【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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 それから数週間後。
 アカデミーの事件の報告会や防犯体制の見直し会議やミナミとフサの保護者への説明とフォロー、尋問部の聞き取り調査などに追われていたイルカも、ようやく一息つけるようになった。
 カカシの方は当代火影であるナルトに一任され、今回の誘拐事件の首謀者である数年前の抜け忍ではあるが元岩隠れの忍たちの扱いについて、岩隠れの里と水面下で調整中のようだ。事件の際にアカデミーの敷地外で待ち構えていた逃走補助員と隠れ家に潜んでいた頭領他の抜け忍たちも、急きょ編成したチームによって一網打尽にされていたので、捕らえた抜け忍はけっこうな人数となった。
 そしてカカシは同時にイビキのところにも通い続けていた。
 あの金髪の女の子に変化していた木ノ葉の抜け忍(未遂ではあるが)の若者が気にかかるらしく、尋問に立ち会ったり直接面談もしているようだ。
 久しぶりに早く帰れたからと二人で今年最後になるであろう鍋の支度をし、〆をラーメンか雑炊かうどんかで揉めている時に、イルカが何気なく尋ねる。
「そういえばスグル、あの子の処遇はどうなりました?」
 スグルとは誘拐事件で唯一木ノ葉側の忍だった、女の子に変化していた若者の本名だ。
「スグルね……とりあえずは忍の資格剥奪で再教育と経過観察になりそうだよ。もちろん監視付きだけどね。あとやっぱりうどんにしようよ。イルカももっと胃腸を労りなさい」
「そうですか……。極刑も覚悟してたから良かったです。カカシさんがいろいろ動いてくれたんでしょう? あとラーメンは十分優しいですよ、俺の胃腸には」
 ラーメンに関してだけは妥協を許さないイルカが、感謝の言葉のすぐ後にすげなくあしらう。
「俺の胃腸も労ってあげてよ、四つも上なんだから。それにね、イルカも気になってるかと思って」
 スグルは十七歳で、アカデミーの卒業生だった。
 イルカはその頃既に教頭の地位に就いていて直接の教え子ではなかったのだが、だからこそ気にかかっていたのだ。いったいどのような思考を経て、抜け忍になる道へと進んでしまったのか。
 スグルは木ノ葉で名だたる血継限界の家というほどではないが、体を軟体化できる蝸牛家の生まれだった。
 忍としては優秀で十六歳で上忍になっていたのに、血継限界の才能が見られなかったせいで一族からは認められていなかったのだという。カカシの拘束を抜け出せる程度の才があるなら十分と言えそうなものだが、なにせ血継限界の家系だ。そこは独自の基準があるのだろう。
 そしてそれこそが最強や勇名への歪んだ憧れを生み、一人の優秀な若者を反逆者へと追いやったのかもしれない。
「あの子もいろいろあったんだろうね。だからって今回の事は許されないけど」
 冷蔵庫からラーメンを持ってきたカカシは、カセットコンロのガスを点け直して麺を鍋に入れた。
 ぐつぐつと煮立つ鍋を二人はしばらく無言で見つめる。
 大戦のすぐ後に生まれたスグルのように、本格的な戦を知らない子供たちも増えた。
 平和の影には昔と変わらぬ陰謀、暗殺、小競り合い等の血生臭い現実もあるが、それでも泥水を啜り仲間の屍を踏み越えて生き延びるような任務は激減している。以前のように純粋な忍として生きるには、ある意味生きづらい世の中になったとも言えるだろう。
 鍋の中に何を見ているのか、切なげに見つめるイルカにカカシはとんすいにラーメンを取り分けてやりながら口を開いた。
「あのね、スグルにあの作文を渡したの。ちゃんと探せばこれも金庫に入ってたんだって、お前にはこれこそを見てほしかったって校長先生が言ってたよって。そしたら泣いちゃってね。それで更正の余地ありってことで再教育になったんだよ」
「……そうですか」
 とんすいを受け取ったイルカの目が見開かれ、短く返す語尾がひび割れる。
 事件の後、荒らされた校長室の片付けをしていたイルカは、金庫の中にしまってあった生徒の作文の束からスグルのものを見付け出した。
 それは将来の夢というタイトルで、『最強のヒーローになって里のみんなを守りたいです』という一文で締められていた。
 スグルはその一文を、その時の真っ直ぐな意志を思い出せたのだろうか。
 忍の資格は剥奪されても永久剥奪ではないので、再度試験を受けて下忍からやり直すことはできる。その意志があるならば。
 上忍だった者がその道を選ぶのは生半可な気持ちではできないが、スグルはその茨道を行くのではないか。カカシはそう感じていた。
「食べるか泣くか、どっちかにしなさいよ」
 ぐずぐずと鼻を啜りながらラーメンを啜り上げるイルカに、カカシが苦笑しながらたしなめる。
 その声には愛しさと甘やかさが含まれていた。
「どっちも我慢できないんですっ」
 イルカが子供のように口を尖らせて言い返す。
 外では敬意を払われる立派な校長であるイルカも、カカシの前ではただのうみのイルカでいられるのだ。
 確かにちょっと嫉妬深く独占欲の過ぎる時もあるが、唯一存分に甘えられる、優しくて包容力のあるカカシの恋人として。
「俺ね、イルカが校長先生で本当に良かったなぁって思ったよ」
 風呂上がりのうなじに緩く結ばれた髪を、カカシの伸ばした手が優しく撫でる。
 イルカはごしごしと目を擦るとニカッと笑った。
「先代火影様が俺を信じて、背中を押してくれたからですよ」
「先代は見る目があるねぇ」
「優しくて強くて、立派な火影様でしたからねぇ」
「じゃあその立派な先代に免じて、仕返しのことは忘れてくれる?」
 カカシの言葉に、イルカは三猿の前でキスをねだられたことを思い出したのか、ハッとした顔になった。
 しまった、薮蛇だったかと顔をしかめると、イルカがニヤリと悪戯っ子の笑みを返す。
「それは別の問題ですね」
「ちぇっ、でも今夜は抱くよ」
「それは……望むところです」
 鍋からぼわりと上がる湯気越しに二人の視線が絡み合う。
 それは自然と緩やかな笑みになり、ラーメンを啜るペースが僅かに早くなった。
 二人で食卓を囲み、二人でその日のことを語り合い、二人で同じベッドに潜り込む。
 幾度も幾度も、何年も何年も繰り返してきたそんな二人の日常がそこにはあった。



 だがカカシはまだ知らない。
 校長室の壁には、謎の似顔絵らしきものが額装されて飾られていることを。
 あの時スグルが手に取った上質な封筒に入れられていた絵は、イルカが四十歳の誕生日にカカシに描いてもらった似顔絵だった。
 万能に思われているカカシだが、唯一絵だけは苦手なのだ。
 長年それを巧妙に隠してきたのにイルカにだけはバレてしまい、しかも誕生日プレゼントにとねだられて弱点が形として残されてしまった。イルカが「カカシさんには俺がこう見えてるんですねぇ」とあまりにも嬉しそうにするので、取り返すことはしてこなかったが。
 いったいどこに隠し持っているのかと疑問を抱いてきたが、まさか校長室の金庫に大切にしまわれているなど思いもよらなかった。スグルと対峙した時に実はかなり動揺していたのは、カカシだけの秘密だ。
 それが今は堂々と校長室の壁に飾られている。
 立派な額に入れられ、机の正面から見える位置に。
 既に何人かに「これは誰の描いたものか」「こんな、あー、独創的な絵をなぜ飾っているのか」と聞かれているが、イルカは「ちょっと、な」と意味深に微笑むだけだ。この絵でカカシが笑われるのは本意ではない。いつかカカシがこれに気付いた時の動揺を想像して楽しんでいるだけだ。
 ただ、毎日カカシに内緒でこの絵を眺めているという事実に満足しつつもあるので、そのうちまた金庫に大切にしまうかもしれないとは思っている。
 仕返しはきっちりと。
 でもそこには溢れんばかりの愛がちゃんとあるのだ。
「こんなにダイナミックでいい感じに描くのになぁ。絵が苦手と思ってるなんて可愛すぎだろ」
 カカシが嫌々ながらも必死に描いてくれた絵を事務作業の合間に眺めては、一人含み笑うイルカだった。





  【完】