【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
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こちらは神無月の夜宴とぼんやり繋がってます。
読むと世界観が分かりやすいけど、読まなくても全然オッケーです!
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上忍待機所の朝は遅い。
早朝から任務がある者は待機所など用がないし、待機を申し付けられている者は、通常の任務は朝イチで受付によって振り分けられるので待機所から指名されることなどはまず無く、早朝から待機していても労力の無駄だと知っているのでやはり用がない。
その上でわざわざ早朝から待機所にいるのは、忘れ物や待ち合わせなど待機所自体に用がある者や、あるいは待機所ではないとできない事がある者くらいだ。
──たとえば恋人の授業風景を眺めようと西の窓際の指定席Aに陣取る、はたけカカシのように。
ちなみに指定席Bは北の窓際に置いてある椅子で、こちらは受付に座る恋人の背中がチラッとだけ見える。
今日も今日とてカカシは指定席Aであるソファーの左端にだらりと座り、うみのイルカが教室のドアをガラリと開けて「ほら席に着け、授業を始めるぞ〜」と言うのを待ち構えていた。
だが引き戸がガラリと開けられたのは、待機所が先だった。
「はたけ上忍〜♪ はたけ上忍はどこかしら〜♪」
金色の巻物を手に、甘いバリトンで歌うようにカカシの名を連呼してキョロキョロしながら入ってきたのは、褐色の肌の男……いや、その完璧なヘアメイクを見るだけなら女だった。
「あれ、闇夜じゃない。何か用?」
「あっらぁ〜〜〜はたけ上忍! そうなの、あたしったら貴方に御用があるのよ」
そう言いながら闇夜は、カカシの座るソファーにガツガツとヒールの音を響かせて近寄ってきた。
「今日もまた一段とすごいね」
用件を聞く前に思わずといった体で、闇夜の格好に目を走らせたカカシが呟く。どうすごいのかは言わなかったが、闇夜はこの上なくポジティブなので、偏光パールのネイルに彩られた指先をひらめかせ「ありがと♡」と投げキッスを送った。
闇夜はイルカの幼馴染みの特別上忍で、木ノ葉の装備研究開発部に所属する変装のエキスパートだ。そしてこれが最大の特徴なのだが、十センチのヒールを含めて身長約二メートルのムキムキマッチョなオネェである。
「今年は残暑が厳しくて秋の存在が小さいじゃない? だから今日のテーマは『ちっちゃな秋みつけた』なのよ。どう?」
カカシの前で闇夜が両手を広げてくるりと回転すると、腿から下がスケスケの生地に紅葉を散らしたぴたぴたのロングパンツの下で、筋肉が声高にムキムキと主張した。闇夜はオネェではあるが意識の高い忍でもあるので、肉体の鍛錬は欠かさないのだ。
眼前でムキムキを見せ付けられたカカシは、動揺もせずにリボンを編み込んだアッシュブルーのツインテールをじっと見つめる。
「良いんじゃない。その髪は秋の夜長色とか? ところでそれ、イルカ先生にも似合うと思わない? 長さは足りるかな」
「秋の夜長色……っ、なんてポエティックなの⁈ さっすが木ノ葉の誇る誉のはたけ上忍だわ! あー、イルカは髪にレイヤー入れすぎだからこれは難しいわね。また自分で適当にカットしてるでしょ。あたしが切ってあげるから、今度装備部に寄るように伝えてちょうだい」
「りょーかい。ところで本題は?」
首から下げたオーロララメのミニバッグからメモ帳を取り出し、『秋の夜長色』と記入していた闇夜は、カカシの指摘にメモ帳をしまうと脇に挟んでいた金色の巻物をまた手にした。
「そうだったわ、大事な事を。あのね、前にイルカを男巫女にした時に貴方、何でもしてくれるって言ってたでしょ? 今日はそれに甘えちゃおうと思ってお邪魔したのよ」
以前、イルカがとある神様の命によって男巫女に変装する必要があった時、装備研究開発部の闇夜がメイクから着付けからヘアセットまでトータルで請け負ってくれたのだ。その出来があまりにも素晴らしく、カカシは口先だけでなく何でもすると闇夜に約束をしていた。
あれから数年経ったのでカカシもすっかり忘れてはいたが、闇夜の頼み事ならできるだけ受けようと思っているので頷いてみせる。
すると闇夜は咳払いをすると巻物を開き、記された中身を芝居がかった口調で厳かに読み上げた。
「はたけカカシ上忍殿。五代目火影の名において装備研究開発部・特別上忍昇級試験の試験官をここに命ずる 千手綱手」
「いいけど……………試験官?」
「そうなの。今度うちのかわいこちゃんたちに特上になってほしいんだけど、その為にはテストがあるじゃない? 直属の上司のあたしはムリだから、せっかくだからはたけ上忍にその試験官をやってもらいたくて。火影様にお願いしたら快諾してくださったのよ」
五代目火影は闇夜の実家の家業である化粧品の老舗、天道虫本舗の昔からの上客だった。ついでにいうと闇夜のトータルアンチエイジングケア講座の熱心な受講生でもある。
つまりはカカシを昇級試験の試験官に差し出すくらい、何とも思ってないということだ。
「……ま、構わないけど。俺は何を見ればいいの?」
「んまぁーーーっ、ありがと♡ 早速だけど、はたけ上忍にはイルカの偽者を当ててほしいのよ」
闇夜はまたミニバッグを開けると、今度は銀色のホイッスルを取り出して付属のチェーンをカカシの首にかける。
やけに重いと思ったら、ホイッスルの表面はラインストーンでギッシリと埋まっていたので、恐らく闇夜のお手製だろう。
「これをかけてる間は試験官に就任中だから、他の任務は免除されるわ。試験は今から今日の日没までよ。それと詳しくはこれを読んでね。それじゃお願いするわ。オ・ルヴォワール♡」
金色の巻物を手渡した闇夜は、ウサギの尻尾のような白い毛玉がびっしり並んだようなショートニットのポンポンを揺らしながら颯爽と去っていった。
闇夜の登場は突発的な小災害と似てるなとぼんやり見送っていたカカシは、我に返ると巻物を開く。そこには先ほど闇夜が読み上げた任命書の後に、試験内容と試験官の義務や禁忌などが細かく書き連ねてあった。
任命書に捺されているものが火影印ではなく綱手の個人的な印であるところをみると、どうやらこれは無償のボランティアになるらしい。
試験自体は簡単で、カカシに接触してきた『うみのイルカ』が本物かどうかを当てろという、ゲームのようなテスト方法だ。
もし偽者だと判断したら、その『うみのイルカ』がカカシから離れる前に「ダウト」と言うかホイッスルを吹くこと、と記してある。
「本物だと思ったら何もしなくていいのかな」
「そうですよ」
一人言に返事をされたので顔を上げると、『うみのイルカ』がにっこりと笑い返した。
「そっか、もう始まってるのね。それで? アンタは偽者かな?」
返事を期待せずに問いかけると、『うみのイルカ』は小首を傾げて「さぁて、どうでしょう」と答える。
その表情があまりにも楽しそうで、カカシまでつられてにこにこしてしまった。
その笑顔のまま口を開く。
「ん〜、ダウト」
とたんに目の前でボフッと煙が上がり、顔に大きなバッテンマークを付けた見知らぬ男が現れた。
その男は悔しげに「ありがとうございました」と頭を下げると、待機所からトボトボと出ていく。顔のバッテンマークはダウトと言われると自動で付けられるのだとしたら、装備研究開発部の技術力はなかなかのものだ。
そして煙が上がったということは、変装ではない。
闇夜の所属する装備研究開発部の試験だから、変化ではなく変装をメインに駆使してくると思っていたのだが、どうやら変化と変装織り交ぜてのフリースタイルで挑んでくるようだ。それもまた、忍者は裏の裏を読めってことなのだろう。
場合によっては幻術も使われるかもしれないと、今さら気が付いた。
巻物には人数も接触回数も記載されてないので、闇夜の言っていた日没までは何度も挑んでいいらしい。どうやら思っていたより難易度の高い試験になりそうだと、少し楽しくなってくる。
「さてと、『かわいこちゃんたち』はどう来るのかな」
巻物のルールには里内なら自由に動いて良いとあったので、弾む声を隠さずカカシは待機所を出た。
本来ならイルカはこれからアカデミーで授業のはずだが、とりあえずイルカの受け持つ教室に向かうと、移動中に授業の時間になったようだ。
イルカの朗々とした声が廊下にまで響いてくる。
生徒たちが「お前は誰だ!」とも言わずにきちんと授業を受けているところをみる限りでは本物のようだ。身近な者に対する子供の感受性は侮れない。
カカシはふと思いついて、教室の壁に隣接して作られた隠し部屋に忍び込んだ。以前この掲げてある額縁の覗き穴から授業を覗いたことがあったが、それはまだ現役のようだ。
片目を穴に当ててそっと覗いてみると、視界の下の方にイルカの黒髪しっぽが揺れる。
「だから雲隠れと霧隠れは反発し合うんだな。よぉし、ここテストに出すから覚えとけよ!」
あえて気配を隠さず堂々と覗いていると、くるりと振り返ったイルカが、チョークを手にして板書を始めた。
カッカッカッという小気味のよい音を聞きながら、イルカの薄い息遣いを堪能する。
しばらくするとチョークを置くカタンという音が響き、教科書を手にしたイルカが教室の中を歩き始めた。
「それじゃ、次。三十六ページを読んでもらおうか……そこの君っ!」
振り返ったイルカが、覗き穴に向かってビシリと人差し指を突きつける。
さすがにドキッとしたカカシが仰け反って覗き穴から目を離すと、イルカは指先をやや下にずらした。
「ヤマノきのこ、それは星読みと季節の教科書だな? 今は五大国の歴史の時間だぞ。ちゃんと正しい方の教科書を開け」
イルカは生徒が歴史の教科書のページを開くところを、席に近寄って見守る。
その寸前、確かにカカシに向かって茶目っ気のある眼差しを向け、ほんの一瞬片目を瞑ってみせた。
カカシは「ダウト」と宣言することもなく、静かに隠し部屋から出る。
口布の下で口元をにんまりと引き上げながら。
イルカの授業風景を期せずして間近で堪能できたカカシは、次はどこに行こうかと廊下でしばし佇んだ。
隠し部屋で一つ気が付いたのだが、普段なら絶対に邪魔をするなと怒鳴られるのに、今日は授業中のイルカを覗き見しても怒られなかった。
ということは、イルカも特上の昇級試験の件は承知の上なのだ。
なんならカカシに対して積極的に撹乱する為の行動をとっている。となると、里内どこに行っても『うみのイルカ』あるいは『イルカ』の接触が何度もあるのだろう。
ならばと本来ならまだイルカの勤務時間外の受付に向かってみた。
開け放たれたドアから受付に足を踏み入れると、思った通り綱手の隣には『うみのイルカ』が座っている。
「ハヤセ中忍おはようございます。今日は商人のイベント参加の護衛と、大名の息子の誕生日に忍術を見せるのとどちらが良いでしょうか……はい、では拘束時間の短い方で。ではこちらお願いしますね。はい、次の方どうぞ」
『うみのイルカ』は任務を貰いに来ている行列を鮮やかに捌いていて、とても偽者とは思えなかった。
とりあえず最後尾に並んで様子を観察するとその間もどんどん列は進み、依頼書を受け取った男がカカシの前から右側にどいて、パイプ椅子に座った『うみのイルカ』と向かい合う形になった。
「あれ、カカシさんは今日は待機ですよね?」
「なんだカカシ、暇なら任務をやろうか? ……あぁ、そういえばお前は今日一日アレだったな」
隣から口を挟んできた綱手が、カカシの首から下がったホイッスルを見てから『うみのイルカ』にチラリと目をやる。
「アレって何か別の任務でも請けてるんですか? 綱手様、ちょっとはたけ上忍を働かせ過ぎじゃないですか?」
普通なら中忍の分際でと咎められるようなことを、『うみのイルカ』が綱手に向かって平気な顔で言い放つ。
昇級試験のことをすっとぼけているのも大した度胸だが、どちらも本物ならさもありなんといったところだ。
カカシは身を屈めて『うみのイルカ』の耳をしげしげと見ると、その姿勢のまま言った。
「ダウト。でも惜しいね」
『うみのイルカ』の怪訝そうな顔が一転、悔しげに歪む。
そしてボフンと煙が上がると、そこにはまだ十代であろう若い男が座っていた。
その男は立ち上がると「ありがとうございました。それでは失礼します」と受付を出ていく。
その背中を見送った綱手が、カカシを横目で見て舌打ちを寄越した。
「せっかく有能な受付が増えたのに当てるんじゃないよ。ところでどこで分かったんだい? アタシから見ても、あの子の術はなかなかのもんだったよ」
「そうですねぇ、耳の形までちゃんとイルカ先生だったけど、残念ながら匂いが」
カカシの答えに綱手の綺麗に整えられた眉が片方、ぴんっと跳ね上がった。
「匂いだぁ⁈ あの子はわざわざイルカの着用済みのインナーを借りてきたと言ってたぞ。それなのに、なんで」
「それだから、ですよ。近くで嗅いだら彼からイルカ先生の二日目の匂いがしたんです。今朝は洗濯したてのを着てったはずなのに」
綱手の美しい顔が、説明を聞いている間にどんどん「うわぁ……」という表情へと歪んでいく。
「分かった分かった、もういいよ。お前もここにいる理由がなくなっただろ。さっさとお行き」
綱手が蝿でも追い払うようにシッシッと手で払う。
五代目火影の任命もあっての試験官なのにと、なんだか釈然としないままカカシは受付を出た。
その後、本部棟を出たところで『うみのイルカ』に昼食に誘われたのを断りついでに、
「ダウト。イルカ先生は混ぜごはんは嫌いだけど、炒飯は大好きだからね」
そして一楽でカウンターの隣に座った『うみのイルカ』が、カカシの奢ったグラスビールに口をつけたところで、
「ダウト。イルカ先生は午後も仕事があるんだから、酒は断るよ」
いったんイルカのアパートに戻って干してきた布団をしまおうとしたところで、同じく一時帰宅した『うみのイルカ』に、
「ダウト。イルカ先生は俺がいるなら、いちいち鍵をかけてから入ってこないよ。わりとおおらかで大ざっぱだからね」
待機所に戻ろうと民家のブロック塀の角を曲がった所で、なぜかセーラー服姿で食パンをくわえた『うみのイルカ(男)』とご丁寧にも避けずにぶつかったカカシは、尻餅をついてM字開脚をした相手の手を引いて立たせながら、
「ダウト。イチャイチャボーイミーツガールの出会い頭にぶつかる演出を再現したのは良かった。ものすごぉーーーーく良かった。でもねぇ、イルカ先生はイチャパラシリーズに興味がないから、こんなサプライズはしてくれないんだよね……」
ボフッと煙が上がった後に現れたのは、素朴ななりのくノ一だった。
カカシの心底残念そうな様子に、この時ばかりは装備研究開発部のくノ一も、悔しそうというよりは痛々しいとでも言いたげな顔で礼を述べてから去っていった。
カカシはその背中に向かって早口に続ける。
「セーラー服にあえての女体変化なしでそのまま来たそのセンスはものすごく良かった! これはちゃんと評価点をプラスしとくからね!」
カカシの言葉に振り返ったくノ一は、にっこりと笑顔を見せてから嬉しそうに駆けていった。
やっぱり男心を掴む演出はくノ一には敵わないなと、重々しく左右に首を振りながら腰のポーチから本を取り出して開く。
今日の携帯イチャパラはボーイミーツガールではなくイチャイチャアドベンチャーだったが、イチャパラシリーズを読みたい気分になったのだ。
本を片手に本部棟に戻ったカカシは、また受付へと足を踏み入れる。
夕刻のこの時間は綱手の姿もなく、女性の事務官と『うみのイルカ』ともう一人の中忍が帰還してきた忍たちをてきぱきと捌いていた。
今度は列に並ばずソファーに座って仕事中のイルカを眺めようと思ったのだが、カカシに気付いた『うみのイルカ』の方からそっと手招きをしてくる。
招かれるがままに近付くと『うみのイルカ』は立ち上がって席を外し、カカシの方に身を寄せて囁いた。
「今日の晩メシはこないだ言ってた牛めし屋に行きましょう。もうすぐ終わるので待っててくださいね」
「うーん、行かない」
まさか拒否されると思ってなかったのか、『うみのイルカ』は「えっ」と声まで上げてカカシを見返した。
カカシはその顔をしげしげと見返すと、ため息をつく。
「いろいろあるけど、まず一日の終わりに顔が溌剌としすぎ。それとイルカ先生はくノ一みたいな誘う表情はしないよ。あとこれが一番あり得ないけど、先生は個人的な事を伝えるために業務を放り出して俺の方に来るなんてしない。だからダウト」
カカシの宣言するようなダウトの声で、ボフンと上がった煙の後に顔に大きなバッテンマークを付けられた男が現れた。
男は憔悴しきった顔で礼を言うと、トボトボと受付を出ていく。
受付にいた者たちはしばらくざわめいていたが、受付机の向こう側に座る女性の事務官の「次の方どうぞ」の一声で、通常に戻った。
カカシもソファーに戻って腰かけると本を開く。
幾度も読んだイチャパラに心を踊らせながら、時折壁の時計に目を走らせつつ受付を眺めていた。
時計の針が十九時ぴったりを指すと、カカシは立ち上がって受付机の前に立ち、女性の事務官に声をかける。
「さ、帰ろ」
カカシのあまりにも堂々とした態度に、場が凍りついた。
イルカという付き合っているというか迷惑なほどラブラブしている相手がいるにもかかわらず、公衆の面前で浮気か⁈ と二人に目線が集中する。
果たして相手の女はどう出るのかと、固唾を呑んで見守っていると。
「……カカシさんは俺の女体変化を見たことなかったですよね。だから気付かないかもって思ったんですけど、甘かったか」
そう言って立ち上がった女性事務官が、手馴れた風に印を組んで「解」と呟いた。
だが煙が上がった後には、誰の姿もない。
カカシも、変化を解いたであろうイルカの姿も。
瞬身で帰宅したカカシは、抱えていたイルカをベッドに投げるようにして下ろした。
うわ、という声はカカシの口の中に消える。
唇を合わせ、舌を絡め合いながらもどかしげにベストを脱いで脱がせ、今さらサンダルを投げて脚絆をむしり取る。
こんなに性急なカカシは、任務が延長されて一ヶ月ぶりに帰ってきた時以来だなと、イルカは濃厚なキスでぼうっとし始めた頭の片隅で考える。
だがそれが最後の冷静な思考だった。
アンダーと鎖帷子をまとめて胸の上までたくし上げられ、貪るように胸を舐め回されて尖った乳首をきつく吸われる。
いつもの優しさや思いやり溢れる行為とはかけ離れた、欲望のままに奪う獣のカカシ。
それでもいつもの場所にローションをまとわせる時は、卓越した技術者の集中力でイルカの肉を柔らかく解していく。
欲望で荒くなる息遣いも、イルカの中を早く味わいたくて焦る乱雑な手つきも、それこそがイルカを悦ばせていることをカカシはまだ心から信じていない。
「はやく、ねぇはやく」
自分でも声に出している意識のないまま、イルカはカカシの肌を両の掌で撫で擦りながら急かした。
「まって、まって」
こちらも呟いている自覚のないままに、イルカを裏返して腰を高く上げさせた。
溢れたローションをたらりと垂らし、はくはくと収縮を見せ付けてイルカのいやらしい方の口がカカシを誘う。
「ねぇはやく……ぅ、ああ」
ようやく与えられた悦びに、ほとんどため息のような喘ぎがイルカの唇から零れ落ちた。
それからその甘い甘い声は、二人の身体の動きや体勢に合わせてベッドの上のあちこちで撒き散らされていく。
激しく動かされて、イルカの動きだけゆっくり鈍くなっていき。
「ん、あいしてるよ」
カカシだけにしか聴こえないイルカの呟きに答え、カカシもゆるゆると動きを止めた。
ベッドサイドの窓がコツコツ叩かれる音でカカシは目を覚ます。
布団に落ちる月の光の角度からして、まだ日付は変わってないようだ。
窓を叩くのは任務を告げる式鳥にしては、いつもよりかなりうるさい。コツコツというよりはガツンガツンだ。
闇夜のヒールの音みたいだなと思って窓を開けると、飛び込んできたのは夜目にも鮮やかな馬鹿でかい鳥だった。
「孔雀……⁈」
「んぁ? それなら闇夜の式ですね……」
半分寝ているような寝惚け声でイルカが呟く。
孔雀(オス)はスタスタと床を歩いてベッドから距離をとると、いきなり飾り羽をバサリと広げた。
イルカの寝室は六畳でセミダブルのベッドが大半を占めているので、そんなことをされたら羽があちこちにぶつかってしまう。
「待て、歩くな! 羽をワサワサ揺らすな! ほら折れて散らばってるぞ! あーっ飛ぶな! え、孔雀って飛べたっけ⁈」
動揺して珍しく大騒ぎするカカシを尻目に、イルカはすよすよと眠っている。
疲れさせた自覚はあるので助けは期待できないと、カカシは起き上がってベッドから出ると孔雀と対峙した。
孔雀はまだワサワサと広げた飾り羽を揺らしている。これが飛ぶための予備動作なのか、それともカカシかイルカへの求愛行動なのか、さすがに孔雀の生態にそこまで詳しくないカカシには分からなかった。
だがイルカは先ほど、闇夜の式だと言っていた。
ならば二人のうちどちらかが触れれば、紙片に変わるかメッセージを再生するか、とにかく何らかの式らしい仕掛けが発動するはずだ。
「そのためには、お前に触らなきゃならないって訳ね」
カカシの言葉を理解したのかしてないのか、孔雀はツンとくちばしを上げた。
そして。
「キィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」
絞め殺されたのかと思うような奇声を上げ、孔雀が飛びかかってきた。
とっさにイルカの前に立ちふさがって孔雀を叩き落とそうとすると、背後から何かが飛んでいった。
「うるせぇぞ闇夜っ!」
イルカが投げ付けたのは枕で、チャクラをまとわせていたらしい。
枕がボカッと当たったとたん孔雀は巻物へと姿を変え、床に落ちて転がる。
さすがは幼馴染みだと、イルカの的確な対処に感心しながら拾い上げて開くと、今日の試験の評価をまとめて記入し、明日の朝一番で装備研究開発部に提出するようにと付箋が貼ってあった。
試験官は偽者にダウトと言うだけで終わりではなかったようだ。
「そういえば、イチャイチャボーイミーツガールのあの子に高い評価点をあげるって約束したっけ」
カカシは枕を投げ付けるために布団から飛び出してしまったイルカに布団を肩までかけ直すと、隣の部屋の卓袱台の前に座って巻物に筆を走らせた。
数日後、装備研究開発部の昇級試験を受けた三人のうち、二人に闇夜が合格を告げた。
十代の男とくノ一は揃って喜んだが、それでも少し不思議そうに口々に問いかける。
「あの、とっても嬉しいんですけど、なんで合格できたんでしょうか」
「確かに自分では良い出来だったけど、それでもはたけ上忍にはすぐ見破られたのに」
その様子に闇夜は人差し指をぴんっと立て、左右に振りながらチッチッと舌を鳴らした。
「かわいこちゃんたち、失敗イコール不合格ではないのよ。どれだけ工夫して効果的な偽装をしたか、その内容が大事なの。あなたたちはオリジナリティ豊かでマーベラスでチアフルなイルカになったわ。とっても素晴らしかったわよ」
そう言って二人にゴテゴテにデコった特別上忍昇級試験合格証を手渡す。
それから不合格だった男に向かって、艶めくチェリーレッドの唇を開いた。
「あなたは惜しくもはたけ上忍への理解度が足りなかったわ。誰かになりすますのは、その人間個人に似せれば良いだけじゃないのよ。人はだいたい生きていれば誰かと関わっているもの。周囲の人から見た対象の個性も織り込んだ上で偽装してこそ、パーフェクトオブパーフェクトと言えるのよ」
そしてレインボーカラーの睫毛をバサバサさせながら、三人に向かってバチンと音がしそうなウインクをして微笑む。
「今回は有り難いことにはたけ上忍に試験官をお願いできたけど、あの人のイルカへの執着と解像度は一般的なレベルを遥かに超えてるわ。彼相手じゃあたしでも難しいわね。彼から見たら、イルカ以外の世界中がダウトよ」
【完】
読むと世界観が分かりやすいけど、読まなくても全然オッケーです!
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上忍待機所の朝は遅い。
早朝から任務がある者は待機所など用がないし、待機を申し付けられている者は、通常の任務は朝イチで受付によって振り分けられるので待機所から指名されることなどはまず無く、早朝から待機していても労力の無駄だと知っているのでやはり用がない。
その上でわざわざ早朝から待機所にいるのは、忘れ物や待ち合わせなど待機所自体に用がある者や、あるいは待機所ではないとできない事がある者くらいだ。
──たとえば恋人の授業風景を眺めようと西の窓際の指定席Aに陣取る、はたけカカシのように。
ちなみに指定席Bは北の窓際に置いてある椅子で、こちらは受付に座る恋人の背中がチラッとだけ見える。
今日も今日とてカカシは指定席Aであるソファーの左端にだらりと座り、うみのイルカが教室のドアをガラリと開けて「ほら席に着け、授業を始めるぞ〜」と言うのを待ち構えていた。
だが引き戸がガラリと開けられたのは、待機所が先だった。
「はたけ上忍〜♪ はたけ上忍はどこかしら〜♪」
金色の巻物を手に、甘いバリトンで歌うようにカカシの名を連呼してキョロキョロしながら入ってきたのは、褐色の肌の男……いや、その完璧なヘアメイクを見るだけなら女だった。
「あれ、闇夜じゃない。何か用?」
「あっらぁ〜〜〜はたけ上忍! そうなの、あたしったら貴方に御用があるのよ」
そう言いながら闇夜は、カカシの座るソファーにガツガツとヒールの音を響かせて近寄ってきた。
「今日もまた一段とすごいね」
用件を聞く前に思わずといった体で、闇夜の格好に目を走らせたカカシが呟く。どうすごいのかは言わなかったが、闇夜はこの上なくポジティブなので、偏光パールのネイルに彩られた指先をひらめかせ「ありがと♡」と投げキッスを送った。
闇夜はイルカの幼馴染みの特別上忍で、木ノ葉の装備研究開発部に所属する変装のエキスパートだ。そしてこれが最大の特徴なのだが、十センチのヒールを含めて身長約二メートルのムキムキマッチョなオネェである。
「今年は残暑が厳しくて秋の存在が小さいじゃない? だから今日のテーマは『ちっちゃな秋みつけた』なのよ。どう?」
カカシの前で闇夜が両手を広げてくるりと回転すると、腿から下がスケスケの生地に紅葉を散らしたぴたぴたのロングパンツの下で、筋肉が声高にムキムキと主張した。闇夜はオネェではあるが意識の高い忍でもあるので、肉体の鍛錬は欠かさないのだ。
眼前でムキムキを見せ付けられたカカシは、動揺もせずにリボンを編み込んだアッシュブルーのツインテールをじっと見つめる。
「良いんじゃない。その髪は秋の夜長色とか? ところでそれ、イルカ先生にも似合うと思わない? 長さは足りるかな」
「秋の夜長色……っ、なんてポエティックなの⁈ さっすが木ノ葉の誇る誉のはたけ上忍だわ! あー、イルカは髪にレイヤー入れすぎだからこれは難しいわね。また自分で適当にカットしてるでしょ。あたしが切ってあげるから、今度装備部に寄るように伝えてちょうだい」
「りょーかい。ところで本題は?」
首から下げたオーロララメのミニバッグからメモ帳を取り出し、『秋の夜長色』と記入していた闇夜は、カカシの指摘にメモ帳をしまうと脇に挟んでいた金色の巻物をまた手にした。
「そうだったわ、大事な事を。あのね、前にイルカを男巫女にした時に貴方、何でもしてくれるって言ってたでしょ? 今日はそれに甘えちゃおうと思ってお邪魔したのよ」
以前、イルカがとある神様の命によって男巫女に変装する必要があった時、装備研究開発部の闇夜がメイクから着付けからヘアセットまでトータルで請け負ってくれたのだ。その出来があまりにも素晴らしく、カカシは口先だけでなく何でもすると闇夜に約束をしていた。
あれから数年経ったのでカカシもすっかり忘れてはいたが、闇夜の頼み事ならできるだけ受けようと思っているので頷いてみせる。
すると闇夜は咳払いをすると巻物を開き、記された中身を芝居がかった口調で厳かに読み上げた。
「はたけカカシ上忍殿。五代目火影の名において装備研究開発部・特別上忍昇級試験の試験官をここに命ずる 千手綱手」
「いいけど……………試験官?」
「そうなの。今度うちのかわいこちゃんたちに特上になってほしいんだけど、その為にはテストがあるじゃない? 直属の上司のあたしはムリだから、せっかくだからはたけ上忍にその試験官をやってもらいたくて。火影様にお願いしたら快諾してくださったのよ」
五代目火影は闇夜の実家の家業である化粧品の老舗、天道虫本舗の昔からの上客だった。ついでにいうと闇夜のトータルアンチエイジングケア講座の熱心な受講生でもある。
つまりはカカシを昇級試験の試験官に差し出すくらい、何とも思ってないということだ。
「……ま、構わないけど。俺は何を見ればいいの?」
「んまぁーーーっ、ありがと♡ 早速だけど、はたけ上忍にはイルカの偽者を当ててほしいのよ」
闇夜はまたミニバッグを開けると、今度は銀色のホイッスルを取り出して付属のチェーンをカカシの首にかける。
やけに重いと思ったら、ホイッスルの表面はラインストーンでギッシリと埋まっていたので、恐らく闇夜のお手製だろう。
「これをかけてる間は試験官に就任中だから、他の任務は免除されるわ。試験は今から今日の日没までよ。それと詳しくはこれを読んでね。それじゃお願いするわ。オ・ルヴォワール♡」
金色の巻物を手渡した闇夜は、ウサギの尻尾のような白い毛玉がびっしり並んだようなショートニットのポンポンを揺らしながら颯爽と去っていった。
闇夜の登場は突発的な小災害と似てるなとぼんやり見送っていたカカシは、我に返ると巻物を開く。そこには先ほど闇夜が読み上げた任命書の後に、試験内容と試験官の義務や禁忌などが細かく書き連ねてあった。
任命書に捺されているものが火影印ではなく綱手の個人的な印であるところをみると、どうやらこれは無償のボランティアになるらしい。
試験自体は簡単で、カカシに接触してきた『うみのイルカ』が本物かどうかを当てろという、ゲームのようなテスト方法だ。
もし偽者だと判断したら、その『うみのイルカ』がカカシから離れる前に「ダウト」と言うかホイッスルを吹くこと、と記してある。
「本物だと思ったら何もしなくていいのかな」
「そうですよ」
一人言に返事をされたので顔を上げると、『うみのイルカ』がにっこりと笑い返した。
「そっか、もう始まってるのね。それで? アンタは偽者かな?」
返事を期待せずに問いかけると、『うみのイルカ』は小首を傾げて「さぁて、どうでしょう」と答える。
その表情があまりにも楽しそうで、カカシまでつられてにこにこしてしまった。
その笑顔のまま口を開く。
「ん〜、ダウト」
とたんに目の前でボフッと煙が上がり、顔に大きなバッテンマークを付けた見知らぬ男が現れた。
その男は悔しげに「ありがとうございました」と頭を下げると、待機所からトボトボと出ていく。顔のバッテンマークはダウトと言われると自動で付けられるのだとしたら、装備研究開発部の技術力はなかなかのものだ。
そして煙が上がったということは、変装ではない。
闇夜の所属する装備研究開発部の試験だから、変化ではなく変装をメインに駆使してくると思っていたのだが、どうやら変化と変装織り交ぜてのフリースタイルで挑んでくるようだ。それもまた、忍者は裏の裏を読めってことなのだろう。
場合によっては幻術も使われるかもしれないと、今さら気が付いた。
巻物には人数も接触回数も記載されてないので、闇夜の言っていた日没までは何度も挑んでいいらしい。どうやら思っていたより難易度の高い試験になりそうだと、少し楽しくなってくる。
「さてと、『かわいこちゃんたち』はどう来るのかな」
巻物のルールには里内なら自由に動いて良いとあったので、弾む声を隠さずカカシは待機所を出た。
本来ならイルカはこれからアカデミーで授業のはずだが、とりあえずイルカの受け持つ教室に向かうと、移動中に授業の時間になったようだ。
イルカの朗々とした声が廊下にまで響いてくる。
生徒たちが「お前は誰だ!」とも言わずにきちんと授業を受けているところをみる限りでは本物のようだ。身近な者に対する子供の感受性は侮れない。
カカシはふと思いついて、教室の壁に隣接して作られた隠し部屋に忍び込んだ。以前この掲げてある額縁の覗き穴から授業を覗いたことがあったが、それはまだ現役のようだ。
片目を穴に当ててそっと覗いてみると、視界の下の方にイルカの黒髪しっぽが揺れる。
「だから雲隠れと霧隠れは反発し合うんだな。よぉし、ここテストに出すから覚えとけよ!」
あえて気配を隠さず堂々と覗いていると、くるりと振り返ったイルカが、チョークを手にして板書を始めた。
カッカッカッという小気味のよい音を聞きながら、イルカの薄い息遣いを堪能する。
しばらくするとチョークを置くカタンという音が響き、教科書を手にしたイルカが教室の中を歩き始めた。
「それじゃ、次。三十六ページを読んでもらおうか……そこの君っ!」
振り返ったイルカが、覗き穴に向かってビシリと人差し指を突きつける。
さすがにドキッとしたカカシが仰け反って覗き穴から目を離すと、イルカは指先をやや下にずらした。
「ヤマノきのこ、それは星読みと季節の教科書だな? 今は五大国の歴史の時間だぞ。ちゃんと正しい方の教科書を開け」
イルカは生徒が歴史の教科書のページを開くところを、席に近寄って見守る。
その寸前、確かにカカシに向かって茶目っ気のある眼差しを向け、ほんの一瞬片目を瞑ってみせた。
カカシは「ダウト」と宣言することもなく、静かに隠し部屋から出る。
口布の下で口元をにんまりと引き上げながら。
イルカの授業風景を期せずして間近で堪能できたカカシは、次はどこに行こうかと廊下でしばし佇んだ。
隠し部屋で一つ気が付いたのだが、普段なら絶対に邪魔をするなと怒鳴られるのに、今日は授業中のイルカを覗き見しても怒られなかった。
ということは、イルカも特上の昇級試験の件は承知の上なのだ。
なんならカカシに対して積極的に撹乱する為の行動をとっている。となると、里内どこに行っても『うみのイルカ』あるいは『イルカ』の接触が何度もあるのだろう。
ならばと本来ならまだイルカの勤務時間外の受付に向かってみた。
開け放たれたドアから受付に足を踏み入れると、思った通り綱手の隣には『うみのイルカ』が座っている。
「ハヤセ中忍おはようございます。今日は商人のイベント参加の護衛と、大名の息子の誕生日に忍術を見せるのとどちらが良いでしょうか……はい、では拘束時間の短い方で。ではこちらお願いしますね。はい、次の方どうぞ」
『うみのイルカ』は任務を貰いに来ている行列を鮮やかに捌いていて、とても偽者とは思えなかった。
とりあえず最後尾に並んで様子を観察するとその間もどんどん列は進み、依頼書を受け取った男がカカシの前から右側にどいて、パイプ椅子に座った『うみのイルカ』と向かい合う形になった。
「あれ、カカシさんは今日は待機ですよね?」
「なんだカカシ、暇なら任務をやろうか? ……あぁ、そういえばお前は今日一日アレだったな」
隣から口を挟んできた綱手が、カカシの首から下がったホイッスルを見てから『うみのイルカ』にチラリと目をやる。
「アレって何か別の任務でも請けてるんですか? 綱手様、ちょっとはたけ上忍を働かせ過ぎじゃないですか?」
普通なら中忍の分際でと咎められるようなことを、『うみのイルカ』が綱手に向かって平気な顔で言い放つ。
昇級試験のことをすっとぼけているのも大した度胸だが、どちらも本物ならさもありなんといったところだ。
カカシは身を屈めて『うみのイルカ』の耳をしげしげと見ると、その姿勢のまま言った。
「ダウト。でも惜しいね」
『うみのイルカ』の怪訝そうな顔が一転、悔しげに歪む。
そしてボフンと煙が上がると、そこにはまだ十代であろう若い男が座っていた。
その男は立ち上がると「ありがとうございました。それでは失礼します」と受付を出ていく。
その背中を見送った綱手が、カカシを横目で見て舌打ちを寄越した。
「せっかく有能な受付が増えたのに当てるんじゃないよ。ところでどこで分かったんだい? アタシから見ても、あの子の術はなかなかのもんだったよ」
「そうですねぇ、耳の形までちゃんとイルカ先生だったけど、残念ながら匂いが」
カカシの答えに綱手の綺麗に整えられた眉が片方、ぴんっと跳ね上がった。
「匂いだぁ⁈ あの子はわざわざイルカの着用済みのインナーを借りてきたと言ってたぞ。それなのに、なんで」
「それだから、ですよ。近くで嗅いだら彼からイルカ先生の二日目の匂いがしたんです。今朝は洗濯したてのを着てったはずなのに」
綱手の美しい顔が、説明を聞いている間にどんどん「うわぁ……」という表情へと歪んでいく。
「分かった分かった、もういいよ。お前もここにいる理由がなくなっただろ。さっさとお行き」
綱手が蝿でも追い払うようにシッシッと手で払う。
五代目火影の任命もあっての試験官なのにと、なんだか釈然としないままカカシは受付を出た。
その後、本部棟を出たところで『うみのイルカ』に昼食に誘われたのを断りついでに、
「ダウト。イルカ先生は混ぜごはんは嫌いだけど、炒飯は大好きだからね」
そして一楽でカウンターの隣に座った『うみのイルカ』が、カカシの奢ったグラスビールに口をつけたところで、
「ダウト。イルカ先生は午後も仕事があるんだから、酒は断るよ」
いったんイルカのアパートに戻って干してきた布団をしまおうとしたところで、同じく一時帰宅した『うみのイルカ』に、
「ダウト。イルカ先生は俺がいるなら、いちいち鍵をかけてから入ってこないよ。わりとおおらかで大ざっぱだからね」
待機所に戻ろうと民家のブロック塀の角を曲がった所で、なぜかセーラー服姿で食パンをくわえた『うみのイルカ(男)』とご丁寧にも避けずにぶつかったカカシは、尻餅をついてM字開脚をした相手の手を引いて立たせながら、
「ダウト。イチャイチャボーイミーツガールの出会い頭にぶつかる演出を再現したのは良かった。ものすごぉーーーーく良かった。でもねぇ、イルカ先生はイチャパラシリーズに興味がないから、こんなサプライズはしてくれないんだよね……」
ボフッと煙が上がった後に現れたのは、素朴ななりのくノ一だった。
カカシの心底残念そうな様子に、この時ばかりは装備研究開発部のくノ一も、悔しそうというよりは痛々しいとでも言いたげな顔で礼を述べてから去っていった。
カカシはその背中に向かって早口に続ける。
「セーラー服にあえての女体変化なしでそのまま来たそのセンスはものすごく良かった! これはちゃんと評価点をプラスしとくからね!」
カカシの言葉に振り返ったくノ一は、にっこりと笑顔を見せてから嬉しそうに駆けていった。
やっぱり男心を掴む演出はくノ一には敵わないなと、重々しく左右に首を振りながら腰のポーチから本を取り出して開く。
今日の携帯イチャパラはボーイミーツガールではなくイチャイチャアドベンチャーだったが、イチャパラシリーズを読みたい気分になったのだ。
本を片手に本部棟に戻ったカカシは、また受付へと足を踏み入れる。
夕刻のこの時間は綱手の姿もなく、女性の事務官と『うみのイルカ』ともう一人の中忍が帰還してきた忍たちをてきぱきと捌いていた。
今度は列に並ばずソファーに座って仕事中のイルカを眺めようと思ったのだが、カカシに気付いた『うみのイルカ』の方からそっと手招きをしてくる。
招かれるがままに近付くと『うみのイルカ』は立ち上がって席を外し、カカシの方に身を寄せて囁いた。
「今日の晩メシはこないだ言ってた牛めし屋に行きましょう。もうすぐ終わるので待っててくださいね」
「うーん、行かない」
まさか拒否されると思ってなかったのか、『うみのイルカ』は「えっ」と声まで上げてカカシを見返した。
カカシはその顔をしげしげと見返すと、ため息をつく。
「いろいろあるけど、まず一日の終わりに顔が溌剌としすぎ。それとイルカ先生はくノ一みたいな誘う表情はしないよ。あとこれが一番あり得ないけど、先生は個人的な事を伝えるために業務を放り出して俺の方に来るなんてしない。だからダウト」
カカシの宣言するようなダウトの声で、ボフンと上がった煙の後に顔に大きなバッテンマークを付けられた男が現れた。
男は憔悴しきった顔で礼を言うと、トボトボと受付を出ていく。
受付にいた者たちはしばらくざわめいていたが、受付机の向こう側に座る女性の事務官の「次の方どうぞ」の一声で、通常に戻った。
カカシもソファーに戻って腰かけると本を開く。
幾度も読んだイチャパラに心を踊らせながら、時折壁の時計に目を走らせつつ受付を眺めていた。
時計の針が十九時ぴったりを指すと、カカシは立ち上がって受付机の前に立ち、女性の事務官に声をかける。
「さ、帰ろ」
カカシのあまりにも堂々とした態度に、場が凍りついた。
イルカという付き合っているというか迷惑なほどラブラブしている相手がいるにもかかわらず、公衆の面前で浮気か⁈ と二人に目線が集中する。
果たして相手の女はどう出るのかと、固唾を呑んで見守っていると。
「……カカシさんは俺の女体変化を見たことなかったですよね。だから気付かないかもって思ったんですけど、甘かったか」
そう言って立ち上がった女性事務官が、手馴れた風に印を組んで「解」と呟いた。
だが煙が上がった後には、誰の姿もない。
カカシも、変化を解いたであろうイルカの姿も。
瞬身で帰宅したカカシは、抱えていたイルカをベッドに投げるようにして下ろした。
うわ、という声はカカシの口の中に消える。
唇を合わせ、舌を絡め合いながらもどかしげにベストを脱いで脱がせ、今さらサンダルを投げて脚絆をむしり取る。
こんなに性急なカカシは、任務が延長されて一ヶ月ぶりに帰ってきた時以来だなと、イルカは濃厚なキスでぼうっとし始めた頭の片隅で考える。
だがそれが最後の冷静な思考だった。
アンダーと鎖帷子をまとめて胸の上までたくし上げられ、貪るように胸を舐め回されて尖った乳首をきつく吸われる。
いつもの優しさや思いやり溢れる行為とはかけ離れた、欲望のままに奪う獣のカカシ。
それでもいつもの場所にローションをまとわせる時は、卓越した技術者の集中力でイルカの肉を柔らかく解していく。
欲望で荒くなる息遣いも、イルカの中を早く味わいたくて焦る乱雑な手つきも、それこそがイルカを悦ばせていることをカカシはまだ心から信じていない。
「はやく、ねぇはやく」
自分でも声に出している意識のないまま、イルカはカカシの肌を両の掌で撫で擦りながら急かした。
「まって、まって」
こちらも呟いている自覚のないままに、イルカを裏返して腰を高く上げさせた。
溢れたローションをたらりと垂らし、はくはくと収縮を見せ付けてイルカのいやらしい方の口がカカシを誘う。
「ねぇはやく……ぅ、ああ」
ようやく与えられた悦びに、ほとんどため息のような喘ぎがイルカの唇から零れ落ちた。
それからその甘い甘い声は、二人の身体の動きや体勢に合わせてベッドの上のあちこちで撒き散らされていく。
激しく動かされて、イルカの動きだけゆっくり鈍くなっていき。
「ん、あいしてるよ」
カカシだけにしか聴こえないイルカの呟きに答え、カカシもゆるゆると動きを止めた。
ベッドサイドの窓がコツコツ叩かれる音でカカシは目を覚ます。
布団に落ちる月の光の角度からして、まだ日付は変わってないようだ。
窓を叩くのは任務を告げる式鳥にしては、いつもよりかなりうるさい。コツコツというよりはガツンガツンだ。
闇夜のヒールの音みたいだなと思って窓を開けると、飛び込んできたのは夜目にも鮮やかな馬鹿でかい鳥だった。
「孔雀……⁈」
「んぁ? それなら闇夜の式ですね……」
半分寝ているような寝惚け声でイルカが呟く。
孔雀(オス)はスタスタと床を歩いてベッドから距離をとると、いきなり飾り羽をバサリと広げた。
イルカの寝室は六畳でセミダブルのベッドが大半を占めているので、そんなことをされたら羽があちこちにぶつかってしまう。
「待て、歩くな! 羽をワサワサ揺らすな! ほら折れて散らばってるぞ! あーっ飛ぶな! え、孔雀って飛べたっけ⁈」
動揺して珍しく大騒ぎするカカシを尻目に、イルカはすよすよと眠っている。
疲れさせた自覚はあるので助けは期待できないと、カカシは起き上がってベッドから出ると孔雀と対峙した。
孔雀はまだワサワサと広げた飾り羽を揺らしている。これが飛ぶための予備動作なのか、それともカカシかイルカへの求愛行動なのか、さすがに孔雀の生態にそこまで詳しくないカカシには分からなかった。
だがイルカは先ほど、闇夜の式だと言っていた。
ならば二人のうちどちらかが触れれば、紙片に変わるかメッセージを再生するか、とにかく何らかの式らしい仕掛けが発動するはずだ。
「そのためには、お前に触らなきゃならないって訳ね」
カカシの言葉を理解したのかしてないのか、孔雀はツンとくちばしを上げた。
そして。
「キィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ」
絞め殺されたのかと思うような奇声を上げ、孔雀が飛びかかってきた。
とっさにイルカの前に立ちふさがって孔雀を叩き落とそうとすると、背後から何かが飛んでいった。
「うるせぇぞ闇夜っ!」
イルカが投げ付けたのは枕で、チャクラをまとわせていたらしい。
枕がボカッと当たったとたん孔雀は巻物へと姿を変え、床に落ちて転がる。
さすがは幼馴染みだと、イルカの的確な対処に感心しながら拾い上げて開くと、今日の試験の評価をまとめて記入し、明日の朝一番で装備研究開発部に提出するようにと付箋が貼ってあった。
試験官は偽者にダウトと言うだけで終わりではなかったようだ。
「そういえば、イチャイチャボーイミーツガールのあの子に高い評価点をあげるって約束したっけ」
カカシは枕を投げ付けるために布団から飛び出してしまったイルカに布団を肩までかけ直すと、隣の部屋の卓袱台の前に座って巻物に筆を走らせた。
数日後、装備研究開発部の昇級試験を受けた三人のうち、二人に闇夜が合格を告げた。
十代の男とくノ一は揃って喜んだが、それでも少し不思議そうに口々に問いかける。
「あの、とっても嬉しいんですけど、なんで合格できたんでしょうか」
「確かに自分では良い出来だったけど、それでもはたけ上忍にはすぐ見破られたのに」
その様子に闇夜は人差し指をぴんっと立て、左右に振りながらチッチッと舌を鳴らした。
「かわいこちゃんたち、失敗イコール不合格ではないのよ。どれだけ工夫して効果的な偽装をしたか、その内容が大事なの。あなたたちはオリジナリティ豊かでマーベラスでチアフルなイルカになったわ。とっても素晴らしかったわよ」
そう言って二人にゴテゴテにデコった特別上忍昇級試験合格証を手渡す。
それから不合格だった男に向かって、艶めくチェリーレッドの唇を開いた。
「あなたは惜しくもはたけ上忍への理解度が足りなかったわ。誰かになりすますのは、その人間個人に似せれば良いだけじゃないのよ。人はだいたい生きていれば誰かと関わっているもの。周囲の人から見た対象の個性も織り込んだ上で偽装してこそ、パーフェクトオブパーフェクトと言えるのよ」
そしてレインボーカラーの睫毛をバサバサさせながら、三人に向かってバチンと音がしそうなウインクをして微笑む。
「今回は有り難いことにはたけ上忍に試験官をお願いできたけど、あの人のイルカへの執着と解像度は一般的なレベルを遥かに超えてるわ。彼相手じゃあたしでも難しいわね。彼から見たら、イルカ以外の世界中がダウトよ」
【完】
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