【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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 白いショルダーバッグを肩にかけ、ベストの中に黒猫を抱えた俺の目の前を、地味な灰色の小さい鳥がひらひらと飛び回る。
 これは本物の小鳥じゃなくて、受付の中忍──確かあじのヒラキと名乗っていた──がメモ用紙で作ってくれた黒猫の家までの道案内だ。ショルダーバッグは受付の外まで追いかけてきた彼に、イルカの荷物ですと半ば無理やり持たされた。
 彼は謙虚な眼鏡君に見えてけっこう強引だったが、小鳥の方はなかなか優秀な道案内だった。黒猫の手の届かない位置を常にキープしながら飛び、商店街でちょっと買い物のために寄り道してもちゃんと待っててくれる。でも黒猫が俺のベストから飛び出してなぜかラーメン屋に飛び込もうとすると、そっちにはついていかないのだ。ならばラーメン屋への寄り道は正しい帰宅ルートじゃないらしいと、黒猫を捕まえて抱え直した。
 猫は犬と違ってぬるぬる動くから、抱えてもベストの中に入れ直してもすぐに飛び出してラーメン屋に走ってってしまう。
「こら! メガにゃんじゃないや、えーっとイカじゃなくて……イルカ! 寄り道はダメでしょ。家に帰るよ」
「んぎゃーーおーぅ」
 黒猫が暖簾の下で振り返って背中の毛を逆立てて強い拒絶を示すけど、小鳥は黒猫の方についていかずブロック塀の上に止まっている。たぶん黒猫はいつもラーメン屋で出汁がらの鶏の骨や肉の切れ端を貰ってるとか、黒猫なりの譲れない習慣があるんだろう。忍犬たちの健康に気を遣ってる身としては許可しかねるけど、この猫にはこの猫の生活習慣がある。三代目も人間と同じ食事で良いと言ってたことだし、小鳥にはちょっと待っててもらおうと、しょうがなく黒猫のあとをついてってラーメン屋の暖簾を潜った。
「へい、いらっしゃい! 忍のお兄さん、うちは初めてかい? ちょっと猫と相席になるけど堪忍してくんな」
「どーも。いや俺はその猫の世話役で……相席? 猫と?」
 カウンターの端の丸椅子には黒猫がちょこんと座ってて、ちゃんとお猪口で水も出してある。黒猫は俺を横目でチラ見すると、ぷいと顔を背けてカウンターの向こう側でテキパキ動き回る大将をじっと見つめていた。こんな飲食店で猫が着席してて良いものかと思ったが、大将もカウンターの反対側の端のお客さんたちも、誰も黒猫の存在を気にしてないように見えた。
「イルカ先生はいつもので、世話役さんはどうしやすかい?」
 イルカ先生ってこの黒猫のあだ名だろうか。まさか大将のラーメンの師匠とか?
 普段なら面倒な時は連れと同じでって言うけど、イルカ先生とやらと同じメニューは猫用のが出てくるかもしれないのでチャレンジが過ぎる。取り急ぎ壁のメニューをざっと見て塩を頼んだ。
「んニャ」
 黒猫が短く鳴いて、俺の目を見ながら小さく頷いた。俺の頼んだラーメンが正解だとでも言うように。
 隣の椅子に座ってしばらく待つと、俺と黒猫の前に揃ってラーメン丼が置かれた。猫のは丼というよりは深皿だったし、湯気も少ないので多少冷ましてあるようだが、量は普通に一人前だ。
「いただきます」
「ぅニャ」
 そっと横目で窺うと、黒猫は前脚をカウンターに突いて身を乗り出し、器用に麺を啜ってチャーシューにかぶりついている。一心不乱に食べる様子は何かの儀式のようにも見えたが、合間に挟まれる「うにゃにゃにゃにゃ」「ニャグニャグニャグニャグ」という感嘆だか歓びの声が響いて、吹き出さないように食べるのが精一杯だった。その後もかなりのスピードで食べ進め、スープまでチャッチャッと舌を鳴らして飲み干すので、慌てて俺も残りの麺を啜り上げる。猫相手だから構わないでしょ、と口布を下ろして急いで食べていたら、先に食べ終わった黒猫が真ん丸な目で俺の顔をじっと見つめていた。
 視線を感じながらも黙々と食べ、完食して箸を置く。支払いは当然世話役の俺だろうと二人分のお代を払おうとしたら、大将にイルカ先生の分はいつもツケだからと断られた。
 帰りはもうこれ以上の寄り道は無しだと、黒猫をショルダーバッグの中に突っ込んでフラップで蓋をする。最初からこうすれば良かったけど、ラーメンは美味かったからまぁ良しとしよう。律儀に待っていてくれた小鳥がまたひらひらと道案内役に戻ってくれたので今度は足早についていくと、古色蒼然とした外階段のあるアパートの二階の端っこの前でフッと消えた。さて合鍵もないことだし、住民の前だけどチョチョイと弄って不法侵入かな、と一応許可を得るためにバッグのフラップを開けると、黒猫がヒョイと飛び降りてドアの下の角を頭でグイと押した。すると黒猫は忍術のように小さく開いたドアの向こうに吸い込まれていく。
「なるほど、猫ドア完備なのね」
 呟いても猫が人間用のドアを開けてくれる訳もなく。
 俺はポーチからいつも常備してる針金を取り出し、カチャカチャカチャとやった。
「お邪魔しますよ」
「グニャ〜ア」
 間延びした声が奥から聞こえるのでサンダルを脱いで上がると、茶の間の卓袱台の脇に置かれたぺったんこの座布団の上に、黒猫がどしりと寛いでいる。座布団は黒に近い海老茶色なので、猫が目を閉じるとほとんど同化してしまった。視線を上げてぐるりと見回すと、柱には先ほどのラーメン屋から貰ったらしいカレンダーが掛かり、襖の向こうは寝室らしくベッドがある。
 なるほど、今日からしばらくここで生活する訳だ。
 この黒猫と。
 彼が俺に飽きるまで。
 ざっと見渡して習性で部屋の配置と逃走経路の確認をすませると、ショルダーバッグを畳の上に置いて黒猫の向かいによっこらせと座った。
「これからよろしくね。えっと……イルカ、でいいのかな」
「……ニャ」
 満腹で眠くてたまらないのか、短く鳴くとイルカは丸まって本格的に寝てしまった。ギュッと丸まっても座布団の上いっぱいいっぱいで、やっぱりイルカは猫の中でもでかい方だと確信する。
 こうやってずっとイルカを見ててもしょうがないしと、バッグから巻物と絵本を取り出した。さっきもパラパラと捲ってみた絵本を改めて見ると、表紙には黒猫と人間の男女、そして黒い犬が描かれ、『さいごのにゃんメガ イルカくん』とタイトルらしき一文が書いてある。
 ──最後のにゃんメガ。
 三代目の言っていた特別とは、もしかしてこれが理由なんだろうか。にゃんメガが何であれ種族の最後の一匹になるというのなら、なんとも哀れな話だ。
 それにしても、そうだった。にゃんメガとは結局何なんだ。
 その謎を解明するためには絵本より巻物の方が適切だろうと、どこまでも真っ黒な巻物を紐解いた。すると中身は普通に白い和紙で、忍文字が筆で連ねてある。文頭の章と思われる漢数字だけはなぜか通常の文字だった。

其の一
 にゃんメガとは猫のオメガのことで陰陽の契り、つまり猫のオメガバースである
 うみのイルカは現状で確認されている最後のにゃんメガである

 なるほど、オメガバース。聞いたことはあるけど、おとぎ話かと思ってた。ましてや猫のなんて、それこそ絵本みたいじゃないの。
 しかもイルカが名指しで巻物に書かれてる。
 これはきっとイルカを理解する為の、イルカの為だけの巻物なんだ。

其の二
 にゃんメガは番を求める
 交尾がにゃんメガの妊娠に繋がるかは未知数

 えっ、妊娠って……イルカはオスだよね⁈ あぁそうか、オメガバースってそういうやつだったっけ。でも未知数だから子供ができるかは分からない訳だ。
 子供っていうか、仔猫になるのか? オスが産むなんてなんだかすごい話だけど、仔猫なら可愛いかも。

其の三
 にゃんメガは愛を強く欲する
 時に愛を渇望し、自ら姿を変えて愛を求める
 にゃんメガを人型に戻すには、持てる限りの力と手段で慈しみ可愛がるべし

 ──人、型?
 人型って何だ。猫はどうなっても猫の形じゃないのか。
 呑気に寝てるイルカを見たけど、けむくじゃらの顔からヒゲ、耳や尻尾まで、どこまでも猫だ。徹底的に猫だ。
 でも『戻す』と書かれてるってことは、イルカは本来は人型というか人間な訳だ。そう言われるとがぜん興味が湧いてくる。愛を欲し愛を渇望するって、寂しくなると猫になるってこと、で合ってるんだろうか。
 そういえば三代目も最大限の愛情で可愛がれと言っていたけど、猫可愛がりってどうやればいいんだ? とりあえず呼び名に「ちゃん」を付けたら可愛がってると思ってもらえるかな。

「え、……っと。イルカ、ちゃん……?」

 ぷすー、ぷすーと寝息を立てていた頭がバッと上がる。赤銅色の目が見開かれ、まるで「お前、何言ってんの?」とでも言うようにこちらを冷たく凝視してきた。
「あ、うん。すまない。オスっていうか男なのにイルカちゃんは無かった」
 こちらに向けた尻には、ふくふくとした和毛に包まれた二つの立派なタマがある。そこに目を向けながら謝罪すると、イルカはまた頭をぽてっと落としてぷすー、ぷすーと寝息を再開した。
「可愛がる、ねぇ……」
 自慢じゃないけど忍犬の育成にはそこそこ自信がある。でも、ただ可愛がるなんてしたことがない。忍犬はペットじゃないからだ。とりあえず撫でてみればいいのかと、急に触られて驚かないよう「撫でるよ〜」と言いながらでかい毛玉に手を伸ばしてみた。ゆっくり上下する横腹に手を乗せると、黒い毛にふかりと埋もれる。どうやら触るのは許されたようだ。
「可愛いね、イルカ」
 気持ち甘めの声で呼びかけながら、埋もれた手を毛流に沿って尻尾の方に動かす。すると片目をうっすら開けたイルカがまた目を閉じ、胸の辺りからググググググと低い音を発し始めた。耳を寄せてよく聴いてみると、重低音はゴロゴロといってるようだ。
 もしかしてこれが噂の『猫が嬉しい時に喉をゴロゴロと鳴らす音』じゃないか?
「そうか、気持ちいいんだ」
 今までろくに触れ合ったことのない種の動物と心が通じ合えるのは、なんだかわくわくして嬉しい。
「可愛いね、イルカ」
 二度目は儀礼的な口調じゃなくて、わりと気持ちがこもってた気がする。その後、撫でる手が許されたのも嬉しくて、つい調子に乗ってしまったのはしょうがないと思うんだ。
 首の後ろから背中の丸みに沿って何度も往復する手が、尻尾まで滑った。その上、うっかりボサボサな毛並みが気になって、尻尾を梳くように先っぽまで一気に撫でてしまった。どうやらそれが気に食わなかったらしい。
「ギャオッ」
 俺の手を思いっ切り叩いたイルカは、ぷりぷり怒りながらドスドス歩いて襖の奥に消えていく。
 そうか、尻尾はおさわり禁止ってことね。
「あ~あ、失敗したなぁ」
 イルカは俺の手甲に気付いていたらしく、わざと爪を出して叩いたせいで手甲の革の部分に爪痕がくっきり残っている。さすがにこれはお気に入りの人間にするマーキング……じゃないよねぇ。
「イルカ、勝手に尻尾を触ってごめん」
 謝りながら襖の向こうをそっと覗いたけど、猫の姿は見当たらなかった。窓際にドーンとベッドが置いてあり、その向こうの窓が少し開いてカーテンがはためいてるから、どうやら出かけたみたいだ。追いかけてもいいけどよけいに不興を買う気がするので、ベストを脱いで傍らの椅子の背にかけるとベッドに寝転んだ。
 そういえばこの部屋の物は全部、人間用ばかりだ。
 このベッドもさっきの卓袱台も、玄関を入ってすぐ脇にあった台所も冷蔵庫も、当たり前だけど猫サイズじゃなかった。
 ということは、イルカはやっぱり元が人間なんだ。

 うみのイルカは現状で確認されている最後のにゃんメガである

 巻物の最初に書かれていた一文を思い出す。
 最後のにゃんメガだというイルカ。
 人間のあんたはどんな顔をしてて、どんな声で俺を呼ぶんだろうね?
 目の色は赤銅色なのか、髪色はやっぱり黒いのかなどと、他愛もない想像をしながらゆるりと目を閉じた。



 玄関の方からカタンと小さな音が聞こえた。瞬時に意識は覚醒してもまだ目覚めるまでには至らず、耳だけが機能を働かせている。
 するとやはりと言うか、この部屋の主の気配がひたひたとこっちに近付いてきた。イルカはベッドに軽々と飛び乗ると、どうやら匂いを確認してるのか俺の爪先に鼻をぴとりと付ける。俺は忍犬たちと野営している時のように、左腕をずらして脇を空けた。イルカが心得たようにそこにグイグイと体をねじ込み俺の腕を枕にするので、半覚醒状態のまま雑に撫でる。猫の体から伝わる体温で左側だけ温かくなったのでますます眠い。
 なんでこんなに眠いんだろうと思ったら、そういえば任務帰りだった。そのうちグルグルと低い音がでかい毛玉から響いてきたので、思わずニヤリとしてから俺もまた眠った。
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