【Caution!】

こちらの小説は全て作家様の大切な作品です。
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★エロし ★★いとエロし!
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木造二階建ての古びたアパートの一室で、男の一人暮らしだというのに、テンゾウが思っていた以上にイルカの部屋は小綺麗だった。
猫も飼っているのに。
そう思っていた頃、イルカが台所からお茶を手に戻ってきた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
礼を言いテンゾウがお茶に口をつけたところで、不機嫌そうにじっとテンゾウを見つめる視線に気がついた。
子猫の姿をしたカカシだ。
テンゾウはカカシとイルカ、二人の関係がただの友人ではないことを知っている。
カカシは恋人であるイルカの部屋にテンゾウが上がり込んでいることが気に入らないのだろう。
イルカに促されて部屋に入った時も、全身の毛を逆立てて、「フー!フー!(なんでお前が上がり込むんだよ!)」と威嚇していた。
時折猫パンチを食らわせようと手を振り上げていたが、イルカに「だめですよ」と優しく諭されて、大人しく腕に抱かれていた。
そしてもう一つの眼差し、値踏みするようにテンゾウを見つめる大きな白猫の視線が痛かった。
何の変哲もないただの猫なのに……
イルカの愛猫は忍猫として登録されているようだが、カカシの忍犬のような活躍をしているとは聞いたことがなかった。
そもそも気まぐれな猫を口寄せにする忍び自体珍しかったが。
「あの……それで、カカシさんが何故子猫になってしまったのか?教えていただけますか?」
ちゃぶ台の前に向き合うようにして座るイルカに促されて、テンゾウはハッと我に返った。
いつの間にか思考があの白猫に飲まれていた。
テンゾウはちらりと白猫に視線を向ける。
白猫は興味をなくしたように大きなあくびを漏らすと、 トトトトと軽快な足音を立ててイルカに近寄り、ひょいとイルカの膝の上で丸くなった。
カカシがその隣で怒っていたが、白猫はフンッと鼻で笑うように、長くふさふさしたしっぽで、カカシの頭をパシパシと叩いていた。
「今朝方の任務中のことなのですが……敵と交戦中奇妙な出来事がありまして……」
「奇妙な出来事?」
「はい。人が突然大きな猫に変化したんです。熊のように大きく膨らんだ猫は、先輩が仕留めたと思っていたのですが」
「人が猫に?」
首を傾げるイルカは、訝しげに問いかけてきた。
「変化の術ではないのですか?」
変化の術。チャクラを練り上げて様々な姿に変化する術は、イルカもよく知るテンゾウの部下、ナルトが得意とする術で、日夜さらなるボンッキュッボンッなセクシー美女に変化するために訓練しているらしいが。
あの夜盗の男からはチャクラの変化も感じられなかったし、全身を拘束していたのだ。変化の術を発動する印を組むことも出来なかったはずだ。
「変化の術ではないと思います。まるで……人間がそのまま猫になったとしか思えません」
その言葉にイルカの膝の上で興味なさそうに丸くなっていた白猫が頭を上げた。
「一度は倒したと思っていた猫が再びボクを襲ってきて……すみません。油断していました」
申し訳なさそうに頭を下げるテンゾウを、イルカは「気にしないでください」と顔を上げるように言う。
「ボクを庇った先輩が噛みつかれて、逃げ出した猫を追いかけようと目を離した時にはもう……先輩は子猫の姿になっていました」
「そう……ですか……」
イルカはそう呟いたきり口を閉ざしてしまった。
テンゾウもそれ以上なんと言ったら良いのかわからず、気まずいまま時間だけが過ぎた。
「あの……綱手様はなんとおっしゃっていましたか?」
先に沈黙を破ったのはイルカだった。
「綱手様は、チャクラを使用しない禁術の可能性も含めて調査すると言っていました。先輩のことはイルカさんにお任せするようにと。そうだ、先輩の荷物。これもイルカさんに預かってもらおうと思って」
テンゾウは傍らに置いたナップザックの中から、カカシの衣服や装備品を取り出す。その中にはオレンジ色の過激な表紙のエロ本もあって……
さすがにこれは……と一瞬迷ったものの、何事もなかった風を装ってイルカに差し出した。
イルカも心得ていたのか、表情を変えることもなく受け取る。
良かった、これで肩の荷が下りた。
安心したテンゾウはほっと息をつく。
その時ナップザックの中にまだカカシの衣服が残されていることに気がついた。
思わず摘まみ上げてみるとそれは、黒地に薄いグレーのストライプ柄の入ったボクサーパンツだった。
「あ……」
思わず惚けた声を上げたテンゾウの前で、イルカが見る間に頬を赤らめた。
「シャー!!(テンゾウ!!)」
全身の毛を逆立てて、銀色の子猫の姿をしたカカシが、ちゃぶ台を飛び越えてテンゾウの顔に囓りついた。
「痛い!痛い!先輩!止めてくださいってば!もうっ!」
カカシの猫の手がテンゾウの顔面を縦横無尽に引っ掻き回る。
「ギャ~~~!!」
正午過ぎの、のどかな里の中にテンゾウの悲痛な叫び声が、こだましていった。


テンゾウの帰った後、てきぱきとテーブルの上に残された湯飲みを片付け台所へ入っていくイルカの姿を、カカシはじっと見つめていた。
こんな姿じゃなかったら、イルカ先生を抱きしめて「ただいま」って、優しく耳元で囁けたのに。
小姑の邪魔は入ったかもしれないけれど。
カカシはちらりとイルカが座っていた座布団の上で、気持ちよさそうに寝そべる羅刹丸を窺い見る。
大きな白猫は、得意げな顔をしてしっぽをパサパサと振っていた。
「ニャー!ニャニャ!(羅刹丸!アンタ!)」
「なんじゃ?犬使い殿」
「ニャニャ!ニャーニャ!(アンタ!俺の言ってることわかってるんだろ!)」
「はて?儂は犬語には疎おての。何を言うておるのか、さっぱりじゃ」
「フー!!(嘘つけ!)」
全身の毛を逆立て、尻尾をピンと立ち上げて、うなり声を上げているカカシを、台所から出てきたイルカがひょいと抱き上げた。
「シラス!だめだろ!カカシさんをからかっちゃ」
「んにゃ~(イルカ先生)」
甘えた声を上げて、イルカの手に頬ずりするカカシを見て、フンッと羅刹丸が不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「からかってはおらぬ。それから、今はその名で呼ぶな」
イルカは肩をすくめると、左腕にカカシを抱いたまま、右腕で大きな白猫を抱きかかえた。
二匹の猫を抱えたまま、イルカはどっかりとちゃぶ台の前の座布団に腰を下ろす。
「俺にとっては二人とも大切なんだ。お願いだから、わかってくれよ」
瓶底眼鏡の中の、カカシの大好きなイルカの黒い瞳が涙の膜で潤んでいる。
羅刹丸は小さなため息をこぼすと、イルカの胸におでこをぐりぐりと押しつけた。
「イルカの願いとあっては、仕方があるまい。一時休戦じゃ」
「ありがとう、羅刹丸」
「うむ」
猫の妖は満足げに頷いた。

「カカシさんの言ってること、本当に羅刹丸はわからないのか?」
イルカの問いかけに、ちゃぶ台の上にちょこんと座る大きな白猫は、意味ありげに呟いた。
「わからないとは言うておらぬ」
「ニャニャー!(この羅刹丸ー!)」
フーフー唸るカカシを抱えたまま、イルカは苦笑する。
「カカシさんの言ってることわかるなら、教えてくれよ」
羅刹丸の大きな色違いの目の中の瞳孔が、針のように細くなる。
「イルカにもわかるはずじゃ。よぉく耳を澄ませ」
「耳を澄ませる?」
「そうじゃ。イルカはまだ気がついていないだけで、本当は聞こえているはずじゃ。人猫族として成熟した今なら、同じ獣人の犬使い殿の声も聞こえるはずじゃ」
羅刹丸の言葉に、イルカは目を閉じ耳を澄ませる。
「にゃー(イルカ先生)」
イルカの腕の中でカカシは優しく語りかけた。
「ニャニャニャー?(俺の声が聞こえますか?)」
イルカの閉ざされていた目が開く。
「聞こえる!カカシさんの声が聞こえる!」
「にゃー!(イルカ先生!)」
「カカシさん!」
痛いくらい強く抱きしめられて、カカシは大きな耳をピョコピョコ動かしながら、もう一度恋人の名を呼んだ。
「ニャー!ニャニャ!(イルカ先生!ただいま!)」
カカシの愛しい恋人は泣き笑いの顔を浮かべて「お帰りなさい」と頬をすり寄せた。
言葉が通じたことに安堵したカカシは、きゅぅと鳴る腹の音に昨夜からなにも食べていないことに気がついた。
カカシの腹の音が聞こえたのだろう。
イルカがいそいそと台所に入って行き、皿を二つ持って戻ってきた。
「にゃ~(美味しそうな匂い)」
カカシの言葉にイルカが嬉しそうに微笑む。
「ほぅ、今日はまた奮発したの」
羅刹丸も喉を鳴らす。
このうるさい猫の妖が喉を鳴らすほどの食べ物は何なのだろう?と待ちかねていると、差し出された皿に載っている物を見てカカシは首を傾げた。
これはいったい何なのだろう?
ツナ缶のような形状の、ゼリー状の脂身が乗った食べ物。
「にゃー。にゃにゃ?(イルカ先生。これは何ですか?)」
カカシの問いかけにイルカが満面の笑顔を浮かべる。
「金の猫缶です。えへへ、高級フードだから、羅刹丸にもたまにしか食べさせてあげられないんだけど、今日は特別です!」
「にゃ……(猫缶……)」
「どうしたのじゃ?犬使い殿。うまいぞ?」
カカシの隣で羅刹丸は満足げに喉を鳴らす。
「ニャ~ニャ~ニャ(あ~いや、俺は)」
猫缶の前でがっくりと肩を落とししょんぼりする子猫のカカシの姿に、イルカがハッとする。
「カカシさんっこれじゃ駄目でしたか!」
「にゃ~。ニャニャ?(あの~。イルカ先生?)」
「カリカリの方がいいのかな?」
ブツブツ独り言を言いながら台所へ行こうとするイルカの背中に、カカシは声をかけた。
「ニャー!ニャニャ!ニャ~ニャ(待って!イルカ先生!猫のご飯じゃなくて、人間のご飯でお願いします)」
「そうですよね~」
あははと笑う恋人の姿に、カカシは再び肩を落とした。


その日の夕刻、カカシはイルカの腕に抱かれたまま、再び火影の執務室を訪れた。
カカシが子猫になってしまった原因と対処法が判明したからだ。
その報告と、協力を仰ぐために、綱手の元へやって来ていた。

「禁術ではない?」
イルカの口から出た言葉に驚いた綱手が呟く。
「はい」
頷いたイルカの様子から悟ったのか、綱手は執務室に居合わせたシズネや、護衛の暗部を部屋から退出させると、おもむろにイルカに尋ねた。
「カカシを猫の姿に変えたのが禁術でなければ、いったい何なんだい?」
「ニャー(イルカ先生)」
不安げな顔を浮かべてイルカを見つめるカカシの前で、イルカが重い口を開いた。


「呪いじゃな」
昼食の後、腹が満たされ眠そうにあくびを漏らした羅刹丸の言葉に、カカシは驚いた。
「呪いって……」
イルカもオウム返しに問い返す。
お気に入りの座布団の上で寝そべり、長くふさふさした白い尾を振る猫の妖は、毛繕いをしながら答える。
「人猫族の呪いじゃ」
「人猫族……人猫族って!俺と同じ」
「そうじゃ。犬使い殿を襲った猫になった人間とはすなわち人猫族じゃろう。あのヤマトとか言う男も言っておったはずじゃ。変化の術ではないと」
イルカは呆然としたまま、口を噤んでしまった。
無理もない。イルカはまだ自分が人猫族であると知ったばかりで、同族はあの吸血事件を起こし、イルカを発情させるきっかけを作った女しか知らなかったのだ。
自分と同じ仲間がいる。
人外という人であって人ならざる者である獣人の孤独を、カカシは一番よく知っている。
人間に混じりながら人であることを疑わずに生きてきたイルカが、自らが猫と化して人猫族である事実を受け入れざるを得なかった時の孤独を思うと、カカシは胸が痛む。
それから間もなくカカシは同じ獣人の番としてイルカを娶ったのだが。
同族の存在に心が揺れるのは当然のことだろう。

「ニャー。ニャニャ?(あの夜盗の男が人猫族だったとして、呪いだと何故わかるんだ?)」
カカシの問いに猫の妖は、そんなこともわからないのかと言いたげに、伸びをした。
「獣化した人猫族の男に噛みつかれて、何も刻まれなかったか?たとえば呪印のような物を」
「ニャニャ?(呪印)」
カカシは首を傾げると、ピコピコと大きな耳を動かして、ハッとする。
カカシの目の瞳孔がまん丸になったのを見て、羅刹丸が意味ありげに笑った。
「心当たりがあるようじゃの」
あの時、腕を噛みつかれた痛みで目を細めながら見たのは、傷口から滴り落ちる血が付けた、地面に描かれた文様のような模様だった。
「ニャニャ……(あれが呪印……)」
「呪いを解く方法はないのか?羅刹丸ならわかるだろ?」
ようやく気を取り直したのか、イルカが気丈に問いかける。
「呪いを解きたいのならば、犬使い殿に呪いをかけた人猫族の男を捜し出し、呪いを返すのじゃな」
「ニャニャ。ニャーニャ?(探し出すって、どこに逃げたかもわからないのにか?)」
「ほぅ。犬使い殿ともあろう者が、弱音を吐くとはのぅ。探索は犬と忍びが最も得意とすることじゃなかったか?」
「ニャ!(チッ!)」
勝ち誇ったような笑みを漏らす羅刹丸に、子猫の姿のカカシは不機嫌そうに自分の尾を囓った。
「カカシさん。綱手様に協力してもらいましょう!手の空いてる者にカカシさんに呪いをかけた男を探して貰えるように掛け合いましょう!」
「ニャーニャ(イルカ先生)」
イルカの微笑みはいつもカカシに生きることへの勇気をくれる。
「にゃにゃ(ありがとう)」
カカシの感謝の言葉にイルカは照れくさそうに笑った。
「そうと決まれば羅刹丸。一緒に綱手様の所へ行って……」
「儂は行かぬ」
イルカが最後まで言い終わる前に猫の妖は拒絶を口にする。
「羅刹丸……」
泣きそうな目で見つめるイルカに、猫の妖は近寄ると身体をこすりつけた。
「ちいと留守にする。夜には帰る」
そのままふわりふわりと宙を飛び上がって窓から外へ出た猫の妖の後をイルカが追う。
「案ずるな。イルカや。犬使い殿、くれぐれもイルカを頼むぞ」
最後はカカシに向けて言葉を発した猫の妖は、窓の外へと消えた。

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