【Caution!】

こちらの小説は全て作家様の大切な作品です。
無断転載・複写は絶対に禁止ですので、よろしくお願いします。
★エロし ★★いとエロし!
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このお話は企画室にあるはやおさん、mogoさん、如月が3人で書いた長編『優しき獣は愛を請う』の番外編です。

はやおさんの書いた同じく番外編『人狼の仔』のお話とも繋がっているので、先にこちらを読んで頂くとより楽しめると思います!


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『獣人の掟』


夜明け前の空は薄明かりに包まれた雲と、まだ夜の闇が残る紺色が混じり合って、どこかほっとするような、張り詰めた空気が和らぐのを感じさせた。
朝靄の残る林の中を、カカシは音もなく跳躍すると、そのすぐ側を飛ぶテンゾウに視線を送る。
火の国の国境沿いに広がるこの林は、交通の要所である街道のすぐ側にあったが、最近この付近は夜盗が出て旅人が襲われる事件が多発していた。
カカシはテンゾウと共に夜盗の討伐任務を受け、夜のうちにこの林の中に潜んでいた。
辺りが暗いうちは緊張感を張り巡らせる夜盗も、夜明け前のこの時刻には、気の抜ける者が多かった。
本当に恐ろしいのは、夜ではない。
何も知らない夜盗の見張りは、林の中の小屋の前で、のんきにあくびを漏らしていた。
カカシは夜盗の見張りの背後に降り立つと、クナイで首をひと付きにした。
ドサリと見張りの男が倒れる音がしたと同時に、小屋の裏手に回ったテンゾウが火を放つ。
突如上がった炎に驚いた夜盗達が、小屋の入り口から一斉に飛び出してきた。
飛び出してきた男達を、テンゾウの木遁で枝をのたうつ蛇のように伸ばした木々が次々と捕らえていく。
残るはあと一人。
「逃がすかっ」
テンゾウの声に呼応するように伸びた枝は、夜盗の男を捕らえると、締め上げた。
ボキボキと男達の骨が折れる耳障りな音がする。
男達は次々と昏倒していったが、最後に捕らえた男はまだ意識が残っていたのだろう。
苦悶の表情でテンゾウを睨み付けると、見る見る間にその顔は変貌を遂げていく。
両の耳は大きく頭頂部に立ち上がり、獣毛に覆われた顔は、金色の猫の目が輝いていた。
突然の変化に驚くテンゾウの前で、猫の姿に変わった男は、全身の毛を逆立てて、巨大な熊のように膨れあがった。
「シャー!!」
威嚇音と共にテンゾウの喉元に食らいつこうとした猫の体を、青白いカカシの放った雷が包み込む。
間一髪の所で仕留めた巨大な猫は、カカシとテンゾウの前で体を収縮して、地に転がった。
「すみません。油断しました」
額に脂汗を浮かべたテンゾウが、カカシに声をかける。
「しかし……驚きました。まさか人間が猫になるなんて……変化ってワケではなさそうですね」
地に転がる猫を見つめ、テンゾウが首を捻る。
「人猫族……」
「え?じんびょう?」
「いや、何でもない」
カカシは地に転がる猫の前にかがみ込むと、その体をじっと見つめた。
間違いない。この猫は……いや猫の姿をした人間は、イルカと同じ人猫族だ。
瓶底眼鏡をかけ、愛くるしい笑顔で受付とアカデミー教師を兼任するカカシの番の恋人は、人ではなかった。
人猫族。
生命の危機に瀕すると猫の姿に変わる獣人だ。そしてその番であるカカシもまた人ではなかった。
人犬族。
古来より木の葉の守護者として、影ながら里を守り続けてきた獣人の一族の、カカシは最後の生き残りであり、長だった。
極度の興奮状態に晒されると、銀色の体躯を持つ獣の本性が現れる。それを人としての理性で押さえ込み、獣人であると言う秘密を抱えて生きている。
それはイルカもまた同じであった。
「この怪しい猫は、検体に回しましょう」
そう言ってテンゾウが猫の体に手を伸ばした時だった。
事切れていたと思っていた猫が、突然体を起こし飛び上がったのは!
「チッ」
カカシはテンゾウの喉仏に食らいつこうとした猫を、薙ぎ払った……つもりだった。
金の両目を憎しみに煌めかせた猫は、カカシの右腕にしがみつき、鋭い牙で噛み付いた。
腕の肉を食い破る牙と鋭い痛みに、カカシは猫を地に叩き落とすと、猫は鋭い眼光を放ちながら、その場から逃げ出した。
噛み付かれた傷口が、グズグズと膿んでいるように熱い。にじみ出した血が、まるで文様のような跡を付けて地に滴っていた。
咄嗟にその後を追いかけようとしたテンゾウに、深入りは危険だとカカシは制止の声を上げた――
ハズだった。
「ニャー!!」
自分の口から出たとは思えない可愛らしい声に、カカシは一瞬固まった。
なぜかテンゾウの顔が頭上に見えて、怪訝に思いながらももう一度口にする。
「ニャー!!ニャニャー!!(止めろ!!追いかけるな!!)」
え?
思わずぽかんとテンゾウの顔を見上げると、テンゾウがぎょっと目を剥き固まっていた。
「にゃ~あ?(テンゾウ?)」
「は?……え?……あ、あれ?せ……先輩?ちょっと冗談はよして下さいよ?僕をからかう気ですか?隠れているんでしょ?出てきて下さいってばっ」
周囲をきょろきょろと伺いながら、歩き出したテンゾウに、カカシはもう一度声を上げた。
「ニャー!!ニャーニャー!!ニャー!!ニャニャニャーニャ!!(おい!こら!テンゾウ!俺はここに居るだろ!」
「先輩~」
この時になって初めてカカシは気が付いた。
体がいつの間にか銀色の獣毛に覆われていることに。
これではまるで興奮した時の獣化した体のようだ。
「にゃ?にゃにゃ?(え?これって)」
周囲を見渡せば、カカシが身につけていたはずの衣服が地に落ちていた。
獣化した体よりもはるかに小さな体には、犬の尾ではなく猫の尾が生えていた。
「ニャー?ニャーニャ!!(嘘だろ?猫になってる!!)」
カカシの叫び声に振り返ったテンゾウは、真っ青な顔をして目を剥いていた。
「まさか……先輩?」
恐る恐る近寄ってきた後輩は、カカシの前でかがみ込むとじっとカカシを覗き込む。
「ニャー!ニャーニャー!ニャーニャーニャーニャー!ニャーニャ!(テンゾウ!やっと分かったか!取りあえず里に帰るよ!綱手様の所へ連れて行ってくれ!)」
「あの……何をおっしゃっているのかさっぱり分かりませんが」
「ニャーニャーニャー!!ニャー?(綱手様の所へ連れてけって言うの!!分かった?)」
銀色の可愛い、しかも子猫の姿をしたカカシを前に、テンゾウは途方に暮れている。
「あぁ、どうしたら良いんだ?先輩が猫になっちゃうなんてっ」
冷静沈着な後輩が珍しく取り乱してる姿に、カカシは事の重大性を知った。
「フー!!(早く連れてけって言うの!)」
「あ、ちょっと!怒らないで下さいよ!」
カカシが怒っていることだけは伝わったのか?テンゾウは慌ててカカシの衣服や装備品を拾い集めると、里へ向けて緊急の式を送った。
「綱手様には連絡しましたから。あの……噛み付かないで下さいね?」
恐る恐るカカシの体を手に取った後輩に、カカシは唸り声を上げた。
「フー!!(誰が噛み付くか!!)」
「ヒッ!!」
驚いた弾みで手を離した後輩の腕に、カカシは咄嗟にしがみつく。
「痛いっ痛いっ爪立てないで下さいよ!もぅ!!」
痛みに顔を顰める後輩のベストをよじ登ったカカシは、後輩の支給服の襟元からベストの中に潜り込む。
そのままちょこんとベストの下から顔を出すと、テンゾウに命じた。
「ニャニャ!ニャーニャ!(ほら!早く帰るよ!)」
さすがにカカシの意図が伝わったのか?テンゾウが撤収に向けて動き出す。
一通り術の痕跡を消し去ったテンゾウは、倒れている男達を捕縛用の縄で木に括り付け、目くらましの結界を張り、処理班に向けて再び式を放った。
「急ぎますから。しっかり掴まってて下さいよ!」
テンゾウは高く跳躍すると、胸元にカカシを抱えたまま木立を駆け抜けて行った。


五代目火影の執務室にテンゾウと供に入ったカカシの前で、亜麻色の髪を持つ女傑は、大量の書類の束が載った執務机を前に、難しい顔をして腕を組んでいた。
「戻ったか。それで式に書いてあったカカシが猫になってしまったというのは本当なのかい?」
「はい」
神妙な顔をして答えるテンゾウを前にして、綱手は怪訝な顔を浮かべる。
「それで?肝心のカカシはどこにいるんだい?」
「あ、先輩ならここに」
そう言ってベストの中に手を突っ込み、カカシの首根っこを摘まみあげようとしたテンゾウの手をカカシはパンチする。
「シャー!(もっと丁寧に扱えって言うの!)」
「痛いっ!!」
涙目で引っ掻かれた手をさするテンゾウのベストの中からカカシは飛び出した。
銀色のふわふわした毛並みに、オッドアイが煌めく子猫の姿をしたカカシを前に、綱手は信じられないといった風に目を大きく見開いている。
驚くのも無理はないか。
獣人の存在を知る綱手であっても、にわかには信じられないだろう。
さてどうやって説明するべきか。
テンゾウの前で人猫族の話をするのは憚られるし、かと言ってこの猫の姿は明らかにあの人猫族の男の仕業に違いなかった。
思案するカカシの姿は、愛らしい子猫がしっぽをピョコピョコ動かしながら首をひねっている様にしか見えず、綱手の目がキラキラと輝きだした。
「カカシ!お前こんなに可愛らしくなって!」
綱手は執務机から立ち上がりカカシの元へ来ると、ひょいっとカカシを抱き上げる。
「まさか爪立てたりしないだろうね?」
ドスのきいた声で囁かれて、カカシはびくりと身を震わせる。
カカシが大人しくなったことを良いことに、綱手はふわふわの銀髪を楽しむように、何度も頬ずりを繰り返した。
「ニャ、ニャニャッ(もう、放してくださいよっ)」
「ん?何だ?遊んでほしいのか?」
綱手はカカシを腕に抱いたまま、執務机の脇にある書棚の上に置かれていたハタキを手に取った。
「ほ~れ、ほれほれ」
綱手の腕から解放されて、ほっとしたのもつかの間、頼りの綱の里長は、ハタキを猫じゃらし代わりにふりふりと動かして、カカシを誘う。
「ちょっと綱手様。いくらなんでもそれは……」
苦笑するテンゾウの前であろう事かカカシは、ふりふり動くハタキに飛びついた。
「ニャ?ニャニャッ?(え?何故身体が勝手に?)」
「ほ~れ、ほれ。これでどうだ?」
ふわふわ動くハタキに、子猫の姿のカカシはしっぽをピンと立てて助走をつけて飛びかかる。
「おぉ飛びついたな!さすがカカシだ。猫になっても反応が早い!」
「綱手さま~。先輩も」
頭を抱えるテンゾウの前で、五代目火影と子猫になった里の誉れの、じゃれ合いは続いた。


正午過ぎに受付の仕事を終えたイルカは、大きな肩掛け鞄を提げ、家路を急いでいた。
「そんなに急いでどうする?」
今にも駆け出しそうなイルカのすぐ脇の塀の上を、真っ白い長毛の美しい大きな猫が歩いている。
日の光に照らされて輝く色違いの目は、瞳孔が引き絞られて繊月の様だった。
「だって今日はカカシさんが帰って来る日だから」
イルカは白猫に声をかけるとにこっと笑った。
瓶底めがねをかけたこの青年の笑顔は、その優しさと朗らかさで、癒やされる者も多い。
その甘い蜜のような純粋なイルカに、邪な思いを抱く者は多く、育て親でもあるこの白く美しい猫にとっては憂鬱の種だった。
この白猫――名は三日月羅刹丸と言い、強大な力を持つ猫の妖だ。イルカの両親に助けられた恩から、幼いイルカを守り続け、ここまで育て上げた。純白の長毛が美しい猫の姿と、逆立つ白髪の美貌の青年の姿、二つの姿を併せ持つ。
幼き頃から側にいたこの猫の妖を、イルカは大変可愛がり、その真っ白い姿から、猫の姿をしている時はシラスと呼んだ。
名には力があり、そう易々とイルカ以外の者に妖の名を呼ばれる事を羅刹丸は望まなかったので、シラスと呼ばれるのは都合が良かった。
羅刹丸は人猫族であるイルカには、然るべき時に然るべき相手を添わせようと思っていたのだが……
思わぬところで、天敵である犬の眷族――はたけカカシにイルカを娶らせる事になり、親心は複雑
であった。
イルカの番となった犬使いであるカカシが、常に犬を張り付かせていることから、イルカに纏わり付く良からぬ輩は追い払われ、羅刹丸の心配の種が減ったことは、素直に感謝している。
しかし番になったことを認めるかどうかとは別問題だったが。
羅刹丸にとってカカシは、忌々しいけれど一目置く存在だった。


賑やかな商店街を抜け、閑静な住宅街を歩いて行くと、木造の古びた二階建てのアパートが見えてくる。
二階の自室のドアの前に、珍しい男の姿を見つけて、イルカは立ち止まった。
「どうしたのじゃ?」
「ヤマトさんだ。どうしたんだろう?」
怪訝な表情を浮かべるイルカのすぐ側で、興味なさそうに猫の妖はあくびを漏らした。
「犬使いの犬か。どうせ大した用ではあるまいよ」
イルカはアパートの階段を駆け上がっていく。
その手すりの上を、猫の妖は鞠のように跳ね上がった。

「ヤマトさん!」
イルカのかけ声にテンゾウが振り返る。
「イルカさん!待ってました!」
どこかばつが悪そうな顔をしているのは、気のせいではないだろう。
「えーと、どうしました?ナルトがまた何かやらかしました?それとも、サクラに何かあったんじゃ!」
青白い顔を浮かべるイルカに、テンゾウは苦笑する。
「実はですね……あの、言いにくいんですけど……先輩が」
「カカシさんが!!カカシさんに何かあったんですかっ!!」
真っ青な顔でワタワタし始めたイルカに、テンゾウのベストの首元から一匹の子猫が顔を出した。
「にゃぁ!(イルカ先生!)」
「子猫?」
イルカがぽかんとした顔で、子猫をのぞき込む。その足下で、細い月のようだった羅刹丸の瞳孔が驚いたときのようにまん丸になった。
「先輩です……」
困り顔のテンゾウが口にした言葉が、イルカの耳を素通りしていく。
「え……と、なんて説明したらいいかボクにもわからないのですが……先輩です」
そう言ってテンゾウはベストの中から子猫を掴みあげると、イルカに手渡した。
子猫はイルカの手の中で、甘えた声を上げる。
「にゃぁ!ニャニャ!(先生!俺です!)」
「カカシさん?この子猫がカカシさん?」
怪訝な顔を浮かべるイルカの足に、意味ありげに羅刹丸が身体をすり寄せてきた。
羅刹丸はイルカの言葉を正答するように、「にゃぁ~」と鳴く。その意味するところを悟ったイルカは、大きく目を見開いた。
「カカシさんっ!?」

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