【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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春は出会いと別れの季節だ。
そしてイルカのようなアカデミー教師にとっては、里外任務に出る時期でもある。
生徒に忍術を教え導く者が忍術で後れを取ることなどあってはならないので、春、夏、冬休み期間は普段内勤ばかりの教師たちが勘を取り戻すため、順繰りに里外の任務に出ることを義務付けられているのだ。
とは言えアカデミー本来の業務に支障が出ても困るので、大抵は戦場への物資輸送など近場に数日以内のものばかりだ。
任務依頼書は、アカデミーの教員室で一斉に渡される。イルカに渡されたのは湯の国の任務だった。
湯の国といえば温泉だ。
イルカが温泉好きなのは受付の方の同僚も知っているので、気を利かせて回してくれたらしい。
ただ湯の国は遠いので、条件に脚力に自信のある者とあったから、イルカが選ばれたのはそのおかげもあったのだろう。戦忍時代は足の速さを買われ、伝令代わりに使われたことも多かった。
任務内容は上忍の補助で、『温泉施設の補修 要土遁・水遁・結界術』となっていたから、屋内ではなく露天風呂の方に問題が起きたのかもしれない。それなら大がかりな土木工事を組むより、上忍一人プラス中忍で済むなら結果的に短期で低コストだ。
任務依頼書を丁寧に読み進めていたイルカは、最下段の担当上忍の氏名を見ると奇声を上げ、思わず依頼書を握りつぶしてしまった。
「はたっ⁈ かっかか……っ」
「何だよイルカ、顔真っ赤だけど大丈夫か?」
「閣下? 王族の護衛でも当たったか」
両隣の同僚に心配と不審の目を向けられたイルカは、大きく咳払いをしてから「大丈夫だ、問題ない」と返す。
そして依頼書を広げてもう一度、担当上忍の名をしっかり見返した。
さすが配慮にかけては並ぶ者無しと言われる受付だけのことはある。
その欄に書かれていた名前は、イルカが受付で散々口説かれて付き合いだしたばかりの上忍──はたけカカシだった。
休憩を挟みつつ半日ほど駆け続けた森を抜けると、イルカは霧の漂う河原に出た。
依頼書に書かれていた略図と座標からすると、この河原も依頼元の温泉施設の一部ということなので、無事予定時間内の夕刻に到着できたようだ。
長期休みごとの里外任務なので脚力も落ちてるだろうと予想していたが、かなり余裕を持って着いたので、心配していたほどではなかったと安堵しながら、川向うに見える本館の従業員用出入り口を目指してだんだん濃くなる硫黄臭の中を歩き出す。
川を渡る橋が見当たらなかったので、底の見える浅い川なら裾をまくって渡るかチャクラを使って水上を歩くか迷って向こう岸を見た。
川幅はだいたい三十メートル程だろうか。
チャクラ無しでひとっ跳びに渡れる距離でもなく、任務前に余計なチャクラを使うのもなぁと水面を覗き込んだ。
途端にボワッと水蒸気がイルカの顔を覆う。
どうやら霧だと思っていたものは湯気だったらしい。
「この川も天翠荘の温泉なんだって。露天風呂だけど、さすがにここだけは水着を着て入るみたいよ」
「カカシさん……いや、はたけ隊長!」
音もなく隣に立ったのは、別の任地から直接先行していたカカシだった。
支給服に汚れや濡れた部分もなく綺麗なところを見ると、チャクラを使って渡ってきたか森の方にいたのか。
「んー、今回はツーマンセルだし、カカシでいいよ」
「いえ、隊規が乱れるのでそういう訳にはいきません」
「二人っきりなのに……真面目だねぇ」
ふふっと笑った吐息が口布越しに伝わってくる気がして、イルカは慌てて姿勢を正して直立した。
「融通が利かなくてすみません」
「なぁに言ってるの。そういうとこがイルカ先生らしくて良いんでしょ。ということで……はい、乗って」
カカシが背を見せてイルカの前にしゃがんだ。
先ほど川を前にして、渡り方で迷っているのを見られたのだろう。上官がわざわざ部下をおぶって渡ってやるという異様な状況に、イルカは焦って後ずさった。
「そんな、上忍におぶっていただくなんて!」
「依頼者の女将さんのご厚意で、任務期間中は旅館の部屋を貸してくれるのよ。そこ汚すわけにはいかないから、ね?」
「……っ、そういう事でしたか。では、失礼して」
今回は里外への数日間の任務ということで、戦闘ではなくとも背嚢を背負ってきている。
それごと背負ってもらうので遠慮が先立って、カカシの肩に両手を置いてカーキ色のベストの背中にそうっと重なるように体を預けると、まるでイルカの体重を感じさせないようなスムーズな動きで立ち上がった。
「軽く跳ぶから、もっとしっかりしがみついて」
「ハイッ、すみません!」
子供のようにぎゅっとしがみつくと、カカシの髪が頬に当たる。
とたんに数日前の夜、同じようにカカシにしがみついたことを思い出して、イルカは小さく息を呑んだ。
──あの時はカカシさんの背ではなく向かい合わせで。
お互いの肌がすごく……熱かった。
とんでもない連想をしてしまったイルカが内心で叫んでいる間に、カカシがいったん川べりから数メートルほど遠ざかる。
背負われたイルカが背中越しに滑らかなチャクラの流れを感じると、カカシが川に向かって駆け出し、川べりで大きくジャンプした。
「うわぁっ」
ふわっと浮いて、放物線を描きながら緩やかに落ちていって。
水面にチャクラで足場を作ったのか、トンっと蹴上げる。
そしてまた、ふわっと。
次に降りたのは、反対側の川べりだった。
「はい、到着っと。せっかくだからこのまま旅館まで行っちゃおうか」
「え、うわぁぁ」
とてもじゃないが途中で降りられるようなスピードじゃないまま駆けられ、あっという間に天翠荘従業員出入り口と書かれたドアの前に着く。
イルカがぎゅっとしがみついていた両腕を解いてカカシの背から下りると、「もう着いちゃった。ざ〜んねん」と茶目っ気のある柔らかな笑みで振り返った。
「あの、ありがとうございました」
「いいえ〜、役得、役得」
「今の超すげぇおんぶダッシュ、超すげぇな!」
突然子供の声が割り込んできて、慌てたイルカがカカシの背後からパッと飛び退くと、出入り口の隣に置かれた物置の陰からアカデミーの低学年くらいの男の子が顔を出した。
「よく見えなかったけど、すげぇスピードだったな! オレも乗ってみてぇ! お前たちってもしかして忍者? そういや、ツ……女将が木ノ葉から忍者が来るって言ってたけど、へぇ~っ」
男の子は好奇心全開で物置の陰から出てくると、なぜかカカシの方は見ないでイルカの方に寄ってた。
「でっかいリュックだなぁ! そこにでっかい手裏剣とか隠してんの? あれは? ゴォーって火を吹くやつやってよ! あっ、これがクナイってやつ? かっけぇ!」
無邪気に興奮した男の子の手がイルカの腿のホルスターに伸びてきたので、さり気なく避けるようにしゃがんで男の子と目を合わせた。
「こんにちは、俺たちは木ノ葉から来た忍者だ。俺はイルカ、あちらがカカシさんだ。今日からお世話になるから、よろしくな」
「お、おう。オレはトビヲ」
「トビヲ、女将さんに仕事のご挨拶をしたいんだが、来たばっかりで旅館の中はさっぱり分からないんだ。俺たちを連れてってくれるかな」
「おう、任せとけ! 迷子にならねぇように、ちゃんとついてこいよ」
トビヲは大人に頼られたのが嬉しかったらしく、意気揚々と出入り口を開けて駆け出す。
イルカはカカシと顔を見合わせて苦笑すると、トビヲに続いた。
狭い廊下を何度か曲がると、トビヲは灰色の無機質なドアの前で止まって振り返った。
「ほら、ここ。女将はこの中だ」
「ありがとな、トビヲ」
イルカが礼を言うと、トビヲは「イルカ兄ちゃん、またな!」と来た道を駆け戻っていってしまった。
女将と呼び捨てにするところをみると息子だろうか。仕事中は入らないように躾けられているのかもしれないと、その小さな背中を見送りつつカカシに先を譲る。
頷いたカカシは軽くノックをすると、中から女性の落ち着いた声が届いた。
「どうぞ」
「失礼、私ら木ノ葉の者ですけどね」
「失礼いたします。此度は木ノ葉にご依頼頂きありがとうございました」
口々に挨拶を述べながら入室すると、机に向かっていた和服姿の女性が立ち上がった。
「あらあら、もういらしていただけたの。木ノ葉さんは本当に早いのねぇ。えーと依頼書はこの棚だったかしら。よっこらしょっと、いたたた。今ちょっと四十肩でごめんなさいねぇ。年齢的には五十肩に近いんだけど、言ったもん勝ちってね。どうぞ遠慮なさらないで、こちらにおかけになって。よくこの部屋がお分かりになったわね。古い旅館だから増築増築で入り組んでて分かりにくかったでしょう。お若い方はお茶よりコーヒーがいいかしら。さぁ、どうぞ」
ふっくらとした容貌の優しげな女将は天乃ツツジと名乗り、マシンガントークを炸裂させながら手早くコーヒーと温泉まんじゅうを二人の前に並べた。
トビヲの母親にしてはやや年嵩かとイルカが訝しんで隣にそっと目をやると、カカシは女将の勢いに呑まれたように固まっていたので、イルカが先鋒を担当しようとにっこりと笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、いただきます。こちらのお部屋には息子さんがご案内してくださいました。四十肩でお辛いでしょうが、あんなにしっかりしたお子さんがいらっしゃるなら安心ですね」
すると女将はちょっと笑顔に届かないような微妙な表情になってから、すぐに笑い声を上げた。
「息子があなた方みたいなしっかりした大人だったら、あたしも安心できるんですけどねぇ」
「私は里で教師もしているのですが、男の子であれくらい応対できるなら十分素晴らしいですよ。ところで道々拝見させていただきましたが、こちらの旅館は歴史を感じさせて、とても立派な造りでいらっしゃいますね。でも先日の嵐で倒木があって、せっかくの風光明媚な露天風呂の営業停止を余儀なくされてるとお伺いいたしました。具体的にどちらで支障が出ているのか教えていただけますか」
場が雑談に流れないよう、さり気なく依頼の話題に触れると、その意を汲んだカカシが懐から出した手描きの地図を広げて話を引き取った。
別の任務先から先行していたカカシは、どうやらイルカと会う前に現場の様子を一通りチェックしていたらしい。
そこからイルカは聞き役に徹し、作業内容とスケジュールの確認が済むと二人で女将の前を辞した。
下働きの逆木という初老の男の案内で二階の客室に通されると、荷物を置いたイルカはすっかり暗くなった窓の外を見下ろす。
「さっきの河原も天翠荘の露天風呂だったんですね。いいなぁ」
「あの川をもう少し下ると滝があって、温泉に入りながら眺められるんだって。今日はもう宿泊客に迷惑だから作業はできないけど、ちょっと下見がてら見に行ってみようか」
「はい!」
カカシの提案は明日からの本格的な作業を前に、現場を把握して作業フローを確認しておこうということだろう。
二人は忍服のまま従業員出入り口を出て、硫黄の匂いの漂う薄暗い中を先ほどの河原まで戻り、並んで川べりを下っていった。
すると川が二股に分かれる地点を横切るように、大小の樹木が二本重なって倒れている。
イルカは倒木が塞いでいるそれぞれの流れの先に目を向けた。
「ここが一ヶ所目ね。その先は滝エリアと洞窟エリアなんだけど、この倒木のせいで温泉が濁ってるし洞窟エリアに流れる湯量が減ってるから、これをどかして処分までを明日中にやりたいかな」
忍の目には暗がりでも問題なく見えるので、イルカは倒木の周囲の川底を見て回る。
「すると俺は、はたけ上忍が倒木をどかす際に結界を張って周囲が荒れないようにするのと、どかした後に水流を整えればいいですか」
「そういうこと。組む相手が優秀だと、ほんと助かるね」
カカシがストレートに称賛してにこりと笑顔を返すので、イルカは「いやそんな……」などと口ごもった。
付き合っている相手への気遣いかもしれないが、上官に褒められるのは素直に嬉しい。もっと褒められたいと欲が出た訳ではないが、現場の様子をしっかり頭に入れておきたくて、洞窟エリアの中も見に行きたいと進言した。
カカシが軽く頷いて了承したので、倒木から離れて洞窟に向かう。
湯量が減っているとのことだが、それでも洞窟内にはたっぷりと流れ込んでいて、チャクラで水面に立つには途中の天井が低すぎた。このままだと濡れてしまうと二人は脚絆を外し、ズボンの裾を巻き上げ素足で湯に入る。
膝上まででも、さすがは温泉。
駆け続けてきた脚を、さらりとした湯が癒やすように包み込んだ。
「うお……おおお、あったけぇ……っ! あ、失礼しましたっ」
大好きな温泉に図らずも入ったことで、つい油断しきった声を上げてしまったが、そんなイルカにカカシは鷹揚に微笑んだ。
「温泉なんて任務じゃない時に来たいよねぇ」
「そうですよね、いつか一緒に来られたらいいですね」
並んで湯をザブザブとかき分けるように進むと、洞窟の奥は壁の松明に模したライトでほんのり明るくなっていた。
そして突き当たり正面には等身大の白い観音像が、ぼんやりと浮かび上がっている。
「子宝の湯、だって。へぇ~、五大国各地から子宝祈願に訪れる由緒正しい名湯で、この洞窟は子宮をイメージしてるらしいよ。なかなかの雰囲気だよね。鬼子……は何だろう。鬼でも子が授かるとか?」
カカシが観音像の足元に掲げられた石版に彫られた、ところどころ消えかけている文字を読んだようだ。
洞窟をそのまま掘り抜いたような岩だらけの温泉、薄暗い中に浮かび上がる白い石像と、確かに霊験あらたかな湯という雰囲気たっぷりだ。
「こんなに優しげな観音様なら、願いを叶えてくれそうですもんね。畑違いだけど、作業が無事終わるようお願いしておきましょうか」
イルカはザブザブと足を進め、観音像の前に立って手を合わせた。
目を開けて振り返ると、カカシが怪訝な顔つきで石像を見つめている。イルカの視線を感じたのか、取り繕うような笑みを浮かべて「もう出ようか」と背を向けた。
「次は滝の方に行ってみようか。あっちは倒木はないんだけど、折れた枝やら落ち葉やらでとても温泉に入れるような状況じゃないんだよね」
洞窟を出てさらに川を下っていこうとすると、イルカは洞窟の方に駆けていく人影を見かけた。
「イルカ先生、どうしたの?」
「あ、いえ。トビヲが今、洞窟に入っていったように見えて」
「ふうん? まさか子宝祈願じゃないだろうしね」
「女将さんに何か頼まれたのかもしれませんね。でもこんな時間に危ないなぁ」
イルカが気にしているせいか、カカシは短毛種で脚の長い忍犬を口寄せすると洞窟を見てくるように命じて、二人で滝エリアに向かった。
湯の川が流れ着いた先は緑に囲まれた池のようになっていて、そこに滝が幾本も飛沫を上げて落ちている。畔にはデッキチェアや籐のソファーベッドなども置かれ、のんびり寛ぐのに最高の環境だ。
滝は湯ではなく別の流れからの水なので、ここのエリアは厳密には温泉ではないのだが、確かにこの滝を眺めながらぬるま湯に浸かるのは癒されそうだ。
だがその水面はカカシの言った通り、大小問わず折れた枝や青いままの落ち葉で埋まっており、こちらも大掛かりな片付けが必要だろう。
「上流の倒木を片したら、堰き止められていた土砂や細かい枝がここにも流れてくるでしょうね」
「うん、だからこっちはあさって。さてと、下見はこれくらいにして戻ろうか」
旅館に向かう二人の元に、びしょ濡れになった忍犬が駆けてきた。
「洞窟の中にも外にも誰もいなかったよ」
「そっか、じゃあ大丈夫かな。ウーヘイ、おつかれさま」
「トビヲもあの後すぐ旅館に帰ったのかも。ごめんな」
「違う。誰もいなかった。カカシたちの匂いしかしなかったよ」
ウーヘイの言葉で二人は顔を見合わせた。
見間違いだったと言えれば良かったのだが、イルカは確かに見たのだ。トビヲが奥を覗いながら、洞窟に入っていったところを。
だがカカシの忍犬が、忍でもないただの子供相手に、よりにもよって匂いを感知ミスするはずがない。湯に入って匂いが途切れたとしても、その手前にも匂いが残ってないなどということはあり得ないだろう。
風遁でウーヘイを乾かしてやってから帰らせ、念のため二人で洞窟に戻ったが、やはりトビヲはいなかった。
そしてイルカのようなアカデミー教師にとっては、里外任務に出る時期でもある。
生徒に忍術を教え導く者が忍術で後れを取ることなどあってはならないので、春、夏、冬休み期間は普段内勤ばかりの教師たちが勘を取り戻すため、順繰りに里外の任務に出ることを義務付けられているのだ。
とは言えアカデミー本来の業務に支障が出ても困るので、大抵は戦場への物資輸送など近場に数日以内のものばかりだ。
任務依頼書は、アカデミーの教員室で一斉に渡される。イルカに渡されたのは湯の国の任務だった。
湯の国といえば温泉だ。
イルカが温泉好きなのは受付の方の同僚も知っているので、気を利かせて回してくれたらしい。
ただ湯の国は遠いので、条件に脚力に自信のある者とあったから、イルカが選ばれたのはそのおかげもあったのだろう。戦忍時代は足の速さを買われ、伝令代わりに使われたことも多かった。
任務内容は上忍の補助で、『温泉施設の補修 要土遁・水遁・結界術』となっていたから、屋内ではなく露天風呂の方に問題が起きたのかもしれない。それなら大がかりな土木工事を組むより、上忍一人プラス中忍で済むなら結果的に短期で低コストだ。
任務依頼書を丁寧に読み進めていたイルカは、最下段の担当上忍の氏名を見ると奇声を上げ、思わず依頼書を握りつぶしてしまった。
「はたっ⁈ かっかか……っ」
「何だよイルカ、顔真っ赤だけど大丈夫か?」
「閣下? 王族の護衛でも当たったか」
両隣の同僚に心配と不審の目を向けられたイルカは、大きく咳払いをしてから「大丈夫だ、問題ない」と返す。
そして依頼書を広げてもう一度、担当上忍の名をしっかり見返した。
さすが配慮にかけては並ぶ者無しと言われる受付だけのことはある。
その欄に書かれていた名前は、イルカが受付で散々口説かれて付き合いだしたばかりの上忍──はたけカカシだった。
休憩を挟みつつ半日ほど駆け続けた森を抜けると、イルカは霧の漂う河原に出た。
依頼書に書かれていた略図と座標からすると、この河原も依頼元の温泉施設の一部ということなので、無事予定時間内の夕刻に到着できたようだ。
長期休みごとの里外任務なので脚力も落ちてるだろうと予想していたが、かなり余裕を持って着いたので、心配していたほどではなかったと安堵しながら、川向うに見える本館の従業員用出入り口を目指してだんだん濃くなる硫黄臭の中を歩き出す。
川を渡る橋が見当たらなかったので、底の見える浅い川なら裾をまくって渡るかチャクラを使って水上を歩くか迷って向こう岸を見た。
川幅はだいたい三十メートル程だろうか。
チャクラ無しでひとっ跳びに渡れる距離でもなく、任務前に余計なチャクラを使うのもなぁと水面を覗き込んだ。
途端にボワッと水蒸気がイルカの顔を覆う。
どうやら霧だと思っていたものは湯気だったらしい。
「この川も天翠荘の温泉なんだって。露天風呂だけど、さすがにここだけは水着を着て入るみたいよ」
「カカシさん……いや、はたけ隊長!」
音もなく隣に立ったのは、別の任地から直接先行していたカカシだった。
支給服に汚れや濡れた部分もなく綺麗なところを見ると、チャクラを使って渡ってきたか森の方にいたのか。
「んー、今回はツーマンセルだし、カカシでいいよ」
「いえ、隊規が乱れるのでそういう訳にはいきません」
「二人っきりなのに……真面目だねぇ」
ふふっと笑った吐息が口布越しに伝わってくる気がして、イルカは慌てて姿勢を正して直立した。
「融通が利かなくてすみません」
「なぁに言ってるの。そういうとこがイルカ先生らしくて良いんでしょ。ということで……はい、乗って」
カカシが背を見せてイルカの前にしゃがんだ。
先ほど川を前にして、渡り方で迷っているのを見られたのだろう。上官がわざわざ部下をおぶって渡ってやるという異様な状況に、イルカは焦って後ずさった。
「そんな、上忍におぶっていただくなんて!」
「依頼者の女将さんのご厚意で、任務期間中は旅館の部屋を貸してくれるのよ。そこ汚すわけにはいかないから、ね?」
「……っ、そういう事でしたか。では、失礼して」
今回は里外への数日間の任務ということで、戦闘ではなくとも背嚢を背負ってきている。
それごと背負ってもらうので遠慮が先立って、カカシの肩に両手を置いてカーキ色のベストの背中にそうっと重なるように体を預けると、まるでイルカの体重を感じさせないようなスムーズな動きで立ち上がった。
「軽く跳ぶから、もっとしっかりしがみついて」
「ハイッ、すみません!」
子供のようにぎゅっとしがみつくと、カカシの髪が頬に当たる。
とたんに数日前の夜、同じようにカカシにしがみついたことを思い出して、イルカは小さく息を呑んだ。
──あの時はカカシさんの背ではなく向かい合わせで。
お互いの肌がすごく……熱かった。
とんでもない連想をしてしまったイルカが内心で叫んでいる間に、カカシがいったん川べりから数メートルほど遠ざかる。
背負われたイルカが背中越しに滑らかなチャクラの流れを感じると、カカシが川に向かって駆け出し、川べりで大きくジャンプした。
「うわぁっ」
ふわっと浮いて、放物線を描きながら緩やかに落ちていって。
水面にチャクラで足場を作ったのか、トンっと蹴上げる。
そしてまた、ふわっと。
次に降りたのは、反対側の川べりだった。
「はい、到着っと。せっかくだからこのまま旅館まで行っちゃおうか」
「え、うわぁぁ」
とてもじゃないが途中で降りられるようなスピードじゃないまま駆けられ、あっという間に天翠荘従業員出入り口と書かれたドアの前に着く。
イルカがぎゅっとしがみついていた両腕を解いてカカシの背から下りると、「もう着いちゃった。ざ〜んねん」と茶目っ気のある柔らかな笑みで振り返った。
「あの、ありがとうございました」
「いいえ〜、役得、役得」
「今の超すげぇおんぶダッシュ、超すげぇな!」
突然子供の声が割り込んできて、慌てたイルカがカカシの背後からパッと飛び退くと、出入り口の隣に置かれた物置の陰からアカデミーの低学年くらいの男の子が顔を出した。
「よく見えなかったけど、すげぇスピードだったな! オレも乗ってみてぇ! お前たちってもしかして忍者? そういや、ツ……女将が木ノ葉から忍者が来るって言ってたけど、へぇ~っ」
男の子は好奇心全開で物置の陰から出てくると、なぜかカカシの方は見ないでイルカの方に寄ってた。
「でっかいリュックだなぁ! そこにでっかい手裏剣とか隠してんの? あれは? ゴォーって火を吹くやつやってよ! あっ、これがクナイってやつ? かっけぇ!」
無邪気に興奮した男の子の手がイルカの腿のホルスターに伸びてきたので、さり気なく避けるようにしゃがんで男の子と目を合わせた。
「こんにちは、俺たちは木ノ葉から来た忍者だ。俺はイルカ、あちらがカカシさんだ。今日からお世話になるから、よろしくな」
「お、おう。オレはトビヲ」
「トビヲ、女将さんに仕事のご挨拶をしたいんだが、来たばっかりで旅館の中はさっぱり分からないんだ。俺たちを連れてってくれるかな」
「おう、任せとけ! 迷子にならねぇように、ちゃんとついてこいよ」
トビヲは大人に頼られたのが嬉しかったらしく、意気揚々と出入り口を開けて駆け出す。
イルカはカカシと顔を見合わせて苦笑すると、トビヲに続いた。
狭い廊下を何度か曲がると、トビヲは灰色の無機質なドアの前で止まって振り返った。
「ほら、ここ。女将はこの中だ」
「ありがとな、トビヲ」
イルカが礼を言うと、トビヲは「イルカ兄ちゃん、またな!」と来た道を駆け戻っていってしまった。
女将と呼び捨てにするところをみると息子だろうか。仕事中は入らないように躾けられているのかもしれないと、その小さな背中を見送りつつカカシに先を譲る。
頷いたカカシは軽くノックをすると、中から女性の落ち着いた声が届いた。
「どうぞ」
「失礼、私ら木ノ葉の者ですけどね」
「失礼いたします。此度は木ノ葉にご依頼頂きありがとうございました」
口々に挨拶を述べながら入室すると、机に向かっていた和服姿の女性が立ち上がった。
「あらあら、もういらしていただけたの。木ノ葉さんは本当に早いのねぇ。えーと依頼書はこの棚だったかしら。よっこらしょっと、いたたた。今ちょっと四十肩でごめんなさいねぇ。年齢的には五十肩に近いんだけど、言ったもん勝ちってね。どうぞ遠慮なさらないで、こちらにおかけになって。よくこの部屋がお分かりになったわね。古い旅館だから増築増築で入り組んでて分かりにくかったでしょう。お若い方はお茶よりコーヒーがいいかしら。さぁ、どうぞ」
ふっくらとした容貌の優しげな女将は天乃ツツジと名乗り、マシンガントークを炸裂させながら手早くコーヒーと温泉まんじゅうを二人の前に並べた。
トビヲの母親にしてはやや年嵩かとイルカが訝しんで隣にそっと目をやると、カカシは女将の勢いに呑まれたように固まっていたので、イルカが先鋒を担当しようとにっこりと笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、いただきます。こちらのお部屋には息子さんがご案内してくださいました。四十肩でお辛いでしょうが、あんなにしっかりしたお子さんがいらっしゃるなら安心ですね」
すると女将はちょっと笑顔に届かないような微妙な表情になってから、すぐに笑い声を上げた。
「息子があなた方みたいなしっかりした大人だったら、あたしも安心できるんですけどねぇ」
「私は里で教師もしているのですが、男の子であれくらい応対できるなら十分素晴らしいですよ。ところで道々拝見させていただきましたが、こちらの旅館は歴史を感じさせて、とても立派な造りでいらっしゃいますね。でも先日の嵐で倒木があって、せっかくの風光明媚な露天風呂の営業停止を余儀なくされてるとお伺いいたしました。具体的にどちらで支障が出ているのか教えていただけますか」
場が雑談に流れないよう、さり気なく依頼の話題に触れると、その意を汲んだカカシが懐から出した手描きの地図を広げて話を引き取った。
別の任務先から先行していたカカシは、どうやらイルカと会う前に現場の様子を一通りチェックしていたらしい。
そこからイルカは聞き役に徹し、作業内容とスケジュールの確認が済むと二人で女将の前を辞した。
下働きの逆木という初老の男の案内で二階の客室に通されると、荷物を置いたイルカはすっかり暗くなった窓の外を見下ろす。
「さっきの河原も天翠荘の露天風呂だったんですね。いいなぁ」
「あの川をもう少し下ると滝があって、温泉に入りながら眺められるんだって。今日はもう宿泊客に迷惑だから作業はできないけど、ちょっと下見がてら見に行ってみようか」
「はい!」
カカシの提案は明日からの本格的な作業を前に、現場を把握して作業フローを確認しておこうということだろう。
二人は忍服のまま従業員出入り口を出て、硫黄の匂いの漂う薄暗い中を先ほどの河原まで戻り、並んで川べりを下っていった。
すると川が二股に分かれる地点を横切るように、大小の樹木が二本重なって倒れている。
イルカは倒木が塞いでいるそれぞれの流れの先に目を向けた。
「ここが一ヶ所目ね。その先は滝エリアと洞窟エリアなんだけど、この倒木のせいで温泉が濁ってるし洞窟エリアに流れる湯量が減ってるから、これをどかして処分までを明日中にやりたいかな」
忍の目には暗がりでも問題なく見えるので、イルカは倒木の周囲の川底を見て回る。
「すると俺は、はたけ上忍が倒木をどかす際に結界を張って周囲が荒れないようにするのと、どかした後に水流を整えればいいですか」
「そういうこと。組む相手が優秀だと、ほんと助かるね」
カカシがストレートに称賛してにこりと笑顔を返すので、イルカは「いやそんな……」などと口ごもった。
付き合っている相手への気遣いかもしれないが、上官に褒められるのは素直に嬉しい。もっと褒められたいと欲が出た訳ではないが、現場の様子をしっかり頭に入れておきたくて、洞窟エリアの中も見に行きたいと進言した。
カカシが軽く頷いて了承したので、倒木から離れて洞窟に向かう。
湯量が減っているとのことだが、それでも洞窟内にはたっぷりと流れ込んでいて、チャクラで水面に立つには途中の天井が低すぎた。このままだと濡れてしまうと二人は脚絆を外し、ズボンの裾を巻き上げ素足で湯に入る。
膝上まででも、さすがは温泉。
駆け続けてきた脚を、さらりとした湯が癒やすように包み込んだ。
「うお……おおお、あったけぇ……っ! あ、失礼しましたっ」
大好きな温泉に図らずも入ったことで、つい油断しきった声を上げてしまったが、そんなイルカにカカシは鷹揚に微笑んだ。
「温泉なんて任務じゃない時に来たいよねぇ」
「そうですよね、いつか一緒に来られたらいいですね」
並んで湯をザブザブとかき分けるように進むと、洞窟の奥は壁の松明に模したライトでほんのり明るくなっていた。
そして突き当たり正面には等身大の白い観音像が、ぼんやりと浮かび上がっている。
「子宝の湯、だって。へぇ~、五大国各地から子宝祈願に訪れる由緒正しい名湯で、この洞窟は子宮をイメージしてるらしいよ。なかなかの雰囲気だよね。鬼子……は何だろう。鬼でも子が授かるとか?」
カカシが観音像の足元に掲げられた石版に彫られた、ところどころ消えかけている文字を読んだようだ。
洞窟をそのまま掘り抜いたような岩だらけの温泉、薄暗い中に浮かび上がる白い石像と、確かに霊験あらたかな湯という雰囲気たっぷりだ。
「こんなに優しげな観音様なら、願いを叶えてくれそうですもんね。畑違いだけど、作業が無事終わるようお願いしておきましょうか」
イルカはザブザブと足を進め、観音像の前に立って手を合わせた。
目を開けて振り返ると、カカシが怪訝な顔つきで石像を見つめている。イルカの視線を感じたのか、取り繕うような笑みを浮かべて「もう出ようか」と背を向けた。
「次は滝の方に行ってみようか。あっちは倒木はないんだけど、折れた枝やら落ち葉やらでとても温泉に入れるような状況じゃないんだよね」
洞窟を出てさらに川を下っていこうとすると、イルカは洞窟の方に駆けていく人影を見かけた。
「イルカ先生、どうしたの?」
「あ、いえ。トビヲが今、洞窟に入っていったように見えて」
「ふうん? まさか子宝祈願じゃないだろうしね」
「女将さんに何か頼まれたのかもしれませんね。でもこんな時間に危ないなぁ」
イルカが気にしているせいか、カカシは短毛種で脚の長い忍犬を口寄せすると洞窟を見てくるように命じて、二人で滝エリアに向かった。
湯の川が流れ着いた先は緑に囲まれた池のようになっていて、そこに滝が幾本も飛沫を上げて落ちている。畔にはデッキチェアや籐のソファーベッドなども置かれ、のんびり寛ぐのに最高の環境だ。
滝は湯ではなく別の流れからの水なので、ここのエリアは厳密には温泉ではないのだが、確かにこの滝を眺めながらぬるま湯に浸かるのは癒されそうだ。
だがその水面はカカシの言った通り、大小問わず折れた枝や青いままの落ち葉で埋まっており、こちらも大掛かりな片付けが必要だろう。
「上流の倒木を片したら、堰き止められていた土砂や細かい枝がここにも流れてくるでしょうね」
「うん、だからこっちはあさって。さてと、下見はこれくらいにして戻ろうか」
旅館に向かう二人の元に、びしょ濡れになった忍犬が駆けてきた。
「洞窟の中にも外にも誰もいなかったよ」
「そっか、じゃあ大丈夫かな。ウーヘイ、おつかれさま」
「トビヲもあの後すぐ旅館に帰ったのかも。ごめんな」
「違う。誰もいなかった。カカシたちの匂いしかしなかったよ」
ウーヘイの言葉で二人は顔を見合わせた。
見間違いだったと言えれば良かったのだが、イルカは確かに見たのだ。トビヲが奥を覗いながら、洞窟に入っていったところを。
だがカカシの忍犬が、忍でもないただの子供相手に、よりにもよって匂いを感知ミスするはずがない。湯に入って匂いが途切れたとしても、その手前にも匂いが残ってないなどということはあり得ないだろう。
風遁でウーヘイを乾かしてやってから帰らせ、念のため二人で洞窟に戻ったが、やはりトビヲはいなかった。