【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old
 

  アケミ美容室 ~晩夏~




 今日も朝一から予約でいっぱいのアケミ美容室では、パーマをかけたりトリートメントをしに来たり、ネイルをしに来たお客さんで狭いお店が熱気でむわっとしてる。まだまだ外も暑いのに中もなんて最悪。クーラーはフルで頑張ってても無理みたいで、やっぱり新しいの買った方がいいってママに言おう。
 熱気はドライヤーやパーマのお釜だけじゃなくて、みんなのお喋りもすごいからだ。美容室なんて女の人ばっかりだし、女の人が七人も集まったらもうお喋りがすごいことになる。
 アケミっていうのは美容師のママの名前。娘のあたしはネイリストだからお客さんの髪は弄らない。時々ドライヤーくらいならかけたりはするけどね。
 ネイリストのいる美容室なんて木の葉では最先端よってママは自慢するけど、わくわく商店街の美容室でそう言われてもねぇ。
 でも実際のところ忍里でネイルサロンっていうのは、くの一のお姉さま方にけっこう人気が高かったりする。
 くの一は全身が武器だ。それこそ足の爪の先まで磨き上げてて当然って世界だからね。綺麗なくの一は生まれた時からぴかぴかだって思ってる男の人には、絶対分からないだろうけど。肌からボディーからいつも綺麗にしとかなきゃならないのに、任務に追われて忙しい時に爪のお手入れまでするのって大変なんだから。
 そんな時は木の葉で唯一のネイリスト、クルンちゃんにお任せあれ!
 ネイルだけじゃなくて、ハンドマッサージからネイルケアまで徹底した施術を致します! 武器になるくらい丈夫な爪も、日頃のネイルケアでバッチリです!

 そんな感じで、今日も美容室は満員御礼。
 といってもスタッフはママともう一人の美容師のレイさんとあたしだけだから、お客さんも四人でいっぱいなんだけどね。
「ねぇ、そういえば見た? イルカ先生の彼氏!」
 角っこのコンビニ、リトルリーフでバイトしてるメルさんがすごい勢いで振り返った。危うくサイドをざっくり切り落としそうになったママが、慌ててハサミを引っ込める。
 ……イルカ先生の彼氏って、えーっと、いまさら言われても。
 もう去年から散々噂になって、今は商店街でもすっかりお馴染みになっちゃったから誰もメルさんに反応しない。
「誰だと思う? ほら、あのはたけ上忍なんだって!」
「そうよ、みんなもう知ってるって言うか、昨日もしかくやでお弁当とアイス買ってたわよ。二人分」
 興奮してるメルさんをばっさりと切り捨てたのは、くの一のカレンさんだ。カレンさんはセルフネイルしなくていいなんてホントに有り難いわって、いつもうちに通ってくれてる。
「そういえばメルちゃん、ここんとこずっとミルフィーユ通りの新しい美容院に行ってたでしょ。彼氏ができて情報収集能力が落ちてるんじゃないの?」
 名前に合わせて髪の一部をグリーンに染めに来てるミドリさんが、さらに追い討ちをかけた。
 ミルフィーユ通りは、去年できたオシャレなショップばっかり並んでる所だ。一年くらいうちに来ないと思ってたら、彼氏のためにオシャレなヘアサロンに行ってたのか。
 でもそっか、まだ二人のことを知らない人もいたんだなぁ。
 もしかしてメルさん、イルカ先生のことを話したくてうちに来たのかも。残念ながら、みんなとっくに知ってることだったけど。忍の隠れ里なんだから、あたしたちみたいな一般人でも情報はめちゃくちゃ早いに決まってるのにね。恋愛ネタなんて特に。
 案の定メルさんは口を尖らせて、「せっかく極上ネタだったと思ったのに」なんてぶつぶつ言ってる。それを見て今日は定休日のカエル酒屋の奥さんのリカさんが、残念ねぇって豪快に笑い飛ばした。
「去年の夏くらいには付き合ってたんじゃないの? うちにもよくビール買いに来てくれるわよ」
「ていうかメルのバイト先でも一緒に買い物してるの見かけるわよ。気付かなかったの? こないだもイルカ先生が、カップラーメンでカゴを山盛りにしてはたけ上忍に怒られてたし」
 カレンさんが仕上がったネイルの出来映えを嬉しげに眺めながら、横目でニヤニヤした。
「でもさぁ、あのイルカ先生に『彼氏』だよ? マジでびっくりなんだけど」
 言われてみれば確かに。
「あら、忍じゃ男同士なんて珍しくないわよ」
 ミドリさんが言うけど、そうじゃなくて。
「そうねぇ、イルカ先生って可愛いお嫁さん貰って、子煩悩なパパになりそうなタイプだもんね」
 そうそう、そうなんだよ。最初はびっくりしたんだけど。
「それを全部いらないって思えるほど、はたけ上忍をめちゃくちゃ愛してるんじゃないの?」
「でもどっちかって言うと、はたけさんの方がラブラブって感じしない? いっつも先生にべったりでにこにこしてるし。あれはイルカ先生しか見えてないわよ絶対」
 分かる~! そういう感じする!
 盛り上がるみんなに混ざろうと思ったら、カランカランとドアベルが鳴った。
 カレンさんのネイルに使った道具の片付けをひとまず置いて、お客さんをお迎えに行くと。
「いらっしゃいませ……ん⁉」
「あの~、ハンドマッサージだけなんだけどいいですかね」
「はたけ上忍っ⁉」
 カレンさんが立ち上がってビシリと姿勢を正し、九十度の角度で腰を折って挨拶をした。えっ、あたしもやらなきゃダメ⁉
「あらはたけさん、全然構いませんよ。どうぞこちらへ」
 さすがママ! いち早く立ち直って案内するのはいいけど、ハンドマッサージって……あたしじゃん!

 はたけさんはベスト無しの上下忍服に額当ても無しってラフな格好で、いつもより猫背気味にネイルコーナーのソファーにこぢんまりと座った。
 カレンさんがその後ろで、目を真ん丸にして両手をひらひらさせながらミドリさんやリカさんメルさんの方とはたけさんを交互に見てる。
「えーっと、八百幸のおばさんにね、ここでハンドマッサージしてもらえばポイントカードにスタンプを押せて、商店街の全部集まるからって教えてもらってね、男でもお願いできる?」
 はたけさんは落ち着きなくボソボソと喋ってくれたけど、あのポイントカード集めてるの⁉ はたけさんが⁉
「あらあら、もちろんハンドマッサージだけでもうちのスタンプは押せますよ。忍者さんにとって手は大事な商売道具ですもの。労ってあげるのはとってもいいことだと思いますわ。さすが一流の忍者さんは心掛けが違うんですのねぇ」
 隣に立ったママがすらすらとベタ褒めするけど、あたしに目だけで(ぼんやりしてないで早く始めて)と無言でプレッシャーをかけてきたから、やっとスイッチが入った。
 ホットタオルを持ってきてはたけさんの差し出した両手を包むと、急いでマッサージ用のキャリアオイルとエッセンシャルオイルを持ってくる。両手を塞がれたはたけさんはちょっとそわそわしてたけど、あたしが施術の手順を説明したら感心したようにいちいち頷いてた。
「オイルってハーブを使うんだね。薬草だから理に適ってるなぁ」
 はたけさんがお世辞じゃなく興味を持ったみたいだから、精油のそれぞれの効能を説明しながらオイルをブレンドして、ホットタオルを外した両手に伸ばしていく。
「このオイルはローズマリー、ブラックペッパー、ジュニパーベリーでリラックスさせながら血行を良くするんです。匂いは大丈夫ですか?」
 忍者は五感が発達してるっていうから、濃度を薄めにブレンドしてみたけど、はたけさんは覆面してるから大丈夫かも。
 はたけさんが平気と言ってくれたので、指を一本ずつさすり上げてから広げた掌の指の間をゆっくりと順に押していく。すごい、あんまり外に出ないあたしより色白だ。元の肌の色が違うんだろうなぁ。でも親指は噛み傷の痕が残ってるし、細かい傷痕も多いところはさすがに忍者って感じ。
 それより何だかすっごく手に視線を感じるんだけど。
 もしかしてケガさせるとか警戒されてるのかな。ママも言ってたけど、大事な商売道具だからかも。
「……ツボ押したり手のストレッチはするけど、マッサージなんて初めてするから。これいいね。同じように素人が自分でやっても大丈夫なもの?」
「大丈夫ですよ。香り自体に成分が含まれてるから、丁寧にオイルを塗ってさするだけでも効果がありますよ」
 するとはたけさんはちょっと躊躇ってから、一段と小さな声で聞いてきた。
「知り合いにもやってもらいたいんだけど、その人こういう所に来なそうな人でね、俺がマッサージしてあげようかと思って」
 ああ、そういうことか! イルカ先生にマッサージしてあげたくて真剣に手順を見てたのね。
 ホントにラブラブなんだなぁと、つい顔がにやけそうになるのをぐっと堪えて反対側の手も同じ手順でマッサージをする。今度はさらにゆっくりと、はたけさんが覚えやすいように。
「男の人は力が強いので、ぐいぐいやらないよう気を付けてくださいね。呼吸に合わせる感じでゆっくりやってあげるといいですよ」
「これってツボも押してるよね」
「そうですね、合谷や老宮、陽池は押しておくと効果が高いです」
 なんだか講習会みたいになっちゃったけど、はたけさんはすごく満足そうだった。ほんとにイルカ先生にマッサージしてあげたいみたいだから、あたしのブレンドしたオイルを百ミリリットルのガラス瓶で分けてあげることにした。
「すごいな。つやつやしてて俺の手じゃないみたい」
 血行が良くなってちょっとピンク色になった手で、大事に茶色のガラス瓶を持ったはたけさんは嬉しそうに立ち上がる。お会計をすると、はたけさんが「あ、これもお願い」と財布からグリーンのカードを差し出した。
 そっか、そういえば元々うちのスタンプのために来たんだった。ハサミのスタンプを押すと、「ありがとね」と大事に財布にしまってにこにこしながら店を出て行った。きっと帰ったらイルカ先生にハンドマッサージをしてあげるんだろうなぁ。

 お見送りを済ませて中に戻ると、あれだけシーンとしてたのに途端にみんながワッと騒ぎ出した。
「ちょっと、はたけ上忍がハンドマッサージとか! うわぁ、ヤバい! 超レア!」
「あれ絶対帰ったらイルカ先生にやってあげるのよね⁉」
「キャー、イルカ先生愛されてる~!」
「いいなぁ、すんごいラブラブじゃん……あっ、あたしも彼氏にやってあげよっと」
 みんなギラギラした目の興奮状態で、熱気がさらにすごくなった気がする。ていうかカレンさん、まだ帰ってなかったんだ。こんなレアな事件を見逃すはずもないか。
 ……なんかすんごい緊張したけど、いい人だったな。
 女ばっかりの美容室に場違いな感じでちっちゃくなって、ちょっと可愛かったかも。きっと帰ってイルカ先生にいろいろ話すんだろうな。
 そういえば。
 エッセンシャルオイルのマージョラム・スイートは制淫作用があるから外したんだけど、余計なお世話だったかも。あんなにラブラブしてる人が制淫作用くらいで何か変わるとは思えない。いっそ催淫作用のあるイランイランとか入れちゃえば良かったかな。
 もし今度来ることがあったら聞いてみようか。また「これいいね」って言ってくれるかな。どっちかって言うと、恥ずかしくて真っ赤になっちゃう気もするけどね。
 あー、いいなぁ!
 あたしもあんな風にめちゃくちゃ大事にしてくれる彼氏欲しいな。イルカ先生が羨ましいなぁ。
 ぼんやりしてたらカレンさんが午後から任務だと慌てて帰る支度を始めたので、お見送りに出た。
「ふふっ、クルンちゃんもなのね? お互いにいい彼氏見付けましょうね!」
 手を振りながら走ってったけど、顔に出ちゃってたなんて恥ずかしい。
 でもそうだな。はたけさんみたいな彼氏ができたらいいよね。だけどそういえば、イルカ先生もはたけさんの彼氏なんだ。
 男同士でも、あんなにみんなを羨ましがらせるなんてすごい。今度イルカ先生に会ったら、ステキな彼氏を見付けるコツを聞いてみようかな。