【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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 久々に表の任務受付に行くと、見慣れない貼り紙があった。
 それは受付机の後方に貼られていて、窓から入る風で『皆さんガンバ』の垂れ布に負けじとはためいている。見事な手蹟なのでたぶん三代目自ら筆を取ったんだろう。それにしては内容があまりにも長閑だけど。

  猫 注 
  意 !

 他の里の受付なんて見たことがないし、そもそも受付があるのかも知らないけど、これだけは断言できる。猫注意と貼り紙がされてる任務受付所なんて、見たことも聞いたこともない。
 そりゃあ十二の時からずっと暗い方面で働いてて、表には滅多に出て来なかったけどね? 忍の里の受付でわざわざ猫に注意しろなんて言う必要があるのかね。もしかして死の森からオオキバヤマネコが降りてきたとか、誰かの忍猫が特殊訓練中とか? ま、俺みたいに八匹も忍犬がいて犬の匂いがプンプンするような奴には、猫の方から近寄ることすらお断りでしょ。
 貼り紙に気を取られていたせいか、うっかり一番長い列の最後尾に並んでしまっていた。今さら並び直すのも億劫だしと報告書を片手にボーッと待っていると、列はサクサク進んでいく。目の前の縦にも横にも広い男の背中がどいたので、次は俺の番だと報告書を差し出そうとすると。

「ぅわんッ」

 え、犬の鳴き声?
 最近の受付は注意の必要な猫がいる上に、犬までいるのか? サッと見回したけど犬どころか人間以外の動物は何もいない。空耳にしてははっきり聴こえたんだけどなぁ。でも犬の鳴き声というには変に甲高くて違和感あったけど、と目の前の受付に目を戻したら席は空だった。ついさっきまで誰かはいたはずなのに。そいつがこっそり席を外したとして、俺が気付かないなんてことがある? ちょっとひやりとしながらその空の席の隣に座っている三代目に目を向けると、火影様は無言で俺の足元辺りをじっと見つめている。その視線を辿って自分の足元を見ると、いつの間にか一匹の黒猫がいた。
 でかい。
 少なくともパックンよりは確実にでかい。
 猫ってこんな大きかったっけ?
 北方の国の猫は十キロをゆうに超えるものもいるらしいと昔父さんに聞いたことがあるけど、父さんも自分が昔使役していた忍犬に聞いたって言ってたからどうなんだろう。
 猫にしてはボサボサと乱れた黒い毛並みのそいつは、俺のサンダルから覗く爪先をフンフンと嗅ぎ始めた。あまりにも集中しているせいかヒゲの先が俺の爪先にギュッと集まり、時々さわさわと触れてくすぐったい。その鼻筋には一直線に横切る傷痕があるから、こう見えてけっこう戦場を経験してる忍猫かもしれない。
 誰かの忍猫かもと三代目に訊ねようと顔を上げたら、さっきより真剣な面持ちで黒猫を凝視している。釣られてもう一度自分の足元に目をやると、黒猫は俺の足元をぐるぐる回っては脚絆に懸命に首元を擦り付けていた。さすがにそこまで徹底して匂いを付けられると、後でパックンから何か言われそうだ。
「ごめんね、ちょっとどいてくれる?」
 きちんと断りを入れてから避けようとすると、黒猫は当たり前のように俺の足の甲の上に尻を乗せて座ってしまった。
 両足の甲にどっしりと重みがかかり、ふさふさに埋もれる。当然のように座って動かない猫の、小さな丸っこい頭の天辺から後頭部にかけてだけ、たてがみのように少し長くなっているところが不思議だ。
 犬よりも柔らかい毛並みは気持ちいいけど、それは猫の尻の毛で。微妙に複雑な気持ちで固定されてしまった自分の足を見下ろしていると、三代目がハッと息を呑んだ。
「お主……本当に此奴でよいのか」
 俺への質問かと思ったら相手は黒猫だったようで、俺は完全に蚊帳の外だ。猫に座られてる俺の足元だけが関係者と言えるかもしれない。位置的にはだけど。
 三代目の真剣な問いかけに、黒猫はまるで笑うように口を大きく開けて「にゃあーん」と澄んだ声で鳴いた。
「そうか……それほどまで言うのならば儂はもう止めん。幸せになるんじゃよ、イルカ」
「めぇーえ、なぁーん」
 まるで本当に会話を交わしているかのような二人、じゃなくて一人と一匹を見てると、やっぱりこの黒猫は忍猫なんだろう。猫なのにイルカという名前らしいけど、この命名センスはミナト先生を思い出す。先生の命名はもっと長ったらしくて漢字だけだったからなぁ。イルカの方がシンプルな分、まだましかもしれない。
 なんてぼんやり足元を眺めていたら、三代目の鋭い声が叩き付けられた。
「はたけカカシ! 本日よりその黒猫の世話を命ずるっ」
「は……? えっ、俺が?」
 あまりにも信じられない命令でつい火影様に逆らうような返答になってしまったけど、一応俺は木ノ葉の稼ぎ頭だからね? それをたかが猫一匹の世話に振り分けるなんて、そりゃあ信じ難いでしょうよ。
 今さらだけどもしかして、この猫があの貼り紙の猫なんだろうか。
 あれは危険性を呼びかけていたんじゃなくて、やんごとなき身分の猫への対応の注意喚起だったのかもしれない。どこかの王族の飼い猫とか、稀少種の忍猫とか。なにしろでかいし。それなら俺が担当につけられるのもまぁ分かる。
「拝命致します。で、期限は」
「その猫の気が済むまでじゃ。お主の最大限の愛情をもって可愛がるように。イルカも数日で飽きてくれれば良いのじゃが……」
 俺の推測はますます真実味を帯びてきた。任務期間が猫様のご機嫌次第ときたもんだ。
「世話は俺の家でいいんですかね。あと餌は普通のキャットフードでも大丈夫ですか?」
「キャットフードなどとんでもない! その猫は特別じゃからの、普通に人の食事で良い。それと世話はイルカの家に決まっておろうが……おお、そうか。カカシ、お主はにゃんメガを知らなんだか」
 そう言って三代目は机の引き出しをいくつかガタガタいわせると、おかしな巻物を引っ張り出した。それは黒地に黒文字が書かれて一見禍々しく見えるけど、巻物一面に描かれたイラストがそのホラー感を台無しにしていた。
 黒地にこれまた黒い、ラブリーなテイストの猫の絵。
 それを囲うように散りばめられた、黒いハート。
 そして縦に大きく書かれた『にゃんメガ』の黒い文字。
「にゃんメガ?」
「にゃんメガじゃ。簡単に言うと猫のオメガじゃな。オメガバースについては、その巻物とこの絵本を読むとよい」
 巻物に続いて渡されたのは少しくたびれた絵本で、表紙はやはり猫だった。パラパラと捲ってみると、黒い仔猫が成猫になって仔猫を産み、飼い主らしき男とみんなで幸せに暮らしました的なストーリーだ。これが何の参考になるのか謎だけど、参考資料として渡されたのだから素直に預かる。
「よいかカカシ、とにかく全力で可愛がるんじゃ。その後の事は猫に任せよ」
 しつこく念を押す三代目に不審なものを感じながらも、一応しっかりと頷いて見せる。そして匂いを嗅ぎ終わったのか、今は俺の腿に両手をかけて伸び上がってきた黒猫の頭を軽く撫でた。
「はいはい、ちょっと待ってね」
「キャアア〜ン」
 初めてちゃんと真っ向から目を合わせたら、黒猫は不思議な目の色をしている。赤銅色というのか赤っぽい金色で、昼下りの明るい今は瞳が縦にギュッと細くなっていた。
「イルカや、カカシに飽きたらいつでも爺のところに帰ってきて良いのじゃよ」
「ニョエエ〜」
 いちいち返事をするところをみると、けっこう賢い猫なんじゃないかな。三代目はずいぶんこの黒猫に入れ込んでるみたいだけど、そろそろ膝に猫を乗せてうたた寝したいお年頃なのかも。
 ところで猫って犬みたいにリードと首輪で連れ回してもいいものなんだろうか? でも現時点でハーネスはないし、お互い信頼関係にはないからそのまま抱っこして歩いたらサッと逃げられそうだ。閃いてベストの前を半分ほど開けると、心得たようにジャンプして飛び込んできた。うん、やっぱり賢い子だ。
 黒猫はベストとアンダーの狭い隙間でぐるりと身を回すと、ベストのY字に開いた所から頭を覗かせた。見下ろしてる俺からはもさもさとした後頭部と左右に広がったヒゲしか見えないけどご機嫌は悪くなさそうだし、ま、可愛く見えないこともない。
 ただ、でかい。重い。
 ベストの開けた部分が猫の重みで壊れそうだ。
「それでは失礼します」
 片手でベストの前を支えるように抱えながら挨拶をすると、三代目はまだしつこく黒猫に名残惜しそうな目をじっとり向けてくるので、自分も一緒に住むなどと面倒なことを言い出す前に早々に受付を出た。

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