四月一日

いよいよだ。
いよいよこの日が今年もやってきた。
俺の可愛くてお茶目な恋人は、可愛くてお茶目ゆえに、エイプリルフールに俺に可愛い嘘をつく。

いや、訂正しよう。
可愛くない嘘をつく。
イルカ先生は可愛いけど。


毎年４月の１日にイルカ先生は元・悪戯小僧の名に恥じない嘘を仕掛けてくるのだ。
おととしは「茄子の天ぷらは精力増強にいいんですよ！ほら、形からしてそれっぽいでしょう？」と無理矢理食べさせられたし、去年はまぁ…ゲンマにも騙されたけど。

とにかく、あまりにもしゃあしゃあと嘘をつくので、里の誉れと呼ばれる俺でもうっかり騙されてしまう。
いや、これはきっと愛の為せる業に違いない。
イルカ先生を愛するあまり、この俺の写輪眼ですら曇ってしまうのだ。
あれ？
そうすると、イルカ先生は俺の愛につけこんで騙す悪いオトコ…？
ひどい！ひどいよイルカ先生！
よし。今年こそはガツンと言ってやる。
「イルカ先生！俺の愛は未来永劫に不滅です！」
……じゃなくて、えーと、


「カカシさん、カレンダーなんか睨んで何ぶつぶつ言ってるんですか？」

菜箸を持ったイルカ先生が怪訝な顔でこっちを見てる。
ヤバい、危なかった。
そんな可愛い顔してもダメだからね。今年こそは絶対騙されないからね。
また何か企んでるんでしょ？さっきも押し入れを開けて何かごそごそやってたもんね。

「そういえばカカシさん、今日は猿飛川でピクニックしませんか？…そこで大事なお話があるんです」

来たーーーーーーーー！！！

来たよ。来ちゃったよ。やっぱり今年もやる気だよこの人。
朝ごはんも終わったのに何まだ作ってるのかと思ったら、ピクニック。
何それピクニックなんてウキウキしたイベント用語で、後半の大事なお話とかいうキーワードを誤魔化せると思ってんの？
…大事なお話って何だろ。
まさか別れましょうとか言い出さないよね？いや意表をついて、実は結婚して子供もいるんですとか？
ダメ！ダメダメそれはダメです！
いくらエイプリルフールでもそれは許せません！
そんな嘘ついたら、お仕置きフルスロットルコースで朝まであんあん言わせちゃうよ？……あ、それ意外といいかも。
目隠しして手も縛って、足も閉じられないように縛っちゃおうね。
そういえばお正月に断られた、筆を使って書き初めプレイやっちゃっていいかな。お仕置きなんだからいいよね！
最初は乾いた筆で可愛がって～、溢れてきたらそれを筆に浸して……

「カカシさん」

「ハイすいません！！」

「何いきなり謝ってんですか？しかもニヤニヤしてるし…また変なこと考えてんじゃねぇだろうな」

イルカ先生の声が低くなったので「いやちょっと新しい術の開発をね」と誤魔化す。嘘じゃないも～んね。対イルカ先生・夜の業師の術だもん。
するとイルカ先生が、へぇ～と感心する。
こういう時は素直に騙されてくれるのに、何故エイプリルフールはあんなにペロッと嘘つくかなぁ。

「あの、考え事してるのに申し訳ないんですけど、準備できたので…大丈夫ですか？」

「大丈～夫、あとは実践してみるだけだから！さ、行こう行こう」

俺は後ろめたさも手伝って、そそくさと立ち上がる。
するとイルカ先生はお弁当の包みと竹筒を渡してきて、自分は押し入れから出した怪しい風呂敷包みと酒を持った。

「あの～。それ、何デスカ」

思わず風呂敷包みを指差して聞いてしまうと、イルカ先生は真面目な顔をして「…後で説明します。じゃあ行きましょう。猿飛川でいいですよね」と有無を言わさず玄関に向かった。