【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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仔狼を抱えたイルカはカカシと二人、火影執務室で綱手の前に立っていた。
一歩前に出たカカシが事の顛末を報告している。拘束された木守は情報部に連行され、アジサイも他のチームによって無事に発見、保護されたそうだ。
そちらの状況と合わせて導き出されたのは、木守は親としての愛情からではなく、万が一の保険にアジサイを連れて里抜けを目論んでいたというものだった。途中クロキバオオカミの親子連れに鉢合わせて戦闘、足手まといになるアジサイを捨てて今度は仔狼を盾に、母狼を引き連れて他の猛獣避けにしながら滝を目指したようだ。
そしてアジサイはなぜかクロキバオオカミの匂いが強く残る繁みに、見たことのない結界で隠されていたそうだ。
「お母さんオオカミが、ここでじっとしてなさいって。きっとお前の群れの誰かが助けに来るって教えてくれたから、怖かったけどじっとしてたの」
まだショックの残る状態だったアジサイがそれでもしっかりと答えたのは、クロキバオオカミが人間の子供を助けたという驚くべき内容だった。
クロキバオオカミは死の森での生態系の頂点近くに位置する。その匂いが濃く残る所に、クロキバオオカミの用いる特殊な結界で護られているならば、それがたとえひ弱な人間の子供でも誰も手出しはしないだろう。なぜ母狼がアジサイを護ろうとしたのか真意は謎だが、それでアジサイの命が助かったのは事実だ。
「クロキバオオカミは賢い。種は違えど同じ子供だからと母性が溢れた可能性が高いが、もしかしたら仔狼をアタシらに託さなきゃならないような事態も想定して、アジサイを助けたのかもしれんな……」
綱手の痛ましげな眼差しを受け、イルカは思わず仔狼を抱く腕にぎゅうと力をこめる。それで眠っていた仔狼が目を覚まし、ピスピスと鼻を鳴らして丸い頭を左右に振り向けた。恐らくは母狼を探しているのだろうが、今はまだ眠っていてほしいと仔狼をゆらゆらと揺らす。
「それで? クロキバオオカミはイルカ、お前にそいつを任せたと言うんだな? ちょっと見せてみろ」
イルカは頷いて進み出ると、仔狼を執務机越しに綱手に手渡した。
仔狼といえど神輿ほどもあるクロキバオオカミの子だ。一般的な中型犬くらいの大きさ、重さはあるように思える。綱手は死の森の猛獣でも同じ生き物という判断なのか、仔狼の頭から腹に手をかざして診ていった。
「うむ、健康状態に問題はなさそうだ。だがこいつはちゃんと目も開いてないような乳飲み子だぞ。イルカ、お前は狼の、しかも仔の面倒をみたことあるのかい?」
綱手の問いかけに、イルカは慌てて首を左右に振った。
「そうか……隣にカカシという、狼じゃなく犬ではあるが育成のエキスパートがいたにもかかわらず、その母狼はイルカに頼んだんだな?」
そう言われると確かに不思議だ。カカシのことは犬に深い関わりを持つ者だと、匂いで当然分かったはずだ。かたやイルカは犬の事など浅い知識しかない。キバのいるクラスの担任になる時に、忍犬も一緒に授業を受けると聞いてかなり学んだが、それだけだ。犬を飼ったこともないし、忍犬を持ったこともない。
ならばクロキバオオカミという相当レアな生き物の仔であることだし、やはりカカシに頼んだ方が良いだろうと口を開きかけると。
「うーむ、猛獣たちに食われると分かっていて今さら森に返すのも何だしな……それならイルカ、お前が面倒をみろ」
「ええ⁈ アカデミーや受付はどうするんですか! だいたいまだこんな赤ん坊なのに知識もない俺が育てるなんて、そんなの無謀ですよ!」
拒否してもお構いなしに仔狼をポイと軽く返してきたので、イルカは慌てて抱き止めた。
「その為にカカシがいるんだろ。ちょっとデカいだけで同じ動物だ、狼も犬も変わらん。いいか、お前たち二人で面倒をみろ、これは命令だ。クロキバオオカミの成長データが取れる機会なんて、これを逃したら二度とないだろうからな」
「待ってください、そんな横暴な」
カカシも巻き込まれたらたまらないとでもいうように慌てて口を挟んできたが、それくらいで五代目の決定は覆らなかった。
「その子がとりあえず独り立ちできるくらいまでだ。せいぜい一、二年だろ。その後で森に返すか口寄せの契約を結ぶか、また考えればいいさ。それなら母狼も安心してくれるだろうよ」
母狼を持ち出されると、イルカもこれ以上拒否はできなかった。二人で前後して執務室を出ると、思わずため息をついてしまう。
「ま、しょうがないですよ、綱手様の仰ることですから」
カカシの慰めに頷いて返したが、よくよく考えたら即席で組んだだけのカカシの方がとばっちりだったのではないか。
「あの、お忙しいのにすみません!」
仔狼を抱っこしたまま勢いよく頭を下げたので、急に揺らされた仔狼が目を覚ましてしまった。今度はあやしても眠ってくれずイルカがおろおろしていると、その様子を見ていたカカシが「ちょっと失礼」と仔狼を抱き取り、口元に指先を当てる。すると仔狼はその指をチュバチュバと強く吸い出した。
「あぁ、やっぱり。腹減ってるんですね」
「え、じゃあお乳をやらんと……どこかに乳母犬してくれる優しい母ちゃん犬はいませんかね⁈」
今にも乳母犬を闇雲に探そうと駆け出しかけたイルカを横目に、カカシは仔狼の前脚を握りながらニコリと笑いかけた。
「乳母犬を探さなくても、狼もミルクで大丈夫だと思いますよ。それにしてもお前、ぶっとい前脚だなぁ。この子はきっと、どんどん大きくなるでしょうね……」
そう言うと仔狼を見つめていたカカシは、パッと顔を上げた。
「イルカ先生は確か独身寮でしたよね。この子はたぶん生後半月も経ってないと思うんですけど、それでこの大きさでしょ? よかったら俺の実家の方で一緒に面倒をみませんか。うちの忍犬たちが普段過ごしてる家だから庭もあるし、部屋も余ってるから」
「ええっ⁈ それはいくら何でも」
「嫌?」
「嫌ではないですよ! ただ、」
「じゃあ決まりね。俺はこのまま犬塚さんとこに寄っていろいろ仕入れてから行くから、イルカ先生はいったん家に帰って当面の荷物をまとめてきてください。それじゃ、後ほどここで」
ほとんど一方的に決めたカカシは、どろんと煙を上げて消えてしまった。
煙の中からひらりと紙切れが舞い落ちる。そこにはいつの間に描いたのか、簡略化された里の地図に家の絵が、そしてそれを大きな矢印が指し示していた。
その後我に返ったイルカは急いでアパートに戻って私物をかき集め、カカシの実家だという平屋の前に立っていた。
なぜこんなことになったんだと半ば呆然としながら玄関先でチャイムを鳴らすと、左手の庭の方から「こっちに回ってきて」とカカシの声がした。そちらの方に足を向けると、縁側で胡座をかいたカカシが仔狼にミルクを与えている。庭先では忍犬たちが思い思いにくつろぎながらその様子を見ていて、仔狼はカカシの足の間に座って腿に両脚を乗せ、必死に哺乳びんに吸い付いていた。
「取り急ぎ仔狼はこの子たちに頼んで、犬塚さんの所で授乳セットをいろいろ揃えてきたから。犬用だけど、ま、大丈夫でしょって。イルカ先生の荷物は居間の隣の部屋に置いてきてくれる? そこは当面の間好きに使っていいから」
綱手の前では面倒くさそうにしていたのに、率先してかいがいしく仔狼の世話をしているのには驚かされた。
「……何びっくりしてるのよ。言っとくけど今後世話をするのはイルカ先生だから、ちゃんと見て覚えてね。あとたぶんミルク足りないから、台所で二本目を作ってきてください。子守りの経験は?」
「人間の赤ん坊のなら下忍の頃によくやってました」
「そ。なら大丈夫そうですね。基本的には人間と変わらないけどおむつは使わないから、下の世話の方法だけ後で教えます」
「お願いします。それじゃ、部屋の方ありがたくお借りしますね」
矢継ぎ早に質問と指示を飛ばすカカシに、イルカは言われた部屋の方に向かいながら答える。
与えられたのは庭に面した掃き出し窓と縁側のある南向きの部屋で、この家で一番良い場所なのではないかと思われた。リュックなどの私物を適当に置いて台所に行くと手を洗い、仔犬のイラストの描かれた缶を開けて哺乳びんにミルクを作り、温度を確かめる。それを持っていくと、カカシの見立て通りミルクが足りなかったのか、仔狼がきゅふきゅふと鼻を鳴らしながら空のびんを吸っていた。
「じゃあ交代ね」
カカシの隣に座ると、空のびんを取り上げながら仔狼を渡してきたので、慌てて新しい哺乳びんを口に差し込んでやる。
「人間の赤ん坊は仰向けだけど、犬はうつ伏せで飲ませるようにして。あとこの子かなり大きいから、姿勢が安定するように胡座かいた足の間に入れて保定してあげて……そう、そういう感じ」
イルカが座る姿勢を変えるとカカシが手早く仔狼の姿勢を整えてやり、仔狼は腿に前脚を乗せてミルクを飲み続けた。そして満腹になったのか哺乳びんから口を離すと、緩慢な動きの前脚でイルカの腿をぐいぐいと揉み始める。
「もう寝ちゃうかな? その前にミルク飲んだら、必ず濡らした手拭いで口周りを吹いてあげて。あと飲み残したミルクはとっておかないでね」
カカシはてきぱきと指示をすると濡らした手拭いを手渡し、イルカが脇に置いた哺乳びんを持って立ち上がって台所へ行ってしまった。仔狼の口周りはカカシの言った通りミルクでびしょ濡れだったので苦笑しながら拭いてやると、仔狼を抱えたまま縁側にごろりと大の字になった。仔狼はイルカの腕を枕にスピスピと寝息を立てている。確かに満腹になったようで、パンパンに膨らんだ腹を無防備に晒していた。
「お前、腹いっぱいで幸せそうだなぁ。そういやお前って呼ぶのも何だから名前も決めねぇと。名前を付けてもいいのか、後でカカシさんに聞いてみような」
アカデミーの生徒の誘拐事件から仔狼を引き取り、カカシの家での同居と慌しい一日だったが、ここでやっとひと息つけた気がする。
台所ではカカシが哺乳びんを洗っているのか、水音が聞こえてきた。
どこか懐かしいと思ったら、家庭の日常的な物音だ。家族が立てる、生活の音。
知らずしらず笑みを浮かべていたイルカは、ゆるりと瞼を閉じていた。そういえばカカシと何度か飲みに行ったことはあっても、あんなに喋ったのを聞いたのは初めてだなと思いながら。
一歩前に出たカカシが事の顛末を報告している。拘束された木守は情報部に連行され、アジサイも他のチームによって無事に発見、保護されたそうだ。
そちらの状況と合わせて導き出されたのは、木守は親としての愛情からではなく、万が一の保険にアジサイを連れて里抜けを目論んでいたというものだった。途中クロキバオオカミの親子連れに鉢合わせて戦闘、足手まといになるアジサイを捨てて今度は仔狼を盾に、母狼を引き連れて他の猛獣避けにしながら滝を目指したようだ。
そしてアジサイはなぜかクロキバオオカミの匂いが強く残る繁みに、見たことのない結界で隠されていたそうだ。
「お母さんオオカミが、ここでじっとしてなさいって。きっとお前の群れの誰かが助けに来るって教えてくれたから、怖かったけどじっとしてたの」
まだショックの残る状態だったアジサイがそれでもしっかりと答えたのは、クロキバオオカミが人間の子供を助けたという驚くべき内容だった。
クロキバオオカミは死の森での生態系の頂点近くに位置する。その匂いが濃く残る所に、クロキバオオカミの用いる特殊な結界で護られているならば、それがたとえひ弱な人間の子供でも誰も手出しはしないだろう。なぜ母狼がアジサイを護ろうとしたのか真意は謎だが、それでアジサイの命が助かったのは事実だ。
「クロキバオオカミは賢い。種は違えど同じ子供だからと母性が溢れた可能性が高いが、もしかしたら仔狼をアタシらに託さなきゃならないような事態も想定して、アジサイを助けたのかもしれんな……」
綱手の痛ましげな眼差しを受け、イルカは思わず仔狼を抱く腕にぎゅうと力をこめる。それで眠っていた仔狼が目を覚まし、ピスピスと鼻を鳴らして丸い頭を左右に振り向けた。恐らくは母狼を探しているのだろうが、今はまだ眠っていてほしいと仔狼をゆらゆらと揺らす。
「それで? クロキバオオカミはイルカ、お前にそいつを任せたと言うんだな? ちょっと見せてみろ」
イルカは頷いて進み出ると、仔狼を執務机越しに綱手に手渡した。
仔狼といえど神輿ほどもあるクロキバオオカミの子だ。一般的な中型犬くらいの大きさ、重さはあるように思える。綱手は死の森の猛獣でも同じ生き物という判断なのか、仔狼の頭から腹に手をかざして診ていった。
「うむ、健康状態に問題はなさそうだ。だがこいつはちゃんと目も開いてないような乳飲み子だぞ。イルカ、お前は狼の、しかも仔の面倒をみたことあるのかい?」
綱手の問いかけに、イルカは慌てて首を左右に振った。
「そうか……隣にカカシという、狼じゃなく犬ではあるが育成のエキスパートがいたにもかかわらず、その母狼はイルカに頼んだんだな?」
そう言われると確かに不思議だ。カカシのことは犬に深い関わりを持つ者だと、匂いで当然分かったはずだ。かたやイルカは犬の事など浅い知識しかない。キバのいるクラスの担任になる時に、忍犬も一緒に授業を受けると聞いてかなり学んだが、それだけだ。犬を飼ったこともないし、忍犬を持ったこともない。
ならばクロキバオオカミという相当レアな生き物の仔であることだし、やはりカカシに頼んだ方が良いだろうと口を開きかけると。
「うーむ、猛獣たちに食われると分かっていて今さら森に返すのも何だしな……それならイルカ、お前が面倒をみろ」
「ええ⁈ アカデミーや受付はどうするんですか! だいたいまだこんな赤ん坊なのに知識もない俺が育てるなんて、そんなの無謀ですよ!」
拒否してもお構いなしに仔狼をポイと軽く返してきたので、イルカは慌てて抱き止めた。
「その為にカカシがいるんだろ。ちょっとデカいだけで同じ動物だ、狼も犬も変わらん。いいか、お前たち二人で面倒をみろ、これは命令だ。クロキバオオカミの成長データが取れる機会なんて、これを逃したら二度とないだろうからな」
「待ってください、そんな横暴な」
カカシも巻き込まれたらたまらないとでもいうように慌てて口を挟んできたが、それくらいで五代目の決定は覆らなかった。
「その子がとりあえず独り立ちできるくらいまでだ。せいぜい一、二年だろ。その後で森に返すか口寄せの契約を結ぶか、また考えればいいさ。それなら母狼も安心してくれるだろうよ」
母狼を持ち出されると、イルカもこれ以上拒否はできなかった。二人で前後して執務室を出ると、思わずため息をついてしまう。
「ま、しょうがないですよ、綱手様の仰ることですから」
カカシの慰めに頷いて返したが、よくよく考えたら即席で組んだだけのカカシの方がとばっちりだったのではないか。
「あの、お忙しいのにすみません!」
仔狼を抱っこしたまま勢いよく頭を下げたので、急に揺らされた仔狼が目を覚ましてしまった。今度はあやしても眠ってくれずイルカがおろおろしていると、その様子を見ていたカカシが「ちょっと失礼」と仔狼を抱き取り、口元に指先を当てる。すると仔狼はその指をチュバチュバと強く吸い出した。
「あぁ、やっぱり。腹減ってるんですね」
「え、じゃあお乳をやらんと……どこかに乳母犬してくれる優しい母ちゃん犬はいませんかね⁈」
今にも乳母犬を闇雲に探そうと駆け出しかけたイルカを横目に、カカシは仔狼の前脚を握りながらニコリと笑いかけた。
「乳母犬を探さなくても、狼もミルクで大丈夫だと思いますよ。それにしてもお前、ぶっとい前脚だなぁ。この子はきっと、どんどん大きくなるでしょうね……」
そう言うと仔狼を見つめていたカカシは、パッと顔を上げた。
「イルカ先生は確か独身寮でしたよね。この子はたぶん生後半月も経ってないと思うんですけど、それでこの大きさでしょ? よかったら俺の実家の方で一緒に面倒をみませんか。うちの忍犬たちが普段過ごしてる家だから庭もあるし、部屋も余ってるから」
「ええっ⁈ それはいくら何でも」
「嫌?」
「嫌ではないですよ! ただ、」
「じゃあ決まりね。俺はこのまま犬塚さんとこに寄っていろいろ仕入れてから行くから、イルカ先生はいったん家に帰って当面の荷物をまとめてきてください。それじゃ、後ほどここで」
ほとんど一方的に決めたカカシは、どろんと煙を上げて消えてしまった。
煙の中からひらりと紙切れが舞い落ちる。そこにはいつの間に描いたのか、簡略化された里の地図に家の絵が、そしてそれを大きな矢印が指し示していた。
その後我に返ったイルカは急いでアパートに戻って私物をかき集め、カカシの実家だという平屋の前に立っていた。
なぜこんなことになったんだと半ば呆然としながら玄関先でチャイムを鳴らすと、左手の庭の方から「こっちに回ってきて」とカカシの声がした。そちらの方に足を向けると、縁側で胡座をかいたカカシが仔狼にミルクを与えている。庭先では忍犬たちが思い思いにくつろぎながらその様子を見ていて、仔狼はカカシの足の間に座って腿に両脚を乗せ、必死に哺乳びんに吸い付いていた。
「取り急ぎ仔狼はこの子たちに頼んで、犬塚さんの所で授乳セットをいろいろ揃えてきたから。犬用だけど、ま、大丈夫でしょって。イルカ先生の荷物は居間の隣の部屋に置いてきてくれる? そこは当面の間好きに使っていいから」
綱手の前では面倒くさそうにしていたのに、率先してかいがいしく仔狼の世話をしているのには驚かされた。
「……何びっくりしてるのよ。言っとくけど今後世話をするのはイルカ先生だから、ちゃんと見て覚えてね。あとたぶんミルク足りないから、台所で二本目を作ってきてください。子守りの経験は?」
「人間の赤ん坊のなら下忍の頃によくやってました」
「そ。なら大丈夫そうですね。基本的には人間と変わらないけどおむつは使わないから、下の世話の方法だけ後で教えます」
「お願いします。それじゃ、部屋の方ありがたくお借りしますね」
矢継ぎ早に質問と指示を飛ばすカカシに、イルカは言われた部屋の方に向かいながら答える。
与えられたのは庭に面した掃き出し窓と縁側のある南向きの部屋で、この家で一番良い場所なのではないかと思われた。リュックなどの私物を適当に置いて台所に行くと手を洗い、仔犬のイラストの描かれた缶を開けて哺乳びんにミルクを作り、温度を確かめる。それを持っていくと、カカシの見立て通りミルクが足りなかったのか、仔狼がきゅふきゅふと鼻を鳴らしながら空のびんを吸っていた。
「じゃあ交代ね」
カカシの隣に座ると、空のびんを取り上げながら仔狼を渡してきたので、慌てて新しい哺乳びんを口に差し込んでやる。
「人間の赤ん坊は仰向けだけど、犬はうつ伏せで飲ませるようにして。あとこの子かなり大きいから、姿勢が安定するように胡座かいた足の間に入れて保定してあげて……そう、そういう感じ」
イルカが座る姿勢を変えるとカカシが手早く仔狼の姿勢を整えてやり、仔狼は腿に前脚を乗せてミルクを飲み続けた。そして満腹になったのか哺乳びんから口を離すと、緩慢な動きの前脚でイルカの腿をぐいぐいと揉み始める。
「もう寝ちゃうかな? その前にミルク飲んだら、必ず濡らした手拭いで口周りを吹いてあげて。あと飲み残したミルクはとっておかないでね」
カカシはてきぱきと指示をすると濡らした手拭いを手渡し、イルカが脇に置いた哺乳びんを持って立ち上がって台所へ行ってしまった。仔狼の口周りはカカシの言った通りミルクでびしょ濡れだったので苦笑しながら拭いてやると、仔狼を抱えたまま縁側にごろりと大の字になった。仔狼はイルカの腕を枕にスピスピと寝息を立てている。確かに満腹になったようで、パンパンに膨らんだ腹を無防備に晒していた。
「お前、腹いっぱいで幸せそうだなぁ。そういやお前って呼ぶのも何だから名前も決めねぇと。名前を付けてもいいのか、後でカカシさんに聞いてみような」
アカデミーの生徒の誘拐事件から仔狼を引き取り、カカシの家での同居と慌しい一日だったが、ここでやっとひと息つけた気がする。
台所ではカカシが哺乳びんを洗っているのか、水音が聞こえてきた。
どこか懐かしいと思ったら、家庭の日常的な物音だ。家族が立てる、生活の音。
知らずしらず笑みを浮かべていたイルカは、ゆるりと瞼を閉じていた。そういえばカカシと何度か飲みに行ったことはあっても、あんなに喋ったのを聞いたのは初めてだなと思いながら。
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