【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old
カカシ先生はとてもいい人だ。
優しく思いやりがあってユーモアもあるけど根っこの部分は真面目で、仲間を大切にする確固たる意志と守るだけの実力を兼ね備えている凄腕の忍でもある。
自分の受け持つ子供たちを見る眼差しは、あいつらに見付からないようにしてるけどどこまでも愛おしげで、
……と、ここまでだったら階級を越えた友情といっても良かった。
でもなぁ、ついうっかりと思っちまったんだ。
カカシ先生、可愛いな、って。
きっかけはごくごく些細なことだった。
二人で呑みに行った時、カウンターでツマミを突きながら七班の子供たちの事を一通り話した後で、カカシ先生がぽつんと呟いたのだ。
「ねぇイルカ先生、今度俺にもあれ言って?」
あれって何だ?
とっさに浮かんだのは今日の七班の任務報告の時、ナルトに言った言葉だった。
「あれって、『一楽はまた今度な』ですか?」
するとカカシ先生はむうっと口を尖らせ、猪口をぐいっと空けてじっとりと横目で俺を睨んだ。
「違~うよ。一楽も一緒に行きたいけど、それじゃなくてさっき受付で同僚に言ってたやつ」
受付で、同僚に。
そんなのいろいろあり過ぎて、さっぱり分からなかった。カカシ先生が俺を待っててくれた間の事だろうが、まさかコテツに言った「トイレに行っといれ」じゃないだろうし、記憶を浚うのに今度は俺が口を尖らせる番だった。
なかなか思い当たらない俺に焦れたのか、カカシ先生がボソリと呟く。
「ほら、サンキューとか何とかってやつ」
「サンキュー……って、え、あれですか?」
そういえば言ってたかもな。あんなのを言ってほしいのか? 俺に?
それは俺の口癖みたいなもので、あんまり意識してなかったが何かをしてもらった時に軽く返すことがある言葉だった。
今日は確か、受付で任務依頼書に添付する為の資料を探しに行こうとしたら、同僚が「それならこないだ俺が使ったやつのコピーがあるぞ」と完了済みの中から掘り起こしてくれたのだ。さすがにそのまま使い回す訳にはいかないが、資料室で一から探さなくて済むのは有り難い。
「サンキュー愛してるぞ!」
「おうよ」
特に深い意味のない、お互い本当に気軽なやり取りで、改めて言ってほしいと言われるようなものでもないと思うんだが。
「えっと、今度ですかね?」
「……今でもいいけど」
「はぁ、じゃあ。サンキュー愛して、……ます?」
一緒に呑むような仲とはいえ、さすがにタメ口は気が引ける。しかも言うタイミングでもないので不自然極まりない感じだが、そこは許してもらいたい。
だがカカシ先生はへそを曲げたのか、ふて腐れたように「そんな他人行儀なのじゃなくて」とますます口を尖らせた。そう言われてもなぁと横顔を覗き込もうとすると、耳が先に目に入った。
整った顔にくっつくのに相応しく、貝殻のように整った形の良い耳――赤く染まった耳朶の。
あー、やけに駄々っ子モードだと思ったらけっこう酔っ払ってるんだなぁと見てたら、その耳がさらに染まっていく。じわじわと、縁の方まで。
えっと、酔っ払ってるんだ……よな?
「カカシ先生、酔ってますね?」
「酔ってない」
「酔ってますよね? 耳が赤いですよ?」
「それは……っ」
ぶわりと目元が赤く染まる。
さっと口布を上げてしまったが、これはきっと頬まで全部赤くなっただろう。
「……先生が愛してますなんて言うから」
いや、言えって言ったのはカカシ先生でしょうが。
ここで普段の俺ならそう返して爆笑したはずだ。なのに思ってしまったんだ。
――カカシ先生、可愛いなぁ、と。
精鋭ぞろいの木の葉でも筆頭の忍になんてことを、と思うけど、思っちまったもんはしょうがない。いずれ俺の方から耐え切れなくなって、玉砕覚悟で付き合ってほしいと告白してただろうな。
だからね、あなたから言わなくても、こうなるのは時間の問題だったんですよカカシさん。
うみのイルカ 〜夏〜
道なりに続く塀がギラギラと白く反射する夏の昼下がり、俺はカカシさんと近所の商店街に買い出しに来ていた。
珍しく二人の休みが重なり、今日は遅くまで寝ていたので二人ともだらけた半袖のアンダー姿で、カカシさんは額当てこそないものの口布が暑そうだ。
カカシさんと一緒に暮らし出すのは早かった。
「俺の所でもいいんだけど、イルカ先生の方が里にいる時間が長いから慣れた部屋がいいでしょ」
付き合いましょうとお互いの意思確認をしてから程なく、そう言って一つの風呂敷包みと共にやってきて同居が確定した。
正直なところいきなり同居という発想にも驚いたが、いずれなし崩しに始まると思っていた同居も彼からきちんと一言あったことに驚いた。そんなことを言ったら「先生ひどい、俺をどんなろくでなしだと思ってるの」と拗ねられるから言わないが。そういう可愛らしいところを見せてもらえるのもお付き合いしてるからこその特権なんだが、無駄にカカシさんを傷付けるのは本意じゃないからな。
夕飯は何にするか、二人で日用品の買い物リストを手に回る店を確認しながら細い路地を抜けると、しかくやとメロン堂の間に出る。しかくやは弁当と惣菜屋で、メロン堂は果物屋じゃなく本屋だ。カカシさんの例の愛読書は置いていないが、かなりの読書家なカカシさんは店頭にチラリと目をやってたから後で寄るかもしれない。
生鮮食品は後だなとまずは太陽堂薬局の方に向かおうとすると、商店街の西側の入り口ではっぱにゃんが特売チラシを配っていた。
はっぱにゃんは木の葉わくわく商店街のゆるキャラで、全身緑色をして尻尾がほうれん草の形をした、可愛いというよりはある意味シュールな猫だ。確か先代の八百幸さんの発案だった気がするが、尻尾が一般的な葉っぱではなくほうれん草なのが、秘かな八百屋の主張だったんだろうか。
今日がここの商店街のデビューだったカカシさんもはっぱにゃんに気付き、「え、何あれ」と足を止めた。俺が簡単にはっぱにゃんの説明をすると、カカシさんは感心したように頷いてはっぱにゃんをじっと見つめる。もしかしてゆるキャラなんて間近で見るのは初めてなのかもしれない。せっかく興味を持ったならと、俺はふと思い出した過去のエピソードを披露した。
「はっぱにゃんの中の人ってやつ、実は初代は俺がやってたんですよ」
ぐるんと振り返ったカカシさんの勢いにちょっと引きながら、俺は説明を続ける。
「下忍のDランク任務で回ってきましてね。身長制限があるから子供しかできなくて。それに季節や天候問わず着ぐるみを着るのって、いいチャクラコントロールの訓練になるんですよ」
「あー、確かに。今日みたいな日は特に大変そうだもんねぇ」
「でも終わったら、商店街の皆さんからコロッケや野菜とかいろいろ貰えて有り難かったんですよね。当時は生活するのにいっぱいいっぱいでしたから。まぁ、それは今もですけど」
たはは~と笑うとカカシさんは何故か慌てて財布を取り出し、中から札を無造作に掴んで差し出した。
「もしかして今まで渡してた生活費って足りてなかったの? 俺、そういうのにホント疎くて……気付かなくてごめんなさい!」
今にも泣きそうなカカシさんに、俺は呆気に取られて思わず声を上げて笑ってしまった。そして掴んでいた札をそのまま財布に戻してやる。
「すみません、笑っちまって。金が無いっていうのは贅沢をする余裕はないだけで、普通に生活する分には問題ないんです。それにね、将来のんびり隠居生活する為にもお金は大事です。余ったなら貯金しとかないと」
今度はカカシさんがぽかんと口を開けた。正確には口布越しにぽかんと口を開けてるのが丸分かり、という意味だが。
「イルカさんは俺と隠居生活を送るつもりでいてくれるの?」
二人きりの時しか呼ばないと約束したイルカさん呼ばわりをされてちょっとドキッとしたが、まだ出しっぱなしの財布を腰のポーチにしまってやり、手甲のせいで指先だけ僅かに日焼けしてる手を握った。
「もちろんですよ。目指せ楽々隠居生活! その為にも本日の特売品は逃せません。さぁ、買い物に行きますよ。お一人様一点限りのティッシュ、カカシさんもお願いしますね!」
なんだか感激してるらしいが、俺にとって一緒に暮らすとはそういうことだ。まだ突っ立ったままのカカシさんの手を引いて、薬局に向かった。
太陽堂薬局に入ってそれぞれ五個タワーのティッシュを持ち、忍用無臭シャンプーとラップ等の細々とした物もカゴに入れてレジに向かった。
カカシさんが先に清算を済ませ、俺の番になったので店主の「百七十両です」の声に札とポイントカードを差し出す。するとカカシさんが「それ、なぁに?」とカードを覗き込んできた。
「ここの商店街のポイントカードですよ」
俺はレジを済ませると太陽堂薬局とプリントされたビニール袋を受け取り、ポイントカードをカカシさんに渡して八百幸に向かいがてら説明をした。
「商店街の加盟店で五十両以上の買い物をすると、スタンプを一個押してくれるんです。ほら、店によってスタンプの種類が違うでしょう?」
今押してくれたのはお日様のマークのスタンプだ。他にも魚や本、寝具店の枕等も並んでいるが、中には米屋なのに何故か犬のスタンプというのもある。米屋米店は米や駄菓子を置いてるんだが、屋号の読みは初代店主のヨネさんの名前なので『よねやこめてん』というのだ。そうだ、カカシさんにも米屋の焼きたて鯛焼きを食わせてやりたいな、でも暑いからやっぱりラムネかアイスかなと思っていると、カカシさんがカードをひっくり返しつつ感心した声を上げた。
「ふぅん、こんなのあるんだ。面白いね。コンビニかスーパー木の葉しか行かないから知らなかった」
「スーパー木の葉にもポイントカードはありますよ。でもここの商店街の方が、スタンプ三十個で五十両の金券になるからお得なんです!」
「イルカ先生の言う通り、わくわく商店街はいつでもお買い得だよ! へい、らっしゃいッ」
八百幸の親父さんの威勢のいい声が響いて、いつの間にか八百屋の目の前まで来てたことに気付く。どれだけポイントカードの話に夢中になってんだよ俺。
「へへっ、親父さん、トマトとキャベツと茄子ちょうだい」
「はいよ!」
往来でつい力説してちょっと恥ずかしくなったので、声を落としてから回りを見回したが、こんな暑い昼下がりに人通りはまばらだった。先ほどのはっぱにゃんが、今度は反対側の東口でチラシを配っている。びっくりしたように俺を注視しているのはカカシさんだけで、恥ずかしさを誤魔化す為に野菜を受け取ると、そそくさと八百幸から離れながらそのはっぱにゃんを指した。
「そういえば全加盟店のスタンプを押してあると、金券になる以外にはっぱにゃんグッズが貰えるんですよ。ぬいぐるみとかシールとか、……あ、俺もボールペンは持ってたなぁ」
実はあのシュールなビジュアルのせいか、はっぱにゃんグッズはあんまり人気が無いんだが、カカシさんは意外にも食い付いて立て続けに質問してきた。
「はっぱにゃんグッズが貰えるの! ねぇ、ポイントカードって作る為の資格とか必要? どこで作れるの? 加盟店ってここの全部じゃないの?」
「資格なんて要らないですよ。商店街の人に言えばどこでも作ってもらえるし、加盟店じゃないのはコンビニのリトルリーフくらいですけど、ほら、あのマークがあるお店が加盟店です」
俺が指差したのはさっきのメロン堂の入り口だった。ガラス戸の右上に『木の葉わくわく商店街』と書かれたステッカーが貼ってある。
カカシさんは「へぇ」と呟きながらちょっとソワソワし出した。そんなにはっぱにゃんグッズが欲しいのかと思いながらポイントカードを財布にしまおうとして気付いた。
「ネギ!」
「ネギ?」
「すみません、さっきネギ買ってくるの忘れました。ネギ無しの冷奴は有り得ねぇよなぁ……ちょっとひとっ走り行ってくるんで、待っててもらえます?」
「じゃあ俺は本屋に寄ってくるかな。ポイントカードも作ってもらうから急がなくていーよ」
俺の手から買い物袋を取り、いそいそとメロン堂に向かうカカシさんを見送ると八百幸へと急いだ。ポイントカードもだが、さっきチラ見してたからやっぱり本屋も覗いてみたかったんだろう。
そういえばカカシさんは、薬局でもあのコーナーをちらっと見ていたな。ゴムとか諸々の並ぶ棚をほんの一瞬、長く。
そうだよなぁ、カカシさんも男だもんな。人並みに性欲はあるよなぁ。
実は俺達はまだ、その、してない。最後までは。
今朝寝坊したのも昨夜遅くまで二人であれこれアレなことをしてたが、アルファベットで言うとBマイナスくらいまでしかしてないのだ。
忍にとって素肌を晒し合わせるというのは特別なことだ。
カカシさんほどの一流の忍ならなおさら躊躇いがあるかもしれないと思っていたのも、俺相手じゃその気にならないというのも杞憂だったってことは、既に十分証明されている。つーか、むちゃくちゃ杞憂だった。カカシさんがあんな情熱的に、それでいて優しく触れてくるなんて思ってもみなかった。
危うくいろいろ思い出しかけて、犬みたいにぶるぶると首を振る。
Cに関しては自然な流れに任せればいいだろう。大切なのはカカシさんと俺の気持ちだ。うん、そうだよな!
「親父さん、ネギちょうだい! 冷奴なのに買うの忘れちまって」
「あれイルカ先生、うっかりだなぁ」
八百幸の親父さんに笑われながら、みっちりと持ち応えのあるネギの束を買う。
両手が空だけど袋はあるからと断り、裸のままのネギを掴むと本屋の方に取って返した。米屋にも寄って待たせたお詫びにラムネを買っていこう。カカシさんはラムネは好きだろうか。本屋に入ることだし、ビー玉の栓は抜かないでもらおう。それにカカシさんにも、ビー玉を押し込んだ時のシュワワアってやつを見てもらいたい。
今頃メロン堂でポイントカードを作ってるであろうカカシさんの、涼やかに細まる目を思い浮かべながら。
わくわくと弾む足取りで、米屋に向かった。
優しく思いやりがあってユーモアもあるけど根っこの部分は真面目で、仲間を大切にする確固たる意志と守るだけの実力を兼ね備えている凄腕の忍でもある。
自分の受け持つ子供たちを見る眼差しは、あいつらに見付からないようにしてるけどどこまでも愛おしげで、
……と、ここまでだったら階級を越えた友情といっても良かった。
でもなぁ、ついうっかりと思っちまったんだ。
カカシ先生、可愛いな、って。
きっかけはごくごく些細なことだった。
二人で呑みに行った時、カウンターでツマミを突きながら七班の子供たちの事を一通り話した後で、カカシ先生がぽつんと呟いたのだ。
「ねぇイルカ先生、今度俺にもあれ言って?」
あれって何だ?
とっさに浮かんだのは今日の七班の任務報告の時、ナルトに言った言葉だった。
「あれって、『一楽はまた今度な』ですか?」
するとカカシ先生はむうっと口を尖らせ、猪口をぐいっと空けてじっとりと横目で俺を睨んだ。
「違~うよ。一楽も一緒に行きたいけど、それじゃなくてさっき受付で同僚に言ってたやつ」
受付で、同僚に。
そんなのいろいろあり過ぎて、さっぱり分からなかった。カカシ先生が俺を待っててくれた間の事だろうが、まさかコテツに言った「トイレに行っといれ」じゃないだろうし、記憶を浚うのに今度は俺が口を尖らせる番だった。
なかなか思い当たらない俺に焦れたのか、カカシ先生がボソリと呟く。
「ほら、サンキューとか何とかってやつ」
「サンキュー……って、え、あれですか?」
そういえば言ってたかもな。あんなのを言ってほしいのか? 俺に?
それは俺の口癖みたいなもので、あんまり意識してなかったが何かをしてもらった時に軽く返すことがある言葉だった。
今日は確か、受付で任務依頼書に添付する為の資料を探しに行こうとしたら、同僚が「それならこないだ俺が使ったやつのコピーがあるぞ」と完了済みの中から掘り起こしてくれたのだ。さすがにそのまま使い回す訳にはいかないが、資料室で一から探さなくて済むのは有り難い。
「サンキュー愛してるぞ!」
「おうよ」
特に深い意味のない、お互い本当に気軽なやり取りで、改めて言ってほしいと言われるようなものでもないと思うんだが。
「えっと、今度ですかね?」
「……今でもいいけど」
「はぁ、じゃあ。サンキュー愛して、……ます?」
一緒に呑むような仲とはいえ、さすがにタメ口は気が引ける。しかも言うタイミングでもないので不自然極まりない感じだが、そこは許してもらいたい。
だがカカシ先生はへそを曲げたのか、ふて腐れたように「そんな他人行儀なのじゃなくて」とますます口を尖らせた。そう言われてもなぁと横顔を覗き込もうとすると、耳が先に目に入った。
整った顔にくっつくのに相応しく、貝殻のように整った形の良い耳――赤く染まった耳朶の。
あー、やけに駄々っ子モードだと思ったらけっこう酔っ払ってるんだなぁと見てたら、その耳がさらに染まっていく。じわじわと、縁の方まで。
えっと、酔っ払ってるんだ……よな?
「カカシ先生、酔ってますね?」
「酔ってない」
「酔ってますよね? 耳が赤いですよ?」
「それは……っ」
ぶわりと目元が赤く染まる。
さっと口布を上げてしまったが、これはきっと頬まで全部赤くなっただろう。
「……先生が愛してますなんて言うから」
いや、言えって言ったのはカカシ先生でしょうが。
ここで普段の俺ならそう返して爆笑したはずだ。なのに思ってしまったんだ。
――カカシ先生、可愛いなぁ、と。
精鋭ぞろいの木の葉でも筆頭の忍になんてことを、と思うけど、思っちまったもんはしょうがない。いずれ俺の方から耐え切れなくなって、玉砕覚悟で付き合ってほしいと告白してただろうな。
だからね、あなたから言わなくても、こうなるのは時間の問題だったんですよカカシさん。
うみのイルカ 〜夏〜
道なりに続く塀がギラギラと白く反射する夏の昼下がり、俺はカカシさんと近所の商店街に買い出しに来ていた。
珍しく二人の休みが重なり、今日は遅くまで寝ていたので二人ともだらけた半袖のアンダー姿で、カカシさんは額当てこそないものの口布が暑そうだ。
カカシさんと一緒に暮らし出すのは早かった。
「俺の所でもいいんだけど、イルカ先生の方が里にいる時間が長いから慣れた部屋がいいでしょ」
付き合いましょうとお互いの意思確認をしてから程なく、そう言って一つの風呂敷包みと共にやってきて同居が確定した。
正直なところいきなり同居という発想にも驚いたが、いずれなし崩しに始まると思っていた同居も彼からきちんと一言あったことに驚いた。そんなことを言ったら「先生ひどい、俺をどんなろくでなしだと思ってるの」と拗ねられるから言わないが。そういう可愛らしいところを見せてもらえるのもお付き合いしてるからこその特権なんだが、無駄にカカシさんを傷付けるのは本意じゃないからな。
夕飯は何にするか、二人で日用品の買い物リストを手に回る店を確認しながら細い路地を抜けると、しかくやとメロン堂の間に出る。しかくやは弁当と惣菜屋で、メロン堂は果物屋じゃなく本屋だ。カカシさんの例の愛読書は置いていないが、かなりの読書家なカカシさんは店頭にチラリと目をやってたから後で寄るかもしれない。
生鮮食品は後だなとまずは太陽堂薬局の方に向かおうとすると、商店街の西側の入り口ではっぱにゃんが特売チラシを配っていた。
はっぱにゃんは木の葉わくわく商店街のゆるキャラで、全身緑色をして尻尾がほうれん草の形をした、可愛いというよりはある意味シュールな猫だ。確か先代の八百幸さんの発案だった気がするが、尻尾が一般的な葉っぱではなくほうれん草なのが、秘かな八百屋の主張だったんだろうか。
今日がここの商店街のデビューだったカカシさんもはっぱにゃんに気付き、「え、何あれ」と足を止めた。俺が簡単にはっぱにゃんの説明をすると、カカシさんは感心したように頷いてはっぱにゃんをじっと見つめる。もしかしてゆるキャラなんて間近で見るのは初めてなのかもしれない。せっかく興味を持ったならと、俺はふと思い出した過去のエピソードを披露した。
「はっぱにゃんの中の人ってやつ、実は初代は俺がやってたんですよ」
ぐるんと振り返ったカカシさんの勢いにちょっと引きながら、俺は説明を続ける。
「下忍のDランク任務で回ってきましてね。身長制限があるから子供しかできなくて。それに季節や天候問わず着ぐるみを着るのって、いいチャクラコントロールの訓練になるんですよ」
「あー、確かに。今日みたいな日は特に大変そうだもんねぇ」
「でも終わったら、商店街の皆さんからコロッケや野菜とかいろいろ貰えて有り難かったんですよね。当時は生活するのにいっぱいいっぱいでしたから。まぁ、それは今もですけど」
たはは~と笑うとカカシさんは何故か慌てて財布を取り出し、中から札を無造作に掴んで差し出した。
「もしかして今まで渡してた生活費って足りてなかったの? 俺、そういうのにホント疎くて……気付かなくてごめんなさい!」
今にも泣きそうなカカシさんに、俺は呆気に取られて思わず声を上げて笑ってしまった。そして掴んでいた札をそのまま財布に戻してやる。
「すみません、笑っちまって。金が無いっていうのは贅沢をする余裕はないだけで、普通に生活する分には問題ないんです。それにね、将来のんびり隠居生活する為にもお金は大事です。余ったなら貯金しとかないと」
今度はカカシさんがぽかんと口を開けた。正確には口布越しにぽかんと口を開けてるのが丸分かり、という意味だが。
「イルカさんは俺と隠居生活を送るつもりでいてくれるの?」
二人きりの時しか呼ばないと約束したイルカさん呼ばわりをされてちょっとドキッとしたが、まだ出しっぱなしの財布を腰のポーチにしまってやり、手甲のせいで指先だけ僅かに日焼けしてる手を握った。
「もちろんですよ。目指せ楽々隠居生活! その為にも本日の特売品は逃せません。さぁ、買い物に行きますよ。お一人様一点限りのティッシュ、カカシさんもお願いしますね!」
なんだか感激してるらしいが、俺にとって一緒に暮らすとはそういうことだ。まだ突っ立ったままのカカシさんの手を引いて、薬局に向かった。
太陽堂薬局に入ってそれぞれ五個タワーのティッシュを持ち、忍用無臭シャンプーとラップ等の細々とした物もカゴに入れてレジに向かった。
カカシさんが先に清算を済ませ、俺の番になったので店主の「百七十両です」の声に札とポイントカードを差し出す。するとカカシさんが「それ、なぁに?」とカードを覗き込んできた。
「ここの商店街のポイントカードですよ」
俺はレジを済ませると太陽堂薬局とプリントされたビニール袋を受け取り、ポイントカードをカカシさんに渡して八百幸に向かいがてら説明をした。
「商店街の加盟店で五十両以上の買い物をすると、スタンプを一個押してくれるんです。ほら、店によってスタンプの種類が違うでしょう?」
今押してくれたのはお日様のマークのスタンプだ。他にも魚や本、寝具店の枕等も並んでいるが、中には米屋なのに何故か犬のスタンプというのもある。米屋米店は米や駄菓子を置いてるんだが、屋号の読みは初代店主のヨネさんの名前なので『よねやこめてん』というのだ。そうだ、カカシさんにも米屋の焼きたて鯛焼きを食わせてやりたいな、でも暑いからやっぱりラムネかアイスかなと思っていると、カカシさんがカードをひっくり返しつつ感心した声を上げた。
「ふぅん、こんなのあるんだ。面白いね。コンビニかスーパー木の葉しか行かないから知らなかった」
「スーパー木の葉にもポイントカードはありますよ。でもここの商店街の方が、スタンプ三十個で五十両の金券になるからお得なんです!」
「イルカ先生の言う通り、わくわく商店街はいつでもお買い得だよ! へい、らっしゃいッ」
八百幸の親父さんの威勢のいい声が響いて、いつの間にか八百屋の目の前まで来てたことに気付く。どれだけポイントカードの話に夢中になってんだよ俺。
「へへっ、親父さん、トマトとキャベツと茄子ちょうだい」
「はいよ!」
往来でつい力説してちょっと恥ずかしくなったので、声を落としてから回りを見回したが、こんな暑い昼下がりに人通りはまばらだった。先ほどのはっぱにゃんが、今度は反対側の東口でチラシを配っている。びっくりしたように俺を注視しているのはカカシさんだけで、恥ずかしさを誤魔化す為に野菜を受け取ると、そそくさと八百幸から離れながらそのはっぱにゃんを指した。
「そういえば全加盟店のスタンプを押してあると、金券になる以外にはっぱにゃんグッズが貰えるんですよ。ぬいぐるみとかシールとか、……あ、俺もボールペンは持ってたなぁ」
実はあのシュールなビジュアルのせいか、はっぱにゃんグッズはあんまり人気が無いんだが、カカシさんは意外にも食い付いて立て続けに質問してきた。
「はっぱにゃんグッズが貰えるの! ねぇ、ポイントカードって作る為の資格とか必要? どこで作れるの? 加盟店ってここの全部じゃないの?」
「資格なんて要らないですよ。商店街の人に言えばどこでも作ってもらえるし、加盟店じゃないのはコンビニのリトルリーフくらいですけど、ほら、あのマークがあるお店が加盟店です」
俺が指差したのはさっきのメロン堂の入り口だった。ガラス戸の右上に『木の葉わくわく商店街』と書かれたステッカーが貼ってある。
カカシさんは「へぇ」と呟きながらちょっとソワソワし出した。そんなにはっぱにゃんグッズが欲しいのかと思いながらポイントカードを財布にしまおうとして気付いた。
「ネギ!」
「ネギ?」
「すみません、さっきネギ買ってくるの忘れました。ネギ無しの冷奴は有り得ねぇよなぁ……ちょっとひとっ走り行ってくるんで、待っててもらえます?」
「じゃあ俺は本屋に寄ってくるかな。ポイントカードも作ってもらうから急がなくていーよ」
俺の手から買い物袋を取り、いそいそとメロン堂に向かうカカシさんを見送ると八百幸へと急いだ。ポイントカードもだが、さっきチラ見してたからやっぱり本屋も覗いてみたかったんだろう。
そういえばカカシさんは、薬局でもあのコーナーをちらっと見ていたな。ゴムとか諸々の並ぶ棚をほんの一瞬、長く。
そうだよなぁ、カカシさんも男だもんな。人並みに性欲はあるよなぁ。
実は俺達はまだ、その、してない。最後までは。
今朝寝坊したのも昨夜遅くまで二人であれこれアレなことをしてたが、アルファベットで言うとBマイナスくらいまでしかしてないのだ。
忍にとって素肌を晒し合わせるというのは特別なことだ。
カカシさんほどの一流の忍ならなおさら躊躇いがあるかもしれないと思っていたのも、俺相手じゃその気にならないというのも杞憂だったってことは、既に十分証明されている。つーか、むちゃくちゃ杞憂だった。カカシさんがあんな情熱的に、それでいて優しく触れてくるなんて思ってもみなかった。
危うくいろいろ思い出しかけて、犬みたいにぶるぶると首を振る。
Cに関しては自然な流れに任せればいいだろう。大切なのはカカシさんと俺の気持ちだ。うん、そうだよな!
「親父さん、ネギちょうだい! 冷奴なのに買うの忘れちまって」
「あれイルカ先生、うっかりだなぁ」
八百幸の親父さんに笑われながら、みっちりと持ち応えのあるネギの束を買う。
両手が空だけど袋はあるからと断り、裸のままのネギを掴むと本屋の方に取って返した。米屋にも寄って待たせたお詫びにラムネを買っていこう。カカシさんはラムネは好きだろうか。本屋に入ることだし、ビー玉の栓は抜かないでもらおう。それにカカシさんにも、ビー玉を押し込んだ時のシュワワアってやつを見てもらいたい。
今頃メロン堂でポイントカードを作ってるであろうカカシさんの、涼やかに細まる目を思い浮かべながら。
わくわくと弾む足取りで、米屋に向かった。
スポンサードリンク