【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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八百幸 〜秋〜
午前中でアカデミーが終わって、友達と遊んだり宿題を済ませた夕方からは店を手伝う。
店先に立つのは父さんと母さんと、ほんとに忙しい時は隠居したおじいちゃんも品出しや声かけをやってくれる。
私のユキって名前は、八百幸の幸からおじいちゃんが付けたんだって母さんが教えてくれた。八百屋の娘だからってニンジンとかカブじゃなくて良かったけど、うちには果物も置いてあるんだから、どうせならリンゴやももとか可愛いのが良かった。どっちにしろクラスでは意地の悪い男子たちが私のことを真ん丸顔のトマトとか、おいユキイモって呼ぶんだけど。どうせ私が魚屋の娘だったらタコとかイカって呼ぶんだろうからどうでもいいけど、ムカつかない訳じゃない。
そんな時、八百屋に行けば四季を感じられると授業で教えてくれたのはイルカ先生だった。
「旬の野菜を知ることはとても大事だ。季節を感じるだけじゃなく、忍には必要不可欠な知識でもある。例えば戦地で食糧を現地調達しなければならなくなった。季節は秋だ。さぁ、どこで何を探す?」
イルカ先生が教室を見渡しても、誰も手を挙げない。
恐る恐る肩の下くらいに挙げた私の手を、先生は目敏く見付けて指した。
「秋ならサツマイモに里芋、南瓜、蓮根と茸類です。南瓜は土の上に転がっているからすぐ分かるけど、芋類は葉の形で見分けて掘り出します。泥のある沼や湿地なら蓮根を。森なら茸があるけど、中毒を起こす物が多い上に生で食べると危険なので、必ず火を通します」
「すごいなユキ、完璧だ!」
目を真ん丸にしたイルカ先生が思わずって感じでパチパチと拍手をしたら、クラスの子たちもつられてワァッと拍手してくれた。
八百屋なんてダサいと思ってたけど、「野菜のことを聞くなら、先生よりもユキの方が詳しいぞ!」とイルカ先生が言ってくれたから『八百屋のユキ』がちょっと好きになった。
本当にイルカ先生がすごいって思ったのは、学年主任の先生に呼び出された時だった。
放課後なぜか応接室に連れていかれ、そこにはずらりと知らない忍の人たちが座っていて。びっくりして挨拶も忘れて突っ立ってたら、端っこに立っていたイルカ先生が大丈夫だっていう風に頷いてくれたから安心したけど。
「君は一般家庭の出身だが、特殊な技能を持っているらしいな」
座っている中で一番偉そうなおじさんの忍が、胡散臭い笑顔で話しかけてきた。
特殊な技能って、私のあれのことだよね。店が忙しくて一人遊びばっかりしてた、子供の砂遊びの延長みたいなのだけどいいのかな。
不安になってまたイルカ先生を見ると、今度はにっこりと笑ってくれた。そうか、大丈夫なんだなって私が「はい」と返事をすると、おじさんはそれを今見せてくれって言う。するとイルカ先生が私の正面に立った。
「ユキ、こないだみたいに先生の人形を作ってみてくれないか」
私はその場にしゃがむとコンクリートの床に手を当て、チャクラを練った。床の一部が小さく盛り上がり、十センチくらいのイルカ先生人形が出来上がる。色は茶色っぽい粘土一色だけど、今回はちゃんと鼻の所の傷も付けるように頑張った。
その人形を取り上げると、回りのコンクリートだった部分が砂になってサラサラとアリジゴクの巣のようにへこんだ。
「おっ、今日は先生の顔もちゃんと再現出来てるな。凄いじゃないか! じゃあ、せっかく作ってもらったのに悪いけど、元に戻してくれ。この穴で誰か躓いたら危ないからな」
私は頷いて人形を砂の穴の中心に置いた。すると人形が砂の中に埋まっていって、砂だった部分が元通りコンクリートの床になった。
ずっと静かに見てたおじさんたちが、急に口々に話し始める。
「土遁の一種か? しかもコンクリートから粘土だけを取り出した上に、元の成分に戻すまでやってのけるとは……性質選別、形態変化の応用を無意識にしてるのか?」
「これは本当に凄いな。君、特別上忍になるために今から訓練してみないか」
「忍になりたいんだろう? アカデミーなんて今すぐ出て里のためにその技能を生かすべきだ」
「待ってください!」
そこでイルカ先生がズイッと私の前に出た。おじさんたちから私を遮るように。
「ユキはまだアカデミー生徒です。卒業まであと二年はアカデミーできちんと学ぶべきだと思います」
「君はあと二年もアカデミーで無駄にしろと? 今すぐ鍛えれば二年後には戦地で活躍する忍になれるのに?」
さっきのおじさんが鼻で笑ったけど、先生は負けなかった。
「アカデミーで学ぶのは忍の術だけではありません。心技体全てバランスよく習得し、火の意志を理解し体現できる者こそが、真に里のために働く忍となると私は信じております。そのためにアカデミーで学ぶことは、ただ一つとして無駄なものはありません」
「話にならんな。……ユキといったか、君はどうだ? 今なら卒業試験も下忍試験も、中忍選抜試験も全部なしに特別上忍になれるチャンスだぞ」
そんなの決まってる。
今度は私が振り返ったイルカ先生に向かって頷いた。そして先生の隣、ちょっと後ろに並んで立つ。
「私はアカデミーで忍の在り方を学び、それから立派な忍として胸を張って戦場に出たいです」
おじさんたちはびっくりして、それからひそひそと話し始めた。学年主任の先生にもう帰っていいぞと言われたから部屋を出たけど、もしかしたらこのまま卒業もしないで追い出されちゃうのかと思うと、怖くてたまらなかった。
その日の夜、イルカ先生がわざわざ家に来てもう大丈夫だと教えてくれた。
「みんなで一緒に勉強して、一緒に卒業しような」
何でもないことのように笑ってたけど、すごく疲れた顔をしてたから分かった。
きっとイルカ先生は、あの後もおじさんたちと戦ってくれたんだ。私がアカデミーで卒業までいられるように。
私のために。
心配になって「イルカ先生は大丈夫なの?」って聞いたら、「お前は聡いなぁ」と苦笑された。
「大丈夫だよ。俺たち教師はその為にいるんだ。お前たちが安心してアカデミーで学べるようにな。だからしっかり学んで、立派な忍になってくれ。それが先生は一番嬉しいぞ」
そう言って頭を撫でてくれた。
それからも私は毎日アカデミーに通って、午後は宿題をしてから八百屋の手伝いをしてる。時々、技能訓練としてイルカ先生ともう一人の上忍や特別上忍と一緒に居残りはするけど。
忍の人たちは毎回同じじゃなくて、男の人だったり女の人だったりおじいちゃんだったりしたけど、みんな優しかった。たぶんみんなイルカ先生と仲がいいんだろうなって感じで、厳しいけど楽しかった。あんなに上忍の知り合いがいるなんて、先生はすごいな。それを言ったら「先生がすごいんじゃなくて、木の葉にはいい忍がいっぱいいるんだ。お前もそういう忍にいつかなるんだぞ!」って言われたけど。
私はイルカ先生みたいな忍になりたいな。中忍だけど、教師としては上忍だって思ってる。
それに……できれば先生のお嫁さんになりたい。いつも可愛い嫁さんが欲しい、寂しいなぁってぼやいてるから、誰もいないなら私がなってもいいんじゃないかと思う。立派な忍になれるまでは、イルカ先生には言わないけどね。
だけど最近、イルカ先生が一人で買い物に来なくなった。
隣に並んでるのは男の人だけど、いつも一緒に商店街のあちこちで買い物してる。
その男の人は技能訓練で一度来てくれた、白髪だけどお爺さんじゃない上忍だった。
はたけカカシ上忍。
私みたいなアカデミー生徒でも知ってる、有名な上忍。
訓練では土遁の見本として、わんちゃんの顔が付いた土壁を一瞬で作って見せてくれた。「なんで犬の顔を付けるんですか?」って聞いたら、はたけ上忍はちょっとびっくりしてから「犬が付いてる方が強そうな気がしない?」と逆に聞かれてしまった。
わんちゃんが付いてたらびっくりするし、私が敵ならそっちに気をとられて戦闘どころじゃない気がする。もしかしたらわんちゃんが動いて飛び掛かってくるかと警戒もするから、確かに付いてた方がいいかも。
そう答えたら「そっか、そういう見方もあるんだね」って感心してた。イルカ先生がちょっと吹き出して、慌てて真面目な顔をしてたけど、はたけ上忍にはすぐバレてた。
その時もずいぶん仲がいいんだなって思ってたから、最初はたまたま一緒に買い物してるだけかと思ってたけど、そうじゃないのはすぐ分かった。
イルカ先生一人でもうちに来る時は必ず一人分には多すぎる野菜を買っていくし、今日も手に提げてる魚政さんのビニール袋から覗いてるのは、秋刀魚と鯵の干物が二匹。
「おや先生、秋刀魚かい? それなら大根がいるよね。すだちはおまけしとくよ!」
でっぷりとした大根とすだちを母さんがてきぱきと袋に詰める。するとずっと黙ってたはたけ上忍が口を挟んだ。
「そっちの茄子もお願いね。あとキャベツとトマトと……先生は舞茸としめじどっちがいい?」
「香り松茸、味しめじですからね! しめじがいいです」
「そ。じゃあ、しめじも」
茸類は私の側に並んでるからカゴの一山を母さんに差し出すと、イルカ先生がにこにこと声をかけてくれる。
「おー、ユキは今日もお店の手伝いか、偉いな!」
「自分の家だから当たり前のことです」
「それでもちゃんとやってるだろ? 当たり前のことを当たり前だってやれるのは偉いんだぞ!」
私の頭を撫でるイルカ先生の大きな手を、はたけ上忍がじっと見つめている。
「はいよ! 全部で百両でいいよっ」
威勢のいい母さんの声に、イルカ先生が「いつもおまけしてくれてありがとうございます!」と言いながら財布を取り出して、はたけ上忍を振り返る。
「そうだ、カカシさん、ポイントカード!」
上忍はハッとして腰のポーチの中からオレンジ色の本を取り出した。イチャイチャパラダイスと書かれたそれをぱらっと開くと、中には緑色の商店街のポイントカードが挟まれていた。表のお名前の所には、ちゃんと『はたけカカシ』とフルネームが書いてある。
「いきなり本なんか出して何やってるのかと思ったら……栞代わりにしてたんですか」
「だってそのまましまったら折れちゃうじゃない」
「普通は財布に入れると思いますよ。その方が合理的じゃないですか?」
はたけ上忍は、ちょっと考えてからパッと顔を輝かせた。
「確かに。頭いいなぁ」
「はたけ上忍、けっこうぼんやりさんなんだねぇ!」
母さんが大声で笑うから慌てて「母さん、失礼だよ」って小声で言ったけど、はたけ上忍はにこにこしてた。そんなはたけ上忍を見て、イルカ先生も大口を開けてアハハと笑ってる。
母さんがエプロンのポケットからスタンプを出すと、はたけ上忍のポイントカードにぽんと押した。そこにはうちのほうれん草以外に、本が二個と魚とお日様の五つのスタンプが並んでる。イルカ先生とはたけ上忍が額を突き合わせてカードを覗き込むと、二人してうーんと唸った。
「全制覇にはまだまだだねぇ」
「美容室が難関ですよね……というか、そんなにはっぱにゃんグッズが欲しいんですか?」
「だって初代はっぱにゃんはイルカ先生だったんでしょ?」
「そっ……んな理由だったんですか⁉」
イルカ先生の顔がトマトみたいに真っ赤になった。
「アケミ美容室なら娘さんがネイリストやってるから、手のマッサージしてくれるって言ってたよ! それなら忍者さんでもできるんじゃないかい? 頑張ってスタンプ集めとくれ!」
母さんのアドバイスに、二人は顔を輝かせてお礼を言いながら去っていった。
それを見送りながら私は。
足から砂になっちゃったんじゃないかと思ってた。
イルカ先生が初代はっぱにゃんだったから、ポイントカードを制覇してはっぱにゃんグッズが欲しいはたけ上忍。
それを聞いて真っ赤になったイルカ先生。
魚政さんのビニール袋から覗く二本の秋刀魚。
全身が砂になっちゃったみたいにザアッと乾いて、ちょっと風が吹いたら飛んでっちゃうんじゃないか。砂になったのに胸が痛い。何か、そう、クナイで刺されたのかもしれない。
「ユキ、何ボサッと突っ立ってんだい?」
母さんの声もザァザァって音でよく聴こえない。
私は奥に駆け込むとサンダルを放り捨て、二階の自分の部屋に飛び込んだ。
すごい。砂なのに走れる。
砂なのに涙がボロボロ出る。
クナイで刺された胸が痛いからだ。
イルカ先生のクナイで、はたけ上忍が刺したからだ。
イルカ先生は、はたけ上忍と付き合ってるんだ。
体中の水分が全部枕に吸い込まれると、枕の中にはたけ上忍の姿が浮かぶ。
はたけ上忍はすっごくイルカ先生のことが大好きで、すっごく大事にしてるんだ。
だって、はたけ上忍はずっとイルカ先生が視界に入る所に立ってた。
先生が私の頭を撫でてる時も、母さんに話しかけてる時も、スタンプを押してもらう時も、ずっとイルカ先生が周辺視野に入る位置に立ってた。
前に授業で習ったことを思い出す。
『忍は常に周辺視野で物事を把握していなければならない。不測の事態が起きた時、すぐ行動に移れるように』
こんな商店街でも、はたけ上忍はイルカ先生のことを一番に考えてる。
そしてたぶん、イルカ先生もそれを知ってる。
先生ははたけ上忍の左側に絶対立たないからだ。
額当てで隠されて見えない左側には。
私はイルカ先生のお嫁さんにはなれない。
あんなに先生を大事にしてる人に、イルカ先生の大好きな人に、私は絶対勝てない。
「ユキはそんなところまでちゃんと見てるのか、偉いな! きっと立派な忍になれるぞ!」
頭の中でイルカ先生が褒めてくれる。
でもそんなのちっとも嬉しくない。
あんなに泣いたのに、まだ涙がボロボロ出てくる。
このままずっと泣いて泣いて、ほんとに砂になったらイルカ先生は私の人形を部屋に置いてくれるかな。でもきっとはたけ上忍に捨てられてしまう。あの人はそういう目をしてた。
イルカ先生が私の頭を撫でる時だけ、私のことをそういう目で見てたから。ほんの一瞬だけど。
少なくともはたけ上忍は、私のことを恋敵だと思ってくれた。子供だからと思わずに。
それだけが今の私には唯一の慰めだった。
午前中でアカデミーが終わって、友達と遊んだり宿題を済ませた夕方からは店を手伝う。
店先に立つのは父さんと母さんと、ほんとに忙しい時は隠居したおじいちゃんも品出しや声かけをやってくれる。
私のユキって名前は、八百幸の幸からおじいちゃんが付けたんだって母さんが教えてくれた。八百屋の娘だからってニンジンとかカブじゃなくて良かったけど、うちには果物も置いてあるんだから、どうせならリンゴやももとか可愛いのが良かった。どっちにしろクラスでは意地の悪い男子たちが私のことを真ん丸顔のトマトとか、おいユキイモって呼ぶんだけど。どうせ私が魚屋の娘だったらタコとかイカって呼ぶんだろうからどうでもいいけど、ムカつかない訳じゃない。
そんな時、八百屋に行けば四季を感じられると授業で教えてくれたのはイルカ先生だった。
「旬の野菜を知ることはとても大事だ。季節を感じるだけじゃなく、忍には必要不可欠な知識でもある。例えば戦地で食糧を現地調達しなければならなくなった。季節は秋だ。さぁ、どこで何を探す?」
イルカ先生が教室を見渡しても、誰も手を挙げない。
恐る恐る肩の下くらいに挙げた私の手を、先生は目敏く見付けて指した。
「秋ならサツマイモに里芋、南瓜、蓮根と茸類です。南瓜は土の上に転がっているからすぐ分かるけど、芋類は葉の形で見分けて掘り出します。泥のある沼や湿地なら蓮根を。森なら茸があるけど、中毒を起こす物が多い上に生で食べると危険なので、必ず火を通します」
「すごいなユキ、完璧だ!」
目を真ん丸にしたイルカ先生が思わずって感じでパチパチと拍手をしたら、クラスの子たちもつられてワァッと拍手してくれた。
八百屋なんてダサいと思ってたけど、「野菜のことを聞くなら、先生よりもユキの方が詳しいぞ!」とイルカ先生が言ってくれたから『八百屋のユキ』がちょっと好きになった。
本当にイルカ先生がすごいって思ったのは、学年主任の先生に呼び出された時だった。
放課後なぜか応接室に連れていかれ、そこにはずらりと知らない忍の人たちが座っていて。びっくりして挨拶も忘れて突っ立ってたら、端っこに立っていたイルカ先生が大丈夫だっていう風に頷いてくれたから安心したけど。
「君は一般家庭の出身だが、特殊な技能を持っているらしいな」
座っている中で一番偉そうなおじさんの忍が、胡散臭い笑顔で話しかけてきた。
特殊な技能って、私のあれのことだよね。店が忙しくて一人遊びばっかりしてた、子供の砂遊びの延長みたいなのだけどいいのかな。
不安になってまたイルカ先生を見ると、今度はにっこりと笑ってくれた。そうか、大丈夫なんだなって私が「はい」と返事をすると、おじさんはそれを今見せてくれって言う。するとイルカ先生が私の正面に立った。
「ユキ、こないだみたいに先生の人形を作ってみてくれないか」
私はその場にしゃがむとコンクリートの床に手を当て、チャクラを練った。床の一部が小さく盛り上がり、十センチくらいのイルカ先生人形が出来上がる。色は茶色っぽい粘土一色だけど、今回はちゃんと鼻の所の傷も付けるように頑張った。
その人形を取り上げると、回りのコンクリートだった部分が砂になってサラサラとアリジゴクの巣のようにへこんだ。
「おっ、今日は先生の顔もちゃんと再現出来てるな。凄いじゃないか! じゃあ、せっかく作ってもらったのに悪いけど、元に戻してくれ。この穴で誰か躓いたら危ないからな」
私は頷いて人形を砂の穴の中心に置いた。すると人形が砂の中に埋まっていって、砂だった部分が元通りコンクリートの床になった。
ずっと静かに見てたおじさんたちが、急に口々に話し始める。
「土遁の一種か? しかもコンクリートから粘土だけを取り出した上に、元の成分に戻すまでやってのけるとは……性質選別、形態変化の応用を無意識にしてるのか?」
「これは本当に凄いな。君、特別上忍になるために今から訓練してみないか」
「忍になりたいんだろう? アカデミーなんて今すぐ出て里のためにその技能を生かすべきだ」
「待ってください!」
そこでイルカ先生がズイッと私の前に出た。おじさんたちから私を遮るように。
「ユキはまだアカデミー生徒です。卒業まであと二年はアカデミーできちんと学ぶべきだと思います」
「君はあと二年もアカデミーで無駄にしろと? 今すぐ鍛えれば二年後には戦地で活躍する忍になれるのに?」
さっきのおじさんが鼻で笑ったけど、先生は負けなかった。
「アカデミーで学ぶのは忍の術だけではありません。心技体全てバランスよく習得し、火の意志を理解し体現できる者こそが、真に里のために働く忍となると私は信じております。そのためにアカデミーで学ぶことは、ただ一つとして無駄なものはありません」
「話にならんな。……ユキといったか、君はどうだ? 今なら卒業試験も下忍試験も、中忍選抜試験も全部なしに特別上忍になれるチャンスだぞ」
そんなの決まってる。
今度は私が振り返ったイルカ先生に向かって頷いた。そして先生の隣、ちょっと後ろに並んで立つ。
「私はアカデミーで忍の在り方を学び、それから立派な忍として胸を張って戦場に出たいです」
おじさんたちはびっくりして、それからひそひそと話し始めた。学年主任の先生にもう帰っていいぞと言われたから部屋を出たけど、もしかしたらこのまま卒業もしないで追い出されちゃうのかと思うと、怖くてたまらなかった。
その日の夜、イルカ先生がわざわざ家に来てもう大丈夫だと教えてくれた。
「みんなで一緒に勉強して、一緒に卒業しような」
何でもないことのように笑ってたけど、すごく疲れた顔をしてたから分かった。
きっとイルカ先生は、あの後もおじさんたちと戦ってくれたんだ。私がアカデミーで卒業までいられるように。
私のために。
心配になって「イルカ先生は大丈夫なの?」って聞いたら、「お前は聡いなぁ」と苦笑された。
「大丈夫だよ。俺たち教師はその為にいるんだ。お前たちが安心してアカデミーで学べるようにな。だからしっかり学んで、立派な忍になってくれ。それが先生は一番嬉しいぞ」
そう言って頭を撫でてくれた。
それからも私は毎日アカデミーに通って、午後は宿題をしてから八百屋の手伝いをしてる。時々、技能訓練としてイルカ先生ともう一人の上忍や特別上忍と一緒に居残りはするけど。
忍の人たちは毎回同じじゃなくて、男の人だったり女の人だったりおじいちゃんだったりしたけど、みんな優しかった。たぶんみんなイルカ先生と仲がいいんだろうなって感じで、厳しいけど楽しかった。あんなに上忍の知り合いがいるなんて、先生はすごいな。それを言ったら「先生がすごいんじゃなくて、木の葉にはいい忍がいっぱいいるんだ。お前もそういう忍にいつかなるんだぞ!」って言われたけど。
私はイルカ先生みたいな忍になりたいな。中忍だけど、教師としては上忍だって思ってる。
それに……できれば先生のお嫁さんになりたい。いつも可愛い嫁さんが欲しい、寂しいなぁってぼやいてるから、誰もいないなら私がなってもいいんじゃないかと思う。立派な忍になれるまでは、イルカ先生には言わないけどね。
だけど最近、イルカ先生が一人で買い物に来なくなった。
隣に並んでるのは男の人だけど、いつも一緒に商店街のあちこちで買い物してる。
その男の人は技能訓練で一度来てくれた、白髪だけどお爺さんじゃない上忍だった。
はたけカカシ上忍。
私みたいなアカデミー生徒でも知ってる、有名な上忍。
訓練では土遁の見本として、わんちゃんの顔が付いた土壁を一瞬で作って見せてくれた。「なんで犬の顔を付けるんですか?」って聞いたら、はたけ上忍はちょっとびっくりしてから「犬が付いてる方が強そうな気がしない?」と逆に聞かれてしまった。
わんちゃんが付いてたらびっくりするし、私が敵ならそっちに気をとられて戦闘どころじゃない気がする。もしかしたらわんちゃんが動いて飛び掛かってくるかと警戒もするから、確かに付いてた方がいいかも。
そう答えたら「そっか、そういう見方もあるんだね」って感心してた。イルカ先生がちょっと吹き出して、慌てて真面目な顔をしてたけど、はたけ上忍にはすぐバレてた。
その時もずいぶん仲がいいんだなって思ってたから、最初はたまたま一緒に買い物してるだけかと思ってたけど、そうじゃないのはすぐ分かった。
イルカ先生一人でもうちに来る時は必ず一人分には多すぎる野菜を買っていくし、今日も手に提げてる魚政さんのビニール袋から覗いてるのは、秋刀魚と鯵の干物が二匹。
「おや先生、秋刀魚かい? それなら大根がいるよね。すだちはおまけしとくよ!」
でっぷりとした大根とすだちを母さんがてきぱきと袋に詰める。するとずっと黙ってたはたけ上忍が口を挟んだ。
「そっちの茄子もお願いね。あとキャベツとトマトと……先生は舞茸としめじどっちがいい?」
「香り松茸、味しめじですからね! しめじがいいです」
「そ。じゃあ、しめじも」
茸類は私の側に並んでるからカゴの一山を母さんに差し出すと、イルカ先生がにこにこと声をかけてくれる。
「おー、ユキは今日もお店の手伝いか、偉いな!」
「自分の家だから当たり前のことです」
「それでもちゃんとやってるだろ? 当たり前のことを当たり前だってやれるのは偉いんだぞ!」
私の頭を撫でるイルカ先生の大きな手を、はたけ上忍がじっと見つめている。
「はいよ! 全部で百両でいいよっ」
威勢のいい母さんの声に、イルカ先生が「いつもおまけしてくれてありがとうございます!」と言いながら財布を取り出して、はたけ上忍を振り返る。
「そうだ、カカシさん、ポイントカード!」
上忍はハッとして腰のポーチの中からオレンジ色の本を取り出した。イチャイチャパラダイスと書かれたそれをぱらっと開くと、中には緑色の商店街のポイントカードが挟まれていた。表のお名前の所には、ちゃんと『はたけカカシ』とフルネームが書いてある。
「いきなり本なんか出して何やってるのかと思ったら……栞代わりにしてたんですか」
「だってそのまましまったら折れちゃうじゃない」
「普通は財布に入れると思いますよ。その方が合理的じゃないですか?」
はたけ上忍は、ちょっと考えてからパッと顔を輝かせた。
「確かに。頭いいなぁ」
「はたけ上忍、けっこうぼんやりさんなんだねぇ!」
母さんが大声で笑うから慌てて「母さん、失礼だよ」って小声で言ったけど、はたけ上忍はにこにこしてた。そんなはたけ上忍を見て、イルカ先生も大口を開けてアハハと笑ってる。
母さんがエプロンのポケットからスタンプを出すと、はたけ上忍のポイントカードにぽんと押した。そこにはうちのほうれん草以外に、本が二個と魚とお日様の五つのスタンプが並んでる。イルカ先生とはたけ上忍が額を突き合わせてカードを覗き込むと、二人してうーんと唸った。
「全制覇にはまだまだだねぇ」
「美容室が難関ですよね……というか、そんなにはっぱにゃんグッズが欲しいんですか?」
「だって初代はっぱにゃんはイルカ先生だったんでしょ?」
「そっ……んな理由だったんですか⁉」
イルカ先生の顔がトマトみたいに真っ赤になった。
「アケミ美容室なら娘さんがネイリストやってるから、手のマッサージしてくれるって言ってたよ! それなら忍者さんでもできるんじゃないかい? 頑張ってスタンプ集めとくれ!」
母さんのアドバイスに、二人は顔を輝かせてお礼を言いながら去っていった。
それを見送りながら私は。
足から砂になっちゃったんじゃないかと思ってた。
イルカ先生が初代はっぱにゃんだったから、ポイントカードを制覇してはっぱにゃんグッズが欲しいはたけ上忍。
それを聞いて真っ赤になったイルカ先生。
魚政さんのビニール袋から覗く二本の秋刀魚。
全身が砂になっちゃったみたいにザアッと乾いて、ちょっと風が吹いたら飛んでっちゃうんじゃないか。砂になったのに胸が痛い。何か、そう、クナイで刺されたのかもしれない。
「ユキ、何ボサッと突っ立ってんだい?」
母さんの声もザァザァって音でよく聴こえない。
私は奥に駆け込むとサンダルを放り捨て、二階の自分の部屋に飛び込んだ。
すごい。砂なのに走れる。
砂なのに涙がボロボロ出る。
クナイで刺された胸が痛いからだ。
イルカ先生のクナイで、はたけ上忍が刺したからだ。
イルカ先生は、はたけ上忍と付き合ってるんだ。
体中の水分が全部枕に吸い込まれると、枕の中にはたけ上忍の姿が浮かぶ。
はたけ上忍はすっごくイルカ先生のことが大好きで、すっごく大事にしてるんだ。
だって、はたけ上忍はずっとイルカ先生が視界に入る所に立ってた。
先生が私の頭を撫でてる時も、母さんに話しかけてる時も、スタンプを押してもらう時も、ずっとイルカ先生が周辺視野に入る位置に立ってた。
前に授業で習ったことを思い出す。
『忍は常に周辺視野で物事を把握していなければならない。不測の事態が起きた時、すぐ行動に移れるように』
こんな商店街でも、はたけ上忍はイルカ先生のことを一番に考えてる。
そしてたぶん、イルカ先生もそれを知ってる。
先生ははたけ上忍の左側に絶対立たないからだ。
額当てで隠されて見えない左側には。
私はイルカ先生のお嫁さんにはなれない。
あんなに先生を大事にしてる人に、イルカ先生の大好きな人に、私は絶対勝てない。
「ユキはそんなところまでちゃんと見てるのか、偉いな! きっと立派な忍になれるぞ!」
頭の中でイルカ先生が褒めてくれる。
でもそんなのちっとも嬉しくない。
あんなに泣いたのに、まだ涙がボロボロ出てくる。
このままずっと泣いて泣いて、ほんとに砂になったらイルカ先生は私の人形を部屋に置いてくれるかな。でもきっとはたけ上忍に捨てられてしまう。あの人はそういう目をしてた。
イルカ先生が私の頭を撫でる時だけ、私のことをそういう目で見てたから。ほんの一瞬だけど。
少なくともはたけ上忍は、私のことを恋敵だと思ってくれた。子供だからと思わずに。
それだけが今の私には唯一の慰めだった。
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