【Caution!】
こちらの小説は全て作家様の大切な作品です。
無断転載・複写は絶対に禁止ですので、よろしくお願いします。
★エロし ★★いとエロし!
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一通りイルカの話を聞いていた綱手は、執務机の上で手を組み、難しい顔を浮かべた。
「人猫族の呪い……呪詛という物か。大妖殿がそう言うのならば、間違いないのだろうな……」
綱手は里で唯一獣人の存在を知る者で、猫の大妖である羅刹丸と言葉を交わしたことがあった。
「人猫族の男の行方は、ヤマトに追わせることにする。他に暗部も随行させよう。一番可能性が高いのは、あの人猫族の女の言っていた人猫の里に潜伏していることだと思うが……」
綱手はそこまで言うと口を噤む。
「あの人も言っていました。人猫族は人間に狩られ数を減らしていったと。若い雄猫はもう里にはいないから木の葉に来たと」
イルカは目を伏せ、言葉を口にする。
その横顔が痛々しくて、カカシは「みゃあ(イルカ先生)」と鳴くと、イルカの胸に体をこすりつけた。
「そうだ。人猫族の里自体が、存続しているかどうかも今の時点では怪しい。仮にすでに里が崩壊しているとしたら、手がかりを得ることは難しいだろう」
「ニャ、ニャニャニャーニャ?ニャニャニャーニャ?(あの夜盗の一味がまだ他に残っているとしたら?そこに逃げこんでいる可能性もあるのでは?)」
カカシの言葉に綱手は首をひねる。
「イルカ。翻訳してくれ。私にはカカシが何を言っているのかさっぱりわからん」
「はい。あの夜盗の一味が他に残っているのではないか?そこに逃げ込んでいるのでは?と言ってます」
「ふむ。夜盗か、その線があったか」
綱手は腕を組むと大仰に頷いた。
「わかった。夜盗の残党がいないかどうかも調査する。人猫族の男の行方がわかり次第、連絡する。イルカすまないがカカシが元の姿に戻るまで、面倒を見てやっておくれ」
「はい」
火影の執務室をイルカの腕に抱かれたままカカシは退出すると、二人はその足で木の葉商店街に向かった。
カカシはイルカの支給服のベストの胸元に潜り込み、ちょこんと顔だけ出して、きょろきょろと周囲を伺う。
「カカシさん今夜は何が食べたいですか?」
木の葉スーパーの入り口で、買い物かごを手にしたイルカが尋ねてくる。
「ニャニャニャーニャ(サンマが食べたいです)」
「サンマですね。お魚売り場に行ってみましょう」
鮮魚コーナーに向かうと、大きなタライの中にぎっしり詰まった氷水と一緒に、生のサンマが売られていた。
イルカがビニール袋を手に、サンマを掴もうとすると、売り場に出てきたおばちゃんがイルカに声をかけてきた。
「あらイルカ先生。買いに来てくれたの?」
機嫌良く話しかけてきたおばちゃんは、イルカの知り合いらしい。
「可愛い猫ちゃんね。この子も忍猫?」
「そうなんですよ」
イルカ胸元でちょこんと顔を出しているカカシを見て、おばちゃんが頬を緩ませる。
「イルカ先生は本当に猫が好きね」
そう言って笑うおばちゃんは、次の瞬間耳を疑いたくなるようなことを口にした。
「イルカ先生。生サンマで大丈夫?この間中忍アパートでぼや騒ぎ起こしたのって、イルカ先生よね?」
ぼや騒ぎ?聞いていないぞ、そんな話。
カカシは思わず目を丸くして、イルカを見上げた。
イルカは照れくさそうに笑いながら、「あははは、知ってましたか」と苦笑する。
「悪いこと言わないから、こっちの焼いてある方にしなさいよ?」
おばちゃんに勧められて、イルカはこっそりとカカシに尋ねてくる。
「出来合いのでも良いですか?」
「ニャ、ニャニャーニャ!(も、もちろんです!)」
そう言えばイルカ先生が料理をしているところ、見たことがなかった。
カカシは冷や汗をかきながら、「あとは何が食べたいですか?」と問いかけるイルカに、「ニャニャニャ!(サンマがあれば十分です!)」と答える。
「カカシさんは欲がないですね」
そう言って笑うイルカは少し寂しそうに呟く。
「もっと欲張って良いんですよ?俺の前では遠慮しないで。わがままになってくれて良いんです」
「にゃぁ(イルカ先生)」
イルカの目元がうっすらと濡れている。
「貴方にはいつも守られてばかりだから。今は俺に貴方を守らせてください」
カカシの大きな猫の目に、大好きなイルカの顔が写る。
「みゃぁ(ありがとう)」
カカシはイルカの体に頬をすり寄せると「ニャァ、ニャニャニャ!(じゃ、お弁当が食べたいです!)」 と言って笑った。
「お弁当ですね!お総菜コーナーに行ってみましょう」
イルカは嬉しそうに破顔する。
不安だったのは……イルカ先生も同じだったんだ。
これ以上イルカを心配させないためにも、明るく努めよう。いっぱい甘えて、不安な気持ちを悟られないように。
そう心に決めたカカシは、こっそり苦笑する。
そしてあともう一つ。
イルカ先生にはあとでゆっくり料理の仕方を教え込まなくっちゃ。
深夜遅くベッドの上でイルカの顔の側で丸くなって眠っていたカカシは、微かな気配に目を覚ました。月明かりの差し込む掃き出し窓を開けてそっと室内に入ってきたのは、長い逆立った白髪に美しい顔立ちをした白拍子のような衣装をまとった青年――羅刹丸だった。
「ニャニャニャーニャ、ニャーニャ(羅刹丸アンタ、人型で出かけてたんだな)」
「ふむ。ちぃと威厳を見せつけるためには、この姿の方がよかろうて。して、犬使い殿。イルカは台所仕事でけがなどしなかったか?」
羅刹丸の体がぐにゃりと歪むと、薄ぼんやりとしたまっ白い猫の姿が現れる。猫の姿に戻った羅刹丸は、モコモコと毛布の中に潜り込み、イルカの頭の後ろに顔だけを出して、丸くなった。
「ニャニャニャーニャ(くれぐれも頼むって、そういう意味だった訳ね)」
「それ以外に何がある?包丁を持たせれば、まな板に突き刺し、魚を焼かせれば家まで焦がす勢いの煙を出す。危なっかしくて、目が離せぬ」
「ニャニャ(それは同意する)」
その時イルカが「う~ん」と寝言を言いながら、寝返りを打った。
幸せそうな寝顔を見ていると、胸が温かくなる。
「ニャニャニャ(早く貴方をこの腕で抱きしめたいな)」
イルカの顔をのぞき込みながら呟くカカシに、いつもなら悪態をつく羅刹丸もこの時ばかりは何も言わなかった。
翌朝またどこかへ出かけて行った羅刹丸を見送ると、カカシはイルカのベストの胸元からひょこっと顔を出した状態で、イルカの出勤に付き添うことになった。
イルカの一日は忙しい。
内勤の忍びは気楽なものだと笑う戦忍もいるけれど、カカシの目から見たイルカの仕事ぶりは決して気楽なものではなかった。
朝早くアカデミーの子供たちよりも早く出勤したイルカは、同僚の女性教師と共に校門の前に立ち、子供たちを迎える。
一人一人に声をかけて、元気のない子がいないか、体調の悪い子がいないかその目で確かめる。
「うわ~イルカ先生!子猫、可愛い!」
イルカの胸元に収まっていたカカシを見つけた年長の女の子たちが集まってきて、ふわふわの毛並みを撫でようと手を伸ばす。
「だめだめ。この子は忍猫なんだ。ペットじゃないから、触っちゃ駄目だ。口寄せ動物には、安易に触っちゃいけないって、いつも教えてるだろ?」
「はーい」
女の子たちはちょっと不満そうに唇を尖らせて校門を潜っていく。
「その子猫可愛いですもんね。あの子たちじゃなくても、私だって触りたくなっちゃいますよ」
そう言って同僚教師が微笑む。
「口寄せ動物に関しての授業、もう少し時間を割いてじっくり教えた方が良いかもしれませんね。おうちに口寄せのいる子たちはよく理解しているけれど、知らない子はペットと同じ感覚で扱ってしまいます。イルカ先生のクラスの子たちは、先生がいつも忍猫を連れてるから、理解力が高まって良いですね。私も今度連れてこようかしら」
「先生も口寄せ持ってらっしゃったんですか?」
「ええ。ウサギなんですよ。見た目が凄く可愛いから子供たちにおもちゃにされないか心配で。地面に潜るのが得意だから、トラップを仕掛ける時、凄く手伝ってくれるんです」
「にゃぁ、ニャニャ(ウサギの口寄せね、面白いね)」
「今度見せてください」
イルカが笑うと同僚教師も「ええ」と頷いて笑った。
午前中アカデミーで教鞭をとるイルカの胸元で、じっとカカシは授業風景を眺めていた。
カカシの中のアカデミーの記憶は少ない。
わずか五歳でアカデミーを卒業したカカシは、六歳で中忍になり、このイルカの受け持つクラスの子供たちの頃には、もう戦場を駆け回っていた。
キラキラした目で、イルカの授業を受ける子供たちは眩しい。
先代の人犬族の長であった父の亡き後、たった一人で木の葉の守護者としての重荷を背負い、戦忍としてもまた多くの部下の命を預かる任務をこなしてきた。
同族は既になく、獣人という人外の存在であるという孤独を抱えるには、あの頃のカカシは若すぎた。
鋭い刃のようだと揶揄されたこともある。
閉ざしきった心を開いてくれたのは、友であり、仲間であり、師だった。
カカシの本質は獣であることは変わらないけれど、人として接してくれる人たちがいる。
そう気づかされたことで、カカシはようやく獣人という自らの存在を受け入れることが出来た。
そんな大切だった人たちも、木の葉を取り巻く状況が変わるにつれ、カカシの手の中からこぼれ落ちていく。仲間を失い、師を亡くし、人としてもまた孤独を知った。
何が木の葉の守護者だ!俺は大切な人を一人も守れなかった!
遠い過去の記憶が、未だ塞がらない傷口を膿んでいく。
その度に思い出すのは、当時カカシが獣人だと知っていた師の言葉だった。
「カカシ君。傷口は無理に塞がなくたって良いんじゃないかな?」
父を自死と言う形で失った傷口を、必死に塞ごうと思っていたカカシを、師は獣人であることも含めて、丸ごと受け入れてくれた。
無理に塞がなくても良い。塞がなくたって、生きていける。
そうカカシが悟ったのは、大人になってずいぶん時間の経った頃だった。
イルカの授業を受ける子供たちも、この先忍びとしての厳しい現実に向き合うときが来る。
その時きっとイルカは、カカシの師だったミナトのように、この子たちの心を導く存在として輝くのだろう。
人ではないけれど。
きっとそういうあり方もまた、木の葉の守護者の役割なのかもしれない。
「にゃぁ(俺一人では守り切れないけれど)」
イルカと一緒なら守っていける。
「人猫族の呪い……呪詛という物か。大妖殿がそう言うのならば、間違いないのだろうな……」
綱手は里で唯一獣人の存在を知る者で、猫の大妖である羅刹丸と言葉を交わしたことがあった。
「人猫族の男の行方は、ヤマトに追わせることにする。他に暗部も随行させよう。一番可能性が高いのは、あの人猫族の女の言っていた人猫の里に潜伏していることだと思うが……」
綱手はそこまで言うと口を噤む。
「あの人も言っていました。人猫族は人間に狩られ数を減らしていったと。若い雄猫はもう里にはいないから木の葉に来たと」
イルカは目を伏せ、言葉を口にする。
その横顔が痛々しくて、カカシは「みゃあ(イルカ先生)」と鳴くと、イルカの胸に体をこすりつけた。
「そうだ。人猫族の里自体が、存続しているかどうかも今の時点では怪しい。仮にすでに里が崩壊しているとしたら、手がかりを得ることは難しいだろう」
「ニャ、ニャニャニャーニャ?ニャニャニャーニャ?(あの夜盗の一味がまだ他に残っているとしたら?そこに逃げこんでいる可能性もあるのでは?)」
カカシの言葉に綱手は首をひねる。
「イルカ。翻訳してくれ。私にはカカシが何を言っているのかさっぱりわからん」
「はい。あの夜盗の一味が他に残っているのではないか?そこに逃げ込んでいるのでは?と言ってます」
「ふむ。夜盗か、その線があったか」
綱手は腕を組むと大仰に頷いた。
「わかった。夜盗の残党がいないかどうかも調査する。人猫族の男の行方がわかり次第、連絡する。イルカすまないがカカシが元の姿に戻るまで、面倒を見てやっておくれ」
「はい」
火影の執務室をイルカの腕に抱かれたままカカシは退出すると、二人はその足で木の葉商店街に向かった。
カカシはイルカの支給服のベストの胸元に潜り込み、ちょこんと顔だけ出して、きょろきょろと周囲を伺う。
「カカシさん今夜は何が食べたいですか?」
木の葉スーパーの入り口で、買い物かごを手にしたイルカが尋ねてくる。
「ニャニャニャーニャ(サンマが食べたいです)」
「サンマですね。お魚売り場に行ってみましょう」
鮮魚コーナーに向かうと、大きなタライの中にぎっしり詰まった氷水と一緒に、生のサンマが売られていた。
イルカがビニール袋を手に、サンマを掴もうとすると、売り場に出てきたおばちゃんがイルカに声をかけてきた。
「あらイルカ先生。買いに来てくれたの?」
機嫌良く話しかけてきたおばちゃんは、イルカの知り合いらしい。
「可愛い猫ちゃんね。この子も忍猫?」
「そうなんですよ」
イルカ胸元でちょこんと顔を出しているカカシを見て、おばちゃんが頬を緩ませる。
「イルカ先生は本当に猫が好きね」
そう言って笑うおばちゃんは、次の瞬間耳を疑いたくなるようなことを口にした。
「イルカ先生。生サンマで大丈夫?この間中忍アパートでぼや騒ぎ起こしたのって、イルカ先生よね?」
ぼや騒ぎ?聞いていないぞ、そんな話。
カカシは思わず目を丸くして、イルカを見上げた。
イルカは照れくさそうに笑いながら、「あははは、知ってましたか」と苦笑する。
「悪いこと言わないから、こっちの焼いてある方にしなさいよ?」
おばちゃんに勧められて、イルカはこっそりとカカシに尋ねてくる。
「出来合いのでも良いですか?」
「ニャ、ニャニャーニャ!(も、もちろんです!)」
そう言えばイルカ先生が料理をしているところ、見たことがなかった。
カカシは冷や汗をかきながら、「あとは何が食べたいですか?」と問いかけるイルカに、「ニャニャニャ!(サンマがあれば十分です!)」と答える。
「カカシさんは欲がないですね」
そう言って笑うイルカは少し寂しそうに呟く。
「もっと欲張って良いんですよ?俺の前では遠慮しないで。わがままになってくれて良いんです」
「にゃぁ(イルカ先生)」
イルカの目元がうっすらと濡れている。
「貴方にはいつも守られてばかりだから。今は俺に貴方を守らせてください」
カカシの大きな猫の目に、大好きなイルカの顔が写る。
「みゃぁ(ありがとう)」
カカシはイルカの体に頬をすり寄せると「ニャァ、ニャニャニャ!(じゃ、お弁当が食べたいです!)」 と言って笑った。
「お弁当ですね!お総菜コーナーに行ってみましょう」
イルカは嬉しそうに破顔する。
不安だったのは……イルカ先生も同じだったんだ。
これ以上イルカを心配させないためにも、明るく努めよう。いっぱい甘えて、不安な気持ちを悟られないように。
そう心に決めたカカシは、こっそり苦笑する。
そしてあともう一つ。
イルカ先生にはあとでゆっくり料理の仕方を教え込まなくっちゃ。
深夜遅くベッドの上でイルカの顔の側で丸くなって眠っていたカカシは、微かな気配に目を覚ました。月明かりの差し込む掃き出し窓を開けてそっと室内に入ってきたのは、長い逆立った白髪に美しい顔立ちをした白拍子のような衣装をまとった青年――羅刹丸だった。
「ニャニャニャーニャ、ニャーニャ(羅刹丸アンタ、人型で出かけてたんだな)」
「ふむ。ちぃと威厳を見せつけるためには、この姿の方がよかろうて。して、犬使い殿。イルカは台所仕事でけがなどしなかったか?」
羅刹丸の体がぐにゃりと歪むと、薄ぼんやりとしたまっ白い猫の姿が現れる。猫の姿に戻った羅刹丸は、モコモコと毛布の中に潜り込み、イルカの頭の後ろに顔だけを出して、丸くなった。
「ニャニャニャーニャ(くれぐれも頼むって、そういう意味だった訳ね)」
「それ以外に何がある?包丁を持たせれば、まな板に突き刺し、魚を焼かせれば家まで焦がす勢いの煙を出す。危なっかしくて、目が離せぬ」
「ニャニャ(それは同意する)」
その時イルカが「う~ん」と寝言を言いながら、寝返りを打った。
幸せそうな寝顔を見ていると、胸が温かくなる。
「ニャニャニャ(早く貴方をこの腕で抱きしめたいな)」
イルカの顔をのぞき込みながら呟くカカシに、いつもなら悪態をつく羅刹丸もこの時ばかりは何も言わなかった。
翌朝またどこかへ出かけて行った羅刹丸を見送ると、カカシはイルカのベストの胸元からひょこっと顔を出した状態で、イルカの出勤に付き添うことになった。
イルカの一日は忙しい。
内勤の忍びは気楽なものだと笑う戦忍もいるけれど、カカシの目から見たイルカの仕事ぶりは決して気楽なものではなかった。
朝早くアカデミーの子供たちよりも早く出勤したイルカは、同僚の女性教師と共に校門の前に立ち、子供たちを迎える。
一人一人に声をかけて、元気のない子がいないか、体調の悪い子がいないかその目で確かめる。
「うわ~イルカ先生!子猫、可愛い!」
イルカの胸元に収まっていたカカシを見つけた年長の女の子たちが集まってきて、ふわふわの毛並みを撫でようと手を伸ばす。
「だめだめ。この子は忍猫なんだ。ペットじゃないから、触っちゃ駄目だ。口寄せ動物には、安易に触っちゃいけないって、いつも教えてるだろ?」
「はーい」
女の子たちはちょっと不満そうに唇を尖らせて校門を潜っていく。
「その子猫可愛いですもんね。あの子たちじゃなくても、私だって触りたくなっちゃいますよ」
そう言って同僚教師が微笑む。
「口寄せ動物に関しての授業、もう少し時間を割いてじっくり教えた方が良いかもしれませんね。おうちに口寄せのいる子たちはよく理解しているけれど、知らない子はペットと同じ感覚で扱ってしまいます。イルカ先生のクラスの子たちは、先生がいつも忍猫を連れてるから、理解力が高まって良いですね。私も今度連れてこようかしら」
「先生も口寄せ持ってらっしゃったんですか?」
「ええ。ウサギなんですよ。見た目が凄く可愛いから子供たちにおもちゃにされないか心配で。地面に潜るのが得意だから、トラップを仕掛ける時、凄く手伝ってくれるんです」
「にゃぁ、ニャニャ(ウサギの口寄せね、面白いね)」
「今度見せてください」
イルカが笑うと同僚教師も「ええ」と頷いて笑った。
午前中アカデミーで教鞭をとるイルカの胸元で、じっとカカシは授業風景を眺めていた。
カカシの中のアカデミーの記憶は少ない。
わずか五歳でアカデミーを卒業したカカシは、六歳で中忍になり、このイルカの受け持つクラスの子供たちの頃には、もう戦場を駆け回っていた。
キラキラした目で、イルカの授業を受ける子供たちは眩しい。
先代の人犬族の長であった父の亡き後、たった一人で木の葉の守護者としての重荷を背負い、戦忍としてもまた多くの部下の命を預かる任務をこなしてきた。
同族は既になく、獣人という人外の存在であるという孤独を抱えるには、あの頃のカカシは若すぎた。
鋭い刃のようだと揶揄されたこともある。
閉ざしきった心を開いてくれたのは、友であり、仲間であり、師だった。
カカシの本質は獣であることは変わらないけれど、人として接してくれる人たちがいる。
そう気づかされたことで、カカシはようやく獣人という自らの存在を受け入れることが出来た。
そんな大切だった人たちも、木の葉を取り巻く状況が変わるにつれ、カカシの手の中からこぼれ落ちていく。仲間を失い、師を亡くし、人としてもまた孤独を知った。
何が木の葉の守護者だ!俺は大切な人を一人も守れなかった!
遠い過去の記憶が、未だ塞がらない傷口を膿んでいく。
その度に思い出すのは、当時カカシが獣人だと知っていた師の言葉だった。
「カカシ君。傷口は無理に塞がなくたって良いんじゃないかな?」
父を自死と言う形で失った傷口を、必死に塞ごうと思っていたカカシを、師は獣人であることも含めて、丸ごと受け入れてくれた。
無理に塞がなくても良い。塞がなくたって、生きていける。
そうカカシが悟ったのは、大人になってずいぶん時間の経った頃だった。
イルカの授業を受ける子供たちも、この先忍びとしての厳しい現実に向き合うときが来る。
その時きっとイルカは、カカシの師だったミナトのように、この子たちの心を導く存在として輝くのだろう。
人ではないけれど。
きっとそういうあり方もまた、木の葉の守護者の役割なのかもしれない。
「にゃぁ(俺一人では守り切れないけれど)」
イルカと一緒なら守っていける。
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