【Caution!】

全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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ふと目が覚めると、イルカは二人に宛てがわれた旅館の部屋で布団に寝かされていた。
体を起こすとあちこちに痛みが走り、重怠い。
着ていたはずの忍服は浴衣に変わって体は綺麗に清められ、両膝には治療の痕があって湿潤シートが貼られていた。
その怪我の原因となった行為を思い出して赤面するが、すぐに血の気が引く。
洞窟でのカカシは明らかにおかしかった。
任務中なのに強引にイルカを抱き、子を授かろうだの孕むだのと言っていた。
子宝の湯の、鬼子母神の前で。
あれからぐったりしたイルカと更に行為を続け、その後は血と体液で汚れた岩場を水遁で洗い流し、結界を解術して湯を流し入れていた。
イルカはカカシに抱えられながらただぼんやり意識の端で認識しただけだったが、その間もずっと穏やかな笑みを浮かべながら呟いていた。

『イルカ先生の子供』について。

そういえば、と部屋を見渡したがカカシの姿も気配もない。
まだ河原と滝の方の片付けは終わってないので、外にいるのだろうか。とにかくいったん話をしなくては、と起き上がる。
忍服一式が見当たらないので、浴衣姿のまま部屋を飛び出そうとして、若い男と出会い頭にぶつかりそうになった。

「うわ、すみません!」
「こちらこそ失礼しました。木ノ葉の忍者さんですよね? お夜食のことをお伺いに参りましたが、お出かけでしょうか」

よく見ると若者は襟の付いた白衣に和帽子をかぶっていて、天翠荘の料理人のようだった。
夜食のことを尋ねるということは、眠っている間に日も落ちていたらしい。

「すみません、上官に聞いてみないと。今ちょうど探しに行くところで……」
「上官って銀髪の? あの方なら先ほど鬼子母神に関する資料を探しておられたそうで。母から頼まれて来歴などお話いたしましたら、またお出かけされましたよ」
「母……と仰ると」
「あぁ、申し遅れましたが私、天乃アユヲと申します。この度は当旅館の依頼をお受けくださってありがとうございます」
「いえ、こちらこそ木ノ葉にご依頼ありがとうございました。すると、アユヲさんはトビヲ君のお兄様でいらっしゃるんですね」

トビヲの名が出るとアユヲの笑みが薄れ、怪訝そうにイルカを見返した。

「確かにトビヲは身内ですが……私ではなく母の兄で、もう四十年以上前に事故で他界しております。あの、失礼ながら忍者さんは伯父の名をどこで……?」




イルカはアユヲから話を聞いた後、浴衣のまま天翠荘の従業員出入り口から飛び出して河原を駆けた。
女将の兄であるトビヲは小学生の時、一人で河川風呂に遊びに出て帰らぬ人となったという。
女将はまだ小さくてよく覚えてなかったが、当時も同じように嵐で増水していて、露天風呂は営業停止になっていたそうだ。不幸な事故は従業員一同が片付けなどで多忙になっていて、目が届かなくなっていたせいだろう。
事故が起きた為に露天風呂は一年間の営業自粛をしていたらしい。その間にたまたま湯治に来ていた元忍の助言で川幅を広げる工事をして、その縁で嵐の後の片付けは近隣の隠れ里に外注するようになったのだという。

だが、それとカカシの豹変と何の関係があるのか。

トビヲのことは悲しい事故だが、そこに子供を授かる話は関わってこない。
それに夢だと追いやってしまった、昨夜トビヲがカカシの胸の上に乗っていたこと。
あれはやはり、この世の者ではなかったからこそできたのだろう。
イルカはともかく、歴戦の戦忍である上忍のカカシが室内の子供の気配で目覚めないはずがないのだ。
鬼子母神について聞いていたのは、カカシ自身の意志なのか。
それはトビヲとどんな関係があるのか。
アユヲはカカシが外に出ていったと言っていたが、行き先は恐らくここで合ってるはずだと、イルカは駆けていた足を緩めて洞窟の前に立った。
浴衣の裾を持ち上げて帯に挟むと、湯を跳ねさせながら腰まで浸かり奥に進む。
すると何か見えない壁にぶち当たり、その先から湯が無くなって床の岩肌が丸見えになっていたので、これはさっき自分が使った術と同じ結界だと思い当たった。
恐らくカカシが張ったのだろうと思うが、何の為にと結界の奥を覗き見ると、ぼんやりと仄明るい中、鬼子母神像の前には大小二つの人影があった。

「トビヲ……カカシさんっ」

カカシは先ほどと同じ忍服姿でトビヲと向かい合っていた。
そのトビヲはというと、人ならざるものであることを隠さなくなったようで、宙に浮いてカカシと同じ目線の高さになっている。
二人はとても友好的とは言えない空気で、理由は分からないがやはりトビヲが何らかの悪影響を及ぼしていたのかと結界の見えない壁を叩いた。

「イルカ先生。良かった、目が覚めたんだ」

気付いたカカシがイルカに微笑みかけ、結界の手前まで歩いてきた。

「カカシさん、これを解術してください! トビヲはもう亡くなってるんです。いくらカカシさんでも直接対決は危険だ。いったん引いて専門家に任せましょう!」

木ノ葉に集まる依頼には、時に超常現象なども含まれるのだ。
それ以外にも任務中にそういう類いの事象にぶつかる事もあり、どんな案件でも任務完遂させるため心霊・神妖鬼呪を専門とする部署もあった。

「イルカ兄ちゃん!」

カカシの後ろに真剣な形相のトビヲが迫る。
それを知ってか知らずか、カカシはイルカと向き合うと右手を突き出してきた。
その手になぜか本能的に嫌なものを感じ、とっさに一歩下がってしまう。
カカシの右腕は結界を貫通し、手甲を嵌めた手がひらひらとイルカを招いた。

「イルカせんせ、こっちにおいでよ」

イルカの視線がその手から腕を辿り、青灰色の右目にぶつかる。
それがゆるりと細められた。
まるで聞き分けのない子を宥める大人のような、それでいてどこか得体のしれない獣のような、油断なく鈍い光を宿した目が。

「それで子供を授かろう、ね? せんせにそっくりな、げんきでかわいい子」

イルカの全身の肌がぞわぞわと粟立った。
カカシがただひたすら子供のことを、しかも二人ではなく『イルカの子』のことだけをあやすように言い続ける。
どこかほんの少し、いつもと数ミリだけずれた位置に口元を引き上げた、歪な笑みをうっすら浮かべながら。
その数ミリは致命的なほどカカシを別人に見せていた。
間違いない。
これは本物のカカシではない。
少なくとも、イルカの知るカカシではなかった。

「カカシさん、あなたは今おかしなモノに取り憑かれてるんです! 早く結界を解除してこちらへ!」

イルカはカカシの腕が届かない所まで十分に下がりながら、必死に言い募った。上忍であるカカシに掴まれたら、たとえ腕一本でもおしまいだという認識はあったのだ。
カカシは結界を取り払いたくないようで、こちら側に出てくるつもりもないようだ。このまま呼び続けているだけでは膠着状態で、何の解決にもならない。
トビヲがカカシの髪を掴んで引っ張ろうとしているが、するりと空を掴むばかりなので苛立ったのか両手で頭をバシバシ叩いているが、それもカカシには全く影響はないようだ。
こうなったらトビヲの方に話をしてカカシを見逃してもらうしかないと、イルカは意を決してトビヲを呼んだ。

「トビヲ、お前が亡くなっているのはもう知ってるんだ。お前は幽霊とかそういうやつなんだろ? なんでカカシさんに取り憑いて俺の子供を欲しがるのか分からないが、寂しいから遊び相手にしたいのか? それなら寂しくないようにちゃんと供養してもらおう。な? 絶対に約束する。男と男の約束だ。だから頼むからカカシさんを返してくれ。カカシさんは俺の……大切なひとなんだ」

トビヲは手を止めて聞き入っているようだったが、次第に目を真ん丸にして口をぽかんと開け、しまいには険しい顔つきで叫んだ。

「何言ってんだ⁈ 確かにオレは幽霊だけど、こんなやつも子供もいらねぇよ! オレはこいつをここから出したいんだ! こいつは床のこの変な字が出てるからおかしくなってんの! 今までもそうだったから! ねぇイルカ兄ちゃんは忍者だろ、何とかしてこいつを追い出してよっ」

トビヲの必死の訴えに、今度はイルカが目を見開きぽかんと口を開ける番だった。

「トビヲがカカシさんをおかしくさせてるんじゃなかったのか……じゃあ、昨夜カカシさんの胸の上に乗ってたのは」
「オレが? あぁ、こいつ昨日もちょっとおかしかっただろ? だからこっそり様子を見に来たんだよ」

こっそり。
トビヲはこっそり来ただけだった。
ただ幽霊だから、いかにも幽霊らしく登場して、その行動も生者のイルカには幽霊らしく見えてしまっただけだったというのか。
あまりにも荒唐無稽な真実にイルカはガックリと脱力しそうになったが、ここは湯の中なので踏ん張って耐えた。
そうすると、問題は岩場の梵字とカカシだ。

「トビヲ、その床の文字がカカシさんをおかしくしてるのか?」
「そうだよ。前にも掃除でお湯を止めたり工事の時とか、お姉さんが男の人の名前を呼びながら走ってったり、ダンナさんが奥さんを押し倒したりしてたんだ。みんな子供が欲しいって言ってたからな。そいつもおんなじだろ?」

カカシは相変わらず結界から腕だけを突き出して、イルカを招いている。
切なげな表情で、必死に。
今までは動揺してちゃんと聞いていなかったが、改めて耳を傾けると、どんなにイルカの子供が可愛いか、そればかりを言っていた。
だが。
その優しげな表情はもう崩れ、今は苦しそうに、それでも「イルカの子供を授かろう?」とひたすら祈りの文言のように呟いている。

「ねぇイルカせんせ。あなたの子供ならきっと愛せるよ。だって大好きなイルカせんせの子供だもんね。イルカせんせは子供が大好きだから、俺じゃあなたに子供を、家族をあげられないから。ねェせんせ。子供を授かろウ? そレならせんせもシアワせ……そうでしょ」

五大国に勇名が鳴り響くような、凄腕のビンゴブック上忍のはたけカカシ。
それが今は、ただの中忍一人の子供を欲しがっているのだ。
イルカは知らなかった。
カカシがそんなことを思っていたなんて。
二人ともお互いに天涯孤独の身であることは知っていた。だからイルカに子供を、家族を与えられないという負い目を抱えていたのだろう。付き合う前から、ずっと。
それでもカカシは手を伸ばして抱きしめてくれたのだ。
それほどまでに、イルカを欲しがってくれたのだ。
だが、その想いが深く強かったからこそ、こんな形で歪みが出てしまった。

「カカシさん……」

イルカの頬を溢れた涙が伝い落ちる。

「カカシさん。俺は」

今すぐカカシを抱きしめて想いの丈を伝えたかったが、それは叶わない。
まずは梵字をどうにかしなくてはと、イルカは涙を振り払った。

「トビヲ、ちょっとでいいんだ、俺が合図をしたらカカシさんをよそ見させてくれ。できそうか?」

トビヲは矛先が急に向けられて驚いたようだが、少し考えてから力強く頷いた。
イルカは腹の底にぐっと力を込めると、カカシの前に立つ。まだ手の届かない所に。

「イルカせんせ……?」

そしてカカシと目を合わせ、ゆっくりと手を差し伸べながら口を開いた。

「トビヲッ!」

合図を受けたトビヲが、松明を模した灯りに飛び付く。
とたんに洞窟の中が真っ暗になり、すぐに明るくなった。
──ポルターガイスト現象だ。
幽霊のトビヲならではの、いかにも幽霊らしい気の逸らし方だった。
派手に不規則に繰り返される明滅に、カカシが何事かと後ろを振り返る。
イルカはその一瞬を逃さなかった。
突き出されたカカシの右手に自分の左手を合わせ、二人の指を使って素早く印を結ぶ。

「解ッ!」

イルカの浸かっていた湯が勢いよくザブリと動く。
洞窟の中へ。
イルカがカカシの手を借りて組んだのは、結界術の解印だった。
同じ術でもカカシの施したレベルの結界術だと、カカシのチャクラ無しには解術できない。ただ普通に印を組んだのではスピードが遅くてカカシに阻止されてしまうが、そこでトビヲのポルターガイスト現象が役立ち、無事に解術の印を結べたのだ。
イルカの腰辺りが急激な水流に持っていかれ、カカシもろとも湯の奔流に飲み込まれる。
何とかして取り憑かれてるカカシを引き上げないと、ともがくが浴衣の生地がまとわりついて邪魔をする。
すると急に抱き上げられ、気付いたら固い地面の上に座っていた。
正確には、地面の上に座ったカカシの膝の上に。

「大丈夫?」

心配そうに覗き込むカカシの顔は、いつも通りに見えた。

「……カカシさん、ちょっと笑ってみてください」

突然よく分からない頼み事をされたカカシは、それでも躊躇いがちににこりと笑ってくれた。
それは完全な笑顔には程遠くとも、先ほどの歪な笑みとは違う、イルカの知っているカカシの表情の一つだった。

「良かった、俺のカカシさんだ……」

イルカの緩んだ声音に、カカシの眉間がぎゅっと寄せられる。

「ごめん……イルカ先生」
「いいんです、それよりまだ変な感じはあります? もうあの梵字の影響はないんですよね?」

濡れて萎れた前髪をかき上げてやると、カカシは青灰色の右目を曇らせて小さく頷いた。

「昨日からのこと、覚えてます?」
「……何となくだけど。あの梵字が目に入ったら、頭の中に声が聞こえてくるんだ。お前は子供が欲しいのだろう、子供を授けてやろうって。俺は欲しくないけど、イルカ先生はきっと子供が欲しいんだろうなってずっと前から思ってて……するともうその事しか考えられなくなって、幻術でも暗示でもないから、どうにもできなくて……」

それこそが超常現象と呼ばれるものの厄介なところだ。
あの鬼子母神はきっと、本当に御利益があるのだろう。岩場に彫られた梵字は特に。だから迷いのあるカカシはまともに影響を受けてしまった。
恐らくだが、カカシの『イルカ先生が子供が欲しいだろう』と『それでもイルカ先生といたい』という後ろめたさが、鬼子母神の神力と共鳴してしまったのか。
トビヲが言っていたように、湯に隠れていた梵字が露わになったことで鬼子母神の力が強まり、子供を授かろうとする行為に及んでしまったのではないか。
鬼子母神に問いかけるわけにもいかず、全ては推測に過ぎないが。
いろいろ思いが乱れるままにカカシの萎れた姿を見ていると、ずっと俯いていたカカシが自分の両手をぎゅっと握りしめ、不意に顔を上げた。

「あんな酷い目に遭わせて本当にごめんね、でも俺……」

──もう、あなたを手放せない。

食いしばった歯の間から、ほとんど吐息のような言葉がイルカの耳へ、胸へと届く。
そうなのだ。
カカシは不器用で真っ直ぐで、ひたむきに愛を告げてくれた。
何度も何度も、イルカがその想いを信じるまで。
だからこそイルカは応えたいと思ったのだ。
カカシが丸ごとむき出しで預けてくれた、「好きです」という気持ちに。

「カカシさん」

何かを怖がるようにぎゅっと握りしめたままのカカシの手を、イルカは取り上げて包み、柔らかく解すように撫でた。

「俺は子供が大好きです」

イルカの手の中で、カカシの手が自らを守るサナギのように固くなる。

「でもね、自分の子供のことなんてちゃんと考えたことなんて無かったし、俺の子供がいたら可愛がっただろうけど、それはもうとっくに俺の中には無い未来なんですよ」

イルカの無骨な指は、なおもカカシの両手の塊を撫で続けた。

「俺の未来はカカシさん、あなたと一緒にあるんです。全部」

カカシの両手が緩み、イルカの手を受け入れて絡まり。
二人の二つずつの手が、ひとつになる。

「カカシさん、俺を諦めないでくれてありがとうございます。だからこそ、こうしていられる今があるんだから」

微かな空気の揺れは、カカシの応えた声になりきらない返事だった。
二人は額を合わせ、自然と顔を寄せ合って……

「ぶえっくしょい!」
「あっ、イルカ先生びしょびしょ! しかも浴衣一枚で……風邪引いちゃうからすぐ部屋に帰ろう」

カカシが慌ててイルカを抱き上げて瞬身しようとしたが、その肩越しにトビヲの姿が目に入り、そういえば居たなと存在を思い出した。
イルカも気付いたようで、洞窟に向かおうとするトビヲを呼び止める。

「あー、トビヲ、勘違いしてごめんな。お前はカカシさんを心配してくれたんだよな。本当にありがとう」

するとトビヲは二人にニカッと笑いかけた。

「いいってことよ。ここは父さんと母さんと、今は妹の……女将の大事な温泉だから。やっぱり変なことは起きてほしくないからな」

そして不意に老成したような顔で「それじゃ元気で。縁があればまた来ると良い」と言い、洞窟の中に消えていった。





次の日は予定通り滝の方のエリアを片付け、一帯を女将に確認してもらってから任務完了ということで天翠荘を後にした。
トビヲのことは女将には何も伝えなかった。
アユヲから多少は話が伝わっているだろうし、トビヲも特に何も言っていなかったからだ。

「……何だか不思議な子でしたね」
「あぁ、トビヲ? 普通の子供にしか見えなかったけど、最後に会った時は何だかすごい年上みたいだったよね」

帰りの道中で森の中、のんびり枝々を渡りながら言い合う。
最初はアユヲの弟だと勘違いしたが実際は女将の兄だから、言われてみればトビヲは四十年以上もあの地にいるのだ。地縛霊というよりは、土地守りのようになっているのかもしれない。

「あーっ、蕎麦! 生わさびを摺り下ろすざる蕎麦を食ってない!」

突然のイルカの悲痛な叫びに、カカシの足どりが一瞬乱れた。
アユヲで思い出したが、三日目はイルカがあまり重労働ができず、ほとんどカカシ一人で片付けをこなしたのだ。
異常な状態だったとはいえ、カカシの一方的な荒い行為のせいなので当然といえば当然なのだが、やはり気が引けてしまったイルカも現場に出て軽い作業を受け持った。それで当日中に終わるようにとほぼ休憩なしの突貫作業だったため、前日の夜食に続いて二度も食べそびれてしまっていた。

「本当にごめんね、イルカ先生」

しょんぼりしたカカシの声に、我に返ったイルカが慌てて両手を振り回す。

「いや違うんです! カカシさんのせいじゃなくて、俺がぼんやりしてたせいで!」

落ち込んでいるのか、駆けるスピードが落ちたカカシに合わせて並んだイルカは、イチイの枝の上でふと足を止めた。

「イルカ先生、どうしたの? まだ腰が痛い?」

後方で立ち止まったイルカの方に、心配そうな顔のカカシが戻ってくる。
そこにイルカはぴょんと飛び付いた。
ナルトのように、遠慮なく全身で。

「やっぱり痛い? おんぶしていこうか?」
「はい、お願いします」

即答したイルカに驚いたのか、ちょっと目を見開いたカカシはすぐに柔らかく微笑んで頷いた。
いったんイルカを下ろすと背負っていた背嚢を前に回し、「ん」とイルカに背を向ける。
その背に身を預けると、カカシは立ち上がってまた駆け出した。
イルカに負担がないようにだろう、二日前に川を跳んで渡った時と違い、全く振動を感じさせず軽やかに枝々を跳び渡る。
その気遣いに甘えられるようになったのが気恥ずかしくも嬉しくて、イルカはぎゅうっとしがみついた。
付き合いたてでお互い、いろんな遠慮や思惑があって上手く距離を測りかねていた。
イルカには、上忍と中忍という階級の壁が。
カカシには、子供を持たせてやれないという負い目が。
それでも一緒にいたいと決めたのだ。
変に肩肘張らずに甘えてもいいのかもしれないと、この数日を超えてイルカは少しだけ肩の力を抜いてみた。

「今度は休みを取って行きましょうね、露天風呂と蕎麦」
「うん。きっとね」

約束をねだれば、嬉しげな声が返ってくる。
それをじんわりと味わっていると、風を受けてなびくカカシの髪が頬に当たった。

──今度は俺もカカシさんのこと、抱きしめてみようか。

カカシはまた、ちょっとびっくりするかもしれない。
それでも遠慮なく触れてくるようになった年下の恋人に、甘やかな笑みを浮かべるだろう。
自分だけに向けられるその笑みを思いながら、イルカは銀色の髪に頬をすり寄せて目を閉じた。


【完】