【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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イルカの生活は、カカシと過ごす時間とそれ以外という、至ってシンプルなものになった。
窓も時計もない部屋で、時間の経過はまったく分からない。
誰とも会話せず白い壁に囲まれ、何も起こらず累々と積み重なっていく時間にイルカの精神は疲弊していった。
外界との唯一の接点がカカシで、言葉を交わせるのも彼一人。
この状況をもたらしたのもカカシだということは、既に問題ではなくなっていた。何を言おうと、何度願おうとも、彼にイルカを解放する気はないのだから。
カカシが時折ぽつりともたらす里の皆の様子などを、イルカは飢えたように貪り聞き入った。「みんな元気にしてるよ」の言葉に安堵し、季節を思わせる話題の全くないことには気付けなかった。彼のまとう外の空気すら懐かしく、するなら支給服を着たまましてくれと頼んだこともある。
カカシが数日以上の任務に出る時はチャクラ抑制バンドが調節され、一人で楽に身の回りのことを出来る程度には動き回れたが、それ以外の時はただひたすら世話を焼かれ、媚薬を使った行為に耽るだけの日々だった。
「ん……ぁ、も、むりぃ」
「大丈夫、まだ我慢できるでしょ」
とろりと切ない目で見上げるイルカの性器は、赤い絹紐で戒められていた。
陰嚢から陰茎まで編み上げられ、先端の割れ目に食い込んでいる様は一つの芸術品のようだった。
その割れ目を通る部分を紐に沿って撫でると、絹紐がきしりと音を立てて陰茎が揺れ、カカシを呑み込んだ柔肉が搾り上げるようにざわめく。
「ふあ、ぁあ……おねがぃ、カカシさ……」
黒髪を振り乱し、泣きながら解放を乞い願うイルカに、結局それを聞き入れてしまう自分にカカシは小さく舌打ちすると紐の結び目を引いた。絹紐はそのひと引きでしゅるりと容易く戒めを解き、イルカの腰が跳ね上がると同時に白濁液が勢いよく吐き出される。
ようやく解放された悦びを堪能しているイルカの顔を、カカシが片手で掴んだ。
「……我慢できない悪い子にはお仕置きが必要だよね。そう思うでしょ、『イルカ先生』?」
久しぶりに聞いた先生の呼称に、愉悦の海をたゆたっていたイルカの視線が、カカシのもう片方の手に向けられる。顔の前に突き出された手には、銀色の細い棒が握られていた。
「これはね、ブジーっていうの」
怪訝な顔をするイルカに、カカシは意地悪く薄く笑む。
そして吐精してくたりと腹に横たわるイルカの性器を持ち上げると、慣れた手付きで育て始めた。
「や、まだイってる、ぅう、うぁ、あんッ」
イルカの抵抗は言葉だけで、陰茎はたちまち芯を持ち嬲られる悦びに震え出した。
「ここは素直で可愛いね。でも我慢できないのは駄目だよねぇ、先生?」
カカシがにこにこしながら膨れ上がった亀頭の割れ目に金属の棒――ブジーを横倒しにして沿わせ、ぬるりと滑らせた。
「ひぅ……っあ、ひぁ、ぁああッ!」
ブジーは棒を捻り上げたねじのような形状をしていて、螺旋を描く側面が割れ目を往復する度に強すぎる刺激が走る。だが媚薬の効能か、その痛みすら快感の奔流となりイルカの全身を襲った。
カカシは笑みを残したまま、ゆるゆると腰を使いイルカの悦楽を後押しする。
「……そろそろいいかな。見て、イルカ。これはこうやって使う物なんだよ」
ブジーの細い尖端が、先走りの溢れる割れ目で口を開けている小穴に宛がわれた。
「うそ……やめ、そんな、の、……や、ぁ……ぁあう!」
信じられない、と見開いたイルカの目の前で、銀色の棒がゆっくりと陰茎に呑み込まれていく。
ひ、ひ、と短く呼吸を繰り返すイルカに、カカシが糖蜜を溶かした声で囁きかけた。
「ほぉら、栓をしたから、これでちゃんと我慢できるねぇ? イルカはちょっと痛いくらいの方が大好きだから、お仕置きにならないかもしれないけど」
ブジーはほとんど根元まで差し込まれ、リングだけが陰茎から突き出ているという衝撃的な光景を前に、イルカは一時言葉を無くした。そんなイルカに構うことなく、カカシはリングに指をかけるとゆらゆらと動かし愉しげに弄び始める。
「抜いて、おねが……っ、抜いてぇ」
「抜いちゃっていいの?」
にこりと笑みを返したカカシは、だがその笑みに反した容赦なさで、ずりゅりとブジーを半分ほど引いた。
「……! っく、~~~ッ」
これが痛みなのか快感なのかも分からないまま、その奔流をやり過ごすことも解放することもできずに、イルカは言葉にならない声を上げ続けた。
「すっごく気持ちよさそう。ぐちゃぐちゃになって悦んで……可愛いよイルカ」
慈しむように肉棒を撫でていた手で今度は全体を包み込むと、掌とブジーを同時にゆっくりと上下に動かし始める。丹念すぎる愛撫を施されたイルカの性器は、くっきりと浮き出た静脈が限界を超えたことを示し、内側は痙攣してカカシの剛直を咀嚼するかのように喰らっていた。
次の瞬間、息を呑むほどの衝撃がイルカの下半身を襲い、全身を駆け抜けた。
カカシが腰を引き、内側のある一点をめがけて突き入れてきたのだ。
「……っあ⁉ は、ぁう! あんッ」
「今度は、どこまで、頑張れる、かな……っ」
カカシの笑みが獰猛な獣のように歪み、何度も何度もそこを抉り上げる。その度にイルカの眼裏に星が飛び、激しい痺れにも似た快感が怒涛の如く押し寄せた。今すぐにでも射精しそうな感覚はあるのに、放出口が塞き止められているせいでそれは叶わない。いっそ暴力的なほどの悦楽に、イルカは泣きじゃくりながら解放をねだった。
「だぁめ。もっと凄いところまでイっちゃいな」
その言葉と共に、ずぐんと奥を突く。
堪らずしがみついたカカシの背に、イルカの指先が引いた傷痕が赤く浮かび上がった。
「ら、めぇ……あ、ぁ……?」
一際大きく痙攣し、のけ反った喉をひくんと鳴らしたきり、イルカの身体が崩れ落ちる。
「あー、イっちゃったね。ブジー突っ込まれて空イキするなんて、イルカはホントに淫乱だなぁ」
カカシはくすくすと笑いながら、意識を飛ばしたイルカの身体を尚も嬉しげに穿ち続けた。
「俺しかここまで連れていけないよね? これでイルカはもう俺じゃないとダメだよね?」
「ああイルカ、可愛いよ……愛してる」
くたりと横たわり、人形のようにされるがままのイルカをきつく抱きしめたまま。
カカシはこれこそが愛だと信じている言葉を囁き続けた。
ふ、とイルカの意識が戻る。
上体が起こされ、カカシの胸にもたれてホットタオルで体を拭かれているようだ。
アンダーのごわつく布が顔に当たる感触と、土の匂い。
今日は土遁の術でも使用したのか、カカシの全身から強く香る土の匂いに懐かしさが溢れ、支給服を着たまましてくれと願ったことを思い出した。
カカシはベストとポーチ、額宛を外しただけの姿で挑みかかってきたので、腿に巻かれたバンデージはそのままだった。
――そこに差してあるクナイも。
イルカはほとんど無意識に、忍というよりは獣のような動きでその一本を奪い、床に転がって距離を取った。
ふらつきながらも立ち上がりクナイを構えたイルカを、カカシは至って冷静な目で見やる。
「なに、仕返し? それとも俺のこと殺したいの?」
カカシは猛禽類が極上の獲物を前にしたかのように、うっとりと目を細めると両腕を広げた。
「いいよ、ほら。俺のチャクラが消えたら、イルカはここから出られるよ?」
殺傷能力のある武器を無防備に受け入れようとするカカシに、イルカは一瞬怯んだ。
カカシは尚も腕を広げたまま、唄うように続ける。
「俺に傷を付けたら、一生忘れないでいてくれるでしょ? イルカはそういう人だもんねぇ。ころしたりしちゃったら、イルカはずっと俺のことだけ想って生きてくれるよね。ずっと、ずうーーーっと」
想像上のクナイに貫かれながら愉悦の笑みを浮かべるカカシを、瞬きもできずに見ていたイルカは、不意に硬直から解けたように一度ぶるりと身を震わせた。
そしてぐっと唇を噛みしめると。
左手で自らの髪を大きく一束掴み、そこにクナイを当てた。
真っ直ぐカカシを見据えながら。
「待っ………」
ざくりと重い音がして、伸ばしたカカシの右手の先に投げ付けられた毛束が散らばった。
カカシが丁寧に洗い櫛梳り、慈しんだぬばたまの黒髪が。
一瞬、無惨な切り口から血が流れ出るのではと本気で思ってしまった。
そしてイルカは。
その間もイルカは、ひたりとカカシを見据えていた。
「イル、カ……?」
震える呼びかけにも応えず静かに見返してくる黒い双眸には、怒りはなかった。
ただ、補食される獲物のものとは思えないほどの強い光が宿るのみだ。
「……ルカ、……愛してるんだイルカ」
遠吠えのように、悲鳴のようにカカシの口から愛とイルカの名が迸る。
カランと乾いた音が響き、投げ捨てられたクナイが床を滑ってカカシの足元にぶつかった。
それが合図となったかのように、カカシがイルカに飛びかかった。
抗いもしないイルカの身体をベッドに引き倒し、うつ伏せに転がす。だがシーツにざんばらの黒髪が乱れ広がるのを見て、のし掛かったカカシの動きが止まった。
「もう、しないんですか」
ゆるりとこちらを向いたイルカの表情は、悦楽をねだる者のそれではなかった。
虚ろな目でカカシを単なる体への侵入者としか見ていない冷えきった面持ちで、その口から零れるのは、面倒ごとを事務的に捌くかのような声音。
カカシは今にも泣き出すかのような歪んだ笑みを浮かべるとイルカの尻肉を割り開き、わざとぐぷりと音を立てて中に押し入る。惰性で続けられる抽挿をただ黙って受け入れている内に、イルカは背にぽたり、ぽたりと何かが落ちるのを感じた。
「……こんなに好きって言っても、伝わらないんだね」
ぽつんとカカシが呟く。
――好き? これだけのことをして、まだ好きだとどの口が言うのか。
イルカは乾いた笑い声を上げた。
それに気付いてもいないのか、カカシの呟きが続く。
「あと何をあげたらいい? イルカは何が欲しい? ねぇ、どうしたら俺の愛が伝わるの?」
「俺は何もいらない!」
激昂したイルカが半身を起こし、振り返って叫んだ。
「いらなかったんだ……ただ、あんたを好きでいたかっただけだ……それだけで良かった! あんたは愛を押し付けてるだけじゃないか! 俺の全部が欲しいってほざくくせに俺からは何も欲しがりもしないで……俺の愛はいらないのかよ⁉ 俺は……俺はあんたの人形じゃないっ」
イルカの目に涙が溢れた。
囚われ、自由を奪われてからずっと抑えていた、カカシに向けての初めての涙だった。
それを目の当たりにしたカカシは、思わず手を差し伸べて涙を受けようとしたが、もたつきながら振り払う腕に拒絶された。
「ここから出せよ……俺が本当に必要じゃないなら、もう自由にしてくれよ……っ」
「イルカ、泣かないでイルカ、俺はただ……ああ、もう誰も喪いたくないだけなんだ……」
両手で顔を覆ったカカシが身を引くと、イルカの内からずるりと性器が抜ける。その衝撃に小さく呻いたイルカは、どこまでも噛み合わない会話に疲れを感じて倒れ込み、枕に顔を埋める。
だがふと、カカシの言う『もう誰も喪いたくない』に引っ掛かりを覚えて顔を上げた。
この監禁がなぜそこに繋がるのか。
単に自分を我が物にしようと閉じ込めたのではなかったのかと、イルカは訝った。
そういえば最初にこうも言っていた――『大事にしまっておかないと』、と。
「……カカシさん。俺を閉じ込めておく理由は何ですか。いったい外で何が起きているんですか……?」
その問いでカカシはゆっくりと顔を覆っていた両手を下ろした。
そこに現れたのは、今まで見たことのないような感情のごっそりと抜け落ちたカカシの顔だった。
――だがイルカは昔、その顔を鏡に見たことがある。
夜中に目覚めて家の中に両親はいないと、自分はたった独りなのだと自身に認めてしまった時の顔がこうだった。
絶対的な孤独。
それに囚われた表情が、今目の前のカカシに張り付いている。
「……もうすぐ大戦が始まる。忍の里全てを、いや世界中を巻き込む大きな戦。もう、すぐ」
抑揚のない声音で唐突にカカシが喋り出す。
「オビトもリンもミナト先生もクシナさんもみんなしんじゃった。アスマも三代目も。みんなみんなしんじゃうの」
イルカは体を起こすと、瞬きもせずカカシを見つめながらその口から溢れる言葉に聞き入った。
「強くても賢くても速くてもみんなしんじゃうの。みんなみんな俺をおいてしんじゃうの。カカシ、よろしくね、あとは頼んだよってしんじゃうの。俺、がんばったよ? でもね、俺ががんばってもみんなしんじゃうの」
カカシが真っ直ぐイルカを見る。
左右色違いの眸が、揺れながらも真っ直ぐにイルカを射抜く。
なのにその視線はイルカを通り抜け、どこか遠くを見ているようだった。
――まるで目の前のイルカすら、この世にいないかのように。
「俺は誰も護れない。もしイルカが……イルカまでしんじゃったら? そんなのもう……俺は、………無理だ」
灰蒼色と深紅の眸から、等しく透明な涙が溢れ落ちた。
カカシの身の内から小さな震えが、やがて大波のように体の表面に溢れ出す。
「だからね、イルカはここにしまっておくの。大事に、大事に。それでね、いつか俺のことを思い出して。イルカのことをあいしてた、俺のことを」
涙を頬に伝わせたまま、静かにカカシが微笑んだ。
それはとても柔らかく愛しげな、まさに愛を語る笑みで。
イルカのむき出しの腿の上に、ぽたり、ぽたりと何かが落ちた。
それが何なのか確かめることもせず、イルカはただカカシを見つめた。
……やっと。
やっとカカシの真意が見えた気がした。
木ノ葉が、忍界全体がざわついているのは、内勤のイルカでも肌で感じていた。常に最前線にいるカカシがそう言うのならば、間違いなく大戦は起きるのだろう。
その戦は百戦錬磨のカカシがここまで動揺し、イルカを監禁するという異常行動に駆り立てるほどの終末的なものなのか。
その答はイエスであり、ノーでもあるだろう。
たとえ世界の存続が危ぶまれるくらいの大戦でも、カカシは躊躇なく最前線に立つ男だ。それだけの器と資質を備えていると誰もが、当然の如くイルカも知っていた。
だが、イルカの存在がカカシを狂わせた。
正確には無意識下で静かに壊れ続けてきた部分が、イルカという最後の一滴に耐えきれず溢れてしまったというところか。
そこまで深く強く想っていながら、カカシは知らなかったのだ。
愛の表し方を。
大事にすると言いながらイルカを責め苛み、その口でまた優しい言葉を吐く。全部欲しいと言いながら、全部あげると言いながら本当の意味で全部もらえると思ってはいない。破壊衝動に囚われているのかと思うほどに二人の関係を滅茶苦茶にしながら、愛を伝えようと必死だった。
その支離滅裂さがイルカにはずっと怖かった。
だが支離滅裂で当たり前だったのだ。
カカシは今も、いや今までも、自分の死を前提に二人の関係を築こうとしていたのだから。愛し方を知らないままに。
――憐れむな。
イルカは奥歯をぐっと噛みしめて、こみ上げるものを抑えた。
かわいそうと言うのは簡単だ。
あまりにも簡単で、カカシを軽んじているのと同義だ。
人と繋がることも、人に心を預けることも自分に許さずひた走ってきた忍。いや、ひた走るうちにその方法をいつしか忘れてしまったのかもしれない。カカシにも無心に寄り添える相手はいたはずだ。遠い幼き頃まで遡れば。
誰よりも強く、誰よりも前を走るというのは、ここまで苛酷で孤独なのだろうか。
自分たちより上の世代は何よりも強さが重視され、里のために生きて死ぬことを良しとされてきたことはイルカも知っていた。そのため情操教育が置き去りにされてきたことも。
だがそういったことは全て後回しにして、今はただカカシを抱きしめたかった。
こんなにも自分を全身全霊で求める者に手を伸ばさずには、心を寄せずにはいられないという思いだけがイルカの中から溢れていた。
「カカシさん、この抑制バンドを外して下さい。あなたがいるのに逃げられっこないんだから、何の問題もないでしょう? 今、俺……すっごくあなたを抱きしめたい気分なんです」
カカシの焦点が目の前のイルカに戻ってきた。
だが、この期に及んでも自分がイルカから何かを、温かい抱擁を得られるとは思ってないであろう怪訝な顔をしている。
「ほら早く、これを外して。それであなたを力いっぱい抱きしめさせて」
カカシの手がおずおずと伸びて、イルカの両手、両足に嵌まったバンドを順に外す。最後のバンドがかちりと音を立てて外れると、イルカの内側でチャクラが一気に巡り出すのを感じた。
イルカは両腕を差しのべ、カカシを抱き寄せる。
「……あったかいですね」
深く息を吸い込むと、身動き一つしないカカシを更にきつく抱きしめた。それでもカカシは黙ってされるがままにいる。イルカは一旦体を離し、カカシの手をとった。そしてその手を自分の胸に、心臓の真上に当てる。
「……分かりますか?」
とくん とくん とくん とくん
イルカの規則正しく、力強い鼓動がカカシの掌に伝わる。
「俺、生きてます。今、こうやって生きてるんです」
「………ん」
「ね、俺を見てカカシさん。今あなたの目の前の、生きてる俺をちゃんと見て」
カカシの顔が上がり、ふたいろの眸がイルカを写す。
自分を真っ直ぐに見て、微笑みを浮かべるイルカの顔を。
「………うん、生きてる。あったかい」
ふ、とカカシの目元が和らいだ。
「俺もあなたも生きてる。いつかは死ぬかもしれないけど、それは誰でも同じです。俺もあなたも、今、こうやって生きてます」
「うん」
「俺が死んでしまうのが怖いなら、そう言ってくれれば良かったんです。いついかなる時でも一緒にいられる方法を、俺は知ってるんだから」
「え、どうやって⁉ 何かの術?」
カカシの顔に、この地下室で初めて見せた『いつもの表情』が浮かんだ。イルカのよく知る、ちょっととぼけたようなカカシの、慌てて焦る顔。
それがたまらなく嬉しくて、イルカは不意に泣きたくなった。
「……その前にカカシさん。あなたは俺のこと好きですか?」
「うん、はい、好きです。誰より大事で大好きです」
間髪入れずに答えるカカシは、なぜか愛という言葉を使わなかった。
愚かな愛し方をしてしまったとしても、カカシは元来聡い。既に自分の愛のあり方の間違いをなんとなく覚りつつあるのだろうと、イルカは柔らかく微笑んだ。
「俺もです。あなたのことを大切にしたいって思ってます」
びくりとカカシの体が揺れる。
やはり自分が愛されることを恐れていたのだなと、胸に当てたカカシの手に自分の指を絡めて握りながら、イルカは内心ため息をついた。それを気取られないよう、手をきゅっと握り直すと、もう片方の手でカカシのアンダーをめくり上げた。
そして身を屈めると、動揺して身を引き気味のカカシの心臓の真上に口付けた。
押し当てた唇に、カカシの鼓動が伝わる。そこに今の気持ちを、この世のあらゆるあたたかいもの、嬉しいもの、幸せなもの、そういうものでカカシを包んでやりたいという想いをありったけ込めて、祈るように唇を押し当てた。
「……ここに、俺の気持ちの欠片を込めておきました。これは二人がお互いに想い合っていると、できることなんです。これで俺はいつでもあなたと一緒です」
「ここに、イルカが……」
ほう、と満足げなため息をついて、カカシは自分の胸元を見下ろし目元を染めた。
「カカシさんも俺にして下さい」
「俺も⁉ いい、の……?」
カカシはごくりと喉を鳴らすと恐る恐る身を屈め、恭しくイルカの胸に口付ける。神聖な儀式に臨むかのようにそっと唇が触れ、そして惜しむように離れていった。
顔を上げたカカシはゆっくりと目を開け、真摯な眼差しをイルカに向ける。それを真正面から受け止め、イルカは一言一言を言い聞かせるように告げた。
「形あるものはいつか消えます。でも気持ちや言葉は、あなたが忘れてしまわない限りずっとあなたの中にあります。いつでも、どこにいようとも。……カカシさん、あなたは監禁なんてバカなことをする必要なんてなかった。ただ、俺に気持ちを伝えてくれれば良かったんですよ。それだけで俺は……」
イルカはカカシの頬に手を添えると、唇を合わせた。
そして額を合わせ、その笑みをくしゃりと泣き笑いに変える。
「あなたはほんとにバカですねぇ。バカで……いとおしいです」
「……ごめんなさいイルカ先生。好き。だいすき」
自分の頬に当てられたイルカの手を包み込んで、カカシはごめんなさいと好きを繰り返した。何度も、何度も。
イルカはその口を人差し指で優しく塞ぐと、もう一度唇を押し当てた。
それからカカシの背中に腕を回し、引き寄せながら後ろへと倒れ込んだ。
イルカは間近でカカシの色違いの眸を覗き込むと、いまだ残る戸惑いの色を見て優しく笑んだ。
「愛し合いましょう、カカシさん。セックスじゃなくて。俺の愛し方を教えるので、あなたの愛し方も俺に教えて下さい」
「俺の、愛し方……?」
「そうです。俺は優しくしたい、気持ち良くしてあげたい、あなたと一つになりたいって気持ちを込めて、それを伝えるために愛し合いたいです……こんな風に」
そう言うとイルカはカカシの頬を両手で包み、額に、瞼に、鼻の先に、口元の黒子に、そして唇にゆっくりと順繰りに啄むようなキスをした。
カカシは初めはきゅっと固く目を閉じていたが、次第にそれを受け入れ、再び目を開けた時には恍惚とした表情を浮かべていた。
「これが、イルカの愛」
「カカシさんは? カカシさんのも教えて」
カカシは少し目線を下げて考え込むと、自信なさげにイルカのしたキスをなぞるように繰り返した。それをうっとりと受けたイルカは閉じていた目を開け、そっと、だが熱の籠った声で囁く。
「……来て。俺の中で、俺を感じて」
その言葉で愛に欲が加わり、カカシの目に熱が宿る。
既にイルカを欲していた熱情の塊を、カカシはゆっくりと圧し入れた。
先ほどまでの狂乱の名残がぐぷりと音を立てて溢れ、吐き出される。
躊躇いながらも半分ほどまで押し進めると、イルカが両足でカカシの腰を抱え込み、更に奥深くへと誘った。
お互いに見つめ合いながら、ゆるゆると腰を揺らしながら、時折キスを交わし、愛しさを乗せた目で微笑み合う。
髪を撫で、頬に触れ、立ち昇る興奮の匂いを嗅ぎ、互いの吐息を重ね、ぴたりと触れ合った肌と肌から、繋がった処から熱を分かち合い。
鋭敏になった五感で、お互いの全てを感じ取る。
「あぁ……カカシさん」
「……イルカ」
万感の想いを込めた呟きがイルカの唇から零れ、それを掬い取るようにカカシが応える。
一方的でない愛の交歓は、激しさも気が狂うような絶頂もない代わりに、ただただ穏やかで。
安らぎにも似た緩やかな愉悦と、泣きたくなるほどの絶対的な安心感だけが、寄せては返す波のようにカカシの中へ繰り返し巡ってくる。
イルカの逞しい腕と脚、そして柔らかい肉に包まれながら、カカシはずっとこうしていたいと思った。
許されることなら、イルカの作り出すどこまでも甘くて優しい檻に、ずっと囚われていたいと。
窓も時計もない部屋で、時間の経過はまったく分からない。
誰とも会話せず白い壁に囲まれ、何も起こらず累々と積み重なっていく時間にイルカの精神は疲弊していった。
外界との唯一の接点がカカシで、言葉を交わせるのも彼一人。
この状況をもたらしたのもカカシだということは、既に問題ではなくなっていた。何を言おうと、何度願おうとも、彼にイルカを解放する気はないのだから。
カカシが時折ぽつりともたらす里の皆の様子などを、イルカは飢えたように貪り聞き入った。「みんな元気にしてるよ」の言葉に安堵し、季節を思わせる話題の全くないことには気付けなかった。彼のまとう外の空気すら懐かしく、するなら支給服を着たまましてくれと頼んだこともある。
カカシが数日以上の任務に出る時はチャクラ抑制バンドが調節され、一人で楽に身の回りのことを出来る程度には動き回れたが、それ以外の時はただひたすら世話を焼かれ、媚薬を使った行為に耽るだけの日々だった。
「ん……ぁ、も、むりぃ」
「大丈夫、まだ我慢できるでしょ」
とろりと切ない目で見上げるイルカの性器は、赤い絹紐で戒められていた。
陰嚢から陰茎まで編み上げられ、先端の割れ目に食い込んでいる様は一つの芸術品のようだった。
その割れ目を通る部分を紐に沿って撫でると、絹紐がきしりと音を立てて陰茎が揺れ、カカシを呑み込んだ柔肉が搾り上げるようにざわめく。
「ふあ、ぁあ……おねがぃ、カカシさ……」
黒髪を振り乱し、泣きながら解放を乞い願うイルカに、結局それを聞き入れてしまう自分にカカシは小さく舌打ちすると紐の結び目を引いた。絹紐はそのひと引きでしゅるりと容易く戒めを解き、イルカの腰が跳ね上がると同時に白濁液が勢いよく吐き出される。
ようやく解放された悦びを堪能しているイルカの顔を、カカシが片手で掴んだ。
「……我慢できない悪い子にはお仕置きが必要だよね。そう思うでしょ、『イルカ先生』?」
久しぶりに聞いた先生の呼称に、愉悦の海をたゆたっていたイルカの視線が、カカシのもう片方の手に向けられる。顔の前に突き出された手には、銀色の細い棒が握られていた。
「これはね、ブジーっていうの」
怪訝な顔をするイルカに、カカシは意地悪く薄く笑む。
そして吐精してくたりと腹に横たわるイルカの性器を持ち上げると、慣れた手付きで育て始めた。
「や、まだイってる、ぅう、うぁ、あんッ」
イルカの抵抗は言葉だけで、陰茎はたちまち芯を持ち嬲られる悦びに震え出した。
「ここは素直で可愛いね。でも我慢できないのは駄目だよねぇ、先生?」
カカシがにこにこしながら膨れ上がった亀頭の割れ目に金属の棒――ブジーを横倒しにして沿わせ、ぬるりと滑らせた。
「ひぅ……っあ、ひぁ、ぁああッ!」
ブジーは棒を捻り上げたねじのような形状をしていて、螺旋を描く側面が割れ目を往復する度に強すぎる刺激が走る。だが媚薬の効能か、その痛みすら快感の奔流となりイルカの全身を襲った。
カカシは笑みを残したまま、ゆるゆると腰を使いイルカの悦楽を後押しする。
「……そろそろいいかな。見て、イルカ。これはこうやって使う物なんだよ」
ブジーの細い尖端が、先走りの溢れる割れ目で口を開けている小穴に宛がわれた。
「うそ……やめ、そんな、の、……や、ぁ……ぁあう!」
信じられない、と見開いたイルカの目の前で、銀色の棒がゆっくりと陰茎に呑み込まれていく。
ひ、ひ、と短く呼吸を繰り返すイルカに、カカシが糖蜜を溶かした声で囁きかけた。
「ほぉら、栓をしたから、これでちゃんと我慢できるねぇ? イルカはちょっと痛いくらいの方が大好きだから、お仕置きにならないかもしれないけど」
ブジーはほとんど根元まで差し込まれ、リングだけが陰茎から突き出ているという衝撃的な光景を前に、イルカは一時言葉を無くした。そんなイルカに構うことなく、カカシはリングに指をかけるとゆらゆらと動かし愉しげに弄び始める。
「抜いて、おねが……っ、抜いてぇ」
「抜いちゃっていいの?」
にこりと笑みを返したカカシは、だがその笑みに反した容赦なさで、ずりゅりとブジーを半分ほど引いた。
「……! っく、~~~ッ」
これが痛みなのか快感なのかも分からないまま、その奔流をやり過ごすことも解放することもできずに、イルカは言葉にならない声を上げ続けた。
「すっごく気持ちよさそう。ぐちゃぐちゃになって悦んで……可愛いよイルカ」
慈しむように肉棒を撫でていた手で今度は全体を包み込むと、掌とブジーを同時にゆっくりと上下に動かし始める。丹念すぎる愛撫を施されたイルカの性器は、くっきりと浮き出た静脈が限界を超えたことを示し、内側は痙攣してカカシの剛直を咀嚼するかのように喰らっていた。
次の瞬間、息を呑むほどの衝撃がイルカの下半身を襲い、全身を駆け抜けた。
カカシが腰を引き、内側のある一点をめがけて突き入れてきたのだ。
「……っあ⁉ は、ぁう! あんッ」
「今度は、どこまで、頑張れる、かな……っ」
カカシの笑みが獰猛な獣のように歪み、何度も何度もそこを抉り上げる。その度にイルカの眼裏に星が飛び、激しい痺れにも似た快感が怒涛の如く押し寄せた。今すぐにでも射精しそうな感覚はあるのに、放出口が塞き止められているせいでそれは叶わない。いっそ暴力的なほどの悦楽に、イルカは泣きじゃくりながら解放をねだった。
「だぁめ。もっと凄いところまでイっちゃいな」
その言葉と共に、ずぐんと奥を突く。
堪らずしがみついたカカシの背に、イルカの指先が引いた傷痕が赤く浮かび上がった。
「ら、めぇ……あ、ぁ……?」
一際大きく痙攣し、のけ反った喉をひくんと鳴らしたきり、イルカの身体が崩れ落ちる。
「あー、イっちゃったね。ブジー突っ込まれて空イキするなんて、イルカはホントに淫乱だなぁ」
カカシはくすくすと笑いながら、意識を飛ばしたイルカの身体を尚も嬉しげに穿ち続けた。
「俺しかここまで連れていけないよね? これでイルカはもう俺じゃないとダメだよね?」
「ああイルカ、可愛いよ……愛してる」
くたりと横たわり、人形のようにされるがままのイルカをきつく抱きしめたまま。
カカシはこれこそが愛だと信じている言葉を囁き続けた。
ふ、とイルカの意識が戻る。
上体が起こされ、カカシの胸にもたれてホットタオルで体を拭かれているようだ。
アンダーのごわつく布が顔に当たる感触と、土の匂い。
今日は土遁の術でも使用したのか、カカシの全身から強く香る土の匂いに懐かしさが溢れ、支給服を着たまましてくれと願ったことを思い出した。
カカシはベストとポーチ、額宛を外しただけの姿で挑みかかってきたので、腿に巻かれたバンデージはそのままだった。
――そこに差してあるクナイも。
イルカはほとんど無意識に、忍というよりは獣のような動きでその一本を奪い、床に転がって距離を取った。
ふらつきながらも立ち上がりクナイを構えたイルカを、カカシは至って冷静な目で見やる。
「なに、仕返し? それとも俺のこと殺したいの?」
カカシは猛禽類が極上の獲物を前にしたかのように、うっとりと目を細めると両腕を広げた。
「いいよ、ほら。俺のチャクラが消えたら、イルカはここから出られるよ?」
殺傷能力のある武器を無防備に受け入れようとするカカシに、イルカは一瞬怯んだ。
カカシは尚も腕を広げたまま、唄うように続ける。
「俺に傷を付けたら、一生忘れないでいてくれるでしょ? イルカはそういう人だもんねぇ。ころしたりしちゃったら、イルカはずっと俺のことだけ想って生きてくれるよね。ずっと、ずうーーーっと」
想像上のクナイに貫かれながら愉悦の笑みを浮かべるカカシを、瞬きもできずに見ていたイルカは、不意に硬直から解けたように一度ぶるりと身を震わせた。
そしてぐっと唇を噛みしめると。
左手で自らの髪を大きく一束掴み、そこにクナイを当てた。
真っ直ぐカカシを見据えながら。
「待っ………」
ざくりと重い音がして、伸ばしたカカシの右手の先に投げ付けられた毛束が散らばった。
カカシが丁寧に洗い櫛梳り、慈しんだぬばたまの黒髪が。
一瞬、無惨な切り口から血が流れ出るのではと本気で思ってしまった。
そしてイルカは。
その間もイルカは、ひたりとカカシを見据えていた。
「イル、カ……?」
震える呼びかけにも応えず静かに見返してくる黒い双眸には、怒りはなかった。
ただ、補食される獲物のものとは思えないほどの強い光が宿るのみだ。
「……ルカ、……愛してるんだイルカ」
遠吠えのように、悲鳴のようにカカシの口から愛とイルカの名が迸る。
カランと乾いた音が響き、投げ捨てられたクナイが床を滑ってカカシの足元にぶつかった。
それが合図となったかのように、カカシがイルカに飛びかかった。
抗いもしないイルカの身体をベッドに引き倒し、うつ伏せに転がす。だがシーツにざんばらの黒髪が乱れ広がるのを見て、のし掛かったカカシの動きが止まった。
「もう、しないんですか」
ゆるりとこちらを向いたイルカの表情は、悦楽をねだる者のそれではなかった。
虚ろな目でカカシを単なる体への侵入者としか見ていない冷えきった面持ちで、その口から零れるのは、面倒ごとを事務的に捌くかのような声音。
カカシは今にも泣き出すかのような歪んだ笑みを浮かべるとイルカの尻肉を割り開き、わざとぐぷりと音を立てて中に押し入る。惰性で続けられる抽挿をただ黙って受け入れている内に、イルカは背にぽたり、ぽたりと何かが落ちるのを感じた。
「……こんなに好きって言っても、伝わらないんだね」
ぽつんとカカシが呟く。
――好き? これだけのことをして、まだ好きだとどの口が言うのか。
イルカは乾いた笑い声を上げた。
それに気付いてもいないのか、カカシの呟きが続く。
「あと何をあげたらいい? イルカは何が欲しい? ねぇ、どうしたら俺の愛が伝わるの?」
「俺は何もいらない!」
激昂したイルカが半身を起こし、振り返って叫んだ。
「いらなかったんだ……ただ、あんたを好きでいたかっただけだ……それだけで良かった! あんたは愛を押し付けてるだけじゃないか! 俺の全部が欲しいってほざくくせに俺からは何も欲しがりもしないで……俺の愛はいらないのかよ⁉ 俺は……俺はあんたの人形じゃないっ」
イルカの目に涙が溢れた。
囚われ、自由を奪われてからずっと抑えていた、カカシに向けての初めての涙だった。
それを目の当たりにしたカカシは、思わず手を差し伸べて涙を受けようとしたが、もたつきながら振り払う腕に拒絶された。
「ここから出せよ……俺が本当に必要じゃないなら、もう自由にしてくれよ……っ」
「イルカ、泣かないでイルカ、俺はただ……ああ、もう誰も喪いたくないだけなんだ……」
両手で顔を覆ったカカシが身を引くと、イルカの内からずるりと性器が抜ける。その衝撃に小さく呻いたイルカは、どこまでも噛み合わない会話に疲れを感じて倒れ込み、枕に顔を埋める。
だがふと、カカシの言う『もう誰も喪いたくない』に引っ掛かりを覚えて顔を上げた。
この監禁がなぜそこに繋がるのか。
単に自分を我が物にしようと閉じ込めたのではなかったのかと、イルカは訝った。
そういえば最初にこうも言っていた――『大事にしまっておかないと』、と。
「……カカシさん。俺を閉じ込めておく理由は何ですか。いったい外で何が起きているんですか……?」
その問いでカカシはゆっくりと顔を覆っていた両手を下ろした。
そこに現れたのは、今まで見たことのないような感情のごっそりと抜け落ちたカカシの顔だった。
――だがイルカは昔、その顔を鏡に見たことがある。
夜中に目覚めて家の中に両親はいないと、自分はたった独りなのだと自身に認めてしまった時の顔がこうだった。
絶対的な孤独。
それに囚われた表情が、今目の前のカカシに張り付いている。
「……もうすぐ大戦が始まる。忍の里全てを、いや世界中を巻き込む大きな戦。もう、すぐ」
抑揚のない声音で唐突にカカシが喋り出す。
「オビトもリンもミナト先生もクシナさんもみんなしんじゃった。アスマも三代目も。みんなみんなしんじゃうの」
イルカは体を起こすと、瞬きもせずカカシを見つめながらその口から溢れる言葉に聞き入った。
「強くても賢くても速くてもみんなしんじゃうの。みんなみんな俺をおいてしんじゃうの。カカシ、よろしくね、あとは頼んだよってしんじゃうの。俺、がんばったよ? でもね、俺ががんばってもみんなしんじゃうの」
カカシが真っ直ぐイルカを見る。
左右色違いの眸が、揺れながらも真っ直ぐにイルカを射抜く。
なのにその視線はイルカを通り抜け、どこか遠くを見ているようだった。
――まるで目の前のイルカすら、この世にいないかのように。
「俺は誰も護れない。もしイルカが……イルカまでしんじゃったら? そんなのもう……俺は、………無理だ」
灰蒼色と深紅の眸から、等しく透明な涙が溢れ落ちた。
カカシの身の内から小さな震えが、やがて大波のように体の表面に溢れ出す。
「だからね、イルカはここにしまっておくの。大事に、大事に。それでね、いつか俺のことを思い出して。イルカのことをあいしてた、俺のことを」
涙を頬に伝わせたまま、静かにカカシが微笑んだ。
それはとても柔らかく愛しげな、まさに愛を語る笑みで。
イルカのむき出しの腿の上に、ぽたり、ぽたりと何かが落ちた。
それが何なのか確かめることもせず、イルカはただカカシを見つめた。
……やっと。
やっとカカシの真意が見えた気がした。
木ノ葉が、忍界全体がざわついているのは、内勤のイルカでも肌で感じていた。常に最前線にいるカカシがそう言うのならば、間違いなく大戦は起きるのだろう。
その戦は百戦錬磨のカカシがここまで動揺し、イルカを監禁するという異常行動に駆り立てるほどの終末的なものなのか。
その答はイエスであり、ノーでもあるだろう。
たとえ世界の存続が危ぶまれるくらいの大戦でも、カカシは躊躇なく最前線に立つ男だ。それだけの器と資質を備えていると誰もが、当然の如くイルカも知っていた。
だが、イルカの存在がカカシを狂わせた。
正確には無意識下で静かに壊れ続けてきた部分が、イルカという最後の一滴に耐えきれず溢れてしまったというところか。
そこまで深く強く想っていながら、カカシは知らなかったのだ。
愛の表し方を。
大事にすると言いながらイルカを責め苛み、その口でまた優しい言葉を吐く。全部欲しいと言いながら、全部あげると言いながら本当の意味で全部もらえると思ってはいない。破壊衝動に囚われているのかと思うほどに二人の関係を滅茶苦茶にしながら、愛を伝えようと必死だった。
その支離滅裂さがイルカにはずっと怖かった。
だが支離滅裂で当たり前だったのだ。
カカシは今も、いや今までも、自分の死を前提に二人の関係を築こうとしていたのだから。愛し方を知らないままに。
――憐れむな。
イルカは奥歯をぐっと噛みしめて、こみ上げるものを抑えた。
かわいそうと言うのは簡単だ。
あまりにも簡単で、カカシを軽んじているのと同義だ。
人と繋がることも、人に心を預けることも自分に許さずひた走ってきた忍。いや、ひた走るうちにその方法をいつしか忘れてしまったのかもしれない。カカシにも無心に寄り添える相手はいたはずだ。遠い幼き頃まで遡れば。
誰よりも強く、誰よりも前を走るというのは、ここまで苛酷で孤独なのだろうか。
自分たちより上の世代は何よりも強さが重視され、里のために生きて死ぬことを良しとされてきたことはイルカも知っていた。そのため情操教育が置き去りにされてきたことも。
だがそういったことは全て後回しにして、今はただカカシを抱きしめたかった。
こんなにも自分を全身全霊で求める者に手を伸ばさずには、心を寄せずにはいられないという思いだけがイルカの中から溢れていた。
「カカシさん、この抑制バンドを外して下さい。あなたがいるのに逃げられっこないんだから、何の問題もないでしょう? 今、俺……すっごくあなたを抱きしめたい気分なんです」
カカシの焦点が目の前のイルカに戻ってきた。
だが、この期に及んでも自分がイルカから何かを、温かい抱擁を得られるとは思ってないであろう怪訝な顔をしている。
「ほら早く、これを外して。それであなたを力いっぱい抱きしめさせて」
カカシの手がおずおずと伸びて、イルカの両手、両足に嵌まったバンドを順に外す。最後のバンドがかちりと音を立てて外れると、イルカの内側でチャクラが一気に巡り出すのを感じた。
イルカは両腕を差しのべ、カカシを抱き寄せる。
「……あったかいですね」
深く息を吸い込むと、身動き一つしないカカシを更にきつく抱きしめた。それでもカカシは黙ってされるがままにいる。イルカは一旦体を離し、カカシの手をとった。そしてその手を自分の胸に、心臓の真上に当てる。
「……分かりますか?」
とくん とくん とくん とくん
イルカの規則正しく、力強い鼓動がカカシの掌に伝わる。
「俺、生きてます。今、こうやって生きてるんです」
「………ん」
「ね、俺を見てカカシさん。今あなたの目の前の、生きてる俺をちゃんと見て」
カカシの顔が上がり、ふたいろの眸がイルカを写す。
自分を真っ直ぐに見て、微笑みを浮かべるイルカの顔を。
「………うん、生きてる。あったかい」
ふ、とカカシの目元が和らいだ。
「俺もあなたも生きてる。いつかは死ぬかもしれないけど、それは誰でも同じです。俺もあなたも、今、こうやって生きてます」
「うん」
「俺が死んでしまうのが怖いなら、そう言ってくれれば良かったんです。いついかなる時でも一緒にいられる方法を、俺は知ってるんだから」
「え、どうやって⁉ 何かの術?」
カカシの顔に、この地下室で初めて見せた『いつもの表情』が浮かんだ。イルカのよく知る、ちょっととぼけたようなカカシの、慌てて焦る顔。
それがたまらなく嬉しくて、イルカは不意に泣きたくなった。
「……その前にカカシさん。あなたは俺のこと好きですか?」
「うん、はい、好きです。誰より大事で大好きです」
間髪入れずに答えるカカシは、なぜか愛という言葉を使わなかった。
愚かな愛し方をしてしまったとしても、カカシは元来聡い。既に自分の愛のあり方の間違いをなんとなく覚りつつあるのだろうと、イルカは柔らかく微笑んだ。
「俺もです。あなたのことを大切にしたいって思ってます」
びくりとカカシの体が揺れる。
やはり自分が愛されることを恐れていたのだなと、胸に当てたカカシの手に自分の指を絡めて握りながら、イルカは内心ため息をついた。それを気取られないよう、手をきゅっと握り直すと、もう片方の手でカカシのアンダーをめくり上げた。
そして身を屈めると、動揺して身を引き気味のカカシの心臓の真上に口付けた。
押し当てた唇に、カカシの鼓動が伝わる。そこに今の気持ちを、この世のあらゆるあたたかいもの、嬉しいもの、幸せなもの、そういうものでカカシを包んでやりたいという想いをありったけ込めて、祈るように唇を押し当てた。
「……ここに、俺の気持ちの欠片を込めておきました。これは二人がお互いに想い合っていると、できることなんです。これで俺はいつでもあなたと一緒です」
「ここに、イルカが……」
ほう、と満足げなため息をついて、カカシは自分の胸元を見下ろし目元を染めた。
「カカシさんも俺にして下さい」
「俺も⁉ いい、の……?」
カカシはごくりと喉を鳴らすと恐る恐る身を屈め、恭しくイルカの胸に口付ける。神聖な儀式に臨むかのようにそっと唇が触れ、そして惜しむように離れていった。
顔を上げたカカシはゆっくりと目を開け、真摯な眼差しをイルカに向ける。それを真正面から受け止め、イルカは一言一言を言い聞かせるように告げた。
「形あるものはいつか消えます。でも気持ちや言葉は、あなたが忘れてしまわない限りずっとあなたの中にあります。いつでも、どこにいようとも。……カカシさん、あなたは監禁なんてバカなことをする必要なんてなかった。ただ、俺に気持ちを伝えてくれれば良かったんですよ。それだけで俺は……」
イルカはカカシの頬に手を添えると、唇を合わせた。
そして額を合わせ、その笑みをくしゃりと泣き笑いに変える。
「あなたはほんとにバカですねぇ。バカで……いとおしいです」
「……ごめんなさいイルカ先生。好き。だいすき」
自分の頬に当てられたイルカの手を包み込んで、カカシはごめんなさいと好きを繰り返した。何度も、何度も。
イルカはその口を人差し指で優しく塞ぐと、もう一度唇を押し当てた。
それからカカシの背中に腕を回し、引き寄せながら後ろへと倒れ込んだ。
イルカは間近でカカシの色違いの眸を覗き込むと、いまだ残る戸惑いの色を見て優しく笑んだ。
「愛し合いましょう、カカシさん。セックスじゃなくて。俺の愛し方を教えるので、あなたの愛し方も俺に教えて下さい」
「俺の、愛し方……?」
「そうです。俺は優しくしたい、気持ち良くしてあげたい、あなたと一つになりたいって気持ちを込めて、それを伝えるために愛し合いたいです……こんな風に」
そう言うとイルカはカカシの頬を両手で包み、額に、瞼に、鼻の先に、口元の黒子に、そして唇にゆっくりと順繰りに啄むようなキスをした。
カカシは初めはきゅっと固く目を閉じていたが、次第にそれを受け入れ、再び目を開けた時には恍惚とした表情を浮かべていた。
「これが、イルカの愛」
「カカシさんは? カカシさんのも教えて」
カカシは少し目線を下げて考え込むと、自信なさげにイルカのしたキスをなぞるように繰り返した。それをうっとりと受けたイルカは閉じていた目を開け、そっと、だが熱の籠った声で囁く。
「……来て。俺の中で、俺を感じて」
その言葉で愛に欲が加わり、カカシの目に熱が宿る。
既にイルカを欲していた熱情の塊を、カカシはゆっくりと圧し入れた。
先ほどまでの狂乱の名残がぐぷりと音を立てて溢れ、吐き出される。
躊躇いながらも半分ほどまで押し進めると、イルカが両足でカカシの腰を抱え込み、更に奥深くへと誘った。
お互いに見つめ合いながら、ゆるゆると腰を揺らしながら、時折キスを交わし、愛しさを乗せた目で微笑み合う。
髪を撫で、頬に触れ、立ち昇る興奮の匂いを嗅ぎ、互いの吐息を重ね、ぴたりと触れ合った肌と肌から、繋がった処から熱を分かち合い。
鋭敏になった五感で、お互いの全てを感じ取る。
「あぁ……カカシさん」
「……イルカ」
万感の想いを込めた呟きがイルカの唇から零れ、それを掬い取るようにカカシが応える。
一方的でない愛の交歓は、激しさも気が狂うような絶頂もない代わりに、ただただ穏やかで。
安らぎにも似た緩やかな愉悦と、泣きたくなるほどの絶対的な安心感だけが、寄せては返す波のようにカカシの中へ繰り返し巡ってくる。
イルカの逞しい腕と脚、そして柔らかい肉に包まれながら、カカシはずっとこうしていたいと思った。
許されることなら、イルカの作り出すどこまでも甘くて優しい檻に、ずっと囚われていたいと。