【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
↑new ↓old
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イルカ先生のとっておきのおまじないでおでこにちゅうっとされた俺は、そこから記憶がない。不覚にも。
恐らく興奮と衝撃のあまり、呼吸するのを忘れて気絶してしまったのだろう。気付いたら朝を迎えていて、せっかくの先生との共寝を全然満喫できなかったのが悔やまれる。
イルカ先生は既に目覚めて活動を始めているらしく、隣は空っぽだった。
「あれ、起こしちまいました? おはようございます、カカシさん」
「ん、おはよう」
顔を洗ってたのか、洗面所からイルカ先生が出てきた。
髭も剃ってさっぱりした顔で、朝から凛々しく爽やかだ。
それじゃあ俺も、とベッドから出ようとして、自分の股間の爽やかじゃない目覚めに気付いた。
……どうしよう。
男の生理現象なんだから堂々としてればいいのかもしれないけど、万が一にも下心がバレたら恥ずかしい。
(カカシさん、もしかして俺を見てそんな風に?)
(うん、爽やかな先生の笑顔でね。実は前からあなたのことが好きなんです)
(嬉しい! 俺も本当はカカシさんのことを……)
いやいやいや朝勃ちがきっかけの告白とか。
「………ないな」
「何がないんですか? あ、カカシさん朝からお元気ですね~! 朝ご飯は俺が作っとくのでトイレどうぞ。ごゆっくり~」
…………………。
そうだった。
イルカ先生って何ていうか、こう、デリカシーに欠け……じゃなくて男らしくてさっぱりしてるよね。
そういうところも好きなんだけどね!
トイレで可哀想な俺の息子を宥めると、心なしか息子もしょんぼりしてるように見える。
いつかお前の出番もあるからなと言い聞かせ、顔を洗って髭も剃るとイルカ先生の手伝いをしにキッチンへ向かった。
食卓で納豆を練ってる先生をぼんやりと眺めていると、「あんまり食欲ないんですか?」と心配そうに聞かれたので、慌てて味噌汁の椀を手にする。良かった、今日の味噌汁の実は豆腐となめこで普通だ。
「そういえば、そろそろ生鮮食品のストックが危ういんじゃない? 今日は日帰りできないけど、たぶん四、五日後なら買い物に寄れるから。イルカ先生は何か買ってきてほしいのある?」
ふと思い付いた俺が訊ねると、先生はぱんぱんに膨らませた頬をもぐもぐと動かして飲み込みながら首を傾げた。そういう姿もリスみたいで可愛いなぁ。
「そうですね………一楽のラー……いえ、餃子を作りたいので皮と合挽きをお願いします!」
「りょーかい」
イルカ先生の料理は時々個性的というか斬新な具材が使われるけど、餃子は大丈夫だろうか。でもあったかいご飯を先生の顔を見ながら食べられるなんて最高の贅沢だ。
この時俺は自分の幸せに夢中で、イルカ先生の一瞬曇った表情の理由を深く考えなかった。
食事を終えて任務の支度をし、木格子の嵌まった玄関に向かうと先生が着いてきた。
「どうぞお気を付けて、ご武運を」
「ん、いってきます」
イルカ先生の見送りで任務に出られるなんて最高の気分だ。
ここでいってらっしゃいのキスの一つもしてもらいたいところだけど、残念ながらそういう関係ではない。まだ。
この数日でかなり距離も縮まった気もするし、そろそろ俺の気持ちを伝えてもいいかもしれない。
そんな呑気なことを考えながら、ふわつく足取りで地上への階段を上った。
四、五日と言った任務は、標的の想定外な行動で一週間を超えてしまった。
しかも報告後の帰りがけに運悪くガイに捕まってしまい、自分の任務中に子供達の修行を見てくれないかと持ちかけられた。ガイは面倒だが子供達に罪はない。白眼と体術と武器の扱いを個々にチェックしてほしいようで、相談がてら呑みにと言うところをなんとか一楽で手を打ってもらった。
一通り修行内容のレクチャーを受け、ついでに餃子を手土産にできるかテウチさんに聞いてみたら断られてしまった。
「なんだカカシよ、手土産を持って行きたい相手がいるのか?」
ガイが動物的な勘で鋭い質問を投げてくるが、「まぁね」と適当に流すと「そうか、青春だな!」と返すだけで深追いはしてこなかった。
ガイは野性動物に近いだけあって、他人の恋愛事情には興味ないのだろう。まぁ、その動物的な勘で、深く追求されたくない空気を感じ取ったのもあるだろうけど。これが紅じゃなくて本当に良かった。
手ぶらで一楽を出ると、猛スピードで木の葉マートで買い物をし隠れ家に向かう。
イルカ先生の食料は大丈夫だろうけど、俺が一刻も早く会いたくて。
だって一週間以上ぶりのイルカ先生だ。
しかも受付で皆に笑顔をふりまく先生じゃなく俺の、俺だけの帰りを待っててくれてるイルカ先生だ。
地下室への階段を飛ぶように、実際ひと跳びで降りると閂を外すのももどかしく木格子の扉を開け放つ。
「ただいまイルカ先生!」
「おかえりなさい、カカシさん」
………今イルカ先生の声がしたはずなんだけど、肝心の姿が見えない。
装備を外しながら見回しても、どこにも見当たらなかった。
「イルカ先生?」
「カカシさん」
なんだかすごく下の方から声がしたような、と思ったら、脚絆に何かが触れた。
「カカシさん」
「イルカ先生⁉ どうしたの⁉」
脚絆を掴んで引っ張っているのは、クナイサイズのイルカ先生だった。
慌ててそっと両手に乗せると、クナイイルカ先生が嬉しそうに「カカシさん」と呼ぶ。
「イルカ先生、なんでこんなことに……安心して、小さくても俺が一生面倒みるからね」
「カカシさん」
「うんうん、ずーっと一緒にいましょうね」
「いや、それはちょっと無理だと思いますよ。そいつはチャクラが切れたら消えるそうですから」
「えっ、……イルカ先生⁉ えっ⁉」
洗面所の扉が開き、大きいサイズのイルカ先生が笑いながら出てきた。
でも俺が頬擦りしてたクナイイルカ先生は、まだ手の上にちょこんと座っている。
二人のイルカ先生を交互に見ると、大きいイルカ先生が卓袱台の上から小さな巻物を持ってきた。
「おかえりなさい、カカシさん。あとすみません、これ勝手に使ってしまって」
「あ、それは……」
先生が手にしていたのは、ミニチュアサイズの自分を作る術の巻物だった。
巻物自体にあらかじめ相当量のチャクラを籠めてあるので、ごく僅かなチャクラを籠めれば小さな影分身のようなものを作れるのだ。
ただ本体の思考能力には遠く及ばず、能力も極端に制限されてしまうから使える任務は限られてくる。チャクラを温存しておきたい時には便利だが、せいぜい簡単な斥候か眠っている間に見張りをするくらいにしか活用できないので、隠れ家の本棚に置きっぱなしになって存在すら忘れていた巻物だった。
「暇だな~と思って読んでたら、これなら今の俺でも使えそうだったので、つい……ここ数日は話し相手になってくれてたので、だいぶ助かりました」
「カカシさん、無事だった!」
クナイイルカ先生が嬉しそうに俺の親指にぎゅっと抱き付いた。
ちょっと待って、イルカ先生が俺の指に全身を擦り寄せてるとか、何のご褒美⁉ 厳密にはイルカ先生じゃないけど、先生のチャクラから生まれたんだからこの子は実質イルカ先生だよね? じゃあ俺とクナイイルカ先生は気持ちが通じ合って、実質夫婦といっても過言ではない訳で……
と考えてふと顔を上げたら、イルカ先生の本体がすぐ間近に迫ってきていた。
「……カカシさん」
イルカ先生が、今まで見たこともないほど真剣な表情で俺を見ている。
いや、俺の口元をじっと見つめている。
そして更にぐいと顔を近付けてきた。
ちょ……っと、どうしたのこれってイチャパラフラグ⁉ えっ、まさかイルカ先生からキス……
「いいいいいイルカ先生! 俺も、あの、先生のことずっと」
「………ーメン」
地の底から這い出てきたきたような声がした。
アーメン? キスの前に祈りが必要なのか?
それなら俺も唱えた方がいいっていうか、あ! もう誓いの言葉を交わしちゃうの⁉ それは早すぎると思……いや俺は全然構わないしむしろ大歓迎だけどね! 早速唱えちゃうし誓っちゃうけどね!
「アーメン!!」
「一楽のラーメンですね?」
「………はい?」
よくよく見ると、イルカ先生はとてもじゃないが愛を誓う顔ではない。
目付きが恐ろしく険しくなり、まるで般若か阿修羅のようだ。
「その匂いは一楽の塩バター野菜ラーメンもやしコーン増しと餃子ですね?」
「え⁉ あ、あぁ、そうだけどごめんね? ガイに捕まって」
「しお……やさい……ぎょうざ…………」
「イルカ先生?」
「ぅぅぅううぬああぁぁああああもう我慢できんっっ!!」
イルカ先生の目がカッと見開かれた。
鎖と首に巻かれた首輪を握りしめると、獣のような唸り声を上げ渾身の力で引っ張る。
鎖自体は無事だったが、分厚い革製の首輪から鎖の留め具がブチブチっと音を立てて千切り取られた。
そして俺が呆然と見守る前で雄叫びを一つ上げると。
「いーーちーーらーーくぅぅぅううううう!!!!」
と叫びながら、木格子の扉をぶち開けて飛び出していってしまった。
思った以上に呆然自失状態だったのか、我に返った時にはイルカ先生の気配は感じ取れなくなっていた。
十中八九一楽に向かっているだろうが、念の為にパックンを口寄せて追跡を命じようとして、ふと思い留まる。
「なんじゃ、追わんでいいのか」
パックンが開け放たれた木格子と俺の顔とを交互に見た。
「……うん、いいよ。一応同意の上とはいえ、やっぱりこんな風に監禁するなんて無理があったんだよね」
「それは初めから分かっておったことじゃろうが」
皺に埋もれた顔をさらにしかめて、パックンが見上げてくる。
すると口寄せの時のまま肩に乗せていたクナイイルカ先生が、「カカシさん」と変わらず優しい声で呼びかけてきた。
その柔らかい声に、思わず泣き顔のような笑顔を向ける。
「イルカ先生、一緒に俺の家に来てくれる?」
「はい、カカシさん」
クナイイルカ先生が小さい腕をいっぱいに伸ばして、俺の頬と頭に抱き付いてきた。
「カカシよ……それでは何の解決にもならんではないか」
渋い顔をしているだろうパックンの方はあえて見ずに、クナイイルカ先生をそっと撫でる。
この先生は俺の自宅で同居することを快諾してくれた。
いずれ消えてしまう術だけど、それまでは一緒にいられる。本体のイルカ先生には言えなかったことを、この先生には容易く言えてしまう己のヘタレっぷりに苦笑したら、クナイイルカ先生も嬉しそうに笑った。
最初からこうすれば良かった、先生には余計な負担をかけてしまったなと当初の監禁の目的も忘れて反省していると、玄関の方でかたりと物音がした。
「ただいま戻りました~」
イルカ先生の声が狭い空間に呑気に響く。
驚きのあまり固まってた俺は、願望が見せた幻じゃないかと額宛まで上げて確認したが間違いなくイルカ先生本人だ。
「……んで? なんで帰ってきた、の?」
舌まで固まってしまったのか、なんとか声を絞り出すとイルカ先生は腹をさすりながらあっけらかんと答えた。
「なんでって、ここが帰る場所だからですけど。はー、久しぶりだからちょっと食い過ぎちゃいました! ……あ、首輪を壊しちゃってすみません。これ直りますかね?」
イルカ先生は首に巻かれたままの首輪を引っ張り、床に落ちてた鎖の端を拾い上げると「ボンドじゃ駄目かなぁ……縫うか?」などと呟いている。
――せっかくここから逃げられたのに。
不自由で理不尽な、俺のためだけのこの場所から。
なのになんで戻ってきてしまったのか。
しかも『ここが帰る場所』なんて。
俺はイルカ先生のためと言いながら、一緒に過ごせることしか考えていなかったのに、俺は……
「あれ、この方が噂の忍犬さんですか? はじめまして、うみのイルカ、中忍です!」
「うむ、名はパックンと申す。よろしくな」
「厳しいお顔つきで、さすがはカカシさんの忍犬で……カカシさん?」
俺はどうしたらいいか分からなくなって、かといってイルカ先生と向き合う勇気も潰え、とっさに瞬身の印を組んだ。
クナイイルカ先生をしっかりと懐に入れて。
遠くにイルカ先生の呼ぶ声と、パックンのため息が聞こえたような気がするが、先生のように戻る気概などあるはずもなかった。
恐らく興奮と衝撃のあまり、呼吸するのを忘れて気絶してしまったのだろう。気付いたら朝を迎えていて、せっかくの先生との共寝を全然満喫できなかったのが悔やまれる。
イルカ先生は既に目覚めて活動を始めているらしく、隣は空っぽだった。
「あれ、起こしちまいました? おはようございます、カカシさん」
「ん、おはよう」
顔を洗ってたのか、洗面所からイルカ先生が出てきた。
髭も剃ってさっぱりした顔で、朝から凛々しく爽やかだ。
それじゃあ俺も、とベッドから出ようとして、自分の股間の爽やかじゃない目覚めに気付いた。
……どうしよう。
男の生理現象なんだから堂々としてればいいのかもしれないけど、万が一にも下心がバレたら恥ずかしい。
(カカシさん、もしかして俺を見てそんな風に?)
(うん、爽やかな先生の笑顔でね。実は前からあなたのことが好きなんです)
(嬉しい! 俺も本当はカカシさんのことを……)
いやいやいや朝勃ちがきっかけの告白とか。
「………ないな」
「何がないんですか? あ、カカシさん朝からお元気ですね~! 朝ご飯は俺が作っとくのでトイレどうぞ。ごゆっくり~」
…………………。
そうだった。
イルカ先生って何ていうか、こう、デリカシーに欠け……じゃなくて男らしくてさっぱりしてるよね。
そういうところも好きなんだけどね!
トイレで可哀想な俺の息子を宥めると、心なしか息子もしょんぼりしてるように見える。
いつかお前の出番もあるからなと言い聞かせ、顔を洗って髭も剃るとイルカ先生の手伝いをしにキッチンへ向かった。
食卓で納豆を練ってる先生をぼんやりと眺めていると、「あんまり食欲ないんですか?」と心配そうに聞かれたので、慌てて味噌汁の椀を手にする。良かった、今日の味噌汁の実は豆腐となめこで普通だ。
「そういえば、そろそろ生鮮食品のストックが危ういんじゃない? 今日は日帰りできないけど、たぶん四、五日後なら買い物に寄れるから。イルカ先生は何か買ってきてほしいのある?」
ふと思い付いた俺が訊ねると、先生はぱんぱんに膨らませた頬をもぐもぐと動かして飲み込みながら首を傾げた。そういう姿もリスみたいで可愛いなぁ。
「そうですね………一楽のラー……いえ、餃子を作りたいので皮と合挽きをお願いします!」
「りょーかい」
イルカ先生の料理は時々個性的というか斬新な具材が使われるけど、餃子は大丈夫だろうか。でもあったかいご飯を先生の顔を見ながら食べられるなんて最高の贅沢だ。
この時俺は自分の幸せに夢中で、イルカ先生の一瞬曇った表情の理由を深く考えなかった。
食事を終えて任務の支度をし、木格子の嵌まった玄関に向かうと先生が着いてきた。
「どうぞお気を付けて、ご武運を」
「ん、いってきます」
イルカ先生の見送りで任務に出られるなんて最高の気分だ。
ここでいってらっしゃいのキスの一つもしてもらいたいところだけど、残念ながらそういう関係ではない。まだ。
この数日でかなり距離も縮まった気もするし、そろそろ俺の気持ちを伝えてもいいかもしれない。
そんな呑気なことを考えながら、ふわつく足取りで地上への階段を上った。
四、五日と言った任務は、標的の想定外な行動で一週間を超えてしまった。
しかも報告後の帰りがけに運悪くガイに捕まってしまい、自分の任務中に子供達の修行を見てくれないかと持ちかけられた。ガイは面倒だが子供達に罪はない。白眼と体術と武器の扱いを個々にチェックしてほしいようで、相談がてら呑みにと言うところをなんとか一楽で手を打ってもらった。
一通り修行内容のレクチャーを受け、ついでに餃子を手土産にできるかテウチさんに聞いてみたら断られてしまった。
「なんだカカシよ、手土産を持って行きたい相手がいるのか?」
ガイが動物的な勘で鋭い質問を投げてくるが、「まぁね」と適当に流すと「そうか、青春だな!」と返すだけで深追いはしてこなかった。
ガイは野性動物に近いだけあって、他人の恋愛事情には興味ないのだろう。まぁ、その動物的な勘で、深く追求されたくない空気を感じ取ったのもあるだろうけど。これが紅じゃなくて本当に良かった。
手ぶらで一楽を出ると、猛スピードで木の葉マートで買い物をし隠れ家に向かう。
イルカ先生の食料は大丈夫だろうけど、俺が一刻も早く会いたくて。
だって一週間以上ぶりのイルカ先生だ。
しかも受付で皆に笑顔をふりまく先生じゃなく俺の、俺だけの帰りを待っててくれてるイルカ先生だ。
地下室への階段を飛ぶように、実際ひと跳びで降りると閂を外すのももどかしく木格子の扉を開け放つ。
「ただいまイルカ先生!」
「おかえりなさい、カカシさん」
………今イルカ先生の声がしたはずなんだけど、肝心の姿が見えない。
装備を外しながら見回しても、どこにも見当たらなかった。
「イルカ先生?」
「カカシさん」
なんだかすごく下の方から声がしたような、と思ったら、脚絆に何かが触れた。
「カカシさん」
「イルカ先生⁉ どうしたの⁉」
脚絆を掴んで引っ張っているのは、クナイサイズのイルカ先生だった。
慌ててそっと両手に乗せると、クナイイルカ先生が嬉しそうに「カカシさん」と呼ぶ。
「イルカ先生、なんでこんなことに……安心して、小さくても俺が一生面倒みるからね」
「カカシさん」
「うんうん、ずーっと一緒にいましょうね」
「いや、それはちょっと無理だと思いますよ。そいつはチャクラが切れたら消えるそうですから」
「えっ、……イルカ先生⁉ えっ⁉」
洗面所の扉が開き、大きいサイズのイルカ先生が笑いながら出てきた。
でも俺が頬擦りしてたクナイイルカ先生は、まだ手の上にちょこんと座っている。
二人のイルカ先生を交互に見ると、大きいイルカ先生が卓袱台の上から小さな巻物を持ってきた。
「おかえりなさい、カカシさん。あとすみません、これ勝手に使ってしまって」
「あ、それは……」
先生が手にしていたのは、ミニチュアサイズの自分を作る術の巻物だった。
巻物自体にあらかじめ相当量のチャクラを籠めてあるので、ごく僅かなチャクラを籠めれば小さな影分身のようなものを作れるのだ。
ただ本体の思考能力には遠く及ばず、能力も極端に制限されてしまうから使える任務は限られてくる。チャクラを温存しておきたい時には便利だが、せいぜい簡単な斥候か眠っている間に見張りをするくらいにしか活用できないので、隠れ家の本棚に置きっぱなしになって存在すら忘れていた巻物だった。
「暇だな~と思って読んでたら、これなら今の俺でも使えそうだったので、つい……ここ数日は話し相手になってくれてたので、だいぶ助かりました」
「カカシさん、無事だった!」
クナイイルカ先生が嬉しそうに俺の親指にぎゅっと抱き付いた。
ちょっと待って、イルカ先生が俺の指に全身を擦り寄せてるとか、何のご褒美⁉ 厳密にはイルカ先生じゃないけど、先生のチャクラから生まれたんだからこの子は実質イルカ先生だよね? じゃあ俺とクナイイルカ先生は気持ちが通じ合って、実質夫婦といっても過言ではない訳で……
と考えてふと顔を上げたら、イルカ先生の本体がすぐ間近に迫ってきていた。
「……カカシさん」
イルカ先生が、今まで見たこともないほど真剣な表情で俺を見ている。
いや、俺の口元をじっと見つめている。
そして更にぐいと顔を近付けてきた。
ちょ……っと、どうしたのこれってイチャパラフラグ⁉ えっ、まさかイルカ先生からキス……
「いいいいいイルカ先生! 俺も、あの、先生のことずっと」
「………ーメン」
地の底から這い出てきたきたような声がした。
アーメン? キスの前に祈りが必要なのか?
それなら俺も唱えた方がいいっていうか、あ! もう誓いの言葉を交わしちゃうの⁉ それは早すぎると思……いや俺は全然構わないしむしろ大歓迎だけどね! 早速唱えちゃうし誓っちゃうけどね!
「アーメン!!」
「一楽のラーメンですね?」
「………はい?」
よくよく見ると、イルカ先生はとてもじゃないが愛を誓う顔ではない。
目付きが恐ろしく険しくなり、まるで般若か阿修羅のようだ。
「その匂いは一楽の塩バター野菜ラーメンもやしコーン増しと餃子ですね?」
「え⁉ あ、あぁ、そうだけどごめんね? ガイに捕まって」
「しお……やさい……ぎょうざ…………」
「イルカ先生?」
「ぅぅぅううぬああぁぁああああもう我慢できんっっ!!」
イルカ先生の目がカッと見開かれた。
鎖と首に巻かれた首輪を握りしめると、獣のような唸り声を上げ渾身の力で引っ張る。
鎖自体は無事だったが、分厚い革製の首輪から鎖の留め具がブチブチっと音を立てて千切り取られた。
そして俺が呆然と見守る前で雄叫びを一つ上げると。
「いーーちーーらーーくぅぅぅううううう!!!!」
と叫びながら、木格子の扉をぶち開けて飛び出していってしまった。
思った以上に呆然自失状態だったのか、我に返った時にはイルカ先生の気配は感じ取れなくなっていた。
十中八九一楽に向かっているだろうが、念の為にパックンを口寄せて追跡を命じようとして、ふと思い留まる。
「なんじゃ、追わんでいいのか」
パックンが開け放たれた木格子と俺の顔とを交互に見た。
「……うん、いいよ。一応同意の上とはいえ、やっぱりこんな風に監禁するなんて無理があったんだよね」
「それは初めから分かっておったことじゃろうが」
皺に埋もれた顔をさらにしかめて、パックンが見上げてくる。
すると口寄せの時のまま肩に乗せていたクナイイルカ先生が、「カカシさん」と変わらず優しい声で呼びかけてきた。
その柔らかい声に、思わず泣き顔のような笑顔を向ける。
「イルカ先生、一緒に俺の家に来てくれる?」
「はい、カカシさん」
クナイイルカ先生が小さい腕をいっぱいに伸ばして、俺の頬と頭に抱き付いてきた。
「カカシよ……それでは何の解決にもならんではないか」
渋い顔をしているだろうパックンの方はあえて見ずに、クナイイルカ先生をそっと撫でる。
この先生は俺の自宅で同居することを快諾してくれた。
いずれ消えてしまう術だけど、それまでは一緒にいられる。本体のイルカ先生には言えなかったことを、この先生には容易く言えてしまう己のヘタレっぷりに苦笑したら、クナイイルカ先生も嬉しそうに笑った。
最初からこうすれば良かった、先生には余計な負担をかけてしまったなと当初の監禁の目的も忘れて反省していると、玄関の方でかたりと物音がした。
「ただいま戻りました~」
イルカ先生の声が狭い空間に呑気に響く。
驚きのあまり固まってた俺は、願望が見せた幻じゃないかと額宛まで上げて確認したが間違いなくイルカ先生本人だ。
「……んで? なんで帰ってきた、の?」
舌まで固まってしまったのか、なんとか声を絞り出すとイルカ先生は腹をさすりながらあっけらかんと答えた。
「なんでって、ここが帰る場所だからですけど。はー、久しぶりだからちょっと食い過ぎちゃいました! ……あ、首輪を壊しちゃってすみません。これ直りますかね?」
イルカ先生は首に巻かれたままの首輪を引っ張り、床に落ちてた鎖の端を拾い上げると「ボンドじゃ駄目かなぁ……縫うか?」などと呟いている。
――せっかくここから逃げられたのに。
不自由で理不尽な、俺のためだけのこの場所から。
なのになんで戻ってきてしまったのか。
しかも『ここが帰る場所』なんて。
俺はイルカ先生のためと言いながら、一緒に過ごせることしか考えていなかったのに、俺は……
「あれ、この方が噂の忍犬さんですか? はじめまして、うみのイルカ、中忍です!」
「うむ、名はパックンと申す。よろしくな」
「厳しいお顔つきで、さすがはカカシさんの忍犬で……カカシさん?」
俺はどうしたらいいか分からなくなって、かといってイルカ先生と向き合う勇気も潰え、とっさに瞬身の印を組んだ。
クナイイルカ先生をしっかりと懐に入れて。
遠くにイルカ先生の呼ぶ声と、パックンのため息が聞こえたような気がするが、先生のように戻る気概などあるはずもなかった。
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