【Caution!】
全年齢向きもR18もカオス仕様です。
★とキャプションを読んで、くれぐれも自己判断でお願い致します。
★エロし ★★いとエロし! ★★★いとかくいみじうエロし!!
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港町の学校に赴任して数週間が過ぎた。
新しい環境の目まぐるしい毎日に、イルカの日常は流されていく。温暖な気候のせいか、地元の人々は皆のんびりしていて温かく、独り者のイルカを何かと気にかけてくれた。
職員の歓迎会の夜に「イルカ先生は彼女とかいないの?」と訊ねられた時も、「残念ながらいないんですよ」と滑らかに答えられたのは忍の心得の賜物だ。
心の大部分は置き去りになったままだけど。
それでも表面的には、驚くほどの早さでこの町に馴染んでいた。
風の噂で、カカシが無事六代目に就任したことを知る。
こんな小さな港町にもすぐ噂が届くほど、六代目の就任は注目を浴びる出来事なのだ。
平和な時代の幕開けと共にあの人は、はたけカカシは歴史の一部になる。
自分の行動は間違っていたとしても、その選択自体は正しかったのだと、イルカは改めて自身に強く言い聞かせた。
――あの人は派手なことが嫌いだからなぁ。
でも今回ばかりは逃げる訳にもいかなくて、ブツブツ言いながら支度をしたんだろうな。
ヤマトさんが八つ当たりされてないといいけど……
ふと現在形でカカシのことを考えていたことに気づいて、イルカは自嘲の笑みを洩らした。
もう全ては過去のことだ。
自分で、自分一人だけで決めたことだ。
二人のことなのに、一人で全て決めてしまった。
だが、それを咎める相手はもういない。
忍術を教えない学校生活にはまだ慣れていないけど、これから時間をかけていけば慣れると思う。カカシがいない、独りの生活にも。
胸に澱んだものを吐き出すように、イルカは深いため息をついた。
そんなある日の放課後、イルカは週末の為に校内の戸締まり確認をして回っていた。
校内の施設や構造を覚える為に、今まではずっと担当者と一緒に回らせてもらっていたのだが、今週末は初めて一人で回ることになったのだ。
先ほどの「さすが元忍者さんの方は覚えが早いですなぁ。それではよろしく頼みますよ」という副主任の言葉を思い出して、少し笑ってしまう。この辺りは都から離れてるせいもあり、忍全般にほとんど縁がない。元忍者さんという言い方ものんびりとしていて、元大工さんとか元パン屋さんみたいだった。
もっと警戒されるかと思っていたのは杞憂だったようだ。
胡散臭さより物珍しさの方が勝ったようで、初めの頃は子供たちにも「何かニンジュツ見せて、ニンジュツ!」と、なかなか授業にならなかったものだ。
何か不慮の事態があった時に、術が使えた方が絶対的に安心だろうと最初から隠さずにおいてたが。今のところそんな非常事態もなく、忙しなくも穏やかな日々だった。
この辺りの地域一帯の子供たちが通う学校は、それでも児童数が少ないので、校舎も二棟それぞれが二階までしかない。
二階から順番に見回りながら階段を下りていくと、廊下の突き当たりにぽつんと一人の子供が佇んでいた。
銀色の髪に一瞬身体が揺れたが、そんなはずはないと思い直す。仕事中はあの人のことは意識から切り離しているつもりだったけど、髪の色ひとつでこんなに動揺してしまうとは。
どれだけ囚われているのかと思うが、今はまず子供のことが最優先だ。
忘れ物か、かくれんぼでもしてて取り残されてしまったのか。なにしろ早く帰さないと、外が真っ暗になってしまう。場合によっては、この子を待たせて戸締まりを済ませたら一緒に帰ろうと思いながら、イルカは歩み寄った。
「どうしたんだ、忘れ物か?」
くるりとその子が振り向く。
近づくと、思った以上に小さい子だった。一、二年生くらいだろうか。頼りなげな、すがり付くような目が、ひたりとイルカを捉える。
「……だいじなものをなくしちゃったの。それがないとぜったいダメなの。先生おねがい、いっしょにさがして」
「そうか、じゃあ一緒に探そうな。大丈夫だ、きっと見つかるよ」
あまりにも必死なその子に、考える前に言葉が出ていた。
とにかく安心させたい、その一心で反射的に出た言葉だった。そんなイルカの気持ちが伝わったのか、子供は泣きそうな顔に弱々しい笑みを浮かべた。
イルカがその小さな手をとって繋いでやると、ぎゅうと握り返してくる。不安だったせいなのか、温かいはずの子供の手はひんやりとしてしまっていた。空いてる方の手で頭をぽんぽんと撫でると、見上げてきたのでにっこりと笑い返す。
「さあ、先生と一緒に探しにいこうな。何をなくしたのか、先生に教えてくれないか?」
「あのね、すっごくだいじなもの。あったかいの」
あったかいの……。
「手袋とかマフラーか?」
子供はふるふると首を振る。
「う~ん、じゃあコート……は着てるもんなぁ。帽子か? カイロとか?」
やっぱり子供は首を振り続ける。
これくらいの子供は、何をと聞いてもその物の名前を知らなかったりで、説明できないことも多い。
あまり問い詰めるとまた不安になってしまうので、イルカは質問を変えることにした。
「じゃあ、どこでなくしたか覚えてるか?」
「わかんない。あっ、ておもったら、なかったの」
「そうかぁ……じゃあ、ちょっと一緒に歩いて探してみようか」
この子が校内で行ける所は限られている。
歩き回るうちに思い出すだろうと、手を繋いだまま、まずは低学年の教室に向かった。
それから教室の中を探しても、廊下や、昇降口、校庭まで探しても子供の捜し物は見つからなかった。
もう外もすっかり暗くなってしまっている。お家の人に連絡をしたら、今日は一緒に帰ろうと言おう。もしかしたら、母親からなくした物の情報も聞けるかもしれない。それなら後で先生が探しておくからと言えるから、この子も少しは安心するだろう。
歩き回って疲れたし冷えただろうと、繋いだ手からチャクラをゆっくりと流し込みながら職員室に向かう。
黙りこくったままの子供に、どう切り出すか考えながらイルカはもう一度だけ聞いてみた。
「これだけ探しても見つからないなんて、お前の探しているものはどんなものなんだ? ほら、何色とか、どれくらいの大きさとか」
問いかけるイルカに、子供はぴたりと足を止めた。
ずっと繋いでた手が突然放され、怪訝に思ったイルカが振り返って子供の顔を覗きこむと、銀色の髪の子供は。
泣き笑いを浮かべて。
「……あなただよ。イルカ先生」
ボン、と白い煙が上がり、中から低く掠れた声が聴こえる。
「あなただけが足らなかった。
俺の記憶の中で――あなただけが足らなかったよ」
それはイルカが記憶の中で幾度となく繰り返し聴いた、もう二度と聴くこともないと思っていた声で。
漂っていた煙が晴れる。
そしてそこには、ほんの少し見上げる高さから、カカシがイルカを見つめていた。
あの海の色合いの、深い紺碧の眼で。
「まさか……」
その姿を信じられない思いで見つめるイルカを、カカシはそっと抱きしめる。
まるで、触れたら砕けて無くなってしまうとでもいうように。
「やっと……やっと見つけた。ずっと探していたんだよ。あなたがいなくなった日から、ずっと」
「そんな……だって記憶……消したはず、じゃ……」
「記憶はね。でも、気持ちまでは消せなかったよ、イルカ先生」
カカシの腕に力がこもる。
「記憶の中の先生はただの顔見知り程度なのに、思い出すと愛おしい気持ちが溢れて止まらないんだ。身に覚えのないはずの、イルカ先生を腕の中に抱きしめた時の満たされる感覚とかね。……これはおかしいって思うのに、そんな時間はかからなかったよ」
――チガウ、コレハ、夢ダ
――俺ノ未練ガ見セル、夢ダ
「馬鹿だね。イルカ先生は頭いいのに、ほんとに馬鹿だ。記憶を消したぐらいで忘れられるような人だったら、初めから好きにならないよ」
「カ……カシ、さ……」
掠れた自分の声に、我に返る。
――カカシさんの声が湿っているように思えるのは、気のせいだろうか。
そう思って比べようと記憶を手繰ろうにも、耳元で聴こえる息遣いに邪魔をされる。
あれほど大切に抱えていた記憶は、あっさりと色褪せて遠くなってしまった。
今この瞬間に、たった息遣いのひとつで。
抱きしめられるがままになっていたイルカの耳が、は と短いため息を拾った。
その重さに、カカシの抱えていた不安と恐れを感じ取る。
イルカの脳裏に、先ほどの子供の頼りなげな様子が蘇った。あれは本物だった。カカシがこの数週間、ずっと抱え続けてきた感情だったのだ。
それが今、ようやく拭い去られたのだということが、短いため息に乗せて伝わってきて、イルカの胸を苦しくさせた。
「……さ、帰るよ。忍者登録も復帰させておいたし、アカデミーへの復職も決まっているから」
そう言って身体を離し、ニィと笑う男は何処までもふてぶてしくて。
そうだった。
この人はこういう人だった。
ふっ と肩の強張りが抜ける。
「一体いくら貢いだんですか?綱手さまに」
「ん~? まぁ、……賭場をまるまる一つ買えるくらいは貢いだかな?」
冷や汗をかいてさっきとは違う作り笑顔をするカカシに、これはもっと大きな貸しを作られたなと思う。
「……記憶を消すって、どうして分かったんですか?」
「う~ん、……ま、あなたならそうするかなと。それよりも、俺は怒っているんだ~よ? なんで俺に内緒でいなくなったの?」
「内緒にしないとあなた怒るでしょう? だから内緒にしたんですよ」
「そういうとこ、イルカ先生のそういうとこ、俺は嫌い。なんで相談してくれないの? 何でも自分の中で決めちゃって、俺が手を回しておかなかったら、本当に記憶を抹消するつもりだったでしょ? 自分の」
その言葉にぎくりとイルカの肩が強張る。
『万が一、万が一ですけど……カカシさんの記憶が戻った時には、その時こそ俺の中のカカシさんの記憶を消して下さい』
カカシの記憶が戻るようなことがあったら、その時は自分の中の記憶を消して欲しいと、イルカは綱手に頼んでいた。
その時こそ、自分はこの人から決して離れられなくなる。カカシも二度と手離さないよう、全知識と全権力を以てなりふり構わずイルカを閉じ込めるだろう。
そして恋に狂う火影は、後ろ指を差されながら嘲笑の的になる。
だけどこの人は。
本当に優しいこの人は、記憶のない自分になら、そんな無体な真似はできないだろう。それをしたら、ただの横暴な上官命令になってしまう――そこにイルカの心はないのだから。
そういうカカシの性格を踏まえた上での、二段構えの計画だった。
「もう諦めな。あなたはこの先一生俺だけのものなの」
ああ、この人はなんて傲慢で。
そして潔い。
「忘れるなんて許さない。許してやらない。こうやって傷つけ合うのも、舐め合うのも。何もかも、アンタだけがいい」
そう言うと、またイルカを抱きしめ閉じ込めた。
カカシの腕と胸で形作られる、優しくて甘い檻に。
――イルカを抱くその腕は震えていて。
この人を今こうさせているのは自分なのだ。
「もう逃がさない」
カカシの唇が有無を言わさずイルカの口を捕らえてしまう。
長年の習慣で目を閉じて受け入れたイルカを、馴染みのある感覚が包んだ。
身体の中身が少しずれるような、瞬身を使った時の感覚。
目を開けると、そこはもう室内だった。
「……ここは?」
「俺のとった宿」
「え……あ、学校! 戸締まりが」
「パックンを置いてきたから大丈夫。もう黙って」
きょろきょろとするイルカの顔を、カカシが掴んで深い口づけを仕掛けてきた。
何もかも奪うような、何もかも委ねるような。
互いを明け渡し合うような、そんな深い口づけを。
「俺がどれだけアンタを必要としてるか。どれだけ言葉も時間をかけても伝わってないみたいだから。……身体で思い知るといい」
獰猛な眼をしたカカシが宣告する。
そしてイルカの衣類を剥ぎ取ると、自分のも一気に脱ぎ捨てて服の山の上に押し倒した。
新しい環境の目まぐるしい毎日に、イルカの日常は流されていく。温暖な気候のせいか、地元の人々は皆のんびりしていて温かく、独り者のイルカを何かと気にかけてくれた。
職員の歓迎会の夜に「イルカ先生は彼女とかいないの?」と訊ねられた時も、「残念ながらいないんですよ」と滑らかに答えられたのは忍の心得の賜物だ。
心の大部分は置き去りになったままだけど。
それでも表面的には、驚くほどの早さでこの町に馴染んでいた。
風の噂で、カカシが無事六代目に就任したことを知る。
こんな小さな港町にもすぐ噂が届くほど、六代目の就任は注目を浴びる出来事なのだ。
平和な時代の幕開けと共にあの人は、はたけカカシは歴史の一部になる。
自分の行動は間違っていたとしても、その選択自体は正しかったのだと、イルカは改めて自身に強く言い聞かせた。
――あの人は派手なことが嫌いだからなぁ。
でも今回ばかりは逃げる訳にもいかなくて、ブツブツ言いながら支度をしたんだろうな。
ヤマトさんが八つ当たりされてないといいけど……
ふと現在形でカカシのことを考えていたことに気づいて、イルカは自嘲の笑みを洩らした。
もう全ては過去のことだ。
自分で、自分一人だけで決めたことだ。
二人のことなのに、一人で全て決めてしまった。
だが、それを咎める相手はもういない。
忍術を教えない学校生活にはまだ慣れていないけど、これから時間をかけていけば慣れると思う。カカシがいない、独りの生活にも。
胸に澱んだものを吐き出すように、イルカは深いため息をついた。
そんなある日の放課後、イルカは週末の為に校内の戸締まり確認をして回っていた。
校内の施設や構造を覚える為に、今まではずっと担当者と一緒に回らせてもらっていたのだが、今週末は初めて一人で回ることになったのだ。
先ほどの「さすが元忍者さんの方は覚えが早いですなぁ。それではよろしく頼みますよ」という副主任の言葉を思い出して、少し笑ってしまう。この辺りは都から離れてるせいもあり、忍全般にほとんど縁がない。元忍者さんという言い方ものんびりとしていて、元大工さんとか元パン屋さんみたいだった。
もっと警戒されるかと思っていたのは杞憂だったようだ。
胡散臭さより物珍しさの方が勝ったようで、初めの頃は子供たちにも「何かニンジュツ見せて、ニンジュツ!」と、なかなか授業にならなかったものだ。
何か不慮の事態があった時に、術が使えた方が絶対的に安心だろうと最初から隠さずにおいてたが。今のところそんな非常事態もなく、忙しなくも穏やかな日々だった。
この辺りの地域一帯の子供たちが通う学校は、それでも児童数が少ないので、校舎も二棟それぞれが二階までしかない。
二階から順番に見回りながら階段を下りていくと、廊下の突き当たりにぽつんと一人の子供が佇んでいた。
銀色の髪に一瞬身体が揺れたが、そんなはずはないと思い直す。仕事中はあの人のことは意識から切り離しているつもりだったけど、髪の色ひとつでこんなに動揺してしまうとは。
どれだけ囚われているのかと思うが、今はまず子供のことが最優先だ。
忘れ物か、かくれんぼでもしてて取り残されてしまったのか。なにしろ早く帰さないと、外が真っ暗になってしまう。場合によっては、この子を待たせて戸締まりを済ませたら一緒に帰ろうと思いながら、イルカは歩み寄った。
「どうしたんだ、忘れ物か?」
くるりとその子が振り向く。
近づくと、思った以上に小さい子だった。一、二年生くらいだろうか。頼りなげな、すがり付くような目が、ひたりとイルカを捉える。
「……だいじなものをなくしちゃったの。それがないとぜったいダメなの。先生おねがい、いっしょにさがして」
「そうか、じゃあ一緒に探そうな。大丈夫だ、きっと見つかるよ」
あまりにも必死なその子に、考える前に言葉が出ていた。
とにかく安心させたい、その一心で反射的に出た言葉だった。そんなイルカの気持ちが伝わったのか、子供は泣きそうな顔に弱々しい笑みを浮かべた。
イルカがその小さな手をとって繋いでやると、ぎゅうと握り返してくる。不安だったせいなのか、温かいはずの子供の手はひんやりとしてしまっていた。空いてる方の手で頭をぽんぽんと撫でると、見上げてきたのでにっこりと笑い返す。
「さあ、先生と一緒に探しにいこうな。何をなくしたのか、先生に教えてくれないか?」
「あのね、すっごくだいじなもの。あったかいの」
あったかいの……。
「手袋とかマフラーか?」
子供はふるふると首を振る。
「う~ん、じゃあコート……は着てるもんなぁ。帽子か? カイロとか?」
やっぱり子供は首を振り続ける。
これくらいの子供は、何をと聞いてもその物の名前を知らなかったりで、説明できないことも多い。
あまり問い詰めるとまた不安になってしまうので、イルカは質問を変えることにした。
「じゃあ、どこでなくしたか覚えてるか?」
「わかんない。あっ、ておもったら、なかったの」
「そうかぁ……じゃあ、ちょっと一緒に歩いて探してみようか」
この子が校内で行ける所は限られている。
歩き回るうちに思い出すだろうと、手を繋いだまま、まずは低学年の教室に向かった。
それから教室の中を探しても、廊下や、昇降口、校庭まで探しても子供の捜し物は見つからなかった。
もう外もすっかり暗くなってしまっている。お家の人に連絡をしたら、今日は一緒に帰ろうと言おう。もしかしたら、母親からなくした物の情報も聞けるかもしれない。それなら後で先生が探しておくからと言えるから、この子も少しは安心するだろう。
歩き回って疲れたし冷えただろうと、繋いだ手からチャクラをゆっくりと流し込みながら職員室に向かう。
黙りこくったままの子供に、どう切り出すか考えながらイルカはもう一度だけ聞いてみた。
「これだけ探しても見つからないなんて、お前の探しているものはどんなものなんだ? ほら、何色とか、どれくらいの大きさとか」
問いかけるイルカに、子供はぴたりと足を止めた。
ずっと繋いでた手が突然放され、怪訝に思ったイルカが振り返って子供の顔を覗きこむと、銀色の髪の子供は。
泣き笑いを浮かべて。
「……あなただよ。イルカ先生」
ボン、と白い煙が上がり、中から低く掠れた声が聴こえる。
「あなただけが足らなかった。
俺の記憶の中で――あなただけが足らなかったよ」
それはイルカが記憶の中で幾度となく繰り返し聴いた、もう二度と聴くこともないと思っていた声で。
漂っていた煙が晴れる。
そしてそこには、ほんの少し見上げる高さから、カカシがイルカを見つめていた。
あの海の色合いの、深い紺碧の眼で。
「まさか……」
その姿を信じられない思いで見つめるイルカを、カカシはそっと抱きしめる。
まるで、触れたら砕けて無くなってしまうとでもいうように。
「やっと……やっと見つけた。ずっと探していたんだよ。あなたがいなくなった日から、ずっと」
「そんな……だって記憶……消したはず、じゃ……」
「記憶はね。でも、気持ちまでは消せなかったよ、イルカ先生」
カカシの腕に力がこもる。
「記憶の中の先生はただの顔見知り程度なのに、思い出すと愛おしい気持ちが溢れて止まらないんだ。身に覚えのないはずの、イルカ先生を腕の中に抱きしめた時の満たされる感覚とかね。……これはおかしいって思うのに、そんな時間はかからなかったよ」
――チガウ、コレハ、夢ダ
――俺ノ未練ガ見セル、夢ダ
「馬鹿だね。イルカ先生は頭いいのに、ほんとに馬鹿だ。記憶を消したぐらいで忘れられるような人だったら、初めから好きにならないよ」
「カ……カシ、さ……」
掠れた自分の声に、我に返る。
――カカシさんの声が湿っているように思えるのは、気のせいだろうか。
そう思って比べようと記憶を手繰ろうにも、耳元で聴こえる息遣いに邪魔をされる。
あれほど大切に抱えていた記憶は、あっさりと色褪せて遠くなってしまった。
今この瞬間に、たった息遣いのひとつで。
抱きしめられるがままになっていたイルカの耳が、は と短いため息を拾った。
その重さに、カカシの抱えていた不安と恐れを感じ取る。
イルカの脳裏に、先ほどの子供の頼りなげな様子が蘇った。あれは本物だった。カカシがこの数週間、ずっと抱え続けてきた感情だったのだ。
それが今、ようやく拭い去られたのだということが、短いため息に乗せて伝わってきて、イルカの胸を苦しくさせた。
「……さ、帰るよ。忍者登録も復帰させておいたし、アカデミーへの復職も決まっているから」
そう言って身体を離し、ニィと笑う男は何処までもふてぶてしくて。
そうだった。
この人はこういう人だった。
ふっ と肩の強張りが抜ける。
「一体いくら貢いだんですか?綱手さまに」
「ん~? まぁ、……賭場をまるまる一つ買えるくらいは貢いだかな?」
冷や汗をかいてさっきとは違う作り笑顔をするカカシに、これはもっと大きな貸しを作られたなと思う。
「……記憶を消すって、どうして分かったんですか?」
「う~ん、……ま、あなたならそうするかなと。それよりも、俺は怒っているんだ~よ? なんで俺に内緒でいなくなったの?」
「内緒にしないとあなた怒るでしょう? だから内緒にしたんですよ」
「そういうとこ、イルカ先生のそういうとこ、俺は嫌い。なんで相談してくれないの? 何でも自分の中で決めちゃって、俺が手を回しておかなかったら、本当に記憶を抹消するつもりだったでしょ? 自分の」
その言葉にぎくりとイルカの肩が強張る。
『万が一、万が一ですけど……カカシさんの記憶が戻った時には、その時こそ俺の中のカカシさんの記憶を消して下さい』
カカシの記憶が戻るようなことがあったら、その時は自分の中の記憶を消して欲しいと、イルカは綱手に頼んでいた。
その時こそ、自分はこの人から決して離れられなくなる。カカシも二度と手離さないよう、全知識と全権力を以てなりふり構わずイルカを閉じ込めるだろう。
そして恋に狂う火影は、後ろ指を差されながら嘲笑の的になる。
だけどこの人は。
本当に優しいこの人は、記憶のない自分になら、そんな無体な真似はできないだろう。それをしたら、ただの横暴な上官命令になってしまう――そこにイルカの心はないのだから。
そういうカカシの性格を踏まえた上での、二段構えの計画だった。
「もう諦めな。あなたはこの先一生俺だけのものなの」
ああ、この人はなんて傲慢で。
そして潔い。
「忘れるなんて許さない。許してやらない。こうやって傷つけ合うのも、舐め合うのも。何もかも、アンタだけがいい」
そう言うと、またイルカを抱きしめ閉じ込めた。
カカシの腕と胸で形作られる、優しくて甘い檻に。
――イルカを抱くその腕は震えていて。
この人を今こうさせているのは自分なのだ。
「もう逃がさない」
カカシの唇が有無を言わさずイルカの口を捕らえてしまう。
長年の習慣で目を閉じて受け入れたイルカを、馴染みのある感覚が包んだ。
身体の中身が少しずれるような、瞬身を使った時の感覚。
目を開けると、そこはもう室内だった。
「……ここは?」
「俺のとった宿」
「え……あ、学校! 戸締まりが」
「パックンを置いてきたから大丈夫。もう黙って」
きょろきょろとするイルカの顔を、カカシが掴んで深い口づけを仕掛けてきた。
何もかも奪うような、何もかも委ねるような。
互いを明け渡し合うような、そんな深い口づけを。
「俺がどれだけアンタを必要としてるか。どれだけ言葉も時間をかけても伝わってないみたいだから。……身体で思い知るといい」
獰猛な眼をしたカカシが宣告する。
そしてイルカの衣類を剥ぎ取ると、自分のも一気に脱ぎ捨てて服の山の上に押し倒した。
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