでツヤがあってきれいじゃないか」
「オレのはいっつもバクハツするから、母ちゃんがむすんどきなさいって。オレもきのたんみたいなサラサラがよかった……」
「ボクはいるたんのてっぺん結び好きだよ? てっぺんって一番ってことだよね。いるたんにピッタリじゃないか」
「いちばん! そっか、……エヘヘ、そうかなぁ」
「うん、そうだよ。あ、じゃあボクもお揃いにしてほしいな。いるたんが結んでよ」
「えっ、オレ、じょうずにむすべないよ」
「上手じゃなくていいんだよ、いるたんとお揃いの一番結びにしたいだけだから」
「きのたんとおそろい……うんっ、やってみる!」







――それは遠い日の思い出。
温かい家庭で温かい家族と過ごした、温かい日々。
異質な物を埋め込まれた僕は、温かく美しい物に混じった異物になるのかと思ったけど。
美しい物の美しさは、異物如きで損なわれたりしなかった。
異物ごとくるみ込んで美しいままだった。
僕はここにいてもいいんだと思えた。
僕でもその温かい笑顔にしてあげることが出来るんだと思えた。思わせてくれた。

だから僕は、今もここにいる。
君のそばに。
誰よりも温かい、君のそばに。





宵闇の中、カンカンカンと音を立ててアパートの階段を上る。
向かう先は左端の部屋の扉。
ノックをしようと手を上げたら、扉のすぐ右隣にある小窓から水音と下手な鼻唄が聴こえてきた。僕はちょっと頬を緩め、上げた手を小窓の方に伸ばして軽くノックする。
すると窓がカラリと開いて、包丁を片手に部屋の住人が声をかけてきた。

「おう、テン! 今日帰ったのか? ちょうどメシ作ってるから入れよ」
「また甘いカレー?」
「文句言うヤツには食わせねぇぞ~!」
「はいはい、包丁を持ってる人が絶対なんだよね。有り難く頂きますよ」

僕は降参の印に両手を上げた。
イルカは「よし、いい子だ!」と、にししと笑ってあごで玄関を指す。僕は扉を開けて下足を脱ぐと、勝手知ったる部屋をずかずかと風呂に向かった。

「さっき俺が入ったばっかだから、まだ冷めてないぞ。出る頃にはカレーもできるから、ゆっくり浸かってこいよ」
「うん、ありがとう。サラダは僕がやるからね」
「あ、黒い方のズボンは後で別洗いするから洗面台に置いといて」

……なんでバレたんだろう。
暗部服は通常の支給服に着替えたし、血臭はしてないはずなのに。歩き方か?
僕は素直にリュックから小さな穴の開いたズボンを取りだし、洗面台に置いた。そして服を全部脱ぐと洗濯機に放り込み、膝上の小さな傷を確認する。小さいけどけっこう深かったので念のために縫っておいたクナイ創は、とっくに塞がっていた。
毎度のことながら、イルカの眼力には絶対勝てないなと思う。
勝てないままでいたいな、とも。



風呂から上がると手早くサラダをこしらえ、カレー鍋と大盛りご飯の皿とスプーンを二人で卓袱台に運ぶ。
イルカはいつもカレーに生卵を落として「うみの家特製カレーだ!」と言うけど、僕は毎回丁寧に「おじさんとイルカだけだろ」とツッコミを入れる。
おばさんも僕も、二人がカレーと生卵をぐちゃぐちゃにかき回してるのを、いつもウエェってしかめっ面で見てたんだから。

「卵は滋養強壮にいいんだぞ!」
「問題はそこじゃなくて食べ方なんだって。おばさんも言ってたじゃないか。蛇じゃないんだから、せめてゆで卵か半熟にしてって」

ここでいつものように「蛇はカレーは食わないだろ!」と反撃してくると思ったら、勢いよく動いてたイルカのスプーンが止まった。
そして半分以下になったカレーをじっと見つめている。
何だろう、今日はナイーブな日だったんだろうか。おばさんを思い出して悲しくなったのかなと心配になって、口の中のカレーを慌てて咀嚼して飲み込んでから声をかけようとすると。

「あの……さ。テンはさ、その……あれ?」

あれって、おばさんの甘いカレーがもう一度食べたいかってことかな。
うん、僕も寂しくなる時があるよ。また四人で食卓を囲めたら、どんなに幸せか。
でもちょっと待って、今飲み込むからと麦茶のグラスに手を伸ばした。

「えっと、ほら……アレ、したことある……の、か?」

アレ?
生卵は一回イルカが無理やり僕のカレーにかけたじゃないか。やってみなきゃ分かんないだろなんて言って。
それで僕は普通に食べる方がいいって確認したじゃないか。
麦茶をごくりと飲んでそう言おうとすると。

「ほら、……女の子と! アレ! えっちなことっ!」

ブファーーーーッ!!!

しまった、麦茶を盛大に吹いてしまった。

「なんだよ、笑うなよ!!」
「笑ってないよ、びっくりしたんだよ」

どこからセックスの話になったんだろう。
生卵? 蛇か?
いつもながらイルカの思考回路は、時々とんでもなく斜め上方にブースター付きで飛び出していく。こういうところがトラップ開発に向いてるんだろうなぁと、思わず感心してしまった。
でもイルカもそういうことを気にする年になったんだな。十八じゃちょっと遅すぎるくらいだけど。
……もしかして彼女でも出来たんだろうか。
思わず卓袱台を拭く手に力が入る。
さっきは普通に挨拶してたけど、僕が里に帰ってきたのは三ヶ月ぶりだ。それだけあれば、彼女と付き合い始めて別れてもいいくらいの期間。何かイルカに変化があるだろうかとチラリと見ると、スプーンを握りながら、ジト目でじいっとこちらを窺ってる。
僕はごほんと咳払いをしてから、できるだけたいしたことがないように答えた。

「あるよ」
「えっ! いつ? 誰と? なんで俺に言わないんだよ!」
「なんでって、わざわざ言うようなことじゃないからだよ。確かあれは……十四の時かな? 閨房術の一環だって先輩たちに遊廓に放り込まれた」
「じゅうよん?! マジか! ……でも、そっか、やっぱりけーぼーじゅつかぁ……」

イルカが卓袱台に額をゴンと打ち付ける。
しゅんとした犬の尻尾のように垂れ下がっている、イルカの一番結びに僕は問いかけた。

「なんで急にそんなこと言い出したんだ?」

イルカがう~んと唸って、顔だけをこちらに向ける。

「俺さぁ、もうすぐ教員試験を受けるんだよ。それで受験資格の必須項目に閨房術があってさ、忍の教員だから当たり前なんだけどさぁ……それって実際の試験の時には筆記だけど、その前に特上以上との実技実践認定証がいるんだよ……」

そういえば前の戦地から怪我をして帰還した後、戦忍をやめて教員を目指すって言って、このところずっと勉強ばかりしてたけど。
閨房術。
……そうか、彼女じゃなかったのか。
知らず知らず強張っていた肩の力が抜ける。

「なんだ……良かった」
「良くねぇよ!」

イルカがスプーンを握ったままの拳で、ダンと卓袱台を叩き付けた。
その勢いで僕が食後に食べようと置いておいた殻付き胡桃が数個、跳ねて転がり落ちた。
それを拾い集めながら、僕は安堵の笑みを隠す。

「後でその実技実践認定証の要項を見せて。僕で何とか出来ると思うよ」
「マジで? さっすがテン様、暗部の輝ける星!」
「お世辞はいいから、まずはカレー食べ終わってからね」

イルカは安心したのか、とたんに跳ね起きて残りのカレーをもりもり食べ、おかわりまでした。
ついでに僕の胡桃も殻を割った後のを幾つか掠めて口に運んでいたけど、これはいつものことだ。
僕は僕でイルカの魔の手から適度に胡桃を守りつつ、閨房術の実技内容を思い出していた。
教員試験と暗部仕様じゃ全く違うかもしれないけど、やることは同じはずだ……たぶん。


イルカが持ってきた閨房術の実技内容と認定証をざっと読んだら、色々小難しい事が書いてあったけど要するに一通りヤれればいいみたいだった。最低限の性の実体験のない者に、くのいちの卵を含めた子供たちを教える教員は務まらないといったところか。
情報を得る云々の部分は、イルカ相手に聞かれたことを答えずにいられる者がいるとも思えないからいいとして。

『尚、認定者の性別は問わない』

この一文を確認してほっとしていると、イルカが「どう、テン……何とかなりそう?」と不安げに手元を覗きこんできた。
僕はその一文を指してイルカに見せる。

「うん、認定者が異性に限定されてると難しかったけど、同性でもいいみたいだからね。特上以上なら誰でもいいんだし、僕が相手になるよ」
「へっ?」

イルカの目が真ん丸に見開かれる。
……やっぱり。
この顔は僕が何らかの回避策を考えてくれるとでも思ってたんだろう。昔から何か悪戯をする時は、必ず僕を巻き込んで精度と逃走率のアップを狙ってたもんな。

「分かってると思うけど、これはれっきとした教員試験の受験資格の必須項目だからね。逃げ道なんてないよ」

イルカがぐっと詰まったので図星かと、さらに畳み掛ける。

「変に中途半端な知り合いにお願いすると、後が面倒だろう? それとも懇意にしてる特上や上忍の女でもいるのかい?」
「いいいいいる訳ないじゃん!」
「それなら僕は上忍で暗部で男だし、イルカと気心も知れてるから筆下ろしでも心配いらないよ」
「だだだだダメだろそんなの! ここここういうことはな! 任務じゃないならテンの好きな人としなきゃ!」

今度は僕の目が真ん丸になってしまった。
「男相手は嫌だ」でもなく、「自分が好みの女の子としたい」でもなく、まさか僕の純情への気遣いが飛び出すとは。
しかも散々そういう閨絡みの暗い任務もこなしてる、暗部の僕に向かって。
――そうだった。イルカはそういうヤツだった。
自分よりも人の気持ちを優先して、それが当たり前だと思ってる忍とは思えないほどの優しい、人。

以前あれこれあった後に僕の暗部入隊が決まって、しばらく経ってから。
三代目にその事をイルカに伝えたいと言った時、三代目はちょっと驚いてから「……そうか。それが良いじゃろうな。お互いのためにものう」と、びっくりするほど優しい眼で笑って許可を下さった。
お互いのためになるかどうかは分からないけど、暗部に入隊することで余計に心配をさせることよりも、その秘密を分け合う家族にも等しい存在だとイルカに伝える方を優先したかったのだ。本当の家族を亡くしてしまったイルカのために。
その時以来、いや、本当はもっとずっと前から、イルカは僕の特別な存在だった。あの温かい家庭で真っ直ぐ育ったこの子を、家庭の温かさを惜しみなく分け与えてくれたイルカを、僕は絶対に護ると決めていた。僕が与えられるものなら、何でも与えたいと思っていた。
誰よりも近しい存在として。
この感情に名前を付けることはしなかったけど、あえていうなら――
僕は思わずイルカをじっと見つめた。

「な、なんだよ」
「僕はイルカのこと、ずっとずっと好きだよ? 抱かれてもいいって思えるくらいにね」
「……え?」

突然の告白に固まったままのイルカを抱き寄せると、僕はキスをした。
未だ「え」の形に開いたままの唇は、やっぱりとても温かくて。
そっと舌を差し入れると、甘いカレーとほろ苦い胡桃の味がした。

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