【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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  リトルリーフ 〜早春〜




 レジの後ろにかけてある時計を見たら、もうすぐ日付が変わるところだった。
 ここら一帯で二十四時間営業はうちだけなので、こんな風に客足が途切れることは珍しい。大抵は仕事帰りの忍者が腹に入れるものや生活用品をカゴに放り込み、ついでに酒やらツマミやらを買っていく。
 去年の大戦から里の復興はまだまだだが、里が壊滅状態なんて何度も経験してたから今回も皆元気に取り組んでいる。うちもたいした品揃えじゃないんだが、こんな時間でも働いてる人の為にも終日営業はやめられなかった。
 今のうちに裏で夜食でも食うかと思ってると、一人の客が入ってきたので諦めた。くたびれた忍者用のマントを羽織ったまま、どこか切羽詰まった顔でリトルリーフと書かれた黄緑のカゴを取ったのは……あれ、はたけさんじゃないか。
 はたけさんはサッと店内を回り、幾つかの物を手早くカゴに入れてレジに置いた。
 冷えピタ、スポーツドリンク、レトルトの玉子粥、フリーズドライの味噌汁、バナナ、フルーツゼリー。
 なるほどこれは、目に付いた風邪に良さそうな物をとりあえず全て放り込んでみたといったラインナップだ。
 最近は商店街でも店を開けてるところは多いし、大戦前は八百屋や米屋で買い物をしてるところを見かけてたから、はたけさんは自炊もできるはずなんだが。レトルトを用意するってことは、粥を作ったりしてる余裕が今はないのか。マント姿のところをみると仕事帰りだろうに、またすぐ出なきゃならないのかもしれない。
「風邪か?」
「はい。あ、俺じゃなくてイルカ先生が」
 俺は分かってるとばかりに頷きを返した。イルカ先生は毎年この時期になると熱を出して寝込むのだ。
 恐らく冬休みになって年末年始のあれこれも済ませ、無事に新年を迎えられたという気の緩みと疲れが風邪に繋がるのだろう。或いは急な冷え込みに弱い体質なのか。今年は特に復興のあれこれで忙しかっただろうから尚更だ。
 いずれにしろ、今までは半纏とマフラーに埋もれ、赤い顔をして自分で買いに来てたのに、今はこの人が面倒をみてくれる訳だ。
 ここ二、三年は珍しく風邪を引いてないようだと思ってたが、今年は一段と疲れが溜まったんだろう。そういやはたけさんもあんまり顔色が良くない。
 俺はレジを離れると、売り場の棚の一番下から缶詰を一つ取ってきて、はたけさんのカゴに追加した。
「桃の缶詰……もしかしてイルカ先生の好物ですか?」
 さすがの洞察力だな。だが惜しい。八十五点といったところだ。
「昔から風邪の時だけな。普段は買ったことないよ」
 はたけさんはそうですか、とだけ呟いた。
 切なそうな顔になったのは、子供の頃からひとりぼっちで風邪をやり過ごしてきたイルカ先生を思ったからだろう。
「今ははたけさんがいてくれるから、イルカ先生も安心だな」
 レジを打ってビニール袋に詰めながら言うと、意外にも「安心させてあげられてますかね……」と小さく返す。
 やれやれ、里一番の忍者さんも、こういうことに関しちゃ本当にポンコツだな。
「当たり前だろう。弱ってる時に心配して、しかもこうやって面倒みてくれる人がいるってのは、それだけで有り難いもんだ」
 はたけさんは目をぱちぱちとさせて、それから目元を緩めた。そういや、この人の両目って初めて見たな。
「そうですね。早く元気な顔を見せてほしいですよね」
 あんたも顔色が悪いよと言おうかと思ったが、そんなことは十分自覚してるだろう。
 だが、そうだ。自分のことを気にかけてる奴がいるってのは、それだけでも有り難いもんだからな。そしてそれは言わなきゃ、行動しなきゃ伝わらない。
 ビニール袋を渡すついでにカウンターの下から、営業を再開したばかりの相模屋のとっておきの饅頭を手渡した。さすがに甘味まで作ってる店はまだ少ないのだ。
「あんまり無理すんなよ。はたけさんもイルカ先生も、商店街の大事なお客さんだからな。ほれ、これはあんたにだ。甘いもんでも食って頑張れよ」
 黒い布で隠された口元が、ぐっと引き締められた。
「ありがとうございます」
 頭を下げてから店を出て行こうとしたはたけさんが、くるりと振り返った。
「……俺たち忍は里を守ってるつもりだったけど、そうじゃないんですね。忍もまた里民に守られてる。みんながお互いに守り合って、木の葉は大樹になったんですね」
 しっかと見返した目は、最後の方で俺を通り越してどこか遠くを、もっと言えば俺には見えない何かを見据えていた。
 そして今度は軽く頭を下げ、マントが翻ったかと思うと次の瞬間にはその姿が消えていた。

 ふと、あの人はきっと里のお偉いさんになるだろうなと思った。
 ああいう目をする人は、いつか人の上に立つもんだ。
 イルカ先生もしっかりした人だから、そんな二人が支え合って里の復興に取り組んでくれたら俺たちも安心だな。男同士って壁はあるが、あの二人を知ってる奴なら誰でも太鼓判を押すだろう。
 そこでこないだくだらない話をしてた、三人組の忍者の客を思い出した。里の誉なんて調子乗ってとか、立派すぎる教え子の尻馬に乗っかって里を救ったとか、男囲っていいご身分だよなぁなどとほざいてたが。
 ああいう奴らは店員を背景の一部としか思ってないから言いたい放題だったが、あんなくだらない話も一つの里民の意見ってやつだ。
 腹が立ったから、こっちも見ずに金を投げ渡してきた時に、落ちた小銭を拾うふりをして缶ビールを全部振ってやった。
 ――はたけさんとイルカ先生は、正しい選択をすると信じてる。
 あんな雑魚の意見とやらに配慮する必要なんてないんだ。あんた達はあんた達の道を真っ直ぐ進んでくれ。雑音などに惑わされずに。
 そして時々はうちに来て、カップラーメンを何個買っていいかで揉めるといい。
 俺はそういうあんた達の為にも、いつだって店を開けてるんだからな。