【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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イルカが教員室で明日の授業のためのプリントを作成していると、上忍が下校中の我が子を拐って逃走中という緊急連絡が入り、アカデミーの教員全員に召集がかかった。
同じく小テストを作っていた同僚の手巻ノリが、イルカと同時に立ち上がって教員室を飛び出す。
「誘拐された子供って知ってるか?」
「日向の分家筋だそうだ。イルカは学年が違うから直接は知らないだろうが、子供は母親の苗字に変わって日向アジサイになったんだ」
「……そうか」
緊急事態のパターンの一つ、『ハの弐』を知らせる曲が校内放送で流れているので、教員があちこちから裏門の所に集まってきた。
そこには里に待機していた上忍数人と、白い獣面を付けた者まで立っている。子供一人の追跡、保護にしてはずいぶん大がかりだとイルカは思ったが、追いつめられた上忍と日向の子供という組み合わせだからだろう。なんにせよ手厚いサポートがあるのは有り難い。
教頭がアカデミー側の陣頭指揮を執り、現在は子連れで死の森に逃げ込んだ上忍を、里にいた上忍あるいは暗部と教員のツーマンセルで追う指示をする。
上忍側の陣頭指揮を執る情報部の者によると、木守上忍は以前から他里と通じてる疑惑があり、ずっと内偵の対象者だったそうだ。妻と離婚して子を引き取りたがったが、妻の実家の反対にあって一旦は引いたものの、いよいよ尋問部に引き渡される段階になって里抜けを敢行、その際に嫌がる子供を無理やり連れ去ったということらしい。
「とばっちりを受けて辛い思いをするのは、いつだって子供なんだよな」
手巻ノリの苦々しい呟きを、イルカはその肩をポンと叩いて受け止める。
「あぁ、だから早く連れ戻してやろうな」
即席のツーマンセルが次々と出立していく中、イルカの組む相手が前に立った。
「俺の相手、イルカ先生だったの。よろしくね」
「カカシ先生もいらしたんですか、よろしくお願いします!」
イルカが頭を下げると、早速だけど現地に向かいながら、と前置きしてカカシが駆け出した。
カカシとは七班時代は時々飲みに行くこともあったのに、ナルトが修行に出て事実上解散となってからは受付でしか接点がなかった。カカシの受ける任務は受付を通さないものが多いので、それすらなくて見かけることもなくなっていたのだが。
久しぶりに見るカカシの横顔は、口布の上からでも少し頬が削げたようにも思え、イルカの意識が一瞬だけ子供から逸れる。
「俺たちは死の森の北西から入ります。子供とは面識ありますか?」
「木守……いえ、日向アジサイという名前と顔だけは。あの子も俺の顔だけは知っている可能性がありますが、直接接触したことはありません」
後方の屋根を跳ぶイルカに目をやったカカシが小さく頷く。
それからイルカがついていけるギリギリのスピードで、二人は暮れ始めた里の中を駆け抜けた。
死の森は中忍や特別上忍、上忍試験の他、時には暗部の訓練に使われることもあり、出入り口も正面以外にもいくつかある。
その内で最も危険な森の深部にほど近い北西口に、音もなく降り立ったカカシに続き、息を切らせたイルカが後ろに降りた。
情報部に渡された南京錠の鍵と術の二つで封印を解き、順に素早く体を滑り込ませる。
「森がざわついてる……ここに逃げ込んだというのは間違いないみたいですね」
辺りを見回してカカシが呟くが、イルカにはその違いが分からなかった。
さすが歴戦の忍といったところだが、この任務で最も重要なのは里抜けを目論んだ木守を追うことではない。それを念を押しておきたいと、捜索に入る前にカカシに伝える。
「今回俺たちアカデミー教員が上忍の皆さんと組まされたのは、アジサイの無事奪還が最重要だからです。足手まといかとは思いますが、どうぞご理解ください」
イルカの強い口調に、カカシは隠されてない右眼を瞬かせると、にこりと微笑んだ。
「大丈夫、ちゃんと理解してます。ただ、逆もあると思ってください。子供の奪還が最重要だからこそ、死の森に逃げ込んだ上忍の対応策として俺たちが組まされてるんです。ここの生き物は上忍の手にも余るようなものが多い。くれぐれも注意して、森ではどうか俺の指示に従ってもらいたいです」
大隊の長や暗部の隊長として常に命令を下す立場のはずなのに、格下の中忍を尊重した言い方をするカカシに、イルカは少し驚きながら頷いた。
その間にもカカシは巻物を取り出して八忍犬を口寄せる。
「イルカ先生にはこの子を付けます。名前はビスケ。今後この子から離れないように」
口早にそう言うと、残りの七匹に短く指示を与えて散開させた。
「それじゃ、俺たちは森の奥を目指します。木守が奥に向かうほど愚かでなきゃいいが……」
カカシの呟きに近い言葉が終わる前に、森の奥からドォーンという爆発音が響いてきた。
二人は顔を見合わせ、即座に駆け出す。
「たぶん俺たちが一番近い。イルカ先生はビスケより前に出ないで」
近隣の森でも見たことがない捻くれた木々の枝を跳んでいくと、黒い煙の上がる所の手前で忍犬の脚が止まったので、イルカも樹上から降りずに下を見た。
すると何かを抱えて眼下を駆け抜けていく男に続き、巨大な犬が低い姿勢で灌木の合間を縫って追いかけていく。
カカシが枝の重なる影からイルカの隣に戻ってきた。
「まずいな……木守を追ってるのはクロキバオオカミだ」
クロキバオオカミはその名の通り、牙が白ではなく黒い狼だ。
それよりも最大の特徴は体躯の大きさで、一般的な狼の数倍どころか祭りの神輿くらいはある。また、牙だけでなく体毛から口の中まで全て黒いので、昼間でも暗い死の森ではその大きさにもかかわらず背景に溶け込んで音もなく獲物に忍び寄るため、たとえ忍でも圧倒的に不利だった。
だが今はそのアドバンテージを生かさず、よろよろと木守を追っている。ところどころ大小の傷もバックリと口を開けているのが、黒い被毛の中に目立っていた。
カカシが険しい眼差しを木守に向ける。
「木守が抱えてるの、アジサイじゃないですね」
「え、じゃあ誰を?」
その問いには答えず、カカシは奇妙な音程の口笛をワンフレーズほど吹くと、枝を蹴って一人と一匹を追う。
ビスケも走り出したので、イルカもそれを追った。
カカシの背中越しにオオカミが、その左向こうに木守が見える。木守は里抜けをしたいはずなのに、森の最奥を目指しているようだ。そもそも、なぜわざわざ死の森に? と訝しんでいると、それを読み取ったかのようにカカシが振り返って答えた。
「森の奥には滝があるんです。そこに飛び込めば川から里外に出られる。死の森の猛獣たちに襲われさえしなければ、普通に抜けるより簡単で成功率が高い」
「アジサイは? あの子を抱えて滝壺から川を泳ぎ切るなんて無茶だ」
「ええ、だからどこかに置いてきたんでしょうね。あいつが抱えてるのは恐らく、クロキバオオカミの仔だ」
その言葉に驚いてカカシの背中越しに木守を見るが、子供くらいのサイズの何かを抱えていることしか分からなかった。
焦るイルカの耳に、前方から滝の落水音らしきドドドッという水音も聞こえてきた。
「待ってください、それならアジサイはどこに? あの子を探しに行かなきゃ!」
方向転換しようとしたイルカの腕を、カカシが掴んで止める。
「子供の捜索はさっき忍犬たちに命じました。他のチームも全て捜索に回れと伝えるので、そっちは大丈夫。俺たちは木守を捕らえます」
いつの間にと思ったが、先ほどの口笛がその命令を伝えるものだったのだと気付く。
だがいくら弱ってるとはいえ、クロキバオオカミの攻撃を躱しつつ上忍を捕らえるというのは、口で言うほど容易くはない。
そもそも木守は秘かに森を抜けるべきなのに、なぜわざわざオオカミの子供を連れ去るような真似をしたのだろうか。子供を拐って里抜けをしようとしたのに、肝心の子供を置いて代わりに仔狼を連れているなど意味不明だ。そうせざるを得ない何かが起きたのかと思っても、木守を捕らえなければ聞くこともできない。
カカシもそう思っているようで、だからこそすぐには捕らえず、木守とクロキバオオカミの様子を窺いながら追っているのだろう。
そうこうしてるうちに一行は滝の所まで来てしまった。
このまま見守っていては、最悪みすみす見逃すことになってしまう。かといってクロキバオオカミは、手負いといえども上忍一人の手には余る猛獣だ。
そして木守の目的は何なのかと訝って樹上から様子を見ていると、木守は抱えていた物を左手で高く掲げた。
それは確かに真っ黒な仔犬に見えたが、大きさはゆうに普通の柴犬くらいはある。だが目も開いておらず、母を求めてきゅふきゅふと鼻を鳴らすところは、まだ本当に乳離れも済んでいない仔狼だと分かった。
「イルカ先生、俺の影がクロキバオオカミを抑える間に俺が木守を捕らえます。あなたは本体の俺の援護を」
「はい!」
どういう術の改良を加えたのか、物音一つ立てずに分裂したかのようにカカシが一人増える。
そちらが二人から離れ、クロキバオオカミの背後に回ろうとした、その瞬間。
「不本意だろうがここまでガードしてくれてありがとよ。礼に子供は返してやるぜ。ほらよっ」
木守が左腕を大きく振りかぶり、仔狼を滝壺目がけて投げ落とした。
その後のことをイルカはよく覚えていない。
カカシが「イルカ先生!」と叫んだ気はする。
木守も驚いたような声を上げていた。
獣の吠える声も背後から聞こえた。
滝壺へ落ちていく仔狼を追いかけて崖の縁を蹴り、ワイヤー付きクナイを片手に仔狼を宙でキャッチする。
そのままクナイを投げると、それが崖の壁面に突き立った。だが刺さり方が甘かったのか、イルカと仔狼の重みに耐えかねてビンっと抜けてしまう。
為す術もなく落ちていくのを抱き止めてくれたのは、カカシだった。不安定な壁面ではなく傍らの木の幹にワイヤーを巻き付け、イルカを追って飛び込んできたのだ。
「俺を伝って先に上がって」
「カカシ先生……はい!」
仔狼をベストの胸元から腹部分に半分入れるように抱き、カカシを足場にしてワイヤーを登っていくと、崖から頭を出したところでクロキバオオカミの巨大な鼻先とお見合いした。
イルカがひゅっと息を呑むが、狼は自分の子供の安否しか目に入らないようだった。仔狼が胸元からモゾモゾと這い出し、恐らくは母親であろう狼の長い鼻先に飛び付く。
すると母狼は安心したのか長く息を吐き、崩れるようにゆっくりと横倒しになってしまった。
相手が死の森の頂点近くに君臨するというクロキバオオカミだということも忘れ、イルカは慌てて地面に飛び上がって狼を見ると、倒れた下の地面にじわじわと血が広がっていく。
「待ってろ、今止血するからな! もうひと踏ん張りだぞっ」
イルカが声をかけながら手当てをするが、恐らくは木守にやられたのだろう十箇所以上の傷口から、相当の出血があったようだ。たかだか上忍一人にここまでやられるとは考えにくいが、仔を盾にされたら母はなす術もなかったのかもしれない。
「手伝います」
後から上がってきたカカシは、影分身と忍犬に拘束された木守をチラッと見てから、イルカと反対の背中側に膝を突いた。
イルカの隣では、仔狼が甲高い声で鳴きながら母を呼んでいる。
「……もう、よい」
嗄れた声がクロキバオオカミの大きく裂けた口から漏れた。
「お前、人語を解せる上に喋れるのか」
人間と会話する忍犬を使役するカカシが、たいして驚いた様子もなく言葉を返す。
母狼は苦しげに息を吐くと、イルカの方にその濃灰色の眼を向ける。
「ありが、とう。お前のおかげで、吾子は助かった」
「喋らないで。傷に障る」
「この傷ではもう、助からぬ。それよりも、お前……名は?」
「イルカ。うみのイルカだ。この人はカカシさんだ」
イルカは手を止めることなく答え、傷口を大きく深いものから順に止血すると、医療用の溶ける糸で手早く縫っていく。カカシも集まってきた忍犬たちに仔狼を任せ、同じように手当てをした。
すると母狼はその巨体を起こし、忍犬たちに囲まれた仔狼の方へと這うように近付く。とたんにじゃれつく仔狼に愛おしげに頬ずりをすると、イルカの方に顔を向けた。
「愛しい吾子……この子をイルカ、お前に、頼みたい」
そう言って仔狼を鼻先でイルカの方に押しやった。
無理に動いたせいか、また傷口が開いてどぷりと血が流れる。
「動かないで! 傷がまた」
「私が死んだら、皆が吾子とお前たちを食うために集まってくる……っ! どうか……イル、カ」
最期の力を振り絞って唸るように伝えると、クロキバオオカミは力尽きたのか大きな犬頭をゴトリと落とした。
母狼の言葉に手当ての手を止めたカカシが、仔狼を抱え上げ立ち上がる。
「この狼の言う通りだ……いつの間にか囲まれてる。イルカ先生、脱出します」
有無を言わせない口調のところをみると、本当に猶予のない状況なのだろう。影分身が拘束された木守を抱え、忍犬たちと一足先に駆け出した。
イルカは唇をグッと噛みしめ、急いでクロキバオオカミの口に兵糧丸を押し込むと立ち上がる。
「……すまない」
片目をうっすらと開いたクロキバオオカミが、縋るようにイルカを見つめた。
「この子は俺が面倒をみるから大丈夫」
力強く頷いてみせると、カカシと共に森の出口を目指して駆け出した。
同じく小テストを作っていた同僚の手巻ノリが、イルカと同時に立ち上がって教員室を飛び出す。
「誘拐された子供って知ってるか?」
「日向の分家筋だそうだ。イルカは学年が違うから直接は知らないだろうが、子供は母親の苗字に変わって日向アジサイになったんだ」
「……そうか」
緊急事態のパターンの一つ、『ハの弐』を知らせる曲が校内放送で流れているので、教員があちこちから裏門の所に集まってきた。
そこには里に待機していた上忍数人と、白い獣面を付けた者まで立っている。子供一人の追跡、保護にしてはずいぶん大がかりだとイルカは思ったが、追いつめられた上忍と日向の子供という組み合わせだからだろう。なんにせよ手厚いサポートがあるのは有り難い。
教頭がアカデミー側の陣頭指揮を執り、現在は子連れで死の森に逃げ込んだ上忍を、里にいた上忍あるいは暗部と教員のツーマンセルで追う指示をする。
上忍側の陣頭指揮を執る情報部の者によると、木守上忍は以前から他里と通じてる疑惑があり、ずっと内偵の対象者だったそうだ。妻と離婚して子を引き取りたがったが、妻の実家の反対にあって一旦は引いたものの、いよいよ尋問部に引き渡される段階になって里抜けを敢行、その際に嫌がる子供を無理やり連れ去ったということらしい。
「とばっちりを受けて辛い思いをするのは、いつだって子供なんだよな」
手巻ノリの苦々しい呟きを、イルカはその肩をポンと叩いて受け止める。
「あぁ、だから早く連れ戻してやろうな」
即席のツーマンセルが次々と出立していく中、イルカの組む相手が前に立った。
「俺の相手、イルカ先生だったの。よろしくね」
「カカシ先生もいらしたんですか、よろしくお願いします!」
イルカが頭を下げると、早速だけど現地に向かいながら、と前置きしてカカシが駆け出した。
カカシとは七班時代は時々飲みに行くこともあったのに、ナルトが修行に出て事実上解散となってからは受付でしか接点がなかった。カカシの受ける任務は受付を通さないものが多いので、それすらなくて見かけることもなくなっていたのだが。
久しぶりに見るカカシの横顔は、口布の上からでも少し頬が削げたようにも思え、イルカの意識が一瞬だけ子供から逸れる。
「俺たちは死の森の北西から入ります。子供とは面識ありますか?」
「木守……いえ、日向アジサイという名前と顔だけは。あの子も俺の顔だけは知っている可能性がありますが、直接接触したことはありません」
後方の屋根を跳ぶイルカに目をやったカカシが小さく頷く。
それからイルカがついていけるギリギリのスピードで、二人は暮れ始めた里の中を駆け抜けた。
死の森は中忍や特別上忍、上忍試験の他、時には暗部の訓練に使われることもあり、出入り口も正面以外にもいくつかある。
その内で最も危険な森の深部にほど近い北西口に、音もなく降り立ったカカシに続き、息を切らせたイルカが後ろに降りた。
情報部に渡された南京錠の鍵と術の二つで封印を解き、順に素早く体を滑り込ませる。
「森がざわついてる……ここに逃げ込んだというのは間違いないみたいですね」
辺りを見回してカカシが呟くが、イルカにはその違いが分からなかった。
さすが歴戦の忍といったところだが、この任務で最も重要なのは里抜けを目論んだ木守を追うことではない。それを念を押しておきたいと、捜索に入る前にカカシに伝える。
「今回俺たちアカデミー教員が上忍の皆さんと組まされたのは、アジサイの無事奪還が最重要だからです。足手まといかとは思いますが、どうぞご理解ください」
イルカの強い口調に、カカシは隠されてない右眼を瞬かせると、にこりと微笑んだ。
「大丈夫、ちゃんと理解してます。ただ、逆もあると思ってください。子供の奪還が最重要だからこそ、死の森に逃げ込んだ上忍の対応策として俺たちが組まされてるんです。ここの生き物は上忍の手にも余るようなものが多い。くれぐれも注意して、森ではどうか俺の指示に従ってもらいたいです」
大隊の長や暗部の隊長として常に命令を下す立場のはずなのに、格下の中忍を尊重した言い方をするカカシに、イルカは少し驚きながら頷いた。
その間にもカカシは巻物を取り出して八忍犬を口寄せる。
「イルカ先生にはこの子を付けます。名前はビスケ。今後この子から離れないように」
口早にそう言うと、残りの七匹に短く指示を与えて散開させた。
「それじゃ、俺たちは森の奥を目指します。木守が奥に向かうほど愚かでなきゃいいが……」
カカシの呟きに近い言葉が終わる前に、森の奥からドォーンという爆発音が響いてきた。
二人は顔を見合わせ、即座に駆け出す。
「たぶん俺たちが一番近い。イルカ先生はビスケより前に出ないで」
近隣の森でも見たことがない捻くれた木々の枝を跳んでいくと、黒い煙の上がる所の手前で忍犬の脚が止まったので、イルカも樹上から降りずに下を見た。
すると何かを抱えて眼下を駆け抜けていく男に続き、巨大な犬が低い姿勢で灌木の合間を縫って追いかけていく。
カカシが枝の重なる影からイルカの隣に戻ってきた。
「まずいな……木守を追ってるのはクロキバオオカミだ」
クロキバオオカミはその名の通り、牙が白ではなく黒い狼だ。
それよりも最大の特徴は体躯の大きさで、一般的な狼の数倍どころか祭りの神輿くらいはある。また、牙だけでなく体毛から口の中まで全て黒いので、昼間でも暗い死の森ではその大きさにもかかわらず背景に溶け込んで音もなく獲物に忍び寄るため、たとえ忍でも圧倒的に不利だった。
だが今はそのアドバンテージを生かさず、よろよろと木守を追っている。ところどころ大小の傷もバックリと口を開けているのが、黒い被毛の中に目立っていた。
カカシが険しい眼差しを木守に向ける。
「木守が抱えてるの、アジサイじゃないですね」
「え、じゃあ誰を?」
その問いには答えず、カカシは奇妙な音程の口笛をワンフレーズほど吹くと、枝を蹴って一人と一匹を追う。
ビスケも走り出したので、イルカもそれを追った。
カカシの背中越しにオオカミが、その左向こうに木守が見える。木守は里抜けをしたいはずなのに、森の最奥を目指しているようだ。そもそも、なぜわざわざ死の森に? と訝しんでいると、それを読み取ったかのようにカカシが振り返って答えた。
「森の奥には滝があるんです。そこに飛び込めば川から里外に出られる。死の森の猛獣たちに襲われさえしなければ、普通に抜けるより簡単で成功率が高い」
「アジサイは? あの子を抱えて滝壺から川を泳ぎ切るなんて無茶だ」
「ええ、だからどこかに置いてきたんでしょうね。あいつが抱えてるのは恐らく、クロキバオオカミの仔だ」
その言葉に驚いてカカシの背中越しに木守を見るが、子供くらいのサイズの何かを抱えていることしか分からなかった。
焦るイルカの耳に、前方から滝の落水音らしきドドドッという水音も聞こえてきた。
「待ってください、それならアジサイはどこに? あの子を探しに行かなきゃ!」
方向転換しようとしたイルカの腕を、カカシが掴んで止める。
「子供の捜索はさっき忍犬たちに命じました。他のチームも全て捜索に回れと伝えるので、そっちは大丈夫。俺たちは木守を捕らえます」
いつの間にと思ったが、先ほどの口笛がその命令を伝えるものだったのだと気付く。
だがいくら弱ってるとはいえ、クロキバオオカミの攻撃を躱しつつ上忍を捕らえるというのは、口で言うほど容易くはない。
そもそも木守は秘かに森を抜けるべきなのに、なぜわざわざオオカミの子供を連れ去るような真似をしたのだろうか。子供を拐って里抜けをしようとしたのに、肝心の子供を置いて代わりに仔狼を連れているなど意味不明だ。そうせざるを得ない何かが起きたのかと思っても、木守を捕らえなければ聞くこともできない。
カカシもそう思っているようで、だからこそすぐには捕らえず、木守とクロキバオオカミの様子を窺いながら追っているのだろう。
そうこうしてるうちに一行は滝の所まで来てしまった。
このまま見守っていては、最悪みすみす見逃すことになってしまう。かといってクロキバオオカミは、手負いといえども上忍一人の手には余る猛獣だ。
そして木守の目的は何なのかと訝って樹上から様子を見ていると、木守は抱えていた物を左手で高く掲げた。
それは確かに真っ黒な仔犬に見えたが、大きさはゆうに普通の柴犬くらいはある。だが目も開いておらず、母を求めてきゅふきゅふと鼻を鳴らすところは、まだ本当に乳離れも済んでいない仔狼だと分かった。
「イルカ先生、俺の影がクロキバオオカミを抑える間に俺が木守を捕らえます。あなたは本体の俺の援護を」
「はい!」
どういう術の改良を加えたのか、物音一つ立てずに分裂したかのようにカカシが一人増える。
そちらが二人から離れ、クロキバオオカミの背後に回ろうとした、その瞬間。
「不本意だろうがここまでガードしてくれてありがとよ。礼に子供は返してやるぜ。ほらよっ」
木守が左腕を大きく振りかぶり、仔狼を滝壺目がけて投げ落とした。
その後のことをイルカはよく覚えていない。
カカシが「イルカ先生!」と叫んだ気はする。
木守も驚いたような声を上げていた。
獣の吠える声も背後から聞こえた。
滝壺へ落ちていく仔狼を追いかけて崖の縁を蹴り、ワイヤー付きクナイを片手に仔狼を宙でキャッチする。
そのままクナイを投げると、それが崖の壁面に突き立った。だが刺さり方が甘かったのか、イルカと仔狼の重みに耐えかねてビンっと抜けてしまう。
為す術もなく落ちていくのを抱き止めてくれたのは、カカシだった。不安定な壁面ではなく傍らの木の幹にワイヤーを巻き付け、イルカを追って飛び込んできたのだ。
「俺を伝って先に上がって」
「カカシ先生……はい!」
仔狼をベストの胸元から腹部分に半分入れるように抱き、カカシを足場にしてワイヤーを登っていくと、崖から頭を出したところでクロキバオオカミの巨大な鼻先とお見合いした。
イルカがひゅっと息を呑むが、狼は自分の子供の安否しか目に入らないようだった。仔狼が胸元からモゾモゾと這い出し、恐らくは母親であろう狼の長い鼻先に飛び付く。
すると母狼は安心したのか長く息を吐き、崩れるようにゆっくりと横倒しになってしまった。
相手が死の森の頂点近くに君臨するというクロキバオオカミだということも忘れ、イルカは慌てて地面に飛び上がって狼を見ると、倒れた下の地面にじわじわと血が広がっていく。
「待ってろ、今止血するからな! もうひと踏ん張りだぞっ」
イルカが声をかけながら手当てをするが、恐らくは木守にやられたのだろう十箇所以上の傷口から、相当の出血があったようだ。たかだか上忍一人にここまでやられるとは考えにくいが、仔を盾にされたら母はなす術もなかったのかもしれない。
「手伝います」
後から上がってきたカカシは、影分身と忍犬に拘束された木守をチラッと見てから、イルカと反対の背中側に膝を突いた。
イルカの隣では、仔狼が甲高い声で鳴きながら母を呼んでいる。
「……もう、よい」
嗄れた声がクロキバオオカミの大きく裂けた口から漏れた。
「お前、人語を解せる上に喋れるのか」
人間と会話する忍犬を使役するカカシが、たいして驚いた様子もなく言葉を返す。
母狼は苦しげに息を吐くと、イルカの方にその濃灰色の眼を向ける。
「ありが、とう。お前のおかげで、吾子は助かった」
「喋らないで。傷に障る」
「この傷ではもう、助からぬ。それよりも、お前……名は?」
「イルカ。うみのイルカだ。この人はカカシさんだ」
イルカは手を止めることなく答え、傷口を大きく深いものから順に止血すると、医療用の溶ける糸で手早く縫っていく。カカシも集まってきた忍犬たちに仔狼を任せ、同じように手当てをした。
すると母狼はその巨体を起こし、忍犬たちに囲まれた仔狼の方へと這うように近付く。とたんにじゃれつく仔狼に愛おしげに頬ずりをすると、イルカの方に顔を向けた。
「愛しい吾子……この子をイルカ、お前に、頼みたい」
そう言って仔狼を鼻先でイルカの方に押しやった。
無理に動いたせいか、また傷口が開いてどぷりと血が流れる。
「動かないで! 傷がまた」
「私が死んだら、皆が吾子とお前たちを食うために集まってくる……っ! どうか……イル、カ」
最期の力を振り絞って唸るように伝えると、クロキバオオカミは力尽きたのか大きな犬頭をゴトリと落とした。
母狼の言葉に手当ての手を止めたカカシが、仔狼を抱え上げ立ち上がる。
「この狼の言う通りだ……いつの間にか囲まれてる。イルカ先生、脱出します」
有無を言わせない口調のところをみると、本当に猶予のない状況なのだろう。影分身が拘束された木守を抱え、忍犬たちと一足先に駆け出した。
イルカは唇をグッと噛みしめ、急いでクロキバオオカミの口に兵糧丸を押し込むと立ち上がる。
「……すまない」
片目をうっすらと開いたクロキバオオカミが、縋るようにイルカを見つめた。
「この子は俺が面倒をみるから大丈夫」
力強く頷いてみせると、カカシと共に森の出口を目指して駆け出した。
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